2024年10月23日更新業種別M&A

設計事務所のM&A・事業承継の動向!事例・案件例・相談先も紹介

本記事では、設計事務所のM&A・事業承継のメリットや注意点、実際に行われた売却事例や積極買収企業などを紹介します。設計事務所がM&A・事業承継を行う場合、さまざまな注意しておくべき点があります。設計事務所のM&A・事業承継を検討している方は必見の内容です。

目次
  1. 設計事務所の現状
  2. 設計事務所のM&A・事業承継をおすすめする理由
  3. 設計事務所のM&A・事業承継の案件例
  4. 設計事務所のM&A・事業承継の事例
  5. 設計事務所のM&A・事業承継に積極的な企業
  6. 設計事務所のM&A・事業承継を成功させるポイント
  7. 設計事務所のM&A・事業承継時におすすめの相談先
  8. 設計事務所のM&A・事業承継のまとめ
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設計事務所の現状

政府は2024年問題などを背景に、働き方改革と労働環境の改善を強く推進しています。設計士の不足が進む業界において、生産性の向上は避けて通れない課題です。

働き方改革助成金を含む様々な補助金や助成金が提供されているのも、政府がこの分野に注力している証拠です。設計士の採用においても、オンライン業務対応やBIM技術への適応力が求められる中、これらに対応できる事務所とそうでない事務所の間で格差が広がっていくことが予測されます。

建設業の事業承継については、下記の記事でも詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。

【関連】建設業の事業承継とは?課題や注意点について解説

新設住宅着工戸数の減少

少子高齢化や人口減少の影響により、新設住宅の着工戸数は年々減少傾向にあります。

例えば、2005年には129万戸だった着工数が、2020年には81万戸まで減少しています。2022年から2023年にかけては若干の回復が見られますが、2040年には約50万戸まで落ち込むと予測されています。

さらに、高齢者が亡くなったり高齢者施設に転居したりすることで空き家が増加していることも問題となっています。このため、リフォームやリノベーションの需要が高まり、中古住宅市場が拡大すると考えられます。

新設住宅の需要がすぐに無くなるわけではありませんが、今後の競争激化を見据え、リフォーム市場への参入や空き家の非住宅利用への転用が生き残りの鍵となるでしょう。

参考:野村総合研究所「野村総合研究所、2040年度の住宅市場を予測」

後継者不在問題の深刻化

建設業界全体で人手不足と高い離職率が続いており、特に設計事務所では深刻な人材と後継者不足が問題となっています。人材不足の主な原因としては、以下が考えられます。

  • 3K(きつい・汚い・危険)という業界のイメージ
  • 不安定な雇用条件や低賃金
  • 長時間の拘束や現場での労働
  • 高齢化や退職によるベテランスタッフの減少

これらの要因により、新しい人材の確保が難しい現状です。そのため、これらの問題を改善し、働きたいと思われる企業を目指すことが重要です。

さらに、建設業界では2024年4月から働き方改革が適用され、規定違反には罰則が科されることになります。これを機に、雇用条件や労働環境の整備に取り組むことが必要です。

DX化の加速

近年のコロナウイルスの影響でオンライン化・DX化が急速に進み、これまで遅れがちだった建設業界でもインターネットの活用が必要不可欠となっています。

例えば、これまで紙で保管していた図面や管理表をクラウド上に保存することで、複数人でのデータ共有や、場所にとらわれずに管理することが可能になりました。また、打ち合わせが頻繁に発生する建設業界では、顧客や取引先とのコミュニケーションもオンライン会議を活用するスタイルに変化しています。

こうした業界全体のオンライン化が進む一方で、まだ対応を進めていない企業も多く存在します。しかし、苦手意識だけでオンライン化を避けていると、仕事の機会を逃す可能性が高まります。そのため、円滑なコミュニケーションが取れるよう、早期の対策が重要です。

資材価格の高騰

コロナウイルスの拡大やアメリカの住宅需要の高まりによって、輸入木材の価格が急上昇する「ウッドショック」が発生しました。

日本では国内の林業が衰退し、使用される木材の約60%を輸入に依存している状況です。そのため、輸入木材を主に使っている企業や、低価格住宅を主力としている企業には大きな打撃となっています。

