2023年10月31日更新業種別M&A

医療法人の事業承継を進める方法!株式会社との違い・手順・流れを徹底解説

医療法人の事業承継の際は、時代背景と共に患者のニーズを理解して経営指針を考える必要があります。それを見越した上で、事業承継などの経営戦略を遂行することが大切です。今回は、節税対策や成功させるポイントなど事業承継を実施する上で重要な要素を解説します。

目次
  1. 医療法人とは?
  2. 医療法人と株式会社の違い
  3. 医療法人の親族内事業承継
  4. 医療法人の第三者承継
  5. 医療法人の事業承継の注意点
  6. 医療法人特有の税金対策
  7. 医療法人の事業承継で欠かせない「遺言状」
  8. 医療法人に対する出資持分の移転
  9. 医療法人の事業承継を進める方法まとめ
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病院 医療法人のM&A・事業承継

医療法人とは?

近年、M&Aを実施する会社は急増しており、日本のM&A案件の数は年々増加しています。M&Aはもはや業界・業種を問わず行われている経営手法です。病院やクリニックのような医療機関でもM&Aは実施されています。ただし、病院やクリニックのM&Aは通常の会社とやり方が異なります。 

医療法人の定義

病院と医療法人の定義を解説します。まず、病院の定義は「患者の病気やケガを治療し、収容する施設」です。一方、医療法人は「病院や診療所、介護施設などを開設・所有するための法人」のことです。

つまり、病院は医療法人の中の一つのカテゴリーで、治療・入院などを実施する施設自体をさすのです。一方、医療法人は病院のみならず診療や介護施設を開設・所有する経営母体をさします。したがって、医療法人には病院の他にもさまざまな機関が該当します。

医療法人の種類

医療法人は「財団法人」と「社団法人」に分けられます。「財団法人」と「社団法人」は、集団組織を形成する点では同じですが、詳細な目的が異なります。

「財団法人」は、自分の財産を他人や他の組織に任せたい時に結成する組織です。一方、「社団法人」は集団のニーズを追求するために結成する組織です。法人を立ち上げたいと考えている場合は、専門家に「財団法人にするべきか」「社団法人にするべきか」を相談するのがよいでしょう。

医療業界の現状

ここでは、医療業界が抱える問題点を解説します。

  • 少子高齢化の影響
  • 人手不足
  • 医療施設数の推移

少子高齢化の影響

病院・クリニック業界の現状を語るうえで欠かせないものが「少子高齢化」の影響です。増加する高齢者は、当然病気やケガなどのリスクが高いため、病院・クリニックのニーズが非常に高まっています。

しかし実際には、病院・クリニックを増やすだけでは解決できません。運営するうえで従来通りのやり方が通じるわけではないからです。例えば、高齢者が多い地域であれば、高齢者の増加と同時に懸念されている認知症の増加へも対応する必要があります。

認知症を完全に治癒できる方法がない今は、認知症患者の長期的なケア、つまり介護のニーズも増加していきます。しかし、病院・クリニック単体だけで介護サービスを提供することは困難です。

そのため、介護事業所と連携を取ったり、法人化したりすることで、医療・介護など複合的なサービスを網羅した地域包括的なサービスを実施するケースが増えているのです。

人手不足

病院・クリニック業界における非常に厄介な問題が「人手不足」です。少子化も相まって、日本では医師が慢性的に不足しており、医療を必要としている高齢者の増加に反比例しています。

加えて、医師の過酷な職場環境が明らかになり、医師になることを嫌厭する若者も増えています。特に、産婦人科や緊急科の医師不足は深刻で、病院・クリニックの存続自体が難しくなっているケースもあるのです。

地方の医師不足も問題になっています。少子化の影響もあり、地方の人口自体が減っており、その地域にある病院やクリニックが廃業するケースが増加しているのです。中には、医療機関がなくなってしまった地域もあります。

さらに、医師以外にも看護師の不足も問題化しています。現在、日本の医療制度では、常勤の看護師1人が患者7人を受け持つ体制(7対1看護配置)を作ることで診療報酬を高く設定できるようになっています。その結果、7対1の比率が崩れないよう看護師の採用が激化しているのです。

しかし、新たな看護師の採用には、コストや時間がかかります。そのため、日々の診察をこなすだけで精一杯だという病院・クリニックでは採用自体が難しく、競争に敗れた場合は、人手の確保だけでなく収益面でも失敗してしまう可能性があるのです。

