M&Aとは?意味や動向とM&Aを行う目的・メリットなどをわかりやすく解説!
2024年11月23日更新業種別M&A
食品卸売業界のM&Aの現状は?動向や事例から注意点も解説!
本記事では、食品卸売業界のM&Aの現状や動向から、売却のフロー・注意点、食品卸売業界でM&Aが行われる理由や価格相場などを解説しています。食品卸売業とは、製造業者と小売業者の間に入り、仕入れた食品を納品する事業者です。M&Aを検討している方は必見です。
目次
食品卸売業界の市場動向
M&Aを検討している場合は、あらかじめ業界の特徴や動向を把握しておくことが重要です。
ここでは、食品卸売業界の特徴や市場規模、課題について詳しく説明します。
食品卸売業界とは
製造業者と小売業者・飲食店をつなぐ食品卸売業界には、食品を製造業者から仕入れて小売業者・飲食店などへ納める事業者が属しています。
主な納入先には、スーパー・コンビニエンスストア・ホームセンター・ドラッグストアなどの小売業者や、レストラン・居酒屋・観光施設などの飲食店などです。そのほか、食品卸売業者の二次卸を納入先とする業者も同業界に含まれます。
食品卸売業界の特徴
食品卸業者は流通段階別に以下の3つに分類されます。
- 一次卸:生産業者や海外から商品を直接仕入れ、小売業者や製造会社、次の段階の卸売業者に販売する元卸
- 二次卸:商品を一次卸から仕入れ、次段階の卸売業者に販売する中間卸
- 三次卸:商品を二次卸から仕入れ、小売業者や産業用使用者、製造会社、海外などに販売する最終卸
食品卸売業は、売上原価の割合が非常に高いのが特徴として挙げられます。三井住友銀行の「食品卸業界の動向と戦略の方向性」の調査によると、食品卸業界の売上原価率は84%を占め、販管費も高くなっているため、食品卸業者上位10社の経常利益率は1%を切っているのが現状です。
したがって、業界では、物流拠点の再編やIT技術を活用するなど、物流コストをどう削減するかが大きな課題となっています。
食品卸売業界の市場規模
統計局が公表している「日本の統計 2023」での「卸売業・小売業の業種別販売額」によると、卸売業における2023年の販売額は「農畜産物・水産物」が33兆7,730億円、「食料・飲料」53兆4,330億円でした。
これをみると、食品卸売業界の市場規模は約72兆9,380億円であり、2005年~2010年にかけて一旦は市場規模が縮小ましたが、2011年以降は再び市場が拡大しているのがわかります。
また、食品卸売業界の市場規模は、短期的な観点では、食品価格の上昇に伴う取引額増により売上高が増加傾向にあります。さらに、中食などのチルド品、冷凍食品などの需要増加に伴い、市場規模は拡大傾向です。
参照:総務省統計局「日本の統計 2023」
食品卸売業界の課題・将来性
近年、スーパーやコンビニのような大手小売店が増え、これらの店が製造業者や大手卸売業者から直接商品を受け取る「直取引」が増えてきました。これは、多くの人が注意している問題です。さらに、運送費の上昇や日本の人口減少により、商品の需要が減少することも心配されています。
しかし、食品の卸売業者はこの困難に対応するために、地域に密着したビジネスや他の地域との合併・買収(M&A)を活用して、ビジネスの基盤を強化しようとしています。さらに、海外、特にアジア太平洋地域では、人口が増えて生活水準が上がってきており、生鮮食品の需要が増えています。
そのため、冷蔵・冷凍の連続管理ができる「コールドチェーン」の物流施設を整え、この地域でのビジネス拡大が食品卸売業者にとっての成功の鍵となるでしょう。
食品卸売業界のM&Aの動向5選
製造業者と小売業者とをつなぐ役割を担う食品卸売業界のM&A動向には、主に以下5つの特徴がみられます。
【食品卸売業界のM&A動向】
- 競争力のない企業がM&Aを選択
- 大手企業はM&Aを積極的に活用
- 他企業とのM&A・業務提携も増加
- 販路の拡大を目指し異業種へのM&Aも見られる
- 海を超えた海外市場へのM&Aも増加
①競争力のない企業がM&Aを選択
食品卸売業界のM&A動向にみられる一つ目の特徴には、競争力不足の企業によるM&Aの選択があります。
