金沢の事業承継を徹底解説！M&A動向・最新事例から相談先、公的支援まで網羅

石川県の総人口は減少傾向にあり、今後も少子化に伴う人口減少が予測されています。金沢市に目を向けると、農林水産業の労働生産性は全国平均を上回っており、特に漁業分野での集積と優位性が見受けられます。産業構造では、繊維工業、生産用機械器具製造業、電子部品などのエレクトロニクス関連産業が地域経済において重要な位置を占めています。

また、石川県は県内支援機関と連携し、ベンチャー企業の育成に注力しています。先輩起業家や学生、既存企業との協力を通じて、高い技術力を持つニッチトップ企業の創出を目指しており、新規参入や事業成長の機会が豊富に存在すると言えるでしょう。このような経済環境は、事業承継を検討する上で、承継後の事業展開の可能性を示唆しています。
 

石川県・金沢市の事業承継・M&A動向を2つのトピックに分けて解説します。

帝国データバンクの2024年の調査によれば、石川県内の企業2,550社のうち、後継者が「いない」または「未定」とした企業は1,427社で、後継者不在率は56.0％に上ります。この数値は前年比で2.5ポイント低下し、6年ぶりに改善傾向を示しましたが、新型コロナウイルス感染症拡大前（2019年）と比較すると依然として高く、全国平均を上回る水準が続いています。金沢市を含む石川県において、事業承継は喫緊の課題です。

この改善の背景には、官民一体となった相談窓口の整備や支援策の拡充が進み、小規模事業者層にも事業承継の重要性とその支援体制の認知が広がったことが挙げられます。しかしながら、経営環境の変動、後継者候補の辞退や選定方針の見直しなどにより、事業承継プロセスが中断・頓挫する事例も後を絶たず、課題は依然として深刻です。

特に注目すべきは、経営者の年齢層別不在率で、70代・80代ではその割合が高まり、80代以上では14.3％に達しています。経営者の高齢化は事業承継のリスクを増大させるため、円滑な移行を実現するための早期の計画策定と実行が強く求められています。


参考：帝国データバンク「石川県「後継者不在率」動向調査（2024 年）」

帝国データバンクの調査によると、2024年の石川県における休廃業・解散件数は580件となり、前年度から10.3%増加しました。2023年も526件（前年度比23.8%増）と増加しており、金沢市を含む県内企業の事業継続が厳しい状況にあることがうかがえます。

北陸3県全体で見ても、2023年の休業・廃業・解散企業数は1,370件に達し、前年比22.7%（254件）増と、2000年の調査開始以来で最多を記録しました。中でも石川県は512件（前年比46.7%増）と著しく増加しており、富山県（479件、11.4%増）、福井県（379件、12.4%増）も同様に増加傾向を示しています。

特に、能登半島地震に起因する休廃業は112件報告されており、業種別ではサービス業（399件）、建設業（274件）、小売業（180件）の順に多くなっています。また、休廃業した企業の代表者のうち88.8%が60代以上であり、経営者の高齢化と後継者不足が深刻な問題となっていることが浮き彫りになりました。

信用調査会社の分析では、物価上昇に伴うコスト増、価格転嫁の困難さに加え、能登半島地震の影響が企業の休廃業を加速させたとされています。経営者の高齢化という構造的な課題も背景にあり、今後も休廃業が増加する可能性が指摘されています。事業承継は、こうした状況を打開する有効な手段の一つです。

参考：帝国データバンク「全国企業「休廃業・解散」動向調査（2024 年）」
　　　NHK「北陸3県で休廃業の企業 去年は過去最多 能登半島地震影響も」

2021年の登録M&A支援機関の報告によると、石川県企業におけるM&A件数は、譲渡側で34件、譲受側で38件を記録しています。北陸地方の他県（富山県：譲渡側31件、譲受側24件、福井県：譲渡側13件、譲受側17件）と比べても多い水準にあることがわかっています。

参考：中小企業庁「M&A支援機関登録制度実績報告等について」

弊社M&A総合研究所が取り扱っている石川県・金沢市の事業承継・M&A案件例をご紹介します。

業歴40年以上を誇る老舗企業です。長年、自治体を中心に官公庁とも取引しており、地域に根差した事業を行っています。地域情報誌を発行しており、県内の多くの企業とネットワークを構築しています。印刷媒体に伴う、企画・デザイン、発送まで一気通貫で対応可能です。
 

