M&Aとは?意味や動向とM&Aを行う目的・メリットなどをわかりやすく解説!
2024年1月19日公開業種別M&A
クリニックの売却価格はどれくらい?相場や計算方法・税金まで詳しく解説!
クリニックの売却を検討している医療機関が多いですが、医療業界の取引はやや特殊でいくつか注意する点があります。今回はクリニックの事業売却を検討している医療機関に向けて、取引の相場や取引価格の計算方法、取引に発生する税金などについて解説します。
目次
クリニックの売却が増加している理由
事業基盤が不安定な医療機関・クリニックが多く、事業売却を選択するケースが多いです。
クリニックの事業売却を選択する前に、クリニックの事業売却が増加している理由を解説します。
クリニックの事業売却が増加している理由として以下のものがあげられます。
- 経営者の高齢化と後継者不足
- 医療従事者の人材不足
- 医療制度や環境の変化
- 設備投資費の負担の増加
以下で詳細を解説します。
経営者の高齢化と後継者不足
クリニックの事業売却が増加している理由として、経営者の高齢化と後継者不足があげられます。
医療業界でも人手不足が問題視されており、後継者不足に悩みを抱えているクリニックが多いです。
後継者不足の問題が解消できないと現経営者が我慢して経営を続け、経営者の高齢化が問題として浮上してしまいます。
事業を売却すれば自社内で後継者を探す必要はなくなります。
医療従事者の人材不足
クリニックの事業売却が増加している理由として、医療従事者の人材不足があげられます。
先ほども触れたように、医療業界では人材不足が見られています。
人材不足が原因となり、事業規模の小さいクリニックでは十分な医療が提供できていないところが多いです。
事業売却を行ってクリニックの規模が大きくなれば、働き手が増えて広い範囲までサービスが行き届くようになります。
医療制度や環境の変化
クリニックの事業売却が増加している理由として、医療制度や環境の変化があげられます。
国の財政状況は年々悪化し続けており、その影響は診療報酬の引き下げという形で影響を受けています。
その影響で財政難となって撤退するクリニックも少なくありません。
また、新型コロナウイルスの影響で医療機関に押しかける方が急増し、すべての患者に対応できない事例が問題となりました。
環境の変化についていけないために、事業体制を変えるクリニックも多いです。
設備投資費の負担の増加
クリニックの事業売却が増加している理由として、設備投資費の負担の増加があげられます。
日本は世界的に見て地震大国と言われており、さまざまな施設が耐震対応を行っています。
医療機関も例外ではなく、既存の建物は耐震対応を行うための修繕工事が行われているのが現状です。
また、クリニックでは専門的な医療機器も必要になるため、設備投資費の負担が大きくなりやすいです。
その設備投資に対応できず、事業売却を選択するクリニックも多々見られています。
クリニックの売却価格相場
クリニックの事業売却を進める場合に取引価格を決める必要があります。
取引価格を決めるときに、売却価格相場を参考にすれば適正価格での取引が進めやすいです。
適正価格で取引を進められるように、クリニックの事業売却の売却価格相場について解説します。
売却価格の一般的相場
まずは売却価格の一般的相場を把握するところから始めましょう。
今回は個人クリニックと医療法人に分けて売却価格相場を解説します。
個人クリニックの売却価格相場
個人クリニックを売却する際には、取引価格は交渉を行って決まります。
同じ条件下で取引しているケースが少なくて比較できないため、相場というものはありません。
相場を参考にして価格が決められないため、後ほど紹介する医療機関の価値の計算方法を使い、かつ取引相手と交渉して価格を決めましょう。
医療法人の売却価格相場
医療法人を売却する際にも、個人クリニックの売却のときに用いる計算方法と変わりません。
ただ、営業権を加味した計算を行う場合は、通常よりも営業権を大きく見積もって計算できます。
なぜなら、規模の大きい法人は事業売却を通じて役員の一部が辞めても、大きな影響が出るわけではないためです。
個人クリニックより事業の安定性があるため、柔軟に営業権の金額分が見積もりやすいです。
売却価格の計算方法
売却価格を決める際に、特定のスキームで計算して価格交渉を行うと説明しました。
ここでは売却価格の計算方法について解説します。
売却価格の計算方法として以下のものがあげられます。
- 修正純資産法
- 類似会社比較法
- DCF法
以下で詳細を解説します。
修正純資産法
修正純資産法はクリニックの純資産と営業権を加算した金額を計算する方法です。
純資産についてはより正確な金額を出すために、時価に換算し直します。
