ボルダリングジムのM&A・事業承継｜成功の鍵は？市場動向や相場、事例を解説

クライミングジムやボルダリングジムは、クライミングやボルダリングを気軽に体験・練習できる施設です。施設内には「ホールド」と呼ばれる突起物が取り付けられた壁があり、それを使って登ることで技術を磨けます。

そもそも「クライミング」とは、壁や岩を登るスポーツ全般を指す言葉です。ロープなどを使う「リードクライミング」や登る速さを競う「スピードクライミング」、そしてロープを使わない「ボルダリング」が主な種目です。

特にボルダリングは、人工壁の突起物（ホールド）を使って課題ルートを登るスポーツクライミングの一種で、オリンピック種目に採用されたことで注目度が向上。初心者でも気軽に始められる手軽さから、人気を集めています。

はじめに、クライミングジム・ボルダリングジムを取り巻く環境をお伝えします。

M&Aを成功させるには市場環境や経済動向について把握しておくことが重要なため、よく確認しておきましょう。

米国の調査会社Grand View Researchの最新レポート（2024年発表）によると、2024年の世界のクライミングジム市場規模は33.2億ドル（約5,000億円）と評価されています。このうち、ボルダリングジムは最大のセグメントであり、2024年の売上高は13.7億ドルを占めています。市場全体は2025年から2030年にかけて年平均成長率（CAGR）9.3%で成長し、2030年には56.7億ドルに達すると予測されています。

新型コロナウイルス感染症（COVID-19）のパンデミックによる一時的な停滞はありましたが、健康志向の高まりやフィットネスとしてのボルダリングの人気拡大が市場成長を後押ししており、需要は回復・成長軌道に戻っています。

参考：Grand View Research（Climbing Gym Market Size & Share Report, 2030）

クライミングジム・ボルダリングジム業界の主な動向を2つのトピックに分けて解説します。

多くのボルダリングジムでは、初心者から上級者まで楽しめる多様なコースが用意されており、幅広い層の集客に成功しています。近年は特に、子ども向けのキッズスクールや、健康志向のシニア層を対象としたプログラムの導入が進んでいます。

また、フィットネスやトレーニングの要素を組み合わせた複合的なサービス展開も増えており、単なるスポーツ施設にとどまらない付加価値の提供が特徴です。

現在、ボルダリングジムは都市部に集中していますが、地方都市への展開も活発化しています。大手フィットネスクラブが既存施設にボルダリング設備を併設する動きや、地域密着型の小規模ジムを買収してエリアを拡大するM&A戦略が注目されています。

これにより、これまでリーチできなかった顧客層へアプローチし、全国的なブランド認知度を高める動きが加速すると予測されます。

日本のスポーツ業界では、少子化や若者のスポーツ離れが課題となっています。これに対し、スポーツ庁は部活動の地域移行を推進しており、2023年度から3年間を「改革推進期間」と定めています。この流れは、ボルダリングジムが学校外の新たな受け皿となる好機です。

また、2024年のパリオリンピックで再び注目を集めることで、子どもたちの習い事としての需要や、新規顧客層の獲得が期待されます。今後は、オンライン予約システムの導入やSNSを活用したマーケティングなど、デジタル化への対応も事業成長の鍵となるでしょう。

その流れの中で、ボルダリングが子どもの習い事として注目されつつあります。ボルダリングによって、バランス感覚やチャレンジ精神、集中力、思考力、判断力が鍛えられるほか、課題を克服することで創造性や協調性も育まれます。全国のボルダリング施設では、子ども向けの体験クラスや教室が開かれ、参加が促されています。

クライミングジム・ボルダリングジム業界のM&A・事業承継の最新動向をお伝えします。

クライミングジム・ボルダリングジム業界は比較的新しい業界であるため、今後はさまざまな形で業界発展が進むものと思われます。こうした動きの中で、M&Aが加速する可能性があるのです。

例えば、あるエリアに進出したいと考えるクライミングジム・ボルダリングジムが、そのエリアに強みを持つジムを買収し、比較的短期間で事業エリアを拡大するといったケースが十分に考えられます。

