2024年8月28日更新業種別M&A

コールセンター業界の動向とM&A・事業承継のメリット!流れや売却・買収事例6選と相場価額について解説【2024年最新】

本記事では、コールセンター業界の事業譲渡・株式譲渡・M&A・事業承継のポイントを解説します。近年、コールセンター業界の需要が高まっています。M&A・事業譲渡など活用して新規参入する企業も増え、競争が激化している状況です。コールセンター業界のM&Aを検討している方は必見です。

目次
  1. コールセンター業界の動向
  2. コールセンター業界のM&A・事業承継の動向
  3. コールセンター業界のM&A・事業承継を行うメリット
  4. コールセンター業界の代表的なM&Aスキーム
  5. コールセンター業界のM&A・事業承継の成功事例
  6. コールセンター業界のM&A・売却価格の相場
  7. コールセンター業界の評価を高める4つのポイント
  8. コールセンター業界のM&A・事業承継の成功ポイント
  9. コールセンター業界を事業譲渡・株式譲渡・M&A・事業承継する際の手続き
  10. コールセンター業界のM&A・事業承継まとめ

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コールセンター業界の動向

コールセンター業界の動向を5つのトピックに分けて解説します。

コールセンター業界の市場規模

矢野経済研究所「コールセンターサービス市場/コンタクトセンターソリューション市場の調査を実施(2023年)」

出典:https://www.yano.co.jp/press-release/show/press_id/3386

矢野経済研究所によると、2021年度におけるコールセンターの市場規模は事業者売上高ベースで1兆1259億円、前年度比で8.0%増加したと報告されています。

前年度より新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、公共・官公庁分野で大型のスポット案件が発生したことが市場拡大に大きく貢献しました。

また、民間企業に関しても、労働力不足・労働者派遣法の改正などを理由に、コールセンター業務のアウトソーシングニーズが拡大している状況です。

地方拠点への移行

コールセンター業界はオペレーターと通信設備があれば通勤の利便性を除きあまり立地は関係のない業態です。

そのため、人件費を抑えるため1990年後半より地方都市に設立されることが多くなっています。近年は東日本大震災やコロナ禍の影響もありコールセンターの分散化を進めている企業もあり、地方都市へ拠点開設する流れも見られます。

また、運用コストの約7割を人件費が占めているため、コールセンターを経営するにあたって低コストかつ優秀なオペレーターを効率よく確保することが重要な課題となっています。そのため、自治体の雇用促進の一つとしてコールセンターの誘致支援も行われていることから、今後も地方都市へコールセンターの設置を行う動きは引き続き見られると考えられます。

参考:地方都市において存在感を高めるコールセンターのオフィス需要|ニッセイ基礎研究所

問い合わせの手段の多様化

コールセンター業界は多種多様な問い合わせ手段に対応することが急務となっています。

社会のデジタル化にともない、電話を使わない方法としてメールやチャット、SNSなどによる対応が普及しています。これらは簡単な問い合わせに対して効率的に対応できる点が大きな魅力になっています。

今後、AIによるチャット対応により、高度な問い合わせに対しても応答することができるようになっていくでしょう。

コールセンター業界が直面している問題

現在のコールセンター業界では、主に以下の課題が生じています。コールセンターのM&Aを成功させるには、以下の課題を考慮した対策が必要です。

①競争が激化しており受注単価が下落している

近年、民間企業によるコールセンターの需要が増加していることから、コールセンター事業への新規参入が相次いでいます。そのため、コールセンター同士の競争が激化しており、仕事を受注するために受注単価の下落が起きているのが現状です。

コールセンターを運営する各企業は、国内で厳しい戦いを強いられているため、海外にコールセンターの拠点を設けたり、AIやクラウドの活用によりコスト削減を進めたりするなどの対策を講じるケースが増加しています。

②慢性的に人材不足となっている

コールセンター業界では、慢性的な人材不足が続いています。もともとコールセンター業界は、非正規が多い・給料が安い・精神的負担の大きい業務があるなどの理由から、離職率が比較的高い業界です。

そのため、コールセンター運営企業は人件費の負担が大きく、前述の競争激化も重なって厳しい状況が続いています。

そのような背景から、コールセンター業界では、AIやクラウドの活用などによって人材不足をカバーしつつ、それでも厳しい場合は事業譲渡・資本業務提携などによって他社の協力を得るケースが多くみられます。

