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2019年7月17日公開
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マルチプル法とは?メリット・デメリットや活用の注意点を解説

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この記事の監修専門家
M&A総合研究所 公認会計士
高谷 俊祐

M&Aで活用されるマルチプル法とは、類似する上場企業の財務数値や株価の比率を使って対象企業の価値を算定する方法です。M&Aの成功につなげるためにも、マルチプル法の仕組みや特徴を把握し、より客観的で相対的な算定につなげることが大切です。

目次
  1. マルチプル法とは
  2. M&Aの企業評価で活用されるEBITDAマルチプル
  3. マルチプル法のメリット・デメリット
  4. マルチプル法の注意点
  5. マルチプル法の計算方法
  6. まとめ

マルチプル法とは

マルチプル法は企業の価値を算定する方法の一つで、M&Aの実務でもしばしば活用されます。M&Aは、対象企業の価値を適切に算定できるかどうかが大きなカギとなり、そのための方法の一つにマルチプル法が挙げられるというわけです。

また、企業の価値を算定する方法にはDCF法もありますが、マルチプル法とDCF法の違いを知っておくことも重要です。以下、こうしたマルチプル法の意味や特徴について、詳しくご紹介します。

マルチプル法とは何か?

マルチプル法とは、対象企業と似ている上場企業の財務数値や株価の比率を使い、対象企業の価値を算定するという方法です。大まかに言うと、似た上場企業の純利益や株価などから、相対的に対象企業を評価するという方法です。絶対的な評価ではなく、類似する上場企業の株価などを踏まえた相対的な評価となることに、マルチプル法の特徴があります。

マルチプル法の仕組み

マルチプル法のマルチプルとは、「倍率」を意味します。以下、マルチプル法の評価倍率であるPERを例に、マルチプル(倍率)の意味やマルチプル法の具体的な流れをご説明します。(マルチプル法の計算式については、「マルチプル法の計算方法」として後ほど詳しくご紹介しますが、マルチプル法の理解を深めるため、まず計算の流れについて触れておきます。)

PERから見るマルチプル法の流れ

PERは「株価収益率」のことで、ある企業の株価が、その企業の1株あたりの当期純利益の何倍になっているのかを示します。この「何倍になっているか」という部分がマルチプル(倍率)だと思ってください。

PER=株価÷1株あたりの当期純利益

さて、A社という会社の株価が500円、1株あたりの当期純利益が50円だとすると、PERは10倍となります。次に、A社と類似した企業のB社があるとして、そのB社の1株当たりの当期純利益が100円だとします。ここで、A社と類似したB社なら、A社のPERと同じなのではないか、という考え方をします。すると、B社の株価は1,000円(100円×10倍)と推測できるというわけです。

これは、A社が上場企業でB社が非上場企業の場合のケースになります。B社は非上場企業なので、本来は株価がわかりません。ただ、上記の計算式のように、B社と類似した上場企業のA社のPERから、B社の株価の目安をつけることが可能になるのです。

先ほどマルチプル法の意味として、「対象企業と似ている上場企業の財務数値や株価の比率を使い、対象企業の価値を算定するという方法」とご説明しましたが、上記の例に当てはめると、「対象企業(B社)と似ている上場企業(A社)の株価の比率(PER)を使い、対象企業(B社)の価値(ここでは株価)を算定する」ということになります。

なぜPERが使われるのか

企業の株価は、その企業の価値を意味します。ただ、非上場企業では株価がわからないので、株価から企業の価値を判断することができません。そこで、類似する上場企業のPERから株価の目安を算定し、非上場企業の価値を相対的に評価することができるわけです。

上記の例でいえば、B社は非上場企業になるので株価はわかりませんが、B社と類似するA社は上場企業であり、株価がわかります。そして、A社の株価と「1株あたりの当期純利益」からA社のPERをまず求め、そこからB社の株価の目安を算定することになります。このように、類似企業の株価から対象企業の価値を相対的に評価するという点に、PERによるマルチプル法の特徴があるのです。

また、PERは「株価÷1株あたりの当期純利益」で算定されますが、非上場企業でも「1株あたりの当期純利益」自体は算出できます。「1株あたりの当期純利益」は、当期純利益を、発行済みの株式の総数で割って求めます。

