M&Aとは?意味や動向とM&Aを行う目的・メリットなどをわかりやすく解説!
2025年5月27日更新業種別M&A
介護事業の事業承継・M&A完全ガイド|最新動向から成功のポイントまで専門家が解説
近年、訪問介護は、国が推し進める地域包括ケアシステム実現のための重要な業種で、今後M&A・事業承継が活発化すると予想されます。訪問介護のM&A・事業承継に関して、業界動向・手続きの流れ・売却相場・成功のポイントを事例から解説します。
目次
介護業界の現状と事業承継の背景
介護業界でM&A・事業承継を成功させるためには、まず業界全体の現状を正確に把握し、その上で適切な戦略や売買先を選定することが不可欠です。介護業界が直面している主な課題には、要介護高齢者の継続的な増加、介護給付費の膨張とそれに伴う抑制の動きなどがあり、これらが事業承継の動向にも影響を与えています。具体的には以下の点が挙げられます。
要介護の高齢者数は年々増加
日本の高齢化は急速に進行しており、要介護(要支援)認定者数は年々増加の一途をたどっています。この傾向は今後も続くと予測されています。厚生労働省の「介護保険事業状況報告(年報)」によれば、2000年度(平成12年度)末に約256万人だった第1号被保険者の要介護(要支援)認定者数は、2022年度(令和4年度)末には約694万人にまで増加しています。
特に訪問介護サービスの利用者数も多く、居宅サービスの中心的な役割を担っています。例えば、訪問介護の事業所数は依然として多く、居宅サービス事業所の中でも高い割合を占めています。令和4年度の介護保険事業状況報告によると、訪問介護の費用額は約1兆884億円となっており、介護サービス全体の需要の高さを示しています。
このような状況下で、増加する介護ニーズにどのように対応していくかが、介護業界全体の持続可能性に関わる重要な課題であり、事業承継を考える上でも無視できない要素です。
参考:厚生労働省「令和4年度 介護保険事業状況報告(年報)
厚生労働省 「令和3年介護サービス施設・事業所調査の概況」
厚生労働省 「介護給付費等実態統計」
厚生労働省 「令和3年度 介護給付費等実態統計の概況」
介護給付費の膨張と抑制の必要性
介護サービスの報酬の大部分は介護保険制度における介護給付費によって賄われています。そのため、介護事業の経営安定には、介護給付費制度の持続可能性が極めて重要となります。しかしながら、高齢者人口の増加に伴い、介護給付費は年々膨張を続けています。
厚生労働省の最新データによると、令和5年度の介護給付費・介護予防給付費の費用額(審査支払機関集計による速報値)は年間で11兆円を超える規模に達しており、前年度と比較しても増加傾向にあります。このため、国としては介護給付費の適正化・抑制が重要な政策課題となっており、これが介護報酬改定などを通じて事業者の経営にも影響を与えています。事業承継を検討する際にも、こうしたマクロな視点での財政動向を理解しておくことが求められます。
参考:厚生労働省「介護給付と保険料の推移」
厚生労働省「令和5年度 介護給付費等実態統計の概況(令和5年5月審査分~令和6年4月審査分)」
介護報酬のマイナス改定による影響
介護報酬は、原則として3年ごとに改定されます。改定の内容は、介護サービスの質の向上、介護従事者の処遇改善、制度の持続可能性確保といった複数の観点から総合的に決定され、事業者経営に直接的な影響を及ぼします。2024年度の介護報酬改定では、全体としてはプラス改定(+1.59%)となりましたが、サービス種類によっては基本報酬の引き下げや算定要件の変更が見られました。例えば、一部の訪問介護サービスでは基本報酬が引き下げられるなど、事業モデルによっては厳しい経営判断を迫られるケースも出ています。
介護事業、特に訪問介護のようなサービスは、介護報酬の動向に経営が大きく左右されるため、改定内容は常に注視し、事業計画に織り込む必要があります。国は「地域包括ケアシステム」の構築を推進しており、在宅介護サービスの重要性は増しています。しかし、財政状況や人材確保、物価上昇といった要因も改定に影響するため、事業者はプラス改定、マイナス改定の双方の可能性を視野に入れ、柔軟に対応できる経営体制を築くことが、事業承継を考える上でも重要です。
報酬に見合わない業務の影響で人材不足
訪問介護などの介護職は低賃金かつ重労働な業種とされており、離職率が高く常に人材不足の状態に陥っています。訪問介護の売上は介護報酬頼みであり、今後とも従業員の賃金が大幅に改善される可能性は低く、人材不足の問題を根本的に解決するのは難しい状況です。
