2021年5月29日更新資金調達

第三者割当増資に必要な総数引受契約書の作成方法や内容を解説【雛形あり】

総数引受契約書は、募集株式の発行の際に発行者と割当者の間で取り交わされる契約書です。第三者割当増資の手続きを簡略化する目的で活用することが多くなっています。本記事では、総数引受契約書の作成方法と内容を解説します。雛形も用意したので作成の際は参考にしてください。

目次
  1. 第三者割当増資と総数引受契約書
  2. 第三者割当増資に必要な総数引受契約書の作成方法
  3. 総数引受契約の内容
  4. 総数引受契約書を作成する際の注意点
  5. 総数引受契約を交わす意味・メリット
  6. 第三者割当増資に必要な書類
  7. 第三者割当増資による総数引受契約書の作成は専門家に相談がおすすめ
  8. まとめ

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第三者割当増資と総数引受契約書

企業が資金調達をする際、大きく分けて融資と増資の2つの選択肢があります。

融資の場合、事業の将来性や返済能力に関する審査が厳しく、実際に資金を手にするまで時間がかかってしまう問題があります。

一方の増資は、厳しい審査基準をクリアする必要もなく、返済する義務も課せられません。そのため、企業の資金調達方法として活用される傾向にあります。

その増資の際に使われるものが、総数引受契約書です。本記事では、円滑な資金調達を実現するための総数引受契約書の作成方法や内容について解説します。

第三者割当増資とは

第三者割当増資は、特定の第三者に対して募集株式の割当を行う増資手法です。

主に中小企業が取引先や自社の役員に割当を行って資金を調達する方法として活用しています。

大企業の資金調達の場合は社会的信用が高いことから広く一般の投資家に割当を行う公募増資を用いるのが主流になっています。

また、会社の経営権が取得できる範囲まで割当を行うことでM&A手法としても活用することが可能です。ただし、既存の株式が移動したり消滅するわけではないので割当者が100%の株式を取得できないデメリットも存在します。

【関連】第三者割当増資とは?メリット・デメリットを解説

総数引受契約書とは

総数引受契約書は、募集株式の発行の際に発行者と割当者の間で取り交わされることがある契約書です。

総数引受契約書を締結する目的は円滑な資金調達にあります。

募集株式の割当者が決まっていない場合は割当者の募集と割当配分を決める手続きを踏む必要がありますが、割当者が既に決まっている場合は総数引受契約を締結することで手続きの簡略化が可能です。

株式の種類や総数、金額などが記載され、発行者と割当者の間で契約します。割当者は単一とする必要はなく、複数の個人あるいは企業とすることも可能です。

【関連】第三者割当増資における総数引受契約書の作成方法・流れや注意点を解説【雛形あり】

第三者割当増資に必要な総数引受契約書の作成方法

こちらでは第三者割当増資を実施する際に必要となる手続きを解説します。総数引受契約書を活用することで省略できる手続きもありますが、比較検討の参考にしてみてください。

【第三者割当増資に必要な総数引受契約書の作成方法】

  1. 募集内容の決定
  2. 募集株式の申し込み
  3. 株式割当の決議
  4. 払込日までに出資の履行
  5. 登記変更・登記申請

1.募集内容の決定

募集内容の決定は株主総会の特別決議を開催して出席株主の議決権数の3分の2以上の賛同を得る必要があります。

【決議内容】

  • 募集株式数
  • 募集株式の払込み額
  • 払込み日と引き渡し日
  • 資本金の増加について

譲渡制限株式について

譲渡制限株式は、株式の譲渡に関して制限をかけられた株式です。

悪意ある第三者に株式を買い占められることで経営権を握られてしまうことを防ぐ目的で定めます。特に中小企業の株式は譲渡制限株式と定めていることが多いです。

募集株式の種類が譲渡制限株式である場合は、上記の決議内容に加えて譲渡制限株式の譲渡に関して承認を得る必要があります。

有利発行について

第三者割当増資の場合、割当者にとって有利な価格で発行されることがあります。妥当とされる価格の90%(目安)よりも安い場合は有利発行とみなされ、既存株主に対して説明する責任が生じます。

