M&Aとは?意味や動向とM&Aを行う目的・メリットなどをわかりやすく解説!
2022年6月6日更新業種別M&A
建築資材卸の事業承継とは?課題や注意点、建築資材卸の事業承継事例を解説
現在、建築資材卸業界は震災復興事業や2020年東京オリンピックに向けた繁忙期ですが、今後は人口減少などを背景に建築需要の低下もささやかれます。さらに建築資材卸各社では、業績維持だけでなく事業承継という問題にも直面しています。
建築資材卸の事業承継とは
建築資材卸業はBtoBビジネスであることから、一般にはなじみが薄いかもしれません。しかし、建築資材卸業がなければ、住宅などの建築業も成り立ちません。その建築資材卸業界が、現在直面している事業承継問題にフォーカスを当て、その実態を明らかにしていきます。
建築資材卸業とは
建築資材卸業は、建築にかかわる資材を扱っている卸売業のことです。主な取り扱い品目として、木材・竹材、セメント、板ガラス、建築用金属製品などの建築材料の卸販売をしています。 建築資材は幅が広く、左記以外にも塗装用品やプラスチック、その他の化学製品なども含まれます。
建築資材卸業界の現状
建築資材卸業界は、リーマンショックなどによる景気の悪化を原因に、販売額が急激に下がっていました。しかし、2011(平成23)年に起こった東日本大震災後の復興事業や、2020(令和2)年の東京オリンピック向け各種工事という追い風によって、業績は回復しています。
建築資材卸業界の特徴として、自己資本比率、流動比率、固定比率、借入依存度などの財務面を他の卸売業と比べると、やや脆弱な水準であることが挙げられます。建築資材によっては加工販売が必要な場合もあり、建築資材卸業であっても加工を手掛ける中小企業は多く存在します。
その場合、卸売業にもかかわらず設備投資が生じることになるわけです。また、建築資材卸業は、卸売する製品を仕入れて工事業者に販売していますが、売上高利益率は約12.0%となっており、こちらも他の卸売業と比べて低い水準です。
さらに最近では、ハウスメーカーが自社製資材を多く使う傾向にあるため、建築資材卸業者との取引が減少気味です。そして、社会情勢としては2008(平成20)年をピークに人口減少化が進んでいます。
そのため、家を新築する件数も少なくなってきていて、建設業自体の業績低下は否めません。そのことは当然ながら、建築資材卸業界への影響も大きなものがあります。
建築資材卸業界の事業承継
建築資材卸業においては、従業員数が少ないながらも年商4億を超える会社があるなど、売上高自体は悪いほうではありません。しかし、加工設備への投資資金借入負担や、景気や社会情勢の影響を受けやすい業態であることから、身内への事業承継に消極的な経営者も少なくないと言われています。
また、他の業種と変わらず少子化状況の進行により、後継者となる身内そのものがいない、後継者難にさらされているのは建築資材卸業界も同様です。その結果、自分の代での廃業をどうしても考えてしまう、経営者の心情が指摘されてきました。
そのような状況の中、最近になってM&Aによる事業承継の有効性が、建築資材卸業界でも認識されつつあります。これまでの建築資材卸業では、創設者以降、身内への承継が多く実現されてきたため、承継か廃業かの二択論しかありませんでした。
しかし、売上高もあり、できれば廃業せずに今後も会社を存続させたいと考える経営者も現れ、M&Aを選択して事業承継するケースが少しずつ増えてきた段階にあります。
建築資材卸の事業承継の課題
建築資材卸業界における事業承継では、業界特有の課題もあれば、日本の中小企業共通の課題も存在します。それらの中から特に顕著な建築資材卸業界での課題を、3点抽出しました。それぞれ確認してみましょう。
①少子高齢化
現在、日本の中小企業の経営者の年齢は年々上昇しています。野村総合研究所が2012(平成24)年11月に発表した、中小企業庁委託「中小企業の事業承継に関するアンケート調査」によると、調査時点での中小企業経営者の引退年齢の平均は69.1歳です。
30年以上前では61.95歳でしたから、その間に7.15歳上昇したことになります。まさに、高齢化現象が如実に反映されている結果と言えるでしょう。そして、事業承継については、やはり息子や娘、またはそれ以外の親族を第一と考えているようです。
