M&Aとは?意味や動向とM&Aを行う目的・メリットなどをわかりやすく解説!
2024年10月11日更新業種別M&A
警備業界のM&A・事業承継の動向!注意点と事例も解説【2024年最新】
警備業界は長時間労働の傾向が強く、賃金も決して高いわけではないため、なかなか人材が集まらず、人材不足に悩む事業者も多いです。本記事では、警備業界のM&A・事業承継の動向や費用相場、M&A・事業承継の成功ポイントなどを解説します。
目次
警備業界の現状
まずは、市場規模や事業者数の推移など、警備業界の現状について解説します。
警備業界の市場規模
警察庁生活安全局生活安全企画課「令和5年における警備業の概況」
出典:https://www.npa.go.jp/publications/statistics/safetylife/r5keibigyougaikyou.pdf
上のグラフは警備業界の年間売上高を表したものです。これをみると、近年は徐々に縮小していることがわかります。コロナ禍によりテーマパークやライブイベントなどは自粛が求められたことによる減少と考えられますが、それでも警備業界は3.3兆円規模の巨大な市場となっています。
警備業者数・警備員数は増加傾向
警察庁生活安全局生活安全企画課「令和5年における警備業の概況」
出典:https://www.npa.go.jp/publications/statistics/safetylife/r5keibigyougaikyou.pdf
市場が縮小する一方で、警備業者数は年々増加傾向にあります。また、令和5年時点の警備員数は58万4,868人で、前年比で0.2%の増加となりました。雇用形態別にみると、常用警備員の増加が目立っています。
機械警備や無人・省人化関連システムの需要の高まり
矢野経済研究所による2021年10月の調査によれば、2020年の監視カメラシステムの世界市場(ベンダー出荷金額ベース)は前年比10.8%減の2兆9700億円となりました。新型コロナウイルスによるロックダウン(都市封鎖)や経済活動の停止が原因で、新規設置や交換工事が中断され、企業の投資計画も延期や中止となったため、市場が縮小しました。
しかし、2021年には多くの国で行動制限が緩和され、経済活動が回復したことを背景に、同市場は前年比13.1%増の3兆3600億円に回復すると見込まれています。
今後は、欧米や日本、中国を中心にAIを活用した画像解析ソリューションの導入や、業務の省人化・無人化を目的とした監視カメラの利用が広がり、世界市場は成長を続ける見通しです。2026年には、2020年比で2.2倍の6兆4000億円規模に達すると予測されています。
新型コロナウイルスの影響によるセキュリティ市場の活性化
新型コロナウイルスの影響により、スマートフォンやICカード、テンキーを用いて物理的な鍵を使用せずに施開錠できるスマートロックシステムの普及が進んでいます。これにより、オフィスや工場などで物理キーを廃止し、接触による感染リスクを軽減しながら入退室管理を効率化しています。
富士経済の調査によれば、国内のスマートロック市場は、コロナ禍前の2019年に58億円だったのに対し、2022年は130億円に拡大しました。
レンタルオフィスやフィットネスクラブ、宿泊施設などで無人受付や鍵の受け渡し不要の利便性が評価され、さらに戸建てやマンションなど消費者向けの導入も進んでいます。今後も市場は拡大し、2026年には223億円(2021年比で2.9倍)に達すると予測されています。
海外展開も見られている
警備大手企業は、海外市場への展開を強化しています。セコムは1978年に台湾でセキュリティー事業を開始し、その後、韓国、タイ、オーストラリア、中国、イギリスなどに進出し、現在では12の国・地域で警備サービスを提供しています。
また、日本で培った防犯センサーや監視カメラを用いたIT技術を現地に導入し、従来の人手依存の警備手法を進化させています。さらに、防災や医療事業も含め、グループ全体で16の国・地域に事業を展開中です。
一方、綜合警備保障(ALSOK)は、タイ、ベトナム、中国、インドネシア、インドなどアジア地域を中心に進出しており、日本で培った常駐警備や機械警備のノウハウを活かして、現地の企業や個人向けにサービスを提供しています。これにより、警備業界の国際展開をさらに進め、現地ニーズに応じたセキュリティソリューションの普及を図っています。
