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2022年6月6日更新会社・事業を売る
のれんの減損とは?減損する理由や事例、兆候を解説【コロナへの対応も】
のれんの減損が起きると、株価低下や配当金の減少などのリスクが発生します。近年は頻繁にM&Aが行われるようになったこともあり、のれんの減損処理の事例が増加しています。本記事では、のれんの減損が起こる理由や事例、兆候を解説します。
のれんの減損とは
のれんの減損とは、のれん(将来的に見込まれた収益価値)を下方修正することです。のれんの減損処理で想定されるリスクは、株価低下や配当金減少などが挙げられます。
これらのリスクは企業価値の低下を意味するので、経営者としてはできる限り避けなくてはなりません。のれんやのれんの減損の概要について確認していきましょう。
そもそも、のれんとは何
のれんとは、M&Aにおける買収価格と買収対象企業の純資産額との差額を計上するものです。M&Aの際の企業価値評価は時価評価を行うことになるため、貸借対照表に記載される簿価との差額が発生してのれんの計上が必要になります。
技術・ノウハウや商標権・特許など、形にすることができない無形資産を評価する際に評価額と純資産額の間で際が発生します。この差異の帳尻を合わせるのがのれんです。
高い評価がされることで発生するのれんは、企業にとって将来的な収益価値であることを意味しています。将来的に回収できると見込まれたものであるため、買い手側のM&A買収に対する期待値と言い換えることもできます。
のれんの価値を修正すること
のれんの減損は、のれんの価値を修正することです。M&A買収の際に計上したのれんが実際に回収することが難しいと判断された時に、のれんの減損処理で本来の価値評価を行います。
会計処理においては、当期の特別損失として計上します。会計上は特別損失として扱うことができますが、税務上は損失扱いにできない場合も多いため、のれんの減損が企業に与えるダメージはとても大きいです。
のれんの減損が起こる理由
のれんの減損が起こる主な理由は、「買収価格が高すぎた」あるいは「想定してた利益が生み出せていない」の二点です。
買い手側の無形資産に対する期待値が高すぎたことで原因になり、本来の帳簿価格にするために減損処理を行わなくてはならない状況になっています。
買収後の要因で価値減少やキャッシュ・フローの減少などが発生することもあります。経営者によるM&A判断の際に見極めることができないものもあるため、完全にコントロールすることは難しいとされています。
のれんの減損事例
過去に行われたM&Aの中には、のれんの減損が行われた事例がいくつもあります。この章では、特に話題になったのれんの減損事例をピックアップしてご紹介します。
【のれんの減損事例】
- キリンによるブラジルのビール会社ののれん減損
- 日本郵政による豪の物流事業ののれん減損
1.キリンによるブラジルのビール会社ののれん減損
キリンホールディングス
2011年8月、キリンホールディングスはブラジルのビール会社「スキンカリオール」を3000億円で買収しました。
買収当時、スキンカリルールは年率10%前後の売上増加が期待される優良企業でしたが、買収後のブラジル国内経済の変化による消費落ち込みや同業他社との競争激化の影響で想定していたのれんが失われてしまいます。
本件が直接的な原因となり、2015年12月期にのれんの減損を行い、1949年の株式上場以来の初赤字を計上する結果となりました。
2.日本郵政による豪の物流事業ののれん減損
日本郵政
2015年5月、日本郵政はオーストラリアの物流大手会社トール・ホールディングスを6200億円で買収しました。
日本郵政は国際物流事業への足掛かりとしていましたが、オーストラリアの経済悪化や単純な経営失敗による影響で失敗に終わってしまいます。
業績が回復することはなく、結果的に17年3月期に約4000億円ののれんの減損を計上することとなりました。さらに2020年8月、日本郵政はトール・ホールディングスの売却とともに国際物流事業から撤退することを公表しました。
のれんの減損が起こる兆候とは
のれんの減損には、減損が生じている可能性を示す「減損の兆候」が見られる場合があります。企業にとって大きなリスクである減損リスクを早期に認識することで、対抗策を検討することができるようになります。
のれんの減損の兆候は、減損会計基準において以下のように定義されています。いずれもM&A後の変化によりみられる可能性があるものなので、順番に確認していきましょう。
【のれんの減損が起こる兆候】
- 営業活動から生ずる損益又はキャッシュ・フローが継続してマイナスの場合
- 使用範囲又は方法について回収可能価額を著しく低下させる変化がある場合
