2023年9月6日更新会社・事業を売る

M&Aのクロージングとは?手続きの流れや期間・前提条件を決める方法・必要書類も紹介

M&Aの取引では、最終契約を締結後に資産移転などの手続きが必要です。この手続きを「クロージング」といい、用いたM&Aの手法によって行うべき手続きが異なります。この記事では、各M&A手法のクロージング手続きや価格調整について解説します。

目次
  1. M&Aのクロージングとは
  2. M&Aにおけるクロージング条件とは
  3. M&Aのクロージングまでのプロセス
  4. M&A手法別のクロージング手続きの流れ
  5. M&Aのプレクロージング・ポストクロージング
  6. M&Aのクロージング前後のPMI
  7. M&Aのクロージングに必要な書類
  8. M&Aのクロージングまとめ
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M&Aのクロージングとは

M&Aの最終契約が締結された後も、資産の移転や代金の支払いなどを済ませる必要があります。こうしたM&Aの最終契約後に必要な実務を「クロージング」と呼びます。

M&Aのプロセスでは、売り手と買い手が直接、またはM&A仲介会社などを介して交渉が行われ、最終的に双方が合意をすれば正式に最終契約を締結します。しかし、最終契約の締結に至っても、M&Aのすべての手続きが完了したことにはなりません。

M&Aの最終契約を締結したのち、最終契約に沿ってM&A取引が実行されます。その後、代金の支払いが済み、経営権の移転が完了することがM&Aにおけるクロージングです。

M&Aの最後の手続きであるクロージングは重要な手続きです。一般的にクロージング手続きにはそれ相応の時間を要し、少なくとも1ヶ月程度の時間がかかります。

ただし、すでにクロージングに必要となる条件を満たしている場合、M&Aの契約に至った時点でクロージングは完了です。また、M&Aの手法によっては簡易的なクロージング手続きの実行で済むケースもあります。

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クロージングの役割と重要性

普遍的な会社間の取引契約におけるクロージングは、当事者たちの今後の行動を制約する重要なものです。同様に、M&A取引におけるクロージングも非常に重要な手続きになります。

M&A取引とは、多岐にわたる専門家が力を合わせて成立させる複雑な取引です。必要書類や必要手続きも複雑になりやすく、M&Aの最終契約に則って一定期間内に完了する必要があるため、どこかに漏れが生じ得るかもしれません。

しかし、最後までしっかり手続きされたクロージングは、法的にM&Aの有効性を証明する手段になるので、非常に重要な役割を持っています。

クロージング終了までの期間

クロージング終了までの期間は、一般的に1ヵ月~1年程度の期間を要します。クロージング要件は最終譲渡契約書に含める必要があるので、最終契約の内容やM&A取引の規模によってクロージング終了までの期間が変わってきます

M&A取引では、最終譲渡契約と決済が同時に履行できないケースのほうが多いため、クロージングまでに履行すべき事項は、最終契約に含める必要があるので注意が必要です。

M&Aにおけるクロージング条件とは

クロージング手続きはそれだけでも相応の時間を要しますが、まずは「クロージング条件」を満たさなければならないため、手続きを開始する前段階でも時間を要します。

クロージング条件とは、M&Aの実行にあたり譲ることができない条件のことであり、そのM&A取引におけるそもそもの前提条件をお互いに提示しあっている状態です。

一例を挙げると、重要取引先からM&A後も取引を継続する旨の同意を得ることや、許認可の取得などがあります。

クロージング条件を満たせない場合は、クロージング条件を満たせるまで時間をかけることもあれば、クロージング条件を変更することもあります。最悪の場合、条件を満たせずにM&Aが破談となるケースもあり得ます。