③取引先がコールセンター会社を選別している

近年はサービスの多様化や高度化により、コールセンターに外注する企業の選別の目が厳しくなっています。コールセンターを選ぶ際の基準としては、「顧客から注文・問い合わせなどがあった際に確実につながるか」といった対応率の高さに加えて、どれほどの付加価値を持っているかも重要視されています。

そのため、コールセンターの事業譲渡を検討している場合は、事業譲渡を成功させるために十分な準備期間を設けたうえで、コールセンターとしての事業価値を上げる施策を打っておくことが大切です。

④人材育成が難しい

コールセンターは対応のオペレーターのスキルにより対応品質が異なり、顧客満足度に大きな影響を与えます。

そのため、多くの企業では研修やOJTにより人材育成を行なっています。しかし、高い離職率のため辞めてしまうことも少なくありません。また、規模の大きな企業ほどコールセンターの対応品質を一定にすることは難しいです。

コールセンター業界の今後の動向予測

さまざまな業界で起きている業界再編の影響で、コールセンター業界でも再編が進みつつあります。コールセンター業界では、今後以下の動向が予測されます。

①金融や通信といった業種ではコールセンターの活用が拡大

コールセンターを積極的に活用している主な業種には、各種通信販売企業、銀行・証券・保険・信販といった金融機関、固定電話・スマートフォン・パソコン・インターネット回線などの情報通信業界があります。

これらの業種ではコールセンターの活用が年々拡大し続けていることから、今後さらにコールセンターの活用は拡大していくと予測されます。

しかし、これらの業種ではコールセンターに求めるサービスの質も高まっているため、今後はさらに業績を伸ばすコールセンターと業績が落ちるコールセンターとの間で格差が広がる可能性もあります。

②AI技術の発達によりコスト削減が可能

コールセンターの設備投資と人件費にかかる費用負担は大きく、昨今は受注単価が下落傾向にあることも相まって、コスト削減が大きな課題です。

従来はAIによるサービスは精度に問題があり、AIへの切り替えが順調に進みませんでした。しかし、最近では精度の高いAIが開発されているため、今後はAIの活用によるコスト削減が急速に進む見込みです。

コールセンター業界のM&A・事業承継の動向

コールセンター業界は順調に業績を伸ばしていますが、課題も多くあることから今後再編が進んでいくことが予測され、それに伴って事業譲渡・M&A・事業承継が活発になる見込みです。

また、コールセンター業務が特殊であるため外注する傾向にありますが、外注するのであればM&Aにより内製化を行おうとする企業も見られます。コロナ禍により働き方が変化したことにより非対面での営業方法が追い風傾向にもあります。

コールセンターの買収需要は高まる一方で、AI・クラウド化などの設備投資対応に出遅れた企業では、事業譲渡・M&A・事業承継でも売却のタイミングを逃すおそれがあります。

そのため、変化の過渡期にある現在が事業譲渡・M&Aの最適なチャンスであると考える専門家が少なくありません。

コールセンター業界のM&A・事業承継を行うメリット

本章では、コールセンター業界を対象とするM&A・事業承継を行ううえで期待されるメリットを、売却側・買収側それぞれの視点に分けて順番に紹介します。

売却側の5つのメリット

まずは売却側の5つのメリットからご紹介します。

①大手企業の傘下に加われる

M&Aでは売り手よりも買い手企業の方が企業規模が大きい場合が多いです。大企業の傘下に加わることにより資金やノウハウ、経営資源を活用し安定した事業経営が見込め、売上拡大にも繋がっていきます。

②譲渡利益を獲得できる

売却により利益を獲得できることは大きなメリットのひとつです。

M&A手法でよく選ばれる株式譲渡の場合、個人が株式の売却利益を獲得することができます。営業利益の数年分の利益を得ることができるため老後の生活資金や新規事業に向けた資金といった目的に使うことができます。

③後継者不在の問題を解決できる

業績が良い企業でも経営者の引退を迎えた際、後継者がいない場合は廃業を選択するほかありません。しかし、M&Aにより売却することで会社の支配権を第三者へ移せれば、会社を存続させることができます。

④個人保証や担保から解放される

株式譲渡によりコールセンターを会社ごと売却する場合、金融機関に対する債務も包括的に買い手側へ引き継ぐことができます。また、一定の条件を満たすことにより高い確率で個人保証も解除されます。

⑤従業員の雇用を維持できる

後継者の不在を理由として、会社を廃業する場合従業員は職を失ってしまうことになります。

しかしM&Aによって会社を売却する場合、会社を存続させるだけでなく従業員の雇用も引き継ぐことができます。特に大手企業へ売却することができれば業績の悪化を心配することなく安心して働くことができます。