ニーズの広がり
警備業界は防犯意識の高まりを受けて多くのニーズを得ており、現状は業界全体で好調といえます。オフィスビルや重要施設(発電所や学校、病院など)の守衛・警備、一般家庭向けのホームセキュリティ、現金運搬業務などが警備業界の主な業務です。
そのなかでも、インフラの整備に伴い、センサーの探知によって警備員が駆け付ける機械警備やコンビニエンスストアのATM導入による現金運搬業務などは、特にニーズが拡大しています。
また、警備業界の業務は近年ますます拡大しており、災害や凶悪犯罪の発生で防犯意識が高まり続ける昨今ではさらなる成長が見込まれています。
警備業界の課題・展望
警備業界は好調である一方で、長時間の労働に対して賃金が安いため若手が忌避する業種でもあります。そのため、人材の採用が難しく、特に若手不足に課題のひとつです。
警備員は法律で15時間の研修を受ける必要があるため、即戦力としての投下は難しい面があります。また、警備業界は人材のみならず、装備やセンサーなどさまざまな設備投資が必要です。
しかし、中小規模の警備会社は人材や設備の投資を行えるだけの財務基盤を備えておらず、競争力が弱まっています。
さらに、電子マネーやクレジットカードの一般化により、現金運版業務の需要が将来的に低下するリスク、法人向けのサービスの需要低下、女性警備員の不足などの問題が潜んでおり、今後とも業務のあり方を見直す機会が発生することは十分に考えられるでしょう。
警備会社・警備業界のM&A・事業承継の現状と動向
近年、警備業界では、人材確保・シナジー獲得・事業承継などさまざまな目的でM&Aが行われるようになってきました。この章では、警備会社・警備業界のM&A・事業承継の現状と動向について解説していきます。
人材確保・設備投資を目的とするM&A
警備業界では、既存の警備員を引き継げる点でM&Aは大きなメリットです。警備員は未経験者に15時間の研修を受けさせることが決められているため、若手を採用しても即戦力として現場へ投入することは難しいでしょう。
しかし、M&Aを利用すれば、すでに経験を積み熟達した警備員を引き継げるため、人材不足を補うことが可能です
シナジー効果の獲得を目的とするM&A
M&Aを行うことで、財務基盤の強化が可能です。財務基盤が強化されれば警備員の定着率を引き上げる待遇改善も可能になるため、人材確保にもつながり、事業に必要な設備に対しても十分な投資ができるようになります。
警備業界のなかでもニーズが高い機械警備では、人員・センサーなどの設備投資が必要不可欠です。財務基盤が不安定な中小の警備会社では手を出しにくい分野ですが、M&Aを通じて財務基盤を強化すれば機械警備への投資もできるようになります。
シナジー効果獲得を目的としたM&Aは、買い手と売り手のニーズが合致しやすく合意を取りやすいことが多いです。そのような理由もあり、警備業界でM&Aが盛んに行われていると考えられます。
大手企業のグループ拡大を目的とするM&A
国内警備業界は、安全意識の高まりや建設工事、大規模イベントの増加を背景に、業者数が増加しています。しかし、競争の激化に伴い、大手警備会社は中堅・中小企業の買収やグループ化を進めることで事業規模の拡大を図っています。
セコムは2015年に豊田自動織機子会社のアサヒセキュリティを、2018年には東芝の子会社である東芝セキュリティをそれぞれ買収しました。アサヒセキュリティは集配金サービス、東芝セキュリティはビルや工場の警備に強みを持ち、これらの買収によりセコムは業務領域を広げました。
さらに、2022年には空港警備に強みを持つセノンを連結子会社化し、関西を地盤とする東洋テックや交通誘導警備を主力とするトスネット、共栄セキュリティーサービスにも出資を行うなど、積極的な事業拡大を行っています。これにより、セコムは競争優位性を強化し、業界内での地位をさらに高めています。
異業種や海外への進出
警備業界では、シナジー効果の獲得を通じて会社の財務基盤を強化するだけでなく、異業種への進出や海外進出を目的にM&Aが使われることも多いです。
