M&Aとは?意味や動向とM&Aを行う目的・メリットなどをわかりやすく解説!
2024年11月19日更新業種別M&A
デイサービス業界のM&A・事業承継の動向|注意点と事例・案件例を解説
超高齢社会を迎え、ますます需要が高まる介護事業の一つとしてデイサービスがあります。デイサービス事業でも他業種同様にM&A・事業承継が積極的に行われています。この記事ではデイサービス法人のM&A・事業承継の動向、相場、メリット・デメリットなどを解説します。
目次
デイサービス業界を取り巻く環境
高齢化の進む日本ではデイサービスの需要が年々増加しており、デイサービス業界はそれに伴う課題も抱えています。ここでは、デイサービス業界の市場規模や動向、今後の課題などをみていきましょう。
デイサービス業界の市場環境
厚生労働省が公表した「令和4年度介護保険事業状況報告(年報)」によると、2022年度の保険給付は介護給付金と予防給付金を合わせ11兆1,354億円であり、利用者負担分を差し引いても9兆9,670億円となりました。
国内人口における高齢者の増加比率などを考えると今後さらに市場規模が大きくなるのは間違いないといえるでしょう。
要介護高齢者の増加
厚生労働省「令和4年度 介護保険事業状況報告(年報)」
出典:https://www.mhlw.go.jp/topics/kaigo/osirase/jigyo/22/dl/r04_gaiyou.pdf
日本の高齢化は急激な速度で進行しており、同時に介護保険の対象となる要介護(要支援)の高齢者数も増加の一途を辿っている状況です。
厚生労働省が公表している資料によれば、介護保険制度が開始された2000年の介護サービスおよび介護予防サービスの年間受給者は約218万人でしたが、2024年は約694万人と約20年間で3倍以上に増加しました。
そのような状況を考えると、要介護者あるいは要支援者の人数が今後さらに増加するのは間違いなく、介護給付費の上昇や介護を行う人材の不足など、デイサービスなど介護にかかわる業界の課題が多いのが実情です。
介護給付費の急上昇
要介護高齢者数の増えるにつれ、介護給付費も増加し続けています。厚生労働省の資料によれば、2000年度の介護給付費は約3.6兆円でしたが、2022年度は11兆1912億円に昇り、22年間で4倍弱に増加しました。
2025年には介護給付費が21兆円にまで上昇すると見込まれており、近年では年金や医療など社会保障制度の持続可能性が問題視されています。少子化に歯止めがかからない現状では、今後どうやって介護人材を確保するかという問題に加え、介護給付費の抑制が喫緊の課題です。
参考:厚生労働省「令和4年度 介護給付費等実態統計の概況」
倒産状況
介護業界(老人福祉・介護事業)は、深刻な人手不足と物価高による影響を受けています。2024年上半期(1-6月)の介護事業者の倒産は81件と、前年同期から50.0%増加し、2000年の介護保険法施行以降で過去最多を記録しました。これまでの最多件数は、コロナ禍の影響を受けた2020年の58件でした。
業種別では、「訪問介護」が40件(42.8%増)、デイサービスやショートステイを含む「通所・短期入所」が25件(38.8%増)、「有料老人ホーム」が9件(125.0%増)で、いずれも過去最多を更新しています。
倒産が増加した背景には、介護報酬の改定や人手不足、物価の上昇が挙げられます。介護業界ではコロナ前からヘルパーの高齢化や新規採用の難しさが課題とされていました。介護職員の待遇改善も進められていますが、他業種の賃上げが進む中で介護業界の給与水準が相対的に低く、ますます人材確保が難しくなっています。
業績低迷のため人員を増やせない事業者も多く、人手不足が解消されにくい悪循環が続いています。また、ガソリン代や光熱費、介護用品のコスト上昇を価格に転嫁できず、業績悪化に拍車がかかっています。
参考:東京商工リサーチ「2024年上半期の「介護事業者」の倒産 最多の81件 訪問介護、デイサービス、有料老人ホームがそろって急増」
デイサービス業界の課題
デイサービス業界の課題としては以下の2点が挙げられます。
人材不足