買収側の3つのメリット

次に紹介するのは、買収側の3つのメリットです。

①スタッフ・設備・ノウハウなどの経営資源を吸収

コールセンターのM&Aによる買収側のメリットに経営資源の吸収があります。スタッフ・設備・ノウハウなどを短時間で獲得できる点がメリットです。

②コストを抑制

買い手側がコールセンター会社やコールセンター事業を持っていない場合はM&Aによりコールセンター業界に新規参入をすることができます。

新しい事業を軌道に乗せるまでには多くの費用と時間がかかります。しかし、M&Aによりコールセンター会社を買収すれば、すでに軌道に乗っている会社を取得することができます。そのため新規参入にかかるリスクやコストを抑制することができます。

③事業の成長速度を加速

コールセンター業界同士のM&Aでは、買収側は事業規模を拡大することができ、さらに売却側のシェアを獲得することもできます。

コストの削減や事業基盤の強化などシナジー効果を発揮することができるため会社として成長するスピードが加速します。

コールセンター業界の代表的なM&Aスキーム

コールセンター業界の代表的なM&Aスキームは、株式譲渡と事業譲渡です。それぞれの特徴を解説します。

株式譲渡

株式譲渡とは、株式の譲渡によって会社の経営権・支配権を移譲します。そのため、負債なども引き継ぎます。

買い手側からすると不要な事業・資産・負債を引き継ぐ可能性があるため、売り手企業ではコールセンター以外の事業・資産・負債も引き継いで良いと買い手企業から判断されるような、会社全体の価値向上が重要です。

株式譲渡に適したコールセンターとは

株式譲渡では、譲渡する事業規模が大きくなっても事業譲渡ほど譲渡手続きの負担が大きくならないため、規模が大きいコールセンターを運営している会社であれば株式譲渡の方が適していることが多いです。

また、複数拠点のあるコールセンターを1つ1つ売却したい場合も、株式譲渡の方が利便性が高い場合があります。なお、コールセンター事業のみを株式譲渡で売却したい場合、まず会社分割によってコールセンター事業をスピンアウトした後で、株式譲渡を行う方法もあります。
その場合、事業譲渡よりも手続き負担が大きくなる可能性があるため、事前に十分に検討してから実施すると良いでしょう。

事業譲渡

事業譲渡とは、自社で営んでいる事業や事業内資産を会社から切り離して他社へ売却できるスキームのことです。自社内にコールセンターを持つ企業の場合、コールセンター部門のみを売却したり、複数拠点あるコールセンターの一部拠点を売却したりできる点がメリットです。

一方で、買い手企業は、不要な事業を取得することなくコールセンターのみを取得したり、複数あるコールセンターのうち必要な一部のコールセンターのみを取得したりできます。

コールセンターを事業譲渡する際は、譲渡後に買い手企業のもとで、これまでと同じように事業が機能するかどうかを十分に分析・判断することが大切です。

自社専用のコールセンターとして運用していた場合、独自のルールやシステムが固まっていることがあり、事業譲渡後さまざまな問題が生じる可能性があります。これをスタンドアローンコストと呼びます。

事業譲渡の際、売り手企業は買い手企業にスタンドアローンコストが生じないよう準備し、買い手企業はスタンドアローンコストをしっかり把握しておくことが大事です。

事業譲渡に適したコールセンターとは

事業譲渡は譲渡規模が大きくなるほど手続きの負担も大きくなる傾向にあるため、小規模のコールセンターであれば事業譲渡がスムーズに進みやすくなります

また、買い手企業にとっては、事業譲渡後にシステムの移管がスムーズにいくかどうかも重要であるため、「使用率の高いメジャーなシステムを利用している」ことも事業譲渡に適した要素の1つです。

コールセンター業界のM&A・事業承継の成功事例

ここでは、コールセンター事業のM&A・事業承継の成功事例を紹介します。

ピアラによるGREENINEへのコールセンター事業等の子会社譲渡

2024年7月、ピアラは、連結子会社であるPIALab.の全ての株式を、GREENINEに譲渡することを決定しました。

PIALab.は主にコールセンター事業を運営していますが、GREENINEは不動産事業を展開している企業です。

PIALab.は2020年12月期以降、案件の減少により、赤字を計上していました。収益改善のために事業構造の見直しやグループ内での連携を強化する取り組みを行ってきましたが、収益を回復させることはできませんでした。