小売先の代表格でもあるドラッグストアやコンビニエンスストアでは、近年食品の取扱量が増えており、食品卸売業者は取引先のニーズに対応できる体制が必要になります。
さらに、物流に掛かるコストの高まりがみられることから、効率のよい物流体制の構築や採算の取れない取引の見直しといった対応も求められるでしょう。
このような市場の動きに対応できない事業者は、ライバル企業との競争に勝てないためM&Aによる会社・事業の売却を選択していると考えられます。
②大手企業はM&Aを積極的に活用
食品卸売業界のM&A動向にみられる2つ目の特徴には、大手による積極的なM&Aの増加です。大手企業はより多くの食品を取り扱うため、M&Aによる買収を積極的に活用しています。
例えば、加工・冷凍・チルド食品の卸売業を営む旭食品株式会社は、2015年と2017年に酒卸売会社を買収した事例です。
そのほかにも、一般向け加工食品や冷凍食品、酒類などの卸売業に従事するヤマエ久野株式会社は、2017年に酒類の卸売会社、2016年に菓子の卸売会社へのM&Aを行っています。
③他企業とのM&A・業務提携も増加
食品卸売業界のM&A動向にみられる3つ目の特徴には、他企業とのM&Aや業務提携の増加です。食品卸売業界では、市場環境の変化に対応するために他企業とのM&A・業務提携を行うケースも増えています。
過去に行われた事例では、2011年に三菱食品株式会社が明治屋商事株式会社・株式会社サンエス・株式会社フードサービスネットワークと株式交換を行い、各社との統合を済ませていました。
2015年には、国分グループと丸紅が互いのグループ企業(食品卸売業者)への出資に合わせた提携を行い、流通事業の変化に対応しています。
④販路の拡大を目指し異業種へのM&Aも見られる
食品卸売業界のM&A動向にみられる4つ目の特徴には、販路の拡大を目指し異業種へのM&Aが見られるケースです。
例えば、米の卸売業を営む株式会社神明ホールディングスは、米の販売・加工業者(コメックス)の株式取得、居酒屋・飲食店(ワタミ/アスラポート・ダイニング)などへの出資を行い、米の卸先を増やしています。
⑤海を超えた海外市場へのM&Aも増加
食品卸売業界のM&A動向にみられる5つ目の特徴には、海外市場へのM&Aの増加です。近年は、海外での事業拡大を目的としたM&Aも増加傾向です。
国分グループ本社株式会社は、2017年にマレーシアの食品卸売会社・Focal Marketingの株式を取得し、関連会社としています。
加藤産業株式会社も海外における食品流通事業を強化するために、2015・2016・2018年に、シンガポール・ベトナム・マレーシアの加工食品または食品卸売会社と株式譲渡を行い、対象会社を子会社としています。
食品卸売業界のM&A事例7選
ここでは、実際に行われた食品卸売業界の主なM&A事例をみていきましょう。
- 加藤産業×Song Ma Retail Joint Stock Company
- トーカン×三給
- 国分グループ本社×ヨシムラ・フード・ホールディングス
- 西原商会×Eatreat
- マルハニチロ×大都魚類
- 久世×東京中央食品
- 伊藤忠食品×エブリー
①加藤産業×Song Ma Retail Joint Stock Company
加藤産業は2021年4月、Song Ma Retail Joint Stock Companyの株式を取得し、子会社化しました。
加藤産業は、加工食品・菓子類・低温食品・酒類などの卸売、プライベートブランド (PB) 商品の「カンピー」製造および販売を行っています。
対象会社であるSong Ma Retail Joint Stock Companyは、ベトナム南部のホーチミン・メコンデルタを中心に加工食品卸・輸入販売業を展開する企業です。
加藤産業は、ベトナムのハノイやホーチミンで事業を展開していますが、今回のM&Aによってホーチミンよりさらに南部のメコンデルタへの商圏拡大を目指します。
②トーカン×三給
トーカンは2021年4月、三給の全ての株式を取得し子会社化しました。トーカンは、名古屋市に拠点を置く食品卸売業者で、中部エリア一の卸グループを目指しています。
