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2022年6月6日更新業種別M&A
医院継承とは?手続きや費用、相場・留意点を解説【成功/失敗事例あり】
近年、医院継承によるリタイアと開業が増えていますが、医院継承には一般企業の事業承継とは異なる留意点が多くあります。本記事では、医院継承の手続きの流れや費用、相場・手続きの留意点を解説しています。そのほか、医院継承の成功・失敗事例も取り上げています。
目次
医院継承とは?
医院継承には、一般的な企業の事業承継とは異なる点が多くあります。本記事では、医院継承の手続きついて、流れ・費用・相場・手続きの留意点を医院継承の成功・失敗事例を交えて解説します。まずは、医院継承の種類についてみていきましょう。
親子間での継承
医院継承で多いのは親子間での継承です。現経営者の子どもが医師となって他病院で経験を積んだ後、親の病院で副院長などになって、最終的に医院を継ぐ形がよくみられるケースです。
親子間の医院継承であれば、家族・従業員・患者など周囲の納得を得やすいメリットがありますが、最近は子どもに医院を継がせたいと考える経営者は減っているといわれています。
また、若い医者ほど勤務医志向が強い傾向にあるというアンケート結果もあり、近年増えているのが第三者への継承です。
第三者への継承
親子間での医院継承が減少傾向にあるなか、逆に増加傾向にあるのが第三者への継承です。
第三者への継承は、子どもや勤務している医師ではなく、専門家などに依頼して外部の後継者候補を探します。
後継者のいない医院の場合、かつては経営者が高齢になり医院の経営が続けられなくなった時点で、廃業を選択するケースが大半でした。
しかし、近年は地方の医院・医師不足が深刻になってきていることから、簡単には医院を閉院するわけにはいかなくなっています。そのため、国や地方自治体の支援もあり、医院を第三者へ継承するケースが増加しています。
また、開業を目指す若手医師の間に第三者事業承継による開業のメリットが広まってきたことも、第三者事業承継が増加している要因のひとつです。
医院継承の手続き
第三者への医院継承の手続きは、一般的に以下の流れで進められます。
- 医院継承の専門家に相談
- 医院継承先の選定
- 基本契約書の作成・締結
- 継承契約の合意
- 各機関への届け出
1.医院継承の専門家に相談
第三者へ医院を継承する場合、後継者候補探しや後継者候補との交渉、各種契約手続きなどが必要となり、経営者が自力で行うのは容易ではありません。
そこで、医院継承の専門家に相談し、医院継承にかかわるさまざまなサポートをしてもらうのが一般的です。
秘密保持契約書の締結
第三者への医院継承を行う場合、医院内の情報を後継者候補や仲介する専門家に提供する必要が出てきます。
もし情報漏えいした場合、医院の経営に大打撃となる可能性があるので、専門家とアドバイザー契約を結ぶ時点で秘密保持契約も締結します。
2.医院継承先の選定
医院継承先の選定は、専門家が保有する買い手リストから絞り込んでいったり、専門家が最適と思われる後継者候補に1件1件直接交渉していったりします。
依頼する専門家によって保有するリストやネットワークが異なるので、自医院に最適な専門家を選べるかどうかも重要なポイントです。
意向表明書の提示
医院継承を希望する後継者候補は、意向表明書を提示することで優先的に交渉する権利を得ます。
意向表明書は法的拘束力があるわけではないので、医院継承を希望する後継者候補が1人だけの場合などは意向表明書を提示しないケースもあります。
後継者候補が複数現れた場合は、意向表明書を提示することで優先的に交渉権を得られるだけでなく、医院を継ぎたいという強い思いを表明する効果もあります。
3.基本契約書の作成・締結
現医院長と後継者候補の交渉が進み、ひと通り医院継承の条件がまとまったところで、基本契約書を締結します。
基本契約書には、医院の売買価格や継承のスケジュール、契約内容の変更や違反があった場合の対応方法などを記載します。
基本契約書には法的拘束力はないものの、もしトラブルになった場合裁判などでの効果は発揮されるので、盛り込む条項や文言には細心の注意が必要です。
4.継承契約の合意
