2024年6月26日更新会社・事業を売る

吸収合併とは?新設合併との違い・手続きの流れ・メリット・事例を紹介!

企業間で行われる組織再編行為のなかで、吸収合併は多く活用される方法です。合併には併と新設合併とがありますが、両者にはどのような違いがあるのでしょうか。この記事では、吸収合併と新設合併の相違点、手続きの流れ、メリットや吸収合併の事例などを解説します。

目次
  1. 吸収合併は企業合併の手法の1つ
  2. 吸収合併のメリット
  3. 吸収合併のデメリット
  4. 吸収合併の流れ
  5. 吸収合併の登記方法と契約書
  6. 吸収合併の事例
  7. 吸収合併の注意点
  8. 吸収合併に関する相談先
  9. 吸収合併のまとめ
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吸収合併は企業合併の手法の1つ

吸収合併は、企業合併の手法の一つです。
企業合併には吸収合併と新設合併の2種類があります。それぞれの手法についての詳細を見ていきましょう。

吸収合併とは?

法律上、企業間の吸収合併とは、企業における組織再編行為の1つです。
具体的に吸収合併とは、複数の会社のうち1社が存続会社となって他の会社を吸収し、他の会社は消滅することを指します。

企業合併が行われる場合、多くのケースで吸収合併の手法が採用されています。

吸収合併の具体例

具体例として、A社とB社の2社間における吸収合併をもとに解説します。

A社を存続会社、B社を消滅会社とします。存続会社A社の法人格は何ら変わりがありません。一方でB社は、法人格を失って消滅し、その権利義務(従業員や資産・負債など)すべてをA社が承継します。

新設合併とは?

新設合併とは、当事会社となるすべての法人格が消滅し、新たに設立する法人に対してすべての権利義務を承継させる行為だと定義されています。

吸収合併は異なり、新設合併ではA社とB社が消滅会社、新法人が存続会社となります。

吸収合併のメリット

企業の吸収合併にはさまざまなメリットがあり、それぞれの企業が置かれている立場によって受ける恩恵に差があります。

ここでは、吸収合併における代表的なメリットを解説します。

事業規模の拡大

同業他社との吸収合併が実行された場合、組織や人員が増えるだけでなく、事業の売上規模も大きく増えることも見込まれます。

合併前の両社の売上規模が合算される結果となるのか、それを上回る実績を出せるかは未確定ですが、事業規模は拡大するでしょう。

単純な数合わせの論理に留まらず、両社がそれぞれ個別に築き上げてきた技術力・開発力・企画力・営業力などさまざまなビジネス上のノウハウが融合されることに大きな意味があります。

シナジー効果による収益の向上を期待できる

吸収合併は、同一業種での合併だけでなく、関連する業種間の吸収合併も行われます。

この場合、合併前までは自社事業の関連業務で外注していた部分を、1つの社内で完結可能です。

原価の点でも、さまざまな場面で合理性が増すのでコストカットにつながり、収益性の改善が見込めます。

後継者問題の解決に繋がる

日本の少子高齢社会化現象は、多くの中小企業で後継者難の問題に繋がっています。

洗練された組織・優秀な人材・立派な業績のある会社も後継者がいなければ、立ち行かなくなります。

M&Aでの吸収合併は、後継者問題を解決する手段としても適している行為です。

吸収合併により会社は消滅しても包括的な承継が行われるので、これまで築き上げてきた会社の伝統を合併会社に残せます。

仮に合併もできず廃業の事態になれば、従業員を路頭に迷わせかねません。経営者として従業員への責任を果たす意味でも、吸収合併には意義があります。

買収時に資金調達を必要としない

吸収合併を実施すると、存続会社は消滅会社の株主へ合併対価を支払わなければなりません。

合併対価は、現金以外に存続会社の株式や社債、新株予約権などさまざまです。

存続会社の株式を合併対価とすれば、手元資金を減らさずに吸収合併が行えます。特に存続会社の株価が高い場合は、効果のある手法です。

節税効果を期待できる

納税は義務ですが、吸収合併の結果として節税できればそれに越したことはありません。まず考えられるのは消費税です。

課税売上割合が高い会社を吸収合併すれば控除できる消費税額が上昇し、節税につながります。

また、吸収合併で損益を通算できるので、仮に黒字会社と赤字会社が合併した場合、黒字会社の課税所得が減少します。

結果、法人税が節税されるのです。自社株評価を引き下げて、相続税対策を講じることも可能です。

ただし、相続税対策のみが目的である吸収合併は、税務署からペナルティを受ける可能性があります。相続税対策は、税理士などの専門家に相談し慎重に実施しましょう。

【関連】吸収合併消滅会社とは?吸収合併の手続きや吸収合併消滅会社と存続会社の手続きの違いを解説します

吸収合併のデメリット

吸収合併にもメリットばかりではなくデメリットも存在しますので、詳しく見ていきましょう。

手続きが複雑

吸収合併の場合、一方の会社は消滅するため、それに伴い法的に定められたさまざまな手続きが発生します。

経営統合(PMI)の負担が大きい

複数の会社が突然一つの会社になるわけですので、これをまとめ上げるためには大きな負担がかかります。
具体的には、以下のような事項をまとめ上げる必要があります。

  • 社風・企業風土
  • 各業務システム
  • 組織再編・配置再編(重複組織や人員をどうするか)
  • 人事制度
  • 経理・総務などの管理システム
  • IT部門
特に消滅した会社側の従業員は気持ちのゆとりがない可能性が高いです。経営陣と同じ目線で事情を察するのは、従業員には難しい側面もあります。

