M&Aとは?意味や動向とM&Aを行う目的・メリットなどをわかりやすく解説!
2022年12月1日更新会社・事業を売る
M&Aで未払い残業代はどうなる?対処法、法改正が与える影響を解説
従業員への残業代が未払いになっている中小企業は多いとされていますが、これはM&A時に買い手のリスクとなります。本記事では、M&Aにおける未払い残業代の取り扱い、2020年4月に行われた時間外労働の法改正とそのM&Aへの影響を解説します。
M&Aで未払い残業代はどうなる?
大企業・中小企業問わず、残業代をきちんと支払っていない会社は決して少なくありません。これは経営者と従業員との間の問題もさることながら、M&Aの買い手と売り手のトラブルの原因ともなります。
近年は中小企業M&Aが活発ですが、M&Aを検討する前に未払い残業代の問題をきちんと解決しておくことが大切です。
労働時間とは
労働時間とは、雇用主の指揮・監督のもとで働く時間のことです。労働者は労働時間中は働く義務があり、雇用主はそれに対して賃金を支払う義務があります。似た用語に「勤務時間」「就労時間」「拘束時間」などがありますが、これは労働時間に昼休みなどの休憩時間を足したものです。
労働時間の種類
労働時間には、正確にいうと法定労働時間と所定労働時間の2種類があります。普段はこれらを区別していなくても特に問題はありませんが、M&Aで残業代について考える際は、この2つを区別しておく必要があります。
- 法定労働時間
- 所定労働時間
法定労働時間
法定労働時間とは、労働基準法で規定されている労働時間の上限のことです。具体的には、一日8時間以内、一週間で40時間以内と決められています。会社が従業員の労働時間を定める際、法定労働時間を超えて設定しても無効になり、超える部分に対しては時間外労働を適用しなければなりません。
一定の時期のみ特に忙しい業種や交代勤務が必要な業種では、例外として法定労働時間の特例が設けられることもあります。具体的には、飲食店などの接客業、病院や老人ホームなどの保健衛生業などでは、1週間の労働時間を44時間まで伸ばすことが可能です。
所定労働時間
所定労働時間とは、それぞれの会社が定めている、その会社での労働時間のことです。所定労働時間は必ずしも一日8時間にする必要はなく、8時間を超えない範囲で会社が自由に設定できます。
例えば、朝9時出勤で17時退勤、昼休みは12時から13時だとすると、働いているのは9時から12時の3時間と13時から17時の4時間なので、所定労働時間は3時間プラス4時間の計7時間です。
M&Aの際に問題となる未払い残業代とは
M&A時に売り手側に未払い残業代があると、買い手から売却価格の引き下げを求められたり、M&Aを中止されたりすることもあります。未払い残業代を理解しておくことは、M&Aを行う企業にとって重要です。一般に残業というと、所定労働時間を超えた労働のことです。
しかし、M&Aで未払い残業代を考える際は、労働時間が2種類あるために、残業の概念も2つに分けて考える必要があります。所定労働時間を超過したけれど法定労働時間は超えていない残業と、法定労働時間を超えた残業の2種類があります。
これらはそれぞれ法内時間外労働・法定時間外労働と呼ばれ、法内時間外労働は「法内残業」「法定時間内残業」などと呼ばれることもあります。両者は割増賃金の有無などさまざまな点で違いがあるので、分けて考えなければなりません。同様に休日労働も、労働基準法で週1日与えると定められている法定休日と、会社が独自に決めている所定休日を分けて考える必要があります。
例えば、土日が休みの場合、一般には土曜日が所定休日、日曜日が法定休日となるので、土曜の出勤と日曜の出勤では支払うべき残業代が異なります。
M&Aの際に未払い残業代が発覚する理由
M&Aの際に未払い残業代が発覚するのは、基本的にはデューデリジェンスの段階が多いと考えられます。従業員から請求されたり、労働基準監督署の調査で発覚したりする可能性もあります。
- 従業員からの請求
- 労働基準監督署の調査
- デューデリジェンスによる発覚
従業員からの請求
まず従業員や元従業員から、未払い残業代を請求されて発覚するケースがあります。一般には、現在の従業員より元従業員から残業代を請求されるケースが多い傾向があります。なぜなら、現役で働いている従業員は、職場で気まずくなったり、人間関係が悪くなることをおそれて請求をためらったりすることがあるためです。
M&Aを行う際は、直近2〜3年ほどで退職した従業員をリストアップしておき、彼らへの未払い残業代がないかチェックする必要があります。売り手がこの作業をしていない場合は、買い手から要求すると良いでしょう。
労働基準監督署の調査