基本契約書を締結後、医院の内部調査などを通じて基本契約書の内容に問題がなければ、最終的な契約となる継承契約を締結します。継承契約が無事締結されたら、医院の譲渡手続きを進めていきます。
5.各機関への届け出
医院の譲渡手続きは、個人医院と医療法人とで異なります。また、出資持分ありの医療法人か出資持分なしの医療法人かによっても、手続き内容が変わるので注意が必要です。
個人医院の場合、医院継承の手法として事業譲渡を用いますが、医院継承で用いる事業譲渡は一般的な事業譲渡と同じではありません。一般的な事業承継の場合、売り手側は廃業することなく事業を譲渡できます。
しかし、医療法には事業譲渡というものがないので、医院が事業譲渡を行うには現医院は1度廃業し、後継者があらためて開業する形をとります。そのため、個人医院の事業譲渡では廃業届と開業届が必要です。
医院継承にかかる費用
医院継承にかかる費用は、誰に継承するか、どの専門家に依頼するか、個人医院か医療法人かなどによっても変わってきますが、主に以下の費用がかかります。
【医院継承にかかる費用】
- 医院の買い取り資金
- 各種税金の支払い
- 廃業・開業費用
- 専門家への依頼費用
- 円滑な医院継承に向けた準備資金
- 医院継承後の投資資金
資金に余裕のない個人が医院を買い取る場合は、国や地方自治体、金融機関による支援をうまく活用することが大切です。
また、医院を売却する側は、買い手の負担を減らすための準備をしておくことも必要でしょう。
医院継承の相場
医院の売却価値の決め方にはさまざまな方法がありますが、よく用いられるのは事業用資産価値に営業権を加える方法です。
営業権とは、医院が今後生み出すと想定される収益力のことです。営業権の算出方法もさまざまであり、算定する専門家によっても変わりますが、よく用いられるのはキャッシュフローを基にした算出方法や診療報酬を基にした算出方法です。
事業用資産価値に営業権を加えた売却価格を基に、売り手と買い手が交渉によって最終的な売買価格を決めていきます。
医院継承を行う際の留意点
医院継承を行う際は、以下5つの点に留意して進めていく必要があります。
- 継承までに多くの手続きが必要
- 診療のスタイルや理念が相違している
- 患者離れが起きる可能性
- スタッフ・看護師・医師の離職
- 移設・設備・医療機器の引き継ぎ
1.継承までに多くの手続きが必要
医院継承には多くの手続きや準備が必要となるので、医院継承を思い立ってすぐにできるものではありません。
特に、十分な準備期間が必要となるのは後継者の育成であり、一般的に後継者の育成には5年以上必要とされています。
医院継承の場合は、技術の継承だけでなく、医院スタッフや患者との関係構築期間も必要です。現経営者が高齢になってからでは十分な準備期間がとれなくなる可能性があるので、早いうちから医院継承を意識した経営をすることが大切です。
2.診療のスタイルや理念が相違している
医院継承のトラブルでよくあるケースが、診療スタイルや医療に対する価値観が大きく相違していることによる衝突です。
医療技術や医療の価値観は変化し続けており、60代の医師と30代の医師では学んでいる内容が大きく異なるため、後継者の医師が医院の運営体制に大きなギャップを感じることがあります。
現医院長も長年続けてきたきた方法や考え方にこだわりがあるので、簡単に変えることはできません。その結果、衝突が生じることがあります。
3.患者離れが起きる可能性
患者離れにも注意が必要です。長年医院に通い続けている患者は元の医師のやり方に慣れているため、医師が変わると不安や不満を感じて離れていくことがあります。
長年勤務している医師への医院継承であれば問題ありませんが、そうでない場合は後継者となる医師にしばらく医院で勤務してもらい、患者との信頼関係を構築しておくことが有効です。
4.スタッフ・看護師・医師の離職
従業員の離職にも注意が必要です。前述したように、年配の医師と若手医師では学んできた技術や価値観が大きく違うため、若い医師が医院を継いだ場合、経営の仕方を急に変えようとすることがあります。
しかし、今までのやり方に慣れている従業員の反発を招いてしまい、離職につながることも少なくありません。
