2021年5月4日更新節税

事業承継における納税猶予

平成30年に行われた事業承継税制の改正により、事業承継における納税猶予の特例が設けられました。改正前と比べると、使いやすくリスクを抑えたものになりました。この記事では、事業承継における納税猶予の注意点や改正点などをご紹介します。

目次
  1. 事業承継税制とは
  2. 納税猶予のメリットとデメリット
  3. 平成30年の改正
  4. 納税猶予の要件
  5. 税金が免除される場合
  6. 納税猶予の取消事由
  7. まとめ
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事業承継税制とは

多くの中小企業では経営者の高齢化にともない、事業承継の必要性が迫る一方で、事業承継により生じる多額の税金の負担によって廃業や倒産を余儀なくされたり、事業承継に踏み切れないというケースが多いです。

このような問題を解決すべく、中小企業の円滑な事業承継を促進し、廃業や倒産の抑制を目的として、「事業承継税制」と呼ばれる納税猶予の制度ができました。この制度の概要は次のとおりです。

  • 後継者が非上場会社の株式などを贈与または相続などによって取得した場合に、一定の要件を満たすと、その株式などにかかる贈与税と相続税の納税が猶予される。
  • 後継者の死亡などの場合には納税猶予されている税金の納付が免除される。

加えて、平成30年には、事業承継時の贈与税と相続税の納税を猶予する事業承継税制が大きく改正され、特例が設けられたことで、より使いやすくリスクを抑えた制度になりました。

この特例は「特例事業承継税制」と呼ばれており、活用には複雑な手続きが必要になります。

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納税猶予のメリットとデメリット

事業承継税制の活用によりメリットもある一方で、デメリットもあります。主なものとしては次のとおりです。

① 納税猶予のメリット

納税猶予の一番のメリットは、税金の負担を軽減しながら事業承継できることです。数百万円〜数千万円にも上る税金が納税猶予されるため、資金繰りに苦しむことなく経営を継続できます。

②納税猶予のデメリット

納税猶予には、いくつかデメリットがありますが、最も大きなものは、納税猶予に対応可能な専門家の少なさです。歴史の浅い制度であることから、税理士であっても詳しく知らない方も多いです。判断を誤ると、ペナルティとして追徴課税が発生することもあります。

もう1つのデメリットは、納税猶予を受けられる要件が厳しいことです。近年の改正により要件が緩和され、以前より受けやすくなったものの、依然として要件が厳しいことから、制度の利用を断念するケースもよくあります。

そのため、事前に納税猶予に詳しい税理士などの専門家に相談することをおすすめします。

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事業承継対策のポイント

平成30年の改正

平成30年の改正で大幅に変更され、特例の新設によってより活用しやすい納税猶予に変わりました。主な改正事項は次の3つです。

  1. 相続税の納税猶予割合の拡大
  2. 納税猶予対象株式数の拡大
  3. 雇用8割維持要件の実質撤廃

①納税猶予割合の拡大

従来は納税猶予割合が贈与税は100%、相続税は80%でしたが、改正により相続税も100%に変更となっています。

②納税猶予対象株式数の拡大

従来は後継者が引き継ぐ株式に関する納税猶予は2/3までで、残りの1/3は課税対象でしたが、改正により納税時猶予の対象は引き継ぐ全株式に変更となっています。

先述の納税猶予の割合拡大と合わせることで、実質的に税負担ゼロによる事業承継が可能です。

③雇用8割維持要件の実質撤廃

平成30年の改正で最も経営者にメリットがあるものです。従来、「5年平均で雇用の8割維持」が納税猶予を継続するための要件となっていました。

景気低迷などの理由により中小企業にとってこの要件をクリアすることは非常に困難であったことから、納税猶予の活用を断念する企業も多くいました。

そこで、改正により、所定の書類を提出すれば、この要件をクリアしなくても納税猶予の継続が可能になりました。

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事業承継に関する税制改正
事業承継と経営承継円滑化法

納税猶予の要件

納税猶予の要件は、次の3つのカテゴリーごとに設けられています。

  1. 会社
  2. 事業継続

①会社

主な要件は次のとおりで、1つでも該当すると納税猶予の適用対象外となります。

  • 上場会社
  • 風俗営業会社
  • 資産管理会社
  • 総収入金額ゼロの会社
  • 常時使用する従業員ゼロの会社
  • 中小企業者にあたらない会社

②人

主な要件は次のとおりで、どちらも実際に会社代表者である必要があります。

  • 経営者の要件
  • 後継者の要件

経営者の要件

主なものは次のとおりで、すべて満たす必要があります。

  • 会社代表者だった
  • 同族関係者内で筆頭株主だった
  • 代表者のときに同族関係者で総議決権数の50%超を保有
  • (株式贈与に適用)贈与時点において会社の代表権を有していない