2.募集株式の申し込み

募集株式の申し込みは、募集株式の割当者を募集して応募者より申し込みを受けるための手続きです。総数引受契約書を用いる場合はこちらの手続きは省略されます。

総数引受契約書を使わずに通常の第三者割当増資の手続きを踏む場合は、以下の内容を通知します。

【通知内容】

  • 株式会社の商号
  • 募集事項
  • 払込みの場所
  • 会社法第41条で定める事項

通知を受けた側が割当を受ける場合は、以下の内容を記載して発行者に提出します。

【申し込み内容】
  • 氏名または住所
  • 割当を受けようとする募集株式の数

3.株式割当の決議

株式割当の決議は、募集株式通知の応募者への割当比率を決定するための決議です。総数引受契約書を用いる場合はこちらの手続きは省略されます。

総数引受契約書を使わない場合は、株主総会の特別決議で割当比率を決定します。また、応募者が希望する全ての株式を発行する義務はありません。発行者の都合で自由に割り振ることが認められています。

ただし、希望数を超える株式数を割り当てることはできません。

4.払込日までに出資の履行

割当株式数について通知を受け取った割当者は払い込み期日または払い込み期間内に全額を払い込みます。

発行者の登記手続き上、払い込みの入金履歴がある通帳を必要とするため、払い込み期日までに着金していなくてはなりません。そのため、払い込み期日が過ぎても払い込みが見られない場合は該当者の割当権利は失効されます。

5.登記変更・登記申請

増資の効力が発生すると資本金が変動するため、管轄の法務局で登記変更を行います。期限は効力発生日から2週間以内です。

【関連】第三者割当増資の手続きとは?契約書や取締役会について解説

総数引受契約の内容

総数引受契約書の記載される内容について法で定められてはいませんが、割当に関する契約書であるため、重要な事項については漏れなく記載する必要があるでしょう。

この章では、総数引受契約書の記載内容の解説と雛形を紹介します。

総数引受契約の記載内容と雛形

総数引受契約書に記載すべき事項は以下の通りです。

【総数引受契約書の記載内容】

  • 双方の募集株式の引受に関する合意
  • 募集株式の種類及び数
  • 募集株式の割当方法
  • 募集株式の払込金額
  • 金銭の払込期日
  • 増加する資本金及び資本準備金
  • 払込取扱場所
  • 双方の署名及び押印

上記の記載すべき事項を落とし込んだ雛形を下記に用意しました。総数引受契約書を作成する際の土台として活用ください。

また、下記の雛形は割当者が単一である前提になっていますが、複数に分けることも可能です。

その際は第1条を「全体で発行する株式のうち□□が●株を割り当てを受け、△△が●株を割り当てを受ける」とし、第2条第2項に書き足しを行ってください。

総数引受契約書の雛形

募集株式の総数引受契約書

〇〇株式会社(以下甲)及び□□株式会社(乙)は、以下の通り募集株式の総数引受契約を締結する。

第1条.甲は乙に対して、下記の要領で新たに発行する募集株式●株を割り当てる。乙は本契約をもってこれを引き受け、発行される募集株式の総数を引き受けるものとする。

第2条.募集要項

1.募集株式の種類及び数
 普通株式●株

2.募集株式の割当方法
 以下の第三者に募集株式の割り当てを受ける権利を与える。
 

割り当てを受ける者 割り当てる募集株式の種類 割り当てる募集株式数
□□株式会社 普通株式 ●株
合計   ●株

3.募集株式の払込金額
 1株につき金●円
 
4.金銭の払込期日
 ●年●月●日

5.増加する資本金及び資本準備金
 資本金:1株につき金●円
 資本準備金:1株につき金●円 

6.払込取扱場所
 東京都●●区●●
 ●●銀行●●支店

本契約成立の証として、本書2通を作成し、甲乙記名押印の上、各1通を保管する。

●年●月●日

甲:〇〇株式会社 代表取締役〇〇 印
乙:□□株式会社 代表取締役□□ 印

総数引受契約書を作成する際の注意点

第三者割当増資において総数引受契約をする場合、いくつかのポイントに注意を払う必要があります。以下の注意点に気をつけながら、総数引受契約書を作成してください。

【総数引受契約書を作成する際の注意点】

  1. 必須事項を忘れない
  2. 株主総会・取締役会の承認が必要
  3. タイミングの調整に注意する
  4. 支払い方法に関して決めておく
  5. 既存株主への対応に注意する
  6. 海外企業や個人に対する契約は準備する
  7. 払込後は変更登記を速やかに行う

1.必須事項を忘れない

総数引受契約書は最低限の項目を記載しなければ契約書としての効力をもたせることができません。以下の項目は記載するようにしてください。

【総数引受契約の記載内容】

  • 双方の募集株式の引受に関する合意
  • 募集株式の種類及び数
  • 募集株式の割当方法
  • 募集株式の払込金額
  • 金銭の払込期日
  • 増加する資本金及び資本準備金
  • 払込取扱場所
  • 双方の署名及び押印