このような状況の中、GREENINEから株式の買い取り提案を受けたことを機に、ピアラはPIALab.の株式を譲渡し、他の事業の成長に経営資源を集中させることが最適であると判断しました。

連結子会社の異動(株式譲渡)及び 特別利益計上に関するお知らせ

スリーコールによるアップセルテクノロジィーズへの株式譲渡

2024年4月、アップセルテクノロジィーズはスリーコールの全株式を取得しました。

アップセルテクノロジィーズは、インサイドセールス事業、営業DXツール、UPSELL CLOUDの開発・提供を行う企業です。対象会社の スリーコールは、コールセンター事業を展開しています。

今回のM&Aにより、両社の持つノウハウとリソースを活用することで、顧客満足度の向上と業務効率化を目指します。

WOWOWによるフロストインターナショナルコーポレーションのM&A


2023年8月、WOWOWの連結子会社であるWOWOWコミュニケーションズがフロストインターナショナルコーポレーションの全株式を取得することを決議したと発表しました。

フロストインターナショナルコーポレーションは、通信販売とECを中心とするコールセンター事業を30年以上にわたり、高品質のサービスで提供してきた企業です。

WOWOWは、長期的な成長を目指し、2023年3月から既存事業の強化や新規事業の創出に投資しています。今回、フロストインターナショナルコーポレーションを弊社グループに統合することで、テレマーケティングセグメントの成長をさらに促進し、事業価値を最大化する機会を得るとしています。

参考:連結子会社による株式取得

FCホールディングスによるフューチャー・コミュニケーションズのM&A

2022年3月、NCS&A株式会社は、連結子会社の株式会社フューチャー・コミュニケーションズ(フューチャー社)の全株式を譲渡することを決定しました。

NCS&Aは中期経営計画では、主力ソリューションの強化とDX推進に注力しており、フューチャー社は、コールセンターと人材派遣の事業を展開しており、これまでのシナジー効果はまだ十分に発揮できていない状況です。

お互いの独自の成長戦略を柔軟に推進していくため、株式譲渡を決定したとしています。

参考:連結子会社の異動(株式譲渡)

日本社宅サービスからスリーSへの事業譲渡

2021年7月、日本社宅サービスは、スリーSに対して、コールセンター事業を譲渡しました。本件M&Aの取得価額は非公開です。
売却側の日本社宅サービスは、住宅制度運営のアウトソーシング事業などを展開している企業です。

買収側のスリーSは、防犯・防災・警備・安全に関するシステムであったり、設備・機器等の企画・開発・販売・運営その他、防犯・防災・警備・安全に関する設備・機器の取付・保守・管理を手掛けています。
両社はともにサンネクスタグループの完全子会社です。本件M&Aにより、サンネクスタグループでは、事業の集約による収益力強化・サービス品質の向上・マネジメントの効率化を図っています。

参考:完全子会社間の合併及び事業譲渡完了

いわきテレワークセンターによるデロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリーへの株式譲渡

2021年5月、いわきテレワークセンターは、デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリーに対して、自社の株式すべてを譲渡しました。本件M&Aの取得価額は非公開です。

売却側は、福島県いわき市を拠点に、調査研究・エントリー・電子書籍・人材育成・コールセンター・オンラインショップなど多種多様な業務を手掛けている企業です。対する買収側は、国際的なビジネスプロフェッショナルネットワークであるDeloitteのメンバーであり、有限責任監査法人トーマツのグループ会社です。

本件M&Aにより、買収側では、近年増加傾向にあるフォレンジック案件・クライシスマネジメントサービス案件などで求められるコールセンター機能を大幅に強化しつつ、売却側が提供していたBPOサービスや調査サービスなども、グループのサービスとして展開していくことが図られています。

また、地方におけるテレワーク推進企業の草分け的存在である売却側の持つノウハウを活用し、自社の働き方改革や生産性の向上、買収側がこれまで進めてきた地方創生に関わる取り組みの一層の加速と拡大なども目指されています。

参考:いわきテレワークセンターの全株式を取得

シー・ワイ・サポートによるインバウンドテックへの株式譲渡

2021年4月、シー・ワイ・サポートは、インバウンドテックに対して、自社の株式すべてを譲渡しました。本件M&Aの取得価額は、9,327万7,000円です。

売却側は、岩手県花巻市を拠点に、コールセンター事業を展開しています。対する買収側は、マルチリンガルCRM事業・セールスアウトソーシング事業などを手掛けています。

本件M&Aにより、買収側では、グループにおける地方拠点としてBCP対策によるリスクヘッジ、オペレーション人材の拠点増強などを図っています。また、リソース・ノウハウを相互に活用することで、顧客への充実したサービスと高い安心の提供、グループにおけるさらなる事業規模の拡大・企業価値の向上なども目指しています。

