2022年10月30日更新節税

繰越欠損金とは?税効果会計や期限、控除限度額をわかりやすく解説

繰越欠損金の活用は、節税を図るうえで役立ちます。ただし、節税対策で繰越欠損金を活用する際は、繰越期限・控除限度額などに注意が必要です。この記事では、繰越欠損金とはどのようなものか、税効果会計や期限、控除限度額などについて解説します。

目次
  1. 繰越欠損金とは?繰越欠損金の意味
  2. 繰越欠損金の税効果会計とは
  3. 繰越欠損金における繰越期限と控除限度額
  4. 繰越欠損金の控除と別表
  5. 適格合併による繰越欠損金の引継ぎとその注意点
  6. 決算における繰越欠損金の処理と仕訳
  7. 繰越欠損金の使用制限
  8. 繰越欠損金のまとめ

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繰越欠損金とは?繰越欠損金の意味

繰越欠損金とはどのようなものなのでしょうか。欠損金とは税務上の赤字のことですが、そもそも会計上の利益と税務上の所得は算出方法が異なるため、会計上は赤字であっても税務上は赤字ではないケースも多いです。

例えば、会計上は減価償却費の全額を費用計上できますが、税務上は限度が設定されています。そのため、会計上の利益から税務上の所得を算出するには、損金不算入や益金不算入の項目を調整が必要です。

このうち、法人税などは税務上の所得に対して課されるため税務上の所得が赤字であれば非課税となり、欠損金は来期以降に繰り越して来期の黒字所得と相殺することが認められています。

つまり、繰越欠損金とは前期以前から繰り越している税務上の赤字をさし、黒字所得と相殺できる性質を持つものです。

繰越欠損金の利用条件

繰越欠損金を利用するには、以下の条件を満たす必要があります。ここでは、各条件についてみていきましょう。

  • 欠損金が生じた事業年度に青色申告で確定申告を行う
  • 以降の事業年度も連続して確定申告を行う
  • 帳簿書類などを保存する

欠損金が生じた事業年度に青色申告で確定申告を行う

繰越欠損金を利用するには、欠損金が生じた事業年度の確定申告の際、青色申告を行う必要があります。青色申告しておかなければ欠損金の繰越控除を受けられない場合もあるため、繰越欠損金が生じてからではなく毎年青色申告しておくとよいでしょう。

青色申告には税控除を受けられるメリットもあります。帳簿づけが要件となりますが、節税のためにも青色申告をおすすめします。

以降の事業年度も連続して確定申告を行う

繰越欠損金の控除を受けるためには、欠損金が発生した以降の事業年度まで連続した青色申告が必要となります。

欠損金の処理が終われば翌年からは白色申告に戻しても構いませんが、節税対策をする場合は青色申告を続けておくとよいでしょう。

帳簿書類などを保存する

繰越欠損金の控除を受ける際は、帳簿の保存期間は10年と定められています。法人税法では帳簿の保存期間は原則7年と決められているため、勘違いして処分することのないよう注意しましょう。

帳簿類の保存期間は、確定申告提出日の翌日からカウントします。例えば、3月末決算で5月末に確定申告を提出した場合は、10年後の6月1日以降に帳簿を破棄しても問題ありません。会計年度と間違わないように気をつけましょう。

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繰越欠損金の税効果会計とは

意味および概要を確認したところで、ここからは繰越欠損金の税効果会計を紹介します。はじめに税効果会計の概要を把握したうえで、具体的な仕訳方法を確認していきましょう。

税効果会計とは

税効果会計とは、将来的に課税所得を減算・加算させる金額に応じた税額を当期の会計に反映させる目的で行う処理のことです。そもそも会計上の費用と収益額・資産や負債の額は、税務上で一致するとは限りません。

とはいえ、仮に上記で生じる差が一時的なものであるならば、将来的にこの差異が解消されたタイミングで課税所得が調整されて、会計と税務の間にある差異が消滅する仕組みです。