一級鉄筋技能士が5名以上在籍している鉄筋加工・工事業です。地域に密着して事業運営を行ってきており、安定した受注が確保できています。

鉄筋を使用するものに関しては基本的にすべて対応可能です。見積から加工、施工まで自社で一貫して対応できます。
 

業歴30年超と長く、年間40万人以上の地域顧客が来店しており、地域から愛される店舗運営を継続しています。140社を超える取引先により商品は安定供給できており、園芸資材や花苗鉢花等は直接市場で買付を実施しています。

従業員の大半が社歴10年以上のベテランで、接客、商品陳列技術等の面で競合に負けない戦力があるのも強みです。
 

職業訓練事業は既得権益的な側面が強く、また人材採用も行えるため非常に強みです。WEB制作の元請比率85%であり、大手企業と長年の継続的な取引関係を構築しています。

両事業とも安定的に推移し財務基盤が安定しています。社長は将来的な後継者不在ですが、継続勤務希望のため自走可能です。
 

石川県・金沢市の事業承継・M&A事例をピックアップしてご紹介します。

古河電気工業株式会社は、石川県金沢市に本社を置く株式会社白山の株主である大和PIパートナーズ株式会社が運営する投資事業組合「DPIP企業支援1号投資事業有限責任組合」および白山の代表取締役社長との間で、白山の発行済株式総数の約67%を取得する株式譲渡契約を締結しました。本件株式取得の実行日は2025年1月30日を予定しています。

古河電気工業は、メタル・ポリマー・フォトニクス・高周波の4つのコア技術を基盤に、情報通信インフラや自動車部品など多岐にわたる事業を展開しています。一方、白山は、光通信に不可欠な多心型光コネクタ用MTフェルールにおいて世界第2位の市場シェアを誇り、光通信関連製品や電力関連製品の開発・製造を手掛ける金沢の有力企業です。

近年、生成AIの急速な普及などを背景にハイパースケールデータセンター市場が拡大しており、これに伴い光ファイバ接続の需要が世界的に急増しています。中でも、光損失を抑制しデータセンターの電力消費削減に貢献する低損失型MTコネクタは、その重要性を増しています。

この事業承継型M&Aを通じて、古河電気工業が有する材料技術や精密加工技術と、白山の優れた開発力およびコスト競争力を融合させることが期待されます。両社のシナジーにより、製造能力の増強と製品開発スピードの向上を図り、市場競争力を一層強化します。

将来的には、グローバル市場におけるMTコネクタ事業を拡大し、特に成長著しい低損失型MTコネクタ分野で世界トップシェアの獲得を目指す方針です。

カナカン（石川県金沢市）は、2024年10月17日付で三和食品（富山県南砺市）の発行済株式100%を取得し、子会社化しました。

カナカンは、食料品や酒類の卸売業を手がける企業 です。一方、三和食品は、かぶら寿しや大根寿し、昆布巻、魚漬などの伝統食品を製造・販売しています。

今回のM&Aにより、カナカンは富山県推奨「とやまブランド」に認定された三和食品の高い技術とオリジナル製法を継承し、かぶら寿し事業の発展を図るとともに、地域の伝統食品を守ることを目的としています。

2024年9月2日、オカモトは、2024年8月28日付でスタハ（石川県金沢市）の全株式を取得し、同社の全事業を引き継ぎました。

オカモトは、オカモトグループ全体の経営を統括する純粋持株会社です。スタハは、石川県内に18の拠点を展開する個別指導型学習塾「スタディハウス」を運営しています。

2024年6月20日、システムサポートは、コミュニケーション・プランニング（東京都渋谷区）の株式を取得し、同社を子会社化することを決定しました。

システムサポートは、石川県金沢市に本社を構えるシステムインテグレーターで、クラウドインテグレーション、システム開発、アウトソーシング、製品開発、さらには海外事業も展開しています。

一方、コミュニケーション・プランニングは、ソフトウェア開発やITソリューションを提供する企業で、XRソリューションや人事システムコンサルティングなどを手掛けています。

今回の株式取得の目的は、システムサポートグループのサービスラインを強化し、特にERP導入支援などの事業成長を促進することにあります。

2023年9月19日、GENDAは、レモネード・レモニカ（石川県金沢市）の発行済株式の66.0％を取得し、子会社化することを決定しました。この株式取得により、レモネード・レモニカはGENDAの連結子会社となります。