参考:シー・ワイ・サポートの株式取得

コールセンター業界のM&A・売却価格の相場

コールセンター業界のM&A・売却価格の相場の計算方法について紹介します。

大まかな計算方法

コールセンターの売却金額は、事業規模・将来性・経営資源の質や量・M&Aに対する緊急度などによって大きく変動するため、相場を一概に提示することは難しいと言わざるを得ません。

しかし実際のM&Aでは、一般的な中小企業の場合、時価純資産にのれん代(年間利益に一定年数分を乗じたもの)を加算した金額を売却金額の基準とするケースが多くみられます。具体的にいうと、コールセンターのM&Aでは、

  • 時価純資産+営業利益2〜5年分


を大まかな相場として考えることが可能です。

また、売却価格の目安となるのが企業価値評価です。企業価値評価には以下の3つの方法があります。

インカムアプローチ

インカムアプローチとは、企業の将来の収益やキャッシュフローの予想を指標とし企業価値を評価する計算手法です。企業の将来性が重視され、高い評価を受ける可能性がある点がメリットです。ただし、将来の収益見込みは事業計画書をベースとするため、計画策定者の恣意性がデメリットとして挙げられます。

マーケットアプローチ

上場している類似企業と比較して企業価値を計算する手法です。経済の景気動向や他社との競争環境などが反映されるためフラットな視点で判断できますが、市場の影響により評価が変動したり、類似する会社がなかったりします。

コストアプローチ

企業の純資産を基準にしながら、企業価値を算定する手法のことです。

貸借対照表をもとに算定されるため簡単に計算でき、また双方が納得感を持ち交渉に臨めることがメリットです。しかし中小企業の場合、市場価値の算定が難しく、将来的な事業予想も立てづらい点がデメリットとして挙げられます。

コールセンターM&Aの売却/買収事例については、下記の記事でも詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。

【関連】コールセンターM&Aの売却/買収事例とは?買う・売る方法、費用の相場を解説

コールセンター業界の評価を高める4つのポイント

M&Aによる買いニーズが高まってきているコールセンター業界ですが、譲渡を成功させるには買い手からの評価を高める施策が必要です。コールセンターが事業譲渡で評価を高めるには、以下のポイントを押さえておく必要があります。

①過去の実績から豊富なデータを有していること

コールセンターが持つ貴重な資産は、顧客とのやり取りから得られたデータです。昨今ビッグデータによるマーケティングは非常に重要であり、データの価値はますます高まっています。そのため、過去の実績から豊富なデータを保有しているコールセンターは、買い手から高い評価を得られる可能性が高いです。

②在宅対応など新しいシステムを構築していること

従来も在宅勤務のオペレーターを雇用するコールセンターはありましたが、その割合はそれほど高くありません。しかし、新型コロナ後の社会では、在宅対応など新たなシステムのニーズが急増する可能性があります。

もともと在宅勤務との親和性が高いコールセンター業務ですが、新型コロナ後はシステムの進化と浸透によって、速やかな対応が求められる可能性が出てきました。

③インバウンド活動への対応ができる

コールセンター事業におけるインバウンドとは、注文や問い合わせを受ける「待ち」の対応のことです。インバウンドでは、ユーザーからのコールに対して確実かつ速やかに応じられることが重要です。電話がつながらない、電話やメールの反応が遅いのは、評価を下げる要因となります。

また、対応の正確さが求められるインバウンドでは、対応マニュアルがしっかり作り込まれているか、従業員の教育が行き届いているかも重要です。

④アウトバウンド活動への対応ができる

コールセンターにおけるアウトバウンドとは、商品・サービスをこちらから売り込む「攻め」の対応のことです。アウトバウンドでは営業用スクリプトがしっかりと準備されているか、従業員教育がしっかりとされているかが重要です。

また、昨今は、ネットなどの評判が悪くないか、詐欺まがいの営業を推奨していないかといったコンプライアンス面も重視されるようになってきました。

コールセンター業界のM&A・事業承継の成功ポイント

コールセンター業界のM&A・事業承継を成功させるポイントを5つ紹介します。

従業員への対応

人材不足であるコールセンターでは、M&A時の人材流出の危険は特に抑えることが大切です。M&Aによって、会社環境が変わるのを嫌がり退職する従業員も少なくありません。