こうした事情を踏まえて、税効果会計は、会計上の利益(税引前当期純利益)と税務上の課税所得から求められた法人税の金額を適正に対応させる目的で実施されます。

具体例として、収益・益金が2,000、会計上の費用が1,600、減価償却費の償却限度超過額が400、税務上の損金が1200というケースを想定しましょう。このケースにおいて、税引前当期純利益400に対する法人税等は、280(法定実効税率35%で計算)と算出できます。

税引前当期純利益に対する法人税等の金額が高額となりましたが、減価償却費の償却限度超過額は将来的な減価償却・除却により解消されるため、これは一時的な差異に該当します。

したがって、税効果会計を用いて、一時的に高額化した税額を当期の会計に反映させることができます。

繰越欠損金の税効果会計

繰越欠損金は会計上の数字ではなく、税引前当期純利益と法人税等の間に差異を生じさせません。しかし、将来の課税所得との相殺が可能であることから、将来の税額を減少させる「将来減算一時差異」と同様の性質を持ちます。

つまり、繰越欠損金も税効果会計の対象に含まれることになります。

繰越欠損金の税効果会計の仕訳

これまでの説明を踏まえて、以下のケースを例に実際に仕訳を行ってみます。

  • 中小法人A社が、前々年度に繰越欠損金600を計上
  • 前年度に200の繰越欠損金、今年度に残った400を損金に算入

上記のケースのとき、前々年度の仕訳方法は以下のとおり行います。

税引前当期純利益 △600
繰越欠損金 △600
法人税等 0
法人税等調整額 △210
仕訳 繰延税金資産 210/ 法人税等調整額 210
税引後当期純利益 △390

前年度の仕訳方法は、以下のとおりです。

税引前当期純利益 200
法人税等 0
法人税等調整額 70
仕訳 法人税等調整額 70 / 繰延税金資産 70
税引後当期純利益 130

今年度の仕訳方法は、以下のとおり行います。

税引前当期純利益 400
法人税等 0
法人税等調整額 140
仕訳 法人税等調整額 140 / 繰延税金資産 140
税引後当期純利益 260

繰越欠損金の税効果計上のための回収可能性

繰越欠損金は将来の課税所得を減らす効果があるため、税金の前払いと同義です。そのため、繰越欠損金は、回収可能性の判断にもとづいて繰延税金資産を計上しましょう。

この処理には専門的な知識が必要ですすが、簡単にいうと「毎期計上している課税所得金額」が「繰越欠損金が将来減少させる所得金額」を大きく上回る場合には、繰越欠損金の全額を繰延税金資産に計上することができます。

また、大きく上回らないものの業績自体が安定していれば、全額を繰延税金資産として計上が可能です。対して、業績が不安定である場合は今後5年間の課税所得見積額を限度に繰延税金資産として計上する決まりとなっています。

【関連】業績不振の原因と改善策

繰越欠損金における繰越期限と控除限度額

繰越欠損金には、繰越期限と控除限度額が定められているので、実際に処理をする前によく確認しておきましょう。ここでは、繰越欠損金の繰越期限と控除限度額を解説します。

繰越欠損金における繰越期限

繰越期限は、繰越欠損金が発生した時期によって違い、以下のように決まっています。

  • 平成13年度〜平成19年度に発生→7年
  • 平成20年度〜平成29年度に発生→9年
  • 平成30年度以降に発生→10年

例えば、平成18年に発生した繰越欠損金は7年しか繰越せませんが、平成29年に発生した繰越欠損金は9年繰越可能です。複数の事業年度で繰越欠損金が生じている場合は、古い事業年度から順に損金に算入されます。

繰越欠損金の控除限度額

繰越欠損金には、繰越期限だけでなく、控除限度額も設定されています。繰越欠損金の控除限度額は、大法人と中小法人等によって異なるため、順番にみていきましょう。

大法人

大法人の場合、繰越欠損金の発生時期により控除限度額が異なります

  • 平成26年度→所得×0.60
  • 平成27年度→所得×0.65
  • 平成28年度→所得×0.60
  • 平成29年度→所得×0.55
  • 平成30年度→所得×0.50

