沖縄のM&A動向を専門家が解説｜最新事例・公的支援・相談先まで網羅

沖縄県は、その豊かな自然と文化から観光地として高い人気を誇り、観光業を中心に多くの小規模事業者が経済を支えています。しかし、後継者不足という全国的な課題に加え、近年の社会経済情勢の変化は県内経済にも影響を与えており、事業承継の重要性が一層高まっています。

沖縄県における社長の平均年齢は、1990年以降上昇傾向が続いており、2023年の調査でもこの傾向は継続しています。同年の平均年齢は前年比0.1歳上昇の59.5歳でした。社長交代率は4.44％と14年連続で4％台に留まっており、世代交代が十分に進まず、経営者の高齢化が深刻化している状況を示しています。

社長が交代する際の平均年齢は66.4歳と高く、多くの経営者が高齢になってから事業のバトンタッチを行っている実態があります。後任の新社長の平均年齢は52.9歳となり、約13.5歳の若返りが見られるものの、社長交代の割合自体は依然として低い水準です。

このため、経営者層の平均年齢は今後も上昇する可能性が懸念されます。特に、2023年には全国で「後継者難」を理由とした企業倒産が586件発生し、そのうち約4割が経営者の病気や死亡に起因するものであったというデータもあり、高齢経営者が抱える事業継続リスクは軽視できません。

これらの状況を踏まえ、計画的な事業承継準備の必要性が強く認識されています。

参考：帝国データバンク「沖縄県「社長年齢」分析調査（2023 年）」

沖縄県の「後継者問題」は、改善の兆しを見せています。2023年の調査では、後継者が「いない」または「未定」とする企業の割合は66.4%で、前年から1.3ポイント低下しました。かつては全国で最も高い不在率を記録していましたが、近年は改善が進み、全国で5番目の水準となっています。

この背景には、自治体や金融機関による相談体制の充実に加え、M&Aのような第三者承継が有効な選択肢として広く認知されてきたことがあります。経営者の間で事業承継への意識が高まっていることが、後継者不在率の改善につながっていると考えられます。

参考：沖縄県「後継者不在率」動向調査（2023年）

東京商工リサーチ沖縄支店の発表によると、2023年の沖縄県内における休業・廃業および解散件数は、前年比13.5％増の合計429件にのぼりました。これは、新型コロナウイルス感染症の影響が大きかった2020年の384件をも上回り、過去最多の件数です。

業績回復の遅れに加え、物価高騰や深刻な人手不足が主な要因として挙げられています。地域別では那覇市が117件と最も多く、次いで中頭郡が51件、浦添市が44件と続いています。

参考：沖縄タイムス「沖縄企業の休廃業・解散 2023年は過去最多429件 新型コロナの行動制限あった2020年上回る」

コロナ禍で大きな影響を受けた観光業界ですが、現在はインバウンド需要の回復に伴い、M&Aの動きが活発化しています。特にホテル業界では、経営再建や大手資本による事業拡大を目的としたM&Aが目立ちます。

また、観光業と密接に関連する特産品の製造・販売業においても、事業承継を目的としたM&Aは増加傾向にあります。県内企業同士のM&Aも増えており、地域経済の活性化に貢献しています。

弊社M&A総合研究所が取り扱っている沖縄県近郊の事業承継・M&A案件例をご紹介します。

沖縄特産品を使用した商品ラインナップを展開しています。現在工場の稼働率は15％程度であり大幅な増産が可能です。

続いて紹介するのは、県内での立地条件が良い大型ビジネスホテルの運営を手掛ける企業の法人譲渡の案件です。ここ数年はコロナの影響により業績にダメージを受けておりましたが、コロナ前は売上5億円以上、営業利益2億円を記録しており、直近はインバウンド需要の回復により、さらなる拡大が見込めています。

また、土地・建物を自社で所有しているため、立地が良いことからも今後の不動産の価値の上昇も期待できます。さらに建物自体は新耐震基準を満たしており、直近での修繕は不要です。
 

