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2022年10月20日更新節税
持株会社を用いた節税|メリット・デメリット、節税できる理由を解説
持株会社を活用することで、相続税を節税できます。しかし、近年は節税を目的とした持株会社設立が認められないケースが増加しています。場合によっては節税分より多くの費用が必要なケースもあります。節税目的なら、別の方法を検討する方がよいでしょう。
目次
持株会社とは
会社を経営するにあたり、ほとんどの経営者がなるべく経費や税金を抑えたいと考えるでしょう。こうした状況の中、節税目的の持株会社活用が注目を集めています。持株会社の活用には、節税以外にも複数の会社の経営権を1回の事業承継で完了できるメリットがあります。
単なる節税を目的として持株会社を設立するだけが活用法ではないですが、節税目的で設立するケースも少なくありません。ではなぜ、持株会社の活用で節税できるのでしょうか。今回は持株会社の活用が、どのように節税効果を生み出しているのかを解説します。
持株会社の設立と節税の関係を解説する前に、そもそも持株会社とはどのような会社なのかをお伝えします。持株会社とは、自社では小売業や飲食業などの業務は行わず、ほかの会社の株を保有することで当該会社の支配権を握ることを主な業務とする会社のことです。
これを「純粋持株会社」とも呼びます。「~ホールディングス」というような社名となっている会社は、そのグループのトップに君臨して、その保有する株式の配当を主な収入源としています。
持株会社にはもう一つの種類があり、「事業持株会社」と呼ばれているものです。この事業持株会社は、自社でも小売業などを主業種としつつ、ほかの会社の株も保有する形態の持株会社のことをいいます。
ただ、事業持株会社は多くの会社が行っている株式保有の形態であり、一般的に「持株会社」というと、前者の「単純持株会社」のことをさします。
持株会社設立で節税できる税金と理由
それでは、持株会社の設立によって節税できる税金と、それを節税しない場合に起こりうる事態を紹介していきます。
節税対象は相続税
持株会社の設立によって節税できる税金は「相続税」です。相続税とは、人が死亡した際に移転される財産に課される税金であり、受け継いだ財産の量に応じて税金を支払わなくてはいけません。
基本的には、親の死亡時にその財産を受け継いだ配偶者や子供が相続税を支払います。M&Aの観点から見ると、経営者が死亡した際に、後継者が引き継いだ会社内の財産に対して相続税が発生します。
会社の財産(株式や不動産など)の多さに比例してその金額も上がるのです。つまり、規模が大きくて業績がよい会社ほど、相続税が高くなる仕組みとなっています。
高額な相続税によって経営が困難になるケースも多い
会社の規模や業績によっては、相続税が高額になり過ぎて、会社を引き継いだ後に経営が困難になるケースも少なくありません。そのため、相続税を少しでも低くするために、持株会社の設立で節税を実施する場合があります。
ただし、持株会社の設立が全てのケースで適しているわけではありません。適しているのは、事業承継の対象となる会社の純資産が、20億円以上の場合です。会社の相続にかかる相続税は、自社の株式の評価によって異なるのです。
自社の株式が市場で高額な値段で取引されていると、業績のよい会社として相続税が高くなります。その保有している自社の株式を、持株会社を設立して移転させることで、相続する財産が減少します。
その後、株式ではなく持株会社を後継者に引き継げば、節税効果が生まれるわけです。このように、全てのケースに当てはまるわけではありませんが、持株会社の設立によって相続税の節税効果を期待できます。
持株会社設立によるメリット・デメリット
持株会社を設立すると得られるメリットとデメリットにはどのようなものが挙げられるのか、気になるところです。節税だけでなく、経営するうえでのメリットもあります。
ここでは、「純粋持株会社」のメリット・デメリットを確認していきましょう。
メリット
持株会社を設立することで得られるメリットには、下記のようなものがあります。
- 意思決定をスピーディーにできる
- リスクを分散できる
- 組織力を活用できる
- 人事制度や給与制度を最適化できる
意思決定をスピーディーにできる
経営者が一人の場合、複数の事業を展開する際に意思決定がスムーズに行えず、競合に後れを取ることになりかねません。その点、持株会社であれば、代表取締役を置く形になるため、事業運営を任せられます。
子会社の代表取締役に一定程度の権限を与えれば、持株会社の経営者は、グループ全体の意思決定だけを行えばよいのです。持株会社が指揮をとることで、それぞれのグループ会社は事業に専念できます。
意思決定をスピーディーにできるのは、事業運営にとって大きなメリットといえるでしょう。