従業員が仕事へ集中できるよう、経営者は適切な時期を見計らい、今後の予定などの説明をしっかりしておきましょう。

また、M&Aによって待遇が悪化する場合は、従業員が良い待遇の環境を求め大量に離職してしまうこともあります。売り手・買い手がお互い話し合い、待遇を悪化しないよう配慮することが重要です。

債務や未払い賃金のチェック

コールセンターは退職率が高いため、未払い賃金が発生しやすいです。未払い賃金を元従業員は退職後も請求できるため、しっかりと賃金支払いが行われていなければM&A直後に買い手側は大きなリスクを抱えます。

また、会社の債務もリスクとなります。デューデリジェンスにより買い手側のチェックが入りますが、簿外債務など売り手側も認識していない債務は譲渡価格やM&A後の会社経営に大きな悪影響を与える可能性があります。

M&Aでは、売り手は債務や未払い賃金把握をしっかりしておくこと、買い手はデューデリジェンスを専門家と一緒にしっかり調査することが重要となります。

契約や顧客情報の管理を徹底

コールセンターは膨大な数の顧客情報や契約を扱っている点が特徴です。適切な情報管理が行われておらず、外部に漏えいしてしまった場合、コンプライアンス違反を問われます。

コールセンターを売却する際は、情報管理を徹底して行うことが大切です。また、買収側は売却側がどのような情報管理を行っているかチェックする視点が重要です。

買収側のニーズへの対応

M&Aでは買い手のニーズに対応できている企業ほど高く評価されやすくなります。特に、インバウンド活動、アウトバウンド活動の対応ができるかという点はポイントとなります。

インバウンドでは、注文や問い合わせに対応します。ユーザーの問い合わせに対して速やかかつ確実に応じられるかが重視されます。
アウトバウンドでは、商品・サービスを売り込みます。営業用スクリプトの完備やオペレーター教育が徹底されているかがポイントになります。

従業員の育成のすり合わせ

コールセンターでは人材への育成の重要性が高まっています。ユーザーに対して質の高い対応が重視される中で、買い手企業に合わせた対応が必須となります。

企業により育成の内容や方法、指導する人も異なるため今後の方針をきちんと話し合っておく必要があります。話し合わずにM&Aを行うと、異なる企業で人材育成の方法にズレが生じ、従業員同士のトラブルや顧客満足度の低下につながります。

M&Aの際は、お互いの会社文化や考え方を尊重し、できるだけ時間をかけて人材育成方針をすり合わせいきましょう。

コールセンター業界を事業譲渡・株式譲渡・M&A・事業承継する際の手続き

コールセンターの事業譲渡で注意が必要なのは、事業譲渡は各種契約や許認可が引き継げない点です。事業譲渡では各種契約や許認可が引き継げないため、買い手企業は売り手企業の従業員から個別に同意を得たうえで雇用契約を結ぶ必要があります。

また、買い手企業が事業運営に必要な許認可を持っていない場合、事業譲渡が完了するまでに許認可を取得しておく必要があります。特に、コールセンターの事業譲渡では人材の引き継ぎが重要であるため、契約を結ぶ際に従業員が雇用条件などに不満を持ち離職してしまう事態は避けなければなりません。

一方、株式譲渡の場合は、各種契約や許認可も引き継げるため、買い手企業は売り手企業の従業員から個別に同意を得たり、あらかじめ許認可を取得しておいたりする必要は基本的にありません。

また、株式譲渡の場合は雇用契約も原則引き継がれるものの、株式譲渡時に従業員への説明を怠ると、従業員が大量離職してしまうおそれがあります。

また、売り手企業が許認可の期限切れに気付かないまま株式譲渡を行った場合、買い手は許認可を取得し直すまで事業を行えません。

事業譲渡では契約手続きと許認可の取得を漏れなく行うことに注意し、株式譲渡では従業員への丁寧な説明や許認可の期限切れなどに注意が必要です。

コールセンター業界のM&A・事業承継まとめ

現在、コールセンター業界では、「競争が激化しており受注単価が下落している」「慢性的に人材不足となっている」などの問題が起きています。

そして、今後のコールセンター業界では、「金融や通信といった業種ではコールセンターの活用が拡大」「AI技術の発達によりコスト削減が可能」などの動向が予測されます。

こうした中で、コールセンターが事業譲渡・株式譲渡・M&A・事業承継で評価を高めるには、「過去の実績から豊富なデータを有していること」「在宅対応など新しいシステムを構築していること」などのポイントを押さえておくことが大切です。

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