中小法人等

中小法人等の場合、発生時期に関係なく繰越欠損金の全額を控除可能です。ほとんどの企業は中小法人等に該当するため、基本的には全額控除できると考えてよいでしょう。

繰越欠損金の控除と別表

確定申告の際は、繰越欠損金に関する事項を所定の別表に記載しなければなりません。この項では、繰越欠損金の控除と別表について解説します。

3つの別表

ここでは、確定申告時における繰越欠損金の税務手続きでは、3種類の別表への記載が求められます。

別表1

別表1(1)には、欠損金の当期控除額・次期への繰越欠損金額を記載します。別表に記載する欠損金額にもとづいて課税される税額が決定するため、正確に記載しなければなりません。

別表4

別表4には、益金と損金をもとに所得金額を計算のうえで記載します。当期に生じた際の処理ではなく、過去に生じた繰越欠損金を活用したいならば、繰越欠損金の控除を示さなければならないのです。

別表7

欠損金が生じた場合、まずは別表7を準備しなければなりません。別表7(1)には、欠損金に関する事項を詳細に記載します。ここでは、当期に発生した欠損金額・所得から控除した繰越欠損金・所得金額控除限度額などを記載する決まりです。

当期に欠損金が発生した際の手続き

当期に欠損金が発生した際には、別表の7(1)および1への記載が求められます。ちなみに、別表1への記載時には、別表7(1)の記載内容を参照しながら欠損金の繰越金額を記載するとスムーズです。

前期以前の繰越金を利用した手続き

前期以前の繰越金を利用した手続きを行うには、別表の7(1)・1・4への記載が求められます。はじめに、別表7(1)および1に当期の所得から控除する繰越欠損金(金額など)を記載しましょう。

当期に欠損金が発生した際の手続きとは異なり、別表4の記載・提出も求められる点が特徴的です。

以下の記事では法人税の申告における提出書類・添付書類について解説しています。申告時期も紹介しているので、気になる経営者の方は確認してください。

【関連】法人税申告における提出・添付書類と申告時期

適格合併による繰越欠損金の引継ぎとその注意点

M&Aで合併を行った際、繰越欠損金が生じることがありますが、その引継ぎには注意が必要です。ここでは、適格合併時に生じた繰越欠損金をの引継ぎとその注意点について解説します。

合併と繰越欠損金

M&A手法の一つである合併では、消滅会社のあらゆる資産や債務を引継ぎます。繰越欠損金の引継ぎにより、合併後の税負担を軽減できます。しかし、全ての合併で繰越欠損金を引継げるわけではありません。

繰越欠損金の引継ぎは適格合併のみ認められており、グループ企業内で合併する場合は非課税での合併(適格合併)となるケースがほとんどです。非適格合併では引継げないため、繰越欠損金の引継ぎ可否を判断する際は、適格合併かどうかを確認しましょう。

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合併などM&Aをご検討の際は、ぜひM&A総合研究所にご相談ください。M&A総合研究所には、M&A(合併)に関する専門的な知識・経験が豊富なアドバイザーが在籍しており、培ってきたノウハウを活かしてM&Aをフルサポートいたします。

料金体系は、成約するまで完全無料の「完全成功報酬制」です(※譲渡企業様のみ。譲受企業様は中間金がかかります。)。無料相談をお受けしておりますので、M&Aをご検討の際はどうぞお気軽にお問い合わせください。

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適格合併による繰越欠損金の引継ぎにおける注意点

適格合併では消滅会社の繰越欠損金を引継げますが、その際は注意点もあります。適格合併では、一定要件により繰越欠損金目当ての合併であるかどうかが判断されますが、もし繰越欠損金目当ての適格合併と判断されれば繰越欠損金は一部しか引継ぐことができません