人材不足による事業者間での従業員の奪い合いも深刻な問題で、人員不足がさらなる労働環境の悪化を招く悪循環が見られます。
人材不足の要因
訪問介護など介護職の人材不足の主な要因としては、以下の2点が挙げられます。
- 有資格者でないと従事が不可能
- 介護報酬が算定されない時間が多く存在する
公益財団法人 介護労働安定センターの調査(2021年実施)によると、訪問介護労働者のうち月給制で働く人の平均月給額は223,122円です。
介護業界の賃金は決して高いとはいえず、その要因のひとつに「介護報酬が算定されない時間が多い」点が挙げられます。
介護報酬は介護サービスの提供時間をもとに算定されるため、訪問介護のように算定時間に含まれない移動時間が多い介護職の場合、賃金を上げることが難しいのが実情です。
倒産件数の年々増加
介護報酬の問題や深刻な人材不足は、介護事業者の経営を圧迫し、残念ながら倒産に至るケースも増加傾向にあります。
東京商工リサーチの調査によると、2023年の「老人福祉・介護事業」の倒産件数は162件(前年比36.1%増)と過去最多を更新しました。特に「訪問介護事業」の倒産は67件(前年比13.5%増)と、こちらも過去最多となっています。倒産には至らないものの、休廃業・解散を選択する事業者も多く、2023年は510件(前年比8.2%増)と、これも過去最多であり、介護業界全体が厳しい経営環境に置かれていることを示しています。
高齢化の進展により介護サービスの需要は増大している一方で、人材不足、物価高騰、そして事業者間の競争激化が経営の安定を阻害しています。2024年度の介護報酬改定は全体でプラス改定となりましたが、個々の事業者にとっては依然として課題が多く、特に小規模事業者は事業継続が困難になるケースも少なくありません。このような状況が、後継者不在と相まって、事業承継やM&Aを検討する一因となっています。
参考:東京商工会議所「介護事業者の倒産は 過去2番目、休廃業 ・ 解散は 過去最多の 510件 人手不足、物価高で「訪問介護」の倒産は最多更新」
介護M&A・事業承継の最新動向と市場環境
介護業界全体の競争は激化していますが、高齢者人口の増加に伴い介護サービスの需要は今後も拡大が見込まれます。このため、異業種からの新規参入や、既存事業者による規模拡大・エリア拡大を目的としたM&A・事業承継が活発に行われています。特に、地域でのサービス提供ネットワークの強化、専門性の高い人材の確保、運営ノウハウの獲得などを目指し、介護事業者をM&A・事業承継で取得するケースが目立ちます。
今後、特に中小規模の介護事業者にとっては、人材確保の困難さ、運営コストの上昇、制度改正への対応など、厳しい経営環境が続くと予想されます。このような状況から、経営基盤の強化や事業の継続を目的として、大手事業者グループへの参画や、同業他社とのM&A・事業承継を選択する事例が増加すると考えられます。また、多くの介護事業所で経営者の高齢化が進んでおり、後継者不在を解決する手段としてのM&A・事業承継のニーズもますます高まると予測されます。
①有資格者しか従事できない
訪問介護は、利用者の自宅に訪問し1対1でサービスを提供する必要があります。
サービスを提供できる人は介護の基礎知識が身についていることや一定の有資格者であり、他の介護事務所のように無資格者が働ける業界ではありません。
②介護報酬が算定できない時間が多い
訪問介護の介護報酬は、介護サービスを提供している時間に応じて算定されます。
そのため、一回の訪問あたりのサービス提供時間が短くなればなるほど算定額は少なくなる傾向にあります。介護報酬は時間に大きく左右されてしまうため、安定した事業展開が難しい点があります。
③雇用体系
訪問介護ではサービスの提供時間に合わせて報酬の計算を行う「登録ヘルパー」という雇用体系があります。
多くのヘルパーさんが「登録ヘルパー」の雇用体系で働いていますが、正社員になる場合は「登録ヘルパー」として働くことができません。異動もしくは転職するのが一般的ですので人材確保が困難となっています。
介護M&A・事業承継の具体的な手続きと流れ
本章では、介護事業のM&A・事業承継を進める際の一般的な手続きの流れについて解説します。クロージング(最終的な契約履行)の具体的な内容はM&Aの手法(株式譲渡、事業譲渡など)によって異なりますが、基本的なプロセスは多くのM&Aで共通しています。