警備業界から異業種への進出や、これとは反対に異業種から警備業界への進出を行う事例も多くみられます。このようなケースの目的は、新事業から契約を得ることで会社あるいはグループ全体の成長を図ることが多いです。
また、警備会社が海外進出するケースも増えてきています。国内の人件費は高騰し続けているため、より安い人件費で人材を確保する目的で台湾やマレーシア・タイ・韓国などアジア諸国への進出するケースも多くみられるようになりました。
事業承継を目的とするM&A
警備業にかかわらず、近年は国内中小企業が多くで経営者の高齢化が進んでおり、事業承継のタイミングを迎えています。しかし、後継者不在である企業も多く、廃業の選択をせざるを得ないケースも少なくないのが実情です。
後継者がいない企業が事業承継を目的にM&Aを行い、第三者(企業)へ警備会社を譲渡する動きも活発化しています。
警備会社・警備業界のM&A・事業承継の案件例
弊社M&A総合研究所が取り扱っている警備会社・警備業界のM&A・事業承継の案件例として、北陸地方の警備・点検業をご紹介します。
北陸地方で2号警備を中心とした警備業を展開している企業です。毎期安定的に民間建設会社等から受注をしており、全国的に対応可能です。
エリア | 中部・北陸 |
売上高 | 5000万円〜1億円 |
譲渡希望額 | 1000万円〜5000万円 |
譲渡理由 | 後継者不在(事業承継) |
警備会社・警備業界のM&A・事業承継の事例
ここでは、警備業界で行われたM&A・事業承継の事例をピックアップして紹介します。
綜合警備保障によるカンソーの子会社化
ALSOK(綜合警備保障)は、2024年9月にカンソー(大阪市)を子会社化する契約を締結しました。ALSOKは、国や地方公共団体、金融機関、一般企業、個人向けに多様な警備サービスを提供しており、ファシリティマネジメント(FM)事業や介護事業など、事業領域を拡大しています。
FM事業では、建物設備の点検や修繕、防火防災管理、設備の異常対応などを行い、2024年7月には警備員が専門家の支援を受けて高度な分析や対処を行う「ALSOK設備レスキュー」を全国展開するなど、サービスの質向上に努めてきました。
カンソーはビルメンテナンス業と警備業を手がけており、本件M&Aにより、ALSOKは関西圏でのFM事業の拡大と強化を図り、同事業における人材確保や生産性向上といった課題への取り組みを推進します。これにより、地域におけるサービス基盤を強化し、競争力の向上を目指します。
セントラル警備保障による東亜警備保障の子会社化
2023年4月、セントラル警備保障は、東亜警備保障の株式を取得して子会社化しました。セントラル警備保障は、施設警備・防火・防災の安全管理・ホームセキュリティなど、主に機械警備を展開しています。
子会社となる東亜警備保障は、常駐警備・運輸警備・機械警備などを栃木県内エリアを軸に行う企業です。セントラル警備保障は東亜警備保障をグループ傘下とすることにより、機械警備業の強化とエリア拡大を図り、グループの収益最大化を目指すとしています。
共栄セキュリティーサービスによる合建警備保障の子会社化
2023年2月、共栄セキュリティーサービスは、合建警備保障株式会社の全株式を取得し子会社化すると発表しました。警備業を手掛ける共栄セキュリティーサービスは、施設警備業務・交通誘導警備業務など人的警備事業をグループとして展開しています。
子会社となる合建警備保障は徳島県に本社を置き、四国・関西エリアで警備業を行う企業です。共栄セキュリティーサービスは、合建警備保障を傘下に加えることにより、四国を含む広域エリアでの事業展開を拡大するとともに、人的警備事業の体制強化を図るとしています。
センコーグループHDによる日制警備保障の子会社化
2023年02月、センコーグループホールディングスは、日制警備保障の全株式を取得して子会社化しました。大手物流企業のセンコーグループホールディングスは、物流・商事・ビジネスサポートなどさまざまなサービスを行っています。
子会社となった日制警備保障は、大手ゼネコン建築現場での重機誘導や交通誘導、常駐警備業務などを手掛ける企業です。日制警備保障は、センコーグループのもつ警備ニーズを取り込むことで事業のさらなる拡大を図れるとしています。
