M&Aとは?意味や動向とM&Aを行う目的・メリットなどをわかりやすく解説!
2024年10月22日更新業種別M&A
燃料卸売・小売業界のM&A・事業承継の動向!事例や注意点も解説
各種エネルギー分野の技術革新などにより、燃料卸売・小売業界でも急激な変化に対応するためM&A・事業承継が積極的に行われています。本記事では、燃料卸売・小売業界のM&A・事業承継の動向、売却手続きの流れ、燃料卸売・小売業界のM&Aを行う際の注意点を解説します。
目次
燃料卸売・小売業界の現状
経済産業省「揮発油販売業者数及び給油所数の推移(登録ベース)」
出典:https://www.enecho.meti.go.jp/category/resources_and_fuel/distribution/hinnkakuhou/data/240729.pdf
燃料の卸売・小売業の一環であるガソリン(揮発油)の販売事業者や給油所の数は、減少傾向が続いています。
給油所の数は、1994年末には60,421カ所ありましたが、2023年にはその半分以下の27,414カ所にまで減少しました。また、ガソリン販売事業者も、1989年には32,835事業所が存在していたのに対し、2023年には12,407事業所まで縮小しています。
これらの減少の背景には、産業の進化や技術革新、国内外の情勢変化に伴う需要の変動が影響していると考えられます。
燃料卸売・小売業界のM&A・事業承継の動向
燃料卸売・小売業界のM&A・事業承継の動向には、以下のような特徴が見られます。
- 技術革新による必要燃料の変化に伴うM&A
- 海外市場を目指したM&A
- 自動車燃料販売の売り上げ低迷によるM&A
- 業界再編を視野に入れた大型のM&A
- 経営者の高齢化による事業承継
①技術革新による必要燃料の変化に伴うM&A
近年は、地球温暖化などの環境問題対策や産油国の地政学リスク回避のため、世界的に脱石油の動きが加速しています。そのため、燃料卸売・小売業界では、地球環境に優しいエネルギー事業に対応するためのM&Aが行われています。
例えば、ガス事業などを営む東邦ガスとヤマサは、2019年に東邦ガスがヤマサを子会社化する形で統合しており、ヤマサはエネルギー需要の変革に対応し、幅広いエネルギー関連事業を展開しています。
また、東邦ガスは、水素エネルギーへの取り組みや、スマートエネルギーシステムの研究・開発、リサイクル環境適合技術の開発を積極的に進めています。エネルギー需要の変化に対応した取り組みを進めている両社は、M&Aによってさらに事業の強化を実現している状況です。
②海外市場を目指したM&A
燃料のほとんどを海外からの輸入に頼っている日本で、燃料卸売・小売業界での成長を果たすには海外拠点の開拓が必要であるため、海外企業とのM&Aが積極的に行われています。
例えば、産業ガス事業などを展開する岩谷産業は、2019年にアメリカの産業ガスディーラーであるAdvanced Specialty Gasesを子会社を通じて買収しました。
岩谷産業の子会社「米国岩谷」は、特殊ガスや半導体ガス事業に強みを持つAdvanced Specialty Gasesを買収し、アメリカで半導体ガス事業の拡大を進めています。
また、東京ガスは、2017年にベトナムとインドネシアのガス配給事業会社に対して相次いで出資するなど、東南アジアと北米へエネルギー事業を拡大させています。
③自動車燃料販売の売り上げ低迷によるM&A
主に都市部で車に乗らない若者が増えたこと、ハイブリッドカーの普及や電気自動車の開発が進んでいることなどから、従来の自動車燃料の需要は落ちています。
そのため、自動車燃料販売以外の収益源を求めたM&Aも行われるようになってきました。例えば、グループ内で石油の卸売事業も営む丸紅は、アメリカの太陽光パネル事業会社を買収するなど、再生エネルギー事業に注力しています。
また、出光興産は、2012年にオーストラリアの燃料油販売会社であるFreedom Energy Holdings Pty Ltd.を買収しており、需要の減少している日本国内からオーストラリアを含む環太平洋エリアへと燃料油事業を拡大しています。
④業界再編を視野に入れた大型のM&A
石油設備の高度化、電力小売自由化による石油会社・ガス会社参入、ガス小売自由化による電力会社・石油会社参入など、燃料卸売・小売業界を含むエネルギー業界全体が転換期を迎えています。
そのため、企業同士のM&Aによる業界再編が進められており、2016年にはJXホールディングスと東燃ゼネラル石油の経営統合によってJXTGホールディングスが生まれました。