①専門家の選定・相談
M&A・事業承継を検討する最初のステップとして、M&A仲介会社やファイナンシャルアドバイザー(FA)といった専門家へ相談することが一般的です。特に介護業界のM&Aは、介護保険制度への理解や特有の許認可手続きなどが関わるため、介護事業に精通している、あるいは医療・介護分野に特化した実績を持つ専門機関に相談することが望ましいでしょう。
②M&A・事業承継先の選定・交渉
相談を受けたM&A仲介会社は、まず譲渡を検討している介護事業の経営者から、事業内容、経営状況、財務状況、そしてM&A・事業承継に関する希望条件(譲渡価格、従業員の処遇、事業継続の意思など)を詳細にヒアリングします。これらの情報をもとに、譲受候補となり得る企業や個人をリストアップし、匿名性を保ちながら打診を進め、関心を示した候補先との間で具体的な交渉を開始する流れとなります。
③M&A・事業承継先のトップと面談
面談するM&A・事業承継先候補が固まったら、相手企業の経営者と実際に会ってトップ面談を行います。この時点では、まだ複数候補との同時交渉が可能であるため、複数の会社と面談し最も相応しい会社を相手先に選定することも可能です。
④基本合意書の締結
トップ面談が円滑に進み、大まかな合意内容が固まったら、基本合意書を締結して合意内容を書面にします。この時点で、買い手には独占交渉権が発生し、売り手は複数の買い手候補と同時に交渉できなくなる決まりです。
⑤買収側によるデューデリジェンスの実施
基本合意書を締結したら、買い手は売り手企業を買収に関する問題点を確認するために、デューデリジェンス(買収監査)を行います。一般的に、デューデリジェンスは、財務・税務・法務に関して行う場合が多いです。
訪問介護は労働条件が厳しい組織が多いため、上記に加えて、労務デューデリジェンスを実施する場合もあります。
⑥最終契約書の締結
デューデリジェンスの結果を加味して、基本合意書の内容をベースに最終的な契約内容を詰めます。もしもデューデリジェンスで、簿外債務や法務・労務上の問題が発覚した場合は譲渡価格の引き下げ交渉を行ったり、致命的な問題が見つかった場合は交渉を破談にしたりするケースもあります。
最終契約書の締結をもって、法的効力が発生しM&Aが確定します。
⑦クロージング
クロージングとは、最終契約書の内容にもとづいて具体的にM&Aを実行することです。例えば、株式譲渡では株主名簿の書き換え・対価の支払い、事業譲渡では事業資産の譲渡などを行います。
訪問介護のクロージングで注意したい点は、訪問介護事業者の許認可の引き継ぎについてです。事業譲渡でM&Aを行った場合は許認可の引き継ぎを行えないため、譲受企業が新規取得する必要があります。
介護M&A・事業承継における売却価格の相場と評価方法
介護事業のM&Aにおける譲渡価格は、事業規模や収益性、地域、サービス内容、保有資産など多くの要因によって大きく変動するため、一概に示すことは困難です。大手企業が関わる大規模な案件以外では、具体的な譲渡価格が公表されることは稀です。ただし、M&Aマッチングプラットフォームなどで公開されている売却希望額を参考にすることで、大まかな相場観を掴むことは可能です。
一般的に、訪問介護事業のように大規模な不動産や設備投資を必要としない事業モデルの場合、施設系の介護事業(例:特別養護老人ホーム、有料老人ホーム)と比較すると、売上高や利益に対する倍率(マルチプル)は低くなる傾向が見られることがあります。これは、初期投資や固定資産の大きさが企業価値評価に影響するためです。しかし、訪問介護事業であっても、高い専門性を持つ人材を多数抱えている、地域でのブランド力が高い、独自の強みを持つといった場合には、相場以上の評価を得ることも十分にあり得ます。最終的な売却価格は、個別のデューデリジェンスの結果や当事者間の交渉によって決定されます。
訪問介護のM&A売り案件の例は、以下のとおりです。
売上高 | 譲渡希望額 | 譲渡希望額÷売上高 | |
事例1 | 1,000万円~3,000万円 | 300万円~500万円 | 0.1~0.5 |
事例2 | 5,000万円~1億円 | 7,500万円~1億円 | 0.75~2 |
事例3 | 6,000万円 | 2,000万円~ | 0.33~ |
事例4 | 6,500万円 | 1,000万円~ | 0.15~ |
事例5 | 1,200万円 | 300万円~ | 0.25~ |
また、老人ホームのM&A売り案件の例は、以下のとおりです。