また、センコーグループホールディングスは、日制警備保障をグループ傘下に加えることで警備事業・人材派遣事業などの拡大が見込めるとし本M&Aに至りました。今後は、総合人材ビジネス事業やビジネスサポート事業の領域拡大を進めていくとしています。
共栄セキュリティーサービスによるダイトーセキュリティーの子会社化
2022年8月、共栄セキュリティーサービスは、ダイトーセキュリティーの全株式を取得して子会社化しました。共栄セキュリティーサービスは、施設警備業務などの人的警備事業を行う企業です。
子会社となったダイトーセキュリティーは人的警備事業を手掛けており、施設警備業務業・交通誘導警備業などを東京・神奈川エリアを中心に展開しています。
共栄セキュリティーサービスは、顧客接点やリソースを相互括用することでさらなる事業拡大を図ることを目的でM&Aに至りました。
セコムによるセノンの子会社化
2022年7月、セコムは総合セキュリティ企業セノンの株式(議決権所有割合は55.1%)を取得して子会社化しました。セコムは、主軸であるセキュリティ事業のほか、防災事業・保険事業・メディカル事業などを手掛けています。
子会社となったセノンは、機械警備業務・常駐警備業務・航空保安業務などを行う企業です。セコムは、セノンのもつ総合セキュリティ事業の実績・経験と自社のノウハウ・技術力を融合することで、高品質・高効率のサービス提供実現を目指すとしています。
東洋テックによる五大テックの子会社化
2022年4月、東洋テックは五大テックの全株式を取得して子会社化しました。東洋テックは、ビル総合管理業、機械警備・輸送警備等の警備事業を手掛ける企業です。
子会社となった五大テックは、主軸であるセキュリティ事業のほか、環境事業や不動産事業なども行っています。
東洋テックは、施設警備業務のリソース・ノウハウを相互活用することで、主軸とする警備事業およびビル管理事業との一体運営体制を構築できるとし、本M&Aを実行しました。
綜合警備保障によるALSOKリースの吸収合併
2022年4月、綜合警備保障は、完全子会社であるALSOKリースを吸収合併しました。本件では、綜合警備保障が存続会社、ALSOKリースが消滅会社となります。
ALSOKリースは、綜合警備保障グループの顧客に対して、防犯カメラ・出入管理装置などの警備機器、自動火災報知機などの防災設備をはじめとした物件のリースおよび割賦販売を行う企業です。綜合警備保障は、グループ体制の効率化を図ること目的として、吸収合併することを決断しています。
アウトソーシングによるアーク警備システムとアークミライズの子会社化
2021年10月、アウトソーシングは、アーク警備システムとアークミライズ、2社の全株式を取得して子会社化しました。アウトソーシングは、国内の技術系・製造系・サービス系アウトソーシング事業や労働者派遣事業などを手掛けています。
子会社となったアーク警備システムとアークミライズは、ともに交通誘導警備業・雑踏警備業を行う企業です。アウトソーシンググループは、本M&Aにより高度化・多様化するニーズに対して効果的なサービスを提供し、グループの事業における業容拡大と安定化を図るとしています。
セントラル警備保障によるワールド警備保障の子会社化
2021年6月、セントラル警備保障は、ワールド警備保障(現:CSP東北)の全株式を取得して子会社化しました。セントラル警備保障は、施設警備からホームセキュリティまで幅広く展開する警備会社です。
子会社となったワールド警備保障は、宮城エリアを中心に警備業務機械や防犯防災機器の販売を手掛けています。本件M&Aは、東北エリアでの事業拡大と収益の最大化を目的として行われました。
エルテスセキュリティインテリジェンスによるアサヒ安全業務社の子会社化
2020年12月、エルテスセキュリティインテリジェンス(現:AIK)は、アサヒ安全業務社の株式すべてを取得し、完全子会社化しました。本件M&Aの取得価額は6億5,000万円です。
エルテスセキュリティインテリジェンス(現:AIK)は、東京都千代田区を拠点に、警備DXに関するソリューションの開発・提供および警備業を手掛けています。子会社となったアサヒ安全業務社は、横浜市を拠点に警備業を行う企業です。
エルテスセキュリティインテリジェンス(現:AIK)は、デジタル新時代の新たな警備業を創出するうえで、自社で各種検証などが必要と判断して本M&Aに至りました。
