M&Aとは?意味や動向とM&Aを行う目的・メリットなどをわかりやすく解説!
2023年11月5日更新節税
株式譲渡の贈与税計算方法は?譲渡税との比較も解説!
M&Aでは株式を譲渡するケースと贈与するケースが存在します。それぞれ譲渡税と贈与税が発生しますが計算方法が異なります。本記事では株式譲渡の贈与税計算方法と、譲渡税との比較を解説します。
目次
株式譲渡・贈与とは
自社あるいは自己が保有する株式を他者へ譲り渡す場合、譲渡か贈与の2つの方法があります。前者は株式譲渡、後者を株式贈与と呼びますが、2つにはどのような違いがあるのでしょうか。まずは、株式譲渡と株式贈与の基本的な意味合いの確認をしましょう。
株式譲渡とは
株式譲渡は、M&Aスキーム(手法)の一つです。売り手企業の株式を買収することで、買い手はその経営権を取得します(経営権取得のためには過半数の株式が必要)。株式の引き渡しと対価の支払いで取引が完了するので、手続き面が簡単です。
対外的には株主が代わるだけなので、基本的に会社の事業活動に影響を及ぼすことなくM&Aが完結します。株式譲渡での売却側は対価を得るため、株式取得費用を差し引いた利益額は課税の対象です。
株式贈与(無償の株式譲渡)とは
無償で株式譲渡することを株式贈与といいます。株式贈与が行われるのは、中小企業の事業承継が代表的です。
中小企業の後継者が親族の場合に、被相続人死亡時の相続ではなく生前贈与として後継者に株式を引き継がせるケース、自社の社員や役員など親族以外の後継者に対して株式贈与するケースが考えられます。
株式譲渡と贈与の共通点・違い
株式譲渡も株式贈与も株式の所有権を相手に譲る点は同様で、違いは対価を伴うかどうかです。株式を受け取る側の違いに着目すれば、株式譲渡の相手は第三者ですが、株式贈与の相手は親族だけでなく社員・役員の場合もあります。
親族に株式贈与する場合は、言い換えれば相続分の前渡しです。現経営者が存命のうちに、事業承継を完遂したい狙いがあります。一方、社員・役員が後継者の場合、本来は(有償の)株式譲渡で経営権を引き継ぐのが筋でしょう。
しかし、個人である後継者にとって、必ずしも株式譲渡の対価を支払える資金力があるとは限りません。金額によっては、融資を受けるのも難しいため、円滑な会社の事業承継を優先したい現経営者は株式贈与を行うこともあります。
株式贈与にかかる税金と計算方法
税法上の贈与行為は、贈与者・受贈者がそれぞれ個人であるか法人であるかによって解釈が異なります。結果として課される税金の種類も違ってくるため、事前によく理解しておくことが大切です。ここでは、株式贈与の際に課される税金の内容と、贈与税の計算方法などを説明します。
贈与税とは
贈与税とは、相続以外で個人から金銭や住居などの財産を譲り受けた場合に納付する税金のことです。贈与税はある程度の税率で課税されるうえに、経営権の掌握に必要な株式の総額を考慮すると、贈与税の負担は非常に大きくなります。
生前贈与を実施する際には、贈与税が非課税となる年間110万円以下の贈与を実施するのがおすすめです。非課税の範囲で毎年少しずつ贈与を実施すれば、時間はかかりますが、受贈者の贈与税負担を抑えられます。
ただし、自社株式を毎年分割して後継者に贈与すると、その間、経営権は分散状態です。会社の重要な決定事項で、後継者と意見が分かれないよう注意しましょう。
非上場の中小企業であれば、事業承継税制を生かすことで、贈与税の納税猶予・免除を得られます(詳細は後述します)。
上場株式の評価額
金融商品取引所に上場している株式の評価額は、課税時期の最終価格です。最終価額とはその日についた最後の取引価格(終値)で以下4項目のうち最も低い価額で計算します。
- 贈与日の最終価格
- 課税時期の月の最終価格の平均額
- 課税時期の月の前月の最終価格の平均額
- 課税時期の月の前々月の最終価格の平均額
上場株式の評価額は、証券会社などが発行する評価明細書(残高証明書など)を参考にできます。
非上場株式の評価額
非上場株式の評価額は、株式の保有によって経営権を支配するか否か評価方法が異なるため、注意が必要です。経営権を支配する場合、企業の規模により評価方法が細分化されています。
- 大会社:原則、類似業種比準方式
- 小会社:原則、純資産価額方式
- 中会社:類似業種比準方式と純資産価額方式の併用方式
経営権を支配しない場合、配当還元方式を採用するとよいでしょう。経営権を支配しない場合とは、配当金を得ることを目的とした株式を保有する人をさします。(詳細は後述します)
いずれにしても、計算方法は非常に複雑で容易ではありません。M&A仲介会社などの専門家に依頼することをおすすめします。
