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2022年10月29日更新会社・事業を売る
会計の「のれん」とは?意味や計算・償却方法、会計基準(日本・IFRS)ごとの会計処理を解説
買収額と純資産の差額である無形の固定資産が会計の「のれん」です。当記事では、会計の「のれん」の意味をはじめ、会計の「のれん」計算法・計算例や、会計基準ごとの処理、のれんの償却・減損、のれんが大きい企業を取り上げています。
目次
会計の「のれん」とは?
会計の勘定科目「のれん」は無形固定資産に区分表示され、M&Aによる買収を行った際に生じます。「のれん」は帳簿に現れない価値ともいわれ、店先に下げるのれんにお店の屋号を記していたことが由来です。
会計処理では、計上区分・償却法・償却期間を決めてから、のれんの償却を行います。会計の「のれん」は、旧商法において有償での譲受や吸収分割・合併のケースにのみ、資産への計上が認められていました。
しかし、2005年の会社法改正に伴い、事業の譲受と会社の再編に加えて、負債への計上も認められています。以降の章では、企業買収で使う会計の「のれん」の意味をはじめ、計算方法、会計基準、のれんの償却・減損、のれんの大きい企業を取り上げます。
会計の「のれん」の意味
ここでは会計の「のれん」について詳しくみていきましょう。会計の「のれん」は、買収先の純資産額と支払う対価との差を示し、対象企業の収益・ブランド力と言い換えることができます。
買収する企業の純資産額と実際に買収する価格の差額
買収の支払総額と買収先から譲り受けた資産の差を、会計の「のれん」とよびます。対象企業の資産は、預金・売掛金などの有形資産だけとは限りません。
帳簿には現れないブランド・ノウハウなどの無形資産を保有する例も見られます。それゆえ、買収の支払総額と譲り受ける純資産額との間に差が生じます。生じた差は計上するうえでの処理が必要なため、「のれん」に仕分けられるのです。
会計の「のれん」には、2つのケースが考えられます。買収の支払総額が譲り受ける純資産額を超えるケースと、買収の支払総額が譲り受ける純資産額を下回るケースです。
支払総額の方が大きいと「のれん」、支払総額の方が小さいと「負ののれん」と呼ばれます。
仮定の将来的な収益力・ブランド力
のれんとは、売り手の会社が有する収益・ブランド力と解釈されます。買収側は、買収後に上げる収益とブランド力を見込んで、譲り受ける資産額を超える買収額を支払うのです。
買収側は、買収される企業に自社の資本力を注げば収益力を上げられたり、自社では構築できないブランド力を買収で得られれば信用度を高められたりします。それゆえ、のれん分の対価を支払ってでも、買収を実行するのです。
自社のみで収益を上げられそうな事業を立ち上げる・よいイメージを持つブランドの構築には時間を要する点からも、買収側はのれん代を含めた買収額を提示して、自社の将来を担う事業を手に入れています。
会計の「のれん」の計算方法
「のれん」の計算法では、初めにのれんの額を算出してから償却期間を決めます。
【会計の「のれん」の計算法】
- のれん=買収の支払金額-買収先の純資産額
【のれんの償却の計算法】
- のれんの償却=のれん÷のれんの償却期間
会計の「のれん」の計算例
では、具体例を用いて「のれん」を計算してみましょう。ここでは、以下の条件で計算します。
【会計の「のれん」の条件】
- 買収の支払金額は5,000万円
- 買収先の純資産額は2,000万円
- のれんの償却期間は5年
まずはのれんの額を求めます。買収の支払金額5,000万円から買収先の純資産額2,000万円を引いた額がのれんとなるので、上記の場合は3,000万円です。
次は償却期間を終えるまでに毎年計上するのれんを求めますが、これは3,000万円を5年で割ればよいので600万円となります。
【会計の「のれん」の計算例】
- 5,000万円-2,000万円=3,000万円(のれん)
- 3,000万円÷5年=600万円(償却期間終了までの毎年ののれん)
会計の「のれん」の会計基準(日本・IFRS)ごとの会計処理
「のれん」の会計は、基準によって違いがあります。日本の会計基準ではのれんを規則的に償却しますが、国際基準のIFRSではのれんの償却は行いません。
日本の会計基準
日本の会計基準では、のれんを無形固定資産として規則的に償却します。実際に何年で償却するかは会計処理を行う会社が決定しますが、償却期間は20年以内でなければなりません。