労働基準監督署の調査により、未払い残業代が発覚するケースも珍しくありません。労働基準監督署の調査には、「定期監査」と「申告監査」の2種類があります。定期監査は労働基準監督署がいくつかの会社を任意で選んで調査するもので、きちんと残業代を払っていても調査対象となる可能性があります。
この場合、特に法令違反がないのなら労働基準監督署の指示に従って書類の提出などを行えば問題ありません。一方、申告監査は元従業員などからの申告によるものなので、立ち入り検査など念入りな調査が行われます。
売り手としては、申告監査の対象となるような未払い残業代があるならば、まずそちらを解決すべきであり、M&Aを考える段階にはありません。同様に買い手としては、もしも売り手が申告監査の対象となっていることがわかったら、基本的にはその売り手とはM&Aを行わない方が賢明です。
デューデリジェンスによる発覚
M&Aで未払い残業代が発覚するのは、デューデリジェンスによるものがほとんどだと考えられます。ここでいうデューデリジェンスとは、買い手企業が売り手の財務や税務などについて調査することです。本当にこの売り手とM&Aを行っても大丈夫か見極めるために、最終合意を締結する前の段階で実施されます。
中小企業経営者のなかには、時間外労働の規定を十分に理解していないために、未払いがあるのにきちんと残業代を払っていると思い込んでいるケースもあります。残業代の代わりにボーナスを多めに払っているから大丈夫といった、自己流の解釈による誤解もありがちです。
このような誤解があったために、自信を持ってデューデリジェンスに臨んだ結果、想定外の未払い残業代が発覚してM&Aが頓挫してしまうケースも考えられるので注意が必要です。
未払い残業代が発覚した場合の対応
未払い残業代の問題はM&Aを行う前にあらかじめ解決しておくべきですが、もしも交渉に入った後で発覚した場合は買い手が納得できるように売り手側が対応策を講じたり、何らかの形で譲歩したりする必要があります。具体的な方法としては、主に以下の3つが考えられます。
- 特別補償や表明保証による対応
- M&Aの売却額で対応
- M&Aのスキームを変更して対応
特別補償や表明保証による対応
いくらデューデリジェンスを慎重に行っても、未払い残業代のリスクをすべて排除できるとは限りません。デューデリジェンス後に思わぬ未払い残業代が発覚して買い手が損をしないためには、表明保証をつけておくことが有効です。
表明保証とは、売り手が提示した自社に関する情報に、間違いがないことを保証する条項のことです。M&A締結後に未払い残業代が発覚した場合、売り手が補償することを表明保証に盛り込んでおけば買い手としては安心できます。補償に関して細かい条件を付しておきたい場合は、特別補償を設けておくのも1つの方法です。
M&Aの売却額で対応
デューデリジェンスで売り手に未払い残業代が存在するまたは存在する可能性があるとわかったとしても、それでもM&Aを行いたいと買い手が判断するケースも考えられます。その場合、買い手が将来支払うことになるかもしれない未払い残業代の分をあらかじめ売却額から差し引いておくのも1つの手です。
未払い残業代の額がはっきりしない場合、想定できる範囲の中で妥当と思われる額に設定するなどして対応します。確実ではないが未払い残業代が発生する可能性がある場合、残業代が発生する確率を見積もって、それを残業代の額に掛けるといった対応法も考えられます。
M&Aのスキームを変更して対応
M&Aのスキームを事業譲渡に変更して、未払い残業代は承継しない契約にする方法も考えられます。事業譲渡は包括承継ではないので、未払い残業代を売り手側に残したままM&Aを行うことが可能です。ただし、未払い残業代を引き継ぎたくないだけの理由で、M&Aスキームを変更するというのはあまり現実的ではありません。
もしも事業譲渡に変更することで、未払い残業代以外の何らかの大きなメリットが得られるのならば、手段の1つとして検討する可能性もあります。
未払い残業代が発覚した場合の対処のポイント
未払い残業代が発覚した場合、従業員に対して講じる対処のポイントとして代表的なものを2つピックアップし、順番に解説します。
M&A交渉前に従業員に支払う
M&Aでは、交渉段階でデューデリジェンスが実施されます。買収側により実施されるデューデリジェンスでは、売却側に潜んだリスク・実態を把握し、買収の実施が決められます。
残業代の支払いも確認事項の1つであるため、M&Aの具体的なプロセスに入る前に支払いを済ませておくことが重要です。
改善策を講じる
未払いの残業代を支払ったうえで、改善策を講じることが大切です。併せて、残業代以外に簿外債務がないこともチェックしましょう。
残業代の未払いや簿外債務といったM&A検討時に不安がある場合は、なるべく早いタイミングでM&A仲介会社などの専門家に相談することが望ましいです。