GENDAは、グループ全体でゲームマシンのレンタルやオンラインクレーンゲームサイトの運営を手がけており、フード＆ビバレッジ分野においても、アニメやゲームとのコラボカフェを全国各地で展開しています。レモネード・レモニカは、レモネードの製造・販売を専門とする企業です。

両社は、ショッピングセンターへの出店を通じて蓄積したノウハウを活かし、共同で物件を開発し店舗ネットワークの拡大を目指しています。レモネード・レモニカがグループに参画することで、GENDAグループはアミューズメント施設の運営など既存事業を強化し、さらなる成長を図ることを狙っています。

M&Aを活用した事業承継は、後継者不在問題を解決し、企業の持続的成長を可能にする有効な手段です。しかし、その成功にはいくつかの重要なポイントがあります。ここでは、金沢市でM&Aによる事業承継を成功に導くための要点を解説します。
 

M&Aによる事業承継の最大のメリットは、後継者が見つからない場合でも事業を存続させられる点です。これにより、従業員の雇用を守り、長年培ってきた技術やブランド、取引先との関係性を次世代に引き継ぐことができます。

また、譲受企業のリソース（資金力、販売網、技術力など）を活用することで、譲渡企業単独では難しかった新たな事業展開や規模拡大、経営の安定化といった成長機会を得られる可能性もあります。金沢の地域経済に根差した企業が、M&Aを通じて新たな活路を見出すケースも少なくありません。

一方で、M&Aにはデメリットや注意すべき点も存在します。異なる企業文化を持つ組織同士が統合する際には、従業員のモチベーション低下や組織運営の混乱が生じるリスクがあります（PMIの重要性）。

また、M&Aの交渉過程では、自社の経営情報や技術情報といった機密情報を取り扱うため、情報漏洩のリスク管理が不可欠です。さらに、譲渡価格の算定や契約条件の交渉が複雑になることもあり、専門的な知識なしに進めることは困難です。デューデリジェンス（買収監査）を徹底し、潜在的なリスクを洗い出すことも重要となります。

M&Aによる事業承継を成功させるためには、信頼できる専門家（M&A仲介会社やファイナンシャルアドバイザーなど）のサポートが不可欠です。専門家は、適切な相手先の選定から企業価値評価、交渉、契約締結、さらにはM&A後の統合プロセス（PMI）に至るまで、多岐にわたる支援を提供します。

金沢の地域事情や業界動向に精通し、豊富な実績を持つ専門家を選ぶことが、円滑な事業承継とM&Aの成功確率を高める鍵となります。相談先の選定にあたっては、報酬体系の透明性や担当者の専門性、過去の事例などを慎重に比較検討しましょう。

石川県・金沢市での事業承継・M&A時におすすめの相談先を3つご紹介します。

最近、金融機関がM&A支援に特化した専門部署を設けるケースが増えてきました。特に、投資銀行やメガバンクはファイナンシャルアドバイザー（FA）として、M&Aにおける資金調達や戦略面でのアドバイスを提供する重要な役割を果たしており、企業が買収を進める際に金融機関との連携が欠かせません。

金融機関を活用するメリットには、資金調達に関する高度なアドバイスを受けられる点や、事業承継や後継者への株式移転に関するサポートが含まれます。

さらに、M&A専門の部署を通じて、適切なアドバイザーを紹介してもらえることも大きな利点です。ただし、大手金融機関は主に大規模案件を優先するため、規模の小さい案件には対応しないことがあるほか、アドバイザリー報酬が高額になる可能性がある点には注意が必要です。

近年、国や地方自治体によって、事業承継やM&Aに関する相談窓口の整備が急速に進んでいます。金沢市を含む石川県でも、これらの公的機関を活用することが可能です。

代表的なものとして「事業承継・引継ぎ支援センター」があります。これは、中小企業の後継者不在問題をはじめとする事業承継の様々な課題に対応するために国が設置した相談窓口で、全国47都道府県に拠点があります。

石川県にも「石川県事業承継・引継ぎ支援センター」が設置されており、専門家による情報提供やアドバイス、さらには譲渡企業と譲受企業のマッチング支援などを原則無料で受けることができます。2021年4月からは、前身の事業引継ぎ支援センターと事業承継ネットワークの機能を統合し、より強力な支援体制となりました。