これらの問題を解決する一つの手段として、医療法人となって経営母体を安定させる方法を取るケースも増加しています。人手不足は今後も深刻化することが懸念されています。既存の病院・クリニックが存続するうえでも解決しなければならない課題だといえるでしょう。

医療施設数の推移

厚生労働省の令和2(2020)年医療施設(静態・動態)調査(確定数)・病院報告の概況によると、医療施設数の推移は以下のとおりです。全国の医療施設は 178,724 施設で、前年に比べ 692 施設減少しています。

そのうち、病院は8,238施設で、前年よりも692施設(-0.4%)減少しています。先述した高齢化や人手不足が影響して、さらに医療施設数は減少が続くとみられ、事業承継が必要な医療施設の増加が予想されるでしょう。

医療施設数の推移

厚生労働省「令和2(2020)年医療施設(静態・動態)調査(確定数)・病院報告の概況」施設の種類別にみた施設数

出典:https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/iryosd/20/dl/02sisetu02.pdf

医療施設数の推移

厚生労働省「令和2(2020)年医療施設(静態・動態)調査(確定数)・病院報告の概況」医療施設数の年次推移

出典:https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/iryosd/20/dl/02sisetu02.pdf

医療行為の法人化の背景

基本的に病院は個人でも運営が可能です。しかし、個人の力だけでは資金面で限界を迎えたり、複数の施設を抱えることが難しくなったりする可能性があります。

医療法人として法人化することで、経営をより安定化させられるようになるのです。医療法人を立ち上げるのは、法人成りを目指す行為です。法人であることで、節税できるうえ、社会的な信用も獲得できます。

医療法人を立ち上げる際には、いくつかポイントがあります。配当の分配が禁止されているため注意が必要です。株主が保有している議決権に対しても、1人1議決権までと数が決まっています。つまり、一般的なM&A手法が活用できないのです。

医療法人では、金銭的な売買の利益よりも精神面や平等を重視しています。医療法人の事業承継や相続に対しては、税金が発生することにも注意しましょう。医療法人の事業承継は、一般的な事業承継とは若干ですが異なります。

医療法人と株式会社の違い

医療法人と株式会社の最も大きな違いは、営利目的であるかどうかです。株式会社などの一般的な企業は営利目的で設立されるものですが、医療法人を営利目的で設立することはできません。

また、医療法人は非営利法人であるため剰余金の配当が禁止されており、医療法人が解散した場合の残余財産は法人設立時期によって変わるため注意が必要です。

2007年の法改正(第五次医療法改正)以降に医療法人の場合、残余財産は「国あるいは地方公共団体および医療法人その他の医療提供者かつ厚生労働省令で定める者」から選出された者に帰属します。

一方で法改正以前に設立された出資持分のある医療法人の場合、残余財産の扱いは改正前と同じくする経過措置が定められています。

医療法人は社員総会・理事・理事会および監事をおくことが定められており、社員総会では、理事・監事の選任と解任、役員報酬の決定などを行います

医療法人は、原則、社員総会により選任される理事を3名以上置かなければなりません。理事のうち一人を理事長とし、理事長は医療法人の代表者となります。また、監事も1名以上置くことになっています。
 

  社団医療法人(出資持分有) 株式会社
最高意思決定機関 社員総会 株主総会
法人代表者 理事長 代表取締役
役員の名称 理事 取締役
出資者 出資した社員 株主
議決権 社員1人に1票 持株数による
配当の可否
営利/非営利 非営利 営利
準拠法 医療法 会社法
設立 都道府県知事の認可後、設立登記 設立登記

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医療法人の親族内事業承継

医療法人の親族内事業承継では、出資持分の移転・出資持分の払戻し・譲渡のいずれかによって、理事長の出資持分を後継者へ譲り渡すことができます。

出資持分の移転

医療法人には「出資持分」というものがあり、これは法人設立時に出資者が出資した資金分(財産権)のことです。出資持分のある医療法人の場合、出資者は自身の出資持分(一部あるいは全部)を第三者へ移転することができます。

出資持分の移転の概要

医療法人の事業承継において出資持分を移転する場合、理事長が自身の出資持分を後継者へ譲り渡します。

相続・贈与・有償譲渡いずれかの方法で譲り渡すことができ、事業承継では出資持分の全部を後継者へ移転させるのが一般的です。

出資持分の移転のメリット・デメリット

出資持分の移転は当事者間で持分譲渡契約書の締結し、社員の入れ替えを行えば完了します。手続きが非常に簡便なのがメリットの一つです。

また、出資持分を移転しただけでは法人格は変わらないため、取引先や雇用については特別な取り決めが各々の契約にある場合を除き、相手からの同意は必要ありません。

その一方、デメリットとしては後継者の税金負担が大きくなりやすい点です。出資持分を移転した場合、設立時の出資額に経過年度の利益剰余金が加算された額が評価額となるため、保有していた期間が長いケースほど評価額は高くなる傾向にあります。