売上高 | 譲渡希望額 | 譲渡希望額÷売上高 | |
事例1 | 3,000万円~5,000万円 | 1億円~2.5億円 | 2~8.3 |
事例2 | 1億円~2億円 | 7,500万円~1億円 | 0.38~1 |
事例3 | 1億円~2億円 | 3,000万円~5,000万円 | 0.15~0.5 |
事例4 | 1億8,000万円 | 3億2,000万円~ | 1.8~ |
事例5 | 7,000万円 | 2億5,000万円 | 3.6~ |
簡単な相場の計算方法
訪問介護のM&A相場は立地や利益額により異なります。また、最終的な売買価額は、売却側と買収側の交渉で決まります。その交渉で金額のたたき台として用いられるのが、売却側の企業価値評価です。簡易的に用いられる企業価値評価方法として、以下の計算式があります。
- 時価純資産額+営業利益(直近3年間の平均)×3~5年
時価純資産額とは、貸借対照表にある保有資産と負債を時価に換算し、資産額から負債額を引いた金額です。営業利益に掛ける年数が変数となっている理由は、売却企業の特性(企業の希少性、業績の度合い、買収側の評価など)に応じた分を勘案する意図があります。しかし通常は「3」年が用いられます。
介護M&A・事業承継がもたらす譲渡側・譲受側のメリット
介護事業のM&A・事業承継を検討する際には、譲渡側(売り手)と譲受側(買い手)それぞれにとって、どのようなメリットが期待できるのかを明確に理解しておくことが重要です。これにより、交渉を有利に進めたり、M&A後の統合プロセス(PMI)を円滑に進めたりすることができます。主なメリットとしては、後継者問題の解決、従業員の雇用確保、事業規模の拡大などが挙げられます。
譲渡側メリット | 譲受側メリット |
・後継者問題の解決 ・従業員の雇用を確保 ・大手グループの傘下に入り経営を安定 ・個人保証や担保の解消 ・売却・譲渡益の獲得 |
・人材・拠点の確保 ・エリアシェアの拡大・獲得 ・規模拡大によるスケールメリット |
譲渡側のメリット
①後継者問題の解決
経営者が高齢になっても親族や社員に適切な後継者がおらず、経営は順調なのに廃業してしまうケースがよくあります。しかし、たとえ親族や社員に後継者がいなくても、M&Aであれば幅広く後継者候補を探すことが可能です。
②従業員の雇用を確保
訪問介護事業所を廃業すると、そこで働いていた従業員は解雇されてしまいますが、M&Aで売却すれば従業員の雇用を確保できます。
廃業を検討している訪問介護事業所は買い手を見つけにくい点に問題があるものの、例えば、新規エリアに進出したい買い手であれば、経営状態が悪くてもそのエリアの事業所を買収する可能性が想定されます。
③大手グループの傘下に入り経営を安定
訪問介護業界は異業種の大企業が参入するケースが多く、例えば、不動産会社の三菱レジデンスや化学メーカーの旭化成などが介護事業に参入しています。以前は、外食産業のワタミが介護事業に参入した事例も話題になりました。
中小の訪問介護事業者が大手グループの傘下に入れば、安定した経営基盤を得られます。
④個人保証や担保の解消
中小の訪問介護事業所では経営者が個人保証や担保を提供しているケースが多いですが、個人保証は会社の倒産が経営者個人の破産に結びつくため、経営者にとって大きなプレッシャーです。個人保証や担保のプレッシャーから解放される点も、訪問介護のM&Aのメリットのひとつです。
⑤売却・譲渡益の獲得
訪問介護事業所をM&Aで売却すれば、売却益・譲渡益が手に入ります。譲渡益を手に入れるためにM&Aを行うというのも有力な選択肢です。ここで獲得した譲渡益は、新たな事業への投資や、経営者の引退後の生活費に充てられます。ただし、事業譲渡の場合は、譲渡益が経営者個人に入らない点に要注意です。
譲受側のメリット
①人材・拠点の確保
同業者同士のM&Aではノウハウを持った人材の獲得を行うことができます。また、他業種からの参入であっても拠点や利用者を獲得できるためコストをかけず事業を始めることができます。
②エリアシェアの拡大・獲得
同業者である訪問介護サービスを行っている企業がM&Aを行うことで、介護サービスの提供エリアや顧客エリア拡大を図ることができます。さらに、地域に根付いている企業であればM&Aの効果をより見込めるでしょう。
③規模拡大によるスケールメリット
対人援助である介護はそのもの業務の効率化は難しいことも多いですが、コストの削減であったり事務や事業の一部を共同化することは可能です。
