M&Aとは?意味や動向とM&Aを行う目的・メリットなどをわかりやすく解説!
2024年11月26日更新業種別M&A
眼科クリニックのM&Aの動向は?費用の相場や事例を紹介!
本記事では、眼科クリニックのM&A・売却・買収事例のほか、成功ポイント・注意点・相場を幅広く紹介します。眼科クリニックのM&Aを考える際は、業界の動向・今後の展望・M&A事例を踏まえながら、さまざまな視点から検討を進めましょう。
目次
眼科クリニックの動向
近年はドライアイの増加などを受けて、眼科の需要が比較的堅調に推移している状況です。とはいえ、特に個人が経営する眼科クリニックなどでは、経営が不安定になりやすい問題を抱えています。こうした眼科クリニックでは、M&Aによって売却を行い、事業承継を図ると良いケースも少なくありません。
眼科クリニックのM&A動向について整理する前に、まずは眼科クリニックの特徴や動向を把握しておきましょう。
眼科の需要は増加傾向にある
眼科の需要は増加傾向にありますが、主な要因にはドライアイ・コンタクトレンズ・花粉症などが挙げられます。いずれも身近な症状であるため、眼科を利用する人が増えており、需要が長く継続しやすいです。
この中でもドライアイは、パソコン・スマートフォン・タブレットなどの急速な普及に伴い、特に問題視されています。そこで、急増するドライアイに対処するために、眼科の需要が高まっている状況です。また、コンタクトレンズの普及に伴い、定期検査に訪れる患者数も増加傾向にあります。
そのほか、花粉症を理由に眼科クリニックを訪れる方も増加中です。こうした状況において、多くの眼科クリニックでは、身近な症状に関する需要を取り込んでいます。
眼科クリニックをめぐる今後の動向
特に個人経営の眼科クリニックでは、どうしても経営が不安定になりやすいリスクがあります。順調に経営を継続しているクリニックもありますが、大手病院による経営と比べると不安定になりやすいです。
また、今後の需要増加に伴って眼科クリニックの件数が増加すれば、競争が激化する可能性があります。仮に眼科クリニックの増加により需要が伸び悩む事態に陥れば、各クリニックを利用する患者数が減少してしまいかねません。これに伴い経営が厳しくなれば、やむを得ず廃業を選択するケースも想定されます。
こうした事態への対処法として、M&Aにより事業継続を図る選択肢が注目されています。例えば、M&Aにより資金力のある買い手に売却できれば、安定した財務基盤のもとで事業の継続が可能です。このように、眼科クリニック業界におけるM&Aは、主に廃業など経営上の問題を解決する手法として採用されています。
眼科クリニックのM&Aの動向
本章では、眼科クリニックのM&Aの動向について、「経営上の問題を解決するためのM&A」「海外企業を含めたM&A」の2項目に分けて詳しく取り上げます。
経営上の問題を解決するためのM&A
最近では、競争激化などの原因により、眼科クリニックの経営が苦しくなるケースが多く見られます。やむを得ず廃業を選択するケースも見られますが、廃業するには多くのコストを支払う必要があるのです。
これに対して、M&Aにより買い手に売却できれば、廃業コストがかからず、事業の継続や売却益の獲得といったメリットまで得られます。そのほか、眼科クリニックの経営者が高齢であるにもかかわらず、後継者不在に悩まされているケースも多く見られます。
たとえ経営が安定していても、後継者が見つからなければ廃業となります。しかし、後継者不在の問題を解決するうえでも、M&Aによる売却が効果的な手法です。
眼科クリニック業界に限らず、近年はさまざまな業界の中小企業が後継者不在の問題を抱えており、その解決策としてM&Aによる売却に注目が集まっています。
海外企業を含めたM&A
最近では、眼科医院に関連した海外企業とのM&A事例も見られます。特に近年は新興国の健康問題などに注目が集まっていますが、これは眼科業界でも例外ではありません。
新興国などに適切な医療を届けるためにも、日本企業が海外の眼科医院の運営に携わるケースは今後も増加する可能性があります。
目の症状は比較的身近であるケースが多く、これはもちろん新興国や発展途上国でも例外ではありません。先進国と比べると医療環境が劣っている状況を踏まえると、新興国・発展途上国における眼科の需要は先進国よりも拡大する可能性があります。
