着物業界の動向とM&Aのメリット！売却・買収事例や流れと注意点も解説！

現在、着物業界は大幅な市場の縮小に見舞われており、厳しい状況が続いています。そのような状況で、着物業界ではM&Aによる業界再編が待ったなしです。この記事では、着物業界の現在の動向と、M&Aについて解説します。

まずは、現在の着物業界の概要と動向です。

着物業界とは、着物や和装小物の製造販売を行っている産業のことです。着物や和装で使用する小物、着物を作るための服地を扱う産業全般が着物業界に入ります。

着物を売る店舗のことを呉服店といい、着物のことを呉服と呼ぶこともあります。呉服の呉とは三国志にも出てくる古代中国にあった国の名前で、日本の着物に使われている反物の織り方は呉から日本へ伝わりました。

呉から伝わった機織り製法で作る服であることから、着物を作る布地のことを呉服と呼ぶようになり、その後、中国伝来の絹織物が呉服と呼ばれるようになりました。

呉服店では布地の呉服を扱っていましたが、呉服を着物に仕立てることも多かったことから、着物を売る店を呉服店と呼ぶようになったようです。

着物業界の市場規模は、矢野経済研究所の分析によると、コロナ禍の2020年には1,925億円まで減少しましたが、2022年には2,210億円まで回復しています。

コロナ禍で成人式や卒業式などが取りやめや縮小になることが多く、着物市場は大きく落ち込みましたが、経済の回復とともに、回復傾向にあるようです。

参考：矢野経済研究所「呉服市場に関する調査を実施（2022年）」

しかし、もう少し長いスパンで市場動向をみてみると、消費者の着物に対する消費金額は年々減少が続いていることがわかります。

業界動向サーチの分析によると、1世帯あたりの着物の年間消費金額は、2002年には購入が7,952円、レンタルが999円でした。それが、2018年には購入が2,094円、レンタルが1,549円で合計金額は3,643円と、大幅に年間消費金額が落ち込んでいることがわかります。

レンタル需要は伸びていますが、着物市場の縮小傾向は今後も続きそうです。

参考：業界動向サーチ「着物業界の動向や現状、ランキングなど」

ここ約20年間で大幅な需要の落ち込みがみられる着物業界には、次のような課題があります。
 

• 若年層の購買意欲の低下
• 価格競争の激化
• 表示価格や商品表示の不透明さに対する消費者の不信感

着物会社をM&Aするメリットとはどのようなものがあるのでしょうか。売却側と買収側のそれぞれのメリットについて解説します。

M&Aで会社を売却するメリットは次のとおりです。

• 後継者問題の解決
• 従業員の雇用維持
• 売却益の獲得
• 廃業コストなしでの着物業界からの撤退
• 経営者の個人保証からの解放
• 不採算事業の売却による事業の選択と集中が可能に
• 大手の傘下に入ることによる経営の安定化

M&Aで着物会社を買収する側のメリットは次のとおりです。

• 同業他社の買収による事業規模の拡大
• 着物のブランド力や開発ノウハウなどの希少な経営資源の確保による収益力の向上
• 事業規模の拡大によるスケールメリットの確保
• 着物事業への素早い参入

着物業界で実施されたM&Aの事例を紹介します。

2022年12月29日に、株式会社和心から、同社の着物レンタル部門であるコト事業を、株式会社インバウンドコンソーシアムに事業譲渡することを決議したことが発表されました。

和心は、「日本のカルチャーを世界へ」という経営理念のもと、レンタル中心のコト事業と、オリジナルブランド製品の販売などを行うモノ事業と、その他事業の3つの事業を柱とする会社でした。

しかし、コロナ禍に入り、海外からの観光客の大幅な減少を受けて収益が悪化したために、モノ事業へ経営資源を集中させるために、事業譲渡を決断したとのことです。

譲渡先のインバウンドコンソーシアム(2023年に社名を羅針盤に変更)は、東京都内で旅行業を営む会社で、日本の人や地域の魅力を多くの観光客に発信する事業などを行っています。

参考：着物レンタル部門の事業譲渡に関するお知らせ

2020年5月18日に、株式会社テイツーから、株式会社山徳及び株式会社着物インターナショナル(以下まとめて、三徳)の全株式を取得して、連結子会社化するM&Aを決議したことが発表されました。