東洋テックによる明成の子会社化
2020年10月、東洋テックは明成の全株式を取得して子会社化しました。東洋テックは大阪府大阪市に本社を置く企業で、関西で最初に設立された警備会社です。
子会社となった明成は、奈良県大和高田市を拠点に、消防用設備や監視カメラなどの電気工事事業を手掛けています。東洋テックは明成の電気工事業のノウハウ・リソースを新たに取り込み活用することで、グループにおける警備事業およびビル管理事業との一体運営や人的資源の相互活用などを図ることが目的です。
セコムによるマレーシアとシンガポールのセキュリティ会社の子会社化
2020年10月、セコムはADTシンガポールの全株式を取得して子会社化しました。また、同年9月には、ADTマレーシアの株式すべてを取得し、同様に完全子会社化しています。
セコムは日本初の警備サービス会社です。グループとしては日本国内のほか、海外21の国・地域に事業展開しています。子会社となった2社は、シンガポールおよびマレーシア国内で、家庭・中小企業を主な対象としてセキュリティシステムの提供事業を運営している企業です。
本件M&Aにより、買収側では、アジアで増加傾向にある富裕層・中間層を含む新たな成長市場への事業展開を目指しています。
セコムと共栄セキュリティーサービスの資本業務提携
2020年5月、セコムは、共栄セキュリティーサービスとの間で資本業務提携を締結しました。
セコムは、防犯・防災商品から家のセキュリティ、法人向けの警備や情報セキュリティまで幅広いサービスを提供している企業です。対する共栄セキュリティーサービスは、東京都千代田区を拠点に、警備業を手掛けています。
本件M&Aにより、買収側・売却側では、シナジー効果の創出および警備業務品質の向上・効率化を図っています。
綜合警備保障によるらいふHDの子会社化
2020年4月、綜合警備保障は、らいふホールディングスの全株式を取得して子会社化しました。らいふホールディングスは、介護事業を展開する「らいふ」を中核として、食品検査・衛生管理を主要なサービスとする「エムビックらいふ」を通じて、社会課題を解決する社会使命事業に取り組んでいる企業です。
本件M&Aの目的は、綜合警備保障は周辺分野への事業領域の拡大、らいふホールディングスは綜合警備保障の営業基盤を活用した介護事業の発展です。
警備会社・警備業界のM&A・事業承継のメリット
ここでは、警備会社・警備業界のM&A・事業承継メリットにはどのようなものがあるのかを、売り手・買い手それぞれの立場からみていきます。
売り手のメリット | 買い手のメリット |
・後継者問題の解決 ・社員の雇用を維持できる ・グルーブ傘下として経営の安定化 ・売却による資金獲得 ・個人保証や担保を解消 |
・事業の拡大 ・人材や警備設備の獲得 |
売り手のメリット
売り手のメリットとしては主に以下が挙げられます。
後継者問題の解決
団塊世代の経営者は引退の時期にさしかかっていますが、国内の中小企業では後継者不在に悩むケースが非常に多く、事業承継問題は国の課題となっています。
警備業界でも同様の傾向がみられ、黒字経営であるにもかかわらず後継者不在のために廃業を決断するケースも多いのが現状です。
後継者候補がいない場合はM&Aを事業承継手段として活用することができ、第三者(企業)を後継者として事業を引き継ぐことができます。
社員の雇用を維持できる
警備業界のニーズは高いとはいえ、中小規模の警備会社では厳しい経営状態が続いているところも多いです。その一方で黒字であっても経営者の周りに後継者候補がいない警備会社もみられます。
どちらも何も対策しなければ、最終的に廃業せざるを得なくなったり、倒産の危機に陥ってしまったりする可能性が高く、そうなれば従業員を解雇しなければなりません。
しかし、M&Aによって自社を売却すれば雇用契約はそのまま買い手企業へ引き継がれるため、従業員の雇用を守ることができます。
グルーブ傘下として経営の安定化
M&Aの買い手側となる企業は中堅・大手であることが多く、売却側企業より規模が大きいケースがほとんどです。M&Aによって買い手企業のグループ傘下となれば、経営の安定化が図れます。
さらに、資金・人材・ノウハウを相互活用でき、シナジー発揮による事業の拡大や自社の成長に期待もできる点も売却側のメリットです。
