2023年4月19日更新事業承継

事業承継税制の特例措置とは?制度の内容、メリット、適用要件、注意点も解説【2023年最新】

事業承継税制は特例措置と一般措置が設けられています。特例措置は特に高い節税効果を期待できますが、いくつかのデメリットもあるため違いを把握することが大切です。本記事では、2023年最新版の事業承継税制における特例措置のメリットや適用要件などを解説します。

目次
  1. 事業承継の基礎知識
  2. 事業承継税制の特例措置とは
  3. 事業承継税制の特例措置の適用要件とは
  4. 事業承継税制の特例措置の納税猶予額の算出方法
  5. 事業承継税制の特例措置の免除・取消事由
  6. 事業承継税制の特例措置のセーフティネット
  7. 事業承継税制の特例措置のメリット・デメリット
  8. 事業承継税制の特例措置を受ける手続き
  9. 事業承継税制の注意すべきポイント
  10. 事業承継税制の特例措置を受ける際の相談先
  11. 事業承継税制の特例措置まとめ
  • 今すぐ買収ニーズを登録する
  • 公認会計士がM&Aをフルサポート まずは無料相談

【※メルマガ限定】プレミアムM&A案件情報、お役立ち情報をお届けします。

事業承継の基礎知識

事業承継税制の特例措置を説明する前に、まずは、事業承継と事業承継税制、事業承継で発生する相続税・贈与税の概要を確認しましょう。

事業承継とは

事業承継とは、中小企業や個人事業において、オーナー経営者や個人事業主が、後継者に会社・事業を引継ぐことです。具体的には、中小企業の場合、後継者に会社の経営権を握らせるために株式を譲渡します。一方、法人格のない個人事業の場合、株式譲渡は行えません。

その代わりに行われるのが、事業に関連する資産や権利義務を後継者に取得させる事業譲渡です。事業承継では、後継者の立場の違いにより、以下の3種類の事業承継があります。

  • 親族内事業承継:経営者の子どもなど親族が後継者となる事業承継
  • 社内事業承継:従業員や役員が後継者となる事業承継
  • M&Aによる事業承継:会社・事業を売却し、その買い手が後継者(新たな経営者)となる事業承継

事業承継税制とは

3種の事業承継のうち親族内事業承継では、後継者は相続、または贈与によって会社の株式や事業用資産を取得します。一方、社内事業承継・M&Aによる事業承継における株式・事業用資産の取得方法は、後継者による買取りです。

したがって、親族内事業承継が実施された場合のみ、後継者に相続税、または贈与税が課されます。取得した株式や事業用資産の評価いかんでは、相続税・贈与税が高額になりかねません。この税負担を嫌って、後継者になることをためらう親族もいます。

そうなると事業承継が頓挫し、そのまま後継者不在が続けば廃業危機に陥ってしまうのです。そこで国としては、円滑な事業承継環境が整うことを企図して、2009(平成21)年に「中⼩企業における経営の承継の円滑化に関する法律(以下、経営承継円滑化法」を施行しました。

この経営承継円滑化法で定められたのが、事業承継税制です。事業承継税制では、要件を満たせば事業承継時に発生する相続税・贈与税が猶予・免除されます。なお、個人事業向け事業承継税制は2019(令和元)年に創設されましたが、こちらは10年間(2028年まで)の時限税制です。

相続税・贈与税の仕組み

事業承継時の相続税・贈与税が免除される事業承継税制ですが、その相続税・贈与税の根本的な概要について確認しておきましょう。それぞれの内容は異なりますので、相続税と贈与税を分けて説明します。

相続税の仕組み・税率

オーナー経営者(被相続人)が亡くなったときに、配偶者や子ども(相続人)は自社株式やその他の遺産を相続します。この相続の際に課されるのが相続税です。相続税には基礎控除額が定められており、全遺産の合計額が下記の計算額以下であれば課税されません。

