M&Aとは?意味や動向とM&Aを行う目的・メリットなどをわかりやすく解説!
2022年6月7日更新業種別M&A
会計士・税理士事務所の事業譲渡・株式譲渡のポイントとは?動向/事例/相談先も紹介
現在事業譲渡問題を抱える会計士事務所や税理士事務所が多くなっています。本記事では、会計士事務所や税理士事務所が事業譲渡・株式譲渡を実行する場合のポイントや、M&A・事業承継の動向、事業譲渡・事業承継を行った事例などについて解説します。
目次
会計士・税理士事務所とは
会計士・税理士事務所とは、中小企業を対象に税務申告書の作成代行や財務諸表の作成を行う専門家のことです。
人手不足や所長の高齢化、値引き合戦、クラウド型会計ソフトの急速な普及などによって、多くの会計士・税理士事務所は経営の先行きが見通せない状況となっています。
また、中小企業の事業承継相談を受けることも多い会計士・税理士事務所ですが、ほとんどの会計士・税理士事務所では事業譲渡の準備が整ってません。
会計士・税理士事務所の事業譲渡は事業会社の事業譲渡とは違った特有の課題もあり、そのことが会計士・税理士事務所の事業譲渡を難しくしている面もあります。
事業譲渡とは
事業譲渡とは、会計士・税理士事務所が所有する事業資産の一部または全部を、売買契約により譲渡する取引方法のことです。
事業譲渡は売買する事業資産を資産ごとに選別できるので、会計士・税理士事務所ごとの個別事情に合わせた柔軟な契約ができます。
一方で、顧問先との顧問契約や従業員との雇用契約など各種契約関係は譲渡できないので、事業を譲受した側は個別に契約を結び直さなければなりません。
そのため、事業譲渡の手続きは手間と時間がかかり、タイミングによっては顧問先企業の決算期など繁忙期に重なって事業譲渡手続きに手間取ることもあります。
事業譲渡は小規模の会計士・税理士事務所であれば負担は少なく済み、早めに事業譲渡の準備に取りかかることでも負担を軽減できます。
その他のM&A手法
M&A手法は事業譲渡の他にも株式譲渡、合併、会社分割、株式交換、株式移転などの方法があります。これらの手法は株式を発行している法人でなければ使えなかったり、手続きに手間がかかったりします。
会計士・税理士事務所の多くは小規模の事務所で法人化もしていないので、これらのM&A手法は適さないことがほとんどです。そのため、会計士・税理士事務所の事業承継では多くの場合事業譲渡が用いられています。
しかし、事務所の規模や法人形態によっては必ずしも事業譲渡が最適とは限らないので、譲渡方法に関しては総合的に判断しながらよく検討する必要があります。
会計士・税理士業界が直面している問題
高齢化が進み競争も激しくなっている会計士・税理士業界では、事務所の将来についてさまざまな問題に直面しています。
特に以下の問題は喫緊の課題となっています。
- 定年がないため健康な内に引退したい
- 後継者が決まっておらず誰かに相談したい
- 近隣に複数の会計士・税理士事務所がある
①定年がないため健康な内に引退したい
会計士・税理士事務所は所長が高齢になるまで営業を続けざるを得ないケースが多く見られます。そのため、所長の大病や急逝などによって顧問先企業や従業員、所長の家族に負担がかかるケースも少なくありません。
そうなる前に事務所を事業譲渡するかで悩む所長も多いですが、簡単にはいかないのが現状です。親族への事業譲渡は後継者も有資格者でなければならないという条件が付きます。
また、新規会計士の数はリーマンショック以降試験の厳格化により大幅に減少し、税理士試験合格者も近年減少傾向にあります。そのため、後継者候補となる有資格者の従業員を採用することすらままなりません。
②後継者が決まっておらず誰かに相談したい
上記のような理由から、後継者が決まっていない会計士・税理士事務所は多く存在します。
過去に近畿税理士会が行ったアンケートによると、事業譲渡を検討している税理士事務所は約4割、廃業を検討している税理士事務所は約3割となりました。
はじめから会計士・税理士事務所を事業譲渡するつもりのない事務所と、事業譲渡を検討してはいるものの後継者がいない事務所を合わせると、多くの会計士・税理士事務所がいずれなくなることになります。
しかし、普段顧問先企業から事業承継の相談を受けることも多い会計士・税理士事務所は、自身の事業譲渡について誰に相談したら良いかわからいないというケースも少なくありません。
③近隣に複数の会計士・税理士事務所がある
リーマンショック以降数が減っている会計士と税理士ですが、会計士・税理士事務所は増加傾向にあります。
リーマンショック以前は大手監査法人、大手税理士法人に入る会計士・税理士がほとんどでした。