また、出資持分の移転は有償譲渡によって行うこともできますが、その場合は譲渡代金と持分取得費の差額に対して所得税と住民税がかかります。評価額よりも著しく安価で譲渡した場合は贈与とみなされ、譲渡代金と時価との差額分は贈与税が課されるため注意が必要です。

出資持分の移転の注意点

医療法人は株式会社と異なり、株式に相当する出資持分を移転しただけでは、経営権は移行しません。というのは、医療法人では出資持分と経営権が切り離されており、出資持分は出資者が払い戻し請求や残余財産分配請求を行える権利だからです。

医療法人の議決権は出資額にかかわらず社員全員が一つずつ持っているため、経営権を移行させるためには社員の賛成を得る必要があります。

出資持分の払戻し

理事長が出資持分を払い戻してから、その額を後継者へ引き継ぐことも可能です。

出資持分の払戻しの概要

まず、理事長が出資持分の払戻しを行ってそれを後継者へ引継ぎ、その後、後継者は医療法人への出資と入社を行う方法です。

出資持分の払い戻しを活用する場合も、理事長は贈与や有償譲渡などで後継者へ譲り渡すことができます。出資持分を払い出しても経営権は移動しないため、出資持分の移転と同様、経営権を取得するには社員の賛成が必要です。

出資持分の払戻しのメリット・デメリット

出資持分の払い戻しは、出資持分の移転と同様に手続きが非常に簡単な点が大きなメリットです。また出資持分を払い戻しただけでは法人格が変わらないため、雇用・許認可・取引先からの同意を得ずに行うことができます。

また、前理事長が出資持分を払戻す(出資分の現金を得る)ので、後継者以外に相続人がいる場合でもトラブルが起こりにくい点もメリットです。

出資持分の払い戻しでは贈与税や相続税はかかりませんが、理事長が払い戻しを行って利益がでた場合は利益分が配当所得の課税対象(総合課税)となります。最高45%という高い税率であるため、税負担が大きい点がデメリットのひとつです。

出資持分の払戻しの注意点

出資持分の払戻しによって理事長が利益を得た場合にかかる税金は最高で45%となるため、税額は高額になる可能性が非常に高いため注意が必要です。

また、後継者にとっては出資金を用意しなければなりませんが、手元資金がない場合は融資が必要となるため、事業承継前に理事長と後継者の間で話し合っておく必要があるでしょう。

認定医療法人の活用

持分あり医療法人は手続きを踏むことで持分なし医療法人へ移行することができます。その際に厚生労働大臣の認定を受けて移行した医療法人を「認定医療法人」と呼び、事業承継を行うときにこの制度を活用することも可能です。

認定医療法人の活用の概要



認定医療法人制度は2023年9月まで活用できる制度であり、持分なし医療法人へ移行する際に厚生労働省の認可を受けていれば贈与税が猶予されます。さらに、持分なし医療法人へ移行後6年が経過した場合、猶予された分の税金が免除される制度です。

移行期間中に相続が発生した場合は、相続人が担保を提供すれば出資持分に対する相続税は移行期限まで猶予され、さらに相続人が出資持分を期限までに相続放棄すれば猶予された相続税が免除されます。

持分なし医療法人への移行自体は認定医療法人制度を活用せずとも行なえるものですが、移行するためには定款変更と出資持分の放棄が必要です。

その際に弊害となるのが贈与税であり、出資持分の放棄があった場合は医療法人または他の出資者が放棄分の贈与を受けたものとみなされ、贈与税が課されます。認定医療法人制度は、持分なし医療法人への移行時に生じるデメリットを軽減し、移行促進を目的として設けられました。

認定医療法人の活用のメリット・デメリット

後継者は出資持分の取得資金が不要であり、出資持分の処分を行っても税金(贈与税)面でリスクがないことが、認定医療法人制度を活用する主なメリットです。

また、この制度を活用して持分なし医療法人へ移行しても、雇用や許認可は包括承継されるため、病院経営に支障がでないというメリットもあります。

その一方で、認定医療法人へ移行する場合は出資持分の放棄が条件であるため、出資持分の払い戻しを考えている場合はデメリットとなるでしょう。

認定医療法人の活用の注意点

認定医療法人へ移行するためには、厚生労働大臣が定めた条件を満たしていなければなりません。また、出資持分を放棄しても経営権はなくならないため、後継者へ経営権を移転させる手続きが必要です。

