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2025年11月15日更新事業承継
新設分割とは?資本金の引継ぎ方法や手続き、税務上の注意点をわかりやすく解説
新設分割は、会社の事業を切り出して新会社に承継させる組織再編の手法です。本記事では、新設分割の概要や資本金の引継ぎ方法、税務上の適格要件などを網羅的に解説します。
目次
新設分割における資本金の引継ぎの基本
新設分割は、新たに会社を設立して事業を承継させる組織再編の手法です。手続きが複雑で、分割方法によって資本金の引継ぎルールも異なります。特に、承継する純資産を新設会社の資本金や資本準備金へどう振り分けるかは、会計・税務上の重要なポイントです。この記事では、これらの複雑な仕組みをわかりやすく解説しますので、ぜひ参考にしてください。
新設分割とは
ここではまず新設分割という手法の概要についてお伝えしていきます。
①新設分割の概要と目的
新設分割とは、会社の一部または全部の事業を切り出し、新たに設立する会社に承継させる会社分割の一手法です。既存の事業を独立させて子会社化するイメージに近く、分割会社一社のみで手続きを完結させることも可能です。
主な目的には、不採算事業の切り離しによる経営効率化や、成長事業を独立させて迅速な意思決定を促すことなどが挙げられます。
原則として株主総会の特別決議が必要ですが、一定の要件を満たす「簡易新設分割」では、株主総会を省略することも認められています。
②新設分割と吸収分割の違い
新設分割と同じく、会社分割の手法に類するものに吸収分割というものがありますが、これらの違いはなんでしょうか。ます吸収分割とは、既存の会社に事業の権利義務を承継させるという手法であり、いうなれば事業譲渡に近いものです。
つまり、新設分割との違いは、事業の権利義務を承継させる対象が既存の会社か新しく設立した会社であるかという点です。
ただ、新設分割と吸収分割の手続き自体の違いはあまりなく、分割の内容を定めるものが分割会社一社で完結することもある新設分割だと分割計画、既存の会社に承継させる吸収分割であれば分割契約となります。
効力発生日が新設分割だと登記が終わったタイミングに、吸収分割であれば分割契約で定めたタイミングになる、そして新設分割には会社新設の登記を行う必要があるという点にも違いがあります。
また、新設分割は吸収分割と違って会社単体で実行できるのも特徴で、吸収分割により分割する側はいい意味で経営の縮小を図ることができ、承継される側は新規事業の進出などで事業を拡大させることができます。
③新設分割で資本金が増加する際の注意点
新設分割に限りませんが、会社分割をすると分割承継会社の資本金は増加することになります。この際、資本金が1億円を超えてしまうと、税法上の扱いが中小企業から大企業へと変わってしまい、これまで受けていた税法上の優遇が受けられなくなってしまいます。
また、業種によっては下請法の対象外となる可能性もあります。さらに、信用金庫法では、常時使用する従業員数が300人を超え、かつ資本金が9億円を超える事業者は原則として会員になれないと定められています。これらの規定は2024年時点でも有効であり、分割後の資本金設定には細心の注意が必要です。
このように、会社分割をして資本金が増えてしまった結果、思わぬ落とし穴に落ちてしまう可能性もありますので注意が必要です。
新設分割のメリット・デメリットと手続きの流れ
新設分割を検討する際は、そのメリットとデメリットを理解し、適切な手続きを踏むことが重要です。
①新設分割の主なメリット
新設分割には、主に以下のメリットがあります。
- 許認可の引継ぎ:事業に必要な許認可の多くは、個別の再申請ではなく届出等で新設会社に引き継げる場合があります。
- 権利義務の包括承継:事業に関する資産や負債、契約関係などをまとめて新設会社に承継できるため、個別に移転手続きを行う事業譲渡に比べて手間が少なくなります。
- 柔軟な組織再編:不採算事業の切り離しや、成長事業の分社化による権限移譲など、経営戦略に応じた柔軟な組織再編が可能です。
②新設分割のデメリットと注意点
一方で、以下のようなデメリットや注意点も存在します。
- 手続きの煩雑さ:株主総会の特別決議や債権者保護手続き、登記申請など、会社法に定められた多くの手続きを経る必要があり、時間とコストがかかります。
- 簿外債務のリスク:意図せず簿外債務や偶発債務まで引き継いでしまうリスクがあります。
- 株主への説明コスト:株主構成が複雑な場合、新設分割の目的や効果について丁寧に説明し、理解を得る必要があります。
③新設分割の一般的な手続きフロー
新設分割は、一般的に以下の流れで進められます。