個人事業主も支援対象に含まれ、必要に応じてM&A仲介会社や税理士、弁護士といった専門家の紹介も行っています。ただし、民間のM&A専門会社と比較した場合、提供されるサービスの範囲や対応のスピード感、専門性の深さにおいて限界があるケースも想定されるため、状況に応じて使い分けることが肝要です。

M&A仲介会社は、企業の売買を総合的にサポートする専門機関です。売り手と買い手双方と契約を結び、交渉の調整や相手企業の選定、スケジュールの管理、企業価値の評価（バリュエーション）、書類作成など、M&Aに関わるすべてのプロセスを支援します。

仲介会社は、双方の条件を調整しながら、最適な合意に導くために重要な役割を果たします。また、豊富な選択肢の中から適切なパートナーを見つけることで、M&Aの成功率を高めます。M&Aが初めての企業に対しても、具体的なアドバイスや手厚いサポートを提供するため、安心して手続きを進められます。

ただし、着手金や中間金が発生することがあり、費用が負担になる場合もあります。こうしたコスト面を考慮し、成功報酬制を採用している仲介会社を選ぶことが推奨されます。

この章では、石川県・金沢市の事業承継・M&Aで仲介会社を選ぶポイントを見ていきましょう。

事業承継やM&Aを成功させるためには、対象企業が属する業界特有の動向や法規制、商慣習の変化に精通したM&A仲介会社を選ぶことが極めて重要です。

M&Aに関する一般的な知識や経験だけでなく、貴社が事業展開する特定分野における深い専門知識と、金沢市や石川県内でのM&A実績が豊富かを確認しましょう。これにより、より的確なアドバイスや戦略立案が期待できます。

相談する自社と同じ程度の案件を扱った実績があるかどうか、石川県におけるM&A・事業承継の実績があるかどうかも確認してください。地元での実績があると、地元企業や金融機関・士業専門家などとのつながりが強いので、円滑なM&A・事業承継につながります。

報酬体系は、仲介会社によって異なります。なかには手数料・相談料・報酬体系が複雑な仲介会社もあり、予期しなかった費用が発生してトラブルが起こることもあるため、報酬体系がわかりやすく手数料が安い仲介会社を選びましょう。

最後のポイントは、担当スタッフの対応と相性です。事業承継・M&Aでは、担当スタッフとの信頼関係がとても重要です。自社の考え方などを理解し、誠実に対応してくれる仲介会社を選んでください。

この章では、石川県・金沢市の事業承継・M&Aに関する公的支援を見ていきましょう。

石川県事業承継・引継ぎ支援センターは、次世代へ事業をつなげるためにいろいろな課題を解決するサポートを行う公的機関です。

石川県事業承継・引継ぎ支援センターでは、専門家が面談や提出資料を元に、事業における実態の把握や具体的な課題を抽出して、さまざまな選択肢を提案します。

石川県とは別に、七尾市が単独で行っている事業承継ネットワークが七尾事業承継オーケストラです。2018（平成30）年2月に発足しました。

七尾市は、過去18年間に1,300余りの企業が廃業し、中小企業の存続と事業承継について、石川県内でも問題意識の強い地域です。七尾市に限定・特化した運営を実施することで、より緻密で丁寧な事業承継支援を目指しています。

石川県商工会連合会は、石川県内全20の商工会と商工会連合会内に、2019（令和元）年4月から、小規模事業者向け事業承継相談窓口を設置しました。各商工会の経営指導員を中小企業診断士などで構成し、より有用なコンサルティングの実現を目標に掲げています。

2019（令和元）年8月より、富山銀行、福邦銀行、金沢信用金庫は、経営コンサルティング事業などを行う東京のインクグロウと提携し、北陸3県における企業の事業承継支援対応に乗り出しました。

具体的には、インクグロウが運営しているM&Aマッチングサイト「事業引継ぎ.net」を活用し、3行庫が連携して北陸3県における企業のM&Aサポートに就き、M&Aを成約させて事業承継が1社でも多く実現することを目指します。

石川県は、他の都道府県よりも製造業の割合が多い地域です。それらの中小企業は創業も古く、地域全体の伝統性を保つためにも安定した地域経済を継続するためにも、欠かせない存在です。しかし、廃業する企業が後を絶ちません。

石川県では、県だけでなく市、商工会、金融機関など、官民をあげて事業承継が実現するよう積極的な取り組みが行われています。事業承継向けの補助金や融資制度もあるので、廃業せずに会社を存続させる方策を考えましょう。