医療法人だと営業権を柔軟に計算しやすいことを踏まえると、医療法人なら修正純資産法でのメリットが大きくなります。
ちなみに、修正純資産法は貸借対照表からさほど難しくない計算ができるため、客観的な計算をしたい場合におすすめです。
類似会社比較法
医療クリニックの場合で言うと、類似会社比較法は類似するクリニック関連の事業売却の事例を参考に価格を決める方法です。
相場を比較することは難しくても、類似している過去の事例がないとは限りません。
類似している事例があるなら価格を決めるための参考にしてみてください。
ただ、類似している事例を探すこと自体が難しい点に注意が必要です。
DCF法
DCF法は将来のクリニックの収益性を計算する方法です。
将来獲得できるキャッシュフローを一定のリスクで割り引くことで価格が計算できます。
DCF法は将来のキャッシュフローとリスクを専門的な視点から決め、その値で計算する仕組みとなっています。
そのため、将来性に優れた計算はできても、大なり小なり主観が入ってしまう点に気を付けましょう。
売却価格を変動させる要因
先ほど紹介したスキームと交渉によって決まり、売却価格は以下の要因で変動します。
- 不動産価値
- 従業員の数・雇用契約
- クリニックの立地・評判
- 診療科目
事業売却する際に、土地・建物ごと売却するかどうかで取引価格が大きく変わってきます。
土地・建物が新しいと純資産額が大きくなり、古いと減価償却されて純資産額が小さくなります。
また、従業員の数や雇用契約を引き継ぐかどうかについても、土地・建物を譲渡するかどうかと合わせて話し合ってください。
事業売却を機に従業員が辞めることもあるため、売却側からどの程度の働き手が引き継がれるか決めましょう。
クリニックの売却を行う基本的な方法と流れ
クリニックの売却を行う場合は以下の流れに沿って進めてください。
- M&Aの検討・専門家への相談
- M&A売却価格・条件・課題などを検討
- 交渉相手を選ぶ
- 秘密保持契約の締結
- 相手医療機関(企業)との交渉開始
- 基礎情報開示
- デューデリジェンス実施
- 最終契約締結
- クロージング
以下で詳細を解説します。
①M&Aの検討・専門家への相談
まずはM&Aを実施するか決め、利用する専門家を決めましょう。
専門家に相談すれば、専門的知識を借りて事業売却が進められます。
②M&A売却価格・条件・課題などを検討
相談する専門家が決まったら、しっかり話し合って事業売却の売却価格や取引条件などを決めます。
あらかじめ取引の方針が決まっていると、取引相手を絞り込みやすくなります。
③交渉相手を選ぶ
取引内容が決まったら、交渉相手を選びます。
専門家に相談すれば条件に合った相手を探してマッチングさせてくれます。
できるだけ医療業界のマッチングに強みを持っている専門家を選びましょう。
④秘密保持契約の締結
取引相手が決まったら、秘密保持契約を結んでください。
秘密保持契約を結んだら、情報漏洩に配慮した取引に必要な情報の提供・管理がしやすくなります。
⑤相手医療機関(企業)との交渉開始
秘密保持契約を結んだら、取引相手との交渉を始めましょう。
事業売却の目的や事業運営のビジョンなどをすり合わせ、事業売却の方向性を固めていきます。
⑥基礎情報開示
取引相手との交渉の過程で基礎情報を開示します。
まずは基礎情報だけを踏まえて事業売却価格の計算を行い、取引の目安となる金額を把握しておきましょう。
⑦デューデリジェンス実施
次に、デューデリジェンスを実施してください。
デューデリジェンスで内部リスクを調べ、安心できる相手だと改めて判断できたら取引を進めます。
ここで再度事業売却価格を計算しておきましょう。
⑧最終契約締結
取引相手として問題ないと判断できたら、最終契約を結んでください。
最終契約を結ぶと事業売却が拒否できなくなります。
事業売却に対して不安を抱えている場合は、遠慮なく取引相手に不安に抱えていることを伝えてください。
⑨クロージング
最後に、クロージングを進めます。
事業売却で決まった資産の移転や雇用契約の移転などに関する手続きを行います。
少しでも早く新しい体制で事業運営できるように、準備を早めに済ませておきましょう。
クリニックの売却するメリット・デメリット
クリニックを売却するメリット・デメリットを押さえておきましょう。
売却側と買収側に分けて、クリニックを売却するメリット・デメリットを解説します。
売却側
クリニックを売却する売却側のメリット・デメリットを解説します。
メリット
クリニックを売却する売却側のメリットとして、売却益が得られる点があげられます。
廃業を選択すると自社で一括で負債を返す必要があり、手元に資金がほとんど残りません。