売却による資金獲得
警備会社・警備業界のM&Aでは、売り手は売却による利益を得られることもメリットです。M&Aスキームに株式譲渡を用いた場合、株式譲渡益は現経営者(創業者)が現金で受け取るかたちになります。
「創業者利潤」とも呼ばれるものですが、これは経営者が自由に使うことができる資金です。引退後の生活費に充てたり、新しい事業にチャレンジしたり、さまざまな使い道があるでしょう。
個人保証や担保を解消
M&Aによって警備会社を売却(株式譲渡)した場合、自社の資産だけでなく負債も買い手が引き継ぎます。
経営者個人が金融機関などから融資を受けた際に負った個人保証や担保は負債にあたるため、これらも原則として買い手が引き継ぐかたちです。
個人保証や担保を負っていることは経営者にとって大きな負担となるので、これらが解除されることはM&Aの非常に大きなメリットといえるでしょう。
買い手のメリット
買い手のメリットとしては主に以下が挙げられます。
事業の拡大
警備会社・警備業界のM&Aでは、買い手が事業規模・エリアの拡大を目的として行うケースも多いです。同業種の企業を傘下に加えた場合は売り手の顧客をそのまま引き継げるため既存事業の規模・エリアの拡大が図れ、売り上げ増加を見込むことができます。
関連性の高い業種や異業種を傘下に加える場合は、互いの得意分野やノウハウ・技術などを融合させることで、新たなサービス・事業の展開が可能です。
効率的かつ効果的に事業拡大ができるのは、買い手にとって大きなメリットとなるため、中小規模の警備会社や異業種の会社を買収するケースが多くみられます。
人材や警備設備の獲得
警備会社の多くは人材不足が課題となっています。新規採用で人材を確保する方法もありますが、未経験者が警備員業務にあたる場合は事前研修を受けさせなければならないため、現場に出て業務にあたれるようになるには時間が必要です。
また、センサーなどの警備機器は警備会社に不可欠なものですが、近年は高性能・高機能な設備が多く、一度に大量に揃えるとなればかなりの費用がかかります。
M&Aで警備会社を取得すれば、経験のある従業員と警備設備を一度に獲得することができ、時間とコストを大きく削減できる点は買い手の大きなメリットです。
警備会社・警備業界のM&A・事業承継の相場と費用
実際に警備業界で行われたM&A・事業承継の費用の相場を具体的に算定するのは難しいですが、企業価値に関しては一定の傾向があります。ALSOK・セコムなどの警備業界の大手は、いずれも売れ行きが好調で黒字が続いています。
これらの大手が買収される可能性は低いですが、黒字経営が今後も続く場合、企業価値は必然的に高いです。これに対して、中小の警備会社は財務基盤が不安定であり、人員をある程度確保していても、設備投資が追い付いていないケースがあります。
そのため、大手の警備会社と中小の警備会社では、設備の内実から企業価値が大きく異なるといえるでしょう。
会社売却の手数料の相場やかかる費用については、下記の記事でも詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。
警備会社・警備業界のM&A・事業承継の成功ポイント
本章では、警備会社・警備業界を対象とするM&A・事業承継の成功ポイントを、買い手側・売り手側に分けて順番に解説します。
買い手側のポイント
警備業界のM&Aは盛んに行われていますが、M&Aで企業を買収すれば必ず成功するわけではありません。警備業界におけるM&Aを成功させるために、買い手が見るべきポイントを解説します。
スキルの高い警備員をどれくらい雇用しているか
警備業界のM&Aを成功させる1つ目のポイントは、スキルの高い警備員をどれくらい雇用しているか確認することです。警備業界は労働時間の長さが特徴であり、敬遠されやすい業界です。そのため、業界全体で慢性的に人材不足に悩まされています。
しかし、M&Aによる買収でスキルの高い警備員を引き抜ければ、人材不足が解決できます。M&Aで買収する企業におけるスキルの高い警備員の数は、あらかじめ確認しましょう。具体的には、警備員歴が10年以上の人材は高いスキルを持つ警備員であり、即戦力として期待できます。
定期的な受注がある取引先を抱えているか