対象会社である三給は岡崎市に拠点を置き、東海地区における給食市場向けの食品卸売事業を手掛ける企業です。
今回のM&Aにより、三給は給食市場への進出と、中食・総菜部門の売上拡大を目指します。さらに、物流の合理化などの取り組みを進めるとしています。
③国分グループ本社×ヨシムラ・フード・ホールディングス
国分グループ本社は2021年2月、ヨシムラ・フード・ホールディングスと資本業務提携契約を締結しました。
国分グループ本社は、老舗の食品・酒類の総合卸売業者です。ヨシムラ・フード・ホールディングスは、中小の食品会社を傘下に持つ持株会社で、経営課題を抱える食品系中小企業に対して、独自に構築した「中小企業支援プラットフォーム」を提供・支援しています。
今回の資本業務提携により、国分グループの長期経営計画で目指している食のバリューチェーンである共創圏の構築に向けて中長期的なパートナーシップを結び、 エリアメーカーの支援をとおして「地域密着全国卸」の実現を目指します。
④西原商会×Eatreat
業務用食品卸会社の西原商会は、2020年10月、Eatreat(イートリート)をグループ傘下に加えました。
対象会社であるEatreatは、管理栄養士・栄養士向け応援サイト「Eatreat」の運営を行っていましたが、コロナ禍の影響で解散の瀬戸際に追い込まれていました。
今回のM&Aにより、西原商会のグループでの新たな取り組みを開始し、既存事業とのシナジー効果により売上拡大を目指します。
⑤マルハニチロ×大都魚類
マルハニチロは2020年3月、大都魚類に対してTOBを行い、完全子会社化しました。
大都魚類は、水産卸業者の大手でマルハニチロの漁獲物や水産商品の販売を受託しています。東京都指定の卸事業者で豊洲市場でセリなどを手掛けていますが、国内の漁獲量減少の影響や魚介類消費量の低下などにより経営が圧迫などしており、業績が低迷していました。
これまではマルハニチロの子会社が大都魚類に約50%出資している状態でしたが、今回のTOB成立によって完全子会社となりました。
今回のM&Aにより、グループの水産物サプライチェーンを再構築や事業効率化、収益基盤の強化を図ります。
⑥久世×東京中央食品
久世は2020年2月、東京中央食品と資本業務提携を行うことを発表しました。久世は、業務用食材卸として、首都圏以外に中部圏、関西圏にも顧客対応の物流網を保有しており、外食企業向けに食材・資材を提供しています。
対象会社である東京中央食品は、東京と神奈川の全域、千葉・埼玉の一部の地域で、病院や老人福祉施設向けの食材販売をする給食事業者向けの食材卸会社です。
今回の資本業務提携により、両社の協力体制を充実させ、事業規模の拡大と業務効率化を目指します。
⑦伊藤忠食品×エブリー
伊藤忠食品は2019年7月、エブリーと第三者割当増資、および業務提携契約を結びました。
伊藤忠食品は、酒類・食品の卸売を主要事業とする商社で、全国約4,000社のメーカーとの取引がある会社です。
エブリーは2015年よりレシピ動画メディア『DELISH KITCHEN』の運営をスタートし、多くのユーザーに動画レシピを提供しています。
今回のM&Aにより、エブリーのデジタル領域の知見およびコンテンツ力と、伊藤忠食品の小売業の店頭販促や送客施策のデジタル化の推進、次世代の技術を活かした販促提案を取引先へ向けての推進の連携を目指します。
⑧オイシックス・ラ・大地株式会社による株式会社アグリゲートのM&A
2024年3月、オイシックス・ラ・大地株式会社(以下「オイシックス」)は株式会社アグリゲートを連結子会社化しました。
オイシックスは東京都品川区に本社を構え、安全で安心な農産物やミールキットを提供する定期宅配サービス「Oisix」を運営する企業です。同社はサステナブルリテールの実現を目指し、食品サブスクリプションサービスを通じて家庭での食品廃棄削減やフードロスゼロに向けた取り組みを展開しています。
一方、アグリゲートも同じく東京都品川区に本社を置き、「旬八青果店」を運営しています。この店舗では契約生産者や全国各地の市場と連携し、ストーリー性のある農産品を開発・販売しています。また、アグリゲートは食と農業の新たなインフラ構築をミッションに掲げています。
