M&Aとは?意味や動向とM&Aを行う目的・メリットなどをわかりやすく解説!
2024年10月17日更新業種別M&A
シェアードサービス業界のM&A・事業承継の動向!事例や注意点も解説
シェアードサービスは業務効率化を図るうえで大きな意義を持ちますが、アウトソーシング業界全体が縮小傾向にあることからM&A・事業承継を視野に入れる会社も増えています。本記事では、シェアードサービス業界のM&A・事業承継の動向や注意点を解説します。
目次
シェアードサービス業界の現状
シェアードサービスとは、グループ企業の間接部門の共有化を図る手法のことです。各所に点在する機能を一点に集約させることで、コスト削減や業務効率化を目指します。
シェアードサービス業界の動向によってM&A・事業承継の動きが強まっています。本章では、シェアードサービス業界の動向を探りながら、M&A市場に対する影響を紹介します。
- アウトソーシング市場は縮小傾向にある
- シェアードサービスの導入は課題が多い
①アウトソーシング市場は縮小傾向にある
2022年度の人事・総務関連業務アウトソーシング市場規模は、前年度比7.0%増の11兆1,109億円となりました。内訳では、人材関連業務アウトソーシング(派遣・紹介・再就職支援)が7.8%増の9兆2,355億円で、全体の8割以上を占めています。
シェアードサービス市場は1.6%増の5,670億円、人事業務アウトソーシングは4.0%増の1兆165億円、総務業務アウトソーシングは4.1%増の2,919億円と、全分野で成長が見られました。
ただし、その一方で、自治体業務アウトソーシング市場は縮小しています。2021年度は、コロナ関連業務が自治体業務アウトソーシング市場の約7割を占め、大規模な需要が発生しました。
コールセンターや接種会場でのサポート業務などが中心でしたが、2022年度には、物価や原油価格高騰対策による給付金支給業務などが需要を引き継ぎました。しかし、コロナ関連業務ほどの大規模需要は発生せず、さらにコロナ対策業務の縮小に伴い、2022年度の市場規模は前年度比83.2%の2,243億5,000万円に減少しました。
②シェアードサービスの導入は課題が多い
シェアードサービスを導入して間接部門の業務効率化を実現させるためには、さまざまな課題をクリアする必要があります。
真っ先に課題となるのは初期投資です。間接部門の統廃合や業務基盤の整備に一定以上の費用が伴います。グループ企業の規模が大きいほど費用は増し、導入のハードルが高くなっているのが実情です。
また、従業員のモラル低下の問題もあります。シェアードサービスは半ば強制的な配置換えを伴うものであり、従業員の給与体系やキャリアアップに大きな影響を及ぼす可能性があります。
当然ながら、シェアードサービスの導入を目指すすべての企業が有効活用できるわけではありません。間接業務の集約化の業務一本では安定した収益化が難しく、別の収益方法を模索しなければならない問題も抱えています。
シェアードサービス業界のM&A・事業承継の動向
シェアードサービス業界は、全体の市場縮小やサービスの性質上の問題からさまざまな課題を抱えている業界です。業績が伸び悩んでいる企業も増えつつあります。
企業努力で改善を目指す組織も見られますが、M&A・事業承継による買収を視野に入れるシェアードサービス企業の姿も目立ち始めています。経営資源を統合することで、顧客競争に備えたりノウハウを共有して効果的な導入サポートを実現したりと、さまざまな取り組みが見受けられます。
こうした買い手側のM&A・事業承継に対する積極的な姿勢からは、売り手市場の傾向が見て取れます。多くの買い手が存在するために、売り手は好条件の買い手を探しやすい状況になっているのです。
シェアードサービス業界のM&A・事業承継の事例
シェアードサービス業界のM&A・事業承継の事例をピックアップしてご紹介します。
トラストホールディングスによるジーエートラストの吸収合併
2023年4月20日、トラストホールディングスは、連結子会社であるジーエートラスト(福岡市)との合併を決定しました。合併はトラストホールディングスを存続会社とする吸収合併方式で行われ、ジーエートラストは解散します。
トラストホールディングスは駐車場事業や不動産事業を手掛けており、ジーエートラストはグループ会社の経理、財務、労務、総務、情報システムなどを担当しているシェアードサービス会社です。
今回の合併によって、トラストホールディングスは組織体制を再編し、グループ全体のコーポレートガバナンス強化や経営情報の集約、さらには経営の効率化を進めることを目指しています。