どうしても身内に後継者がいなければ、次善の策として会社の役員や従業員に事業承継することを選択する割合が増えてきています。建築資材卸業界でも、左記のことはそのまま当てはまる現象です。しかし、それでも後継者がいないという状況の会社が多数あります。
それらの建築資材卸業の会社では、やむなく50%以上が廃業を検討しているという調査結果がもたらされています。
②業態の特性
建築資材卸業の販売取引先は建築業の会社です。建築業は、その業績が景気に影響を受けやすいとされています。つまり、建築資材卸業も景気からの影響を受けてしまうのです。また、資材を独自加工する必要にも迫られ、設備投資資金の借入返済負担も軽くはありません。
さらに昨今は、ハウスメーカーなどが自前の資材製造を徐々に実施し始めており、その分、建築資材卸業界の取引高は下がることになります。建築資材卸業の場合、どこも業歴が古く創業者の時代から続く古い顧客への販売で、事業を形成してきました。
言わば老舗として取引を行ってきた建築資材卸企業としては、今の段階になって新しい販路の開拓や拡大と言っても、実質的に難しい点があります。そのような将来性への不安や不確かさも、建築資材卸企業の経営者が廃業を検討してしまう一因と言えるでしょう。
③経営者の心持ち
建築資材卸業界に限らず、どの経営者でも2つの思いに揺れるようです。それは、できるなら身内の人間が後継者となり事業承継してほしいという気持ちと、建築資材卸業の苦労を知っているだけに、子供にはその大変さを味わわせたくないという二律背反な心持ちとされています。
そのような精神状態で事業承継の決心をしないままでいるため、経営者自身も高齢となり、後継者候補もそれなりの年齢となって、簡単に事業承継できるような環境ではなくなってしまいます。やはり、経営者の第一の仕事は、とにかく決断を下すことです。
事業承継についても、自分の心情と折り合いをつけて、早くから方針を決めておかないと可能な事業承継方法が選択できない事態となってしまいます。念のため、建築資材卸業において取り得る事業承継方法は、以下の4つの選択肢です。
- 子供や親族等の身内への事業承継
- 社内の役員や従業員への事業承継
- M&Aによる社外の第三者への事業承継
- 廃業
事業承継対策のポイント
事業承継における問題
建築資材卸の事業承継の注意点
建築資材卸業界だけでなく、どのような業界でも事業承継を実施する場合、注意をしておかねばならないことがあります。読めば当たり前のように感じる内容でありながら、いざ現実問題となると、ついつい犯してしまいがちなものです。この機会にあらためて認識し直しておきましょう。
①情報管理
事業承継については、確定するまで従業員や取引先には情報が漏れないようにしましょう。特にM&Aで事業承継を検討している場合は、情報漏洩は厳禁です。場合によっては、それが原因でM&Aの相手側から断られてしまうかもしれません。
経営者としては、従業員や取引先にできるだけ早く、事業承継について話したほうが安心ではないかと考えがちですが、それは違います。親族内承継や役員・従業員承継の場合は、事業承継計画の策定が終わった段階で話をしても良いでしょう。
そのほうが事業承継計画を進めやすく、従業員に協力してもらわなければならない事項もあります。しかし、M&Aの場合は経営者が変わるということですから、早期に情報が漏れてしまうと、従業員も不安な気持ちになることは請け合いです。
また、取引先の場合は「業績が悪いから事業を手放すのでは?」と思われてしまい、取引の見直しなどになる可能性があります。社内的に発表したとしても、従業員から取引先に情報が漏れないという保証はありません。
従って、事業承継に関する内容は、確定するまで絶対に情報が漏れないように管理することが必要です。
②身内への事業承継の場合
残念ながら建築資材卸業界は、今後の発展や成長を大きく期待できるだような状況にはありません。そのため、息子や娘などを後継者にした事業承継の場合は、今後の事業運営をどのようにしていくかを明確にしておくと良いでしょう。