高齢化が進む日本ではデイサービスなど介護事業の需要は高まる一方ですが、デイサービス業界は慢性的な人材不足であり、離職率も全産業平均に比べるとやや高めです。
さらに厚生労働省によると2026度には年度の介護職員の不足数は25万人、2040年度には57万人まで上るとされています。
慢性的な人材不足の要因としては、他業種よりも労働条件がよくないことや人材獲得の競争が厳しいことなどが挙げられ、なかでも有資格者は新規採用が難しくなっています。また、離職率は小規模事業者ほど高くなっており、特に1年未満での離職率が他業種よりも高いのが現状です。
このような状況を打破するために国は人材確保促進政策を打ち出していますが、現時点では根本的な人材不足解消には至っておらず、高齢者の増加を考えると人材不足解消は多くのデイサービス事業者にとって大きな課題となっています。
参考:厚生労働省「 第9期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について」
IT化への遅れ
デイサービス業界にとって、介護報酬がどう改正されるかは経営に直結する大きな問題です。近年、介護報酬は切り詰められる方向であり、デイサービス業界の事業者にはいかに経営を効率化できるかが課題となっています。
経営効率向上にはIT導入が効果的ですが、デイサービス業界はIT化が遅れているのが現状です。デイサービス業界の事業者にとって、人材不足を補い、サービスの質向上や他社との差別化を図る意味でもIT化への対応が急務といえるでしょう。
現在、国は社会福祉政策の重点項目に「地域包括ケアシステムの推進」を掲げており、デイサービス業界には地域の医療福祉関係機関や専門家と切れ目のない連携の構築が求められています。
参考:厚生労働省「令和3年度介護報酬改定の主な事項について」
デイサービス業界のM&A・事業承継の動向
ここでは、介護サービスの1つであるデイサービス事業に関して、実際、現実にはどのようなM&A・事業承継の動向が見られるのか確認します。
ゼロからの立ち上げに伴う負担の低減
デイサービスなどの介護事業は一定の利用者数を確保すれば安定的に収益を上げられますが、介護士や設備の確保・所轄官庁からの許認可などが必要とされるため、ゼロから立ち上げることは容易ではありません。
しかし、M&Aで既存の事業所や社会福祉法人を買収すれば、これらのプロセスを省けるため、負担を大きく減らせます。このメリットは社会福祉法人でも得られるもので、事業の拡大を図る際に他の社会福祉法人を買収することで介護士や設備を確保することが可能です。
人材不足によるM&A・事業承継
デイサービスを含む介護事業では、慢性的な人材不足が課題です。デイサービスを行う施設には配置人員の基準が設けられており、規模や類型によって決められた人数の介護職員・看護師・生活相談員の常勤させることが定められています。
基準を満たしていない場合は介護サービスを提供することができませんが、事業者側が経験ある有資格者を一度に確保するのは難しいのが現状です。
このような人材不足を解消する手段としてM&A・事業承継が活用されるケースは多く、譲受側はM&Aによって譲渡側の経験ある介護職員や有資格者などを一度に確保することができます。
人材確保には新規採用という方法もありますが、採用コストがかかるうえ場合によっては教育にかける期間も必要です。M&Aを活用すれば効率的に人材を確保することができ、コスト・時間の削減にもつながります。
介護報酬の改定に伴う利益低下
介護事業でM&Aが増加している背景には、介護事業が抱えている問題も関係しています。まず、介護報酬がマイナス改定された場合、社会福祉法人が得られる利益は低下する点に問題があります。
そもそも介護事業は小規模の事業所が多く、こうした事業所では経営が不安定だったり、後継者が不在で存続が難しくなっていたりなど、さまざまな問題を抱えています。
しかし、デイサービスをはじめとした介護事業は公共性が高い事業であり、利用者や地域への影響を考えると廃業することが難しい事業です。とはいえ、介護報酬のマイナス改定があると経営者が事業を手離さざるを得ない状況に陥るケースもあり、M&A増加の要因になっています。