M&Aの成功に向けた2つ目のポイントは、定期的な受注がある取引先を抱えているか確認することです。定期的に仕事が受注できる取引先が複数ある企業を買収できれば、M&A直後から売上の計上が見込めます。
また、既存の警備事業と合わせて事業規模の拡大も可能になるため、警備業界でのM&Aを実行する場合は相手企業が抱えている取引先を確認するようにしましょう。一般的には、取引先が多いほどM&A後に安定した売上が期待できます。
安定した財務基盤があるか
M&Aの成功に向けた3つ目のポイントは、安定した財務基盤があるか確認することです。買収先企業の財務基盤が安定していると、自社の財務基盤が安定する可能性が高まります。また、自社の財務基盤が安定すれば、設備投資を行いやすくなります。
近年の警備業界は、設備投資に多額の費用を要する機械警備に対してニーズが集中しています。そのため、機械警備のニーズに対応するためにも、M&Aを実行する買収先企業の財務基盤はあらかじめ確認しましょう。
M&Aをお考えの場合は、ぜひ一度M&A総合研究所にご相談ください。M&A総合研究所では、支援実績豊富なアドバイザーによる専任フルサポートを行っています。
料金体系は成約するまで完全無料の「完全成功報酬制」です。(※譲渡企業様のみ。譲受企業様は中間金がかかります)M&Aに関して、無料相談をお受けしておりますのでお気軽にお問い合わせください。
売り手側のポイント
続いて、警備業界を対象とするM&Aにおける売り手側の成功ポイントの中から、代表的なものを2つピックアップし、順番に解説します。
安定的な収入源の確保
これは警備業界に限りませんが、収入が安定している企業であるほど、買い手にとって魅力的な買収案件に映ります。そのため、M&Aを成功させたいならば、まず安定的な収入源となる業務案件を確保することが望ましいです。
すでに安定的な収入源を確保しているならば、取引先・顧客リストをまとめて、買い手に対して積極的にアピールすることをおすすめします。
警備員のスキル向上
警備業界では慢性的な人材不足が深刻化しているため、経験・スキルが豊富に有するスタッフに対する買い手側からのニーズが非常に高いです。そのため、優秀なスタッフを多く抱えているほど、警備会社を高値で売却できる確率が上昇します。
まずは、自社が抱えるスタッフのスキルアップに努めると良いです。具体例を挙げると、機械警備など高いニーズが見込める事業で経験を積ませたり、警備関連の資格を取得させたりする施策が効果的です。
また、労働条件を改善し、警備員が長期に働いてくれる環境を構築することも重要です。これにより、買い手側から高く評価されやすくなります。
警備会社・警備業界のM&A・事業承継の注意点
警備業界で廃業せず成長していくために、M&A・事業承継は効果的な方法です。しかし、M&Aには注意点があるため、メリットのみをみてM&Aを決定するのは危険です。そこで、警備業界でのM&Aに関する注意点および解決方法を解説します。
社員待遇の悪さが離職を促す
M&Aを行う場合は、社員の待遇を改善しましょう。M&Aが成功しても、買収先企業の社員待遇が良くなければ、社員の満足度が低下し離職を促すおそれがあります。
警備業界では設備投資を目的に人件費を下げる傾向があるため、長時間労働に対して低賃金の待遇制度を敷く会社も少なくありません。
警備業界は常に人手不足に困っているため、社員の離職は深刻な業績悪化を招くリスクを伴います。優秀な社員の流出を防ぐためにも、待遇の改善を取り入れて社員の満足度を高めておくとよいでしょう。
海外企業の買収も視野に入れるべき
警備業界のM&Aで買収を検討しているならば、海外企業を視野に入れるのもよい方法です。海外の警備会社の買収は、安定した財務基盤の確保に適した手段であり、過去には、セコムが海外のホームセキュリティ会社を買収し、海外進出を果たした事例もあります。
しかし、自社に合うパートナーとなる海外企業を探すのは大変です。また、海外企業とのM&Aは、企業文化の違いが原因でトラブルが発生することもあります。
このようなトラブルを防ぐためには、相手企業との交渉は綿密に行うことが重要です。海外企業との交渉が不安な場合は、M&Aに必要なサポートが受けられるM&A仲介会社を利用することをおすすめします。