沖縄県で有料老人ホームを複数施設保有・運営する企業の1円譲渡の案件です。施設は海やマングローブなどの自然に囲まれている魅力的な環境に位置しており、建築から間も無いため、綺麗な状態を維持しています。
 

住宅を中心に塗装・防水工事を展開しています。顧客層は本島から離島まで沖縄全土をカバーしています。

沖縄県の事業承継・M&A事例をピックアップしてご紹介します。

2024年7月24日 サンフロンティア不動産は、子会社のサンフロンティアホテルマネジメント（東京都千代田区）を通じて、オリエンタルリゾートアソシエイツ（沖縄県国頭郡）の全株式を取得し、完全子会社化しました。

サンフロンティア不動産は、都心部のオフィスビル事業をはじめ、ホテルや海外での事業も展開しています。一方、オリエンタルリゾートアソシエイツは、沖縄でリゾートホテル「オリエンタルヒルズ沖縄」を運営しています。

今回の株式取得は、サンフロンティア不動産グループが掲げる、ホテル運営客室数10,000室の目標達成に向けた取り組みの一環です。

M&Aを通じて「オリエンタルヒルズ沖縄」の独自の魅力をさらに強化し、ラグジュアリーなサービスを提供しながら、全国でより一層魅力的なホテルや観光事業を展開していく予定です。

AlphaDrive（東京都千代田区）は、2024年7月1日付で、Social Design（沖縄県名護市）から「コミュニティ・パークcoconova」の事業を引き継ぎました。さらに、AlphaDriveは沖縄県名護市に新たな地域拠点「琉球アルファドライブ」を設立しました。

AlphaDriveおよびそのグループは、大手企業や中小企業の新規事業や商品開発、スタートアップの支援、起業家のサポート、そして人材育成を手がけています。一方、Social Designは地域コミュニティの開発・運営（宿泊、飲食、コミュニティ・ウェルネス施設の運営）を行っています。

「コミュニティ・パークcoconova」は地域共創を目的とした施設で、設立以来、500回のイベントを実施し、3万人以上の来場者を迎えています。

事業承継の目的は、新設の「琉球アルファドライブ」が運営を担うことで、coconovaを拠点とした沖縄北部・名護地域のビジネスコミュニティをさらに広げていくことです。

2024年5月31日、チエルは、沖縄県名護市に拠点を置くトラストコミュニケーション（以下「トラスト社」）の株式を取得し、子会社化することを決定しました。

チエルは、教育用ソフトウェアやネットワークシステムの開発、技術者育成、情報通信サービスの提供などを手掛けています。一方、トラスト社は、ICTインフラの構築や保守運用、AIやIoT、RPAに関するコンサルティングを行う企業です。

チエルグループは、以下の理由でトラスト社の株式取得を決めました。

• トラスト社は沖縄県北部の自治体向け案件に強みを持っており、チエルグループの製品やサービスを推進するための重要なパートナーとなり得る
• ICTインフラの構築を得意とするトラスト社は、若いエンジニアを多数抱えており、多岐にわたる事業に対応できる体制を備えている
• チエルの顧客である自治体、企業、大学などのシステム構築や保守の案件に対応できる技術力を強化できる

沖縄県でM&Aを成功させるためには、地域特有の要素を理解した上で、戦略的に交渉を進めることが重要です。ここでは特に押さえておきたい3つのポイントを解説します。

沖縄県は、観光業を基幹産業としながらも、離島経済や独自の歴史・文化に根差した商習慣が存在します。M&Aを検討する際は、これらの地域特性を深く理解することが不可欠です。

例えば、人間関係を重視する文化や、地域コミュニティとのつながりが事業の成功を左右するケースも少なくありません。表面的な財務状況だけでなく、こうした無形の価値を正しく評価することが成功の鍵となります。

M&Aの交渉において、企業価値評価（バリュエーション）は最も重要なプロセスの一つです。特に沖縄県では、不動産価値や観光関連の将来性、ブランド力といった要素が複雑に絡み合います。

客観的かつ多角的な視点から企業価値を算定し、売り手・買い手双方が納得できる価格の根拠を明確に示す必要があります。これにより、スムーズな合意形成と、M&A後の健全な経営基盤の構築が可能になります。

