M&Aとは?意味や動向とM&Aを行う目的・メリットなどをわかりやすく解説!
2021年5月21日更新業種別M&A
介護事業の事業譲渡・事業売却とは?流れや注意点を解説!
介護事業が事業譲渡・事業売却を行うケースは多く、その背景には介護事業が抱える様々な経営課題があります。 ただ、事業譲渡・事業売却は手間がかかるスキームであり、行ううえで予備知識が必要になります。 今回は介護事業が事業譲渡・事業売却を行う理由や、事業譲渡・事業売却の知識についてお伝えします。
目次
介護譲渡の事業譲渡・事業売却
最初に介護事業の内容や事業譲渡・事業売却の意味についてお伝えしていきます。
介護事業とは
介護事業は大きく分けて以下3つの業態があります。
- 訪問介護
- 施設介護
- デイサービス
1.訪問介護
訪問介護はホームヘルパーやケアワーカーといった介護者が被介護者の家を直接訪問し、身体介助や生活援助などを行う業態です。
訪問介護は要支援の1~2や要介護の1~5を対象としており、家に直接訪問することから被介護者が安心しやすいという点が大きなメリットです。
訪問介護は被介護者が自立した生活を送れるように支援することに主眼を置いており、医療行為などは行えないようになっています。
2.施設介護
施設介護は施設に入所している被介護者に介護サービスを提供する業態です。
施設介護には「特別養護老人ホーム」・「介護老人保健施設」・「介護療養型医療施設」の3種類の施設があり、いずれも公共施設のような扱いになっています。
基本的に介護施設は要介護1以上の被介護者が入所することができます(特別養護老人ホームは要介護3、ただしやむを得ない事情がある際は要介護1~2でもOK)。
ただ日本には数十万人の入所待ちの高齢者がいるといわれており、入所することは決して簡単ではありません。
施設介護は生活援助や身体介助だけでなく、理学療法士によるリハビリや医者・看護師による医療的な管理なども行われます。
3.デイサービス
デイサービスは別名通所介護ともいわれています。
基本的にデイサービスの業態は被介護者が職員の送迎を受けながら日帰りで施設に通い、機能訓練や身体介助などを受けるという形になってます(サービスによっては一泊することもあります。ただし、介護保険の適用外になります)。
デイサービスは医療的なケアや自立した生活実現のための支援だけでなく、定期的に外出することで引きこもりや孤立の防止も目的となっています。
事業譲渡とは
事業譲渡はM&Aのスキームの一種であり、事業を他社に譲渡するというものです。事業のみを譲渡するため、株式譲渡や合併のように売り手の会社の独立性には影響がありません。
事業譲渡は何らかの理由で経営の存続が難しい会社が主力の事業を存続させるために用いたり、赤字事業やノンコア事業の整理にも利用されます。また、場合によっては事業承継で活用されることもあります。
事業譲渡の最大の特徴は「契約の範囲内で承継するものを選択できる」という点です。そのため、買い手と売り手が協議で合意を取っていれば承継するもの・しないものを自由に選択できます。
ただ、事業譲渡は許認可や各種契約は承継されないため、改めて手続きを行わなければならなくなります。その結果、プロセス全体が煩雑で時間がかかりやすくなっていることが事業譲渡のデメリットです。
事業売却
事業売却とは事業を売却する行為を意味します。
基本的に事業譲渡を行うことを事業売却と呼びますが、会社分割というM&Aスキームを利用する場合も事業売却に該当するといえます。
ただ、事業譲渡と会社分割は全く違うスキームです。
会社分割は包括的承継が発生するため、買い手の会社は売り手のリスクも承継することになりますし、手法によっては会社単体で行うケースもあります。そのため、会社分割は組織再編でも多用されます。
介護事業の事業譲渡・事業売却の流れ
介護事業の事業譲渡・事業売却の流れは以下のようになっています。
- 仲介会社などへの相談
- 事業譲渡・事業売却先の選定
- 基本合意書の締結
- デューデリジェンスの実施
- 最終契約書
1.仲介会社などへの相談
事業譲渡・事業売却を行うのであれば、まずは仲介会社などに相談しましょう。
事業譲渡は手間がかかるM&Aスキームであり、専門的な知識が必要となる場面も少なくありません。さらに許認可や各種契約の取り直しを行うとなると、手続きを把握している必要がでてきます。
ただ、事業譲渡・事業売却を完全に網羅したうえで取り組むことは難しいでしょう。そのため、M&Aの知識や経験が豊富な専門家に相談しておくことは不可欠だといえます。
秘密保持契約書の締結
秘密保持契約書とはM&Aを行う前に締結する契約です。
その内容は「秘密情報」に類する重要機密の取り扱いに関するものになっており、仲介会社などといったM&Aをサポートする専門家や買い手の会社と締結します。秘密保持契約書を締結することにより、当事者の会社が持つ秘密情報を漏洩させないことを明確にできます。