グローリーによるOneBanks Hubへの追加出資
2022年5月23日、グローリーは、イギリス・スコットランドで「OneBanks Hub」として事業を展開するUnified Financial Limitedに追加出資を行いました。
グローリーは、通貨処理機やセルフサービス機器の開発・販売、生体認証ソリューションや電子決済サービスなどを手掛ける企業です。一方、OneBanks Hubは、複数の金融機関が共通のインフラを使用する「シェアードサービス」を提供しています。
今回の出資により、グローリーはOneBanks Hubとの協力を強化し、金融サービスのインフラを共有するシェアードサービス事業の拡大を目指しています。
シェアードサービス業界のM&A・事業承継のメリット
この章では、買収側と売却側のそれぞれの視点からメリットを紹介します。
買収側
シェアードサービス導入を目的としたM&A・事業承継による買収で得られるメリットとしては、以下の3点が挙げられます。いずれも大きな意味合いを持っており、効果を最大化できれば大幅な間接業務の効率化が叶います。
- 立ち上げに関する障壁が少ない
- グループ内の間接コストを削減
- 間接機能を強化する
①立ち上げに関する障壁が少ない
間接部門の業務効率化を図る手法にはBPOもありますが、外部からの干渉を受けるため、従業員から反感を買ってしまう可能性があります。
また、身内で完結できない未熟なグループ企業というような印象を与える場合もあり、心理的な障壁が高いです。
その点、M&A・事業承継を活用したシェアードサービスであれば、シェアードサービス導入から集約先まですべてをグループ内で完結させられるので、従業員としても抵抗なくシェアードサービスを受け入れられ、円滑に進めやすくなります。
②グループ内の間接コストを削減
シェアードサービス導入の最大の目的は、間接コストの削減です。グループ内の各企業に設置されている間接部門を統合して一箇所に集約させることで、グループ全体の無駄を省くことが可能です。
例えば、経理部門では締め日や決算日は仕事が集中して忙しくなりやすいですが、それ以外の日は手持ち無沙汰になる場合も多いです。
シェアードサービスによって各企業の経理を一箇所に集約させると、締め日をずらすことで、常に経理の仕事を循環させられます。
集約先はグループ内でも構いませんが、安価で労働力を確保できる地域に設置すれば、さらなるコスト削減も実現可能です。
③間接機能を強化する
M&A・事業承継の当時会社が蓄積してきたノウハウをシェアードサービス導入で共有すれば、間接機能を効果的に強化できます。
部門によっては業務がない日もあるため、手の空いた時間は別の業務を任される場合も多いですが、シェアードサービスによる統合が行われると特定の業務に専念することが可能です。これにより、片手間作業ではなく、より専門的な人材を育成することにもつながります。
売却側
続いて、シェアードサービス業界のM&A・事業承継の売却側が得られるメリットを紹介します。具体的なメリットとしては、以下の3点が挙げられます。
- 売却益の獲得
- 従業員の雇用を確保
- 経営の安定化
①売却益の獲得
M&A・事業承継の売却側では、企業価値に応じた売却益を獲得できます。ただし、用いるM&A手法によって売却益の獲得者が変わるため、その点は注意が必要です。
株式譲渡では、株式の売却額が株主に支払われます。中小企業では経営者が全株式を保有している場合が多いため、経営者が売却益を獲得することが一般的です。個人的な資産となるため、新事業の立ち上げや今後の生活資金などに自由に運用できます。
事業譲渡では、事業の売却額が会社に支払われます。会社の事業資金として運用できるため、残存事業にリソースを集中させたり債務の弁済に充てたり、さまざまな形で企業再生を図れます。
②従業員の雇用を確保
会社を廃業すると、従業員の生活にも多大な影響を与えてしまいます。廃業に際して再就職先の斡旋をする方法もありますが、現在の雇用条件が適用される望みは薄いうえ、退職金に影響する勤続年数も途切れてしまいます。
M&A・事業承継による売却であれば、雇用条件や勤続年数を引き継げるため、現在の職場環境を維持したまま雇用先を確保することも可能です。経営者だけが売却益を獲得し、従業員が不幸になる心配はありません。
③経営の安定化
シェアードサービス導入を検討する企業は大企業であることが一般的であるため、傘下に入ることで経営を安定化させることも可能です。買い手が保有する豊富な経営資源を活用し、経営課題の解決や事業規模の拡大が狙えます。