いうなれば「適格合併であっても、繰越欠損金の全額を引継げないケースがある」という注意点を、頭の片隅に入れておきましょう。

【関連】合併の種類
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決算における繰越欠損金の処理と仕訳

決算では、繰越欠損金を適切に仕訳処理する必要があります。この項では、繰越欠損金の仕訳処理を解説しますのでチェックしておきましょう。

税効果適用時

まずはじめに、税効果を適用する際の仕訳処理を解説します。税効果適用時は、「欠損金×実効税率」の金額を繰延税金資産として認識するのです。

仕訳では、借方に繰延税金資産・貸方に法人税等調整額を記載する形で処理を行います。例えば、欠損金が100,000円・実効税率が30%である場合には、下記のとおりです。

借方 金額 貸方 金額
繰延税金資産 30,000 法人税等調整額 30,000

つまり、100,000×0.3=30,000円だけ繰延税金資産を計上します。

税効果解消時

税効果を解消する際は、「課税所得×控除限度割合×実効税率」の金額分だけ繰越欠損金と所得を相殺します。

仕訳では、借方に法人税等調整額・貸方に繰延税金資産を各々計上していくのです。例えば、課税所得が200,000円・控除限度割合が50%・実効税率が30%である場合には、下記のとおり仕訳します。

借方 金額 借方 金額
法人税等調整額 30,000 繰延税金資産 30,000

つまり、200,000×0.5×0.3=30,000円だけ繰越欠損金と所得を相殺するのです。

以下の記事では、赤字と税金の関係を解説しています。赤字繰越や法人税還付を使った税金対策も紹介しているので、併せてご確認ください。

【関連】赤字でもかかる税金とは?赤字繰越・法人税還付による税金対策

繰越欠損金の使用制限

最後に、繰越欠損金の使用期限を解説します。M&Aにより会社を買収した際には、以下のようなケースで買収した会社の繰越欠損金の使用制限がかかります。要点をチェックしておきましょう。

  1. 休眠会社で事業を始める
  2. 一定以上の借入または出資などを受け入れる
  3. 従業員や役員を退職させたうえで新規事業を始める

①休眠会社で事業を始める

事業を行っていない会社(休眠会社)を買収する際には、使用制限に注意が必要です。休眠会社の買収後、その休眠会社を用いて事業を開始する場合には、繰越欠損金に使用制限がかかります。

②一定以上の借入または出資などを受け入れる

買収後に一定金額以上の借入・出資などを受け入れた場合も、繰越欠損金に使用制限がかかります。目安としては、買収前に行っていた事業規模の5倍以上の借入・出資を受けた場合に適用されると認識しておきましょう。

③従業員や役員を退職させたうえで新規事業を始める

買収した会社の従業員や役員を退職させたうえで新規事業を始めると、欠損金に使用制限がかかります。上記のケース以外にも、繰越欠損金の使用制限がかかる場合がある点を把握しておきましょう。

【関連】休眠会社売買の方法とは?売買のメリットやM&Aの活用を解説

繰越欠損金のまとめ

今回は繰越欠損金について解説しました。節税を図るうえで、繰越欠損金の利用は非常に役立ちます。繰越欠損金は約9〜10年程度繰越せますが、大企業の場合は控除額に限度があるため注意が必要です。

節税対策で繰越欠損金を活用する際は、繰越期限や控除限度額に十分注意しましょう。繰越欠損金目当てで買収や合併などを実施すると、使用に制限がかかるおそれがあります。

上記を踏まえると、繰越欠損金の活用には専門知識が必要となるため、税理士や会計士の協力を仰ぎましょう。本記事の要点をまとめると、以下のとおりです。

・繰越欠損金とは?
→前期以前から繰り越している税務上の赤字をさし、黒字所得と相殺できる性質を持つ

・繰越欠損金の繰越期限
→繰越欠損金が発生した時期により7年・9年・10年の間で変動する

・繰越欠損金の控除限度額
→繰越欠損金の発生時期により異なる

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