また、2017年には、コスモエネルギーホールディングスとキグナス石油が資本業務提携を締結しています。
さらに、2019年には、長い間交渉を続けてきた出光興産と昭和シェル石油が経営統合を実施し、出光昭和シェルが発足しました。
⑤経営者の高齢化による事業承継
近年、燃料卸売・小売業界では、ガソリンスタンドの減少が問題視されています。ガソリンスタンドが減少した要因は「さまざまな環境変化による収益の悪化」ですが、そのほか「ガソリンスタンド経営者の高齢化」「後継者問題」「人材不足」なども要因です。
近年は、ガソリンスタンドをはじめとした燃料卸売・小売業界の事業承継を促すため、公的機関・金融機関・民間の専門機関などが連携してサポートを行っています。
燃料卸売・小売業界のM&A・事業承継の案件例
弊社M&A総合研究所が取り扱っている燃料卸売・小売業界のM&A・事業承継の案件例をご紹介します。
【指定工場保有】北陸地方のガソリンスタンド複数店舗運営
対象会社は、北陸地方にて長期間ガソリンスタンドを運営している企業です。ガソリンスタンドを複数店舗運営しており、指定工場の許認可も保有しているため、地元のお客様を中心に自動車整備や車検ニーズにも対応しており、全店舗で洗車にも対応できます。
エリア | 中部・北陸 |
売上高 | 5億円〜10億円 |
譲渡希望額 | 備忘価格 |
譲渡理由 | 戦略の見直し |
【北陸/業歴50年超】地域密着のセルフガソリンスタンド
業歴50年以上の地域に密着した運営を展開しています。給油サービスのほかに「洗車」「オイル交換」「タイヤ保管」「車検サービス」「レンタカー」等、幅広いサービスを展開しています。
エリア | 石川県 |
売上高 | 1億円〜2.5億円 |
譲渡希望額 | 3000万円(応相談) |
譲渡理由 | 後継者不在(事業承継) |
燃料卸売・小売業界のM&A・事業承継の事例
燃料卸売・小売業界のM&A・事業承継の事例をピックアップしてご紹介します。
サンリンによる松野燃料の吸収合併
サンリンは、2024年7月5日、非連結子会社の松野燃料(富山県魚津市)を吸収合併することを発表しました。サンリンを存続会社とする吸収合併方式で、松野燃料は解散となります。
サンリンは燃料の卸小売業を、松野燃料は燃料小売業をそれぞれ展開しています。松野燃料は2020年にサンリンの子会社となり、業務の重複が発生していたため、今回の合併により業務の効率化と経営の合理化を図ることが目的とされています。
宇佐美鉱油によるヒラオカ石油のM&A
宇佐美鉱油(愛知県津島市)は、2022年4月5日、ヒラオカ石油(大阪府岸和田市)の全株式を取得し、子会社化しました。宇佐美鉱油は石油製品の販売およびグループの本部機能を担い、ヒラオカ石油は燃料配達業者として多岐にわたる石油関連事業を展開しています。
このM&Aにより、宇佐美グループは石油製品の配送事業を拡大し、特に大規模災害時のエネルギー支援や危険物施設のメンテナンス事業の強化を図ることを目指しています。
東邦ガスによるDIAMOND LNG CANADA INVESTMENT LTD.のM&A
2021年3月、東邦ガスは、DIAMOND LNG CANADA INVESTMENT LTD.の株式すべてを取得し、完全子会社化しました。本件M&Aの取得価額は非公開です。
買収側の東京ガスは、愛知県名古屋市に本社を置くガス会社です。 東京ガス・大阪ガス・西部ガスホールディングスとともに、日本四大都市ガスの一つに数えられます。
対する売却側のDIAMOND LNG CANADA INVESTMENT LTD.は、三菱商事傘下でカナダ西海岸で液化天然ガス(LNG)事業を展開する企業です。
本件M&Aにより、買収側では、カナダ初の大型LNG事業「LNGカナダプロジェクト」への参画を図っています。
日本瓦斯による東彩ガスと新日本瓦斯の合併
2020年7月、日本瓦斯は、完全子会社である東彩ガスと新日本瓦斯の合併を行うと発表しました。
東彩ガスは、埼玉県越谷市に本社を置く都市ガスやプロパンガスなどのエネルギーの販売会社です。対する新日本瓦斯は、埼玉県北本市に本社を置く、日本の都市ガスを主力とするエネルギー販売会社です。
本件M&Aにより、日本瓦斯では、DXの活用を通じた各社データの効率的な統合によって、2022年4月の導管事業と小売事業の法的分離のタイミングに先駆けて導管事業と小売事業を分離し、グループにおけるオペレーションのさらなる合理化を図り、顧客へのサービスの向上に努めています。
燃料卸売・小売業界のM&A・事業承継を行うタイミング
