2025年9月25日更新会社・事業を売る

M&Aの「のれん」とは?減損が発生する理由や会計処理、兆候をわかりやすく解説

M&Aで発生する「のれん」は、減損すると企業価値に大きな影響を与えます。本記事では、のれんの減損が起こる理由や会計処理、兆候から回避策まで、事例を交えてわかりやすく解説します。

目次
  1. のれんの減損とは
  2. のれんの減損が起こる理由
  3. のれんの減損事例
  4. のれんの会計基準と減損テスト
  5. のれん減損につながる4つの兆候
  6. のれんの減損を避けるには
  7. 近年の経済変動とのれん減損のリスク
  8. まとめ
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のれんの減損とは

のれんの減損とは

のれんの減損とは、M&A時に計上した「のれん(超過収益力)」の価値を、実態に合わせて下方修正する会計処理です。のれんの価値が当初の見込みより低下した場合に、その価値を減額し特別損失として計上します。減損は株価や企業評価に直接影響するため、経営者にとって極めて重要な課題です。本章では、のれん減損の基本を解説します。

M&Aにおける「のれん」とは?

M&Aにおけるのれんとは、買収価格が買収対象企業の純資産額(時価)を上回った場合の差額を指します。この差額は、ブランド力、技術力、顧客基盤といった貸借対照表には現れない無形の資産価値(超過収益力)を反映したものです。つまり、のれんは買収側企業が対象企業の将来的な収益力に支払った「期待値」であり、会計上は無形固定資産として計上されます。
 

【関連】M&Aにおけるのれん

のれんの減損とは?会計上の処理方法

のれんの減損とは、M&Aで計上したのれんの価値が、事業環境の変化などにより当初の見込みを大幅に下回り、投資額の回収が困難と判断された場合に行う会計処理です。減損処理では、のれんの帳簿価額を回収可能な価額まで引き下げ、その差額を当期の「特別損失」として計上します。この処理はキャッシュアウトを伴いませんが、純利益を圧迫し、自己資本比率の低下を招くため、企業経営に与える影響は非常に大きくなります。

【関連】減損処理とは?メリット・デメリットや計算方法をわかりやすく解説

のれんの減損が起こる理由

のれんの減損が起こる主な理由は、「買収価格が高すぎた」あるいは「想定してた利益が生み出せていない」の二点です。

買い手側の無形資産に対する期待値が高すぎたことで原因になり、本来の帳簿価格にするために減損処理を行わなくてはならない状況になっています。

買収後の要因で価値減少やキャッシュ・フローの減少などが発生することもあります。経営者によるM&A判断の際に見極めることができないものもあるため、完全にコントロールすることは難しいとされています。

のれんの減損事例

過去に行われたM&Aの中には、のれんの減損が行われた事例がいくつもあります。この章では、特に話題になったのれんの減損事例をピックアップしてご紹介します。

【のれんの減損事例】

  1. キリンによるブラジルのビール会社ののれん減損
  2. 日本郵政による豪の物流事業ののれん減損

1.キリンによるブラジルのビール会社ののれん減損

キリンホールディングス

キリンホールディングス

出典:https://www.kirinholdings.co.jp/

2011年8月、キリンホールディングスはブラジルのビール会社「スキンカリオール」を3000億円で買収しました。

買収当時、スキンカリルールは年率10%前後の売上増加が期待される優良企業でしたが、買収後のブラジル国内経済の変化による消費落ち込みや同業他社との競争激化の影響で想定していたのれんが失われてしまいます。

本件が直接的な原因となり、2015年12月期にのれんの減損を行い、1949年の株式上場以来の初赤字を計上する結果となりました。

2.日本郵政による豪の物流事業ののれん減損

日本郵政

日本郵政

出典:https://www.japanpost.jp/

2015年5月、日本郵政はオーストラリアの物流大手会社トール・ホールディングスを6200億円で買収しました。

日本郵政は国際物流事業への足掛かりとしていましたが、オーストラリアの経済悪化や単純な経営失敗による影響で失敗に終わってしまいます。

業績が回復することはなく、結果的に17年3月期に約4000億円ののれんの減損を計上することとなりました。さらに2020年8月、日本郵政はトール・ホールディングスの売却とともに国際物流事業から撤退することを公表しました。

のれんの会計基準と減損テスト

のれんの会計処理は、採用する会計基準によって異なります。ここでは、日本で主に用いられる日本基準と、国際的な標準であるIFRS(国際財務報告基準)の違い、そして減損の要否を判断する「減損テスト」の流れを解説します。

日本基準(J-GAAP)におけるのれんの会計処理

日本の会計基準では、計上したのれんを資産とみなし、20年以内の一定の期間で規則的に償却(定額法など)することが求められます。毎期費用として計上していくため、利益を圧迫する要因となり得ます。そして、後述する減損の兆候が見られる場合には、減損テストを実施し、必要に応じて減損損失を認識します。

国際財務報告基準(IFRS)との比較

IFRSでは、のれんの定期的な償却は行われません(非償却)。その代わり、少なくとも年に1回、または減損の兆候が認識された都度、減損テストの実施が義務付けられています。償却がないため平常時の利益は大きく見えますが、減損が発生した際には一度に巨額の損失が計上されるリスクがあります。