1株あたりの当期純利益=当期純利益÷発行済み株式総数

そして、株式会社は発行済みの株式の総数を登記しなければならず、これは非上場企業も例外ではありません。つまり、非上場企業でも発行済みの株式の総数はわかるので、そこから「1株あたりの当期純利益」を算出することができます。

上記の例でいえば、非上場企業のB社でも発行済みの株式の総数はわかっているので、そこから「B社の1株当たりの当期純利益は100円」という点を算出できるのです。そして、類似した上場企業であるA社のPERをもとに、非上場企業であるB社の価値(ここでは株価)を知ることができるという流れになります。

マルチプル法とDCF法の違い

さて、企業の価値を算定する方法としては、マルチプル法のほかにDCF法というものがあります。マルチプル法とDCF法の違いについても整理しておきましょう。

DCF法とは、簡単に言うと、将来予想されるキャッシュフローから会社の現在の価値を算出するという方法です。具体的には、定められた割引率によって将来のキャッシュフローの現在価値を求め、その合計を企業の価値とする、という流れになります。

さて、このDCF法というのは、対象企業が将来生み出すであろうキャッシュフローから企業価値を評価するため、絶対評価となります。一方で、マルチプル法の場合、類似企業を基準として考えるため、対象企業に対する評価は相対評価となります。この点がマルチプル法とDCF法の大きな違いです。

また、算出方法として考えると、DCF法よりマルチプル法の方が簡易です。ただ、実際に企業価値を算定するにあたっては、マルチプル法とDCF法の両方を使って評価するなど、複数の方法で算定することもあります。

M&Aの企業評価で活用されるEBITDAマルチプル

次に、M&Aにおける企業評価でも使用されるEBITDAについてご紹介します。

EBITDAとは?

EBITDAとは、税引前利益に特別損益、支払利息、減価償却費などを加えたものをいいます。簡単に言うと、税金や利息、減価償却費などを計上する前の利益がEBITDAとなります。各国の会計基準などの影響をなるべく排除した利益となり、国をまたいで複数の企業を比較する際にも活用される指標です。

会計基準や税金、減価償却費は、各国によって制度や仕組みが大きく異なります。EBITDAはこれらを計上する前の利益を表すので、各国の制度上の違いをなるべく排除した利益を分析できるわけです。

EBITDAマルチプルとは?

EBITDAはマルチプル法で活用される場合もあります。EBITDAマルチプルは、「EV(企業価値)÷EBITDA」で算出されます。このEVというのは、株式時価総額に純有利子負債を加えたものをいいます。(この「純有利子負債」というのは、金利を付けて返済する負債(有利子負債)から、現預金を引いたものを指します。)

さて、こうしたEBITDAマルチプルを、先ほどご紹介したマルチプル法の流れに当てはめてみましょう。マルチプル法として活用される以上、基本的な流れは先ほど述べたPERのケースと同じです。つまり、対象企業と類似した上場企業のEBITDAマルチプルを使い、対象企業の価値(ここではEV)を評価することになるわけです。まず類似企業のEBITDAマルチプルを算出し、そこから対象企業の価値を相対的に評価するという流れになります。

EBITDAマルチプルのポイントを整理

先ほどPERについて、「ある企業の株価が、その企業の1株あたりの当期純利益の何倍になっているのかを示す(PER=株価÷1株あたりの当期純利益)」ということと、この「何倍になっているか」という部分がマルチプル(倍率)であるという点をご説明しました。

同じように考えると、EBITDAマルチプルというのも、「ある企業の価値(EV)が、その企業のEBITDAの何倍になっているのかを示す(EBITDAマルチプル=EV(企業価値)÷EBITDA)」ことになり、この「何倍になっているか」がマルチプル(倍率)となるわけです。

実際のM&Aにおいても、この「EBITDAの何倍か」という点が重要視されています。「EBITDAマルチプルは一般的には4~8倍程度」といった目安や、「EBITDAの8倍で評価」「EBITDAの6倍で買収」といった具合に、M&Aにおける企業価値の算定として重要な意味を持っています。