また、M&A取引の買い手もしくは売り手は、相手に対して任意的にクロージング条件を取り下げる権利があるので、ある程度は柔軟に対応していくことが可能です。

クロージングの前提条件一例

契約内容の保証やクロージング日の指定、重要顧客からの取引継続など、企業の方針やM&A取引の目的によってクロージング条件はさまざまです。

特に、重要顧客からの取引継続にあたっては、取引先からの同意が必要なケースもあります。この場合、ほとんどは取引先企業への口頭または書面で承諾をとることで解決します。

もし、売り手側の企業と重要客企業との間にCOC条項が存在する場合は、事前に対応が必要です。COC条項(チェンジ・オブ・コントロール条項)とは、M&Aなどで経営権の移転が発生した場合、契約内容を変更もしくは破棄ができる規定です。

MAC条項

MAC条項は、大きな問題が会社の財務に悪影響を与えていないか確認するためのルールです。会社を買うときの契約によく含まれます。

この「大きな問題」が何を示すのかはしばしば議論の対象になるので、売る側と買う側は事前に具体的にどういう状況を指すのか話し合っておくと良いです。

キーマン条項

キーマン条項とは、会社を買う際に、その会社の重要な役員や従業員が引き続き働く意志があるかを確認するためのルールです。この条項は特に、会社の成長や成功に大きく寄与している人がいる場合に重要です。

ただし、実際には、このような条項に売る側が難色を示すことも少なくありません。しばしば、重要な人が確実に残るという保証が欲しい買い手と、そこまで制約を受けたくない売り手との間で、話が難しくなることもあります。

クロージングの前提条件を決める方法

クロージングの前提条件を決める際は、具体的かつ客観的な内容に定める必要があります。さらに、M&A当事者一方の主観的な条件や、定性的、抽象的な内容も控えるべきとされています。

そもそも契約事であるため、どの状況まで至れば条件を満たすのかを明確に定まらないことには、お互い納得ができず、トラブルになる可能性があります。

買い手企業の主観(または意思)でクロージング条件を満たさないという状況を作り出すことも、理論上不可能ではなく、そうなれば売り手企業が最終契約の義務を履行したにもかかわらず、クロージングされない事態も起こり得ることになってしまいます。

それを防ぐためにも、クロージングの前提条件を決める際は、具体的かつ客観的な内容に定める必要があります。

M&Aのクロージングまでのプロセス

M&Aのクロージングまでのプロセスは、大きく以下の3段階に分けることができます。本章では、各段階ごとの手順を解説していきます。

  1. 検討段階
  2. マッチング段階
  3. 最終契約段階

検討段階

まずはM&Aの検討、準備の段階です。M&A戦略を練る前に、なぜM&Aをやるのか、本当の目的は何なのかということを明らかにし、そこから脱線しないように注意しましょう。

M&Aはセンシティブな取引になるため、結果にかかわらず進めていくこと自体にエネルギーを要します。M&Aは手段であり、目的ではないことを念頭に置いて進めていくことが大切です。

また、M&A仲介会社の選定も非常に重要です。M&A仲介会社は数多くあり、その数だけ特徴があるといっても過言ではありません。自社のM&A戦略に最適なM&A仲介会社を探すことも、M&A成功確率を高めるポイントのひとつです。

M&Aのサポート先をお探しの経営者様は、ぜひM&A総合研究所へご相談ください。M&A総合研究所では、豊富な知識と経験を持つアドバイザーがM&Aをフルサポートいたします。

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マッチング段階

M&Aアドバイザーとの委託契約からM&Aの基本合意締結までは、実際にM&A契約を交わす相手探しをしている段階です。

M&A戦略を十分に検討し、相手企業への希望条件(理想の相手企業像)が定まったところで、M&Aアドバイザーへの委託契約を結びます。報酬体系に着手金が含まれる場合は、委託契約を結んだこのタイミングで着手金を支払います。

一般的には、M&Aアドバイザーが希望条件に沿って相手企業の候補を出してくれます。この時点では、当然候補企業のすべての情報は開示されないので、ノンネームシートという概要書を使って検討します。