したがって、吸収合併における基本合意のタイミングから用意周到に組織統合の準備をしなければ、合併効果を発揮するまでに時間を要するでしょう。
 

取引先の重複により売上高が減少するおそれがある

合併前に消滅会社と存続会社と顧客取引があれば、合併後は存続1社の顧客取引になるので、取引が縮小されて売上高が減るリスクが考えられます。

シナジーを狙って吸収合併を行いますが、顧客取引が減ればシナジーがマイナスに転じかねません。取引先へあいさつ回りなどを行い、全体の売上高が減少しないよう根回しすることが大切です。

吸収合併の流れ

吸収合併に伴う法律上の手続きは、一般的に以下の順序で進められます。

  1. 吸収合併契約の締結・承認
  2. 債権者への異議申述公告・個別催告
  3. 事前開示書類の据置
  4. 株主に対する通知・公告
  5. 株主総会の招集手続き・決議
  6. 債権者保護の手続き
  7. 吸収合併の効力発生
  8. 事後開示書類の据置
  9. 変更登記申請
それぞれの手順について見ていきましょう。

①吸収合併契約の締結・承認

吸収合併を行う両社が、合併契約を結びます。存続会社が消滅会社の株主へ対価として現金・株式・社債のどれを渡すのか、効力発生日などを決めます。効力発生日までに、株主から承認を得なければなりません。株主総会の招集通知を株主へ送り、株主総会決議で承認を得ます。条件によっては、株主総会における承認は要りません。

②債権者への異議申述公告・個別催告

債権者への異議申述公告・個別催告の実施は、合併効力発生日の1カ月前までに行います。公告の掲載枠が必要なので注意しましょう。合併では、各手続きの期限が決まっています。そのため、前もって全体のスケジュールを決めなければなりません。

③事前開示書類の据置

債権者に対する異議申述公告・個別催告の日までに合併の情報が載った書類を置かなければなりません。効力発生日から6カ月を過ぎる日まで続けましょう。これは、債権者保護のために実施します。

④株主に対する通知・公告

株主への通知・公告は、効力が発生する日の20日前までに実施します。合併に賛成しない株主は、持っている株式を公正な価格で買い取るよう会社へ請求可能です。

⑤株主総会の招集手続き・決議

株主総会招集通知の送付を、株主総会開催日の1週間前までに行います。また、合併の効力発生日までに株主総会決議を行います。組織再編行為は、重要な行為なので特別決議です。

⑥債権者保護の手続き

企業が合併すると、一部の取引先が損害を受けたり、お金を回収したりするのが難しくなることがあります。そんな取引先を守るために、合併が正式に決まる1ヶ月前に、合併に反対する権利があることを公式に告知します。この情報は官報で公表され、関係する取引先にも伝える必要があります。

⑦吸収合併の効力発生

吸収合併では、合併契約書にある効力発生日に効力が生じます。つまり、消滅会社の権利や義務がすべて存続会社へ承継され、消滅会社はなくなります。効力発生日に特別行うことはありません。しかし、両社にとって、重要な日となるでしょう。

⑧事後開示書類の据置

効力が発生したら、遅れることなく事後開示書類の据置を実施します。事前開示書類と同じく事後開示書類も、効力が発生した日から6カ月を経過する日まで据置を継続しなければなりません。

⑨変更登記申請

スケジュールがスムーズに進んで効力が発生すると、2週間以内に吸収合併の変更登記を申請します。存続会社以外に、消滅会社の解散登記も申請します。

吸収合併の登記方法と契約書

ここでは、吸収合併の登記方法と契約書を解説します。

登記申請手続きの方法

スケジュールがスムーズに進行して吸収合併の効力が生じると、存続会社が登記申請の手続きを行います。なお、消滅会社に必要な手続きはありません。吸収合併の登記には、事前に提出する書類と状況により提出する書類があります。

登録免許税の支払い金額

登録免許税の支払いも発生します。存続会社での登録免許税の支払い金額は、増えた資本金に対する1,000分の1.5を乗じた額であり、この金額が3万円に満たなければ一律3万円です。

契約書の記載事項

契約書には以下3つの事項を記載します。

  • 法定記載事項
  • 任意的記載事項
  • 法定外契約

吸収合併は、会社法で吸収合併契約書に法定の記載事項が定められています。任意的記載事項は法定記載事項ではありませんが、吸収合併の実務上、契約書によく載せるものです。また、法定外契約は、吸収合併契約とは別の契約であり、例えば経営統合契約などがあります。