リスクを分散できる
大きな損失を出してしまった場合、持株会社化していれば、グループ全体に影響を及ぼすことを最小限に抑えられます。つまり、損失を出した会社のみにとどめておけるため、グループ全体のリスクを分散させられるのです。
他事業へのダメージを軽減させられることは、事業運営をするうえで必要不可欠なメリットといえます。
組織力を活用できる
経営面のメリットとして、組織力を活用できる点が挙げられます。持株会社化することで、組織力を活かし、グループ全体で経営戦略を効果的に最大限発揮できるでしょう。新規事業を立ち上げる際に、資金調達しやすくなる点もメリットといえます。
人事制度や給与制度を最適化できる
持株会社であれば、子会社が会社ごとに人事制度や給与制度を設定できます。人事や給与を一括管理すると、各業務に大きな支障をきたす可能性もあります。子会社がそれぞれ最適な制度を導入できるため、従業員にとっても働きやすい環境といえるでしょう。
デメリット
持株会社設立はメリットばかりではありません。下記のようなデメリットが考えられます。
- 継続適用が必要不可欠
- 複雑で事務負担が増える
- 子会社の赤字が悪影響を及ぼすおそれ
- 事務費用が重複して発生する
継続適用が必要不可欠
持株会社化することで、グループ全体の連結納税制度が活用でき、節税効果につなげられます。連結納税制度とは、グループを一つの納税単位として、法人税を申告し納税するための制度です。ただし、これには継続適用が要件となってます。
この連結納税制度を一度導入すると、適用を停止することは困難です。事情があってこの制度を止める場合、国税庁に相談することになります。
複雑で事務負担が増える
連結納税制度を導入すれば、節税効果が期待できます。しかし、この制度は法人税に限定した制度のため、それ以外の事業税・住民税・消費税などはそれぞれの会社が申告しなければなりません。
それ以外にも、親会社の資本金が大きければ受けられない特例などもあるため、これらの複雑で細かい事務負担が増える点はデメリットといえます。持株会社化で連結納税制度を導入する際は、制度内容をよく理解したうえで検討するとよいでしょう。
子会社の赤字が悪影響を及ぼすおそれ
持株会社化すれば、損失を出した際に影響を最小限に抑えられますが、子会社に赤字が発生すれば、グループ全体へのイメージダウンにつながるおそれはあります。一部の子会社にとどまらず、イメージの悪化はグループ全体の信用度にも悪影響を及ぼす可能性はあるのです。
事務費用が重複して発生する
持株会社の場合、経営はグループの親会社に集約され、人事や給与制度はそれぞれの会社が設定できる反面、会社ごとに事務費用が重複して発生してしまう点がデメリットとして挙げられます。グループ拡大には、この事務費用の削減がカギとなるでしょう。
持株会社設立による節税の流れ
持株会社を設立して節税する方法は、以下のような流れとなります。
- 後継者の資金調達
- 持株会社を設立
- 既存会社の株式をすべて買い取り
①後継者の資金調達
持株会社を設立するためには、まずはじめに後継者が資金調達する必要があります。この際、銀行などの金融機関から融資を受けて資金調達するのが一般的です。むしろ、銀行のほうから融資の提案をされるケースも少なくありません。
銀行としては、純資産が多くて業績のよい会社の持株会社への投資は、大きな利益となります。そのため、持株会社を設立する会社とはできる限り関係を築いておきたいと考え、最大限のサポートを受けられる可能性が高いです。
持株会社としても、今後の取引において金融機関と関係を作っておくことは重要となるため、多くのケースで融資による資金調達が一般的となっています。
②持株会社を設立
後継者が金融機関などから調達した資金を活用し、今後、承継の受け皿となる持株会社を設立します。この際、当然ですが持株会社の代表者は後継者となります。
③既存会社の株式をすべて買い取り
持株会社の設立が完了したら、持株会社が既存会社の株式をすべて買い取ります。これにより、経営権が持株会社へと移ることになり、事実上、持株会社の代表者である後継者に引き継ぐことになります。これで、持株会社設立による相続税の節税が終了となるのです。
承継後は、持株会社は子会社となった既存会社が生み出す利益の配当を受けて、融資の返済や会社の経営を実施します。金融機関が積極的に持株会社に融資を行うのも、配当金による返済能力を評価してのことです。この方法を「間接保有」と呼びます。
ちなみに、昨今は事業承継を行うケースも増えており、持株会社を設立する後継者がいない場合でも、事業承継してくれる会社や個人に売却できます。
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持ち株会社設立による節税の確度
持ち株会社を設立すれば、間違いなく相続税を節約できるのでしょうか。その確度についてまずは見ていきます。
