2024年12月27日更新会社・事業を売る

会社分割における債権者保護手続きとは?手続きの流れや注意点を解説

会社分割を行う際は、資産や負債の移動を伴うことで債権者が債務の履行を請求できなくなる可能性があるため、債権者保護手続きをすることが必要です。そこで本記事では、会社分割時の債権者保護手続きの内容・期間や対象者、債権者保護手続きが不要となる条件などを中心に幅広く解説します。

目次
  1. 会社分割における債権者保護手続きとは
  2. 会社分割における債権者保護手続きの手順・流れ
  3. 会社分割で債権者保護手続きが不要となる条件
  4. 会社分割における債権者保護手続きの官報公告とは
  5. 会社分割における債権者保護手続きまとめ
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会社分割における債権者保護手続きとは

会社分割とは、ある事業に関して保有する権利・義務を他の会社に包括的に移転するM&A手法の1つです。簡単にいうと、ある事業を会社内から分離したうえで他の企業に受け渡す方法をさします。

会社分割では資産や負債の移動が伴うことにより、債権者が債務の履行を請求できなくなる可能性があるため、必ず債権者保護手続きをしなければなりません。

以下では、会社分割の際に必要となる債権者保護手続きについて、実施タイミングや対象者など、基本的な事項を解説します。

【関連】会社分割とは?手続きやメリット・デメリット、事業譲渡との違いを解説

必要になるタイミング

債権者保護手続きは、会社分割の当事会社が分割契約を締結し、分割計画の事前開示を実施する段階で必要となります。一般的には官報による公告と知れたる債権者への個別催告を実施しますが、官報と電子公告により個別催告を省略する選択肢も取ることも可能です。

手続きの重要性

新設分割を実施すると、他社に事業を引継ぐ分割会社は分割後の資産状況が変わる可能性があります。債権者が新設分割計画をあらかじめ知らされていなければ、分割会社の債権がいずれかの会社に移動することで不利益を被るおそれもあるでしょう。

もしも事業を多角的に展開していた会社が分割すれば、分割する事業の業績や財産の状況によっては分割会社の債権者のリスクが高まる可能性があります。こうした状況下で債権者の利益を保護し、異議を述べる機会を与えるのが債権者保護手続きの目的です。

手続きの対象者

会社分割の債権者保護手続きでは、原則として会社分割の影響によって債務履行請求を行えない債権者を対象とします。

債務履行を請求できる(会社分割による影響がない)債権者に対しては、保護手続きは不要です。ただし、吸収分割の承継会社は、全員が会社分割に対して異議を申し立てられます。

また、新設分割であるうえに分割型分割を実施する場合には、すべての債権者が会社分割に対して異議申し立てが可能です。

手続きの期間

会社分割の債権者保護手続きでは、債権者に対して最低1カ月の異議申し立て期間を設定する必要があります。会社法の定めにより、債権者保護手続きが完了していなければ会社分割の効力は発生しません。会社分割の効力発生日から数えて、最低1カ月以上前から債権者保護手続きを開始する必要があります。

M&Aによる会社分割ではクロージングまでに数カ月単位の期間が必要となるため、会社分割を行う際はスケジュール設定に余裕を持ちましょう。

会社分割における債権者保護手続きの手順・流れ

会社分割では原則として債権者保護手続きが必要となるため、具体的な手続き内容を以下の項目に分けて取り上げます。
 

  1. 官報による公告
  2. 知れたる債権者への個別催告
  3. 異議を申し立てられた際の対応
  4. 異議申し立て期間後の登記申請


それぞれの項目を順番に詳しく紹介します。

①官報による公告

官報による公告とは、取引相手や債権者に重大な影響を与え得る事項を決定した際にその旨を、官報(国の機関紙)を用いて知らせる行為のことです。基本的には、法律上の義務にもとづいて官報公告を実行します。会社分割を行う際、官報公告で求められる記載内容は以下のとおりです。

  • 会社分割に関する基本事項
  • 会社分割を行う企業の商号と住所
  • 会社分割を行う企業の計算書類
  • 資本金・負債の変動金額
  • 会社分割に対して異議を申し立てられる旨

上記の項目の中でも、特に「会社分割に対して異議を申し立てられる旨」が重要です。債権者は自身に不利益が生ずると判断すれば会社分割に異議を申し立てられます。もしも異議を申し立てたならば、当該会社に債権を弁済してもらうなどの対応を求めることが可能です。

②知れたる債権者への個別催告

官報による公告が完了したら、次は知れたる債権者への個別催告を実施します。「知れたる債権者」とは、会社分割の影響で債務者が変わる債権者のことです。このプロセスでは、会社分割により債権回収が危うくなる債権者に対して個別催告を実行します。