- 経営環境の著しい悪化がある場合
- 市場価格の著しい下落がある場合
1.営業活動から生ずる損益又はキャッシュ・フローが継続してマイナスの場合
営業活動から生ずる損益とは、減価償却費や本社共通費(本社修繕費や社長の人件費)などが含まれます。
継続してマイナスについては具体的な年数は記載されていませんが、当期マイナス翌期プラスが見込まれるような状況においても、考慮する必要があると考えられます。
ただし、事業の立ち上げ時など、初期投資の影響で一時的なマイナスになることが見込まれている場合は兆候として認められません。損失が出ていたとしても、合理的な事業計画のもとで行われているものであれば、減損処理を行う必要はないです。
2.使用範囲又は方法について回収可能価額を著しく低下させる変化がある場合
M&Aで取得した資産について、回収可能価額が低下する事態が発生した場合も兆候として認められます。
具体的には、M&Aで取得した無形資産を本来予定していた使用方法以外への使用や遊休状態、再稼働の見通しが立たない状況などが挙げられます。
このような状況が続くと、M&Aの際に見込まれていた収益価値が回収できなくなるリスクが非常に高いため、危険度は高いとみられています。
3.経営環境の著しい悪化がある場合
経営環境の著しい悪化は個々の企業や業種によって基準が変化するため、下記の例示を示す範囲にとどめられています。
【経営環境の悪化として認められる例示】
- 原材料の高騰やサービス料金・賃料の低下、売上高の減少が続いている状態
- 技術革新による既存技術の陳腐化や関連技術の流出・拡散による技術環境の悪化
- 法律改正による法律的環境の著しい悪化
過去には、日本化成が原材料価格の高騰により特別損失に計上した事例があります。硝安製造を行う工場の設備について、帳簿価額を回収可能額に修正するために8億円の減損処理を行っています。
4.市場価格の著しい下落がある場合
市場価格の著しい下落とは、「50%程度以上の下落」が該当します。M&Aで取得した資産について、何かしらの要因で50%前後下落した場合も減損の兆候として判断されます。
通常、需要量と供給量の相対的変化に対応して価格が変動するものですが、新型コロナウイルスなどのように大きな外的要因がある場合は、短期間で著しく下落することも珍しくありません。
のれんの減損を避けるには
のれんの減損を避けるためには、M&Aの段階でリスクを正しく認識しておくことが大切です。具体的な方法としては、M&A戦略策定とデューデリジェンスの実施が挙げられます。
この二点を徹底しておこなうと、M&Aで得られるシナジー効果を最大限に発揮させやすくなります。のれんとして計上される収益価値も回収しやすくなりますので、結果的にM&Aが成功する可能性を高める効果が期待できます。
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新型コロナによるのれんの減損の対応について
新型コロナの影響で特に飲食業は大打撃を受けています。営業自粛が解除されてからも客足の戻りは悪く、業績が悪化し続ける企業が増加しており、大手チェーン店を全国展開する飲食大手はのれんの減損が危惧されています。
M&Aを繰り返して自己資本を上回るのれんを計上している企業が減損処理を行うと、一転して債務超過に陥る可能性があります。
デリバリーやテイクアウトに注力するなど、のれんの回収が不可能な状態にならないために、のれんの減損への対応が急務とされています。
まとめ
本記事では、のれんの減損についてみてきました。のれんはM&A買収における将来的な価値ですが、見通しの甘さや買収後の外的要因による影響で企業のリスクになることもあります。
これらのリスクを避けるためにもM&Aの判断は慎重に行わなくてはなりません。M&Aの専門家に相談することで、万全の体制で臨むことができるでしょう。
【のれんの減損まとめ】
- のれんとはM&Aにおける買収価格と買収対象企業の純資産額との差額を計上するもの
- のれんの減損とはのれんの価値を下方修正すること
【のれんの減損が起こる理由】
- 買収価格が高すぎた
- 想定してた利益が生み出せていない
【のれんの減損事例】
- キリンによるブラジルのビール会社ののれん減損
- 日本郵政による豪の物流事業ののれん減損
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株式会社日本M&Aセンターにて製造業を中心に、建設業・サービス業・情報通信業・運輸業・不動産業・卸売業等で20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、アドバイザーを統括。ディールマネージャーとして全案件に携わる。