- 新設分割計画の作成・承認
- 事前開示書類の備置き
- (反対株主への)株式買取請求の通知
- 債権者保護手続き
- 株主総会での承認決議
- 新設会社の設立登記(効力発生)
- 事後開示書類の備置き
新設分割を行った際の純資産の引継ぎ
新設分割を行った際、資本金を含めた純資産の引継ぎはどのように行われるのでしょうか。新設分割には分社型と分割型があり、それぞれによって純資産の引継ぎのプロセスが異なります。ここでは分社型の新設分割、分割型の新設分割それぞれの純資産の引継ぎのプロセスをお伝えしていきます。
①分社型の新設分割の純資産の引継ぎ
分社型の新設分割とは会社内にある事業を新設分割の際に設立した分割承継会社に承継させ、その対価として分割承継会社の株式を分割会社に交付するというものです。分社型の新設分割の場合、新しく設立された分割承継会社は分割会社の株式を交付した場合、完全子会社となります。
そして、分割会社の純資産は分割事業にかかる株主資本相当額の範囲内において資本金、資本準備金、その他資本剰余金に振り分けていきます。ただし、この際は利益剰余金に振り分けることはありません。
ちなみに債務超過の新設分割の場合、マイナスとなっている株主資本変動額全てを利益剰余金のマイナスとして振り分け、資本金・資本準備金・その他資本剰余金には振り分けません。また、分割会社の方では分割事業が資本超過・債務超過であるかによって計上の仕方が変わります。
資本超過の場合は分割事業を子会社株式として計上しますが、債務超過の場合であれば負債として組織再編によって生じた株式の特別勘定として計上します。
②分割型の新設分割の純資産の引継ぎ
分割型の新設分割とは分社型の新設分割同様、分割会社の事業を分割承継会社に引き継がせますが、その際に分割承継会社の株式を分割会社の株主に交付するという点で異なっています。分割型の新設分割は分社型の新設分割を行った後に分割承継会社の株式を受け取り、その株式を株主に全て分配する構成になっている点が特徴です。
分割型の新設分割において、分割承継会社の純資産の引き継ぎ方法は2種類あります。資本金・資本準備金・その他資本剰余金に振り分けるという方法と分割会社で減少すると決められている資本金・資本準備金・その他資本剰余金・利益準備金・その他利益剰余金を分割承継会社が引き継ぐという方法です。
この際、税務での手続きにおいて新設分割が適格要件を満たしているか満たしていないかによって異なる部分が発生します。資産や負債を簿価で移転した場合は適格要件を満たした適格分割となり、移転する純資産と移転する前の純資産の比率で分割承継会社に引き継がせる資本金などとし、残りを利益積立金として引き継がせます。
対して資産や負債を時価で移転した場合は非適格要件となる非適格分割となり、分割承継会社の株式の時価を資本金の増加額として計上します。
新設分割における新設会社の株主資本の決め方
新設分割後の設立会社の株主資本に関しては新設分割の形式によって定め方が異なっています。ここでは分社型の新設分割、分類型の新設分割、共同新設分割のそれぞれの株主資本の定め方をお伝えしていきます。
①分社型の新設分割の株主資本の場合
分社型の新設分割の場合、資本金・資本準備金・その他資本剰余金の合計額が設立時株主払込資本変動額に合致するようになっています。
そして、増加資本金・増加資本準備金は設立時株主払込資本額の範囲の中で、分割会社が新設分割計画であらかじめ定めている内容に従った額になり、残った増加資本金・増加資本準備金はその他資本剰余金として扱われます。
②分割型の新設分割の株主資本の場合
分割型の新設分割の場合、対価の全てが設立会社の株式であるのなら、分割承継会社において設立した際の株主資本の各項目について適当に定めることができるようになっています。分社型の新設分割の株主資本の定め方と比べると自由度が高くなっている点が特徴的だといえます。
③共同新設分割の場合
共同新設分割は、複数の会社がそれぞれの事業を切り出し、一つの新設会社に承継させる手法です。M&Aや事業提携(アライアンス)で活用されるケースが多く見られます。
この場合の株主資本の会計処理は特殊です。具体的には、まず各分割会社が単独で新設分割を行ったと仮定して「仮の会社」の数値を計算し、その後、それらの仮会社同士が新設合併するとして最終的な株主資本を算出します。
新設分割における適格分割と非適格分割
さきほど軽く触れましたが、新設分割、吸収分割といった会社分割には適格要件を満たしているかどうかで適格分割と非適格分割に分けられます。さきほどは資産や負債の引継ぎを簿価で行っているか、それとも時価で行っているかで適格分割・非適格分割を分けていました。