ノンネームシートとは、対象企業(または事業)の社名を伏せ、最低限の情報だけを記載した匿名の概要書のことで、M&Aアドバイザー側で作成するのが一般的です。

ノンネームシートから相手企業を選定したら、相手企業と秘密保持契約(NDAとも呼ばれます)を締結した後、M&A取引の当事者が基本情報を開示します。

その後はトップ面談へと進み、経営者など企業のトップ同士が互いに相性や企業理念などを確認し、書面ではわからない部分の理解を深めます。

トップ面談がうまくいけば、条件面を調整しM&A取引の基本合意書を締結します。M&Aアドバイザーの報酬体系に中間金が含まれる場合は、基本合意を取り交わした時が中間金の発生するタイミングです。

最終契約段階

基本合意の締結まで完了すると、以降はM&A成立に向けての最終段階です。最終段階では、以下の手続きを主に行います。

  1. デューデリジェンス(DD)の実施
  2. 最終条件交渉
  3. 最終契約
  4. クロージングの実施
デューデリジェンスとは、買収監査のことです。買い手が売り手に対して行うもので、法務面や財務面などあらゆる角度から細かくチェックします。

デューデリジェンスで何らかの問題が発覚した場合、買収価格や条件面の再調整をしたり、内容によってはM&A取引が破談になったりする可能性もあります。

デューデリジェンスが無事終わると、最終条件交渉に入ります。ここまでの交渉内容や基本合意の内容、デューデリジェンスの内容などを踏まえ、最終的な契約内容を確定します。

最終条件交渉を終えたら、最終契約を締結します。最終条件交渉でまとまった内容を書面にし、M&Aの契約内容を確定するものが最終契約です。その後、M&Aスキームによってクロージングを実施し、M&Aは完了となります。

M&A手法別のクロージング手続きの流れ

M&Aのクロージングは、売り手側が取引対象物を引き渡し、買い手側は代金(または対価となる物)を決済する手続きです。

クロージングにはM&A手法別に手続きが分かれていまが、M&A取引の最終段階の手続きであり、精算作業をすることには変わりありません。

株式譲渡を用いたM&Aクロージング

株式譲渡を用いた際のクロージング手続きを解説します。株式譲渡とは、株式の移転によってM&Aを完了させる手法で、株式譲渡のクロージング手続きは、株券発行会社と株券不発行会社、上場企業により異なる部分があるので、注意が必要です。

株式譲渡の際、株券発行会社では原則として株券の交付が必要です。クロージング手続きにも株券の交付が含まれ、株式譲渡を正式なものにするために株主名簿の書き換えが必要です。

非上場で株券不発行企業の場合は株券交付の手続きは不要であり、株式譲渡自体も当事者間で株式譲渡契約を締結すれば成立します。しかしながら、第三者に譲渡後の株式を証明するため(対抗要件)に、株主名簿の書き換えが必要です。

上場企業の場合、株主権利の管理を証券保管振替機構と証券会社の口座を通じて電子的に行われます。そのため、クロージング手続きとして、振替申請が必要です。

【株式譲渡の具体的なクロージング手順】

  1. 譲渡承認請求
  2. クロージング書類提出と株式譲渡
  3. 対価支払い
  4. 株主名簿の書き換え・印鑑や通帳の授受
  5. 臨時株主総会・代表取締役の選任と登記

①譲渡承認請求

大半の中小企業では自社株式に譲渡制限を設定しており、売り手企業が株式譲渡制限会社の場合は譲渡承認請求が必要です。具体的には、取締役会または株主総会にて譲渡承認の決議を行います。

②クロージング書類提出と株式譲渡

株式譲渡の際、売り手側は買い手側にクロージング書類を提出します。以下は、一般的に必要となる書類ですが、ケースによってはほかの書類も必要となる場合もあります。

  • 株主名簿
  • 株式譲渡承認請求書と承認書
  • 取締役会議事録
  • 売主証明書
  • 株主譲渡委任状

③対価支払い

買い手側がクロージング書類を確認し、問題がなければ売り手に対価が支払われます

④株主名簿の書き換え・印鑑や通帳の授受

対価の支払いが完了したら、株主名簿の書き換えを行います。これにより、正式に経営権が売り手から買い手側に移転します。また、この際に会社の実印や通帳なども買い手側に引き継ぎます。