介護M&A・事業承継を成功に導くための重要なポイント
ここでは、訪問介護のM&A・事業承継を成功させるポイントを、それぞれの立場に分けて紹介します。
譲渡側のポイント
訪問介護のM&A・事業承継により譲渡を行う際は、以下のようなポイントを押さえておくと、成功率を高められます。
資産価値の確認
M&Aの譲渡価格にはのれんなどの無形資産も大きく影響を与えますが、基本となる要素は純資産額です。そのため、訪問介護のM&Aを行う際は、時価純資産がどれほどなのか、事前に見積もっておくことが大切だといえます。
特に、訪問介護と並行して老人ホームなどの施設介護を運営している場合は、設備や不動産価値を確認しておくことが重要です。
経営状況の確認
経営状態の良し悪しは、いかなる業種のM&Aでも成否に大きな影響を及ぼします。訪問介護事業者の経営状況をあらかじめ確認することで、経営状況に合ったM&A戦略を練ることが可能です。
従業員の流出を防ぐ
訪問介護事業は人材不足が深刻であり、買い手は人材の獲得を目的にしているケースが多くみられます。
そのため、売り手側としては、従業員の流出を防いで人材を確保しておくことが、M&Aの成功率の向上につながります。
顧客離れを防ぐ
M&Aの買い手は、売り手側が持っている顧客を獲得したいと思っているケースが多く見られます。そのため、売り手としては、顧客離れを防ぐことで、買い手にとって魅力的なM&A候補になれる可能性があります。
M&Aの専門家に相談する
M&Aは適切な専門家に相談して、サポートを受けながら進めていく必要があります。M&A仲介会社などの専門家に相談することが、訪問介護のM&Aの成功率を高めるために大切です。
譲受側のポイント
行政関係の手続きおよび折衝
訪問介護事業を手掛けるには介護保険の給付が必要不可欠であり、給付を受けるには行政から介護サービス事業者として指定を受けなければなりません。
もしもM&Aを行った結果として、行政からの指定が取り消されてしまえば、M&Aによる譲受のメリットが無くなってしまいます。そのため、M&Aを行う際は、基本合意契約書の締結後、行政に今後の手続きなどの相談を持ちかけると良いでしょう。
市場を把握した上で事業計画を立てる
訪問介護を含む、介護業界は介護報酬改定の影響を大きく受けています。訪問介護の場合は移動時間が算定時間に含まれません。マイナス改定がなされれば、さらに影響も大きくなると考えられます。
買収を検討する際は業界の市場動向を見極め、タイミングを誤らないことが重要です。介護報酬の改定タイミングは3年に1度ありますが、マイナス改定となった場合の対策もたてておくことが大切です。
買収後の将来価値を予想する
買収後の将来価値を予測しておくことも重要です。自社にとってどのようなシナジーが見込めるのか、事業展開はどう進めるのかなどを検討し、買収価格が回収できるまでの期間を予想することで、高値つかみを防ぐことができます。
訪問介護のM&A・事業承継の案件例
弊社M&A総合研究所が取り扱っている訪問介護のM&A・事業承継の案件例として、神奈川県の訪問介護、居宅介護支援、通所介護事業をご紹介します。
小規模ながらも地域に根付いた経営から、トップラインは安定しています。20年以上の実績から地域では知名度もあります。
エリア | 関東・甲信越 |
売上高 | 5000万円〜1億円 |
譲渡希望額 | 〜1000万円 |
譲渡理由 | 後継者不在(事業承継)、事業存続に対する不安 |
介護M&A・事業承継の注目事例紹介
本章では、訪問介護のM&A・事業承継事例の中から、最近行われた以下の14例を紹介します。
ケア21によるトチギ介護サービスの訪問介護事業の承継
2023年10月2日、ケア21はトチギ介護サービスの訪問介護事業の譲受契約を締結しました。譲受対象には、訪問介護事業所と居宅介護事業所各1拠点が含まれます。
ケア21は全国主要都市で幅広く介護サービスを提供しており、トチギ介護サービスの文京区事業所の取得により、既存の近隣事業所との連携が強化され、地域の利用者ニーズへの対応力が向上します。さらに、営業や人材確保の面でも一体運用によるシナジー効果が期待され、企業価値向上が見込まれています。
日本ホスピスHDによるノーザリーライフケアの完全子会社化
2022年12月19日、日本ホスピスホールディングスは、連結子会社ノーザリーライフケアの株式を追加取得し、完全子会社化することを決定しました。