クライミングジム・ボルダリングジムが、経営基盤を安定・強化させるために大手企業への売却を考えるなどのケースも典型的です。さらには、今後、スポーツ用品・登山用品などの関連業界も合わせてボルダリングブームが拡大していくことも予想されており、関連業界を含めたM&Aが加速する可能性もあります。

例えば、関連事業を行う企業がクライミングジム・ボルダリングジムとM&Aを行い、比較的短期間で新規参入を実現するといったケースが考えられます。このように、M&Aは異業種企業が新規参入する際にも効果的な手法です。

既存の事業を行っている企業を買収すれば、ゼロから新規事業を開始するよりも短期間で新規参入を実現できます。こうしたケースも含め、今後のクライミングジム・ボルダリングジム業界の発展に伴い、M&Aが大きな力を発揮する可能性が十分にあるのです。

クライミングジム・ボルダリングジム業界のM&A・事業承継の事例をピックアップし紹介します。

ルネサンスは、BEACH TOWN（神奈川県横浜市）の株式の過半数（51.7%）を取得する基本合意書を締結しました。ルネサンスはフィットネスクラブやスイミング、テニス、ゴルフなどのスポーツクラブ事業、自治体向けの健康づくり事業、介護リハビリ事業などを展開しています。

一方、BEACH TOWNはアウトドアフィットネス施設やヨガスタジオ、ボルダリングジムなどの運営を手がけ、健康促進企画や会員管理システムの提供も行っています。ルネサンスは今回のM&Aを通じて、BEACH TOWNの施設運営を支援し、アウトドアフィットネス事業の拡大と企業価値の向上を図る計画です。

2019年3月、富山県南砺市は、同市が運営しているクライミング施設「桜ヶ池クライミングセンター」の売却を発表しました。

これに対して、2020年2月、北陸電気工事と平野電業は、同市の選定委員会から譲渡先として選定を受けたことを発表しています。

北陸電気工事は、富山県富山市に本社を置く北陸電力グループの電気設備工事・電力関連工事・電気通信工事などを行う総合設備企業で、平野電業は富山県において電力事業のノウハウとIT事業の実績を兼ね合わせた電力系IT事業を確立しており、生活インフラを基本としたサービスを提供しています。

北陸電気工事と平野電業では、高所を得意とするクライミング選手が業界への適性が高いと判断し、大会の開催などを通じて同施設を「人材採用の拠点」とし、送配電工事業の人手不足を解消しています。

本章では、クライミングジム・ボルダリングジムを対象とするM&A・事業承継に期待されるメリットを、買収側・売却側の立場に分けて紹介します。

売却側の主なメリットは、以下のとおりです。

• 社員の雇用維持
• 後継者不在問題の解消
• 譲渡利益の獲得
• 大手傘下に入ることによる経営の安定化
• 個人保証・債務・担保などからの解放

クライミングジム・ボルダリングジムを廃業してしまえば、社員は職を失ってしまいますが、M&Aにより売却すれば、店舗運営も継続され社員の雇用を維持できます。

M&Aでは第三者から後継者を探せるため、経営者自身の周囲に後継者候補がいない場合でも、事業承継の実現が可能です。

さらに、M&Aによる売却では、譲渡利益としてまとまった額の現金を獲得できるので別の事業への投資資金や、引退後の生活資金などに活用できます。

そのほか、大手グループの傘下に入ることによる経営の安定化や、経営者の個人保証などの解放も、M&Aによる売却に期待されるメリットです。

続いて、買収側に期待される主なメリットとして、以下を取り上げます。

• 優秀な社員の確保
• コストを抑えて新規事業を獲得
• 顧客・取引先・ノウハウなどの吸収
• 事業エリアの拡大

M&Aによる買収では、専門知識や経験を持つ相手企業の社員をそのまま獲得できるので、スピーディーに事業拡大を進められます。

また、ゼロから新規事業に参入する場合は多くの手間・時間がかかりますが、M&Aによる買収を活用すれば、既存店舗をそのまま吸収できるため、非常に効率的です。

さらに、顧客・取引先・事業に関するノウハウなどの経営資源もまとめて獲得できるほか、自社と異なるエリアに拠点を持つ会社を買収すれば事業エリアを拡大できる点も大きなメリットといえるでしょう。