重要物の授受の際、当事者確認のために商業登記簿が必要ですが、これはできるだけ最新のものを用意しましょう。通帳も、前日の残高が記帳されたものが望ましいです。

⑤臨時株主総会・代表取締役の選任と登記

最後に、買い手側企業にて臨時株主総会を開催します。新役員の決定や前経営陣に対する退職慰労金の支給などが決定され、取締役会で新しい代表取締役も決定します。

以上が、株式譲渡によるM&Aのクロージングであり、中小企業のM&Aでのクロージング手続きは、1〜3日ほどで完了するケースが多いです。

【関連】M&Aの株式譲渡はどんな手法?実例や事業譲渡との違いから種類や方法・注意点まで総まとめ

事業譲渡を用いたM&Aクロージング

事業譲渡とは、会社の一部の事業や資産を売買するM&A手法です。中小企業のM&Aでは、株式譲渡に次いで実行されている手法であり、買い手側の視点ではM&Aによって簿外債務を引き継がずに済むメリットがあります。

しかし、クロージングにおいては株式譲渡と比べて手続きが煩雑です。事業譲渡によるM&Aで必要なクロージング手続きには、主に以下の2つがあります。

  1. 特別決議
  2. 資産・契約の個別合意
事業譲渡では、譲渡対象となる資産、買い手側への負債継承および契約関係の移転手続きを個別に行う必要があります。

そのため、事業譲渡日(またはクロージング日)にすべての移転手続きを完了することは、通常できません。

法律上要請される特別な手続きはないので、事業譲渡日以降に買い手企業と売り手企業で協力し、移転手続きを進めていくことになります。

①特別決議

事業譲渡においては、一定の条件に合致する場合、特別決議が必要です。特別決議とは、企業の経営を左右する事項を決定する際に行われます。

具体的には、買い手側は事業の全部を買収する際、売り手側は事業の全部を売却する場合もしくは重要な事業を売却する際に特別決議が必要となります。

特別決議は、発行済株式総数の過半数を保有する株主が出席し、出席株主のうち3分の2以上の賛成で承認されます。

【事業譲渡で特別決議が必要となる条件】

  • 事業の全部譲受
  • 事業の全部譲渡
  • 事業の重要な一部譲渡(譲渡事業の価額が総資産の1/5以上)

②資産・契約の個別合意

株式譲渡は包括承継であるため、M&Aによって資産や契約の所有権が自動的に移転します。つまり、個別の合意を取る必要はありません。

一方、事業譲渡では、資産や契約の当事者に同意が必要です。個別に同意を得らなければならないため、M&Aのクロージングには時間を要します。

株式譲渡とは違い、事業譲渡の場合は最終契約とクロージングを同日に実行可能なケースはまれであり、時間がかかる点に留意しましょう。

【関連】事業譲渡によるM&Aとは?株式譲渡との違い・メリット・デメリット・手続きの流れを解説!

組織再編におけるM&Aクロージング

合併や会社分割、株式交換、株式移転などのM&A手法を総称して組織再編と呼びます。株式譲渡や事業譲渡は、会社やビジネスを売買する目的で実行されることが多いです。

対して、組織再編に属するM&A手法は、グループ内再編や子会社化などを目的とするケースが多く、基本的には大企業が用います。ここでは、「会社分割・合併」と「株式交換・株式移転」に分けてM&Aのクロージングを解説します。