日本ホスピスホールディングスは在宅ホスピスサービスやホスピス住宅事業などを展開しており、ノーザリーライフケアは住宅型有料老人ホームや訪問介護を運営しています。今回の株式追加取得は、札幌市内を中心に施設開設を推進し、グループ経営の効率化を図る目的で行われました。
ケア21によるシィノンのM&A
2022(令和4)年4月、ケア21は買収によりシィノンの全株式を取得し完全子会社化しました。使用スキームは株式譲渡、取得価額は非公表です。
ケア21は、訪問介護・デイサービスをはじめとするさまざまな介護事業と保育サービス事業、生活支援事業、ダイニング事業、不動産事業、障がい者雇用事業などを行っています。
シィノンは、大阪府豊中市にて地域密着で訪問介護事業を手掛ける企業です。ケア21としては、同一エリアでのシェア拡大、事業の効率化などのシナジー効果により、事業展開が強化できると判断しました。
ツクイホールディングスによるアカリエのM&A
2022年4月、ツクイホールディングスは買収によりアカリエの全株式を取得し完全子会社化しました。使用スキームは株式譲渡、取得価額は非公表となっています。ツクイホールディングスは、介護事業、福祉機器リース事業、IT事業、人材事業などを行うグループの持株会社です。
アカリエは、神奈川県横浜市における介護事業、IT事業人財関連事業などを行っています。ツクイホールディングスとしては、アカリエのグループ入りにより、介護事業におけるICTの利用促進、IT基盤の強化、神奈川県における介護サービスの拡充などが図れると判断しました。
ケア21によるひまわり医療介護サービスのM&A
2022年4月、ケア21はひまわり医療介護サービスの一部事業を譲受しました。譲受したのは訪問介護・居宅介護支援事業、取得額は非公表です。
ケア21は、訪問介護・デイサービス事業、保育サービス事業障がい者雇用事業など、さまざまな事業を展開しています。譲渡側のひまわり医療介護サービスは、東京都荒川区内で訪問介護事業・居宅介護支援事業を行う企業です。
荒川区はケア21にとって未展開エリアですが、同社の近隣事業所と連携により多くの顧客ニーズへの対応が可能であり、営業・人事面でのシナジー発揮にも期待できるとしています。
ニチイ学館によるプラティアのM&A
2022年3月、ニチイ学館は買収によりプラティアの全株式を取得し完全子会社化しました。使用スキームは株式譲渡、取得価額は非公表です。
ニチイ学館は、医療関連事業、介護事業、保育事業、ヘルスケア事業、教育(語学)事業、セラピー事業などを行っています。
プラティアは、子会社2社とともに大阪を中心に東京、神奈川、千葉、山梨、岐阜で介護付有料老人ホーム、グループホーム、デイサービス、訪問介護サービス、居宅介護支援サービスなどを行っている企業です。
プラティアの子会社化によりニチイ学館は、一挙にグループホーム20施設、有料老人ホーム3施設、訪問介護2拠点、通所介護1拠点、居宅介護支援2拠点を傘下に加えました。
ソラストによる日本エルダリーケアサービスのM&A
2020年10月、ソラストは、日本エルダリーケアサービスの全株式を取得し、完全子会社化しました。ソラストは医療・介護・保育などをトータルに提供している会社で、日本エルダリーケアサービスは訪問介護・通所介護などを運営している会社です。
身体機能の維持向上を重視したサービスの充実、および高齢化社会へのニーズ対応が、本件M&Aの目的とされています。
ケアサービスが広域社会福祉会の訪問介護事業を譲受
2020年9月、ケアサービスは、広域社会福祉会の訪問介護事業を譲受する契約を締結しました。譲渡予定日は2020年11月1日とされています。
ケアサービスは訪問介護や福祉用具レンタルなどを手がける会社で、広域社会福祉会は訪問介護事業を営む会社です。事業エリアの拡大やサービスの充実などが、本件M&Aの目的とされています。
ヒノキヤグループ子会社が介護事業の一部をソラストへ譲渡
2020年8月、ヒノキヤグループの子会社であるライフサポートは、ソラストへ介護事業の一部を譲渡することを決定しました。譲渡実行日は、2020年12月1日とされています。
ライフサポートは、訪問介護・有料老人ホーム・保育所運営などを行う会社です。成長が期待できる事業へ資源を集中することで、ヒノキヤグループの成長を目指すことが、本件M&Aの目的とされています。
ツクイがアサヒサンクリーンの訪問介護事業を譲受
2020年4月、ツクイは、アサヒサンクリーンの訪問介護事業を譲受しました。