2.株主総会・取締役会の承認が必要

第三者割当増資をする場合、株式総会(取締役会非設置会社)もしくは取締役会(取締役会設置会社)の承認が必要です。

また、登記変更の際に議事録の提出が義務付けられています。増資について会社の承認を得たものであることを証明するために必要とされていますので、準備しておきましょう。

なお、会社の承認を別の者に移していることを定款に定めている場合、株主総会や取締役会を開く必要はありません。「代表取締役の承認を持って会社の承認とする」としていれば、手続きの大幅な簡略化が可能です。

【関連】株主総会と取締役会の違い

3.タイミングの調整に注意する

募集株式を複数人に割り当てる場合、同時に契約するようにすれば掛ける手間を大幅に軽減することができます。

例えば、募集株式の総数500株を3社に割り当てるのであれば「〇〇会社に300株」「□□会社に100株」「△△会社に100株」と記載することで1つの契約におさめることができます。

4.支払い方法に関して決めておく

募集株式の対価を支払い方法と払い込み期日について記載しておきます。

募集株式の対価の支払いは、金銭の払い込みもしくは金銭以外の現物とすることができます。金銭の払い込みとする場合は払い込み先の口座についても指定しておく必要があります。

資金調達を目的に実施されることが多いため、金銭の払い込みが指定されることが一般的です。なお、記載方法については「1株につき金●円」とすることで効力を発します。

5.既存株主への対応に注意する

募集株式の割当者の保有率が2分の1(経営権の移転)を超える場合、払い込み期日または払い込み期限の2週間前までに既存株主に対して通知しなければなりません。

上記の通知日から2週間以内に10分の1以上の議決権を有する株主より募集株式の割当に関して反対される旨が通知された場合、株主総会を開催して総数引受契約について承認を得る必要が生じます。

払い込み期日または払い込み期限までの時間的な猶予がないことが想定されるため、事前に株主から承認を得ておくか、余裕を持ったスケジュールを設けておく必要があります。

6.海外企業や個人に対する契約は準備する

割当先である企業もしくは個人が海外在住である場合、法律の違いに注意する必要があります。

日本と相手国では株式の譲渡に関して法律が全く異なる可能性があります。

また、用いる言語も異なることから、総数引受契約書も大幅に手を加えなくてはなりません。法律家やクロスボーダー(海外M&A)に強い専門家に相談することをおすすめします。

7.払込後は変更登記を速やかに行う

増資の効力が発生してから2週間以内に変更登記を行う必要があります。

資本金は登記事項証明書から確認できる会社の信用度のようなものですので、資本金が変動したら変更申請書を届けなくてはなりません。登記関連はオンラインでも可能ですので、申請忘れがないようにしましょう。

なお、2週間の期限を過ぎると「登記懈怠」とされ、代表者に100万円以下の罰金の支払いが命じられる可能性があります。前科はつきませんが、法人ではなく代表者個人に課されるのがポイントです。

【変更登記申請書の記載内容】

  • 発行済株式の種類及び総数
  • 資本金の額
  • 変更年月日

総数引受契約を交わす意味・メリット

総数引受契約の作成方法や注意点を見て複雑な印象を受けた方もいるかもしれません。ですが総数引受契約には、これらの手順を踏んでも十分にあまりある意味やメリットがあります。

総数引受契約を交わす意味

総数引受契約を交わす意味は、通常の第三者割当増資の手続きと比較して大幅な簡略化ができることにあります。

第三者割当増資を検討している企業は資金調達を急務とする傾向にあります。手続きを簡略化できる総数引受契約は十分に交わす意味があると言えるでしょう。

総数引受契約を交わすメリット

非公開会社が募集株式を発行する場合、以下の手続きを行う必要があります。

【第三者割当増資の手続き】

  1. 募集内容の決定
  2. 募集株式の申し込み
  3. 株式割当の決議
  4. 払込日までに出資の履行
  5. 登記変更・登記申請
上記の1~5番の手続きはスムーズに進んでも1~2週間は要します。ですが、総数引受契約であれば2番3番の省略が可能なので2~3日で実施することも可能です。

第三者割当増資に必要な書類

第三者割当増資が法定に沿って行われたことを証明するための書類が必要となります。ここでは、必要となる書類の種類と解説をします。

【第三者割当増資に必要な書類】

  1. 変更登記申請書
  2. 株主総会・取締役会議事録
  3. 募集株式の割当の申込みを証する書面
  4. 払込みを証する書面
  5. 資本金の額を計上したことを証する書面
  6. 株主全員の期間短縮の同意書