2.事業譲渡・事業売却先の選定
これは事業譲渡・事業売却先、つまり買い手の選定していく作業です。基本的に仲介会社などの専門家の協力を受けながら行っていきます。
この作業はスクリーニングと呼ばれており、大まかな条件で候補を抽出したロングリストと、その中からさらに絞り込んだショートリストを作成したうえで、M&Aを実現し得る候補にアプローチしていきます。
3.基本合意書の締結
基本合意書はトップ面談を終え、M&Aを行うことで合意を得た会社同士が締結するものです。
基本合意書は法的拘束力はありませんが、独占交渉権や大まかな譲渡価格などといったM&Aを進めていくうえで必要な事柄についてまとめられています。基本的にM&Aの交渉や各プロセスはこの基本合意書に沿って進められていくことになります。
しかし、基本合意書は法的拘束力を持たないため(独占交渉などを除く)、記されている事項が覆されるケースは珍しくありません。もちろん、交渉が難航すれば基本合意書を締結していてもM&Aが破談することもあり得ます。
意向表明書の提示
意向表明書はトップ面談を終えた直後に買い手が呈示する書類です。
意向表明書は買い手がM&Aを行ううえでの条件をまとめたものであり、M&Aのスケジュールや予定されている譲渡価格などが記されています。基本合意書と同様に意向表明書は法的拘束力がなく、呈示すべきものでもありません。
ただ、意向表明書があるだけでもM&Aが円滑に進むようになります。
4.デューデリジェンスの実施
デューデリジェンスとは税務・財務・法務などといった様々な観点から売り手の会社のリスクを洗い出し、精査するプロセスです。
デューデリジェンスはM&Aのプロセスの中でも重要性が高いものの一つであり、M&Aが成功するか失敗するかの分岐点だともいえます。また、譲渡価格もデューデリジェンスの結果に基づいて最終的に決定されます。
5.最終契約書
最終契約書はM&Aの最終的な条件を確定される契約であり、譲渡価格や表明保証などが記されています。
最終契約書は基本合意書などと違って法的拘束力があるため、もし条件を違反するようなことがあれば損害賠償が発生します。そのため、契約の内容は弁護士などにチェックしてもらうなどして慎重に決定していくようにしましょう。
ちなみに最終契約書とは便宜的な名前であり、実際はM&Aのスキームに合わせた名前がつけられます。
6.クロージング
M&Aの締めくくりともいえる作業がクロージングです。
クロージングは最終契約書を締結した後に経営統合を具体的に実行していくためのプロセスであり、各業務の引継ぎや対価の支払い、役員の選任などが行われます。
介護事業の事業譲渡・事業売却の注意点
介護事業が事業譲渡・事業売却を行う際、その注意点は以下のようなものがあります。
- 事業譲渡・事業売却に際し離職者を出さないようにする
- 経営する介護事業の資料やデータをまとめておく
- 再度行政から認可を受ける必要がある
- 各種契約関係の巻き直しがある
- 利用者に影響がある事を考えて対策を考える
- 事業譲渡・事業売却には時間がかかることを認識する
- 加算の見直しの確認
- 事業譲渡・事業売却先との相性も考える
- 事業譲渡・事業売却後の計画を行う
- 事業譲渡・事業売却の専門家に相談する
1.事業譲渡・事業売却に際し離職者を出さないようにする
事業譲渡・事業売却を行ううえで最も重要な注意点の一つが「離職者を出さない」ことです。
そもそも事業譲渡・事業売却に限らず、M&Aは離職者が出やすいというリスクがあります。M&Aを行うと経営者や労働環境が変わるため、その変化を拒絶する従業員が出てくることは想像に難くありません。
そのため、M&Aを行うことを公表した段階で反発する従業員が大量に離職するケースは珍しくないものです。最悪なケースだと事業の中核を担う従業員が離職し、事業価値が下落したり、重要機密が漏洩するようなこともあります。
そして事業譲渡・事業売却を行う会社はこのような事態には一層警戒しておく必要があります。事業譲渡は実行すると各種契約が一度白紙になりますが、その中には雇用契約も含まれています。そのため従業員が離職しやすい状況が生まれてしまいます。
離職者を防ぐためにも、事業譲渡・事業売却を行う際は従業員への説得材料をしっかり用意するようにしましょう。
2.経営する介護事業の資料やデータをまとめておく
事業譲渡・事業売却を行う前段階から介護事業の資料やデータはまとめておくようにしましょう。
事業譲渡・事業売却は端的にいってしまうと事業の売買であるため、事業の価値を明確化しておくべきです。そのため、事業に関する資料やデータをしっかりまとめ、詳細に分析しておくことがおすすめです。