このように、デイサービスをはじめとする介護事業のM&Aの増加は、介護業界へのニーズに加え、買い手と売り手の立場、それぞれの意図がかみ合っているために発生しています。
デイサービスによるM&A・事業承継メリット
デイサービス事業を対象とするM&A・事業承継の場合、実際にどのようなメリット・デメリットがあるのか、譲受企業(買収側企業)、譲渡企業(売却側企業)に分けて紹介します。
譲受(買収側)企業のメリット
デイサービス事業を買収する場合のメリットには、以下のようなものが挙げられます。
新規エリアへの事業進出
譲受(買収)側が事業エリアを拡大したい場合、自社の力だけで進めていくとすれば事業所を開く場所を探して認可申請をし、必要な設備の工事なども行わなければなりません。
M&Aによって当該エリアでデイサービス事業を展開している譲渡(売却)側を取得すれば、サービス利用者も引き継ぐことができるため効率的かつ短期間でエリア拡大ができます。
スケールメリット
デイサービスでは利用者のおやつ・介護用品・消耗品などを購入しますが、事業規模が拡大すれば消耗品を大量購入できるので、単価を下げることでコスト削減につながる点がメリットです。
また、デイサービス業界ではIT化による業務効率向上が急務ですが、設備投資は導入規模が大きくなるほどコストメリットが得られます。
人材獲得
デイサービス事業を安定して行うためには、十分な人材を確保していなければなりません。人材不足が慢性的となっているデイサービス業界では、人材確保を目的とするM&Aも多くみられます。
譲受(買収)側にとって、譲渡側(売却)側の従業員を一度に獲得でき、新規採用だけでは確保が難しい有資格者も獲得できる点は非常に大きなメリットです。
また、譲渡側(売却)側の従業員は現場で経験を積んでいるため、利用者へのサービスの質を保ったまま事業を行なえる点もメリットとして挙げられます。
新規事業への参入
今後、デイサービスなどの介護事業は需要が高まることが確実であるため、近年では異業種からの新規参入するケースもみられます。新規事業の立ち上げは時間・コストがかかるうえ、どのくらい収益が見込めるのかは不確実なので当然リスクもあるものです。
M&Aでデイサービス事業を手がけている譲渡(売却)側企業を取得すれば、新規参入のリスクを抑えることができ、時間・コストも削減することができます。
また、譲渡(売却)側の人材やノウハウ、サービス利用者も引き継ぐことができるので、参入後の事業を効率的に進められる点も大きなメリットです。
譲渡(売却側)企業のメリット
デイサービス事業を売却する側には、主に以下のようなメリットがあります。
後継者問題の解決
後継者候補がいないために廃業を検討している場合、M&Aを活用することで事業承継を行うことができます。企業が将来的に発展していくためには事業承継を適切な時期に行うことが重要ですが、近年は後継者がいない事業者も多く、後継者問題の解決は国にとっても大きな課題です。
団塊世代の経営者の多くが引退を迎えるタイミングに来ていますが、事業承継を考えていても後継者候補がいない企業も増えています。
M&Aによる事業承継は第三者の企業を引継ぎ先(後継者)とするため、株式などの取得費用を心配する必要はなく幅広い範囲から引継ぎ先を探せる点も大きなメリットです。
従業員や利用者の不安解消
後継者不在だけでなく、なんらかの理由で現経営者が廃業という選択をした場合、従業員は雇用を失うこととなり、デイサービス利用者はほかの事業所を探さなければなりません。
デイサービス事業からの撤退や廃業は従業員や利用者にとって大きな不安となりますが、M&Aを活用すれば従業員の雇用や利用者も他社へ引き継ぐことができます。
従業員の雇用は株式譲渡を用いた場合は包括的に引き継がれますが、事業譲渡によって一部事業を売却する場合は譲受(買収)側と従業員が個別に雇用契約の巻きなおしが必要です。
売却益の獲得
中小規模事業者の場合、経営者が自身の退職金を確保していることは少ないため、引退後の生活に不安があるというケースもあるでしょう。