  • 相続税の基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の人数

基礎控除額を超えた金額に対する相続税の税率および控除額は以下のとおりです。
相続額(基礎控除額を引いた金額) 税率 控除額
1,000万円以下 10%
1,000万円超~3,000万円以下 15% 50万円
3,000万円超~5,000万円以下 20% 200万円
5,000万円超~1億円以下 30% 700万円
1億円超~2億円以下 40% 1,700万円
2億円超~3億円以下 45% 2,700万円
3億円超~6億円以下 50% 4,200万円
6億円超 55% 7,200万円

贈与税の仕組み・税率

事業承継では、オーナー経営者の所有する自社株式を、生前贈与で後継者に引き渡すこともあります。その際に課されるのが贈与税です。贈与税の基礎控除額は、1年単位(1月1日~12月31日の間)で110万円であり、毎年、110万円以下に分けて株式を贈与すれば、課税を受けません。

ただし、その場合、全株式を贈与するのに10年以上かかるでしょうから、あまり現実的な選択肢とはいえないでしょう。贈与税の税率は、一般税率と特例税率があります。特例税率は、直系尊属(父母・祖父母)が18歳以上の子・孫に贈与した場合の税率で、以下のとおりです。

贈与額(110万円を引いた金額) 税率 控除額
200万円以下 10%
200万円超~400万円以下 15% 10万円
400万円超~600万円以下 20% 30万円
600万円超~1,000万円以下 30% 90万円
1,000万円超~1,500万円以下 40% 190万円
1,500万円超~3,000万円以下 45% 265万円
3,000万円超~4,500万円以下 50% 415万円
4,500万円超 55% 640万円

特例税率に該当しないケースが一般税率であり、内容は以下のとおりです。
贈与額(110万円を引いた金額) 税率 控除額
200万円以下 10%
200万円超~300万円以下 15% 10万円
300万円超~400万円以下 20% 25万円
400万円超~600万円以下 30% 65万円
600万円超~1,000万円以下 40% 125万円
1,000万円超~1,500万円以下 45% 175万円
1,500万円超~3,000万円以下 50% 250万円
3,000万円超 55% 400万円

税額の計算では、贈与額に該当する税率を掛け合わせた後、控除額を差し引いて納税額を求めます。

事業承継税制の特例措置とは

事業承継税制の特例措置とは、事業承継税制の大幅な改正で設けられた10年間限定の特例措置です。一般措置と比較すると利便性が大幅に向上し、多くの事業者にとって活用しやすい制度となりました。

事業承継税制は、相続税と贈与税の両方に適用が可能です。事業者は猶予措置を受け続け、最終的に免除措置を受けて税金負担を軽減させ、事業承継の円滑化を図る制度となっています。

事業承継税制の特例措置が設けられた理由

事業承継税制は、2009年に創設されてから適時改正が行われていましたが、手続きの複雑さや要件の厳しさが原因で利用件数が伸び悩んでいました。

近年は、中小企業経営者の高齢化や後継者不足が加速し、事業承継問題が深刻化しています。事業承継税制の適用要件を抜本的に緩和させることで、中小企業の事業承継を促進させる狙いです。

事業承継税制の特例措置と一般措置の違い

事業承継税制の適用を検討する際は、特例措置と一般措置の違いを把握することが大切です。下表に特例措置と一般措置の違いをまとめました。

  特例措置 一般措置
適用期限 2018(平成30)年1月1日~2027(令和9)年12月31日 なし
対象株式 後継者が取得する全株式 発行済議決権株式総数の3分の2が上限
納税猶予割合 相続税・贈与税ともに100% 相続税80%・贈与税100%
対象に含まれる後継者 最大3人(総議決権数10%以上の保有者) 1人
雇用確保要件 雇用維持できない理由を都道府県に提出すれば納税猶予は継続される(事実上の撤廃) 承継後5年間は平均8割の雇用維持
特例承継計画の提出 必要 不要
相続時精算課税の適用 推定相続人などの後継者以外も対象 推定相続人などの後継者のみ

主な変更点は、対象株式や納税猶予割合の範囲拡大です。従来の一般措置では、相続税の場合、3分の2×80%の53%は猶予されますが、残りの47%は納税が必要でした。

特例措置では、自社株にかかる相続税・贈与税に関して全額の猶予・免除措置を受けられるため、実質的に納税負担がゼロです。また、雇用確保要件も大幅な緩和が行われています。