M&A・事業承継は売り時を見誤ると、売却額が低く見積もられたり、買い手が付かなかったり、交渉が難航したりと、難しい局面に立たされる可能性があります。まずは、業績が上向きの状態または黒字を維持した状態で売却に踏み切れれば、有利に交渉を進めることが可能です。
また、業界の動向も重要であり、国による制度改定や業界大手による再編の動きや、技術革新によるビジネスモデルの変化などを的確に読み、タイミングを図る必要があります。
そのほか、経営者の年齢・意欲・健康状態も考慮しておかなければなりません。例えば、経営者のコンディションが悪いタイミングで売却に踏み切ると、焦り・不安から交渉が不利な方向に動きやすくなります。
最良の状態で売却に至るためにも、早い段階からM&Aの専門家に相談しておき、時間をかけて準備しておくことが大切です。
燃料卸売・小売業界のM&A・事業承継を行う際の注意点
燃料卸売・小売業界でM&A・事業承継を行う際は、以下の点に注意する必要があります。
- 譲れない条件・譲歩できる条件を明確にしておく
- M&Aの目的・計画をしっかりと立てる
- 従業員や取引先には契約成立後に伝える
- 簿外債務などが出ないように確認する
- M&Aの専門家に相談する
①譲れない条件・譲歩できる条件を明確にしておく
M&Aでは、不安から細かい条件にこだわりすぎて交渉が行き詰まり、お互いの信頼関係を損なってしまうことがあります。最終的にはお互い納得のいく条件に収めるとしても、まずは広い視野で交渉を進めることが重要です。
そのためにも、事前に譲れない条件と譲歩できる条件を明確に仕分けしておき、優先条件から交渉していくスタンスが必要です。
②M&Aの目的・計画をしっかりと立てる
M&Aでは、目的を明確にして交渉を進めていくことが重要です。買い手の場合、事業規模の拡大・新事業の獲得・シナジー効果の獲得・人材の獲得などを目的に買収を行います。
また、売り手は、シナジー効果の獲得・後継者問題の解決・従業員の雇用確保・経営者の円満引退などを目的とするのが一般的です。
これらの目的を達成するために、入念な計画を立て、戦略的にM&Aの準備を行うことが必要であり、特に売り手側は、いずれ会社を売却する可能性があることを、常に頭に置きながら経営することも有効です。
③従業員や取引先には契約成立後に伝える
従業員や取引先にM&Aの実施を伝える際は、最終契約締結後のタイミングまで情報を漏らさないことが重要です。
不適切なタイミングで情報が伝わってしまうと不要な反感を買い、M&Aの成立に影響する可能性があります。
また、役員・債権者・顧問税理士・弁護士などにはM&Aに協力してもらう必要があることから、従業員や取引先よりも早い段階で伝えます。
反対されたり過剰な介入をされたりしないよう、伝え方および伝えるタイミングには細心の注意が必要です。
④簿外債務などが出ないように確認する
買い手側のリスクは、簿外債務・税金などの支払い滞納・従業員側と経営陣とのトラブル・取引先や顧客とのトラブル・公害問題など多岐にわたります。
これらのリスクが買収後に発覚して困らないよう、デューデリジェンスなどで入念に洗い出しておくことが大事です。また売り手側も、簿外債務などのリスク要因をできる限り潰しておく必要があります。
⑤M&Aの専門家に相談する
M&Aの専門家は、ここまでに紹介したM&Aのポイントを総合的に支援するスペシャリストです。
幅広い知識と経験が必要となるM&Aのサポートを専門家に依頼することで、より満足度の高いM&A実現が可能となります。
燃料卸売・小売業界のM&A・事業承継時におすすめの相談先
燃料卸売・小売業界のM&A・事業承継時におすすめの相談先をご紹介します。
金融機関
近年、金融機関がM&Aサポートに特化した部署を設ける動きが活発化しています。特に、投資銀行や大手メガバンクでは、企業間の取引を円滑に進めるために、ファイナンシャルアドバイザー(FA)として資金調達や戦略構築のサポートを積極的に行っています。
これらの専門サービスを活用することで、企業は資金調達や事業承継といった複雑な課題に迅速に対応でき、専門家のアドバイスによって取引成功の可能性を高めることが可能です。
ただし、大手金融機関は規模の大きなM&A案件を優先しがちで、中小企業が十分なサポートを受けにくいこともあります。そのため、企業は自社の規模やニーズに最適な支援先を慎重に選ぶことが求められます。また、アドバイザリー費用が高額になるケースもあるため、事前に費用を確認し、適切な予算計画を立てることが必要です。
公的機関