M&A総合研究所には、株式譲渡・株式贈与の知識や実績豊富なアドバイザーが多数在籍しており、親身にフルサポートいたします。料金体系は、成約するまで完全無料の「完全成功報酬制」です(※譲渡企業様のみ。譲受企業様は中間金がかかります)。
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個人が受贈者の場合の株式贈与
ここでは、個人が株式贈与を受けた場合に、受贈者・贈与者それぞれに課される税金を説明します。
個人からの株式贈与
個人から個人への株式贈与で課される税金は以下のとおりです。
- 贈与者(個人):課税はありません
- 受贈者(個人):贈与税
法人からの株式贈与
法人から個人への株式贈与で課される税金は、以下のとおりです。
- 贈与者(法人):法人税
- 受贈者(個人):所得税
贈与者が法人の場合、「寄附金として財産を時価で譲り渡した」という解釈になります。したがって、贈与者である法人に対して法人税が課されるのです。このとき、個人の受贈者は「寄附金という所得を得た」ため、所得税が課されます。
受贈者個人が贈与者である法人の従業員か役員の場合、勘定科目は寄附金ではなく「賞与・役員賞与」です。賞与・役員賞与の場合も、税法上は損金不算入ですから、法人税の対象である点は変わりません。
法人が受贈者の場合の株式贈与
こちらでは、法人が株式贈与を受けた場合の税金を見てみましょう。
個人からの株式贈与
法人から個人への株式贈与で課される税金は、以下のとおりです。
- 贈与者(個人):みなし譲渡所得税
- 受贈者(法人):法人税
個人が法人に株式贈与した場合、贈与者個人にみなし譲渡所得税が課されます。本来、株式の取得時の金額から値上がりした利益分(含み益)は所得税の対象です。これを株式贈与だから贈与者に課税しないとすると、脱税ができてしまいます。
したがって、含み益(=みなし譲渡所得)に課税するため、贈与者個人にみなし譲渡所得税が課されるのです。一方、受贈者である法人は、「時価で財産を譲り受けた」ことになり法人税が課されます。
公益法人に株式贈与した場合は寄附となるので、贈与者への課税はありません。同族会社に株式贈与した場合、贈与後に株式価値が上がれば、その増加分は同族会社株主への贈与とみなされ、株主にも贈与税が課されます。
法人からの株式贈与
法人から法人への株式贈与で課される税金は、以下のとおりです。
- 贈与者(法人):法人税
- 受贈者(法人):法人税
法人から法人への株式贈与では、まず、贈与側は「財産を時価で譲り渡した」と解釈され、法人税が課されます。一方、受贈側は、個人からの株式贈与と同様に「財産を時価で譲り受けた」と解釈され、法人税が課されるのです。
バリュエーション(株価評価)の手法
非上場企業の株式贈与の場合、贈与税などの税額を算出するためには、株式の時価を割り出す必要があります。国税庁では、その株価評価方法を規定しており、まず、受贈側が同族株主の場合に用いるのが、原則的評価方式です。
原則的評価方式では、株式の該当会社を総資産価額・従業員数・取引金額の3要素で大会社・中会社・小会社に分類し、それぞれ別の評価方法を行います。
- 大会社:類似業種比準方式(類似業種の株価を基に配当金額、利益金額、純資産価額⦅簿価⦆で比準して評価する)
- 小会社:純資産価額方式(総資産額から負債、評価差額に対する法人税額などの相当額を差し引いた金額で評価する)
- 中会社:類似業種比準方式と純資産価額方式の両方を併用して評価する
同族株主以外が株式贈与を受けた場合に用いるのが、配当還元方式です。配当還元方式とは、株式を所有することで受け取る配当金1年間分の金額に対して、10パーセントの利率で還元し株式価額を評価します。
贈与税の税率・控除額と計算例
贈与税には基礎控除額があります。金額は、1年間(1月1日~12月31日)で110万です。贈与税の税率は、贈与者と受贈者の関係性の違いにより、2種類の基準があります。一つは、特例贈与財産用税率(特例税率)です。
これは、年齢18歳以上(1月1日時点)の受贈者が、父母または祖父母から贈与を受けた場合に適用される税率で、具体的には以下のようになっています。
課税額(基礎控除額差引後) | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
200万円以下 | 10% | ― |
200万円超~400万円以下 | 15% | 10万円 |
400万円超~600万円以下 | 20% | 30万円 |
600万円超~1,000万円以下 | 30% | 90万円 |
1,000万円超~1,500万円以下 | 40% | 190万円 |