一部では「国内産木材に切り替えれば解決できる」と考える人もいますが、木材を変更すると設計から見直す必要があるため、簡単には対応できません。また、国内の供給量では需要を満たすことが難しく、現実的な解決策としては限界があります。

そのため、ビジネスモデルの変更や企業の方向転換など、新たな対応策を検討することが重要となるでしょう。

設計事務所のM&A・事業承継をおすすめする理由

ここでは、設計事務所がM&A・事業承継をするべき理由としてメリットをお伝えします。設計事務所がM&A・事業承継を行った場合、以下のようなメリットが得られる可能性があります。

  1. 後継者問題の解決
  2. 廃業・倒産の回避
  3. 社長の能力依存からの脱却
  4. 事業の継続・発展が可能
  5. 売却益の獲得

①後継者問題の解決

後継者不在などの問題を抱えている設計事務所であれば、M&Aは解決策となり得ます。M&Aは第三者の会社に会社を売却するため、後継者がいなくても事業承継を行うことが可能です。そのため、後継者問題を抱えている会社にとって、会社の存続を実現する手段として活用できます。

実際に、日本のM&A件数の増加は、M&Aによる事業承継の一般化が大きく影響しており、とりわけ中小企業がM&Aによる事業承継を行うケースが急増しています。

②廃業・倒産の回避

「事業承継できない」「経営不振」などの理由で廃業・倒産の危機に陥っている会社にとって、M&Aは最悪の事態を避けるうえで有効的な手段です。

会社が危機的状況に陥ると自力での脱出は難しいですが、M&Aで大手企業の傘下に入れば、廃業・倒産を回避できる可能性が高まります。かえって経営基盤が強化され、さらなる成長を実現できる可能性もあるのです。

なお、廃業・倒産の危機にある会社はM&Aで不利になる印象がありますが、実際はそうではありません。M&Aを積極的に行っている会社の中には、たとえ売り手の会社が経営不振でも、注目すべき価値があれば積極的にM&Aを行いたいと考える会社が多くあります。

③社長の能力依存からの脱却

個人経営の設計事務所にありがちな特徴として、社長の能力依存が挙げられます。創業者であり建築家の個人事務所は、どうしても社長の能力に依存せざるを得なくなる傾向があり、社長に万が一のことがあった際に経営が立ち行かなくなるケースも珍しくありません。

こうした状況の設計事務所でも、M&Aを行えば外部企業のノウハウを直接利用できるようになるため、社長個人の能力に依存しなくても経営が成立しやすくなります。また、新たな事業を立ち上げ、多角的な経営を行うことも実現しやすいです。

④事業の継続・発展が可能

中小企業の設計事務所の場合、一定以上の規模まで拡大すると、事業の継続・発展が難しくなることがあります。なぜなら、資産や人員などが成長に追いつかなくなるためです。これは設計事務所に限らず、さまざまな業界・業種の中小企業でも見られることです。

こうした状況を脱したい場合、M&Aは選択肢の1つとして検討できます。M&Aで大手企業の傘下に入り、後ろ盾を得られれば、会社のさらなる成長が実現しやすくなります。また、融資や人手不足など成長を阻害する問題も解決しやすくなるのです。

⑤売却益の獲得

売り手の場合、売却益を獲得できる点も大きなメリットです。M&Aにより得られる売却益はまとまった金額になることが多いため、新たな事業を立ち上げたり、引退後の生活資金に回したりなど、さまざまな使い道を考えられます。

実際に売却益の獲得を目的としたM&Aは珍しくなく、多種多様な事業を手掛ける起業家やハッピーリタイアメントを実践する経営者が徐々に増えています。欧米では、こうした目的が掲げられたM&Aは一般的であり、日本でもこの傾向が今後より顕著になっていくと考えられています。