事業譲渡・事業売却を成功させるうえでも、このプロセスは非常に重要になります。
3.再度行政から認可を受ける必要がある
事業譲渡を行うなら、許認可を再度行政から受ける必要がある点にも注意しておきましょう。
事業譲渡は経営主体を変えるスキームであるため、許認可が白紙になってしまいます。そのため、許認可を改めて取り直さなければなりません。この際、取り直しは新規指定という形で行われるため、手続きには時間がかかります。
あらかじめ事業譲渡・事業売却を行うことを決めた段階から、許認可の取り直しはスケジュールに含めておいた方がいいでしょう。その方が円滑に進められるようになります。
4.各種契約関係の巻き直しがある
さきほどお伝えした雇用契約の件にも関わりますが、事業譲渡・事業売却を行うと各種契約関係の巻き直しが発生する点にも注意しておきましょう。
ここでいう各種契約には雇用契約や取引先、利用者との契約はもちろん、不動産や水道、電気などの契約も含まれます。これだけでも非常に多くの契約の巻き直しが必要なことがわかります。もちろん売り手の会社の事業所が多ければ、その分だけ巻き直しが発生します。
全ての契約の巻き直しにはかなり手間がかかるので、スケジュール調整は充分配慮しておきましょう。
5.利用者に影響がある事を考えて対策を考える
事業譲渡・事業売却を行ううえで、経営者は利用者への影響をしっかり考慮しなければなりません。
介護事業は多くの利用者がいて成立する事業であり、事業譲渡・事業売却は買い手へ利用者を引き渡すことにもなります。しかし、経営主体が変われば営業方針や業務内容が変わることもあり得るため、利用者へ多大な影響を及ぼす可能性が考えられます。
また、利用者からすれば慣れ親しんだ経営主体が変わることに不安を覚えることもあるでしょう。何より介護事業は公共性が高いため、利用者のことを第一に考える必要があります。
介護事業は性質上、繊細に扱わなければならない利用者が多いため、利用者への影響は丁寧にコントロールするようにしましょう。もし事業譲渡・事業売却に反発し、利用者が退所する事態になれば、事業それ自体が成立しなくなる恐れがあります。
6.事業譲渡・事業売却には時間がかかることを認識する
これも何度もお伝えしていることですが、事業譲渡・事業売却は時間がかかることはあらかじめ認識しておくべきでしょう。
買い手との交渉や各種契約の巻き直し、許認可の取り直しなどといった全ての手続きを踏まえると、事業譲渡・事業売却は終了まで1年以上もかかるも珍しくありません。
ただ、どんな経営戦略も長丁場になれば取り組んでいる経営者や従業員の体力が減りますし、コストの負担も重くなります。時間がかかることを認識ししつつも、事業譲渡・事業売却のスケジュールはなるべく効率的に進められるように設定しておきましょう。
7.加算の見直しの確認
介護事業が事業譲渡・事業売却を行う場合、加算の見直しもチェックしておかなければなりません。
特定事業所加算などのような加算は運営期間が要件に入っているものですが、事業譲渡・事業売却を行うと運営期間そのものがリセットされます。そうなると加算が無効になってしまいます。
そのため、事業譲渡・事業売却を行うのであれば、買い手に加算の要件の確認をしてもらう必要があります。
8.事業譲渡・事業売却先との相性も考える
少し素朴な話になってしまいますが、事業譲渡・事業売却先との相性には注意しておきましょう。
事業譲渡・事業売却は買い手と売り手それぞれの経営者の合意があって成立するものです。もしお互いの相性が悪ければ経営方針や理念も異なりますし、売り手も自分の事業を託すことに不安を覚えるでしょう。
もちろん売却するうえでの条件も重要ですが、経営者にとって大事な事業を託すからには相手との相性が良い、信頼に足る相手かどうかを見極める必要があります。
9.事業譲渡・事業売却後の計画を行う
事業譲渡・事業売却を行うのであれば、売却後の計画も考えておいた方がいいでしょう。
事業譲渡・事業売却は売却を完了させた段階で終わりではなく、その後の経営も見据えていかなければならないものです。経営統合後のビジョンが見えなければ事業譲渡・事業売却のシナジー効果は発揮されませんし、従業員や利用者への影響も見過ごすことになります。
そのため事業譲渡・事業売却を行う際は、売却後の計画も策定し、それに対しても買い手と売り手双方の合意を得ておくようにしましょう。
10.事業譲渡・事業売却の専門家に相談する
さきほどもお伝えしましたが、事業譲渡・事業売却を行うのであれば専門家にまず相談するようにしましょう。手続きが煩雑になりやすい事業譲渡・事業売却は、専門家のサポートを得れば円滑に進みやすくなりますし、必要な時間も短縮できる可能性が高まります。
ただ、専門家の選び方には注意しておきましょう。もちろん「報酬が安い」、「サービスが充実している」といったファクターも重要ですが、介護事業のM&Aに実績がある専門家であるかどうかも見極めておくようにするべきです。