現経営者は従業員への説明を丁寧に行なうことや、後継者との経営方針のすり合わせを入念に行うなどの準備が必要です。
5.施設・設備・医療機器の引き継ぎ
施設が賃貸であったり医療機器がリースであったりする場合は、契約の引き継ぎに注意が必要です。
事業譲渡によって医院継承を行った場合、現経営者は契約を解除し、後継者はあらためて各種契約を結び直す必要があります。
契約の解除と再契約がスムーズにいかなければ、医院の再開に支障が出ます。また、カルテの引き継ぎもしっかりと行うことが大切です。
カルテの引き継ぎがしっかりと行われていないと、カルテが原因で開業許可が出ない可能性も出てきます。
カルテの引き継ぎには時間がかかるので、スケジューリングをしっかりと行い、スムーズに医院経営を再開できるようにする必要があります。
医院継承が行われる理由
医院経営者が医院継承を行う主な理由には、以下の5つがあげられます。
- 後継者問題の解決
- 閉院を避けるため
- 看護師・スタッフを引き継ぐことができるため
- 患者・カルテ等を引き継ぐことができるため
- 施設・設備を活用できる
1.後継者問題の解決
医院の場合、後継者問題が発生する要因にはさまざまなものがあります。これらは、第三者事業承継によって解決できるという認知が広がってきた結果、医院でも第三者への事業承継が増えています。
【医院で後継者問題が発生する主な要因】
- 子どもが頼りない・継ぐ気がない
- 医者の娘婿に継いでくれと言い出せない
- 院内に最適な後継者候補がいない
- 勤務医の方が安定していると考えている
- 後継者問題に取り組めないまま引退時期を迎えた
- 何をしたら良いかわからない
2.閉院を避けるため
近年は地域による医療格差問題が深刻化しており、地方では地域で唯一の医院が閉院してしまうと、医療難民が大勢発生する可能性のある地域も少なくありません。
そのため、なんとか閉院を避けたいと考える医師や地方自治体によって、医院継承が行われるケースもあります。
閉院後にもカルテ等の保管義務が発生
閉院する際や医院継承を行う際は、カルテの保管義務に注意しなければなりません。
カルテの保管期間は診療から5年間と定められていますが、医療ミスなどによる訴訟の可能性を考えると10年間保管する必要があります。
閉院や医院継承の際、カルテを誤って破棄してしまったり紛失してしまったりすると、訴訟が起きた場合に大問題となるので、カルテなど医療記録の保管は厳重に行うことが大切です。
3.看護師・スタッフを引き継ぐことができるため
医院の閉院を検討する際に経営者を悩ませるのが、従業員の再雇用先です。医院によっては従業員全員の再雇用先を決めてから閉院するケースもあるほど、従業員に対して責任を強く感じる経営者は少なくありません。
しかし、医院継承によって医院を継続できれば従業員も引き続き働くことができるので、再経営者は雇用先探しに頭を悩ませる必要がありません。
4.患者・カルテ等を引き継ぐことができるため
閉院を検討する場合、患者の存在も経営者にとって心配の種になります。特に、近隣に病院がない場合は閉院によって病院に通えなくなる患者も出てくる可能性があり、簡単に閉院に踏み切るわけにはいかなくなります。
しかし、医院継承であれば後継者に患者とカルテを引き継ぐことができ、患者は同じ治療を継続できます。
5.施設・設備を活用できる
閉院する場合、施設・設備を片付ける必要があり、費用や手間がかかります。しかし、医院継承によって施設・設備をそのまま活用できれば、片付ける必要がないうえに有効利用できます。
医院継承を考えるタイミング
多くの医院経営者が後継者問題への取り組みは重要と考えているにもかかわらず、実際に準備を進めている医院経営者の割合は少ないのが現状です。
その理由として多いのが、いつから始めたら良いのかわからない、何から手をつけたら良いのかわからないというものです。
医院継承を考えるタイミングは「早ければ早いほどよい」とされており、準備に十分時間をかけるほどよい後継者に巡り合える確率も上がり、後継者の育成も十分に行うことができます。
また、医院継承を意識しながら医院経営を行うことで、医院の売却価値を向上させていくことも可能です。
医院継承の成功/失敗事例
最後に、医院継承の成功事例と失敗事例をご紹介します。