1,500万円超~3,000万円以下 | 45% | 265万円 |
3,000万円超~4,500万円以下 | 50% | 415万円 |
4,500万円超 | 55% | 640万円 |
もう一つの区分は一般贈与財産用税率(一般税率)です。特例贈与財産に該当しない贈与が対象の税率で、具体的には以下のようになっています。
課税額(基礎控除額差引後) | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
200万円以下 | 10% | ― |
200万円超~300万円以下 | 15% | 10万円 |
300万円超~400万円以下 | 20% | 25万円 |
400万円超~600万円以下 | 30% | 65万円 |
600万円超~1,000万円以下 | 40% | 125万円 |
1,000万円超~1,500万円以下 | 45% | 175万円 |
1,500万円超~3,000万円以下 | 50% | 250万円 |
3,000万円超 | 55% | 400万円 |
一般贈与財産として800万円の贈与を受けた前提の計算例を記します。
- 基礎控除の適用:800万円-110万円=690万円(課税額)
- 税率の適用:690万円×40%=276万円
- 控除額の適用:276万円-125万円=151万円(納税額)
株式贈与の課税に関する特例制度
非上場の中小企業の株式贈与・相続を対象とした特例制度が、「非上場株式等についての贈与税の納税猶予及び免除の特例等」です。具体的には、租税特別措置法第70条の7の5の規定による措置(特例措置)と同法第70条の7の規定による措置(一般措置)の2つがあります。
この特例制度は、通称で事業承継税制と呼ばれていますが、特例措置は2027(令和9)年12月31日までの時限措置です。
事業承継税制とは
事業承継税制は、中小企業の事業承継をサポートするための税制です。都道府県知事に認可されるなどの諸要件を満たした中小企業であれば、贈与税・相続税の納税猶予を得られます。さらに要件を満たし手続きを踏めば、最終的に納税免除も可能です。
特例措置は、一般措置よりも要件が緩和されているため、より納税猶予が得やすくなっています。中小企業では、後継者候補がいるにもかかわらず、贈与税や相続税の負担を不安視して事業承継が進まないケースが指摘されていました。
その状況を打破するために事業承継税制が導入されたのです。
事業承継税制の要件とは
事業承継税制の特例措置は2027年までです。これを受けるためには、2023(令和5)年3月31日までに、5年以内を期限とする特例承継計画を策定し、都道府県知事に提出しなければなりません。
この特例承継計画には、認定経営革新等支援機関 (税理士、商工会、商工会議所など)の所見の記載が必要です。そして、納税猶予措置を継続させるためには、以下の3要件を維持しなければなりません。
- 後継者(受贈者)が事業主であり続けること
- 会社の株式を保有し続けること
- 承継後5年間は雇用の8割を保ち続けること
「8割の雇用維持」については、特例措置では要件が弾力化・緩和されています。万が一、雇用が8割を切る事態になっても、理由報告および認定支援機関による指導や助言を受ければ、相続税や贈与税の納税猶予が継続できるようになりました。
しかし、要件を満たせなかった理由が、経営悪化やその他正当なものと認められない理由だった場合は、納税猶予が解除されてしまう恐れがあるので注意が必要です。
株式譲渡にかかる税金と計算方法
ここでは、実際に株式譲渡されたときの課税内容と計算例を説明します。こちらも、株式譲渡者・譲受者が個人か法人かで課税内容が異なるので注意が必要です。
個人による株式譲渡のケース
個人が株式譲渡の当事者の場合、譲受者が個人か法人かに関わらず、譲渡所得に対して課税を受けます。ただし、給与などとの総合課税からは切り離された分離課税であるため、税率は固定です。まず、譲渡所得は以下の計算式で求めます。
- 譲渡所得=株式譲渡対価-(株式の取得費用+譲渡手続きの委託手数料など)
2022(令和4)年4月時点の株式譲渡所得税の税率は20.315%で、その内訳は以下のとおりです。
- 所得税:15%
- 住民税:5%
- 復興特別所得税:0.315%(2037⦅令和19⦆年までの時限税)
株式譲受側は課税を受けません。ただし、譲渡対価と株式の時価に差額があると課税を受けるケースがあるので、個人と法人に分けて、その内容を説明します。
個人に対する譲渡
時価よりも安い金額で個人同士の株式譲渡が行われた場合、買い手個人は割安で株式を取得したことになるので、その差額分は、みなし贈与となり、買い手は贈与税を納付しなければなりません。