ボルダリングジムのM&Aを成功させるためには、押さえておくべき重要なポイントがいくつかあります。ここでは、特に重要な3つのポイントについて解説します。
 

M&Aの成功はタイミングに大きく左右されます。売却側は、自社の業績が好調で、業界全体が成長している時期を狙うことで、より高い企業価値評価を得やすくなります。買収側にとっては、市場の動向を見極め、自社の成長戦略に合致した企業が売りに出されたタイミングを逃さないことが重要です。
 

自社（または買収対象）の価値を客観的かつ正確に把握することは、M&Aの基本です。施設の資産価値だけでなく、会員数、ブランド力、人材、立地条件といった無形の資産も評価に含める必要があります。適正な価格で交渉を進めるためにも、専門家によるデューデリジェンス（企業調査）を行い、企業価値を正しく算定しましょう。

M&Aは、法務、税務、会計など多岐にわたる専門知識を必要とする複雑なプロセスです。特にボルダリングジムのような専門性の高い業界では、業界動向に精通したM&Aアドバイザーや仲介会社のサポートが不可欠です。豊富な経験を持つ専門家に相談することで、最適な相手探しから交渉、契約手続きまでをスムーズに進め、リスクを最小限に抑えることができます。
 

ボルダリングジムのM&Aにおける明確な売却価格の相場は確立されていませんが、一般的には「時価純資産＋営業権（のれん代）」で企業価値が算出されます。営業権は、年間の営業利益の2〜5年分が目安です。

ただし、施設の立地、会員数、収益性、設備の状況、インストラクターの質などによって企業価値は大きく変動します。そのため、個別の案件ごとに専門家による詳細な企業価値評価（バリュエーション）を行い、適正な価格を見極めることが不可欠です。


スポーツクラブ・フィットネスクラブの事業譲渡・株式譲渡のポイントについては下記の記事で詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。

ここでは、クライミングジム・ボルダリングジム業界でのM&A・買収・売却・譲渡を成功させるポイントを取り上げます。

売却を成功させるには、相手に自社の魅力を理解してもらう必要があります。 相手企業にとって魅力的な事業を展開している場合、その企業が買収に名乗り出る可能性が高まるためです。

そのためにも、自社の魅力・強みを十分にアピールしなくてはなりません。また、売り手の魅力が買い手のニーズにマッチする場合、そのM&Aは売り手にとってもさまざまなシナジー効果を期待できます。

買収によって事業の強化・拡大などのシナジー効果を創出するには、自社が強化すべき事業・分野、エリアなどをあらかじめ整理しておく必要があります。

この点を明確化しておけば、適切な相手企業を探しやすくなります。 例えば、クライミングジム・ボルダリングジムの全国展開を考えているのであれば、自社がまだ進出していないエリアで事業を行っている企業を買収することで、比較的短期間で新規エリアへの参入が可能です。

こうした買収を成功させるためにも、強化すべきエリアを事前に確認し、買収対象を検討することが重要です。 また、同業者を買収することで、双方のノウハウを生かしながら、サービス体制を強化できます。これを実現するためにも、強化すべき事業やサービス体制を再確認し、買収するべき企業を決めることが大切です。

美容院・美容室の事業譲渡・株式譲渡・M&Aについては下記の記事で詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。

M&Aにあたっては、「目的を明確にする」「対象企業を丁寧に選ぶ」などの点に特に注意する必要があります。そもそも目的がはっきりしていなければ、M&Aをしても思ったような効果が現れなかったなどの事態につながります。

一方で、M&Aの目的が明確であれば、具体的なM&A戦略を策定して方向性を定め、最適なM&Aスキームを検討しやすくなります。結果として、自社に合った適切なM&Aの実現につなげることが可能です。また、M&Aによって売却・買収を行う以上、対象となる企業は丁寧に選ばなくてはなりません。

売却によって経営を任せる場合であれ、買収によって企業を傘下にする場合であれ、相手企業は信頼できる企業でなければならないためです。そのため、相手企業の事業内容や方針などを十分に検討し、慎重に判断する必要があります。なお、ふさわしい相手企業が見つかったら、アプローチを早めに行うことも大切です。

これにより、他の企業に先を越されてしまったなどの事態を防げます。そのほか、M&A手続きの注意点としては、「専門家のサポートを受けるべき」という点が挙げられます。M&Aの手続きでは、法務・税務・財務などの専門知識が必要とされるほか、相手企業との交渉力も求められます。