会社分割・合併を用いたM&Aクロージング

会社分割とは、事業の一部またはすべてを切り離して、第三者に移転するM&A手法です。一方、合併とは、複数の会社を1つに統合するM&A手法です。

合併には、新設合併と吸収合併があります。吸収合併の場合、法律上必要となる特別な手続きはありませんが、取引対価を現金にするときは現金払い込みの手順を売り手企業と買い手企業で事前に定めておくケースが多いです。

一方、新設合併の場合は設立する会社の登記が必要であり、この設立登記をもって合併の効力が発生します。また、登記は会社法で定められた一定期間内に行わなければなりません。

会社分割では一部の事業が他社に移転され、合併では複数の異なる会社が1つになります。つまり、これらのM&A手法では会社の中身が抜本的に変わるため、特別決議や債権者保護手続きが必要です。

債権者保護手続きとは、債権者を守るための制度です。債権者保護手続きでは官報公告と個別の通知を行い、異議申し立ての期間として、債権者に対して1ヶ月を与えることが会社法で定められています。

つまり、M&Aのクロージングが完了するまでに最低でも1ヶ月かかるため、会社分割や合併を行う際はM&Aのスケジュール計画が重要となります。

株式交換・株式移転を用いたM&Aクロージング

株式交換と株式移転は、どちらも完全親子関係を築くM&A手法です。株式交換では、発行済の全株式を既存の他社(親会社となる会社)に受け渡し、対価として認められるのは株式、金銭、社債などです。

株式移転は、新しく親会社となる会社を設立し、発行済みの全株式をその新しく設立する企業に移転させます

株式移転の対価に金銭は認められておらず、株式移転設立完全親会社の社債、新株予約権および新株権付社債に限定されています。

両手法の違いは株式の譲渡先と対価であり、既存他社に譲渡する場合は株式交換、新設会社に譲渡する場合は株式移転となります。

会社分割や合併と同様、どちらの手法も特別決議が原則必要ですが、株式交換・株式移転では株式を100%移転する、株主(経営陣)が変わるだけで債権の内容は変わりません。したがって、債権者が損をする恐れはないため、債権者保護手続きは基本的に必要ありません。

また、株式交換のクロージング手続きに法律上必要となる特別なものはありませんが、株式移転の場合は、新設会社の設立登記申請が必要です。

新設合併の場合と同様に、会社法で定められた一定期間内に申請を行う必要があるので、注意が必要です。

【関連】株式交換と株式移転とは?違い・手続き・事例・M&A手法のこれからについて解説
【関連】会社分割とは?新設分割・吸収分割についてや手続き、メリット・デメリット、事業譲渡との違いを解説

第三者割当増資を用いたM&Aクロージング

最後に、第三者割当増資によるM&Aで必要なクロージングの手続きを解説します。

第三者割当増資の概要

第三者割当増資とは、発行した新株を特定の第三者に買い取らせるM&A手法であり、一般的に未上場の中小企業が資金調達目的で行い、売り手側は株式を買収してもらうことで財務状況を改善・向上が見込めます。

すべての株式を譲渡するわけではありませんが、第三者割当増資後は買い手側が売り手企業の経営に参画するケースがほとんどです。

M&Aのクロージングに必要な手続き

このM&A手法では、クロージングまでに新株の発行と代金の支払いが必要です。なお、新株発行に際しては、譲渡制限会社か公開会社かによって必要な手続きが異なります。

株式譲渡に制限をかけている企業の場合、株主総会の特別決議が必須となります。つまり、ほとんどの中小企業ではクロージング手続きとして特別決議が必要です。

公開企業の場合、基本的には取締役会の決議でよいのですが、「妥当な価格よりも著しく低い価格での新株付与」または「無償譲渡」のいずれかに該当すると有利発行となり、特別決議が必要です。

その理由は、有利発行を行うことで1株あたり株価が下落し、既存株主の利益が減少するからです。

【関連】第三者割当増資の手続きとは?メリット、契約書や取締役会についても解説
【関連】株式譲渡制限会社とは?株式譲渡で株主総会の承認が必要?メリットやデメリット・設立方法・注意点も解説