一方、時価よりも高い金額で個人同士の株式譲渡が行われた場合、売り手は、その差額分を買い手から贈与されたとみなされ、譲渡所得税と合わせて贈与税も課税されます。このケースでは、買い手への課税はありません。
法人に対する譲渡
個人から法人に対し、時価よりも低い金額で株式譲渡が行われた場合、その差額分は買い手法人が受けた贈与(収入)とみなされ、法人税の課税対象です。
個人から法人への株式譲渡が時価よりも高い金額で行われた場合、その差額分は、買い手法人から売り手個人への寄附金とみなされます。このケースの寄附金は損金算入できないため、買い手法人は寄附金課税を受けるのです。
このケースでの売り手個人が会社の役員や従業員の場合は、寄附金ではなく役員賞与、または賞与に仕分けられます。損金不算入は同様です。
法人による株式譲渡のケース
法人が売り手である株式譲渡では、譲渡益に対して売り手法人に法人税が課されます。ただし、法人税は、その年度の他の損益と通算した金額に対する課税です。したがって、仮に同一年度内に大きな損金が出て赤字決算だった場合、課税されません。
個人の場合と用語名は違いますが、株式譲渡益の計算方法は同様です。
- 譲渡益=株式譲渡対価-(株式の取得費用+譲渡手続きの委託手数料など)
ひと言で法人税とくくられていますが、実際には以下の4種類があり、全てを合わせた実効税率は約31%(2022年4月現在)です。
- 法人税
- 法人住民税
- 法人事業税
- 特別法人事業税
株式譲受側(買い手)は、個人であれ法人であれ、基本的に課税はありません。ただし、譲渡価額によっては課税を受ける場合があるので、以下で説明します。
個人に対する譲渡
法人から個人への株式譲渡が時価よりも安い金額で行われた場合、その差額は寄附をしたとみなされ、買い手個人に贈与税が課されます。法人から個人への株式譲渡が時価よりも高い金額の場合は、時価で取引されたときと同じです。
法人に対する譲渡
法人間の株式譲渡が時価よりも安い金額で行われた場合、その差額分は売り手法人から買い手法人への寄附とみなされ、買い手法人の法人税対象となります。
法人間の株式譲渡が時価よりも高い金額で行われた場合、その差額分は、買い手の寄附金とみなされ寄附金課税の対象です。
バリュエーション(株価評価)の手法
課税の判断には、「株式の時価」が重要な意味を持ちます。上場企業であれば、取引市場での株価が時価そのものです。しかし、非上場企業の場合、株価評価=企業価値評価(バリュエーション)を行って、株式の時価を算定する必要があります。
バリュエーションには、専門的な算定方法が数多く確立されています。ここでは、代表的な以下の算定方法の概要を見てみましょう。
- 類似業種比準方式
- 純資産価額方式
- 配当還元方式
類似業種比準方式
まず、バリュエーション対象企業と同じ業種で類似する事業規模・売上規模の上場企業を探します。その上場企業の株価を参考に、専門的な係数を掛け合わせるなどして対象企業の株式の時価を算定するのが、類似業種比準方式です。
上場企業の株価を参照しているので、客観性に優れる点がメリットです。しかし、類似する上場企業が見つからなければ算定自体ができません。
純資産価額方式
純資産価額方式では、貸借対照表にある資産と負債の金額を基にして、対象企業の株式の時価を算定します。資産・負債それぞれの簿価だけでなく、時価も組み合わせた算定を行うので、中小企業の株価算定に向いているのが特徴です。
配当還元方式
対象企業が過去に行った配当金額を、特定の係数で計算して株価を算定するのが配当還元方式です。適切な配当政策が行われている会社であれば、適正な株価が算定できます。
しかし、非上場の中小企業の場合、適切な配当政策が行われていないことも多く、その場合、算定結果の信頼性は高くありません。
株式譲渡の課税額を計算する方法
個人が株式譲渡をした場合の所得税の計算は以下のとおりです。
- (譲渡対価-株式取得費用-関連手数料など)×20.315%
譲渡対価5,000万円、株式取得費用(資本金額)1,000万円、関連手数料(M&A仲介会社への手数料)300万円という前提で計算例を示します。
- (5,000万円-1,000万円-300万円)×20.315%=751万6,550円
法人が株式譲渡した場合の法人税の計算は、株式譲渡益と他の損金・益金を通算した金額に対して、実効税率約31%を掛けることで総額がわかります。
個人の場合の所得税・住民税、法人の場合の4種の法人税は、納付先・納付時期がそれぞれ異なるので、その点も注意しましょう。
株式譲渡と贈与はどちらが税金面でお得なのか?