M&Aの場合、株式譲渡であれば株主(オーナー経営者)、事業譲渡であれば企業(法人)が対価を受けとります。事業譲渡を用いた場合は、会社(法人)が得た売却益を現経営者は退職金として得ることが可能です。
売却益の獲得はM&Aの大きなメリットであり、自社あるいは事業が譲受(買収)側から高く評価されれば得られる額も高くなります。
大手の傘下で経営強化
企業が発展・成長していくためには事業規模を拡大したり設備投資を行ったりなどの資金が必要です。ですが、中規模事業者の場合は自社のリソースだけでは難しいケースも多いです。
M&Aは一般的に譲受(買収)側のほうが譲渡(売却)側よりも規模が大きいため、その傘下となることで経営基盤の強化を図ることができます。経営基盤が強化されれば事業の成長により期待できることもM&Aの大きなメリットです。
デイサービスによるM&A・事業承継デメリット
続いて、デイサービスによるM&A・事業承継の主なデメリットを紹介します。
譲受(買収側)企業のデメリット
デイサービス事業を買収する場合のデメリットには、以下のようなものが挙げられます。
多額の資金が必要
M&Aで企業あるいは事業を買収するためには、多額の資金を用意しなければなりません。買収資金は事業のみを取得するよりも企業そのものを取得するほうが高くなり、譲渡(売却)側が優良企業であるほど高額となるのが一般的です。
ですが、多額の買収資金をかけてM&Aを実行しても、想定していた結果が得られないなどのリスクも伴います。譲受側(買収)側にとって、多額の買収資金が必要となる点やM&A後に成功するかは不確実である点はデメリットのひとつです。
従業員同士の摩擦
M&A後はこれまで違った企業風土で働いていた従業員がひとつの組織下で業務を行います。そのため、なかには従業員同士の意識の違いから摩擦が生じることもあるでしょう。
意識面を融合させるためにM&A後はPMIと呼ばれる統合作業を行いますが、それでも従業員同士がうまくいかないケースも考えられます。
従業員同士の摩擦は業務に支障をきたす可能性もあり、そのリスクを完全に排除するのは難しい点は譲受側(買収)側にとってデメリットといえるでしょう。
売り手が見つからない
自社の希望条件に合った譲渡(売却)企業は、必ずみつかるというものではありません。地域や市場動向によっては、M&Aの実施タイミングに譲渡(売却)企業がみつからない可能性もある点は、譲受側(買収)側のデメリットのひとつです。
譲受側(買収)側はよい相手先をみつかったタイミングを逃さないよう、買収を検討したら早めに準備をしておき専門家に相談しておくとよいでしょう。
譲渡(売却側)企業のデメリット
デイサービス事業を売却する側にも、主に以下のようなデメリットが存在します
買い手が見つからない可能性
譲受(買収)側と同様、M&Aのタイミングや市場動向などによっては希望条件に合った相手先がみつからない可能性もあります。
どれだけ魅力のある企業であっても、買い手先がみつかるまでに時間がかかってしまうケースもあるため、実施を検討している場合は早めに専門家へ相談して準備しておくことがポイントです。
希望条件で売却できない可能性
M&Aの最終的な条件や価額は、相手先との交渉によって決まります。交渉で自社の希望条件すべてが叶うというケースは非常に少なく、なにかしら譲歩しなければならないのが普通です。
売却価額は企業価値を交渉ベースとするため、高値での売却を実現するためにはM&A前に「磨き上げ」を行っておく必要があります。
磨き上げには財務状況の改善・技術力の強化などいくつかの方法があり、すぐに改善できない要素もありますが、可能な要素は対応しておくことがポイントです。
経営権限が小さくなる
M&Aによって自社を売却した場合、M&A後は譲受(買収)側の経営方針に従い事業運営を進めます。中小規模事業者は経営者の意向で事業運営を行っているケースが多いですが、M&Aで売却した場合は経営権限が小さくなるため物足りなさを感じることもでてくるかもしれません。
経営基盤の安定やシナジー発揮など大きなメリットが得られる一方で、経営権限の小ささをデメリットと感じるケースもなかにはあるでしょう。
競業避止義務
競業避止義務とは、売却(譲渡)対象と同一業種の事業を一定期間行わないことを取り決めるものであり、譲受(買収)側が不利益を被ることを防止することが目的です。