M&Aのプレクロージング・ポストクロージング

プレクロージングとは、その名の通りクロージングの準備をいいます。実際のクロージングを円滑に進めるために行いますが、プレクロージングに関する内容は、普通、M&A取引の契約書には盛り込みません。

そのため、売り手企業と買い手企業の双方合意下で行われるのが一般的です。ポストクロージングは、クロージング後の手続きを指します。

プレクロージングは準備に留まりますが、ポストクロージングは場合によっては手続きが複雑になるケースもあるので、注意が必要です。

M&Aのプレクロージング手続き

前述の通り、プレクロージングは、一般的に売り手企業と買い手企業の双方合意の下で行われます。

プレクロージングを行うことで、チェックミスや確認漏れを防ぐことにもなり、実際のクロージング日の負担も軽減されます。

プレクロージングの際は、実際のクロージング時にチェックする項目を網羅したリストを作成します。クロージング時はリストをもとに、やるべきことをひとつひとつ入念に確認しながら進めていきます。

プレクロージングは、実際のクロージングの数日前に行うのが一般的です。必要書類もこの段階ですべて揃えておきましょう。プレクロージングをしっかり行うことで、実際のクロージングを正確でスムーズに行えます。

M&Aのポストクロージング手続き

クロージングの後にM&A取引の当事者が行わなければならない手続きを、ポストクロージング手続きといいます。手順は以下の通りです。
 

  1. 必要な決議を取る(株主総会および取締役会)
  2. クロージング後における誓約事項の実施
  3. M&Aの価格調整
  4. クロージング時点での貸借対照表などを含む財務諸表の作成

M&Aの最終契約において、「価格調整条項」が盛り込まれる場合があります。価格調整条項とは、最終契約日からクロージング日までの企業価値の変動を、M&Aの買収価格に反映させる旨を約した条項です。

M&A取引では、最終契約日からクロージング日までに期間が空くのが一般的であり、1ヶ月以上かかるケースも少なくありません。

企業価値は株価が影響するため、最終契約日とクロージング日では変動する可能性が高く、場合によっては大きく乖離することもあります。

このような状態になった場合、M&Aの当事会社のどちらかが損をすることになり、そのリスク軽減のためにM&A契約で「価格調整条項」が設定されます。

ポストクロージングにおける価格調整では、「純資産」「純有利子負債」「運転資本」が考慮されます。

純資産とは、貸借対照表の資産から負債を差し引いたものをさし、資本金や資本準備金が該当します。一般的な企業では純資産は変動しにくいため、実際の価格調整ではあまり用いられません。

純有利子負債とは、有利子負債から余剰現預金や事業に利用しない資産を差し引いた金額です。純有利子負債を価格調整に用いる場合、企業価値算出のDCF法との整合性を担保できます。そのため、M&Aの実務上多用されています。

運転資本とは、事業活動に活用している資本のことです。一般的には、棚卸資産に売掛債権を足して仕入債務を差し引いて求めます。実務上、純有利子負債と運転資本の併用がもっとも合理的な価格調整の方法といわれています。

ただし、企業やM&A手法によって最適な価格調整の方法は異なり、専門知識も不可欠です。専門家のサポートを受けて状況に応じた価格調整を行うようにしましょう。

M&Aのクロージング前後のPMI

M&Aは成立が目的ではなく、M&A後の統合が完了して初めて成功といえます。さらには、統合後の価値創出を最大化することが目的のはずです。

PMIとは、クロージング後に行われる経営統合作業のことです。統合後の価値創出を最大化するという側面でみると、M&Aにおけるもっとも重要な手続きの一つです。

PMIとは

PMI(post merger integration:ポスト マネージャー インテクレイション)とは、前述した通り経営統合作業のことです。

M&A後に統合効果を発揮するため、組織統合プロセスを推進することが必要です。PMIはM&A取引完了後(クロージング完了後)でないと進められないものではないので、クロージング前段階から進めていくとよいでしょう。