株式譲渡と株式贈与は、事業承継で多く活用されるM&Aの手法です。後継者が株式取得する方法によって税金は異なり、株式譲渡の場合は譲渡側経営者に所得税、株式贈与の場合は後継者に贈与税がかかります。
税金面ではどちらが得なのかは、それぞれのメリット・デメリットを十分に理解して総合的に判断する必要があるでしょう。ここからは、株式譲渡と株式贈与のそれぞれのメリット・デメリットを解説します。
株式譲渡と贈与のメリット比較
株式譲渡では売り手側に所得税が課され、株式贈与では受贈側に贈与税が課されます。しかし、両者の違いはそれだけではありません。ここでは、株式譲渡と株式贈与、ぞれぞれのメリット・デメリットを比較します。
株式譲渡のメリット
株式譲渡はメリットも多いですが、なかでも譲渡益が得られる点は大きいといえるでしょう。譲渡益には税金が課されますが、それでもまとまった資金が得られるのは大きなメリットです。
個人の場合は税金面でも分離課税の恩恵が受けられます。総合課税だと最大55%の課税率ですが、分離課税による固定税率20.315%のみです。
また、手続きが簡便で費用発生が少ないのも株式譲渡のメリットといえます。株式譲渡は株主が代わるだけなので、公的機関への届出や許認可の取り直し、さまざまな契約の結び直しなどは発生しないため、諸費用負担もほとんどありません。
このように株式譲渡はシンプルな手続きで行えますが、会社法に定められた手続きを厳格に行わなければなりません。会社法に準拠した手続きを経ずして行った場合、株式譲渡は無効となるため注意しましょう。
株式譲渡のデメリット
株式譲渡はメリットがある反面、デメリットももちろん存在します。デメリットとしてまず挙げられるのは、買い手は株式を取得するための資金が必要なことです。買い手が法人であれば問題ありませんが、個人が多くの株式を譲受するとなれば資金準備が難しいケースもあります。
また、手続きの簡便さはメリットでもありますが、それゆえに不備があっても気づけず、後日問題が発生することがあるので注意が必要です。
株式贈与のメリット
株式贈与のメリットは、贈与税における基礎控除があることです。1年で110万円までは基礎控除で非課税となります。
還暦贈与というものがあり、毎年110万円以内で数年間に分けて株式贈与すれば、受贈者の課税負担を抑えることが可能です。生前贈与という方法を用いれば、被相続人の存命中に相続人へ株式を譲ることもできます。
被相続人が死亡して相続が発生した場合、株式を相続した側に相続税が課されますが、被相続人の存命中に暦年贈与を行えば相続税の負担も抑えられるでしょう。また、贈与は祖父母から孫にも実施できるため、課税を一段階飛ばせます。
そして「相続時精算累進制度」を活用した贈与方法もあります。相続時精算課税制度では、基礎控除がある暦年課税とは異なり、贈与者が亡くなるまでの間、累計2,500万円までの財産贈与が非課税です。
相続時精算課税制度を活用して株式贈与を実施する場合、評価額は贈与時のものを用いることから、たとえ後継者が引き継いで将来的に株価が上がったとしても相続税への影響はありません。
株式贈与のデメリット
株式贈与にも当然デメリットがあります。まず、基礎控除額を超えた分は贈与税が課されるという点です。取得した株式の総額が多ければ、課される税金も当然高くなります。
また、税負担を抑えるために生前贈与などを活用しても、親族間の株式贈与の場合、株式の評価額によっては相続のほうが税額が安くなる可能性があります。
事業承継の場合は「相続クーデター」と呼ばれる事態も想定しておくほうがよいでしょう。株主が複数いる中小企業において、暦年贈与の途中で先代経営者が死去し、残りの株式が他の相続人にも渡った場合、譲渡制限株式の売渡請求権が可能だと、後継者が株式を失うおそれもあります。
株式贈与の手続き・フロー
株式贈与は、法規制にのっとった手続きを踏まなければなりません。ここで、株式贈与の手続き・フローを確認しておきましょう。
- 株式譲渡承認請求
- 決議内容の通知
- 株式贈与契約書の締結
- 株主名簿書換請求
株式譲渡承認請求