しかし、事業売却であれば負債を買収側企業が請け負ってくれる場合があり、手元に多くの金額が残りやすいです。
デメリット
クリニックを売却する売却側のデメリットとして、事業価値が高く見積もってもらえない可能性がある点があげられます。
相手企業にとってプラスとなる要素をしっかりアピールできないと、高い価格を付けてもらえません。
高い価格を付けてもらうためにも、相手企業のニーズの分析と自社の強みを把握することが大事です。
買収側
クリニックを売却する買収側のメリット・デメリットを解説します。
メリット
クリニックを売却する買収側のメリットとして、シナジー効果を発揮できる点があげられます。
相手のクリニックと統合することでクリニックの規模が大きくなり、さまざまな患者に対応しやすくなります。
また、新しい事業展開も実現できるため、経営基盤が不安定でも優れたノウハウなどを持っているクリニックなら買収を選択肢に入れてみてください。
デメリット
クリニックを売却する買収側のデメリットとして、従業員が離れてしまうリスクがある点があげられます。
事業売却を進めると、事業売却に納得できない従業員が一定数出てきます。
買収側だけでなく売却側の従業員でも見られ、従業員の退職によって事業売却の効果が本来得られるものより薄くなってしまう点に注意してください。
クリニックの売却の際にかかる税金
クリニックを売却すると税金が一定数かかってきます。
そのため、クリニック売却を進める前に、どの程度の税金が必要か把握しておきましょう。
個人事業主と医療法人に分けて、クリニック売却にかかる税金の違いを解説します。
個人事業主のクリニック・医院の場合
個人事業主のクリニック・医院にかかる税金には所得税と住民税、特別復興所得税の3種類があげられます。
所得税は事業の売却益に対して課税される税金で、住民税は地域社会の維持・成長に必要となる税金です。
特別復興所得税は東日本大震災の復興を目的とした税金で、2037年まで徴収され続けます。
3つの税金を合計した税率が20.315%となります。
医療法人のクリニック・医院の場合
医療法人のクリニック・医院にかかる税金には法人税があげられます。
概ね所得額に対して30%から40%ほどの税金がかかります。
法定実行税率は政府の税制改正によって変わるため、税制改正が行われていないか確認しておきましょう。
2023年12月時点の法定実効税率は30.62%です。
ちなみに、それぞれのクリニック・医院にかかる税金について解説しましたが、事業売却の方法によっても変わってくる点に注意してください。
クリニックを売却するときの注意点
クリニックを売却するときにはいくつかの注意点を押さえておきましょう。
注意点を押さえていると、失敗するリスクの少ない事業売却が進められます。
クリニックを売却するときの注意点として以下のものがあげられます。
- 社団法人と財団法人との違いに注意する
- 許認可の引き継ぎ
- 医療従事者の流出に注意する
- 譲れない条件を明確にする
- スケジュールを管理する
- クリニックのM&Aの経験と知識が豊富な専門家に相談する
以下で詳細を解説します。
社団法人と財団法人との違いに注意する
クリニックを売却するときの注意点として、社団法人と財団法人との違いに注意する点があげられます。
医療法人は大きく分けて社団法人と財団法人に分けられます。
社団法人は社員が集まって法的な手続きを行うことで成立している法人です。
一方で、ある個人・法人から出資を受けて法的な手続きを行うことで成立している法人で、医療法人のほとんどは社団法人です。
それぞれの特徴の違いをすべて押さえておく必要はありませんが、社団法人と財団法人で合併はできない点に注意してください。
許認可の引き継ぎ
クリニックを売却するときの注意点として、許認可の引き継ぎが必要になる点があげられます。
株式を通じた事業売却であれば、許認可ごとまとめて譲渡されます。
しかし、直接事業を売却するのであれば、資産だけでなく許認可もそれぞれ個別の手続きが必要です。
譲渡する部分とそうでない部分が柔軟に選べるメリットがありますが、手続きが複雑化しやすい傾向にある点を押さえておきましょう。
医療従事者の流出に注意する
クリニックを売却するときの注意点として、医療従事者の流出に注意点する点があげられます。
先ほども触れましたが、医療現場で働く従業員が流出することがあります。
特に医療現場は医療従事者の持っているノウハウなどが直接病院の評価に出るため、取引時の価格に影響が出やすいです。
多少は仕方ないですが、できる限り現場のスタッフのヒアリングを早い段階で進めて事業売却を行ってください。
譲れない条件を明確にする
クリニックを売却するときの注意点として、譲れない条件を明確する点があげられます。