労働力不足が深刻化している日本では、厳しい雇用維持要件で事業承継を阻害するよりも、緩和を図って積極的な引継ぎを促す方が合理的という判断から実施されました。

ただし、事業承継税制の特例措置を受けるためには、特例承継計画が必要です。作成には認定支援機関の支援・助言が必須で、この点だけが一般措置にはない条件となっています。

納税猶予の基本ポイント

ここでは、納税猶予の基本ポイントを、相続税と贈与税に分けてみていきましょう。

相続税の納税猶予を受けられる仕組み

事業承継税制の最も大きなポイントは、納税猶予です。免除や非課税ではありませんが、相続が発生する際、通常は自社株に多額の相続税がかかりますが、手続きを行うと納税が猶予となります。その後、経営を継続して株を売らなければ、納税猶予が続き、最終的に免除を受けられるのです。

 

贈与税の納税猶予を受けられる仕組み

贈与税のケースも、相続税の仕組みとほぼ同じといえます。納税猶予であることが、最も大きなポイントです。贈与の際、手続きを行えば、通常支払う多額の贈与税を払わなくてよくなります。

その後、本業を継続して株を売らなければ、納税猶予を続けられるのです。前任の経営者に相続が起こると、相続税の納税猶予へ切替え、最終的に免除を受けられます。

【関連】事業承継と経営承継円滑化法| M&A・事業承継の理解を深める

事業承継税制の特例措置の適用要件とは

事業承継税制の特例措置を受けるためには、適用要件を満たして認定を受ける必要があります。この章では、前経営者・後継者・会社に設けられている適用要件をみていきましょう。

前経営者の適用要件

まずは、前経営者の適用要件です。経営者自身が満たす必要がある要件は以下になります。

  1. 相続・贈与の時点で会社の代表者である
  2. 後継者を除いた一族の中で筆頭株主
  3. 一族で議決権50%を超える株式の保有
  4. 贈与により代表を退任する、あるいは退任済み

①~③は相続・贈与共通、④は贈与の場合に満たすべき要件です。前経営者が上記要件に該当すれば、相続・贈与時点で会社の代表者だったことを示せます。なお、④の代表退任は、前経営者が有給の役員として会社に残ることが可能です。後継者が次期経営者として育つまで、近くで見守れます。

後継者の適用要件

自社株を引継ぐ後継者も満たすべき適用要件があります。満たすべき要件は以下の5つです。

  1. 相続・贈与の直後に会社の代表者である
  2. 一族の中で筆頭株主
  3. 一族で議決権50%を超える株式の保有
  4. 相続の場合は相続直前に役員であった(前経営者が60歳未満で死亡した場合を除く)
  5. 贈与の場合は役員就任後に3年以上が経過かつ20歳以上である

相続の場合、相続直前に役員という要件に注意しましょう。60歳を超えても現役の経営者は多いため、後継者が役員に就いていないことも珍しくありません。前経営者が不慮の事故や急な病気で亡くなると、要件が満たせずに事業承継税制が利用できないこともあります。

贈与の場合は3年以上の役員就任が要件です。事業承継税制の特例措置は10年の期間限定なので、8年目以降の就任では要件を満たせない点に気をつけてください。相続・贈与のどちらも期間的な要件が設けられているので、手遅れにならないためにも事業承継税制に早期から取り組むことが大切です。

会社の適用要件

最後に会社の適用要件です。事業承継税制は事業に取り組む中小企業を支援する制度なので、会社も一定の要件を満たす必要があります。

  1. 中小企業者であること
  2. 従業員数が1人以上であること
  3. 資産管理会社・風俗営業会社でないこと

中小企業者の要件は業種・資本金・従業員数で決まっています。たとえば、製造業その他であれば、資本金3億円以下または従業員300人以下に該当すれば中小企業者として認められるのです。

資産管理会社は、不動産や株式の資産管理を主な目的として設立される会社で、積極的に事業活動を行っていないため、事業承継税制の対象から外されています。

ただし、資産管理会社も事業実態要件を満たせば、適用対象になることも可能です。相続税・贈与税の納税猶予措置を受けられる可能性はあるので、検討する価値は大いにあるでしょう。