M&Aは法務、税務、財務など多岐にわたる専門知識を要する複雑な取引です。特に地域性に精通した専門家のサポートは、成功確率を大きく高めます。沖縄のM&A市場や商習慣を熟知し、豊富な実績を持つM&A仲介会社やアドバイザーと連携することで、リスクを最小限に抑えながら最適なパートナーを見つけ出すことができます。

早い段階から信頼できる専門家に相談し、二人三脚で進めることが賢明な判断といえるでしょう。

沖縄県での事業承継・M&A時におすすめの相談先を3つご紹介します。

日頃から取引のある金融機関は、経営者にとって身近な相談相手です。沖縄県内では、琉球銀行や沖縄銀行といった地方銀行が地域経済の担い手として、事業承継やM&A支援に力を入れています。

これらの金融機関は、長年の取引で培った企業との関係性や、地域の情報網を活かしたマッチングが強みです。資金調達の相談と並行してM&Aの相談ができる点も大きなメリットといえます。

ただし、中小規模のM&Aでは対応できる案件が限られたり、仲介できる相手先が自行の取引先に限定されたりする場合がある点には留意が必要です。

近年、事業承継やM&Aに関する相談ができる体制が、公的機関を通じて整備されつつあります。例えば、「事業承継・引継ぎ支援センター」は、中小企業が直面する後継者不足といった課題に対応するため、無料で情報提供やアドバイス、企業間のマッチングを行う窓口として機能しています。

このセンターは全国47都道府県に展開されており、地方の企業でも気軽に利用できる点が大きな利点です。また、公的機関が運営しているため、無料で公平な助言を受けられるのに加え、M&A仲介会社や専門家の紹介も行われています。

ただし、民間仲介会社と比較すると、対応のスピードが遅くなることがあり、サポート内容に限界がある場合がある点は留意する必要があります。

M&A仲介会社は、M&Aの専門家として、相手探しから交渉、契約締結までを一貫してサポートする心強いパートナーです。全国規模のネットワークを持つため、県内外から最適な相手を見つけ出せる可能性が高いのが最大の強みです。

特に、沖縄のM&Aに関する知見や実績が豊富な仲介会社であれば、地域特有の事情も踏まえた上で、戦略的なアドバイスが期待できます。M&Aのプロセスは複雑で専門知識が求められるため、経験豊富な専門家のサポートは成功に不可欠です。

近年は完全成功報酬制を採用する仲介会社も増えているため、初期費用を抑えたい場合は料金体系も比較検討すると良いでしょう。

全国でも群を抜く沖縄県の事業承継・廃業危機問題に対処するため、国と沖縄県では公的事業承継支援制度を実施しています。国の公的事業承継支援は全国的に展開されているものですが、最終的な運用はそれぞれの自治体に委任されるため、詳細な制度は各都道府県で違う点が特徴です。

国から実施が提示された公的事業承継支援は、基本的には自治体ごとに事業承継ネットワークを構築し、すべからく機能させることと、中小企業庁からの委任事業として事業承継・引継ぎ支援センターを設置することでした。沖縄県の公的事業承継支援の具体的な取組み内容を見てみましょう。

沖縄県では、県内の中小企業や小規模事業者の事業承継支援を実施する21機関を構成メンバーとして、2017（平成29）年8月に沖縄県事業承継ネットワークが組成されました。21機関は下部機関を含めると全55機関あり、以下にそれを掲示します。