お互いの意見をすり合わせて取引内容を固めていきます。
どこか納得できない部分があったとしても、相手のクリニックの意向をそのまま汲み取るだけだと一方的に損しやすいです。
譲れない条件だけは決めておき、ある程度納得いく取引になるようにしましょう。
スケジュールを管理する
クリニックを売却するときの注意点として、スケジュールを管理する点があげられます。
一般的な事業売却は2カ月程度を目安に取引を進めます。
しかし、クリニック・医療だと地域医療構想に沿った事業戦略を立てる必要があるため、時間の余裕を持たせてスケジュールを組んでください。
各工程のスケジュールの組み方がわからない場合は、M&Aの専門家などに相談しましょう。
クリニックのM&Aの経験と知識が豊富な専門家に相談する
クリニックを売却するときの注意点として、クリニックのM&Aの経験と知識が豊富な専門家に相談する点があげられます。
十分な知識・経験を持った専門家を頼りに手続きを進めていくと、途中で取引で困ることも少なくなります。
また、取引相手探しから苦労している医療機関でも、マッチングから支援してもらえる点も魅力的です。
少なくとも初めて事業売却を実施する場合は専門家に相談すべきです。
クリニックを売却するときには専門家のサポートを受けるのがおすすめ
クリニックを売却するときには専門家のサポートを受ける必要があります。
専門家のサポートを受けることで、スムーズに事業売却の手続きが進めやすくなります。
クリニック売却を支援してくれる専門家に相談する方法は以下の通りです。
- M&Aの知識と経験豊富なM&A仲介会社に相談する
- 金融機関に相談する
- 公的支援機関に相談する
以下で詳細を解説します。
M&Aの知識と経験豊富なM&A仲介会社に相談する
クリニック売却を支援してくれる専門家に相談する方法として、M&Aの知識と経験豊富なM&A仲介会社に相談する方法があげられます。
知識や経験が豊富な仲介会社に相談すれば、手続きで不安に感じることなく安心して取引が進めやすいです。
仲介会社によってどの事業規模・どの業界や業種の事業売却に強みを持っているのか異なります。
その点を加味して事業売却について相談する相手を決めてください。
金融機関に相談する
クリニック売却を支援してくれる専門家に相談する方法として、金融機関に相談する方法があげられます。
普段の業務の中でお世話になっている金融機関がクリニック売却支援に対応しているところもあります。
普段から相談しやすい金融機関がある場合は、クリニック売却支援を行っているか確認してください。
ちなみに、金融機関だと事業規模が小さいクライアントへの対応にさほど強みを持っていません。
ある程度大きな医療機関が事業売却を検討している場合には、金融機関も選択肢に入れてみてください。
公的支援機関に相談する
クリニック売却を支援してくれる専門家に相談する方法として、公的支援機関に相談する方法があげられます。
公的支援機関は主に事業規模の小さいクリニックの事業再編を支援してくれます。
各都道府県にいくつかの機関があってそれぞれ特徴が異なるため、目的に合わせて利用する機関を決めてください。
クリニック売却を支援してくれる公的支援機関の例として以下のものがあげられます。
- 事業承継・引継ぎ支援センター
- 商工会議所
- よろず支援拠点
事業承継・引継ぎ支援センターは事業承継にターゲットを絞って取引を支援してくれる専門機関です。
国が設置している公的機関で、無料で何度でも相談に乗ってくれます。
商工会議所は事業再生を目的として事業規模の小さな営利組織などをサポートしてくれる専門機関です。
特に会計面の悩みや取引価格の算定などで手厚い支援が受けられます。
よろず支援拠点は事業規模の小さな事業者のさまざまな経営についての悩みに対応してもらえる専門機関です。
クリニック売却の期間以外にも相談してもらいたい場合はよろず支援拠点に相談してみてください。
クリニックのM&Aと売却価格は専門家に相談しよう
医療業界では人口減少や環境の変化などの観点から、クリニック売却を実施する動向が多々見られています。
その流れに沿ってクリニック売却を進める医療機関も多いですが、事業売却の経験がない場合は専門知識がないまま取引を進めるのはリスクが高いです。
しかし、事業売却を進める際に専門家を頼るとスピーディに手続きが進められます。
専門家にはさまざまな種類があり、事業売却だけに特化しているところもあれば、さまざまな経営を支援してくれるところもあります。
他にも専門領域なども専門家ごとで異なるため、クリニックでの事業売却に実績を持っている専門家に相談しましょう。
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