設計事務所のM&A・事業承継の案件例

弊社M&A総合研究所が取り扱っている設計事務所のM&A・事業承継の案件例として、「医療・福祉施設特化の設計事務所」をご紹介します。

一級建築士5名、二級建築士1名の計6名の有資格者が在籍しています。有資格者4名が40歳代と若いです。

エリア 関東・甲信越
売上高 1億円〜2.5億円
譲渡希望額 1億円〜2.5億円
譲渡理由 後継者不在(事業承継)、戦略の見直し

【関東】医療・福祉施設特化の設計事務所(住宅・不動産・建設) | M&A総合研究所

設計事務所のM&A・事業承継の事例

ここでは、実際にあった設計事務所のM&A・事業承継の事例をピックアップし紹介します。

管工事業・土木工事業R社による設備設計業T社の買収【自社事例】

弊社M&A総合研究所では、設備設計業を行うT社と、管工事業・土木工事業などを手掛けるR社とのM&Aをお手伝いさせていただきました。

T社は本社を茨城県に置き、官公庁・研究施設や医療・商業施設を中心に、計画、設計、監理を一気通貫に提案しています。R社は本社を山形県に置き、山形県内に複数の事業所を構え、管工事・土木工事・その他多岐にわたる設備工事業を手掛けている会社です。

本件M&Aにより、今後、両社で連携していく方針になったとしても、個々に動く方針になったとしても、距離を縮めながらゆっくりとシナジーを発揮していくことを期待しています。

本件M&Aの詳細は、以下のリンクからご覧ください。

設備設計業のM&A事例【茨城県】

ERIホールディングスによる北洋設備設計事務所の全株式の譲渡

2024年9月17日、ERIホールディングスは、子会社である北洋設備設計事務所(HEP社)の全株式を譲渡することを決定しました。

HEP社は、公共建築物の設計や耐震診断、施工監理などを行う企業です。最近の建築基準法改正により、民間の指定確認検査機関が公共建築物の審査・検査に関与できるようになりました。これにより、ERIホールディングスグループの指定確認検査機関は活動範囲が広がりますが、一方でHEP社の業務と競合する可能性が生じました。

将来的な法規制の変化によるリスクを避けるため、両社の企業価値を守る最善策として、HEP社の経営陣によるマネジメント・バイアウトを選択することが決まりました。

当社子会社株式の譲渡に関するお知らせ

BDPによるPattern Designの買収

2021年7月、BDPはPattern Designの株式すべてを取得しました。本件M&Aの取得価額は約3億円です。

買収側は、日本工営の海外子会社として、アストラゼネカ本社の建築設計や、グーグル欧州本社ビルの設計・監理業務などを手掛けてきた会社です。売却側はイギリスにある建築設計会社です。FIFAワールドカップの会場など、世界的な大型スポーツ施設の設計を複数手掛けてきました。

本件M&Aの目的は、スポーツセクター市場の設計・エンジニアリング分野に関する事業拡大のほか、売却側が有するスポーツセクターの高度なノウハウや経験の獲得などです。

英国 BDP 社の Pattern Design Limited 社株式取得に関するお知らせ

設計事務所のM&A・事業承継に積極的な企業

設計事務所のM&A・事業承継を積極的に行う主な会社としては、以下の3つが挙げられます。

  • カーリットホールディングス
  • アンバーパートナーズ
  • サンワカンパニー

カーリットホールディングス

カーリットホールディングスは、中長期的な経営計画の一環としてM&Aを積極的に行っている会社です。もともとカーリットホールディングスは化学品事業をメインで手掛けていましたが、事業の多角化を推進しており、設計事務所の買収もその一環で行っています。

総合設計やエスディーネットワークのように、カーリットホールディングスでは、設計事務所を買収するM&Aの実績が多いです。

アンバーパートナーズ

アンバーパートナーズは、不動産や相続のコンサルティング・測量・建築設計などを中心に事業展開している会社です。

アンバーパートナーズは、不動産や相続の専門家集団を構築することを目標に掲げており、業容の拡大や建築設計案件への対応の円滑化などを目的に、設計事務所とのM&Aを積極的に行っています。

サンワカンパニー

サンワカンパニーは、住宅資材や建築資材のEC事業を手掛けている会社です。

サンワカンパニーでは会社のさらなる発展のためにM&Aを行っており、買収に応じてくれる建築設計事務所を積極的に募集しています。また、システム受託開発やweb制作を手掛ける会社とのM&Aも検討しています。

建築設計・検査会社のM&A動向については、下記の記事でも詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。

【関連】建築設計・検査会社のM&Aの動向は?事例や相場から相談先も解説!