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医療法人の第三者承継

病院 医療法人のM&A・事業承継
病院 医療法人のM&A・事業承継

医療法人は親族だけでなく、第三者へ事業を引き継ぐこともできます。持分譲渡や出資持分の払い戻しはその際に活用できる方法です。

持分譲渡

出資持分を第三者へ移転する場合の流れは、親族への承継と基本的には同じです。ですが、引き継ぎ先が第三者となる場合は一般的に贈与ではなく有償譲渡が用いられます。

持分譲渡の概要

事業承継目的で第三者へ出資持分を譲渡する場合、理事長が自身の出資持分すべてを有償譲渡するケースが一般的です。

出資持分の譲渡手続き自体は持分譲渡契約書を締結して社員を入れ替えれば済みますが、経営権を移行するためには譲受側が社員から賛同を得なければなりません。

持分譲渡のメリットデメリット

持分譲渡の場合、必要手続きが簡単であり比較的短い期間で事業承継を行うことが可能です。また、許認可や従業員の雇用も自動的に引き継ぐことができるので、譲受側にとってメリットも多い方法です。

その一方で、包括承継であるが故、譲受側は簿外債務や偶発責務も引き継ぐリスクがあり、事前にデューデリジェンスを徹底しなければ引き継ぎ後の事業運営に支障がでる恐れもあります。

持分譲渡の注意点

第三者への事業譲渡で事業承継で持分譲渡を活用する場合、経営権の移行手続きは別に進めなければなりません

持分譲渡はあくまでも財産権が移るだけなので、経営権は社員の賛同を得て取得しなければならない点に注意が必要です。

持分の払戻し

第三者への事業承継で出資持分の払い戻しを活用する場合の流れは、基本的には親族間への承継と同じです。

持分の払戻しの概要

第三者への事業承継で出資持分の払い戻しを活用する場合、はじめに理事長が自身の持分の払い戻しを請求します。

その後、第三者は医療法人への出資を行って入社するかたちとなりますが、経営権を取得するには社員の賛同を得る手続きが必要です。

持分の払戻しのメリット・デメリット

出資持分の払い戻しを活用する場合は簡単な手続きで済み、雇用・許認可・取引先も自動的に承継できる点が大きなメリットです。

その一方で、負債や簿外債務・偶発責務も包括的に承継することとなるため、譲受側はリスクも伴うデメリットもあります。また、譲受側は出資して入社するかたちとなるため、出資金を用意しなければならない点もデメリットといえるでしょう。

持分の払戻しの注意点

持分の払い戻しだけでは経営権は移転されないため、譲受側は出資と入社を行った後、社員からの賛同を得て経営権の取得が必要です。

また簿外債務や偶発責務を承継するリスクがあるため、デューデリジェンスを徹底し、リスクの有無と程度をしっかり把握して実施を判断する必要があります。
 

合併

株式会社と同様、医療法人も合併手法を用いることができます。新設合併と吸収合併の2つ方法があり、事業承継の方法として用いることも可能です。

合併の概要

合併は、2つ以上の企業あるいは法人が1つの法人格に統合される手法です。合併を行う当事者は、存続企業(法人)と消滅企業(法人)のいずれかとなり、消滅側の権利・義務は存続側へ包括承継されます。

新設合併と吸収合併があり、吸収合併では、既存企業(法人)が存続側となり、消滅側の有する権利・義務をすべて引き継ぎます新設合併は存続する企業(法人)を新たに設立し、他の企業(法人)は保有するすべての権利・義務を新設会社へ引き継ぐ方法です。

2つの方法は、存続するのが既存企業(法人)か新設企業(法人)かという点で異なります。しかし、権利・義務を包括承継される点や、合併後に存続企業以外は法人格が消滅する点では同じです。

なお、医療法人の合併は、医療法人同士(異なる種類の医療法人でも可)でしか実施することはできません。また、存続側が社団医療法人の場合は、合併後は持分なし医療法人となるのが原則です。ただし、例外として、持分あり医療法人同士の吸収合併では、持分あり医療法人とすることが認められています。

合併のメリット・デメリット

合併では持分を対価とすることが認められているので、買収資金がなくても行なえる点が大きなメリットです。また、要件を満たす場合は「適格合併」と認められ、簿価で取得でき法人税がかからないこともメリットとなります。

