M&Aとは?意味や動向とM&Aを行う目的・メリットなどをわかりやすく解説!
2023年9月14日更新会社・事業を売る
優先交渉権とは?独占交渉権との違いや法的拘束力について解説!
M&Aは複数の買い手候補と交渉できますが、基本合意締結後は優先交渉権や独占交渉権を付して、買い手を絞っていくことになります。本記事ではM&Aの優先交渉権について、その特性や適切な期間、独占交渉権との違いや法的拘束力などを解説します。
優先交渉権とは?
優先交渉権とは、M&Aの交渉において、特定の買い手が売り手と優先的に交渉できる権利のことです。
M&Aの手続きは、まず自社とのM&Aに適している相手企業を何社か選び、そのなかから特に有力と考えられる相手企業と経営者同士でトップ面談を行います。
この時点では、まだ売り手・買い手ともに複数の候補がいることもあり、時には他の候補企業の存在を匂わせながら、相手企業と駆け引きしつつ交渉を進めていきます。
しかし、いつまでも複数の候補を天秤にかけることはできないので、どこかの時点で一社に絞らなければなりません。
一般には基本合意書を締結した時点で、買い手に独占交渉権か優先交渉権を与えて、一対一での交渉に入っていきます。
基本合意締結後は、買い手にとってコストが大きいデューデリジェンスを行うので、優先交渉権を付しておくことは重要です。
優先交渉権の特性
ある買い手が優先交渉権を持つと、他の買い手候補よりも優先して売り手と交渉することができます。
売り手の人気が高く、複数の買い手候補がいる時は、優先交渉権を持つことで他の買い手候補より有利に交渉を進められる特性があります。
たとえ買い手候補が一社しかない場合でも、優先交渉権を得ておくことで、後からほかの買い手候補が出てきた時に有利な立場に立てるのも特性の一つです。
優先交渉権の期間
優先交渉権は無期限に与えるわけではなく、特定の期間だけ有効にします。期限を設けておかないと、もしトラブルなどで交渉が長引いた時に、売り手は優先交渉権が大きな制約になってしまいます。
優先交渉権の期間は特に決まりがあるわけではなく、買い手と売り手が納得しさえすれば、何か月に設定しても構いません。しかし、優先交渉権はやみくもに長ければ有利というものではないので、適切な期間に設定することが大切です。
一般には、優先交渉権の期間は2,3か月くらいに設定することが多いとされています。短ければ1か月くらい、長くしたいなら最大半年くらいまでは許容範囲だと考えられます。
期間の設定は、デューデリジェンスや最終交渉にどれくらい時間がかかるか想定し、M&A締結まで持ち込むのに十分と思われる時間をとるとよいでしょう。
適切な期間は個々の事例によって変わってくる部分もあるので、買い手と売り手がよく話し合って丁度よい期間を設定することが大切です。
優先交渉権と独占交渉権の違い
一見すると優先交渉権と独占交渉権とは似ていますが、両者には明確な違いがありメリットとデメリットももちろん異なります。
M&Aを行う際は、優先交渉権だけでなく独占交渉権についても理解するとともに、それらの違いを把握しておくことが大切です。
独占交渉権とは
独占交渉権とは、一社の買い手候補だけが売り手と交渉できる権利のことです。優先交渉権はあくまでも優先されるだけで独占できるとは限りませんが、独占交渉権はほかの買い手候補を完全に排除することができます。
売り手は、特定の買い手に一旦独占交渉権を与えると、その後もっと良い条件の買い手が現れたとしても、ほかの買い手と交渉することはできなくなります。
もし、売り手が独占交渉権を破ってほかの買い手と交渉した場合は、違約金や損害賠償など何らかのペナルティが課されることもあります。具体的なペナルティの内容は、基本合意書に書いて明確にしておきます。
独占交渉権は、主に買い手にとってメリットがあるものです。売り手にとってはほかの買い手と交渉できるチャンスがなくなるので、特にメリットがあるわけではありません。
しかし、買い手に独占交渉権を付与すれば、今後この買い手と本格的にM&A締結に向けて進んでいく意思を示すことができ、買い手に安心感を与え交渉をスムーズに進めていくことができます。
M&Aの基本合意書と独占交渉権の関係
M&Aにおいて独占交渉権を付するタイミングに特に決まりはなく、いつ付与しても特に問題はありません。しかし、一般には基本合意書に独占交渉権や優先交渉権を記載するのが通例となっています。