事業承継税制の特例措置の納税猶予額の算出方法

事業承継税制の特例措置において、納税猶予額はどのように算出されるのでしょうか。この章では、贈与税と相続税、それぞれの納税猶予額の算出方法をみていきましょう。贈与税の場合は、以下のように各金額を計算し、納税猶予額が決まります。

  1. その年に贈与を受けた全財産の額→贈与税額
  2. 対象株式の価格→贈与税額
  3. ②が納税猶予額で①から②を引いたものが納付額

相続税の場合は、事業承継税制の対象株式も含めて税率が決定し、対象株式を相続しない他の相続人も、株を含めた高税率で算出されます。
  1. 後継者以外における取得財産の合計と後継者における取得財産の合計→後継者の相続税額
  2. 後継者以外における取得財産の合計と対象株式の価格→後継者の相続税額
  3. ②が納税猶予額で①から②を引いたものが後継者の納付額

また、相続税では、超過累進税率による低税率の部分が、納税猶予以外の部分に使用されることもポイントです。

【関連】事業承継税制による相続税の負担軽減方法を徹底解説| M&A・事業承継の理解を深める

事業承継税制の特例措置の免除・取消事由

事業承継税制の特例措置は大幅な緩和で使い勝手がよくなりましたが、安易に活用すると負担が大きくなることもあります。取消事由に該当すると猶予措置が取り消されてしまい、納める税金が増えるおそれがあるのです。この章では、贈与・相続から5年以内と5年経過後の取消事由を解説します。

主な免除事由

まずは、主な免除事由を見ていきましょう。「後継者の死亡」と「後継者が次後継者へ贈与税における納税猶予の適用を受ける贈与を行った」の2点が、主な免除事由になります。 免除事由に該当すれば、払う必要はありません。

相続・贈与から5年以内の取消事由

事業承継税制の適用を受けてから5年間は厳しい取消事由が定められています。主な事由は下記です。

  1. 後継者が代表権を有さなくなった
  2. 後継者が筆頭株主ではなくなった
  3. 後継者および一族の議決権が50%を下回った
  4. 議決権制限のある株式に変更した
  5. 対象の自社株を譲渡した

後継者が代表をやめた場合は、猶予されていた相続税・贈与税を一括納付します。ただし、代表権を有さなくなった理由がやむを得ないものであれば、確定事由には該当しません。

事業承継税制は、後継者やその親族が支配を継続して経営することが前提で、一族の議決権が50%を下回った場合は取消事由に該当します。議決権制限株式とは議決権を有さない株式のことです。相続における経営権の分散を回避するために活用されることがあります。

なお、対象の株式を議決権制限株式に変更することは認められていません。猶予対象の自社株を譲渡した場合は、猶予措置が取り消されます。合併などで消滅させた場合も同様です。

相続・贈与から5年経過した後の取消事由

贈与・相続から5年経過した後は取消事由が緩和されます。実際の取消事由はさまざまですが、主に注意すべきポイントは以下の1点です。

  • 対象の自社株を譲渡した

自社株の譲渡に関しては、年月にかかわらず取消事由に該当します。最終的に免除措置を受けるまでは、自社株を保有し続けなくてはなりません。他の取消事由については、5年経過後は納税猶予が取り消されず、後継者の交代や議決権が50%を下回っても問題ありません。

事業を引継いで間もなくはやや厳しい条件が定められていますが、時間の経過と共に各種制限や条件が緩和されるため、徐々に経営の自由度が高くなります。

事業承継税制の特例措置のセーフティネット

ここでは、事業承継税制の特例措置におけるセーフティネットについてみていきましょう。事業承継税制の特例措置は、猶予期間が長いです。しかし、その間に業績が悪くなり会社が立ち行かなくなると、どのようになるのでしょうか。
 
基本的には、本業を止めたり、株式を売却すれば猶予されている税額に利息を足して全額を払わなければなりません。

しかし、事業承継税制特例措置では、経営状況の悪化で会社売却や廃業となったときの特例があります。これがセーフティネットで、売却や廃業する際の株価などをベースに税額を再び算出し、差額は免除されるのです。