建築資材卸業は、決まった建築業者や工務店との取引が長いケースが多く、各社固有の販路を持っていると言えます。これまでの取引先との関係維持は重要ですが、新たな販路、新たな取引先獲得への何らかの道筋を立てておいてあげるべきです。
前任経営者の最後の仕事と思って、ぜひ実行してください。
③社内での事業承継の場合
社内の役員や従業員への事業承継の場合は、事業承継をするまでに準備期間をしっかりと設けて、スムーズに事業承継が実現するようにしましょう。役員や従業員は、それまでの自分の役割に応じて、業務に当たっていたはずです。
急に経営者となっても、経営と業務の両方の役割を果たすには無理があります。中小企業の場合は、経営者が業務と経営の両方を行うのは少なくありません。しかし、役員や従業員が後継者となる場合、やはりしかるべき準備期間が必要です。
準備期間をきちんと取らず、見切り発車で経営と業務の兼務などをさせては、せっかくの後継者が潰れかねません。事業承継した後継者の第一の任務は経営です。後継者が落ち着いて経営に専念できる環境作りが前任経営者の大事な仕事となります。
建築資材卸の事業承継はM&A仲介会社に相談
建築資材卸業界において、身内にも社内にも適任の後継者がいない場合、会社を存続させるために残された選択肢は、M&Aによる事業承継です。廃業は最終手段としていつでも取り得る選択肢ですから、それはいったん、考えずにおきましょう。
従業員や取引先のことを考えれば、会社の存続が誰にとっても最良のはずです。経営者自身もM&Aで事業承継が実現できれば、老後の生活資金としてそれなりの現金を入手できます。
M&Aでの事業承継
建築資材卸企業にとって、もはや会社存続のためには第三者への事業承継しかないという状況なら、迷わずM&A仲介会社に相談してみましょう。M&A仲介会社は、中小企業の抱える問題解決のため、事業承継も含めた様々なM&A手法を駆使してサポートしてくれる存在です。
ほとんどのM&A仲介会社は、無料の事前相談を受け付けています。M&Aでの事業承継とは具体的にどのようなものか、といった基礎的なことからの相談で全く問題ありません。実際にM&Aをするか決めるため、どうしたら事業承継できるかについて情報収集すればいいのです。
M&A仲介会社の多くは、税理士や公認会計士、弁護士などが在籍しているか、またはそれらの事務所と提携している場合もあります。建築資材卸企業としての経営相談をするような感覚で、話しをしてみるのもいいかもしれません。
また、事前相談の前段階レベルというような状況であれば、M&A仲介会社が主催しているセミナーに参加してみるのも良いでしょう。最近の経営の流れやM&Aについて、わかりやすく説明してくれるセミナーが多く開催されています。こちらも無料で参加できるものが、ほとんどです。
M&A仲介会社の選び方
現在の日本では、上場企業に限らず非上場中小企業のM&Aが増加している途上にあります。そのため、M&A仲介会社は全国に多数ありますから、自分が相談しやすく実績のあるM&A仲介会社を選ぶことがポイントです。
全国規模で、東証一部に上場しているM&A仲介会社もありますし、規模は小さくとも地元密着型で運営されているM&A仲介会社もあります。インターネット上に各社の情報は掲載されていますから、建築資材卸業や、自社と同等の規模の会社のM&Aを手掛けている会社を探してみましょう。
また、M&A仲介会社によって、受けられるサポートや料金体系などは異なります。事前相談の段階で全て明らかにしてもらい、自分のイメージと違った場合や違和感があるときは、別の会社を探したほうがよいでしょう。
建築資材卸業の場合、同業者がM&Aの相手となる場合もあるでしょうが、業務の内容によっては異業種や工務店、建設会社などが交渉先となることも十分考えられます。そのようなマッチングもM&A仲介会社が実施してくれるので、安心して任せられるM&A仲介会社選びが重要です。
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建築資材卸の事業承継事例
建築資材卸業の事業承継を、M&Aによって実施することを検討するうえでは、建築資材卸業界の会社のM&A事例を分析してみるのも一興です。事業承継に限ったものではありませんが、建築資材卸業関連のM&A事例を4件、紹介します。