持株会社設立では節税にならない可能性がある
節税効果を期待して、持株会社の利用により事業承継を実施する事例が増加しています。しかし、2017年ごろから持株会社による節税策が、税務署で認められないケースが相次いでいます。ただし、「持株会社の設立」自体が認められていないわけではありません。
「節税効果を期待しての持株会社の設立」が認められず、税務署に承認されないだけです。持株会社の活用による節税とは、後継者が金融機関などから借り入れを実施し、本来は相続税の算出の基礎となる資産の評価額を下げる方法です。
税務署にしてみれば単なる税金逃れの手法であり、これを見逃すほど甘くはありません。税務署からの承認がなければ、後継者はせっかく節税した税金に加えて、追徴課税の支払いを要求されます。その結果、通常の事業承継と同等、またはそれ以上の税金を支払う義務が生じます。
税務署の承認可否で借入条件は変わらない
持株会社の設立が税務署に承認されず、追徴課税の支払い義務が生じたとしても、融資の返済財源はあくまでも既存会社からの配当金ですので、金融機関は金利などの借入条件を変えることはありません。
しかし、持株会社としては予定していなかった税金を支払ったことで、資金繰りが困窮する可能性があります。税務署に承認されないリスクを知らずに、節税効果を期待して持株会社を設立する事態が相次いでいます。
節税効果ばかりを期待して、安易に持株会社を設立する行為には、リスクが伴うので注意が必要です。
持株会社設立による節税の抱えるリスク
税務署からしても、全ての持株会社を承認しないわけではなく、持株会社自体は悪ではありません。持株会社のあり方によっては、本来予定していたとおりに節税できるケースもあるため、想定通りの効果を得るためには事前に知識を得ておく必要があります。
ではなぜ、節税目的の持株会社が否認されているでしょうか。それは相続税法の64条が関係しているからです。
相続税法64条では、「不当に株式の金額が下がっている場合は、税務署長の判断で否認できる」と定められています。つまり、持株会社を利用した節税は、不当に株式の金額を下げる行為だと判断されるため、税務署で否認されてしまうのです。
税務署に否認される持株会社の特徴
持株会社の設立が税務署に否認されるケースがある一方で、どのような持株会社なら節税できるのでしょうか。税務署に否認されている持株会社は、「自社株式の評価を低くしてから、後継者に事業承継している」という特徴があります。
これが、相続税法の64条に抵触していると判断されるからです。つまり、先述の流れで事業承継をすると、税務署に否認されてしまう可能性が高いことになります。
税務署では、設立後に株式の評価を実施したときに、新設会社と承継した会社の株式評価額が大きく変わっていることに着目し、その差額によって承認するか否認するかの判断がなされます。
税務署に否認されない持株会社の設立方法
節税目的であったとしても、株式の評価を下げる前に株式の移転を実施すれば、持株会社を設立しても税務署に認められる可能性が高いです。具体的には、後継者が新たに会社を立ち上げた際に、株式の移転を時価で実施すれば問題ありません。
時価での株式移転であれば、株式の評価も下がらないので、税務署からの指摘も逃れられます。しかしこの方法では、株式を通常どおりの金額で移転しているので節税できません。したがって、本来の目的である節税効果を達成できないことになります。
目に見えて節税目的とはわからないようにして、税務署に否認されるリスクが低い方法をとったとしても、税務署から指摘されないとは限りません。この方法でも100%成功するわけではないのです。
持株会社の活用により節税する行為は、リスクのある手段であるといえるでしょう。
持株会社設立は事業承継対策にもなる
持株会社設立は、相続税対策として有効とされてきましたが、事業承継時の株式の分散リスクを回避できる効果も期待できるでしょう。中小企業では、そのための事業承継が注目を集めています。
国も中小企業による事業承継を支援しており、そのガイドラインにも持株会社を活用した事業承継を紹介しています。ここでは、事業承継の課題と事業承継対策となる理由を見ていきましょう。
事業承継における課題
後継者に事業承継する際、株式の分散リスクを回避するための対策が課題となります。事業承継時に後継者に株式を集中させられなければ、後継者が経営権を獲得できません。
相続で親族などに株式が分散することのないよう、後継者に全ての株式を引き継がせることが重要となります。
持株会社設立が事業承継対策になる理由
先述のように、事業承継の際に、後継者が持株会社を設立すれば、株式の分散を回避できます。ここからは、自社株式の承継方法を見ていきましょう。
自社株式の承継方法