【金融機関】

• コザ信用金庫
• 沖縄振興開発金融公庫
• 琉球銀行
• 沖縄銀行
• 沖縄海邦銀行
• 沖縄県信用保証協会

【商工団体】

• 那覇商工会議所
• 沖縄商工会議所
• 浦添商工会議所
• 宮古島商工会議所
• 沖縄県商工連合会
• 沖縄県内34商工会
• 沖縄県中小企業団体中央会

【士業団体】

• 沖縄税理士会

【公的機関】

• 公益財団法人沖縄県産業振興公社
• 沖縄県事業承継・引継ぎ支援センター
• 沖縄県よろず支援拠点
• 沖縄県中小企業再生支援協議会

【行政機関】

• 内閣府沖縄総合事務局経済産業部中小企業課
• 独立行政法人中小企業基盤整備機構沖縄事務所
• 沖縄県（商工労働部中小企業支援課）

【その他】

• 株式会社沖縄債権回収サービス

上記のうち、基本的に金融機関、商工会議所、商工会、沖縄県中小企業団体中央会、沖縄税理士会、沖縄債権回収サービスが各企業の窓口になって、相談を受けたり事業承継診断に赴いたりします。そして、具体的なニーズに沿った各種事業承継支援フェーズに移行する流れです。

沖縄県事業承継ネットワークのウェブサイトでは、公的支援機関以外の民間支援専門家として、6つの会計事務所、7つの中小企業診断士事務所、2つの経営コンサルタントの合計15ヶ所の士業事務所リストも掲示されています。

中小企業庁からの委託事業である沖縄県事業承継・引継ぎ支援センターは、沖縄県の場合、那覇商工会議所内に設置されています。上述の沖縄県事業承継ネットワークの事務局として中心的存在です。具体的には、事業承継支援策の立案と取りまとめを行いつつ、社内承継、M&A承継支援に関わります。

特に、M&A承継に関連する事業として行っているのが「後継者人材バンク」です。これは、独立や起業を目指す個人の希望者を登録し、M&A承継を検討中の企業とのマッチングを行います。

沖縄県事業承継ネットワークの支援機関である商工会議所、商工会、金融機関などでは、中小企業経営者に向けた事業承継セミナー、事業承継税制勉強会や事業承継個別相談会が、定期的に開催されています。

相続による株式譲渡である親族内承継を除くと、社内承継でもM&A承継でも株式譲渡は売買で行われるため、後継者側はその資金が必要です。また、事業承継を契機に経営のテコ入れや刷新を図りたい後継者もいるでしょう。

沖縄県および沖縄県の各金融機関や沖縄県保証協会では、そのような事業承継にまつわる資金の特別融資制度を用意しています。沖縄県であれば「創業者・事業承継支援資金（事業承継支援貸付）」、沖縄銀行であれば「事業承継ローン」などがあります。状況に応じて活用しましょう。

沖縄県で事業承継を成功させるためには、全国共通の課題に加え、沖縄特有の地域性も考慮した戦略的なアプローチが求められます。以下に、押さえておくべき重要な視点をご紹介します。
 

事業承継は、一朝一夕に成し遂げられるものではありません。後継者の育成、関係者との合意形成、法務・税務面の整理など、多岐にわたる準備には数年から10年程度の期間を要することも珍しくありません。

経営者が元気なうちから早期に事業承継計画を策定し、段階的に準備を進めることが、円滑なバトンタッチと企業の持続的成長には不可欠です。

事業承継には、税理士、弁護士、中小企業診断士、M&Aアドバイザーなど、様々な分野の専門家の知識とサポートが欠かせません。沖縄県事業承継・引継ぎ支援センターや地域の金融機関、商工団体などが提供する相談窓口を積極的に活用し、信頼できる専門家を見つけることが重要です。

また、最新の支援制度や市場動向に関する情報収集も怠らないようにしましょう。

沖縄県は、離島が多く、独自の文化や歴史、そして観光業を中心とした産業構造を持っています。事業承継においては、これらの地域特性を深く理解し、地域社会との調和を重視した戦略を立てることが求められます。従業員や取引先、地域住民との良好な関係を維持・発展させることが、承継後の事業安定にとっても鍵となります。

沖縄県の発表資料によると、沖縄県の中小企業数は49,158社だそうです。そのうちの約9.26％である4,552社は、社長が70歳以上で後継者がいない廃業危機にあります。もし、そのまま全社が廃業になれば地域経済、地域社会は大変なことになってしまうでしょう。

事業承継には準備に5～10年かかるともいわれています。早い段階から沖縄県事業承継ネットワークを活用し、円滑な事業承継実現を目指したいものです。