M&Aにおいて譲渡(売却)側が売却したのと同じ事業を立ち上げれば、ノウハウなどを把握しているため譲受(買収)側にとって新たな競合相手になってしまいます。
このような事態を避けるために定めるのが競業避止義務であり、最長で20年間までの期間を定めることが可能です。この期間は交渉で決めることができるので、実際には数年間とするケースが多くみられます。
ただし、事業譲渡を用いたケースは、最終契約に記載がなくとも競業避止義務があるため注意が必要です。
デイサービスの社会福祉法人のM&A・事業承継手法
デイサービス事業の売買方法は、企業の業態によって異なります。デイサービスを行っている法人が通常の株式会社であれば、M&A・事業承継の手法は他の株式会社と基本的に変わりません。
ただし、デイサービスを行っている施設が社会福祉法人である場合は、注意が必要です。社会福祉法人は株式会社ではないため、M&A・事業承継の手法が通常とは異なります。
社会福祉法人の経営権の獲得方法
株式会社が行う一般的なM&Aの手法は、株式譲渡による株式の取得(および、これに伴う経営権の獲得)が代表的ですが、社会福祉法人は株式を持たないため、経営する理事長や理事会のメンバーを3分の2以上入れ替えることで経営権を獲得します。そのため、株式の取得プロセスがなく、また対価を必要としません。
社会福祉法人の事業譲渡
社会福祉法人のM&A手法には事業譲渡や合併もあり、これらの手法ではプロセスが異なります。事業譲渡は事業を売買する手法であるため、現金の対価が必要です。
また、事業譲渡に伴う資産や従業員との労働契約などの引継ぎを行う際にさまざまな手続きが必要となるため、煩雑なプロセスになりやすいです。
社会福祉法人の合併
合併は複数の社会福祉法人を1つに統合する手法ですが、所轄官庁が関与する中で行わなければならないなど、法的な拘束が非常に強いです。仮に定められた手続きを違反するようなことがあれば、合併自体が無効化されてしまうおそれがあるため、実行には細心の注意が必要です。
このように、M&Aには専門的な知識が欠かせませんが、デイサービスを有する社会福祉法人のM&Aの場合は通常のM&Aと異なる部分が多いため、社会福祉法人のM&Aの経験があるか、あるいは社会福祉法人のM&Aに特化した専門家の協力を得ることが重要です。
デイサービスのM&A・事業承継の相場と費用
デイサービスのM&A・事業承継を行う当事者にとって相場価額や費用は関心の高い事項ですが、M&A・事業承継には「企業規模がこのくらいであれば売却価額はいくら」といった明確な相場はありません。
実際の価額交渉は企業価値の評価額をベースに行われますが、デイサービスの運営主体によって異なる部分もあるため注意が必要です。ここでは、デイサービスのM&A・事業承継の目安価額を簡易的に計算する方法や、運営主体による違いを紹介します。
簡易的な計算方法
実際のM&Aにおいて価額交渉ベースとなるのは、譲渡(売却)側の企業価値評価です。ですが、中小規模デイサービス事業者の場合、時価総額に営業利益の数年分を加算した額を大まかな目安と考えることができます。
計算式は「時価純資産+営業利益×2〜5年」で求めることができ、営業利益の年数は任意設定することが可能です。あくまでも目安であり実際の最終価額とは異なる場合もありますが、事前に目安を知っておけば実際の価値より安値で売却してしまうリスクを下げることができます。
デイサービスの運営主体による違い
デイサービスの運営主体には、株式会社と社会福祉法人の大きく2つがあります。運営主体がどちらかによって、M&A価額の考え方が変わるため注意が必要です。
株式会社の場合
デイサービスの運営主体が株式会社の場合、株式譲渡によって会社そのものを売却するか、事業譲渡によって一部事業のみを売却するかによってM&Aの売却相場と費用が変わります。
もちろん企業価値評価額も関係しますが、会社そのものを売却するほうが一部事業を売却するより額が大きくなり、費用も高くなるのが一般的です。