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マルチプル法のメリット・デメリット

ここまで、マルチプル法の具体的な仕組みや流れをご紹介しました。次に、これらのポイントも踏まえ、マルチプル法のメリット・デメリットについて整理しておきましょう。

マルチプル法のメリット

マルチプル法の大きな特徴は、類似する上場企業の財務数値や株価の比率を使用するという点にあります。特に非上場企業は株価がわからないこともあり、具体的な企業価値の算定が難しくなりますが、マルチプル法を活用すれば、似ている上場企業の状況から相対的に評価することができるのです。同時に、市場を踏まえた客観的な評価にもつながるわけです。

また、DCF法より比較的簡易な方法であるという点も、マルチプル法のメリットです。DCF法の場合、将来のキャッシュフローの予想などが必要となるので、どうしても複雑になります。一方で、マルチプル法はそれぞれの指標さえおさえておけば、計算式自体は比較的簡易となります。

マルチプル法のデメリット

マルチプル法は、類似する企業が存在してこそ成り立つ方法です。そのため、そもそも類似する企業が見つからなければマルチプル法を活用することができません。例えばPERの場合であれば、類似する上場企業がいなければマルチプル法として活用することができないのです。

マルチプル法は客観的で相対的な評価が可能になるという大きなメリットがありますが、類似企業の存在が前提となることには注意しなくてはなりません。

マルチプル法の注意点

次に、マルチプル法の注意点を整理しておきます。

類似企業の選定

上記で少し触れましたが、類似企業の存在がマルチプル法の大前提となるので、必然的に類似企業の選定には十分に注意する必要があります。一概に「似ている企業」といっても、具体的にどの部分が類似しているか、しっかりと分析しなくてはなりません。

業種は似ているか、ビジネスモデルに共通点はあるかなど、様々な観点から判断する必要があります。業種はもちろんのこと、ビジネスモデル(収益構造)にもある程度共通点がないと、類似企業とは言えません。客観的な企業の価値の算定を実現するためにも、企業活動の根本的な部分で類似しているかどうかを判断することが重要です。

複数のマルチプルを活用する

マルチプル法によって企業の価値を算定する場合、なるべく複数のマルチプルを活用して算定することが好ましいです。複数の算定方法で評価した方が、より客観性が増すからです。

先ほども述べたように、マルチプル法とDCF法の両方を活用するケースもあります。一方で、マルチプル法だけ活用する場合にも、その中で複数の方法を利用することには大きなメリットがあるのです。

マルチプル法の計算方法

最後に、マルチプル法の計算方法として、代表的な指標の計算式をまとめておきます。ここまでの話の中で触れた計算式も、改めて整理しておきます。

PER

PERは「株価÷1株あたりの当期純利益」で算出できます。また、「1株あたりの当期純利益」は「当期純利益÷発行済み株式総数」で求めます。

PBR

PBRについては、ここまでの話で触れていませんので、ここでご紹介しておきます。
PBRというのは「株価純資産倍率」のことで、株価が「1株あたりの純資産」の何倍になっているかを示すものです。PBRを求める計算式は、「株価÷1株あたりの純資産」となります。

EBITDAマルチプル

EBITDAマルチプルは「EV(企業価値)÷EBITDA」で算出されます。また、EV(企業価値)の求め方は「株式時価総額+純有利子負債」となります。

EBITマルチプル

EBITについてもまだ触れていませんので、ここでご紹介します。
EBITとは、支払利息や税金を差し引く前の利益のことをいいます。そして、EBITマルチプルは「EV(企業価値)÷EBIT」の式で算出することができます。

まとめ

マルチプル法は、対象企業と類似する上場企業の財務数値や株価の比率を使い、対象企業の価値を算定する方法になります。絶対的な評価ではなく相対的な評価となることに大きな特徴があり、その指標も様々です。PERやEBITDAなどを活用したマルチプル法が代表的ですが、PERは特にマルチプル法としてイメージしやすいと言えるでしょう。

また、EBITDAマルチプルを活用するケースは、特にM&Aでしばしば見られます。一方で、マルチプル法によって企業の価値をより客観的に算定するには、こうしたマルチプルを複数活用することも重要です。計算式も比較的簡易なため、それぞれの特徴をおさえて分析しておきましょう。

特にM&Aにおいては、対象企業の価値の算定は非常に大きな意味を持ちます。M&Aの成功につなげるためにも、マルチプル法の仕組みや特徴を把握し、より客観的で相対的な算定につなげることが大切です。

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