中小企業の多くは、株式譲渡制限会社です。この場合、株主の独断で勝手な株式の売買ができません。したがって、譲渡制限株式を譲渡・贈与する際には、まず、会社に対して株式譲渡承認請求を行います。請求には、以下の項目の記載が必須です。
- 譲渡・贈与する株式の種類・数
- 株式取得者の氏名・住所(法人の場合は商号・所在地)
- 会社側が不承認の場合に株式買取請求を行うのであれば、その意思表示
決議内容の通知
株式譲渡承認請求に対し、会社は取締役会で判断を下します。取締役会非設置会社の場合は、株主総会開催が必要です。株式譲渡・贈与を承認した場合には、その旨を通知します。請求から2週間経過しても通知が行われない場合は、自動的に承認されたことになるため注意が必要です。
会社側が株式譲渡・贈与を不承認とし、株主から不承認の場合の株式買取請求が出されているケースでは、会社、または別の買取人が株式を買取ることを取締役会、または株主総会で決議しなければなりません(株主総会の場合は特別決議)。
株式贈与契約書の締結
株式譲渡(贈与)承認請求が承認されたら、贈与者と受贈者との間で株式贈与契約書を締結します(贈与ではなく譲渡するのであれば株式譲渡契約書の締結)。対価のやり取りがない株式贈与ですが、その場合でも契約書を取り交わすことが肝心です。
株券交付会社の場合は、株券の受け渡しも合わせて行います。
株券の発行有無
従来、株式会社は株券を発行するのが当たり前でした。
しかし、現代では株券が発行されないことも多くあり、それに合わせて株式贈与契約書の内容を編集しなければなりません。注意点としては定款で株券を発行していることを記載している場合は株券発行会社として取り扱われるため、株式贈与契約書の内容をよく確認する必要があります。
譲渡制限の有無
一般的に贈与は「諾成契約」として扱われるため、贈与者・受贈者の意思確認ができれば契約は成立します。
しかし、株式贈与になると「諾成契約」として扱われることはなく一定の制限を定款により定められているため贈与者・受贈者の意思確認ができていても贈与成立とはなりません。この場合、株式会社による承認が必要になります。
株式贈与契約書の記載事項
株式贈与契約書に記載すべき内容は以下の通りです。
- 会社名・本店所在地
- 譲渡対象の株式数(贈与を含む)
- 譲渡にかかる費用(無償贈与を含む)
- 株式の種類(普通株式や議決権制限株式など)
これらを株式贈与契約書に記載しなければなりません。
株主名簿書換請求
株式贈与契約書の締結後、贈与者と受贈者は、会社に対して共同で株主名簿書換請求を行います(会社法第133条)。株券交付会社の場合は、受贈者単独での請求も可能です。株主名簿が書き換えられないと、受贈者が正式な株主となれません。
請求の際には、合わせて株主名簿記載事項証明書の交付請求書も提出し、確実に株主名簿が書き換えられたことを確認しましょう。
株式譲渡における株式会社と有限会社の相違点
2006(平成18)年5月の会社法施行に伴って有限会社法は廃止されました。したがって、現在は有限会社を設立できませんが、2006年5月以前に設立された有限会社は、そのまま残っています。ここでは、有限会社における株式譲渡の扱いを見てみましょう。
特例有限会社とは
2006年5月以前の株式会社は、資本金1,000万円以上でなければ設立できませんでした(現在は1円以上)。その時代、株式会社よりも設立しやすい会社組織として有限会社があり、主な設立要件は以下のとおりです。
- 資本金300万円以上
- 出資する社員50名以内
- 取締役1名以上
会社法施行後、手続きを行えば有限会社から株式会社に移行できるのですが、有限会社の商号のまま事業を行っている会社もたくさんあります。それらの有限会社は、正確には特例有限会社という位置付けです。
特例有限会社は、有限会社の商号のまま実質的に株式会社とみなして扱われます。特に株式についての具体内容は、以下のとおりです。
- 特例有限会社の株式は譲渡制限株式として扱われる
- 特例有限会社は株式譲渡制限会社であることを変更できない
有限会社の株式譲渡に見られる特徴