中小規模デイサービスのM&Aでは純資産価値にのれん代を加算して価額を算定することが多いですが、価額にはM&A後に想定されるシナジーやリスク、譲渡(売却)側の財務状況なども考慮されます。
社会福祉法人の場合
デイサービスの運営主体が社会福祉法人の場合、法人そのものを取得(合併)するか一部事業のみを事業譲渡で取得するかによって対価の考え方が大きく変わるたえ注意が必要です。
社会福祉法人には株式や持分がないため、経営権を取得する際は理事長と理事会メンバーを譲受(買収)側の人員と入れ替える方法で行います。そのため、取得対価は発生せず、代わりに理事長や理事会のメンバーに支払う退職金が必要です。
一方で事業譲渡によって一部事業のみを取得する場合は、株式会社と同様、デイサービス事業の価値を評価してその額をもとに交渉を進め譲渡価額を決定します。事業の価値には将来の収益性も加味されるため、DCF法によって価値を算出するケースが一般的です。
ですが、デイサービスの運営主体が小規模の社会福祉法人であれば、直近利益をベースに将来の収益性を算出する方法を採るケースもあります。
デイサービス業界のM&A・事業承継の注意点
デイサービス業界のM&A・事業承継を実施する際は、いくつか意識しておくべき点があります。ここでは、主な注意点をみていきましょう。
目的の明確化
自社あるいは事業を売却したり取得したりする理由にはさまざまなものがあります。その目的によって適したM&A手法や交渉先の絞り込み条件も変わるため、最初にM&Aを行う目的を明確化することが大切です。
M&Aプロセスを進めるうえでは、譲歩や優先順位付けなど判断が必要な場面が何度もでてきます。このような場面で間違った判断をしないためにも、M&Aを行う目的を意識して進めていくことが重要です。
建物などの老朽化確認
デイサービスの事業所(建物)や設備などがM&A対象に含まれる場合は、プロセスを進める前に状態を確認しておくことがポイントです。
譲受(買収)側は、デイサービスの事業所や設備に修理やメンテナンスが必要なのか、必要な場合は概算費用を把握し、M&Aという投資を行う判断材料のひとつにします。
メンテナンスがしっかり行われているほうが高い評価を得やすくなるので、譲渡(売却)側はM&Aの検討段階で建物や設備の状態をチェックし、必要箇所は可能な限り対応しておきましょう。
従業員の流出防止
デイサービスのM&Aでは、譲受(買収)側が人材確保を目的とするケースは多いです。もしM&Aを行うタイミングでキャリアやノウハウのある従業員・有資格者が離職してしまうと、譲受(買収)側は想定していた効果が得られない可能性もでてきます。
譲渡(売却)側は従業員の流出が起こらないよう対策をとるとともに、M&A実施については適切な時期に説明することが大切です。
専門家への相談
デイサービスのM&Aは運営主体が株式会社か社会福祉法人かによって変わりますが、どちらにおいても専門的な知識が不可欠です。また、事業所運営をしながらM&Aプロセスを進めていくため、通常業務に支障をきたせばサービス利用者へも影響が及びかねません。
自社の負担を最小限にとどめ、かつM&Aを効率的に進めていくためにも、M&Aの検討段階から専門家へサポートを依頼することをおすすめします。
デイサービスを高値で売却するポイント
デイサービス事業を高値で売却する際に知っておくべきポイントをご紹介します。
強みの把握
他社にはない強みがある場合は、高値での売却に繋がりやすいです。買い手は買収後の将来性から投資を行うかを判断します。そのため、自社にしかない強みを買い手へ伝えることがポイントになります。
ブランド力や顧客リスト、立地、優秀な社員など強みとなるものをしっかり洗い出しましょう。
経営状況の把握
高値売却には経営状況の把握し、原因を知り対策を講じることが重要です。施設の稼働率が低い原因は何か、施設の評判が悪い場合は対応する人材が原因なのか、または施設の老朽化や運営の仕組みが問題であるかなど詳細な分析を行いましょう。
原因を知り対策を行うことで、企業の価値を向上させることができます。
社会保険の加入状況チェック
5人以上の従業員を雇用しているもしくは法人の場合、一部を除き社会保険の加入が必要です。これを行なっていない場合、追徴金などの恐れがあります。