しかし、リーマンショックで大手が大規模なリストラや採用数の削減を行うと、会計士・税理士の意識が変化し、景気回復後は大手を目指す会計士・税理士が激減しています。
一方で、会計士・税理士事務所や一般企業で働く会計士・税理士、独立する会計士・税理士は増えました。
それに加えて近年の顧問報酬料引き下げ競争やクラウド型会計ソフトの普及などにより、会計士・税理士事務所同士の競争は激しくなり、廃業か事業譲渡を検討せざるを得ない会計士・税理士事務所が増えています。
会計士・税理士業界の今後の動向予測
大きな変化の渦中にある会計士・税理士業界ですが、今後は以下の変化が予測されます。
- 会計士・税理士試験の受験者がますます減少
- 営業活動をする会計士・税理士事務所がさらに増加
- 会計士・税理士事務所の事業譲渡・M&A動向
①会計士・税理士試験の受験者がますます減少
会計士・税理士試験の受験者は減り続けていますが、今後さらに減っていくとみられています。その大きな理由が、会計士・税理士の付加価値低下です。
現在はフィンテックやAIの導入によって単純な経理業務に人手が要らなくなっている程度ですが、今後は会計士・税理士が行っている業務の大半がフィンテックやAIに取って代わられるとされています。
政府も会計士・税理士業務のクラウド化・ペーパーレス化を後押ししていることから、会計士・税理士の多くが今後数年以内に今とは全く違った業務を行なっている可能性は少なくありません。
単純な経理業務の割合が多い中小規模の会計士・税理士事務所は現在の収益源を失うこととなります。そのため、会計士・税理士事務所としての付加価値を失う前に事業譲渡を実行することも考えなければならなくなっています。
②営業活動をする会計士・税理士事務所がさらに増加
上記のような理由から、会計士・税理士事務所はただ待っているだけではどんどん仕事を失っていくことになるでしょう。
そのため、開業間もない会計士・税理士事務所に限らず、多くの会計士・税理士事務所が積極的な営業活動をしなければならなくなります。
しかし、多くの会計士・税理士事務所は古くから付き合いのある顧問先とその紹介によって仕事が成り立っているため、営業力を備えた会計士・税理士事務所は多くありません。
今後生き残っていくためには、規模の大きい会計士・税理士事務所への事業譲渡や、小規模の会計士・税理士事務所同士の合併などが必要になってくるでしょう。
③会計士・税理士事務所の事業譲渡・M&A動向
上記のように、今後会計士・税理士事務所が単独で生き残っていくことは簡単ではなく、今後は事業譲渡や事務所同士の合併によって生き残り方法を模索していくことになるでしょう。
しかし、前述のように今後は親族や従業員への事業譲渡が難しくなっていきます。そこで、多くの会計士・税理士事務所は第三者への事業譲渡を検討して行かなければなりません。
会計士・税理士事務所の事業譲渡は時間がかかることも多いので、所長の高齢化やフィンテックとAIによる付加価値の低下、人材確保の難しさなども考慮すると、早めの事業譲渡が必要です。
会計士・税理士事務所の評価を高めるポイント
人材不足の深刻化と業務の付加価値低下が進む会計士・税理士事務所が事業譲渡の際に評価を高めるには、以下のポイントが重要です。
- 優秀なスタッフが数多く在籍している事
- 取引先・コンサルティングを行う顧客がいる事
①優秀なスタッフが数多く在籍している事
大手・中堅の会計士・税理士事務所は慢性的な有資格者スタッフの不足で苦しんでいます。最近では募集年齢を60代にまで拡大したり、退職者に再び声をかけたり、無資格者でも積極的に採用したりと、人材確保に奔走している状況です。
逆に言うと、優秀なスタッフを複数人雇用していれば、事業譲渡の際に評価を高めることができます。具体的には、有資格者で実務経験があることが基本的な条件となり、営業やコンサルティングができるなどの付加価値も持っていれば理想です。
②取引先・コンサルティングを行う顧客がいる事
会計士・税理士事務所が事業譲渡の際に評価を高めるには、優良な顧問先を持っているかどうかも大事なポイントです。
優良な顧問先とは、決算期に整理された書類を遅れなく提出してくれたり、電子化・クラウド化を進めていたりするなど、会計士・税理士事務所の負担軽減に協力してくれる顧問先です。
また、顧問先から付加価値の低い単純な会計・経理業務だけでなく、コンサルティングも請け負っている場合は収益性が高まるので、会計士・税理士事務所としての評価も高くなります。
会計士・税理士事務所の事業譲渡・M&Aは人材が大切
前述のように、会計士・税理士事務所の事業譲渡では、どのような人材が所属しているかで評価は大きく変わります。
特に以下のような人材がいる場合は有利な事業譲渡が可能です。
- グローバルな知識を持つ人材がいる
- 有資格者や監査・コンサルティング経験が豊富な人材がいる