こうした状況で、より高度な医療を提供するために日本企業が活躍するケースも十分に考えられますが、それを実現する手段として海外企業とのM&Aが増加することも考えられるでしょう。
眼科クリニックのM&A・事業承継の相場
眼科クリニックでは国内だけでなく海外企業を含めたM&Aも報告されており、今後ともM&A事例の多様化が予想されます。そのため、相場・費用を一概に把握することは困難です。
ただし、想定外の費用発生などのトラブルを避けるためにも、相場・費用の目安をある程度付けておく必要があります。ここでは、自院(自社)と類似する事例を徹底的に分析し、どの程度費用が発生しているのか把握すると良いです。
具体的にいうと、各事例におけるM&Aの目的・M&A当事者(病院)の規模・対象事業の規模・業績・従業員数・M&Aスキームなどをチェックしたうえで、自院(自社)の状況と類似する事例を徹底的に分析し、相場・費用の目安を把握しましょう。
病院・クリニックの売却額については下記の記事で詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。
眼科クリニックのM&A・事業承継の事例6選
これまで読んで、「実際に行われた事例も確認しておきたい」と考える経営者の方も多いです。
本章では、眼科クリニックのM&A・買収・売却・譲渡の事例として、以下の6つを取り上げます。それぞれの事例からポイントをつかんで、自院のM&A戦略策定に役立てましょう。
- ロート製薬による日本点眼薬研究所の買収
- HOYAグループがMid LabsとFritz Ruckを買収
- アステラス製薬によるQuethera社の買収
- ロート製薬がAlina Vision社に出資
- エムスリーがジャメックスを買収
- ロート製薬がオフサルモスを買収
①ロート製薬による日本点眼薬研究所の買収
日本点眼薬研究所
2019年11月、ロート製薬は、日本点眼薬研究所の株式すべてを取得し完全子会社化すると発表しました。本件M&Aの買収金額は非公開です。買収側のロート製薬は、大阪府に本社を置く製薬会社であり、胃腸薬・一般向け目薬をはじめ一般用医薬品(OTC医薬品)・スキンケア製品を主力商品としています。
売却側の日本点眼薬研究所はジェネリック医薬品メーカーであり、点眼剤・視力検査装置など眼科向け製品の製造販売および医薬品の受託製造を手掛けている会社です。
本件M&Aの目的は、国内の医療用医薬品市場への参入にあり、ロート製薬は眼科領域の医療関係者に役立つ製品・サービスの提供・世界中の人々のアイケアへの貢献を図ると発表しています。
②HOYAグループがMid LabsとFritz Ruckを買収
HOYA
2018年10月、HOYAグループのHOYA Surgical Opticsは、眼科医療機器メーカー2社(Mid LabsおよびFritz Ruck)に加えて、その関連会社の買収に関して最終契約を締結したと発表しました。本件M&Aの取引価格は非公開です。
買収側は、HOYAグループにおいて白内障治療用の眼内レンズ(IOL)事業を手掛ける部門です。売却側のMid Labsは、アメリカ・カリフォルニア州に拠点を持ち、網膜疾患や外傷による失明を防ぐための眼科手術用機器の研究・開発・エンジニアリングなどに強みを持っています。
もう一方のFritz Ruckは、ドイツ・エシュヴァイラーに拠点を持ち、超音波水晶体乳化吸引・硝子体切除を行う複合機器および、その付属品の製造のほか、眼科用機器・器具の販売などを手掛けている企業です。
本件M&Aにより、HOYAは、製品ポートフォリオの拡大に加えて、網膜硝子体分野の治療に対する優れたソリューションの提供およびIOL分野における成長の促進を通じて、世界で最も早い成長を続けるIOL企業としての地位の確立を図っています。
③アステラス製薬によるQuethera社の買収
アステラス製薬
2018年8月、アステラス製薬は、Quethera Limited(本社:英国ケント州、以下「Quethera社」)の株式すべてを取得し完全子会社化しました。本件M&Aの買収金額は、最大8,500万ポンドと発表されています。
買収側のアステラス製薬は、2005年の山之内製薬と藤沢薬品工業の合併により発足した製薬会社であり、泌尿器領域の医薬(ハルナール・ベシケア)免疫抑制剤(プログラフ)などを主力商品としています。
