M&Aとは?意味や動向とM&Aを行う目的・メリットなどをわかりやすく解説!
2022年6月6日更新業種別M&A
システム開発会社の事業譲渡・事業売却の流れやチェック項目を解説!
システム開発会社は、技術者が慢性的に不足している一面があり、事業譲渡や事業売却を行うことによって、新しい技術者を獲得する側面があります。事業譲渡・事業売却を行う際は、その流れやポイントを踏まえて実施する必要があるでしょう。
目次
システム開発会社と事業譲渡・事業売却について
近年、中小企業間のM&Aも広く行われるようになり、システム開発会社の事業譲渡や事業売却のM&Aも見られるようになりました。システム開発会社はベンチャー企業も多く、以前は株式公開を目標にベンチャーキャピタルが成立するケースもありました。
しかし、会社経営者の考えにより、事業譲渡や事業売却で収益を得るケースもあります。今回は、システム開発会社の事業譲渡と事業売却の流れやチェック項目についてご紹介します。
システム開発会社における事業譲渡・事業売却
システム開発会社の事業や、事業譲渡・事業売却の概要をそれぞれ見ていきます。
システム開発会社とは
システム開発会社は、会社の業務を最適化して管理するためにIT技術を用いてプログラムしたシステムを作る会社です。会社で行う業務のほとんどがパソコンによる作業です。市販ソフトでも十分役立つこともありますが、会社によっては業務を円滑に進めるために、自社システムを構築する必要があります。
システム開発会社はこの業務を受注し、クライアントに合ったシステムを構築してIT化を進めます。システム開発では、既存業務の効率化や最適化を目的とし、新しい業務の仕組を実現するためにプログラムを使います。業務管理や在庫管理のシステムなどが良い例でしょう。
事業譲渡とは
事業譲渡とは、会社の事業を第三者に譲渡(売却)することです。事業譲渡の対象は、財産や債務、人材、事業組織、ノウハウ、ブランド、取引先との関係などを含むあらゆる財産です。
事業譲渡は会社が営む事業の全てを譲渡する方法と一部の事業だけを譲渡する方法があります。
事業売却とは
事業売却とは、会社が行う事業の一部または全部を売却することです。事業売却した際に発生する対価は、経営者ではなく会社に支払われます。この点は、会社売却と異なります。事業売却は、会社が行う特定の事業や複数の事業を他の会社に売却する仕組みです。複数の事業を売却しても、会社自体はなくなりません。
システム開発会社における事業譲渡・事業売却の流れ
システム開発会社の事業譲渡・事業売却の流れをそれぞれ詳しく見ていきましょう。
①事業譲渡・事業売却の専門家に相談
事業譲渡や事業売却は、会社売却よりも手続きが煩雑です。会社の担当者や経営者には難しいため、専門家に相談する方がスムーズに手続きを進められるでしょう。事業譲渡や事業売却は、M&A仲介会社に相談すればサポートやアドバイスが受けられます。
秘密保持契約の締結
M&A仲介会社に事業譲渡や事業売却の仲介を依頼した場合、秘密保持契約を締結します。事業譲渡や事業売却時に会社の情報漏えいを防ぐことが目的です。具体的な相手が見つかるまでは会社名などを明かさずに相手を探せます。
事業譲渡や事業売却の情報を従業員や取引先などに知られると、その後の経営状態に影響を与える恐れがあります。そのため秘密保持契約を締結して、情報が外部に漏れないようにするのです。
②譲渡・売却先の選定や交渉
事業譲渡や事業売却を希望する場合はM&A仲介会社などに依頼して、譲渡・売却先の選定を行います。売り手の条件に合った買い手を探します。最初は複数の候補を探し、最終的に1、2社に絞って交渉を始めるケースも少なくありません。
交渉は、売り手と買い手の希望条件を検討しながら行います。どちらかの希望を優先すれば、交渉が思うように進まないことがあるため、譲歩できる条件をあらかじめ決定しておきましょう。
買い手の希望する条件を聞いてから検討する場合もあり、その場合は譲歩できる条件であれば、そのまま交渉を進めます。しかし譲歩できない条件であれば、他の相手先候補と交渉を始めるケースもあります。
③トップ面談
交渉当初は、ノンネームシートやインフォメーション・パッケージの資料のみで売り手を精査し、判断します。そして買い手の買収意思が決定すれば、双方のトップ同士による面談を行います。トップ面談では、譲渡や売却の具体的な希望条件を提示します。
また、経営者同士の初顔合わせとなる場合が多く、お見合いのようなものと考えても良いでしょう。トップ面談で経営者同士の信頼関係を構築できれば、互いにWIN-WINとなる対等の立場で話し合いできます。売り手は譲渡・売却を行う事業の魅力のアピールに努め、買い手は好意的な第一印象を与えるように努めます。
意向表明書の提示