成功事例
まずは、医院継承成功事例を3つご紹介します。
- 院長の急な逝去から医院を再開
- 短期間のスピード承継でセミリタイア
- 医院を譲渡して新たな医院を開業
1.院長の急な逝去から医院を再開
院長が50代で急病により逝去し、医院を継ぐことができる子どももいないことから、院長の家族は閉院を検討していました。
しかし、知り合いの医師から医院継承について教えてもらい、後継者に適した医師を紹介してもらいます。
結果的に紹介してもらった医師はすでに自身で開業準備を進めており、後継者になってもらうことは叶いませんでしたが、院長の家族は第三者医院継承という方法があることを知ります。
その後、知り合いの医師から医院仲介の専門家を紹介してもらい、医院の再開にこぎつけることができました。
2.短期間のスピード承継でセミリタイア
院長のSさんは60代になり、自身の体力と気力に不安を感じるようになってきました。
突然倒れてスタッフや患者に迷惑をかけるくらいなら早いうちに医院継承をしておこうと決意し、専門家に相談して第三者への医院継承を実行します。
仲介の専門家には後継者の決定から医院継承の完了まで1年以上はかかる可能性があると言われていたものの、タイミングと運がよく3ヶ月のスピード承継となりました。
現在、Sさんは週2日だけ診療し、残りの5日は趣味に没頭する健康的な生活を実現しています。
3.医院を譲渡して新たな医院を開業
Dさんは総合診療を行う医院の院長として診療を続けてきましたが、徐々に新たな診療スタイルの医院経営に興味を持つようになります。
しかし、現在の医院を新たなスタイルに変えるわけにはいかず、現在の医院を譲渡して新たに医院を開業することにします。
医院継承の理由としてはかなり珍しいものでしたが、現在の医院経営が順調であったことや、Dさんの考えに賛同する人が多くいたことから、医院継承と新たな医院の開業はスムーズに実現しました。
仲介の専門家が医院継承後のアフターフォローも丁寧に行ってくれたことから、後継者となった医師も順調に医院を経営することができています。
失敗事例
続いて、以下の医院継承失敗事例をご紹介します。
- 閉院後医院承継に失敗
1.閉院後医院承継に失敗
院長が病気により長期入院することになり、代役となる常駐の勤務医もいなかったことから、医院はしばらくの間閉院することになりました。
しかし、院長が医院に復帰できる目処が立たないことから、院長と家族は医院継承を検討します。
院長の知り合いで後継者となってくれそうな医師を探したり、専門家に仲介を依頼したりしたものの、なかなか後継者候補が見つかりません。原因は、閉院してから2年近く経っていたことでした。
1度閉院してしばらく経ってから医院継承しても、経営がうまくいかない可能性が高いということを院長と家族は初めて知ります。結果的に医院はそのまま閉院することとなりました。
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まとめ
本記事では、医院継承の手続きの流れや費用、相場、手続きの留意点などについて解説してきました。医院承継は一般的な事業承継とは異なる点も多いため、注意しながら進めるとともに事前に全体の流れを把握しておくようにしましょう。
【第三者への医院継承の手続きの流れ】
- 医院継承の専門家に相談
- 医院継承先の選定
- 基本契約書の作成・締結
- 継承契約の合意
- 各機関への届け出
【医院承継の行う際の注意点】
- 継承までに多くの手続きが必要
- 診療のスタイルや理念が相違している
- 患者離れが起きる可能性
- スタッフ・看護師・医師の離職
- 移設・設備・医療機器の引き継ぎ
【医院承継が行われている主な理由】
- 後継者問題の解決
- 閉院を避けるため
- 看護師・スタッフを引き継ぐことができるため
- 患者・カルテ等を引き継ぐことができるため
- 施設・設備を活用できる
【本記事で紹介した成功事例】
- 院長の急な逝去から医院を再開
- 短期間のスピード承継でセミリタイア
- 医院を譲渡して新たな医院を開業
【本記事で紹介した失敗事例】
- 閉院後医院承継に失敗
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