売却側のQuethera社は、緑内障など眼科領域における新規の遺伝子治療の開発に注力するバイオベンチャー企業です。本件M&Aの目的は、緑内障患者の網膜に治療遺伝子を発現させる「遺伝子組換えアデノ随伴ウイルス」を活用した遺伝子治療プログラムの獲得にあります。
アステラス製薬では、最先端の科学・技術の積極的な取り込みにより、視力を失うリスクのある緑内障患者のアンメットメディカルニーズに応える治療法の提供を図ると発表しています。
④ロート製薬がAlina Vision社に出資
ロート製薬
2018年2月、ロート製薬は、眼科病院設立事業などを展開するAlina Vision社(シンガポール)の設立に出資すると発表しました。ロート製薬は、国内ヘルスケア事業・国内百貨店および専門店事業・食事業・再生医療事業・海外事業など幅広く事業を展開しています。
また、東証1部に上場し、主力の一般用目薬でトップシェアを誇る企業です。対するAlina Vision社は、社会起業家であるDavid Green氏を中心に、「すべての人に質の高い眼科医療を、持続可能なビジネスモデルで提供する」目的で設立されました。
David Green氏は高品質な医療サービスの提供と同時に他社との差別化を図り、患者に合わせた価格による医療提供を行うための特徴的なビジネスモデル(Affordable Eye Care Model)を展開しています。
具体的な価格帯は、「払える患者は一般価格」「若干払える患者は格安価格」「払えない患者は完全無料」といった仕組みです。このビジネスモデルでは、収益を上げると同時に完全無料患者を2割以上受け入れています。
上記も含めた従来の活動をさらにスピーディーかつ広範囲で行うことを目指し、Alina Vision社は設立されました。そして、この理念・ビジネスモデルを支持する形でロート製薬が出資を実施しており、これにより持続可能なビジネスモデルの普及を進めつつ社会貢献につなげると発表しています。
⑤エムスリーがジャメックスを買収
エムスリー
2017年11月、エムスリーは、機器商社機能とコンサルタント業務を融合したサービスを提供する「ジャメックス」の株式すべてを取得し子会社化しました。本件M&Aの取引価格は非公開です。
買収側は、医療従事者を対象としたポータルサイトを運営する企業で、ソニーの関係会社です。本件M&Aの目的は、先端医療における展開領域の眼科への拡大などです。
⑥ロート製薬がオフサルモスを買収
ロート製薬
2016年10月、ロート製薬は、眼科手術用デバイスや目薬をメインに製造販売を行うブラジル企業「オフサルモス」の株式60%を取得し子会社化しました。本件M&Aの取引価格は非公開です。
売却側は、ブラジルにおいて眼科手術用デバイスおよび目薬を主軸に製造販売を行っている企業です。買収側では、2013年にロート・ド・ブラジル社を設立し、ブラジルにおける市場調査を実施していました。
ブラジルでの白内障手術実施件数が日本の6割程度であり、OTC目薬市場は日本の4割程度と低いものの、近年は生活レベルの改善に伴い市場が成長していること、人口が多く将来の老齢化に伴いアイケアの潜在需要が大きいことが見込まれています。
ロート製薬は、医科向け目薬の拡充・OTC目薬市場への進出および、周辺国や世界各地への製品輸出や眼科周辺分野への商品群の拡大などが期待できると判断したために、本件M&Aに至りました。
M&A成功事例については下記の記事で詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。
眼科クリニックのM&A・事業承継のメリット
本章では、眼科クリニックのM&A・買収・売却・譲渡のメリットを、当時会社それぞれの立場に分けて取り上げます。
売却側のメリット
売却側で期待される主なメリットには、以下のようなものがあります。M&Aによる売却で経営者が獲得した資金は、別の事業への投資や老後の生活資金などに充てることが可能です。
- 事務スタッフ・医療従事者の雇用維持
- 後継者不在問題の解決
- 譲渡利益の獲得
- 大手傘下のもとでサービスの充実化
- 個人保証・債務・担保からの解放
買収側のメリット