意向表明書は、売り手に対する事業の譲受・買収の意思を示す書類です。トップ面談が行われ、買い手が買収の意思を示す際に、意向表明書の作成を行います。意向表明書は事業譲渡・事業売却の取引において必須書類ではありません。
法的な拘束力もないため、提示義務もなく省略することもあります。ただ、売り手との取引希望を伝えることができ、条件の調整に欠かせない書類です。
④基本合意書の締結
基本合意書は、MOU(Memorandum of Understanding)とも表します。基本合意書は、最終契約の前に取り交わす書類で、最終的な契約内容が盛り込まれます。この締結を行えば、契約内容を概ね了承したことになります。
掲載内容は下記のとおりです。
- 取引内容
- 今後のスケジュール
- 独占交渉権の有無とその期間
- デューデリジェンスへの協力義務
- 対象会社の売却予定価格
- デューデリジェンスの結果
- 売却予定価格が変更する場合はその旨
- 重要な売買条件
- 売却期限
- クロージングの条件
- 一定の表明保証
- 守秘義務
- 誠実交渉義務
M&A仲介会社によって多少異なりますが、大まかにはこのような内容です。基本合意書の締結は、売り手と買い手における合意項目の確認や今後の大まかな方向性を確認するために行います。
最終合意に至るまでの当事者の義務確認、デューデリジェンスの円滑かつ適切な実施の確保、取引の安易な撤回防止が主な目的です。
⑤デューデリジェンスの実施
基本合意書が締結されると、買い手が売り手会社のデューデリジェンスを実施します。多くの場合、専門家によるデューデリジェンスが行われ、財務は公認会計士、税務は税理士、法務は弁護士がそれぞれ実施するケースが多いです。
公認会計士によるデューデリジェンスでは、該当する事業に関する妥当な買収価格の算定、今後の収益性、コストなどの分析が行われ、簿外債務などのリスクがないかも監査を行います。
弁護士や法律事務所によるデューデリジェンスが監査する内容は下記のとおりです。
- 最適なスキームの検討
- 当該事業譲渡に承継が必要な財産
- 権利義務
- 契約の洗い出し
- 登録の移転が必要な財産の検討
- 許認可の有無
- 承継の可否
- 手当の方法
- 当該事業に関する法令遵守の状況と瑕疵の有無・程度
また、当該事業に関し組織上・取引上無効とする行為の有無、訴訟や紛争のリスク、知的財残の有無と有効性などさまざまな点において、法務上の問題がないか監査を実施します。
買い手は、専門家のデューデリジェンスの報告を書面で受け取るのが一般的です。そのうえで買収価格、当該事業の譲渡および売却の実行可否、条件などを判断します。
⑥最終譲渡(売却)契約書の締結
デューデリジェンスの結果を経て、買い手は提案条件などを精査し、最終的な契約手続きに進みます。売り手との最終交渉を行い全ての条件が合意すれば、最終的な条件や内容を取り決めて最終譲渡(売却)契約書の締結です。
⑦臨時株主総会の実施など
最終譲渡契約書の締結後、売り手と買い手の双方が決済日までに所定の準備を開始します。売り手は、譲渡・売却する事業の会社内の位置づけにより、取締役会または株主総会の決議を得ます。買い手も譲り受ける事業について取締役会や株主総会を開催し、承認を得るケースもあるでしょう。
所定の手続きを行い決済日までに譲受資金を用意し、登録などの移転が必要な財産については、買い手が用意すべき書類を準備して決済日を待ちます。
⑧クロージング
クロージングは、最終契約書に基づいて事業譲渡・事業売却が実行され、引き渡し手続きや決済手続きなどによって経営権の移転が干渉することです。事業譲渡・事業売却では、移管される資産や負債、権利義務について個別に移管手続きを実施して、第三者の承認を得ながら進めます。
クロージング日においては、当事者間での実行・完了のために必要な書類確認と、その書類の有効性、適格性を確認します。そして書類の署名押印の確認を実施し、譲渡手続きとそれに対する譲渡代金の支払いが行われるのです。
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デューデリジェンスとは?目的・方法・種類
システム開発会社の事業譲渡・事業売却のチェック項目
システム開発会社の事業譲渡・事業売却を行う際のチェック項目を詳しく見ていきましょう。
① 事業を譲渡・売却するタイミングは適切か
事業を譲渡・売却するタイミングは、さまざまな要件が考えられるでしょう。例えば、現経営者の年齢や病気の発症・悪化などを理由に、事業譲渡や事業売却を検討するケースがあります。しかし、そのタイミングが必ずしも良いタイミングであるとは限りません。
景気の影響を受けたり、業界再編の動きがあったりすることも考えられます。そのため、事業譲渡や事業売却を行うタイミングを検討する必要があるのです。
②事業や会社の将来性はあるか