テイツーは岡山県に本社のある、書籍やゲームなどの中古品の販売などを行うリユース事業を展開する会社です。現在は、全国各地に130店舗以上を展開しています。

三徳は石川県に本社のあるリユース事業を行う会社です。三徳では、ゲームや書籍のほか、テイツーが取り扱っていないトレーディングカードやアイドルグッズ、着物の買取販売も行っており、さらにeBayを通じて海外100ヶ国以上への販売ルートも確立しています。

このM&Aにより、テイツーでは今まで取り扱いがなかったトレーディングカードや着物などを扱えるようになるとともに、海外市場への展開も可能になるとのことです。

参考：株式会社山徳等の株式取得(子会社化)に関するお知らせ

2019年11月29日に、株式会社ヤマノホールディングスから、株式会社かのこから一部の事業を譲受するM&Aを実施したことが発表されました。

ヤマノホールディングスは、全国に100店舗を展開している和装用品小売事業を展開している会社です。店頭販売や展示会販売、着付け教室、着物のお手入れサービスなどを行っています。

かのこは北海道と関東を中心に店舗展開してきた着物や和装小物の小売会社でしたが、出店テナントがスーパーからディスカウントストアに業態転換したことで、業績が悪化していました。

かのこの一部の店舗をヤマノホールディングスが引き受けて、店舗管理ノウハウなどを導入することで、収益改善を図り、ヤマノホールディングスへの新規顧客の獲得と販路拡大を目指すとしています。

参考：事業の一部の譲受に関するお知らせ

着物会社でM&Aを行うときの流れについてみておきましょう。

後継者問題や売上の悪化などで、着物会社の将来に不安を感じるようであれば、まずはM&Aの専門家に相談してみましょう。

M&Aの専門家であれば、M&Aを行うべきかどうかというところから親身になって一緒に考えてくれます。

M&Aを実施する上では、一般的な会社や店舗の経営者だけの行動で進めるのはどうしても難しい点があります。適切な相手を探して、法律や財務についての高度な知識が必要な手続きを行うためには、専門家の手助けが必要になるためです。

まずは、M&Aの専門家に相談して、適切なアドバイスとサポートを受けた方がいいでしょう。

着物業界で事業譲渡を適切に行うには、各業界に精通した専門家によるサポートを受けるのがおすすめです。

M&A総合研究所では、M&Aの支援経験豊富なM&Aアドバイザーが専任につき、事業譲渡を丁寧にフルサポートいたします。

また、料金体系は成約するまで完全無料の「完全成功報酬制」です。（※譲渡企業様のみ）

無料相談も随時受け付けておりますので、こちらの業界で事業譲渡をご検討の際はM&A総合研究所までお気軽にご相談ください。

M&Aの専門家に仲介の依頼をしたら、次に行うのが売却先の選定です。

売却先の探し方は、社名などを伏せたノンネームシートを公開して買収を希望する会社を募ったり、M&Aの専門家が着物会社の買収を希望している顧客に声を掛けたりします。

売却先候補が見つかったら、専門家が相性などを考えて経営者に提案して、最終的に経営者本人が交渉相手を決定します。

M&Aの相手を決めたら、経営者同士が面談するトップ面談を行います。

トップ面談の目的は、企業文化や経営理念などの会計資料などからは見えない部分を話し合い、お互いの相性などを探り、お互いがM&Aの相手としてふさわしいかを判断することです。

トップ面談の結果、M&Aを進めることに両者が合意したら、最初の条件交渉に入ります。最初の条件交渉では、M&Aのスキームや、譲渡金額とクロージングの時期の目安など、M&Aのおおよその方向性について決めていきます。

M&Aを進める上では、売却側の会社が買収に値するかどうかを判断するために、買収側に売却側の会計資料やノウハウなどの機密資料を開示する必要があります。

買収側に開示する機密資料が、M&A以外の用途で使われて流出しないようにするために、必ず秘密保持契約を締結するようにしましょう。秘密保持契約では、開示する資料の種類、利用目的、返却期限などを明記し、万が一情報が流出した場合の罰則も記載します。

最初の交渉がまとまったら基本合意書に決定事項をまとめて締結します。基本合意書は、今後のM&Aの方向性について両社の共通認識を確認するために作成するものです。

今後の手続きや交渉で内容が変更する可能性が高いので、基本的に独占交渉権と秘密保持義務以外の項目には法的拘束力はかけません。

基本合意書の必要性について疑問を持つ人もいるようですが、今後の手続きにも長い時間がかかるM&Aの過程において、両社が同じ方向を向いていることを確認するためのものなので、M&Aでは締結することが一般的です。