M&Aの未払い残業代に対する法改正と与える影響
2020年4月(大企業は2019年4月)に、労働基準法の時間外労働に関する規定が改正されました。残業に関する規定が以前より厳しくなったので、M&Aを行う際は法改正の影響を理解しておかなくてはなりません。
2020年4月に法改正された時間外労働の上限規制
2020年4月の法改正では、これまで上限なしで残業することが可能だった規則が改定されて上限が設けられました。今後はいわゆる36(サブロク)協定の特別条項を結んでいても従業員に無制限に残業させられません。
これまでは残業時間が超過しても行政指導しかありませんでしたが、改正後は罰則がついてより厳しくなりました。
法改正前との比較
法改正前と後での変更を比較すると、下表のようになります。残業時間の上限の規定はやや複雑ですが、特に「2か月から6か月の平均」というのがわかりにくい部分です。
これは例えば、6月に何時間残業できるか考える時は、5月と6月の平均、4月から6月の平均、3月から6月の平均というように過去2か月から6か月分の平均をそれぞれ計算し、全て80時間以内に収まるようにすることを意味します。
【法改正前後の主な違い】
残業時間の上限 | 罰則 | |
改正前 | 上限なしも可能 | 行政指導 |
改正後 | 必ず上限あり | 6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金 |
【法改正後の残業時間の上限】
特別条項なしの場合 | 月45時間・年360時間まで(休日労働は含まず) |
特別条項ありの場合(最大年6か月まで) | ・時間外労働:年720時間まで ・時間外労働と休日労働の合計:月100時間未満、かつ2か月から6か月の平均がすべて80時間以内 |
2020年4月より未払い残業代の請求時効期間が3年に延長
未払い残業代の請求時効は今までは2年でしたが、2020年4月の改正で3年に延長されました。この3年間は経過措置で、最終的には5年に延長される予定です。今後M&Aで未払い残業代についてチェックするときは、これまでよりも昔に遡って調べておく必要があります。
期間延長された項目
今回の改正では、未払い残業代の請求時効に加えて、賃金や雇用などに関する書類の保存期間と付加金の請求期間がそれぞれ3年に延長されました。これらも同じように経過措置となっており、最終的には5年に延長される予定です。付加金とは未払い残業代に対する罰金のような制度で、悪質な未払い残業代に対して裁判所が上乗せして支払いを命じるお金のことです。
未払い残業代の時効延長の適応はいつから?
未払い残業代の時効延長が適用されるのは2020年4月以降の残業代からで、2020年3月以前の残業代には適用されません。未払い残業代を請求した日ではなく、残業代が支払われるはずだった日が2020年4月以降かどうかが基準です。
例えば、2022年の3月に未払い残業代を請求した場合、請求できるのは2年前の2020年4月までとなります。2019年4月から2020年3月までの残業代は、延長が適用されないので請求できないのが注意点です。一方、2023年の3月に未払い残業代を請求した場合は、3年前の2020年4月まで請求できます。
未払い残業代にはペナルティが発生する
未払い残業代にはペナルティがつくので、本来の残業代より多く支払います。ペナルティは社員が在職中の場合は残業代の6%、退職後の場合は年14.6%です。悪質な未払い残業代に課せられることがある付加金は、最大で未払い残業代と同額までとなります。
M&A時の未払い残業代に関する相談先
M&Aは未払い残業代の問題などでトラブルになることもあるので、専門家のサポートを得ることが必要不可欠です。M&A総合研究所では、豊富な専門知識があり多数のM&A支援実績を持つアドバイザーが、M&Aのトータルサポートを担当いたします。
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M&Aで未払い残業代はどうなる?まとめ
残業代が未払いの中小企業は決して少なくないといわれているので、M&Aの際は注意が必要です。特に2020年4月からは法改正で残業に関する規定が厳しくなったため、未払いになっていないか事前にきちんと確認しておくことが重要です。
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株式会社日本M&Aセンターにて製造業を中心に、建設業・サービス業・情報通信業・運輸業・不動産業・卸売業等で20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、アドバイザーを統括。ディールマネージャーとして全案件に携わる。