実は、適格要件はそれだけではなく、その他にも会社の支配関係によってさらに細かい要件が定められています。適格要件のイメージとしては「組織再編を行った後でも支配関係が変わっていないかどうか」を見定める基準だと思ってください。
支配関係ごとの適格要件は以下の通りです。
①完全支配関係の適格要件
会社分割を行う会社が完全支配関係の場合、適格要件は以下の通りです。
| 金銭等不交付要件 | 会社分割を行った際、分割対価として「分割承継会社の株式または分割承継会社の直接完全親会社の株式のいずれか一方の株式」以外の資産が交付されていないかどうか。 |
| 按分型要件 | 会社分割の際の対価が分割会社の株主が保有している株式の数の割合に応じて交付されているものであるかどうか。 |
| 継続保有要件 | 会社分割前に会社同士の関係が完全支配関係であり、会社分割の後に分割承継会社との完全支配関係が継続しているかどうか。 |
②支配関係の適格要件
支配関係の場合、適格要件は完全支配関係の適格要件に、さらに以下の要件が加わります。
- 主要資産等引継要件:分割した事業に係る主要な資産・負債が、新設会社に引き継がれていること。
- 従業者引継要件:分割直前の時点で分割事業に従事していた従業者のうち、おおむね80%以上が新設会社の業務に引き続き従事する見込みであること。
- 事業継続要件:分割した事業が、新設会社において引き続き営まれる見込みであること。
これらを満たすことで、税務上のメリットがある適格分割として認められます。
③共同事業再編の場合の適格要件
会社分割を、支配関係のない会社同士でやった際の適格要件は、完全支配関係・支配関係の適格要件にさらに要件が追加される形になります。共同事業再編の場合の適格要件は以下の通りです。
| 金銭等不交付要件 | 会社分割を行った際、分割対価として「分割承継会社の株式または分割承継会社の直接完全親会社の株式のいずれか一方の株式」以外の資産が交付されていないかどうか。 |
| 按分型要件 | 会社分割の際の対価が分割会社の株主が保有している株式の数の割合に応じて交付されているものであるかどうか。 |
| 継続保有要件 | 会社分割前に会社同士の関係が完全支配関係であり、会社分割の後に分割承継会社との完全支配関係が継続しているかどうか。 |
| 事業移転要件 | 会社分割の際、分割事業の主要な資産・負債が移転されており、なおかつ分割事業の従業員の約8割以上が会社分割後に分割承継会社、あるいは完全支配会社の業務に従事することが見込まれているかどうか。 |
| 事業継続要件 | 分割事業が、分割分割の後に分割承継法人、あるいは完全支配会社において継続して営業されることが見込まれているかどうか。 |
| 事業関連性要件 | 分割事業と分割承継会社のうち、いずれかの事業が相互に関連しているものであるかどうか。 |
| 選択要件 | 同等規模要件、あるいは双方経営参画要件のいずれか一方を満たしているかどうか。 |
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新設分割の登記
新設分割の登記は吸収分割と異なり、分割会社の変更登記と新しく設立した分割承継会社の登記を同時に行う必要があります。そして、登記の際には特定の書類を用意しておきます。書類の種類は新設分割のパターンによって異なりますが、基本的には以下の書類を用意します。
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上記に記載した以外にも必要な書類が発生することがありますので、事前にしっかりチェックしておくことがおすすめです。
また、登記は分割会社と分割承継会社が同じ法務局の管轄区域にあるかないかで、登記のやり方が変わることがあります。同じ管轄区域にある場合は同時申請、同じ管轄区域にない場合は経由申請が使われます。
まとめ
新設分割の資本金の引継ぎに関しては、新設分割をどのような形式で実施したかによって変わってくるものであり、場合によってはかなり細かく会計処理をしておく必要があります。
新設分割の資本金の引継ぎは経営者だけではわかりづらい点が多いので、会計士など専門家と協議しながら進めておくことをおすすめします。
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株式会社日本M&Aセンターにて製造業を中心に、建設業・サービス業・情報通信業・運輸業・不動産業・卸売業等で20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、アドバイザーを統括。ディールマネージャーとして全案件に携わる。