法定記載事項の内容

法定記載事項には、以下の5つの内容を盛り込むことが定められています。

  • 当時会社の表示
  • 消滅会社の株主に交付する合併対価
  • 消滅会社の株主における割当の定め
  • 消滅会社の新株予約権者における対価と割当
  • 吸収合併の効力発生日

記載事項が1つでも漏れると吸収合併契約は無効となり、吸収合併の効力は生じないので注意しましょう。

任意的記載事項の内容

任意的記載事項は、法定記載事項ではありません。しかし、よく契約書に記載する事項であり、主な事項には以下が挙げられます。

  • 合併契約が承認される株主総会期日
  • 存続会社の定款変更における内容
  • 存続会社の役員選任事項
  • 吸収合併により退任役員がいれば退職慰労金
  • 吸収合併の効力発生までの財産管理
  • 吸収合併の効力発生まで剰余金配当の禁止あるいは制限
  • 吸収合併後における従業員の処遇
  • 吸収合併契約の解除・変更事由
  • 効力発生の解除条件

上記内容の記載は、状況によってさまざまです。また、記載されていなくても、合併契約は無効になりません。

法定外契約

法定外契約は、合併や統合プロセスで行う内容を明確化する契約です。

この契約は吸収合併に関する法律で契約を結ぶことが定められているわけではないので、法定外契約と呼ばれます。法定外契約に該当するものには、経営統合契約などがあります。

経営統合契約の場合に記載する内容は、「経営統合の準備体制に関する記述」「合併契約後の経営体制・ガバナンス」などの事項です。

吸収合併の事例

実際に行われた吸収合併の事例を3つご紹介します。

【小売】三越と伊勢丹の合併

2011年4月1日、以下の会社形式で吸収合併が行われました。

  • 三越:存続会社
  • 伊勢丹:消滅会社
三越は当時、売上高が5,470億円と全国百貨店の中で売り上げを2位につけていました。しかし、リーマンショックが明けた市場環境の中で百貨店を取り巻く環境が変化したことから、吸収合併へ踏み切りました。

子会社の合併等のグループ内組織再編と それに伴う商号変更についてのお知らせ

【リース】三菱UFJリースと日立キャピタルの吸収合併

2020年9月24日、以下の会社形式で吸収合併が行われました。

  • 三菱UFJリース:存続会社
  • 日立キャピタル:消滅会社

三菱UFJリースは東証一部上場企業であり当時の売上高は9,237億円を記録していました。しかし、コロナウイルスの影響がありビジネスチェンジを余儀なくされたことから、ビジネス領域の相互補完・経営基盤の強化の目的のもと吸収合併が行われました。

三菱 UFJ リースと日立キャピタルとの合併を通じた経営統合に向けた契約締結に関するお知らせ

【コンビニ】ファミリーマートとユニーグループ・ホールディングスの吸収合併

2016年2月3日、以下の会社形式で吸収合併が行われました。

  • ファミリーマート:存続会社
  • ユニーグループ・ホールディングス:消滅会社

ファミリーマートは誰もが知るコンビニエンスストア「ファミリーマート」を展開しており、2014年段階での売上高は3,456億円。日本国内の人口減少やドラッグストアの台頭などにより競争が激化したことから吸収合併に踏み切りました。

株式会社ファミリーマートとユニーグループ・ホールディングス株式会社との吸収合併契約締結 及び株式会社ファミリーマートと株式会社サークルKサンクスとの吸収分割契約締結 並びに商号の変更に関するお知らせ

吸収合併の注意点

吸収合併の手続きは、手順が多く時間がかかるものが多いです。各手順の漏れがないよう事務業務の際は注意しましょう。また、吸収合併ではつい存続会社にばかり目が行きがちですが、消滅会社側も消滅の登記手続きが必要なので忘れないよう注意してください。

消滅会社における従業員の対応は、組織統合の観点からすでに述べましたが、それ以前に1人ずつに対し、合併後の具体的な待遇に関してどのような労働契約になるのか、丁寧に説明し合意を取り付けることも必要です。

吸収合併を決めるまでも大変ですが、決まった後の諸手続きはより大変であると考えましょう。法務・財務・税務・労務それぞれ専門的知識は不可欠なので、場面に応じて専門家のサポートを受けることが大切です。

【関連】会社合併の手続き

吸収合併に関する相談先

本記事で解説したとおり、吸収合併では複雑な手続きを済ませる必要があります。メリットを最大限に得つつ失敗を避けるためには、専門的に高度な知識が必要不可欠です。そのため、吸収合併の成功を目指す際は、専門家に相談することが大切です。

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吸収合併のまとめ

吸収合併の手続や契約書は法律で定められている部分が多いので、事前によく確認しておき漏れのないように進めていくことが重要です。また、各手続きには期限が決められているので、確実に実行するためにもスケジュールをしっかり立てておきましょう。

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