設計事務所のM&A・事業承継を成功させるポイント

設計事務所のM&A・事業承継による売却を成功させる場合、経営者には少なからず覚悟が求められます。これまで長い間にわたり事業を手掛けてきた設計事務所に愛着を感じる経営者の方は多いですが、買手側企業からするとさまざまなリスクを踏まえて買収に慎重な姿勢を取るのが自然です。

この場合、M&A仲介会社が間に入り、双方の考えを踏まえたうえで折り合いをつけます。しかし、いずれかのタイミングで売却側の経営者が妥協点を挙げなければならないケースも存在します。

買手側からするとM&A成立後に何らかのトラブルが発生することを懸念するため、売却側の経営者としてはそうしたトラブルに陥った場合の対応を検討しておき、最初に取り決めておくことが後々のトラブルを避けるうえで大切です。

もしもM&A仲介会社探しにお悩みでしたら、M&A総合研究所にお任せください。M&A総合研究所では、主に中小・中堅規模のM&Aを手掛けており、さまざまな業種で成約実績を積み重ねております。

M&Aの知識・支援経験豊かなM&Aアドバイザーが担当につき、M&Aを徹底フルサポートいたします。料金体系は成約するまで完全無料の「完全成功報酬制」です(※譲渡企業様のみ。譲受企業様は中間金がかかります)。

ご相談はお電話・メールより無料で承っておりますので、M&Aをご検討の際はM&A総合研究所にお気軽にご連絡ください。

M&A・事業承継ならM&A総合研究所

設計事務所のM&A・事業承継時におすすめの相談先

設計事務所のM&A・事業承継時におすすめの相談先をご紹介します。

金融機関

近頃、金融機関がM&A支援に特化した部門を立ち上げる動きが活発化しています。特に、投資銀行や大手メガバンクは、企業間取引をスムーズに進行させるため、ファイナンシャルアドバイザー(FA)として資金調達や戦略策定を積極的に支援しています。

こうした専門的なサポートを利用することで、企業は資金調達や事業承継といった複雑な課題にも迅速に対応でき、専門家のアドバイスにより取引成功の可能性を高めることが可能です。

ただし、大手金融機関は大規模な案件を優先する傾向があるため、中小企業が十分な支援を受けにくいことがあります。そのため、企業は自社の規模やニーズに最適なサポートを提供するパートナーを選ぶ必要があります。

また、アドバイザリーサービスの費用が高額になることもあるため、事前にコストを確認し、適切な予算計画を立てることが重要です。

公的機関

最近、事業承継やM&Aに関する公的な支援が大幅に強化されています。全国に設置された「事業承継・引継ぎ支援センター」では、後継者不足に悩む中小企業に対し、事業承継やM&Aに関する情報提供や専門的なアドバイスを行い、企業間のマッチングを無料でサポートしています。

この仕組みにより、地方の中小企業や個人事業主も気軽に専門的な支援を受けられる環境が整っています。また、必要に応じて、M&A仲介会社や専門家の紹介も行っています。

ただし、民間のM&A仲介業者と比べると、対応が遅かったり、柔軟性に欠けたりする場合もあるため、その点には注意が必要です。それでも、公的機関は、事業承継やM&Aを検討する企業にとって、信頼性が高く、安心して利用できる支援先として重要な役割を果たしています。

M&A仲介会社

M&A仲介会社は、企業の買収や売却プロセス全体をサポートする専門機関です。売り手と買い手の双方に対し、適切な取引相手の紹介、交渉支援、取引進行の管理、企業価値の評価(バリュエーション)、契約書作成など、多様なサービスを提供し、円滑な取引を実現します。

仲介会社は広範なネットワークを駆使して、最適な取引相手を見つけ出し、M&Aの成功率を向上させる役割を果たしています。さらに、M&Aに不慣れな企業には、実践的なアドバイスを提供し、取引がスムーズに進むようサポートしています。

ただし、仲介会社を利用する場合、着手金や中間金などの費用がかかることがあるため、コスト管理が必要です。費用を抑えたい場合は、成功報酬型の仲介会社を選ぶのも一つの選択肢です。

設計事務所のM&A・事業承継のまとめ

この記事では、設計事務所を対象とするM&A・事業承継に関する情報をお伝えしました。

設計事務所にとってM&Aはさまざまなメリットがあります。「後継者不在問題を解決したい」「さらなる成長を目指したい」などと考えている場合、実施を検討することをおすすめします。

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