さらに適格合併において一定要件を満たしていれば、消滅側の繰越欠損金を引き継ぐことが認められており、節税効果に期待できる点もメリットです。

一方でデメリットとなるのは、包括承継となるため簿外債務や偶発責務を引き継ぐリスクを伴うことがあげられます。

合併の注意点

合併を実施する場合、まず都道府県知事による認可を得なければなりません。また、債権者保護手続などの法定手続きも必要です。

手続きには一定期間を要するため、事業承継目的で行う際はスケジュールをしっかりたてておく必要があります。

医療法人の事業承継の注意点

ここからは、医療法人の事業承継を成功させるポイントを解説します。

後継者が限定される

医療法人の理事長は、医師・歯科医師に限られています。後継者は、医師・歯科医師免許を持つ人物から選定しなければなりません。誰でもなれるわけではないため、後継者が限定される点に注意する必要があります。

意思決定のコントロールが難しい

医療法人では、社員総会が最高意思決定機関となっており、社員1人が1票の議決権を持っています。そのため、たとえ出資持分を100%取得したとしても、社員の賛同を得たうえで意思決定をしなければなりません。

それ以外にも、医療法人の重要な業務執行は、理事会で決定しなければなりません。これらのことから、意思決定のコントロールは難しいと言わざるを得ません。意思決定をスムーズに進めるためには、後継者を支える社員と理事を確保することが重要です。

出資持分の買い取り

医療法人の親族外事業承継の際には、出資持分の買い取りに必要な資金を準備しなければなりません。出資持分のある医療法人を第三者である後継者が承継する際には、この資金調達が負担となるでしょう。

特有の税務処理

出資持分有りの医療法人が事業承継を行う場合、税務処理に注意が必要です。医療法人は配当が禁止されているため、内部留保を抱えることが多くみられます。このことで、出資持分が高く評価されると、相続税は高くなります。

親族内承継で出資持分を生前贈与や相続により引き継ぐ場合、多額の税金を納めなければならない可能性があります。親族外承継の場合は、出資持分の買い取り資金を準備しなければなりません。買い取りの際、出資者は含み損に対する所得税と住民税が課せられます。

相続税・贈与税の納税猶予制度

医療法人の事業承継を円滑に進めるため、相続税・贈与税猶予などの特例措置として認定医療法人制度があります。令和3年5月の改正法施行により、令和5年9月まで制度は延長されました。

認定医療法人とは、持分ありの医療法人から持分なしの医療法人へ移行する際に、一定の要件を満たし、移行計画などを記載した申請書を提出し、厚生労働大臣から認定を受けた医療法人のことです。

この認定を受けた持分ありの医療法人が、持分なしの医療法人に移行した場合、医療法人の出資持分を保有する個人が持分を放棄することで得た利益に対して、贈与税が免除されます。

医療法人特有の税金対策

医療法人が事業承継を実施する際には、多くの対策が必要です。とりわけ、事業承継によって発生する税金対策は重要になってきます。

①純資産価額法のための節税対策

純資産価額法とは、対象となる医療法人がどれだけ資産を保有しているかを計算し、時価に換算して評価する方法のことです。純資産をどれほど保有しているかによって税金の金額が変動します。

したがって、純資産価額法を利用した場合には「会社の資産をいかに減らすか」が鍵となります。そのためには、金融機関からの借り入れにより、不動産を購入する対策が有効です。

借り入れにより不動産を取得すると、3年経過する頃には資産ではなく相続税の評価額として計上されます。その結果、簿価と時価の差が大きくなり、株式の評価額も自動的に下がります。

したがって、医療法人の事業承継までに時間があるならば、3年以上の時間をかけて不動産を取得するのがベストです。また、建物の建築も効果的です。特に遊休地に立てる事で、不動産と同様に簿価と時価に差額が生まれ、税金が安くなります。

他にも、役員が退職する際、退職金として一時的な損金を作る方法も有効です。特に役員への退職金は、多額であるケースが多いため、会社の純資産は大幅に減少します。

上記の対策をとると、医療法人を事業承継した際に税金が低くなります。医療法人に限らず、事業承継を実施した際は、経営にお金がかかるものです。今後の運営のためにも、可能な限り多くの資金を残しておくことが理想といえるでしょう。