基本合意書とは、M&Aの手続きの中間くらいの時点で締結される書面です。まず買い手・売り手候補となる企業を洗い出して、そのなかから数社に絞って経営者同士で面談し、その面談の感触がよければ締結へと進むのが一般的です。
基本合意書にはM&Aスキームや買収価格なども記載されますが、この時点ではまだデューデリジェンスを行っていないので、法的拘束力は持たせず変更が可能な状態にしておきます。
デューデリジェンスは買い手にとって非常にコストが大きいので、デューデリジェンスに入ってから売り手にほかの買い手と交渉される可能性があると、リスクが大きすぎてコストをかけることができません。
よって、デューデリジェンスを行う前に締結する基本合意のなかに、独占交渉権や優先交渉権を入れておくのが適切なタイミングだといえます。
独占交渉権の期間
独占交渉権の期間に固定の法的ルールはありません。しかし、日本の会社売買の実際には、売り手が買い手との間で独占的に交渉する期間として、3か月から6か月が普通です。しかし、この権利は売り手にとって不利と感じることが多く、売り手はこの権利を渡すことに慎重な姿勢を取ることが多いです。
独占交渉権の法的拘束力
独占交渉権は通常、法的に守られるものです。契約相手がこの権利の取り決めを破った場合、違約金を支払うことが求められることがよくあります。
優先交渉権と独占交渉権の違いについて
優先交渉権は独占交渉権と違い、必ずしも売り手と独占的に交渉できるわけではありません。もし優先交渉権を持つ買い手より好条件を提示する買い手が現れたら、その買い手と交渉することも可能です。
ただし、特定の買い手に優先交渉権を与えるということは、ある程度交渉が進みM&A締結も視野に入れているということを意味するので、もし別な買い手と交渉したい場合は、優先交渉権を持つ買い手が納得できるよう配慮する必要があります。
また、優先交渉権は必ずしも一社だけに付与する必要はないというのも大きな違いです。人気の売り手で買い手候補が多数いる場合は、そのうちの数社に優先交渉権を与えるという戦略も考えられます。
複数社に優先交渉権を与えた場合、優先交渉権を持つ買い手同士に優劣はつけないのが重要な点です。特定の買い手だけをひいきせず、平等に交渉に臨まなくてはなりません。
優先交渉権の法的拘束力
優先交渉権には法的拘束力があるとされていますが、これは具体的に何を意味するのでしょうか。
法的拘束力とは、単なる合意ではなく、場合によっては裁判を利用して契約の実現を果たすことができるということです。
例えば、相手が約束をなかなか果たしてくれない場合は、裁判で強制的にそれを実現させることができ、相手が約束を破った場合は裁判で損害賠償などを請求することができます。
M&Aに携わる際は、優先交渉権の法的拘束力について、実際にトラブルが起きた時にどれくらい権利が認められるのか、過去の判例はどうなっているのかなどを押さえておくとよいでしょう。
この章では、優先交渉権の法的拘束力について、過去の判例も交えて解説していきます。
優先交渉権の法的拘束力について
優先交渉権には、原則として法的拘束力が課せられるものだとされています。もし法的拘束力がなければ、売り手は優先交渉権を反故にしても特に痛手はないため、優先交渉権が機能しなくなる可能性もでてしまいます。
では、相手が優先交渉権に違反して訴訟を起こした場合、それはきちんと認められるものなのでしょうか。
法的拘束力はその影響力の範囲を明確にしておくべきですが、実際は個々の事例によって柔軟に判断しなければならない部分もあります。
よって、売り手の違反の程度や内容によっては、買い手が求める損害賠償の支払い、またはほかの買い手との交渉の中止などが、認められないケースが発生する可能性も考える必要があります。
優先交渉権を付与する場合は、専門家のアドバイスを受けたり、過去の事例を参考にするなどして法的拘束力の範囲を適切に定め、トラブルが起こらないようにしておくことが大切です。
優先交渉権が争われたM&A事例
実際に優先交渉権や独占交渉権を巡って争われたM&A事例を取り上げ、優先交渉権の法的拘束力がどのように判断されているのかみていきましょう。
大手による有名な事例として、UFJグループと住友信託銀行が優先交渉権を巡って争った事例、および韓国と中国のタイヤメーカーの事例を紹介します。