ツクイは訪問介護や老人ホームなどを運営する会社で、アサヒサンクリーンは訪問介護やグループホームなどを展開している会社です。訪問介護事業の拡大と地域戦略の推進が、本件M&Aの目的とされています。
ソラストによる恵の会のM&A
2020年3月、ソラストは、恵の会の株式を取得して子会社化しました。恵の会は、大分県を中心に訪問介護や有料老人ホームなどを運営する会社です。ソラストは日本の全エリアで事業所を運営することを目指しており、本件M&Aにより事業所のなかった大分県での事業展開を果たしています。
介護M&A・事業承継を検討する際の専門相談先と選び方
訪問介護のM&A・事業承継時におすすめの相談先をご紹介します。
金融機関
近年、金融機関がM&Aサポートに特化した部門を設ける動きが活発化しています。特に、投資銀行やメガバンクといった大手金融機関は、M&Aの資金調達や戦略策定といった幅広いサポートを提供するファイナンシャルアドバイザー(FA)としての役割を担い、取引を円滑に進める支援を行っています。
このサポートにより、企業は資金確保や事業承継といった複雑な課題にも対応でき、専門家のアドバイスを受けることで取引の成功率も向上します。
ただし、大手金融機関は大規模な案件を優先する傾向があるため、中小企業が十分な支援を受けられないケースもあります。そのため、企業は自社のニーズに合った支援機関を慎重に選ぶことが重要です。また、アドバイザリー報酬が高額になる場合が多いことから、事前に費用面の確認を行うことが欠かせません。
公的機関
近年、事業承継やM&Aに対する公的なサポート体制が急速に拡充されています。全国の47都道府県に「事業承継・引継ぎ支援センター」が設置されており、後継者不足に悩む中小企業向けに、事業承継やM&Aに関する情報提供やアドバイス、企業間のマッチング支援を無料で行っています。
この体制により、地方にある中小企業も専門的な支援を受けやすい環境が整備され、個人事業主へのサポートも強化されています。また、必要に応じてM&A仲介会社や専門家の紹介を受けることも可能です。
ただし、民間の仲介会社と比較すると、対応のスピードや柔軟性に限界があるため、その点を理解した上で活用することが大切です。こうした公的支援機関は、事業承継やM&Aを検討している企業にとって、非常に有力な選択肢の一つとなっています。
M&A仲介会社
M&A仲介会社は、企業の売買プロセスを総合的に支援する専門機関です。売却側と買収側の双方に向けて、適切な取引先の選定から交渉サポート、進行スケジュールの管理、企業価値の査定、契約書作成など、幅広いサービスを提供し、交渉条件の調整を通じてスムーズな取引成立をサポートしています。
特に、豊富なネットワークを駆使して理想的な取引相手を見つける点で高い成功率を誇ることが大きな強みです。加えて、M&Aに不慣れな企業に対しても実務的なアドバイスを行い、取引が円滑に進むように支援します。
ただし、仲介会社の利用には着手金や中間報酬といった費用が発生する場合もあるため、あらかじめコストを確認しておくことが重要です。費用を抑えたい場合は、成功報酬型の仲介会社を利用することも一つの選択肢です。
訪問介護のM&A・事業承継まとめ
本記事では、訪問介護のM&A・事業承継に関する情報を取り上げました。介護業界は高齢者の増加や大手の参入などの影響により、今後もM&Aが活発化すると見込まれています。M&Aを行う際は、その手法や流れを理解しておくことが大切です。
M&A・事業承継のご相談なら24時間対応のM&A総合研究所
M&A・事業承継のご相談は成約するまで無料の「譲渡企業様完全成功報酬制」のM&A総合研究所にご相談ください。
M&A総合研究所が全国で選ばれる4つの特徴をご紹介します。
M&A総合研究所が全国で選ばれる4つの特徴
- 譲渡企業様完全成功報酬!
- 最短49日、平均7.0ヶ月のスピード成約(2024年9月期実績)
- 上場の信頼感と豊富な実績
- 譲受企業専門部署による強いマッチング力
M&A総合研究所は、M&Aに関する知識・経験が豊富なM&Aアドバイザーによって、相談から成約に至るまで丁寧なサポートを提供しています。
また、独自のAIマッチングシステムおよび企業データベースを保有しており、オンライン上でのマッチングを活用しながら、圧倒的スピード感のあるM&Aを実現しています。
相談も無料ですので、まずはお気軽にご相談ください。
あなたにおすすめの記事
M&Aとは?意味や動向とM&Aを行う目的・メリットなどをわかりやすく解説!