グローバルな知識を持つ人材がいる
企業のグローバル化や国際会計基準への対応などにより、会計士・税理士にも今後グローバルな能力が求められるようになってきました。
しかし現実には、会計士・税理士の多くは英語力が高くない傾向にあるので、実務に耐えうる英語力を持った会計士・税理士は重宝されます。
しかも、最近では高い能力を持った会計士・税理士は上場企業やベンチャー企業で企業内会計士・税理士として働くケースが急増しています。
そのため、会計士・税理士事務所に優秀な会計士・税理士がいる場合は、事業譲渡で高い評価が得られるでしょう。
有資格者や監査・コンサルティング経験が豊富な人材がいる
前述のように、近年は会計士・税理士事務所で有資格者の確保が難しくなっています。
また、単純な業務がフィンテック・AIによって必要なくなっていく中で、今後はコンサルティングによる付加価値が会計士・税理士事務所に求められるようになっていきます。
そのため、コンサルティング経験が豊富な有資格者を確保できるかどうかが会計士・税理士事務所にとって重要となり、事業譲渡でもそのような会計士・税理士がいるかどうかが事務所の価値を分けるでしょう。
会計士・税理士事務所の事業譲渡のポイント
会計士・税理士事務所の事業譲渡を成功させるには、会計士・税理士事務所に特有の問題を解決しながら交渉を進める必要があります。ここでは、会計士・税理士事務所を事業譲渡する際のポイントや実際の事業譲渡事例をご紹介します。
会計士・税理士事務所を事業譲渡する際の注目点
会計士・税理士事務所の事業譲渡では以下の点に注意が必要です。
- システムの移行
- スタッフへの配慮
- 譲渡側家族への配慮
会計士・税理士事務所の事業譲渡では、システムの移行がなかなかうまくいかないケースが多く見られます。
譲渡側のシステムが古かったり、データ整理がきちんと行われていなかったりすることが主な原因です。最近ではシステムをクラウド化していない会計士・税理士事務所を敬遠する買い手もいるほどです。
また、譲渡側の会計士・税理士事務所にベテランスタッフがいる場合は、事業譲渡後に仕事のやり方が合わないという理由で揉めたり辞めてしまったりするケースも少なくありません。
他にも、譲渡側の家族がいろいろと口出ししてくることがあります。
家族が直接経営には関わっていなくても、事務所は所長とその家族の物という意識が強いケースも少なくないので、交渉の際は所長だけでなくその家族に対しても適切な対応が必要です。
会計士・税理士事務所の事業譲渡事例
50代の開業税理士Gさんは、相続関係の仕事に集中するためM&A仲介会社に登録し、事業譲渡の準備を始めます。事業譲渡相手は40代前半のAさんが所長を務めるスタッフ3名の税理士事務所に決まりました。
Gさんは「自分よりも若い税理士であること」と「事業譲渡資金に余裕のある税理士事務所であること」を主な条件としてM&A仲介会社に買い手を探してもらいました。
M&A仲介会社はGさんの希望条件をもとにノンネームシート(基本情報だけが記載されたリスト)を作成し、譲受候補の事務所に興味があるかどうかを確認していきます。
その中でAさんの事務所が強い興味を示したことから、具体的な交渉に進むこととなりました。
事業譲渡額はGさんの事務所の年間収入額とし、スタッフの雇用は全員継続、給与も同額継続で同意に至っています。
その後事務所査定も問題なく進み、Aさん側は金融機関から融資を受けて資金面もクリアしたことから、無事事業譲渡が完了しました。
事業譲渡に適した会計士・税理士事務所とは
会計士・税理士事務所の事業譲渡で多いのが、事業譲渡の際に顧問先やスタッフが流出してしまうケースです。買い手側にとって顧問先やスタッフの流出は大きな痛手となります。
契約を結び直さなければならない事業譲渡の性質上、顧問先が一部流出してしまうのは仕方がないことではあります。
また、顧問先と長年の付き合いになりやすい会計士・税理士事務所の特性から、円滑な引き継ぎが難しいことも事業譲渡の特徴です。
そのため、会計士・税理士事務所が事業譲渡を検討し始めたら、まずは顧問先やスタッフを引き継ぎやすい状態にしておく必要があります。
会計士・税理士事務所の事業承継のポイント
会計士・税理士事務所の事業承継では事業譲渡を用いて行われることがほとんどですが、近年増えているのが事務所の法人化による事業承継です。
法人化はメリットが大きい一方で、注意しなければならない点もあります。ここでは、会計士・税理士事務所の事業承継のポイントについてご紹介します。
会計士・税理士事務所を事業承継する際の注目点
会計士・税理士事務所の事業承継で検討すべき点に、事務所の法人化があります。事業承継によって事務所規模が大きくなる場合、法人化することによってさまざまなメリットが得られます。