UFJグループと住友信託銀行のM&A事例
2004年に、UFJグループと住友信託銀行がM&Aの交渉を進め、基本合意を締結しました。基本合意書には独占交渉権の条項があり、両者は一対一でM&A締結に向けて進めていくはずでした。
しかし、UFJグループが一方的に基本合意の撤回を宣言し、三菱東京フィナンシャル・グループとのM&Aを進めてしまいます。
これに対して、住友信託銀行は、独占交渉権を根拠に三菱東京フィナンシャル・グループとの交渉を差し止める訴訟を起こしました。
地裁では住友信託銀行の主張が全面的に認められ、交渉の差し止めが命じられました。しかし、UFJグループの異議によって訴訟は最高裁まで持ち込まれ、最終的には交渉の差し止めは認められないとして決着しました。
ただし、この判決は独占交渉権の法的拘束力を否定するものではなく、拘束力自体は認める内容となっています。
しかし、現実問題として住友信託銀行とのM&A締結は困難であることなどを考慮して、交渉の差し止めは行わないとされました。
独占交渉権に関しては地裁と最高裁で意見が分かれるなど微妙な部分もありますが、完全にM&A締結の可能性がなくなってしまった場合を除いて、独占交渉権や優先交渉権の法的拘束力は有効であるといえます。
しかし、この事例のように、たとえ法的拘束力が認められても、交渉の差し止めが認められるかは個々の事例によって判断することになります。
中小企業M&Aにおいても、もし売り手が独占交渉権を無視してほかの買い手と交渉してしまった場合、必ずしも独占交渉権を根拠に差し止めできるとは限らないと考えておくべきだといえるでしょう。
韓国と中国のタイヤメーカーのM&A事例
韓国の大手タイヤメーカーであるクホムは、経営再建のために中国のタイヤメーカー青島双星とM&Aに向けて交渉し、青島双星に優先交渉権を付与しました。
しかし、青島双星が買収額を大幅に引き下げる要求をしたため、クホムはそれを受け入れず一旦は交渉が決裂しますが、ほかに適切な買い手がみつからなかったとみられ、結局クホムは青島双星の条件を呑んだうえで交渉を再開しました。
このように、たとえ優先交渉権を付したからといって交渉がスムーズにいくとは限らず、買い手側が強い要求をして交渉が難航するケースもあります。
こういったトラブルを防ぐためには、売り上げが落ちている、施設が老朽化しているといったマイナスの情報は、基本合意締結前にできるだけ正直に明かしておくことが大切です。
もしマイナスの情報を意図的に隠して基本合意を締結し、その後デューデリジェンスでそれが発覚した場合、買い手から大幅な買収価格の引き下げなど強い態度に出られる可能性があります。
その時買い手が優先交渉権を持っていれば、売り手は他の買い手と交渉することもできず、非常に不利な立場に立たされることになります。
優先交渉権の相談などにおすすめのM&A仲介会社
M&Aは優先交渉権を付与するかどうかなど、買い手と売り手の利益相反がある中で駆け引きしながら交渉しつつ、お互いが納得できる条件を模索しなければなりません。
その中で交渉をスムーズに進めM&Aを成功させるには、M&A仲介会社など専門家のサポートを得ることが不可欠です。
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優先交渉権のまとめ
優先交渉権は売り手にとってデメリットがあるものの、交渉をスムーズに進めるためには付与しておくべきといえます。
付与する際は、期間を適切に設定したり、違反した場合のペナルティについて合意を得ておくことが大切です。
【優先交渉権とは】
- 特定の買い手が売り手と優先的に交渉できる権利
【優先交渉権の期間】
- 2,3か月が一般的
- 短いと1か月、長いと半年くらい
【優先交渉権と独占交渉権の違い】
- 必ずしも売り手と独占的に交渉できるわけではない
- 複数の買い手に優先交渉権を与えてもよい
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株式会社日本M&Aセンターにて製造業を中心に、建設業・サービス業・情報通信業・運輸業・不動産業・卸売業等で20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、アドバイザーを統括。ディールマネージャーとして全案件に携わる。