具体的にいうと、技術・ノウハウを使って業界内の競争を勝ち抜く力を付けられるうえ、グループ企業の信用を利用して金融機関から多額の融資を受けることにもつながります。
M&A・事業承継に対して「会社の身売り」といったネガティブなイメージを持たれる経営者の方も多いですが、実際には企業を大きく成長させるための経営戦略として広く活用されています。
シェアードサービス業界のM&A・事業承継のデメリット
シェアードサービス業界のM&A・・事業承継には、メリットだけでなくデメリットも存在します。代表的なデメリットは、以下の2つです。
- 成果が見えるまで時間がかかる
- コスト高になっている可能性がある
M&Aによりシェアードサービスを導入しても、成果が得られるまでに多くの時間がかかります。場合によっては、メリットが得られない可能性もあるため注意が必要です。
また、シェアードサービスはグループ企業内で活用されるため、市場原理が機能しない構造がみられます。その結果として収益確保が困難化し、コスト高に陥るおそれもあります。
シェアードサービス業界のM&A・事業承継の注意点
この章では、シェアードサービス業界のM&A・事業承継の注意点を解説します。
- システム統合に注意
- 人材の調整・流出に注意
- 従業員のモチベーション維持に注意
①システム統合に注意
システム統合では、従来の業務の流れと新システムとの折り合いを付けることが大切です。しかし、売却側は従来の業務の流れを把握していない場合が多いため、システム統合に手間取ってしまうおそれもあります。
それぞれ異なる文化で業務に取り組んできているため、M&A・事業承継の後は従業員同士の衝突もあり得ます。無用な衝突を避けるためにも、M&Aの交渉段階で入念に戦略を策定しておく必要があります。
②人材の調整・流出に注意
統合対象の間接部門に転籍する人材は、グループ企業の中枢を担うために責任が重いです。交渉段階から適任者を調整しておく必要があります。
また、転籍後の待遇に不満がある場合、従業員が自主退職する可能性もあります。M&A・事業承継の売却が決定したら早期に対象の従業員との面会の場を設けて転籍後の処遇に関する話し合いを進めておくと、人材流出リスクを最小限に抑えられます。
③従業員のモチベーション維持に注意
M&A・事業承継の売却ではシェアードサービスに関係なく従業員のモチベーション低下が課題になりやすいです。これまで尽くしてきた会社のトップが入れ替わるために無理もない話なのですが、業務に支障が出てしまう恐れがある場合には注意が必要です。
給与や退職金に関して明文化し、賃金関係をはっきりさせておくと、M&A後のモチベーション維持につながります。
シェアードサービス業界のM&A・事業承継の相場
いかなる業界にかかわらず、M&A・事業承継の価格相場を把握することは非常に難しいです。これは、対象会社の規模・保有資産・価値・収益などによって、M&Aの取引価格は変動するためです。また、業界の市況によってもM&Aの取引価格は変動します。
それだけでなく、たとえ同規模の企業がM&Aを実施しても、会社が保有する資産や在籍する人材の専門性などが取引価格に影響を与えるため、相場価格を一概に把握することはできません。
ただし、企業価値評価を行えば、自社売却時の取引価格を推定できます。とはいえ、企業価値評価を行うには専門的な知識が必要となるため、M&A仲介会社などの専門家に依頼すると良いでしょう。
シェアードサービス業界のM&A・事業承継まとめ
シェアードサービスは、グループ企業の間接部門の統廃合することで業務効率化を図る経営手法のひとつです。企業としての規模が大きいほど得られる恩恵が大きくなり、重要性が増す特徴があります。
ただし、得られるメリットが大きい一方で、注意すべき点も存在しています。中途半端な体制を構築すると本来の効果が得られない可能性があるため、M&Aや事業承継によりシェアードサービスの導入をご検討の際は本記事で紹介した内容をお役立てください。
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株式会社日本M&Aセンターにて製造業を中心に、建設業・サービス業・情報通信業・運輸業・不動産業・卸売業等で20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、アドバイザーを統括。ディールマネージャーとして全案件に携わる。