建築資材卸業のM&A事例①
2020(令和2)年1月に発表された建築資材卸業関連のM&A事例として、東京都のJKホールディングスによる、埼玉県の建築資材卸業ティエフウッド買収による子会社化があります。創業が1937(昭和12)年というJKホールディングスは、その名のとおり持ち株会社です。
JKホールディングス・グループの長年にわたる経営は、建築資材卸事業を中心に合板製造・木材加工事業、フランチャイズ事業、総合建材小売事業、建設工事業、倉庫および運送業、旅行・保険・金融業と多角的に行われてきました。
ティエフウッドは、関東地方で幅広く建築資材卸業を行ってきており、JKホールディングス・グループの主力事業とのシナジー効果を狙ってのM&Aとされています。なお、株式譲渡の実施は2020年3月予定です。
建築資材卸業のM&A事例②
建築資材卸業関連のM&A事例2例目は、2017(平成29)年4月に実施された三和ホールディングスによる、兵庫県尼崎市の日本スピンドル製造の建材事業部門の買収です。このM&Aでは、少し複雑な手法が用いられました。
まず、日本スピンドル製造の建材部門を分割して、日本スピンドル製造の100%子会社スピンドル建材サービスに吸収させています。その後、三和ホールディングスがスピンドル建材サービスの株式100%を取得する手法を行ったのです。
日本スピンドル製造は、木製の学校間仕切において、市場のトップシェアを持っていました。M&A後、三和ホールディングスは、学校間仕切市場で木製とスチール製を合わせてトップシェアとなり、その後も市場の拡大を目指しています。
このケースでは、事業譲渡と株式譲渡を組み合わせたM&Aの手法によって、取引が実現しました。三和ホールディングスは、もともとスチール製の製品について強い会社でしたが、日本スピンドル製造の建材事業を買収することで、木製での学校間仕切市場への進出を果たしたのです。
建築資材卸業のM&A事例③
建築資材卸業界関連のM&A事例3例目としては、大阪府の太田べニヤが、和歌山県の茂野建具店を株式譲渡によってグループ化しました。詳細については公表されていませんが、茂野建具店は造作用のラッピング材を製造販売している会社です。
太田べニヤは、1953(昭和28)年6月設立の長い歴史を持つ会社で、内外装建材販売、紙器抜方用合板販売、内外装仕上工事業などを主な事業としています。また、埼玉県に東京営業所を開設する一方、オーテック、ダイシン建材などグループを拡張中です。
建築資材卸業のM&A事例④
事例4例目としては、大阪に本社を持つ東証一部上場の阪和興業による、同じく大阪のダイサンを株式譲渡により子会社化したものがあります。ダイサンは大阪市にある建築用鋼材卸を営む会社で、創立が1946(昭和21)年11月と、大変歴史が長い会社です。
本店を大阪府大阪市西区に構え、東京支店、北関東営業所を持つ他に大阪、千葉に倉庫を持っている比較的大きな会社になります。ダイサンの株主は、株式譲渡によって阪和興業となっていますが、以前と同じように会社が運営され、従業員もそのまま引き継がれています。
会社の代表者は、このM&Aの際に交代しており、現在の会社代表者は阪和興業から派遣されています。阪和興業は、鉄鋼事業、非鉄・金属原料事業、食品事業、石油・化学品事業、木材事業、機械事業を幅広く行っています。
ダイサンを子会社にすることで、建築用鋼材についての事業拡大を見込んだM&Aだったと推測されます。
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事業承継の手続き【法人・個人事業主向け】
事業承継の費用・手数料まとめ!税制や補助金はある?【弁護士/コンサル】
まとめ
少子高齢化が進む日本の現状を踏まえると、建築資材卸業界の市場は縮小傾向にあります。そうであるならば、建築資材卸業界の中小企業としては、事業承継を含めた全てのM&Aを試みていくことが、生き残りのキーポイントとなるかもしれません。
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