費用処理をせず規則的な償却が必要とされる理由は、将来の価値が現在とは異なるためです。有形の固定資産と同じく、ブランドなどの無形の固定資産も年を経るごとに価値は下がっていくとの解釈から、定めた償却期間で規則的に償却することが決まっています。
日本の会計基準を採用する利点
日本の会計基準を採用する場合、のれんの減損テストは不要です。減損テストとは、資金生成単位の簿価と回収可能とされる価額を比較する手続きをいいます。後述するIFRSの会計基準では毎期必要ですが、日本の会計基準では不要です。
減損テストでは、のれんの価値は減価償却により下がるとみなして処理するため一気に損失が増えることもありますが、日本の会計基準ではこのような事態を避けることができます。ただし、大幅にのれんの価値が下がると減損処理を行わなければなりません。
IFRSの会計基準
IFRSは国際会計基準審議会が定める会計基準です。EUの会計基準に定めたことでEU以外の国々でもIFRSが採用され、現在では世界的な会計基準となっています。
日本の会計基準との大きな違いは、のれんの償却に関する処理です。IFRSの会計基準ではのれんの償却はしないため、計上されたのれんは貸借対照表に残されます。
その代わり、のれんの減損テストが毎期必要であり、のれんの価値が極端に下がっているとみなされた場合は減損処理を行わなければなりません。つまり、投資した分の回収が望めないと判断されるごとに、資産価値を下げる減損処理が必要になるということです。
IFRSの会計基準を採用する利点
IFRSの会計基準を採用するメリットは、営業利益への圧迫を避けられる点です。営業利益とは、売上総利益から販売費並びに一般管理費を引いた値をいいます。
のれんの償却費用は販売費並びに一般管理費に区分されるので、のれん償却をしないIFRSの会計基準であれば営業利益の減少を避けることが可能です。
のれんの償却とは
のれんの償却とは、のれんを減価償却することです。のれんは、買収の支払総額と買収先から譲り受けた資産の差であり、会社計算規則の第74条により無形固定資産に定められています。
特許権・リース資産などの無形固定資産は、将来の価値が下がるため減価償却しなければなりません。年を経るごとに価値が下がるのれんも、20年以内の償却期間で会計に計上する決まりとなっています。
企業結合会計基準によれば、のれんの償却は定額法かそのほかの合理的な方法で処理すると定められていますが、企業は定額法での処理を選択するのが一般的です。
定額法を採用する理由は、投資の回収を営業損益として示すためです。買収後に得られる収益を営業収益に計上することに合わせてのれんの償却を含めると、営業損益を見れば投資分をどの程度回収できたか表示できます。
IFRSによるのれんの償却
IFRSの会計基準ではのれんの償却はしませんが、期末ごとに減損テストの実行が求められます。減損テストとは、貸借対照表に計上した資産の価値を判断するテストです。
減損テストを実行した結果、資産価値が買収を行ったときよりも下がっていると判断された場合、資産価値の差を減損処理します。
のれんの償却の仕分け
のれんの償却時は、どのように仕分ければよいのでしょうか。ここでは、以下の条件でのれん償却した際の仕分けをしてみましょう。
【買収される会社の資産】
- 現金=2,000万円
- 貸付金=600万円
【買収される会社の負債】
- 買掛金=200万円
【買収の支払額】
- 4,000万円
【のれんの償却期間】
- 10年
まず、買収先の純資産額を調べまます。上記のケースでは、買収先の資産が2,600万円(現金+貸付金)、負債が200万円(買掛金)であるため、純資産額は2,400万円です。
買収で支払った金額は4,000万円なので、この値から純資産額の2,400万円を引くと、のれんは1,600万円となります。その際の仕訳は下表のように処理します。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
現金 | 2,000万円 | 買掛金 | 200万円 |
貸付金 | 600万円 | 当座預金 | 4,000万円 |
のれん | 1,600万円 |
次に、算出したのれんの額を償却期間で割ります。償却期間は15年なので、1,600万円÷10年で160万円です。毎期ごとに償却する160万円ののれんは、下表のように処理します。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
のれんの償却 | 160万円 | のれん | 160万円 |
のれんの減損とは