海外進出の課題については、下記の記事でも詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。
M&A・事業承継時におすすめの相談先
警備会社・警備業界のM&A・事業承継時におすすめの相談先をご紹介します。
金融機関
近年、金融機関がM&Aサポートを専門とする部門を設立する動きが活発化しています。特に、投資銀行やメガバンクといった大手金融機関では、ファイナンシャルアドバイザー(FA)としてM&A取引のサポートに積極的に取り組んでおり、資金調達支援や戦略立案を通じて、取引を円滑に進める役割を果たしています。
これらの金融機関を活用する最大の利点は、資金調達における高度な専門知識を活用できる点と、事業承継時の株式移転などの複雑な課題にも対応できることです。また、M&Aに豊富な経験を持つ専門家と直接連携できるため、取引成功の可能性を高めることも期待されます。
ただし、これらの大手金融機関は、取引規模が大きい案件を優先する傾向があるため、中小企業の取引では十分なサポートを得られない場合もあります。したがって、支援機関を選ぶ際は、自社の規模やニーズに合致するかどうかを慎重に見極めることが重要です。
さらに、アドバイザリー報酬が高額になるケースも多いため、契約前に費用面を十分に確認し、コスト負担について納得した上で依頼することが必要です。
公的機関
近年、事業承継やM&Aに対する公的支援体制が急速に整えられつつあります。
「事業承継・引継ぎ支援センター」は、全国47都道府県に展開されており、後継者不足に悩む中小企業向けの相談窓口として設置されています。このセンターでは、事業承継やM&Aに関する情報提供やアドバイス、企業間マッチングのサポートを無料で受けられるため、地方の中小企業でも専門的な支援を容易に得られるのが大きなメリットです。
また、個人事業主への支援も充実しており、希望があればM&A仲介会社や専門家を紹介してもらうことも可能です。ただし、民間のM&A仲介会社と比較すると、対応スピードや柔軟性の面で限界がある場合があるため、利用する際にはその点を把握しておく必要があります。
このように、公的な支援機関は信頼性の高いサポートを提供する相談窓口として、事業承継やM&Aを検討している企業にとって、有効な選択肢の一つとなっています。
M&A仲介会社
M&A仲介会社は、企業間の売買を総合的にサポートする専門機関で、売り手と買い手の双方に対して包括的な支援を提供しています。具体的には、取引相手の選定や交渉の仲介、取引スケジュールの管理、企業価値の算定(バリュエーション)、契約書の作成など、M&Aの全工程において様々な支援を行います。
彼らの役割は、売り手と買い手の希望や条件を調整し、スムーズな取引成立をサポートすることです。特に、広範なネットワークを駆使して最適な取引先を見つけ出すことに優れており、M&A成立の可能性を高めることが得意です。さらに、M&Aの経験が浅い企業に対しては、実践的なアドバイスを提供し、取引全体が円滑に進むよう支援します。
一方で、仲介会社の利用にはコスト面の負担が発生することもあり、着手金や中間報酬といった手数料がかかる場合があります。そのため、費用を抑えたい場合は、成功報酬型の手数料体系を採用している仲介会社を選択するのが賢明です。
警備会社・警備業界のM&A・事業承継まとめ
警備業界は全体的に好調でニーズが高まっている一方で、長時間労働の傾向が強く低賃金でもあるため、人手不足の企業も多いです。こうした状況を打開するためにも、大手を中心としたM&A・事業承継による業界再編は今後も続くと考えられます。
また、異業種とのM&Aによって新たなサービスが次々と展開し、多方面でのシェア拡大も見込まれます。警備業界は、M&Aの有効性や多様なスタイルが見られる貴重な現場といえます。
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株式会社日本M&Aセンターにて製造業を中心に、建設業・サービス業・情報通信業・運輸業・不動産業・卸売業等で20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、アドバイザーを統括。ディールマネージャーとして全案件に携わる。