事業承継税制の特例措置のメリット・デメリット

事業承継税制の特例措置を受けて、実際に得られるメリットはどのようなものがあるのでしょうか。この章では、特例措置のメリットとデメリットを解説します。

事業承継税制の特例措置のメリット

まずは、事業承継税制の特例措置におけるメリットです。主なメリットは、以下の3つが挙げられます。

  1. 相続税・贈与税の負担軽減
  2. 株価対策が不要
  3. 円滑な事業承継

相続税・贈与税の負担軽減

事業承継税制の一般措置では、対象株式や猶予割合に上限が設けられています。各種要件を満たして認定を受けても、一定の相続税・贈与税を納めなくてはなりませんでした。特例措置は、対象株式が全株式、納税猶予割合が100%になる制度です。

上限と割合の縛りが撤廃されているので、自社株承継時における相続税・贈与税の負担が実質的にゼロになります。中小企業の事業承継で悩みの種となっていた税金負担を解決できるため、特例措置の最も大きなメリットといえるでしょう。

株価対策が不要

事業承継で自社株を承継する際は、自社株の評価額に応じて相続税・贈与税が課せられます。そのため、納税負担を軽減する目的で役員報酬の増額や持株会社化などの株価対策を行うことがあるのです。しかし、過度な株価対策は、税務申告の際に税務署から否認される場合があります。

株価対策の加減や追徴課税などのリスクも考慮しなくてはなりません。事業承継税制の特例措置では、相続税・贈与税の全額猶予措置を受けられるので、そもそも株価対策を行う必要がなくなるため、他の手続きに気を取られることなく事業承継に集中できます。

円滑な事業承継

事業承継が滞る要因の1つに、相続の話は後継者の立場からは切り出しづらいことがあります。死亡に備えた話なので現経営者の気持ちを考えると行いにくいものです。事業承継税制の特例措置は、適用期間が定められています。

時間的な制限があるため、事業承継に対して前向きになりやすい特徴があり、後継者の立場からも話をしやすいでしょう。相続について事前に話し合いを進めれば、いざというときに円滑な事業承継を行いやすくなります。

事業承継税制の特例措置のデメリット

続いて、事業承継税制の特例措置におけるデメリットです。特例措置には大きなメリットがある反面、注意しなければならないポイントもあります。

  1. 利子税を支払う可能性
  2. 複雑な制度
  3. 専門家が少ない

利子税を支払う可能性

利子税とは、猶予措置が取り消された場合に猶予されている相続税・猶予税と合わせて納税する税金のことです。利率は原則として年3.6%となっています。利息の対象期間は猶予措置を受けていた全期間なので、猶予措置中に取り消された場合は本来納めるべき税額よりも高くなってしまうのです。

取消事由は、会社の要件に該当しなくなる、株式を譲渡した場合など、一定のことが設けられており、免除措置を受けるまではこれらの要件を満たし続けなければ、猶予措置が取り消されて利子税が発生します。

複雑な制度

事業承継税制の特例措置は、適用要件が複雑です。継続的な要件の順守や報告義務もあり、いずれかを怠ると猶予措置が取り消されて相続税・贈与税と前述した利子税の納税義務が発生します。

最終的に免除措置を受けて税金負担を軽減するためには、複雑な制度を理解してうまく活用しなくてはなりません。経営者や後継者が全ての手続きや要件を把握するのは大変なので、事業承継税制に詳しい専門家のサポートを受けるのが一般的です。

専門家が少ない

事業承継税制の特例措置を活用するには専門家のサポートが必須ですが、その専門家の数が少ない現状があります。中小企業の事業承継事情や社会環境の変化に合わせて改正が繰り返されているので、経験不足の専門家では難しく、満足したサポートは受けられない可能性が高いです。