近年、事業承継やM&Aに対する公的支援が大幅に強化されています。全国各地に設置されている「事業承継・引継ぎ支援センター」では、後継者不足に悩む中小企業向けに、事業承継やM&Aに関する情報や専門的な助言を提供し、企業間のマッチングを無料で支援しています。
この仕組みにより、地方の中小企業でも手軽に専門的サポートを受けられる体制が整備されており、個人事業主もサポートの対象に含まれています。また、必要に応じてM&A仲介会社や専門家の紹介も可能です。
ただし、民間のM&A仲介会社と比べると、迅速な対応や柔軟性に限界がある場合があるため、その点には留意が必要です。それでも、公的機関は、事業承継やM&Aを検討する企業にとって、信頼性の高い支援先として評価されています。
M&A仲介会社
M&A仲介会社は、企業の買収や売却に関する全プロセスをサポートする専門組織です。彼らは、売却側と購入側の双方に対し、最適な相手の選定、交渉支援、進行管理、企業価値の評価(バリュエーション)、契約書の作成といった多岐にわたるサービスを提供します。これにより、取引の条件や要望を調整し、スムーズな進行を促す役割を担います。
特に、仲介会社は広範なネットワークを活かして理想的な取引先を見つけ、M&Aの成功率向上に寄与しています。さらに、経験が少ない企業にも的確なアドバイスを行い、スムーズに取引が進むようサポートします。
ただし、仲介会社を利用する際には、着手金や中間金などの費用が発生することがあり、コストの管理が必要です。コストを抑えたい場合は、成功報酬型の仲介会社を選ぶのも一つの方法です。
燃料卸売・小売業界のM&A・事業承継を行う際の相談先の選び方
燃料卸売・小売業界でM&A・事業承継を行う際は、以下のポイントを押さえた相談先に依頼することが大事です。
- 燃料卸売/小売業界に詳しい
- 自社と同規模の案件を経験した実績
- M&Aに精通している
- 手数料・相談料などが明確
- 相性が良い
①燃料卸売・小売業界に詳しい
M&Aはすべてがマニュアルどおりに進むことはなく、業界の独自ルール・慣習・法制度に柔軟に対応する必要があります。
燃料卸売・小売業界のM&Aを行うのであれば、燃料卸売・小売業界のM&A支援実績が豊富であったり、燃料卸売・小売業界の経験者がいたりする専門家に相談することで、円滑なM&Aが実現できます。
②自社と同規模の案件を経験した実績
M&Aは案件規模によって、必要な人員・ネットワーク・アドバイザーの能力などは異なります。M&Aの専門家を選ぶ際は、どのような案件規模を多く経験してきているか、ホームページや電話での確認が必要です。
ホームページや1度の電話相談ではよくわからない場合も、対応の受け答えなどから判断できることがあります。
③M&Aに精通している
M&A専門家の数は数え切れないほどあり、知識や経験にも大きな差があります。M&A支援は属人的な要素が強いため、最終的にはアドバイザー個人の資質がM&Aの結果にも影響する点が特徴的です。
大手の仲介会社であっても、経験豊富なアドバイザーが担当になるとは限りません。知名度や会社規模だけでなく、アドバイザーの経験も確認し判断することが大事です。
④手数料・相談料などが明確
M&Aでは、手続きが進んでいく中で思わぬ手数料負担が発生し、トラブルに陥ったケースが過去に発生しています。
近年、報酬体系がシンプルで依頼者ファーストのM&A専門家が増えていますが、同じ報酬体系に見えても、実際の支払い手数料額に大きな差がある場合も多いです。
例えば、成功報酬において同じ手数料率のレーマン方式を採用していても、移動総資産ベースか譲渡価格ベースかによって最終的な支払額には差が生じるため、専門家を選ぶ際は手数料の違いも入念な確認が必要です。
⑤相性が良い
M&A業界でもITによるシステムの効率化は進んでいますが、最終的には依頼者とアドバイザーの信頼関係が結果を左右することも少なくありません。特に中小企業の場合は、経営者とアドバイザーの関係性が重要視される傾向があります。
顔を合わせて相談しながら誠実で自身と相性が良く、信頼できる相手かどうかをしっかりと判断することが大切です。
燃料卸売・小売業界のM&A・事業承継まとめ
本記事では、燃料卸売・小売業界のM&A・事業承継の動向や売却の流れ、燃料卸売・小売業界でM&Aを行う際の注意点などを解説してきました。
多くの会社が積極的に燃料卸売・小売業界でのM&A・事業承継を実施しており、今後も買収・M&A事例が増えていくことが予想されます。
M&Aにはさまざまなメリットもありますが、深刻な問題を引き起こすようなデメリットもあるので、専門家に相談して慎重に行いましょう。
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