特例有限会社は、前述したとおり株式譲渡制限会社です。その株式譲渡では、以下のような特徴があります。
- 株式譲渡の承認請求を判断するのは株主総会での普通決議(有限会社では取締役会を設置できないため)
- 株式譲渡承認に関して、新たに定款に加えれば株主総会以外の承認機関を設置可能
なお、有限会社が株式会社に移行することは強制されていないため、現状の法律が改正されない限り、今後も有限会社のまま事業を行える状況です。
株式譲渡と自社株信託の活用
中小企業における事業承継を目的に、後継者に対して株式譲渡する方法として、最近、注目を集めているのが自社株信託です。自社株信託には2つの方法があります。その一つは、現経営者が受益者となる自社株信託です。
- 現経営者を委託者兼受益者、後継者を受託者とする信託契約を締結する
- 自社株式を信託財産とし、財産権と経営権を切り離し、さらに指図権を設定する
- その結果、受益者である現経営者が財産権と指図権を持ち、経営権を後継者が持つ
- 現経営者が指図権を持っているため、実質的な経営権は現経営者側にある
- 現経営者の死亡時に、株式の財産権が後継者に渡る(贈与税はないが相続税が発生)
- 不適任な後継者だった場合は、契約解除で解消できる(株式を渡していないので解消が簡単)
もう一つのケースは、後継者を受益者とする自社株信託です。
- 現経営者を委託者、後継者を受益者、銀行などを受託者とする信託契約を締結する
- 自社株式を信託財産とし、財産権と経営権を切り離す
- 経営権は現経営者に留保させたまま、受益者である後継者には株式の財産権のみ引き渡す
- この場合は贈与税が発生するが、株式価値が低い段階で贈与しているので節税効果が得られる
- 相続税は発生しない
- 現経営者の死亡時に経営権も後継者に引き渡される
株式譲渡・贈与の税金に関する相談先
株式譲渡と株式贈与は、株式の所有権を相手に譲るというM&Aの手法です。主に事業承継で多く選択されています。それぞれにメリット・デメリットがあるため、このM&Aを成功させるには、自社に合った手法を選択することが重要です。
M&Aの手法を検討する際は、時価の計算や、株式取得の資金面・贈与税・取得税など、専門性の高い知識が必要となります。株式譲渡・贈与の実施には、M&Aに詳しい専門家によるアドバイスを受けながら進めるとよいでしょう。
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株式譲渡の贈与税まとめ
株式譲渡と贈与は、それぞれにメリット・デメリットがあり、経営者や後継者、会社の事情に合わせて使い分ける必要があります。株式譲渡や贈与の際に発生する税金の理解も深めなくてはなりません。
経営者だけでの判断が難しければ、専門家の力を借りることをおすすめします。株式譲渡・贈与の専門家であれば、経営者の考えや後継者の税負担に配慮した事業承継を実現できるでしょう。本記事の概要は下記のとおりです。
・株式譲渡とは
→売り手企業の株式を買収することで買い手は経営権を取得
・贈与税とは
→相続以外で個人から金銭や住居などの財産を譲り受けた際の税金
・事業承継税制とは
→非上場株式の承継に関して相続税や贈与税の納税猶予・免除が得られる
・株式譲渡のメリット
→譲渡益の獲得、分離課税の恩恵(個人)、手続きの簡便さで費用発生が少ない
・株式譲渡のデメリット
→課税の発生、資金力の必要性(買い手)、手続きの簡便さからくる不備
・株式贈与のメリット
→贈与税における基礎控除、暦年贈与、生前贈与、相続の段階飛ばし
・株式贈与のデメリット
→課税の発生、課税額の見込み違い(相続税との比較)、相続クーデター
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銀行系M&A仲介・アドバイザリー会社にて、上場企業から中小企業まで業種問わず20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、不動産業、建設・設備工事業、運送業を始め、幅広い業種のM&A・事業承継に対応。