②類似業種比準方式のための節税対策

類似業種比準方式とは、同じ業種の中で似ている企業との比較により評価する方法です。したがって、自社と似ている企業を探し出すことが絶対条件です。

医療法人の場合、同じ医療法人業界の中で経営方法や利益額が類似する企業と比較することで、退職金の増額により評価額を下げられます。同時に、生命保険への加入によって評価を下げることも可能です。

生命保険には多額の資金を必要とします。そのため、企業の評価を下げる際には非常に有効な方法といえます。

医療法人の事業承継で欠かせない「遺言状」

医療法人を事業承継する際には、紛争が起こらないように注意しなくてはなりません。医療法人の事業承継で発生する紛争として、最も多いのが「遺産トラブル」です。

遺産トラブルでは、医療法人を誰が事業承継するのか、その他の資産は誰の手に渡るのかが論点になってきます。これらのトラブルを避ける上で、遺言状の作成は非常に有効です。

遺言状とは?

遺言状とは、自分が死んだ後は誰に会社を継がせ、資産をどのように分配するのかなどを定めたものです。遺言状の効力は非常に強く、遺言状に書き記されている経営者の意向がほとんどのケースで尊重されます。

遺言状では、誰の手に医療法人が渡るのか、今後の経営は誰が引き受けるのかなどを明確に示しているため、医療法人の事業承継の際に問題が生じるリスクを軽減できるのです。

遺言状は、経営者自身が亡くなってからも、経営者の意向を反映できます。くわえて、医療法人の出資の持分は、後継者に承継されます。そのため、事業承継した後に、資金が無くなる状況には陥りません。

一方、遺言状でしか効力を持たない内容もあります。遺言執行者と後継人の指定は、遺言でのみ実施できます。また、遺産分割の細かい方法についても、遺言でのみ指定が可能です。

遺言状がない場合は、基本的に弁護士などを介して遺産を分配します。しかし、結果的にトラブルになりやすいため注意が必要です。医療法人の事業承継を行う際には、出来るだけ遺言状を作成しましょう。

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医療法人に対する出資持分の移転

医療法人の相続時には、贈与の形で出資持分を移転できます。出資持分とは、経営者が引退時に保持している財産です。この出資持分が移転できないと、事業承継を実施しても財産を獲得できず、事業承継後の経営が難しくなります。

医療法人の事業承継では出資持分の移転が可能です。ただし、対策を忘れてしまうと、移転時に課される税金が多額になるので注意が必要でしょう。

設立時には100万円程度の出資持分であったとしても、事業承継を行う際には何億円となっている可能性があります。したがって、相続時精算制度を利用して、なるべく早く対策することが重要です。

相続時精算制度とは?

相続時精算制度とは、贈与者が65歳以上であり、後継者が20歳以上の場合に適用される制度のことです。この制度を利用すると、控除額が累計2,500万円になり、税率は一律して20%となります。

これは通常の控除額よりもはるかに大きいので、贈与税の負担を考えずに医療法人を事業承継できます。仮に基礎控除額を超えてしまう贈与金額であっても、少ない支払いで事業承継できるのです。一方で、生前贈与の場合でも、相続発生時に課税対象となります。したがって、将来的に価値が下がる医療法人の事業承継でなければ、節税効果は見込めません。

上記の通り、医療法人の事業承継では、あらゆる税金対策を実施できます。医療法人の事業承継に限った話ではありませんが、単純に課税が少なくなることはありません。節税対策にはある程度のリスクや条件が伴い、事業承継後のビジョンも考慮する必要があるでしょう。

医療法人の事業承継を進める方法まとめ

医療法人では、今後も事業承継の需要が高まると予想されます。しかし、事業承継をしただけで経営が安定するわけではありません。時代背景とともに患者のニーズを理解して、医療法人としての経営指針を考える必要があります。

さまざまな問題を見越した上で、事業承継やM&Aなどの経営戦略を遂行することが大切なのです。そして最優先すべきは患者の存在です。医療法人として事業承継した際には、現在抱えている患者に対して慎重に対応しましょう。

要点をまとめると下記になります。

・医療法人とは

 →病院や診療所、介護施設などを解説・所有するための法人

・医療業界が抱える問題点

 →少子高齢化の影響、人手不足

・医療法人を事業承継する方法

 →親族内承継、親族外承継、M&Aを活用した事業承継

・医療法人の事業承継を成功させるポイント

 →後継者が限定される、意思決定のコントロールが難しい、出資持分の買い取り、特有の税務処理
 
・医療法人特有の税金対策

 →純資産価額法のための節税対策、類似業種比準方式のための節税対策

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