例えば株式会社化して事業承継を行った場合、事業譲渡よりも手続きの負担や税金面の負担を軽くすることが可能です。
株式譲渡は株式の売買だけで経営権を承継できるので、事業譲渡のようにスタッフや顧問先と個別に契約を結び直す必要がありません。
しかし、事業承継の際に法人化する事務所は増えていますが、全体の割合としてはまだ多くありません。また、法人化しても解散してしまうケースも見られます。
法人化しない、または法人化しても解散してしまう主な理由として、個人事務所として自由にやっていきたいと答える所長は少なくありません。
法人化によって得られるメリットは大きいですが、所長自身の価値観や所長同士の相性なども考慮していく必要があります。
会計士・税理士事務所の事業承継事例
60代のTさんは2人の有資格者を含む7人のスタッフが所属する税理士事務所の所長です。Tさんには子どもはいるものの別の業界で働いているため、事務所の後継者はいない状況でした。
一方で、5人のスタッフが所属する税理士事務所所長で80代のKさんも、長年事業承継を検討してきましたが、なかなか実現には至っていませんでした。
しかしある時、TさんとKさんは共通の知り合いを通じて知り合い、M&A仲介会社のアドバイスもあって、税理士法人を設立したうえで事業承継を行うことに同意します。
Tさんの事務所が本店、Kさんの事務所が支店として合併し、Tさんが社長、Kさんが会長となることで事業承継はまとまりました。
税理士法人化後の統合作業に手間と時間はかかりましたが、法人化したことによってスタッフや顧問先の安心が得られたことが最も良かった点だと語っています。
解散してしまう税理士法人も少なくない中、TさんとKさんの相性が良かったことから統合後も順調に経営を継続することができています。
事業承継に適した会計士・税理士事務所とは
会計士・税理士事務所がスムーズに事業承継を行うには、十分な準備が必要です。多くの会計士・税理士事務所は所長が高齢になってから後継者を探したり、事業承継先となる会計士・税理士事務所を探したりします。
また、事務所で使っているシステムや書類が整理されていない、親族の同意が得られていないなど、買い手側から見て事業を引き継ぎにくい状況にあるケースも少なくありません。
事業承継がしやすい会計士・税理士事務所にするためにも事業承継の準備には早めに取りかかる必要があります。
会計士・税理士事務所を事業譲渡・株式譲渡する際の引き継ぎ・手続きについて
事業譲渡と株式譲渡の大きな違いは、経営権や各種契約の引き継ぎです。事業譲渡の場合は顧問先やスタッフ、システムの契約などを買い手側が契約し直す必要があります。
一方、株式譲渡の場合は株式の譲渡によって事務所の経営権を移行するだけなので、個別の契約を結び直す必要はありません。
ただし、株式譲渡を用いるには事務所を株式会社化する必要があります。事業譲渡と株式譲渡のどちらが良いかは会計士・税理士事務所の個別事情によるので、M&Aの専門家に相談するなどしてよく検討する必要があります。
会計士・税理士事務所を事業譲渡する際の相談先
本記事でご紹介してきたように、会計士・税理士事務所の事業譲渡では業界特有の課題を解決していく必要があります。
会計士・税理士事務所の事業譲渡を行う際は、業界に精通した専門家のサポート下で進めることをおすすめします。
M&A総合研究所ではM&Aの知識・実績豊富なアドバイザーが多数在籍しており、会計士・税理士事務所特有の課題にも細やかな配慮をしながら、フルサポートいたします。
料金体系は成約するまで完全無料の「完全成功報酬制」です。(※譲渡企業様のみ。譲受企業様は中間金がかかります)
無料相談は随時受け付けておりますので、会計士・税理士事務所の事業譲渡をご検討の際はお気軽にご相談ください。
まとめ
本記事では会計士・税理士事務所の事業譲渡・株式譲渡について解説してきました。
多くの会計士・税理士事務所が以下の問題に直面しています。
- 定年がないため健康な内に引退したい
- 後継者が決まっておらず誰かに相談したい
- 近隣に複数の会計士・税理士事務所がある
会計士・税理士事務所は今後以下の動向が予測されます。
- 会計士・税理士試験の受験者がますます減少
- 営業活動をする会計士・税理士事務所がさらに増加
会計士・税理士事務所が事業譲渡の際に評価を高めるには、以下のポイントが重要です。
- 優秀なスタッフが数多く在籍している事
- 取引先・コンサルティングを行う顧客がいる事
- グローバルな知識を持つ人材がいる
- 有資格者や監査・コンサルティング経験が豊富な人材がいる
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