後継者の要件

特例を受けるか否かで異なり、次をすべて満たす必要があります。

①共通

  • 会社代表者
  • 20歳以上(2020年4月1日以降の贈与は18歳以上)
  • 就任後3年以上経過
  • 後継者と後継者の特別関係者で総議決権数の50%超を保有
  • 贈与時または相続開始時に後継者と同族関係者で総議決権数の50%超を保有し筆頭株主
  • (贈与に適用)贈与時に20歳以上かつ贈与直前に3年以上連続して役員で贈与時に代表者
  • (相続に適用)相続開始の直前に役員かつ相続開始の翌日から5か月経過後に代表者

②特例を受ける場合

  • ​​​特例承継者
  • 贈与時または相続開始時に後継者と同族関係者で総議決権数の50%超を保有し筆頭株主

③特例を受けない場合

  • 贈与時または相続開始時に後継者と同族関係者で総議決権数の50%超を保有し筆頭株主

③事業継続の要件

納税猶予後5年経過するまで、後継者は代表者として継続して株式を保有する必要がありますが、次の場合、猶予を受けた税額が免除されます。

  • 会社の倒産
  • 後継者への贈与が「免除対象贈与」にあたるとき
  • 先代の経営者の死亡
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税金が免除される場合

納税猶予を受けた税金は、一定の要件を満たせば免除となります。対象となる税金は贈与税と相続税で、それぞれの詳細は次のとおりです。

①贈与税

次の場合に免除されます。

  • 先代経営者の死亡
  • 後継者の死亡
  • さらに次の後継者に株式贈与

先代経営者の死亡

死亡時点で贈与税が免除となりますが、相続税は発生します。なお、事業承継税制では相続税の発生により相続税の納税猶予に切り替えられ、相続税の納税猶予を受けられることになります。

後継者の死亡

贈与税が免除となりますが、相続税は発生します。ただし、一定の要件を満たせば、後継者から相続した経営者は納税猶予を受けられます。

さらに次の後継者に株式贈与

後継者が納税猶予を受け、さらに次の後継者に株式を贈与し、その際に納税猶予を受けた場合には、猶予の税額が免除となります。

②相続税

次の場合に免除されます。

  • 事業承継を受けた相続人が死亡
  • 事業承継を受けた相続人が次の後継者に事業承継税制に基づき株式贈与

なお、事業承継を受けた相続人の死亡後、次の後継者も事業承継税制の要件を満たせば、納税猶予を受けることができます。

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株式譲渡と贈与税
事業承継の課題と解決方法

納税猶予の取消事由

納税猶予は一定の場合に取り消されます。その取消事由は特例承継期間の5年間における場合と、その期間経過後も継続する場合で異なります。

取り消しによって猶予されていた税金の全額と利子を支払わなければなりません。思わぬ損失を避けるためにも、取消事由はあらかじめ十分に把握しておきましょう。

①特例承継期間5年間の場合

主な取消事由は次のとおりで、いずれかに該当すると取り消されます。

  • 後継者が会社の代表者でなくなった(障がい者になったなど、やむを得ない事情によるものは除外)
  • 後継者が筆頭株主または議決権の過半数を有する株主でなくなった
  • 上場会社になった
  • 風俗営業会社になった

②5年経過後の場合

主な取消事由は次のとおりで、いずれかに該当すると取り消されます。

  • 資産管理会社になった
  • 総収入金額がゼロになった
  • 減資を行った
  • 解散、合併、分割などを行った
  • M&Aなどで後継者が株式を譲渡または贈与した
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事業譲渡のメリット・デメリット

まとめ

事業承継税制による納税猶予はメリットの大きい制度である反面、厳しい条件をクリアする必要があります。
納税猶予の要件は非常に複雑ですので、実際に活用したい場合には、事業承継に精通している税理士の協力を得ましょう。今回の要点をまとめると次のとおりです。

・事業承継税制により納税猶予・免税される税金
→贈与税、相続税

・納税猶予のメリット
→贈与税と相続税の負担を軽減しながら事業承継できる

・納税猶予のデメリット
→詳しい専門家が少ない、納税猶予の要件が厳しい

・平成30年改正のポイント
→納税猶予割合・対象株式数の拡大、雇用8割維持要件の実質撤廃

・納税猶予の要件
→①会社、②人、③事業継続の全要件を満たす必要がある

・納税猶予された税金が免除される場合
→先代経営者・後継者の死亡など

・納税猶予の取消事由
→①特例承継期間の5年間に限られるものと、②5年経過後も継続するものがある

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