今回のM&Aの目的は、両社が協力し、食品流通の効率化とフードロス削減を推進することにあります。さらに、両社の強みを活かした製品やサービスを通じて、食料供給の課題解決にも貢献することを目指しています。
⑨株式会社ヤマタネによる株式会社ショクカイのM&A
2023年8月、株式会社ヤマタネが株式会社ショクカイの全株式を取得し、子会社化しました。株式会社ヤマタネは、東京都江東区に本社を置く企業で、「物流」と「食の流通」を通じて豊かな社会の実現を目指しています。また、食の安定供給や循環資源ソリューションの提供を積極的に推進しています。
一方、株式会社ショクカイは東京都台東区に本社を構え、冷凍食品を中心とした弁当・給食向け業務用食品の卸売事業で業界をリードしています。同社は、強固な仕入基盤と商品開発力を活かし、効率的な物流体制で全国の取引先に安定した供給を実現するとともに、食品ロス削減にも注力しています。
このM&Aの背景には、ヤマタネが掲げる食品セグメントの戦略「産地の続くを支える」を強化する狙いがあります。ショクカイの全国的な販売網や経営資源を活用することで、サプライチェーンの強化と事業領域の拡大を図り、地域社会や地球環境に長期的な価値を提供することを目指しています。
食品卸売業界でM&Aが行われる5つの理由
食品卸売業界でM&Aが行われる理由には、主に以下の5つが考えられます。
【食品卸売業界でM&Aが行われる主な理由】
- 後継者問題の解決
- 従業員の雇用先を確保
- 精神的ストレスからの解放
- 廃業・倒産を回避
- 売却益を得てリタイア
①後継者問題の解決
経営者の年齢が引退年齢に達した時点で後継者を探しても、すぐにみつかるとは限らず、後継者の育成には時間がかかります。
そのようなケースで有効となるのが、M&Aによる第三者への事業承継です。もちろん、親族・役員・従業員に後継者となる人物がいる場合は、M&Aを行わなくても事業を引き継げます。
しかし、近年の中小企業では親族・社内の人間への事業承継が難しいケースも少なくないため、M&Aにより後継者問題を解決するケースが増えています。
②従業員の雇用先を確保
食品卸売業の会社を廃業するとなれば、自社の従業員は解雇せざるをえません。このような決断は経営者にとって非常に心苦しいですが、M&Aにより第三者に会社・事業を引き継げば、従業員の雇用先を確保できるでしょう。
株式譲渡では包括承継が基本となるため従業員もそのまま引き継げ、事業譲渡でも、個別に契約を結び直せば、買収側は雇用を引き継げます。
このように、従業員の雇用先を確保するために、食品卸業の会社・事業のM&Aを選択するケースもあります。
③精神的ストレスからの解放
食品卸売業は市場環境が変化しており、経営者は他社との競争に勝つための対応・対策に追われ、ストレスを抱えていることも少なくないでしょう。
事業承継により経営権の引き継ぎを終えても、個人保証・担保が経営者に残されている場合は返済の義務もストレスの原因になります。
食品卸売業を営む経営者には、抱えるストレスからの解放を望んでM&Aによる売却を選択するケースもみられます。
④廃業・倒産を回避
やむを得ず食品卸売業の廃業・倒産を選んだ場合でも、従業員の解雇や取引先への影響を考えると経営者には心理的負担が大きくなります。廃業をする場合でもコストはかかってしまうでしょう。
第三者へのM&Aを選択すれば、従業員の雇用先も確保でき、取引の継続も可能となり、廃業・倒産を避けられます。廃業コストが不要になることも大きなメリットといえるでしょう。
⑤売却益を得てリタイア
食品卸売業の経営者は、M&Aによって売却益(創業者利益)が得られます。株式譲渡を選択した場合は株主に売却益が入るため、自社の株式を保有する経営者なら、まとまった現金を得られるでしょう。
得た資金はリタイア後の生活に充てられるので、経営からの引退を望む場合にM&Aを選択するケースもあります。
食品卸売業界のM&Aの価格相場
食品卸売業界でM&Aを行う際は、価格相場をあらかじめ把握しておくと、売り手側にとって、安値で買いたたかれるケースや相場以上の金額を提示してしまうなどのケースを回避できるでしょう。