事業譲渡や事業売却を検討している中で、譲渡や売却を行う事業に将来性があるかないかについては、しっかり検討する項目です。譲渡や売却を検討中でも、収益性や成長性がある事業であれば買い手が現れます。
反対にあまり将来性がなく成長性が感じられない事業には、いくら譲渡や売却を望んでも買い手が現れることはないでしょう。
③現在の収益・予測される収益があるか
買い手から見れば、収益性がある事業を買収したいと考えるのが自然です。収益性がない会社を買収しようと考える会社は少ないでしょう。会社の収益性は、事業譲渡・事業売却の売買金額に大きな影響を与えます。
自社の事業に将来的な収益性があり、譲渡や売却を検討する最中でもしっかりとした収益が上がっていれば、買収を希望する相手先を見つけやすくなります。
④優秀な従業員を保有しているか
事業運営において、優秀な従業員を要するケースがあります。中にはその従業員がいなければ、事業が成立しないこともあります。優秀な人材の有無により、事業譲渡や事業売却の売買金額に影響を与える可能性もあるため、優秀な従業員は流出しないようにしっかりと管理する必要があるのです。
⑤事業や商品に独自性があるか
事業譲渡や事業売却を行う際は、自社が持つ強みを有効活用すると良いでしょう。自社が持つブランド力や会社の立地、競合他社にない独自のノウハウ、取引先、技術などに着目します。
自社が持つブランド力であれば、それを必要とする会社が現れる可能性について検討し、事業譲渡や事業売却の適切なタイミングを計ります。自社の強みが高く評価される時期を見極めて、事業譲渡や事業売却の時期を選ぶことが重要です。
システム開発会社が事業譲渡・事業売却を行う理由
システム開発会社が事業譲渡・事業売却を行う理由について、具体的に見ていきましょう。
①競合が増加し競争力に不安があるため
システム開発会社はIT化が進む中で新たに起業する会社も多く、競合が増加した状態です。独自の商品やサービスなどが構築できなければ他社との差別化ができないため、競合会社にクライアントを奪われることもあるでしょう。
システム開発会社は競合他社に対して競争力が不足すると、先行きに不安を感じやすくなります。
②優秀な人材を確保できないため
システム開発会社では独自のシステム構築などに特化する技術者も多く、場合によってはクライアントの会社に常駐して商品やサービスを提供する場合があります。IT化が進む中で、システム開発会社は慢性的な人材不足といわれる業界でもあり、優秀な人材を確保するのが難しい一面があります。
技術を持つ優秀な人材は、条件の良い会社に移籍することが多く、優秀な人材の流出に神経質になる会社も少なくありません。優秀な人材が確保できなくなればシステム開発の水準が下がるため、事業譲渡や事業売却を検討するシステム開発会社もあります。
③健康なうちの早期引退を考えているため
近年の日本は、平均寿命が80歳を超え長寿国です。しかし、経営者が引退する時期については、現経営者の意向によるところが大きいでしょう。アメリカでは、一定の年齢になれば経営者から引退し、悠々自適な老後を過ごすケースも多いです。
日本でも現経営者が健康なうちに早期引退をして、ゆっくりと老後を過ごしたいと考えるケースもあります。このような場合に、経営を行うシステム開発会社の事業譲渡や事業売却を実行して、早期引退することがあります。
④従業員の雇用先を確保するため
事業譲渡や事業売却は、従業員の雇用を守るために実施されるケースもあります。会社の経営状況があまり良くない場合や経営者の高齢化で後継者がいない場合など、会社の存続が難しいケースもあります。
しかし事業譲渡や事業売却を行えば新しい経営者を迎えることができ、会社の存続が可能となります。これにより、従業員の雇用も守られるのです。
⑤譲渡・売却益を手にするため
事業譲渡や事業売却を行うと、その対価を得ます。対価を使用して新事業の展開を考えたり、老後の資金にしたりするケースがあります。事業譲渡や事業売却によって、譲渡・売却益の取得を目的とすることも多いです。
システム開発会社の事業譲渡・事業売却をスムーズに行うポイント
システム開発会社の事業譲渡や事業売却では、煩雑な手続きが必要です。それらをスムーズに行うポイントを詳しく見ていきましょう。
①自社に関する資料やデータをまとめる
適切に事業譲渡や事業売却を行うには、自社に関する資料やデータをまとめることがポイントです。自社の状態を知らずに事業譲渡や事業売却を行えば、予測した収益を得られないことがあります。
自社の商品やサービスの売上、シェアなどの現状を把握して、人材、営業力、技術力、ブランド力などの強みや弱みを把握しておきましょう。このように自社に関する資料やデータをまとめて把握すれば、事業譲渡や事業売却を有利に進められます。
②事業譲渡・事業売却の目的や希望をまとめる