個別催告の方法は定められていないため、催告方法は自由に決定できます。個別催告の内容に関しては、官報公告と同一の内容でも問題ありません。

③異議を申し立てられた際の対応

債権者保護手続きを行った結果として、異議を申し立てられるケースがあります。このケースでは「債権者に対して弁済を実行する」もしくは「弁済に値する担保提供や財産信託を実施する」必要がありますが、債権金額が少額であるなど債権者への弁済に対する影響が小さい場合には会社分割の続行が可能です。

官報公告・個別催告を活用するうえで知っておきたいこと

ここでは、官報公告・個別催告を活用する際に知っておきたい具体的な知識をまとめて紹介します。まず取り上げるのは、官報公告・個別催告で通知すべき事項です。

  • 会社分割・新設分割する旨
  • 会社の商号・住所
  • 分割・承継会社の計算書類に関する事項として法務省令(会社則188条)で定めるもの
  • 債権者が、1カ月を下回ることのできない一定の期間内に異議を述べることができる旨

分割会社が定款により「時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙による公告または電子公告により行う旨」を定めているケースでは、官報による公告に加えて日刊新聞紙による公告または電子公告を実施することで、個別的な催告の省略が可能です。

異議申し立て期間後の登記申請

会社分割をする際は、異議申し立て期間を経た後、効力発生日や株主総会の会社分割の決議から2週間以内に登記を完了させる必要があります。

登記申請時には手続きの完了を示す、官報の書面や催告者への通知の控え、株主総会における議事録(計画の承認)や分割に異議を述べた債権者がいない旨の上申書などが必要となるため、異議申し立て期間が過ぎる前に登記申請することはできません。

もし期間中に登記申請をした場合には、会社分割の手続きをはじめからやり直す必要が生じる可能性もあるため注意しましょう。

【関連】会社分割の手続きとは?吸収分割・新設分割の手続きを解説| M&A・事業承継の理解を深める

会社分割で債権者保護手続きが不要となる条件

最後に、会社分割において債権者保護手続きが不要となる条件を取り上げます。会社分割では原則として債権者保護手続きが必須であるものの、一定条件を満たす場合には不要です。結論から述べると、会社分割後も債権者における債権回収の可能性が低減しない場合は、債権者保護手続きが不要です。具体的にいうと、以下の2つのパターンに該当すれば、債権者保護手続きは必要ありません。

  1. 会社分割によって債務移転が生じないケース
  2. 重畳的債務引受設定のケース

それぞれの項目を順番に詳しく紹介します。

①会社分割によって債務移転が生じないケース

会社分割により債務の移転がまったく発生しないのであれば、債権者保護手続きは不要です。債務が移転しない場合、債務者の資産状況が変化しないために損害はまったく発生しません。

②重畳的債務引受設定のケース

会社分割を実行すると、基本的に承継会社が債務を負います。例外的に引き続き分割会社が債務を保証する場合、債権者は従来どおり債務者に請求可能です。会社分割の前後で債権回収の可能性に変動がないことから、債権者保護手続きは不要とされます。

上記を踏まえると、会社分割の契約において重畳的債務引受を設定する場合も、債権者保護手続きは不要です。重畳的債務引受とは、債務をもらい受けた承継会社が債務を支払えなくなった際に分割会社が債権者に対して支払う行為をさします。これは会社分割における連帯保証です。重畳的債務引受を設定すれば、債権者は従来どおり債務を請求できるため、債権者保護手続きは不要です。

会社分割における債権者保護手続きの官報公告とは

会社分割における債権者保護手続きの官報公告の注意点や時期について紹介します。

官報公告の注意点

会社分割の当事会社は官報公告により、該当する債権者に知らせることが定められています。官報公告は依頼から実際に掲載されるまで、おおよそ1週間〜2週間程度かかってしまいます。そのため、予定の登記申請日から日数を逆算し、掲載までの日数についてもスケジュールに組み込む必要があるでしょう。

公告を行う時期

掲載または到達までの期間に加え、官報に公告を掲載してから1ヶ月以上の異議申立期間を設けなければ、会社分割の効力が生じません。株主総会決議前に公告を行い、株主総会決議後は速やかに行為の効力が発生するように進める必要があります。

会社分割における債権者保護手続きまとめ

本記事では、会社分割の債権者保護手続きを解説しました。会社分割では少なからず債権者に影響を与えるため、実施する際は会社法に基づく債権者保護手続きを遂行する必要があります。債権者保護手続きには最低でも1カ月の期間がかかるため、計画的に実行しましょう。

債権に変動がないケースや引き続き債務者に請求できるケースなどでは、例外的に債権者保護手続きは不要です。会社分割を実行する際は、債権者保護手続きの有無を事前に確認しておくと、プロセスをスムーズに進められます。

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