一方、買い手は、想定よりも高値で買収してしまい、資金回収ができなくなるリスクを回避できます。したがって、事前に食品卸売業界のM&A価格相場を算出したうえで、M&Aを進めていくようにしましょう。
食品卸売会社のM&A価格相場は、取引先の状況や物流・設備の状況などに大きく左右するといわれています。取り扱う商品や人材、将来得られるシナジー効果などによっても変動するでしょう。
一般的に食品卸売業では、中小企業の食品卸売会社であれば、「時価純資産+営業利益の2〜5年分」がM&A価格相場とされています。例えば、時価純資産が3,000万円、3年分の平均営業利益が1,500万円の場合、売却金額の目安は以下のとおり計算できます。
- 売却金額 = 3,000万円 + 1,500万円 × 3年 = 7,500万円
食品卸売会社のM&A・売却・買収の流れ
この章では、食品卸売会社のM&A・売却・買収の流れをみていきましょう。食品卸売会社のM&A・売却・買収は、一般的には以下のような流れで進みます。
【食品卸売会社のM&A・売却・買収の流れ】
- 仲介会社などへの相談
- 売却(買収)先の選定
- 基本合意書の締結
- デューデリジェンスの実施
- 最終契約書の締結
- クロージング
①仲介会社などへの相談
食品卸売会社のM&A・売却・買収を行うと決めたら、まずは仲介会社などへ相談をします。
会社・事業の売却・買収では、適切なスキームの選択や企業価値・取引価格を算出などに専門的な知識が必要になるため、M&A仲介会社に依頼して進めることが一般的です。
相談するときは、食品卸売業界のM&Aに精通しているM&A仲介会社などの専門家を選ぶのが良いでしょう。実績・業界知識が豊富にある専門家であれば、希望に沿った売却・買収の実現が可能です。
秘密保持契約書の締結
M&A仲介会社などの専門家に依頼する際は、秘密保持契約書を取り交わします。秘密保持契約書とは、重要な情報を外部に漏らさない旨を約束する契約書です。
M&Aを進める段階で、取引先・従業員へ情報が漏れてしまうと、M&Aの進行に影響を与えることにもなりかねません。
自社の重要な情報が外部に漏れてしまうと、経営にも影響が及んでしまいM&A自体が進められないケースも考えられるでしょう。
そのため、相談先の専門家とは秘密保持契約を結んで、情報の漏えいを防ぐとともに公開する情報を取り決める必要があります。
②売却(買収)先の選定
次は、売却・買収先の選定です。M&A仲介会社などに相談するといくつかの交渉先が紹介されるので、そのなかから自社の希望に合った相手を数社に絞りこみます。
その後、売却側は自社の名前を隠した資料(ノンネームシート)を買収側へ提出し、買収側は提出された資料から、自社の希望に沿う交渉先を決定するのです。
その後、買収側からの詳細な情報を求められたら、売却側は会社名などの情報を買収側に公開して、買収側の返答を待ちます。
両社が交渉を進めたいと希望した場合は、トップ同士の面談が行われ、経営者の人柄や経営方針などを互いに確認して交渉を進めるかどうかを見極めます。
意向表明書の提示
トップ同士の面談を終え、買収側がさらなる交渉を希望する場合は、売却側に対して意向表明書の提示をします。
意向表明書は、買収の意志を示す書面です。書類の提出は義務ではありません。しかし、売却側に対して買収を前向きに検討していることをアピールできるので、その後の交渉をスムーズに進められます。
③基本合意書の締結
ここまでの交渉で取り決めた内容に、売り手・買い手双方が大筋で合意したら、基本合意契約書を締結します。
基本合意契約書には、M&Aのスキームやスケジュール、取引価格、独占交渉権に関する事項などを記載します。
基本合意書自体には法的拘束力はなく、あくまでの現時点での合意内容になるため、デューディリジェンスの結果などにより変更されるケースもあるでしょう。
④デューデリジェンスの実施
基本合意書を締結したら、次は買い手企業による売り手へのデューディリジェンスが実施されます。デューデリジェンスでは、売却側が提示した情報について誤りがないか、隠れたリスクがないかなどを細かく調査します。