近年はM&Aが経営戦略として注目されており、実施件数も年々増加しています。M&Aの特徴はそれぞれ異なるため、自社の目的にあった手法を選択することが重要です。この記事では、M&am...
買収とは?用語の意味やメリット・デメリット、M&A手法、買収防衛策も解説
買収には、友好的買収と敵対的買収とがあります。また、買収に用いられるM&Aスキーム(手法)は実にさまざまです。本記事では、買収の意味や行われる目的、メリット・デメリット、買収のプロセスや...
現在価値とは?計算方法や割引率、キャッシュフローとの関係をわかりやすく解説
M&Aや投資の意思決定するうえでは、今後得られる利益の現時点での価値を表す指標「現在価値」についての理解が必要です。今の記事では、現在価値とはどのようなものか、計算方法や割引率、キャッシ...
株価算定方法とは?非上場企業の活用場面、必要費用、手続きの流れを解説
株価算定方法は多くの種類があり、それぞれ活用する場面や特徴が異なります。この記事では、マーケットアプローチ、インカムアプローチ、コストアプローチといった株価算定方法の種類、株価算定のプロセス、株...
赤字になったら会社はつぶれる?赤字経営のメリット・デメリット、赤字決算について解説
法人税を節税するために、赤字経営をわざと行う会社も存在します。しかし、会社は赤字だからといって、必ず倒産する訳ではありません。逆に黒字でも倒産するリスクがあります。赤字経営のメリット・デメリット...
関連する記事

オフィス用品業界の動向とM&Aのメリット!売却・買収事例や流れと注意点も解説!
オフィス用品はコンスタントな売上が期待できる分野ですが、ペーパーレス化などの時代の流れの中で売上が減少傾向にあり、M&Aを模索する動きが加速しています。この記事では、オフィス用品業界での...

WEBサイトのM&A動向!売却・買収事例や流れと注意点も解説!
WEBサイトを売買するM&Aの動きはここ数年拡大傾向にあり、多くの規模や種類のWEBサイトがM&A市場に投入されています。この記事では、WEBサイトをM&Aするメリットや...

自動車解体処理会社のM&A動向と成功のポイントを解説!【2025年最新】
自動車解体処理業界におけるM&Aは、後継者問題の解消、規模拡大や技術獲得を可能にします。しかし、自動車解体処理業界でM&Aを成功させるためには、明確な目的設定、適正な企業価値評価...
合同会社のM&Aを徹底リサーチ!難しいといわれる理由や手法・注意点は?
近年は合同会社の数が増加していますがM&Aの件数は停滞気味で、この背景には合同会社のM&Aは一般的なM&A手続きも困難な点が挙げられます。そこで本記事では合同会社のM&a...
社会福祉法人のM&Aの手続き手順や手法は?成功事例・メリットも解説!
近年急速的に進行している高齢化に伴い、社会福祉法人のニーズも高まっているのが現状です。 その動向に伴って社会福祉法人の業界における競争も高まり、活発なM&Aが展開されています。 本記...
D2C業界の動向とM&Aのメリット!売却・買収事例や流れと注意点も解説!
D2Cは、メーカーやブランドが一般消費者に直接販売するビジネスモデルで、最大のメリットはコストの削減です。今回は、D2C業界の動向やM&Aのメリット・注意点、M&Aの実際の事例、...

SIer業界の動向とM&Aのメリット!売却・買収事例や流れと注意点も解説!
本記事ではSler業界の動向とSler業界でM&Aを行うメリットを解説します。Sler業界は人手不足と新技術への対応に迫られ業界の再編が激しい業界です。実際に行われたM&A・売却...

鉱業業界のM&A動向!売却・買収事例3選と成功のポイントを解説!【2023年最新】
鉱業業界ではM&Aが活発化しています。資源需要増大や規制緩和が背景にあり、大手鉱業企業は新興市場や環境配慮型鉱業への投資を進めているのが鉱業業界の現状です。鉱業のリスク管理はM&...

木材業界のM&A動向!売却・買収事例5選と成功のポイントを解説!【2023年最新】
この記事では、木材業界のM&A動向について説明します。木材業界では、専門技術の獲得、コスト効率の向上のためにM&Aが活用されています。木材業界におけるM&A・売却・買収事...
株式会社日本M&Aセンターにて製造業を中心に、建設業・サービス業・情報通信業・運輸業・不動産業・卸売業等で20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、アドバイザーを統括。ディールマネージャーとして全案件に携わる。