このような手続きを自社だけで進めることは難しいので、M&A仲介会社・M&Aアドバイザリーなどの専門家のサポートを受けるのがおすすめです。

クライミングジム・ボルダリングジム業界のM&A・事業承継時におすすめの相談先を紹介します。

近年、金融機関がM&A支援に特化した部門を設置する動きが広がっています。特に、投資銀行や大手のメガバンクでは、企業間の取引を円滑に進めるため、ファイナンシャルアドバイザー（FA）として資金調達や戦略の策定を積極的にサポートしています。

このような専門的な支援を活用することで、企業は資金調達や事業承継といった複雑な課題にもスピーディに対応でき、専門家の助言により取引の成功率を高めることが可能です。

しかしながら、大手の金融機関は大規模な案件を優先する傾向が強いため、中小企業が十分なサポートを受けにくい状況もあります。こうした背景から、企業は自社の規模やニーズに合った支援先を慎重に選ぶことが重要です。

アドバイザリーサービスには高額な費用が発生することもあるため、事前にコストを確認し、適切な予算計画を立てることが求められます。

最近、事業承継やM&Aに対する公的支援体制が大幅に拡充されています。全国に展開されている「事業承継・引継ぎ支援センター」では、後継者不足に直面する中小企業を対象に、事業承継やM&Aに関する情報提供や専門的アドバイスを実施し、企業間のマッチングを無料でサポートしています。

この支援体制により、地方の中小企業や個人事業主でも、専門的な支援を容易に受けられる環境が整備されています。また、必要に応じてM&A仲介会社や専門家を紹介することも可能です。

ただし、民間のM&A仲介会社と比べると、対応の迅速さや柔軟性に限界がある場合があるため、その点には注意が必要です。それでも、公的機関は、事業承継やM&Aを検討する企業にとって、信頼性の高い支援先として、重要な役割を担っています。

クライミングジムやボルダリングジムの買収を検討する際、いきなり仲介会社に相談するのではなく、まずは具体的な売却案件の有無や内容を自分で確認したいという方も多いでしょう。

そのような場合に役立つのが、M&Aマッチングサイトの活用です。M&Aマッチングサイトとは、インターネット上で売却希望者と買収希望者をつなぐサービスで、双方のニーズに合ったマッチングを支援します。

多くのサイトでは、無料の会員登録を行うことで、登録されている売却案件の匿名情報を閲覧することができます。交渉の申し込みや進め方については、それぞれのサイトで定められたルールに従って進行します。

まずは情報収集の第一歩として、こうしたマッチングサービスを利用してみるのも有効な手段です。

M&A仲介会社は、企業の買収や売却に関するすべてのプロセスをサポートする専門機関です。売り手と買い手の双方に対して、最適な取引先の紹介、交渉サポート、取引の進行管理、企業価値の評価（バリュエーション）、契約書の作成など、多岐にわたるサービスを提供し、取引をスムーズに進めるための調整役を担っています。

特に、仲介会社は広範なネットワークを活用し、最適なパートナーを見つけ出すことで、M&Aが成功する確率を高めています。また、取引に不慣れな企業には、具体的かつ実践的なアドバイスを提供し、取引が円滑に進むように支援しています。

一方で、仲介会社を利用する際には、着手金や中間金といった費用が発生する可能性があるため、コスト管理が重要です。費用を抑えたい場合には、成功報酬型の仲介会社を検討するのも有効な選択肢です。

ボルダリングブームに加え、東京オリンピックでスポーツクライミングが正式種目になったこともあり、近年はクライミングジム・ボルダリングジム業界への注目度が上がっています。クライミングジム・ボルダリングジム業界の発展に伴い、業界内でM&A・事業承継が活発化することも予想されます。

また、関連業界も含めて業界の発展が進むことも考えられるため、新規参入にあたってM&A・事業承継が活用されるケースも増える見込みです。このような展望も踏まえ、クライミングジム・ボルダリングジム業界では、今後の動向・M&A・事業承継の傾向などが大きく注目されています。

クライミングジム・ボルダリングジム業界でM&A・事業承継を考える際は、M&Aも含めた業界動向をチェックし、さまざまな事例を分析しておくことが大切です。