PMIの実施内容

PMIの実施内容は、短期的な内容と中長期的な内容に分けて行います。特に、クロージング直後からの数か月間のPMIの内容が、持続的な成長のために重要です。

PMIの質により、結果的に双方の生み出す価値が異なってきます。本章では、短期的なPMIについて詳しく解説します。しっかりと土台を築き上げ、経営統合のシナジー効果最大化を目指しましょう。

クロージングまでの期間に行うPMI

クロージングまでの期間は、統合に関する方針を固めておくと良いでしょう。方針としては下記の3つに分けられます。

  • 連邦型統合(売り手企業を子会社として存続)
  • 支配型統合(売り手企業を子会社として存続)
  • 吸収型統合(売り手企業を吸収し同一法人とする)

連邦型は、M&Aを行った売り手企業に対して、経営の自主性を持たせる方針です。売り手側の従業員からの反発や抵抗を抑えられるメリットがあるものの、シナジー効果が生まれにくいデメリットもある方針です。

反対に、支配型は、M&Aを行った売り手企業に対して、買い手企業が経営に積極的にかかわっていく方針です。

メリット・デメリットも連邦型とは真逆で、シナジー効果が生まれやすい反面、従業員がついてこれずにモチベーションが低下する恐れもあります。

吸収型統合は、売り手企業を子会社として存続しない方針です。支配型よりもシナジー効果が生まれやすい反面、日常業務に支障をきたすほど、従業員に負担がかかる可能性もあります。

クロージング以降に行うPMI

クロージングから3か月程度は初期の統合作業です。この時、円滑なPMIを行うため、買い手側とM&A対象企業の人材で混成チームを結成するケースもあります。

3ヶ月から6ヶ月の間に、優先して実行すべき課題についてスケジューリングされた計画を「ランディング・プラン」といいます。

ランディング・プランは、当然M&A取引によって内容はさまざまですが、代表的な内容には以下ようなものがあります。

  • 役員人事
  • 組織・人事配置
  • 人員整理・労働条件の変更
  • 責任の役割の見直し
  • 定款・業務規程・運用ルールの見直し
  • 経営管理の見直し
  • 財務の見直し

M&Aのクロージングに必要な書類

最後に、M&Aのクロージングに必要な代表的な書類を、譲渡側(売り手企業)と譲受側(買い手企業)でそれぞれ紹介します。

譲渡側の必要書類

譲渡側(売り手企業)の必要書類は以下の通りです。
 

必要書類 備考
株主名簿の写し クロージング日前日の持ち株比率を明示するため必要です。
株式譲渡に関する名義書換の委任状 株主名簿を書き換えるため必要になります。
委任状の代わりに、名義書簡換請求書でも可能です。
印鑑証明書 株主名簿を書き換えるため必要になります。
株式譲渡承認申請書  
株式譲渡承認書 譲渡側が譲受側に株式を譲渡することを承認していることを証明する書類です。
売主の証明書 譲渡側がクロージングまでに履行すべき何らかの義務を負っている場合、それを証明する書類が必要になることがあります。

譲受側の必要書類

譲受側(買い手企業)の必要書類は以下の通りです。
 

必要書類 備考
クロージング書類の受領書 譲渡側からクロージング書類を受け取ったことを証明するために必要です。
印鑑証明書  
登記事項証明書  

M&Aのクロージングまとめ

今回は、M&Aのクロージングについて解説しました。M&Aのプロセスでは、企業価値の算定やデュー・デリジェンスなど重要な手続きが多く、クロージングもM&Aにおいて重要な手続きですが、クロージングに必要な手続きや時間はM&A手法によって異なります。

そのため、M&Aを実行する際にはクロージングも含めてスケジュールを立てなければなりません。

また、M&Aの買収価格を決める場合は価格調整についての考慮も大切であり、円滑に進めるためにはM&Aの検討段階から専門家に相談することをおすすめします。

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