買収側で期待される主なメリットには、以下のような点が挙げられます。特に、固定の顧客や取引先を抱えている眼科・クリニックを獲得すると大きなメリットを得やすいといえるでしょう。
- 医療従事者・事務スタッフの確保
- 眼科部門への進出コストの削減
- 設備・施設などの獲得コストの削減
- 顧客・取引先・ノウハウなどの吸収
- グループ・事業規模の拡充
歯科業界におけるM&Aの売却/買収事例については下記の記事で詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。
眼科クリニックのM&Aの成功ポイント
本章では、眼科クリニックのM&A・買収・売却・譲渡の成功ポイントを、売却・買収の2つのケースに分けて順番に取り上げます。
売却を行うケース
売却を行う際は、自院の魅力を相手に十分に伝える必要があります。具体的にいうと、「どのような分野に特化しているのか」「強みのあるエリアはどこか」などの観点から自院の魅力・強みをアピールしましょう。買い手にとって魅力的な事業を展開していれば、多くの買い手候補が現れる可能性があります。
自院の魅力を十分に理解してくれる買い手に売却できれば、売り手としても安心感が強いです。こうした買い手に声をかけてもらえるよう、自院の魅力・強みを事前に整理したうえで念入りにアピールする必要があります。
買収を行うケース
眼科クリニックの買収を考える場合、買収により自社(自院)がどのようなメリットを享受できるのか事前に整理しておきましょう。これにより、M&Aの目的が明確化されて、自社(自院)に適したクリニックを探しやすくなります。
ここでは、売却案件である眼科クリニックが特化している分野・事業エリアなどさまざまな特徴をチェックしながら、自社(自院)の事業戦略と照らし合わせることが大切です。
中小企業M&Aの流れ、注意点については下記の記事で詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。
眼科クリニックのM&A・事業承継で注意したいポイント
M&Aに際して特に注意すべき点は、「目的を明確にすること」「M&Aの対象を丁寧に選ぶこと」の2つです。そもそもM&Aの目的がはっきりしていないと、具体的な戦略を立てにくくなります。こうした状況でM&Aを実行しても、「想定していた効果が得られなかった」といった事態に陥りかねません。
これでは、たとえM&Aに多くの費用をかけたとしても、事業戦略上のメリットが発生しません。以上のことから、トラブルを防ぐためにも、M&Aの目的をはっきりさせたうえで、具体的なM&A戦略を立てつつ適切なスキームを検討してM&Aを進める必要があります。
また、売却・買収を行う際は、相手企業(病院)を慎重に選ばなければなりません。具体的にいうと、相手企業の事業内容・方針などを踏まえたうえで、信頼できる相手かどうか判断する必要があります。その一方で、適切な相手が見つかったら、早めにアプローチを行いましょう。
早期にアプローチして話を進めておくと、他企業(病院)に先を越されるリスクを軽減できます。
また、M&A手続きには、法務・税務・財務などの専門知識だけでなく、相手企業との交渉力など専門性の高いスキルが必要です。これらの手続きを自院(自社)のみで進めることは難しいため、M&A仲介会社・M&Aアドバイザリーなどの専門家からサポートを受けると良いでしょう。
眼科クリニック業界のM&A・事業承継のまとめ
ドライアイなど目に関する身近な症状の増加も相まって、近年では眼科の需要が拡大しています。ビジネスシーンをはじめさまざまな部分で起こり得る症状が多く、眼科の診察を受けて適切な対処を考える患者は多いです。また、コンタクトレンズの利用者も増えており、定期検査による需要の取り込みも期待できます。
その一方で、個人経営の眼科クリニックでは、経営が不安定になりやすい問題点を抱えています。ただし、こうした経営上の問題はM&Aにより解決できる可能性があるため、今後はM&Aが加速する見とおしです。
さらに、最近では海外企業とのM&Aも目立っており、M&A事例は今後も多様化すると推測されます。眼科クリニック業界のM&Aを考えるには、業界の動向・今後の展望・M&A事例などを踏まえながら、さまざまな視点から検討を進めましょう。
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