のれんの減損は、投資の回収が難しいと判断された際の、貸借対照表における資産価値の引き下げです。買収した際に1,000万円の価値があると判断していても、現在では100万円の価値しかないとみなされれば、生じた差額は損失として計上します。
大型のM&AやIFRSの会計基準を採用する際はのれんの減損が発生しやすくなり、特に大型M&Aの場合は買収額が高くなるため当然のれんの額も大きくなって減損のリスクも高いといえるでしょう。
のれんの減損の具体例
例えば、M&A実行後に会社名の変更や組織改革などを行ったことにより、一部の取り扱い商品の売上が落ち込んだとしましょう。その結果として、企業価値も半減したと仮定します。
このようなケースで、当初は5,000円ののれんを計上していた場合は以下のとおりに仕分け、決算書には特別損失を計上することになります。
- 借方科目【減損損失(または特別損失)】:2,500円
- 貸方科目【のれん】:2,500円
のれんの計算は専門家へ
買収では表に現れない価値を含めて、買収される企業を手に入れるため、のれんの計算は必須といえます。しかし、形のない価値を評価するには、業界・事業の理解をはじめ、将来性、収益力などを踏まえることが重要です。
自社のみでのれんを算出してしまうと、買収後に営業利益の引き下げ・株価の下落などを引き起こしかねません。買収の際は、M&Aの専門家へ依頼することをおすすめします。
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会計・税務面における「のれん」の違い
税務上「のれん」という言葉は使用されていません。のれんに該当する科目として「資産調整勘定」で処理されます。
会計上はのれんの償却期間が20年以内であるのに対して、税務上は5年間の定額償却が適用されます。会計と税務の償却期間に矛盾が生じないよう注意が必要です。
税務申告の際に5年で処理した場合は会計上の「のれん」も5年で償却すれば、面倒な処理は特に必要ありません。しかし、M&Aの手法によって税務上の処理が異なることがあるため、M&Aの専門家に相談することをおすすめします。
のれんが大きい企業リスト
東洋経済オンラインが掲載する「のれん額ランキング」では、のれんに対する株主資本の割合をまとめています。上位10社の企業は下記のとおりです。
順位 | 会社 | 対株主資本比率(%) | のれん(億円) | 会計基準 |
1 | ソフトバンクグループ | 68.4 | 16,098 | IFRS |
2 | JT | 55.2 | 14,293 | IFRS |
3 | NTT | 13.8 | 12,292 | アメリカ |
4 | 武田薬品工業 | 48.1 | 7,793 | IFRS |
5 | 電通 | 81.4 | 6,569 | IFRS |
6 | ソニー | 19.5 | 6,063 | アメリカ |
7 | 日立製作所 | 19.9 | 5,286 | IFRS |
8 | 富士フイルムホールディングス | 24.3 | 5,069 | アメリカ |
9 | KDDI | 15 | 4,937 | IFRS |
10 | キヤノン | 16 | 4,789 | アメリカ |
出典:東洋経済オンライン/「のれん額のランキング」(2016/07/12日掲載)
上位の2社は買収の実施が影響して大きな額ののれんを計上しています。大きなのれんに加えて、のれんに対する株主資本比率の割合が高い点と、IFRSの会計基準を採用する点も特徴といえるでしょう。
のれんの減損が生じて資産が減少すると、負債とのバランスを取るために、株主の配当金が当てられます。それゆえ、上位の2社は現時点で株主への負担を強いていながら、さらなる減損のリスクを抱えていると捉えられます。
会計の「のれん」まとめ
買収で使われる勘定科目が会計の「のれん」だと紹介しました。買収の支払総額と買収先から譲り受けた資産の差を表し、買収先のブランド力などを支払う対価に反映させています。
「のれん」を処理する会計には、日本と国際的な基準があるため、償却の仕方・償却の有無などの考慮が必須です。
【のれんの会計基準】
- 日本の会計基準ではのれんを無形固定資産とし規則的に償却する
- IFRSの会計基準ではのれんの償却を不実行とする
買収を行ってのれんが増えると、減損処理のリスクを高めたり、営業利益を減らしたりする可能性があるため、M&Aの実施では専門家に協力を仰いで、適切な買収額を計算してもらうことが肝要といえます。
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