事業承継を検討する経営者は、まずは頼れる相談先を見つけることが課題といえます。経験豊富な専門家を見つけられれば、円滑な事業承継サポートが期待できるでしょう。

【関連】事業承継税制とは?事業承継税制の要件やメリット・デメリットを解説| M&A・事業承継の理解を深める

事業承継税制の特例措置を受ける手続き

事業承継税制の特例措置は複雑な制度なので、1つずつ確実に進めましょう。大まかな流れは以下のとおりです。

  1. 特例承継計画の提出
  2. 代表者の交代
  3. 贈与税の申告
  4. 都道府県や税務署への報告

①特例承継計画の提出

事業承継税制の特例措置を受ける際は、特例承継計画が必要です。まずは、認定支援機関の協力のもとで特例承継計画を作成して都道府県知事に提出します。特に、事業承継後の経営計画は具体的な内容を記載するため、次の経営者の取り組み・施策をわかりやすく記載しなくてはなりません。

  • 会社の事業内容・従業員数
  • 代表者・後継者
  • 承継までの経営計画
  • 承継後5年間の経営計画

②代表者の交代

贈与により前経営者から後継者に株式の移転を行います。後継者が筆頭株主となり経営権が移転し、事業承継が行われます。贈与の契約書は2通作成し、前経営者と後継者の双方で保管するとよいでしょう。贈与対象の株式価額に応じた印紙を貼り付けて、印鑑登録してある実印で捺印します。

③贈与税の申告

事業承継税制の特例措置を受けたら税務署に贈与税の申告を行います。申告期限は贈与した年の翌年2月1日~3月15日です。年末に事業承継を行った場合は、スケジュールがぎりぎりになる可能性があります。贈与の場合、ある程度は時期をコントロールできるので、都合がよい時期を待つのも有効です。

④都道府県や税務署への報告

贈与税の申告が終わると、都道府県へ「年次報告書」、税務署へ「継続届出書」を定期的に提出します。事業承継税制の適用要件を満たしていることを示すために必要なプロセスです。これらの報告を怠ると、納税猶予されていた相続税・贈与税の納税義務が生じます。

利子税も加算されるので、負担を増やさないためにも継続して報告を行わなくてなりません。特例措置で大幅な緩和がされている雇用維持要件に関しては、8割の雇用維持が難しくなった場合は「実績報告」を作成して都道府県に提出します。

やむを得ない理由であると判断された場合は、猶予措置が取り消されません。ただし、提出・報告を怠ると猶予措置を取り消される可能性があるので、雇用維持が難しい場合は速やかに報告しましょう。

事業承継税制の注意すべきポイント

事業承継税制の注意すべきポイントはいくつかあります。
 

  • 自社株を相続する相続人のみしか恩恵がない
  • M&Aなどで株式を譲渡すると贈与税・相続税猶予が打ち切られる
  • 取消事由が複数ある

それぞれ解説します。

自社株を相続する相続人のみしか恩恵がない

事業継承税制はそもそもとして自社株を引き継ぐ後継者のみが納税猶予を受けることができる制度です。

そのため、自社株を引き継ぐ後継者以外は相続税が下がるわけではありません。事業継承税制を利用したとしても恩恵を受けることができないため事前に自社株株価に対して何かしらの施策を行う必要があります。

M&Aなどで株式を譲渡すると贈与税・相続税猶予が打ち切られる

事業継承税制の適用中にM&Aなどを行い、自社株式を第三者へ譲渡するとその時点で贈与税・相続税猶予が打ち切られます。

打ち切られるだけでなく、それまで猶予されていた贈与税・相続税と利子税を合算して支払う必要があるのです。ただ、事業継承税制適用から5年経過した後であればM&Aなどにより自社株式を第三者に譲渡しても株式のみ猶予がなくなります。5年以内の場合は株式を一部だけでも譲渡した段階で打ち切りになるので注意が必要です。

取消事由が複数ある

先ほどご紹介したM&Aなどにより自社株式を第三者に譲渡した場合、猶予が打ち切られますが他にも取消事由が複数あります。

例えば、以下のような取消事由が該当します。
 

  • 資本金、資本準備金が減少した
  • 後継者が代表者から退任した
  • 廃業した
  • 総収入金額がゼロになった
  • 組織変更をした
  • 期限までに年次報告書を提出しなかった