事業譲渡や事業売却を実行する目的や希望は、精査してまとめるようにしましょう。なぜ事業譲渡や事業売却を行うのかという点は、事業譲渡や事業売却によって残るコア事業や成長事業に集中投資が可能となります。また、事業譲渡や事業売却によって得た収益による資金調達も可能です。
事業譲渡や事業売却について目的をはっきりとさせ、希望の条件をまとめれば相手先と交渉を開始する際に的確な話し合いが行えます。
③従業員や取引先に理解を求める
事業譲渡や事業売却の実施は、具体的な内容が決まるまで従業員や取引先などに情報が漏れないように注意しましょう。内容が具体的に決定した時点で、従業員や取引先から理解を得るように配慮する必要があります。
事業譲渡や事業売却は、会社に大きな変化を招くことがあります。そのため、従業員の流出を防ぐためにも、理解を求めるようにしましょう。取引先に関しても、その後の取引についてしっかりと説明を行い、理解を得るように努めます。
④M&Aの専門家に相談する
事業譲渡や事業売却を進めるには、専門知識が必要です。経営者だけの力では完結できない可能性があるため、M&Aの専門家に相談をしてサポートやアドバイスを受けるのがベストです。
M&Aの専門家には、M&A仲介会社や弁護士事務所、税理士事務所などがあります。信頼できる専門家を選定して相談すると良いでしょう。
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システム開発会社における事業譲渡・事業売却の事例
システム開発会社の事業譲渡・事業売却の事例を具体的に見ていきましょう。
カイカが子会社のネクス・ソリューションズを実業之日本社へ譲渡
2019年8月、カイカは、連結子会社であるシステム設計開発のネクス・ソリューションズの全株式を、実業之日本社へ譲渡する決議を発表しました。
今回実業之日本社より、実業之日本社グループ内で迅速に内製が可能となるシステム開発会社が欲しいという要望があり、実業之日本社の子会社として事業の発展を目指し、既存顧客からの受注の維持拡大に努めることが最適であると判断し、譲渡を決断しています。
デジタルハーツホールディングスが米国のLOGIGEAR CORPORATIONを子会社化
2019年7月、デジタルハーツホールディングスは、米国のLOGIGEAR CORPORATIONの株式取得およびLogiGear社が行う第3者割当増資を引き受け、子会社化しました。
これにより、LogiGear社のベトナム拠点であるLOGIGEAR VIETNAM CO.LTD.をはじめとするグループ各社もデジタルハーツホールディングスの子会社となりました。
今回の子会社化でデジタルハーツホールディングスはスペシャリストの参画や、新技術力の獲得により、アジアでトップの総合テスト・ソリューションカンパニーの早期実現を目指します。
NTTデータグループのNTTデータイントラマートがジェイエスピーと資本業務提携
2019年6月、NTTデータグループのNTTデータイントラマートはIoTソリューション開発のジェイエスピーと資本業務提携を行いました。この提携によりNTTデータイントラマートおよびジェイエスピーは、開発体制を大幅に強化して特定業務領域への展開と一層の加速を狙います。
また、新しい業務プロセスソリューションの開発も共同で積極的に行います。
ビーイングがラグザイアを株式取得および株式交換により完全子会社化
2019年5月、ビーイングはビーイングを株式交換完全親会社、アプリケーション開発会社であるラグザイアを株式交換完全子会社とする簡易株式交換の実施を決め、ラグザイアと株式交換契約を締結しました。そしてラグザイア株式を取得しています。株式譲渡での取得金額は約179百万円で、取得割合は約93.7%です。
このM&Aにより、ビーインググループはWebアプリケーション開発を加速し、クラウド環境を活かした新商品開発を図ります。
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まとめ
システム開発会社はIT化が進む中、クライアント先に出向してシステム構築のサービスを行う会社もあります。高い技術や経験が必要となるため、技術者不足という一面もあります。また、競合他社も多く会社の運営そのものが難しい会社も少なくありません。
しかし、事業譲渡や事業売却を行えば、新経営者・新体制で仕事が円滑に行える可能性もあります。適切に事業譲渡・事業売却を行うには、専門家の助けを借りるのが望ましいでしょう。
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株式会社日本M&Aセンターにて製造業を中心に、建設業・サービス業・情報通信業・運輸業・不動産業・卸売業等で20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、アドバイザーを統括。ディールマネージャーとして全案件に携わる。