基本合意書締結後に、買収側が売却側の会社を調査するデューデリジェンスを行います。

デューデリジェンスを実施するのは、買収側の会社から派遣される、M&Aについての知見の高い弁護士や税理士などが作る専門家チームで、売却側の会社の法務、財務、人事などについて徹底的に調べます。

デューデリジェンスの目的は、買収側が適正価格を算出するために企業価値評価を行うことと、M&Aを進めても大丈夫かリスクを洗い出すことです。

基本合意書締結時までに開示されていない問題がここで発覚したら、M&Aの破談や大幅な減額交渉になる可能性もあります。

デューデリジェンスの結果、買収側がM&Aを進めても問題ないと判断したら、最終交渉に進みます。最終交渉に記載されるのは、基本合意書での合意事項とデューデリジェンスの結果に基づいて、譲渡金額などの最終的な決定事項です。

また、最終契約書には基本合意書で決定した項目以外にも、売却側の経営者の個人保証の外し方や、会社が持つ美術品の扱いなどについての細かい事項も全て記載されます。

また、それまでに買収側に開示した情報が全て真実であることを、売却側の経営者が保証する表明保証も盛り込まれます。

最終契約書では全ての項目に法的拘束力が掛けられて、その後の変更には違約金などの罰則が発生するので、サインする前に不利な点や納得できない点がないか、よく確認したほうがいいでしょう。

最終契約書の締結から1ヶ月から1年ほどの期間を置いてクロージング、経営権の引き渡しとなります。

クロージングをすぐに行わないのは、M&Aの実施を公表してから、従業員や取引先の理解を求めるのに時間がかかるためです。従業員や取引先の中には、M&Aに反発して離職や取引停止を申し出てくる人もいるかもしれません。

しかし、買収側のM&Aの目的が、人材確保や顧客や調達先の拡大であることも多いので、M&Aの必要性をしっかりと説明して、理解を求める努力を行い、離職や取引停止が起きないように対策しましょう。

クロージング日になったら、株式など売却側から譲渡するものを買収側へ名義変更する手続きを行い、譲渡代金を決済して、M&Aが完了します。

着物会社のM&Aを成功させるためには、どのような点に注意したらいいのでしょうか。2つの注意点について解説します。

複数の店舗やブランドを持つ着物会社を売却する場合には、M&Aの具体的な手続きに入る前に、店舗ごと、ブランドごとの損益管理をしっかりと確認しておきましょう。

複数の店舗やブランドを持つ会社では、個別の損益管理がおろそかになっている場合も多いようです。特に、収益悪化が売却の理由であれば、買収側は買収後の店舗やブランドの整理も検討しなくてはいけません。そのためには、個別の損益を正確に把握することが重要です。

基本合意書を作成する前の最初の交渉で、個別の状況を買収側に提示できなければ、デューデリジェンスの結果で大幅な減額となってしまう可能性もあります。

基本合意書で適正価格を提示できるようにするためにも、損益管理はしっかりと個別に出せるように準備しておきましょう。

M&Aが成功するかどうかは、情報漏洩が起きないかどうかにかかっているといっても過言ではありません。M&Aで情報漏洩を心配する局面は2つあります。

一つは、買収側に渡す売却側の機密資料が漏れることです。この情報漏洩は秘密保持契約で防止します。

もう一つは、最終契約書締結前に会社売却の噂が広がってしまうことです。売却側の会社の経営者が、M&Aの専門家や売却先の関係者と電話で話している会話の断片などから憶測が生まれ、噂になって広がり、従業員の退職や取引先からの取引停止を招くことがあります。

そのような事態にならないためには、M&Aについて話をするときには、周囲の状況に気をつけることと、M&Aについての情報共有は最小限、必要最低限の人数に留めておくことが大切です。

着物を着る機会が少なくなったり、購入する人が減少して、レンタルする人が増えるなど、着物業界にとっては厳しい状況が続いています。しかし、日本の伝統文化である着物は、成人式や結婚式などの人生の節目で必ず必要になるものです。

着物文化が日本から消えることは考えられないので、厳しい状況もM&Aでの業界再編で乗り越えていくことが重要でしょう。着物会社の今後について不安なら、まずはM&Aの専門家への相談で、会社売却の可能性を探ることから始めるのがおすすめです。