これらのケースでも猶予が打ち切りになります。他合計して取消事由は20以上ありますので事前に確認しておくことをおすすめします。

事業承継税制の特例措置を受ける際の相談先

事業承継税制の特例措置を受ける際は、専門家のサポートが必要不可欠です。適用を受けるまでの複雑な要件や、適用後に継続的に満たすべき要件・報告義務など、対処すべき事項がたくさんあります。

M&A総合研究所は、主に中小・中堅規模企業のM&A・事業承継をサポートするM&A仲介会社です。事業承継の経験・知識が豊富なM&Aアドバイザーが、丁寧に案件をフルサポートいたします。

後継者不在で事業承継の準備が進められない場合は、M&Aでの事業承継が有効策です。多角的な視野を持って計画を立てられますので、事業承継税制の特例措置をご検討の際は、どうぞお気軽にご相談ください。

M&A・事業承継ならM&A総合研究所

事業承継税制の特例措置まとめ

事業承継税制の特例措置を活用すると、税金負担を大幅に抑えられます。しかし、複雑な制度であるため、早めに準備を進めなければ、満足に効果を得られない場合もあるかもしれません。

したがって、制度の活用や手続きに不安がある場合は、事業承継の専門家に相談しましょう。豊富な経験と知識を持つ専門家のサポートを受ければ、万全の体制で事業承継に臨めます。

M&A・事業承継のご相談なら24時間対応のM&A総合研究所

M&A・事業承継のご相談は成約するまで無料の「譲渡企業様完全成功報酬制」のM&A総合研究所にご相談ください。
M&A総合研究所が全国で選ばれる4つの特徴をご紹介します。

M&A総合研究所が全国で選ばれる4つの特徴

  1. 譲渡企業様完全成功報酬!
  2. 最短49日、平均6.6ヶ月のスピード成約(2022年9月期実績)
  3. 上場の信頼感と豊富な実績
  4. 譲受企業専門部署による強いマッチング力
>>M&A総合研究所の強みの詳細はこちら

M&A総合研究所は、M&Aに関する知識・経験が豊富なM&Aアドバイザーによって、相談から成約に至るまで丁寧なサポートを提供しています。
また、独自のAIマッチングシステムおよび企業データベースを保有しており、オンライン上でのマッチングを活用しながら、圧倒的スピード感のあるM&Aを実現しています。
相談も無料ですので、まずはお気軽にご相談ください。

>>【※国内最安値水準】M&A仲介サービスはこちら

【※メルマガ限定】プレミアムM&A案件情報、お役立ち情報をお届けします。

あなたにおすすめの記事

M&Aとは?手法ごとの特徴、目的・メリット、手続きの方法・流れも解説【図解】

M&Aとは?手法ごとの特徴、目的・メリット、手続きの方法・流れも解説【図解】

近年はM&Aが経営戦略として注目されており、実施件数も年々増加しています。M&Aの特徴はそれぞれ異なるため、自社の目的にあった手法を選択することが重要です。この記事では、M&am...

買収とは?用語の意味やメリット・デメリット、M&A手法、買収防衛策も解説

買収とは?用語の意味やメリット・デメリット、M&A手法、買収防衛策も解説

買収には、友好的買収と敵対的買収とがあります。また、買収に用いられるM&Aスキーム(手法)は実にさまざまです。本記事では、買収の意味や行われる目的、メリット・デメリット、買収のプロセスや...

現在価値とは?計算方法や割引率、キャッシュフローとの関係をわかりやすく解説

現在価値とは?計算方法や割引率、キャッシュフローとの関係をわかりやすく解説

M&Aや投資の意思決定するうえでは、今後得られる利益の現時点での価値を表す指標「現在価値」についての理解が必要です。今の記事では、現在価値とはどのようなものか、計算方法や割引率、キャッシ...

株価算定方法とは?非上場企業の活用場面、必要費用、手続きの流れを解説

株価算定方法とは?非上場企業の活用場面、必要費用、手続きの流れを解説

株価算定方法は多くの種類があり、それぞれ活用する場面や特徴が異なります。この記事では、マーケットアプローチ、インカムアプローチ、コストアプローチといった株価算定方法の種類、株価算定のプロセス、株...