自社株式の承継方法には、主に「株式贈与」「株式譲渡」「相続」の3つがあります。株式贈与は相続税を節税するために行われることが多い方法です。一般的に生前贈与とも呼ばれ、この場合、株式を承継する後継者には贈与税はかかりません。
株式譲渡では、経営者は譲渡益を獲得し、株式は相続財産の対象外です。譲渡税は20.315%と一定の税率が定められています。株式購入の資金調達が課題となりますが、株式贈与や相続では相続人に遺留分が発生しないメリットもあります。
持株会社への自社株式の譲渡
事業承継時に、後継者が持株会社を設立し、金融機関から融資を受けて、株式を買い取る手法があります。新設の持株会社は、その株式の配当金から融資を返済できるため、融資を受けやすくなることも利点といえます。
後継者が個人で株式を購入するには、多額の資金が必要です。このように持株会社への自社株式譲渡であれば、株式の分散リスクも避けられ、後継者への承継がスムーズに実施できるでしょう。
事業承継時に持株会社設立を行うと節税につながる仕組み
先述したように、事業承継時に持株会社を設立し、後継者が株式を承継できれば、節税につなげられます。個人の場合は、株式購入の資金調達に苦労するだけでなく、税負担を重く感じてしまい、承継をスムーズに進められないケースも見られます。
相続税や贈与税を節税
先に述べましたが、持株会社に株式を譲渡することで、個人であればかかるはずだった贈与税を回避できます。それだけでなく、個人に譲渡される場合とは異なり、持株会社へ株式譲渡されれば、経営者が死亡の場合も相続は発生しません。
上記のように、持株会社を設立すれば、後継者個人への税負担を軽減するメリットが得られるのです。
持株会社の株価を低く抑える節税効果
持株会社を設立する際に、金融機関から融資を受けて株式を買い取れば、自社株の評価額を低く抑えられます。そのため、株式の譲渡にかかる所得税を節税できるのです。
具体的には、持株会社が所有することになった株式の買取価格と相続税評価額の差に含み損が生じます。これにより、持株会社の相続税評価額は大きく抑えられることになります。
今後における持株会社の活用可否
持株会社の活用意義は節税だけではなく、経営の幅を広げ、会社の業績を上げる目的もあります。しかし、節税のみの観点から見てみると、持株会社とする必要性には疑問が残ります。税務署から指摘を受けにくい方法をとっても、必ずしも節税できるとは限らないからです。
自社株式の評価額を下げて、節税する方法はほかにもあります。根本的に経営者が頭を悩ませているのは「自社株の高騰化」であり、持株会社の設立以外に、節税できる方法を探した方が賢明だとの意見もあります。
もしも、節税のためだけに設立される持株会社が今後も増え続ければ、持株会社の設立自体が禁止になる可能性もあるでしょう。それでは経営の幅を広げるなど、持株会社本来の利点もなくなってしまうことになりかねません。
節税のためとはいえ、金融機関から借り入れすることは利息を支払うことになり、この利息が節税した金額よりも高くなってしまうこともあり得ます。税務署に承認されたとしても、トータルでは損をしてしまうリスクもあるのです。
持株会社の設立に節税効果があることは否定できませんが、それだけが節税する方法ではありません。まずは自社にとって一番手間や資金がかからない方法をしっかりと考える必要があります。
同時に、あらゆるリスク面も考慮して、今後の経営にとってよい方法で実行しなくてはいけません。事業承継やその際の税金対策などは、専門的な知識を持つプロに相談することが望ましいでしょう。
持株会社を用いた節税のまとめ
原則として、節税のみを期待した持株会社の設立は、税務署に否認される可能性が高く、場合によっては追徴課税も発生するため現実的ではありません。その一方で、金融機関にとってはよい話なので、積極的に融資や設立を勧めてくる可能性があります。
経営者と後継者の意思を尊重したうえで事業承継するのが大切であり、実行する際は、あらゆるリスクもよく考えなければなりません。最後に、この記事の要点をまとめると下記になります。
- 持株会社の活用による節税→相続税を減らす効果がある
- 持株会社設立によるメリット→意思決定を迅速にできる、リスクを分散できる、組織力を活用できる、人事・給与制度を最適化できる
- 持株会社設立によるデメリット→連結納税制度導入には継続適用が必要、事務負担が増える、子会社の赤字が悪影響を及ぼすおそれがある、事務費用が重複して発生する
- 持株会社の設立方法→融資で資金調達して設立後、既存会社の株式を買い取る
- 持株会社を用いた節税の抱えるリスク→不当な評価額の減少とみなされ、節税が認められない可能性がある
- 持株会社設立は事業承継対策にもなる
- 今後の持株会社の活用可否→節税目的の持株会社設立は必要性に疑問が残る
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