減損テストの具体的な流れ

減損テストは、一般的に以下のステップで進められます。

  1. 減損の兆候の把握:収益性の著しい低下など、資産価値が下落している可能性を示す事象がないかを確認します。
  2. 減損損失の認識の判定:兆候がある場合、資産から得られる割引前将来キャッシュ・フローの総額が帳簿価額を下回るか否かを判定します。
  3. 減損損失の測定:帳簿価額を下回る場合、帳簿価額を回収可能価額(正味売却価額と使用価値の高い方)まで減額し、その差額を減損損失として計上します。

のれん減損につながる4つの兆候

のれんの減損には、減損が生じている可能性を示す「減損の兆候」が見られる場合があります。企業にとって大きなリスクである減損リスクを早期に認識することで、対抗策を検討することができるようになります。

のれんの減損の兆候は、減損会計基準において以下のように定義されています。いずれもM&A後の変化によりみられる可能性があるものなので、順番に確認していきましょう。

【のれんの減損が起こる兆候】

  1. 営業活動から生ずる損益又はキャッシュ・フローが継続してマイナスの場合
  2. 使用範囲又は方法について回収可能価額を著しく低下させる変化がある場合
  3. 経営環境の著しい悪化がある場合
  4. 市場価格の著しい下落がある場合

1.営業活動から生ずる損益又はキャッシュ・フローが継続してマイナスの場合

営業活動から生ずる損益とは、減価償却費や本社共通費(本社修繕費や社長の人件費)などが含まれます。

継続してマイナスについては具体的な年数は記載されていませんが、当期マイナス翌期プラスが見込まれるような状況においても、考慮する必要があると考えられます。

ただし、事業の立ち上げ時など、初期投資の影響で一時的なマイナスになることが見込まれている場合は兆候として認められません。損失が出ていたとしても、合理的な事業計画のもとで行われているものであれば、減損処理を行う必要はないです。

2.使用範囲又は方法について回収可能価額を著しく低下させる変化がある場合

M&Aで取得した資産について、回収可能価額が低下する事態が発生した場合も兆候として認められます。

具体的には、M&Aで取得した無形資産を本来予定していた使用方法以外への使用や遊休状態、再稼働の見通しが立たない状況などが挙げられます。

このような状況が続くと、M&Aの際に見込まれていた収益価値が回収できなくなるリスクが非常に高いため、危険度は高いとみられています。

3.経営環境の著しい悪化がある場合

経営環境の著しい悪化は個々の企業や業種によって基準が変化するため、下記の例示を示す範囲にとどめられています。

【経営環境の悪化として認められる例示】

  1. 原材料の高騰やサービス料金・賃料の低下、売上高の減少が続いている状態
  2. 技術革新による既存技術の陳腐化や関連技術の流出・拡散による技術環境の悪化
  3. 法律改正による法律的環境の著しい悪化

過去には、日本化成が原材料価格の高騰により特別損失に計上した事例があります。硝安製造を行う工場の設備について、帳簿価額を回収可能額に修正するために8億円の減損処理を行っています。

4.市場価格の著しい下落がある場合

市場価格の著しい下落とは、「50%程度以上の下落」が該当します。M&Aで取得した資産について、何かしらの要因で50%前後下落した場合も減損の兆候として判断されます。

通常、需要量と供給量の相対的変化に対応して価格が変動するものですが、新型コロナウイルスなどのように大きな外的要因がある場合は、短期間で著しく下落することも珍しくありません。

のれんの減損を避けるには

のれんの減損を避けるには

のれんの減損を避けるには、M&Aの検討段階から実行後まで一貫した対策が不可欠です。まず、買収価格の妥当性を厳密に評価するため、精緻なデューデリジェンス(DD)が欠かせません。過大評価を避け、シナジー効果を客観的に分析することが重要です。また、M&A成立後は、速やかにPMI(ポスト・マージャー・インテグレーション)を実行し、想定したシナジーを早期に実現させることで、のれんの価値を維持・向上させることができます。

【関連】デューデリジェンスとは?目的・方法・種類

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近年の経済変動とのれん減損のリスク

2020年代以降、世界経済はパンデミックだけでなく、地政学リスクの高まり、資源価格の高騰、急速なインフレや金利変動など、予測困難な変化に直面しています。こうした経営環境の悪化は、M&Aで買収した事業の収益計画に大きな影響を与え、のれん減損の直接的な引き金となり得ます。特に、GX(グリーン・トランスフォーメーション)やDX(デジタル・トランスフォーメーション)といった構造変化への対応が遅れた場合、事業の競争力が低下し、のれんの価値が毀損するリスクが高まります。企業は常に外部環境の変化を監視し、事業計画を柔軟に見直すことが不可欠です。

まとめ

本記事では、のれんの減損についてみてきました。のれんはM&A買収における将来的な価値ですが、見通しの甘さや買収後の外的要因による影響で企業のリスクになることもあります。

これらのリスクを避けるためにもM&Aの判断は慎重に行わなくてはなりません。M&Aの専門家に相談することで、万全の体制で臨むことができるでしょう。

【のれんの減損まとめ】

  • のれんとはM&Aにおける買収価格と買収対象企業の純資産額との差額を計上するもの
  • のれんの減損とはのれんの価値を下方修正すること

【のれんの減損が起こる理由】
  1. 買収価格が高すぎた
  2. 想定してた利益が生み出せていない

【のれんの減損事例】
  1. キリンによるブラジルのビール会社ののれん減損
  2. 日本郵政による豪の物流事業ののれん減損

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