デューデリジェンスの実施を怠ってしまうと、承継後に偶発債務が発覚したり、訴訟問題などのリスクが見つかったりするケースもあるので、専門家による徹底した調査が必要です。
M&Aにおけるデューデリジェンスについては、下記の記事でも詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。
⑤最終契約書の締結
デューディリジェンスを実施して、売り手側の企業に問題がないことがわかったら、最終契約書の締結へと進みます。
最終契約書は、デューデリジェンスの結果を踏まえて最終交渉を行い、両社が条件・内容に合意した段階で締結されます。
最終契約書には法的な拘束力があるため、一方的な破棄は原則認められず、違反した場合は法的措置を取られる可能性もあります。
⑥クロージング
最終契約書を締結し、対価の支払いや譲渡対象・会社の代表印などの引き渡しを行い、M&A契約が完了します。M&Aではこれをクロージングと呼びます。
契約を締結した日にクロージングを完了したいなら、契約の締結日までに必要な手続きを済ませておくと、契約の締結とクロージングが同日に行うことも可能です。
食品卸売業界のM&A・売却時の5つの注意点
ここでは、食品卸売業界のM&A・売却時の注意点をみていきましょう。
【食品卸売業界のM&A・売却時の注意点】
- M&Aの準備は計画的に行う
- M&Aの目的を明確に設定
- 財務・会計情報に間違いがないことを確認
- 事業の強みを資料にまとめる
- M&Aの専門家に相談する
①M&Aの準備は計画的に行う
M&A・売却を効率的に進めるためには、事前の準備が不可欠です。自社の強みをまとめたり、ブラッシュアップを行ったりと済ませておくべき事項もたくさんあります。
計画的に準備を進めておかなければ、せっかくの売却機会を逃してしまったり、交渉がスムーズに進められなかったりするケースも考えられます。
そうなれば、予定していた期間で成約まで至ることは難しくなるため、M&A仲介会社など専門家にアドバイスをもらいながらしっかりと準備しておくことが大切です。
②M&Aの目的を明確に設定する
食品卸売業をM&A・売却する目的によって、最適なスキームや優先すべき条件は変わってきます。そのため、自社・事業の売却を進める際は、まずM&Aの目的を明確に設定しましょう。
事業の存続・後継者問題の解決・創業者利益の獲得など、目的は自社の状況で変わりますが、M&Aの目的を明確にしておけばM&Aアドバイザーなどの専門家からの的確なサポートが行えます。
③財務・会計情報に間違いがないことを確認する
買収側は、売却側から提出された資料をもとに、買収に見合った案件であるかを精査します。そのため、買収側に公開した情報に誤りがあると、後から大きな問題に発展する可能性も考えられます。
資料を作成する際は、まず自社の財務・会計情報に間違いがないかどうかをしっかり確認しましょう。
取引に影響が及ぶからといって、自社の情報を隠す行為も厳禁です。もし、連帯保証や未払いの残業代、社会保険への未加入、訴訟問題などがあれば、包み隠さずに買収側へ伝えることが重要です。
④事業の強みを資料にまとめる
買収側は、ほかの売却候補と比較して買収先を決定します。魅力的な会社・事業であると判断してもらうためには、食品卸売事業における自社の強みを把握し、正確に相手に伝えなければなりません。
具体的には、取り扱う食品の種類や物流の方法、仕入先や取引先、優秀な人材など、他社よりも秀でている点を資料にまとめておくとよいでしょう。
⑤M&Aの専門家に相談する
自社にM&Aの専門家を置いていない・初めてM&Aを行う企業は、M&A仲介会社などの専門家に相サポートを依頼しましょう。
M&A仲介会社は買収候補の紹介から成約までのトータルサポートを行っているので、売却のチャンスを逃さず、かつスムーズなM&Aの実現できる可能性が高くなります。
最近では、中堅・中小企業向けの案件を取り扱う仲介会社も増えており、無料相談を行っているケースも多いので、まずは相談してみるのがよいでしょう。
食品卸売業界のM&A・買収時の3つの注意点
食品卸売の会社・事業を買収する側には、どういった点に気を付ければよいのでしょうか。ここでは、買収側が注意すべきポイントを3つ紹介します。