赤字になったら会社はつぶれる?赤字経営のメリット・デメリット、赤字決算について解説

赤字になったら会社はつぶれる?赤字経営のメリット・デメリット、赤字決算について解説

法人税を節税するために、赤字経営をわざと行う会社も存在します。しかし、会社は赤字だからといって、必ず倒産する訳ではありません。逆に黒字でも倒産するリスクがあります。赤字経営のメリット・デメリット...

関連する記事

管工事会社の事業承継の動向や事例を徹底解説!メリットや費用相場・注意点は?

管工事会社の事業承継の動向や事例を徹底解説!メリットや費用相場・注意点は?

管工事会社業界は将来的な需要増加が見込める半面、人材不足や後継者不在といった問題が深刻です。当記事では、過去の事例を取り上げながら、管工事会社(管工事業界)の事業承継について解説します。事業承継...

小売業界における事業承継の動向は?成功事例からメリット・相場まで徹底解説!

小売業界における事業承継の動向は?成功事例からメリット・相場まで徹底解説!

近年は小売業界においても後継者不在や労働力不足による倒産・廃業の動向を避けるため、積極的に事業承継に取り組む企業が増加しています。本記事では小売業界における事業承継の動向を解説し、成功事例やメリ...

M&Aでの売却手続き方法を徹底解説!価格の算出方法やメリット・デメリットは?

M&Aでの売却手続き方法を徹底解説!価格の算出方法やメリット・デメリットは?

M&Aを実施する企業が増加傾向にあり、今後も多くの業界でM&Aが活発になっていくことが予想されています。 そんなM&Aの売却手続きの方法や売却価格の相場、メリット・デメ...

有限会社のM&Aを徹底解説!株式会社との違いや手法・注意点は?

有限会社のM&Aを徹底解説!株式会社との違いや手法・注意点は?

有限会社も株式会社と同様にM&Aで売買することができるため、有限会社を保有している方は参考にしてみてください。 有限会社のM&Aについてあまり詳しくない方は多くいるため、今回は...

ガス会社の事業承継の現状や動向は?メリット・デメリット・事例も紹介!

ガス会社の事業承継の現状や動向は?メリット・デメリット・事例も紹介!

ガス会社はガス業界の需要の縮小や高齢化などに伴い年々減少傾向にあるため、事業承継を行うガス会社が多くなっています。 ガス業界は日本社会を支えている重要な産業でもあるため、ガス会社の事業承継の現...

印刷会社の事業承継とは?手続き方法から動向・事例・メリットまで徹底解説!

印刷会社の事業承継とは?手続き方法から動向・事例・メリットまで徹底解説!

印刷会社を取り巻く業界では、デジタルブックの普及による経営悪化や競争激化といった状況から脱却を目指すため、事業承継を行う会社が見られます。当記事では、事業承継のメリットを踏まえながら、印刷会社で...

介護事業の事業承継を徹底解説!流れや成功事例・メリット・デメリットは?

介護事業の事業承継を徹底解説!流れや成功事例・メリット・デメリットは?

介護事業を取り巻く業界では、各企業で事業承継を検討・実施するケースが増加しています。当記事では、介護事業で事業承継が増えた理由を確認した上で、基本的な手続きの流れや事業承継の成功事例、メリットや...

クリニック・医院の事業承継の手続き方法を徹底解説!費用や相場・注意点は?

クリニック・医院の事業承継の手続き方法を徹底解説!費用や相場・注意点は?

クリニック・医院では、院長の高齢化による後継者不在の問題が深刻化しており、業界内で事業承継を目指す動きが見られるようになりました。当記事では、手続きの流れや費用相場、注意点に触れながらクリニック...

歯科医院の事業承継とは?手続き方法から費用・相場・メリットまで解説!

歯科医院の事業承継とは?手続き方法から費用・相場・メリットまで解説!

歯科医院では、院長高齢化により廃院せざるを得なくなるケースが顕著です。そんな中、事業承継で歯科医院存続を目指す事例が目立つようになりました。当記事では、手続き方法や費用相場、メリットとデメリット...

M&Aコラム
人気の記事
最新の記事

【※メルマガ限定】プレミアムM&A案件情報、お役立ち情報をお届けします。

ご相談はこちら
(秘密厳守)