1.変更登記申請書

増資によって資本金が変動すると変更登記申請書を管轄の法務局に提出する義務が生じます。

期限は効力発生から2週間以内とされており、それを過ぎると罰金を課せられる可能性もあります。遅らせても良いことはありませんので遅滞なく申請しておきましょう。

2.株主総会・取締役会議事録

第三者割当増資について会社の承認が得られたことを証明するために株主総会もしくは取締役会の議事録が必要となります。

定款に会社の承認を別の者としている場合は定款の添付も必要です。

【株主総会議事録の記載事項】

  • 開催日時及び場所
  • 議事経過の要領及びその結果
  • おいて述べられた意見、発言内容
  • 出席した役員、監査役の氏名
  • 議長の氏名(存在する時)
  • 議事録作成者の氏名

【取締役会議事録の記載事項】
  • 開催日時及び場所
  • 特別取締役による取締役会である場合、その旨
  • 取締役以外の者の請求等により招集されたものである場合、その旨
  • 議事経過の要領及びその結果
  • 述べられた監査役の意見、発言内容
  • 出席した役員、監査役の氏名
  • 議長の氏名(存在する時)
  • 議事録作成者の氏名

【関連】株主総会における決議事項の種類と決議方法

3.募集株式の割当の申込みを証する書面

募集株式の申し込みにて応募者より提出された申込み書の写しで十分です。特別に作成したり手を加える必要はありません。

通常の第三者割当増資ではなく、総数引受契約で進められている場合は代わりに総数引受契約書を添付します。

4.払込みを証する書面

代表者が作成した払い込みを受けたことを証する書面と募集株式の対価の払い込みがされたことが分かる預金通帳の写しです。資本金に見られる変動と一致しているか確認するために提出します。

5.資本金の額を計上したことを証する書面

代表者が作成した資本金の額が会社法・会社計算規則に従って計上されたことを証する書面です。第三者割当増資によって増えた概算額を示すことで十分に証明することになります。

6.株主全員の期間短縮の同意書

第三者割当増資を実施する際、効力発生日の2週間前までに募集事項の通知・広告を行って差止請求期間を設ける必要があります。

これは既存株主を保護する目的で設けられている制度なので、全ての株主から第三者割当増資に対して同意が得られているのであれば、この期間を短縮することもできます。

第三者割当増資が上記の流れで期間短縮されたものであるのならば、株主全員が期間短縮に同意したことを証する書面が必要となります。

第三者割当増資による総数引受契約書の作成は専門家に相談がおすすめ

本記事で紹介した総数引受契約書の雛形は、あくまで汎用的なもので実際に作成する際は必要に応じて項目を書き足す必要があります。

法的な内容も含む契約書ですから、内容に不備があるとその効力を発しなくなってしまいます。遅滞が出ると円滑な資金調達を阻害してしまうことにもなりますので、作成の際は専門家に相談することをおすすめします。

特に譲渡制限株式の場合は決議しなければならない内容も増えますので、十分な準備をもって臨まなければなりません。

まとめ

総数引受契約書は第三者割当増資の手続きを簡略化させる際に必要となる契約書でした。

ですが、ある程度の知識が必要なことから、自力で契約書の作成や手続きを進めようとすると逆に時間がかかってしまう問題もありました。

自力でも問題ない部分は自力で済ませて、必要に応じて専門家に相談することも検討してみると良いでしょう。

本記事の総数引受契約書のポイントは以下のようになります。

【第三者割当増資に必要な総数引受契約書の作成方法】

  1. 募集内容の決定
  2. 募集株式の申し込み
  3. 株式割当の決議
  4. 払込日までに出資の履行
  5. 登記変更・登記申請
【総数引受契約書の記載内容】
  1. 双方の募集株式の引受に関する合意
  2. 募集株式の種類及び数
  3. 募集株式の割当方法
  4. 募集株式の払込金額
  5. 金銭の払込期日
  6. 増加する資本金及び資本準備金
  7. 払込取扱場所
  8. 双方の署名及び押印
【総数引受契約書を作成する際の注意点】
  1. 必須事項を忘れない
  2. 株主総会・取締役会の承認が必要
  3. タイミングの調整に注意する
  4. 支払い方法に関して決めておく
  5. 既存株主への対応に注意する
  6. 海外企業や個人に対する契約は準備する
  7. 払込後は変更登記を速やかに行う
【第三者割当増資に必要な書類】
  1. 変更登記申請書
  2. 株主総会・取締役会議事録
  3. 募集株式の割当の申込みを証する書面
  4. 払込みを証する書面
  5. 資本金の額を計上したことを証する書面
  6. 株主全員の期間短縮の同意書

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