- デューデリジェンスをしっかりと行う
- 買収先の従業員が離職しないように防ぐ
- M&Aの専門家に相談する
①デューデリジェンスをしっかりと行う
売却側は、自社をよく見せたいと考えるため、なかには正確な情報を提示しないケースもあります。そのため、デューディリジェンスをしっかりと行い、提出されたデータに誤りや不備がないかを確認するのが不可欠です。
徹底性を欠いたデューデリジェンスでは、承継後に思わぬリスクを負うことにもなりかねないため、専門家に依頼して調査するようにしましょう。
②売却側の従業員が離職しないように防ぐ
買収後の待遇や労働環境の変化によって、売却側の従業員が離職してしまうことがあります。従業員の離職に関するリスクを完全になくすことは難しいですが、優秀な従業員が辞めてしまっては戦力ダウンにもなってしまいます。
M&A・買収を行う際は、双方の雇用条件をしっかりと確認しておくとともに、売却側の従業員に対する説明やフォローも怠らないようにしましょう。
③M&Aの専門家に相談する
食品卸売業に限らず、M&Aによる買収では、専門知識と経験を兼ね備えたM&Aの専門家に協力を仰ぎましょう。
売却項の候補の紹介・適切なスキーム・買収額の提示はもちろん、成約までの手続きを自社のみで行うことは得策とはいえません。特に、デューデリジェンスは高い専門性が求められるので、M&A仲介会社への依頼をおすすめします。
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食品卸売業界のM&Aのまとめ
当記事では、食品卸売業界のM&Aに見られる動きをはじめ、売却・買収のフロー・注意するポイントなどを解説しました。
変化する市場の影響を受けて、食品卸売業者は離脱・生き残りのためには、売却・買収などのM&Aは有効な選択肢のひとつといえるでしょう。
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SIer業界の動向とM&Aのメリット!売却・買収事例や流れと注意点も解説!
本記事ではSler業界の動向とSler業界でM&Aを行うメリットを解説します。Sler業界は人手不足と新技術への対応に迫られ業界の再編が激しい業界です。実際に行われたM&A・売却...
鉱業業界のM&A動向!売却・買収事例3選と成功のポイントを解説!【2023年最新】
鉱業業界ではM&Aが活発化しています。資源需要増大や規制緩和が背景にあり、大手鉱業企業は新興市場や環境配慮型鉱業への投資を進めているのが鉱業業界の現状です。鉱業のリスク管理はM&...
木材業界のM&A動向!売却・買収事例5選と成功のポイントを解説!【2023年最新】
この記事では、木材業界のM&A動向について説明します。木材業界では、専門技術の獲得、コスト効率の向上のためにM&Aが活用されています。木材業界におけるM&A・売却・買収事...
漁業業界の動向とM&Aのメリット!売却・買収事例や流れと注意点も解説!
魚介類などの海洋資源は私達の生活に欠かせないものですが、漁業業界は厳しい市場環境が続いています。そのような中で、事業継続のためのM&Aを模索する動きも出てきています。この記事では、漁業業...
農業業界の動向とM&Aのメリット!売却・買収事例や流れと注意点も解説!
農業業界では担い手の高齢化と後継者不足による廃業危機に加えて、新型コロナをきっかけとした出荷額の低迷で経営状態が不安定化し、M&Aを検討せざるを得ないところが増えています。この記事では、...
海運業界の動向とM&Aのメリット!売却・買収事例や流れと注意点も解説!
この記事では、海運業界の動向を説明したうえで、海運業界でM&Aを行うメリットを解説していきます。近年のM&A・売却・買収事例も紹介して、M&A動向についても紹介していきま...
株式会社日本M&Aセンターにて製造業を中心に、建設業・サービス業・情報通信業・運輸業・不動産業・卸売業等で20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、アドバイザーを統括。ディールマネージャーとして全案件に携わる。