介護事業は社会福祉法人が運営しているケースがありますが、社会福祉法人のM&Aは一般的な株式会社とプロセスが異なっています。そのことを踏まえ、なるべく自分の介護事業の内情に合った専門家を選ぶようにしておきましょう。
介護事業の事業譲渡・事業売却を考えるタイミング
介護事業の事業譲渡・事業売却は以下のようなタイミングで考えられることが多いです。
- 経営が上手く行っていない
- 高齢になり健康問題が出てきた
- 別事業に注力したいと考えている
1.経営が上手く行っていない
経営が上手くいっていない介護事業が事業譲渡・事業売却を行うケースは少なくありません。
とりわけ中小規模・零細規模の介護事業は規模や資金の限界もあって経営が行き詰まりやすく、そのような介護事業が廃業することで利用者が路頭に迷うケースも少なくありません。
ただ、何度もお伝えしているように介護事業は公共性が高く、利用者の行く末を考えると例え経営状態が悪化していても廃業という選択肢をとるべきではないでしょう。
そのため、事業譲渡・事業売却を行うことで大手の傘下に入り、経営状態を改善しようとする介護事業は多くあります。
2.高齢になり健康問題が出てきた
経営者が高齢化し、健康問題が発生したタイミングで事業譲渡・事業売却を考えるケースは多くあります。これは介護事業に関わらず、多くの中小企業・零細企業でも見られます。
経営者が高齢化し、健康問題に悩まされるようになれば経営を続けることが難しくなります。加えて後継者が不在だと事業承継ができなくなるため、第三者に経営を委託する事業譲渡・事業売却が有効的な選択肢となってきます。
ただ、事業譲渡・事業売却を行うのであれば、健康問題が表面化する前から取り組むことがおすすめです。経営者が体調不良で倒れるようなことになれば、その段階で事業譲渡・事業売却が頓挫してしまう恐れがあります。
3.別事業に注力したいと考えている
別事業に注力したい経営者が事業譲渡・事業売却を行うケースもあります。
複数の事業を経営している会社がノンコア事業を整理したい、新事業立ち上げのために既存の事業を売却したい経営者にとって事業譲渡・事業売却は有効的な手段だといえます。事業譲渡・事業売却を行えば経営を存続させたまま切り離すことができますし、売却益を得ることもできます。
介護事業の事業譲渡・事業売却のメリット
ここでは事業譲渡・事業売却のメリットを改めて3つご紹介します。
- 後継者問題からの解放
- 従業員の雇用を安定
- 譲渡益・売却益の獲得
1.後継者問題からの解放
事業承継に悩んでいる経営者にとって、事業譲渡・事業売却は後継者問題から解放されるチャンスだといえます。
後継者問題は介護事業に限らず中小企業の多くが抱えているものであり、後継者が不在であるために事業承継ができない会社は急増しています。そのような会社は経営者が引退すれば、例え黒字でも廃業せざるを得なくなります。
しかし、事業譲渡・事業売却であれば第三者に経営権を委ねられるため、後継者問題が改善できるようになります。
2.従業員の雇用を安定
経営者である以上、従業員の雇用は最も考慮しなければならないものの一つです。
当然介護事業が廃業するような事態になれば従業員は路頭に迷ってしまうことになります。しかし事業譲渡・事業売却を成功させることができれば事業を存続できるため、従業員の雇用を安定化させることができます。
また事業譲渡・事業売却を通じて大手の傘下に入ることができれば経営基盤を強化できるため、労働条件の改善も可能になります。労働条件を改善できれば従業員の雇用もより安定しますし、新たな人材の採用や定着率の向上も図れるようになります。
3.譲渡益・売却益の獲得
事業譲渡・事業売却は譲渡益・売却益を獲得できますが、これは売り手の経営者にとっては非常に大きなメリットだといえます。
どんな動機で事業譲渡・事業売却を行うにせよ、譲渡益・売却益は様々な方面で役立ちます。経営者の引退による事業承継であれば引退後の生活資金に、別事業への注力であれば創業資金や運営資金にするなど、譲渡益・売却益は自由に使うことができます。
中にはハッピーリタイアメントのように、初めから譲渡益・売却益を目的として譲渡益・売却益を行うケースもあります。
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まとめ
介護事業が事業譲渡・事業売却を行う場合、経営者は従業員や利用者への影響に配慮しておく必要があります。また、事業譲渡・事業売却は非常に時間がかかり得るスキームであることも理解し、しっかり準備を済ませておきましょう。
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