社会保険の加入が行えていない場合、簿外債務となり買い手側の印象が悪くなるでしょう。
優秀な従業員の存在
人材不足が進むデイサービス業界では、優秀な人材の獲得のためにM&Aを行うことは少なくありません。そのため、従業員の質の把握は重要です。また、中長期的な目線として優秀な人材が長く働くことができる環境や教育体制があるかと言うこともポイントになります。
デイサービス業界のM&A・事業承継の案件例
弊社M&A総合研究所が取り扱っているデイサービス業界のM&A・事業承継の案件例をご紹介します。
【関東地方/財務基盤安定】有料老人ホーム・デイサービス
近隣病院との連携により、高品質なサービスを実現しています。救急搬送時の受け入れや定期予防接種等、柔軟に医療サービスを提供することが可能です。
エリア | 群馬県 |
売上高 | 1億円〜2.5億円 |
譲渡希望額 | 1億円〜2.5億円 |
譲渡理由 | 後継者不在(事業承継) |
【定員満員/高収益】東海地方・デイサービス事業所
毎日献立から調理まで自社スタッフで対応する食事が大人気です。また、整膚師を登用し、充実したリハビリ体制を実現しています。
エリア | 中部・北陸 |
売上高 | 1億円〜2.5億円 |
譲渡希望額 | 応相談 |
譲渡理由 | 後継者不在(事業承継) |
デイサービス業界のM&A・事業承継事例
デイサービス事業関連のM&A・事業承継事例の中から代表的なものをピックアップして紹介します。
テノ.ホールディングスが翠明の介護事業を事業譲受
2024年4月、テノ.ホールディングスは翠明の介護事業をを譲り受けると発表しました。
テノ.ホールディングスは、「女性のライフステージを応援します」という経営理念のもと、育児、家事、介護をしながらも働き続けるためのニーズに応える事業展開を進めてまいりました。また、育児・家事・介護を軸とした新規事業開発を成長戦略の一環として位置付けています。
翠明は岡山にあり、サービス付き高齢者向け住宅運営やデイサービス運営している会社です。
今回のM&Aにより、2019年から介護事業(デイサービス)へ新規参入を行なった介護事業のさらなる拡大へつながるとしています。
エフビー介護サービスがスマートケアタウンを子会社化
2023年7月、エフビー介護サービスは長野県のスマートケアタウンを完全子会社化すると発表しました。譲渡側のスマートケアタウンは、通所介護事業所と小規模多機能型居宅介護の2つを長野県岡谷市で運営しています。
エフビー介護サービスは、デイサービス・有料老人ホームなど介護事業所の運営や、介護用品の販売・レンタル事業を手掛ける企業です。
エフビー介護サービスは、関東・信越エリアに118カ所の介護事業所を持っており、スマートケアタウンの子会社化によって事業エリアを拡大するとともに人員配置効率化や介護サービスの充実、業務効率の向上を図ることで収益性の拡大を目指すとしています。
SOMPOケアがエネルギア介護サービスを子会社化
2023年7月、SOMPOケアは広島県のエネルギア介護サービスを完全子会社化したと発表しました。譲渡側のエネルギア介護サービスは、デイサービス・訪問介護・居宅介護などの事業や老人ホームの運営などを行う企業であり、最終株主は中国電力です。
SOMPOケアは介護事業を専門とし、有料老人ホームやグループホームの運営、居宅サービス事業などを展開しています。本M&Aにより、SOMPOケアは中国電力と協力し、中国エリアでの高齢者向け施設の開発などを進めていくとしています。
出光興産がQLCプロデュースを完全子会社化
2021年4月、出光興産は介護事業を手掛けるQLCプロデュースを完全子会社化したと発表しました。QLCプロデュースは、直営・フランチャイズの両形態による自立支援デイサービスを全国163事業所で運営しています。
出光興産の主軸はエネルギー開発・供給事業や高機能素材の製造販売事業などですが、近年の国内における石油需要減少をうけ、全国の自社既存販売店を活用した新規事業の展開を考えていました。
QLCプロデュースを子会社化は介護事業への新規参入が目的です。今後は全国にある既存販売店を活かしたサービスの提供など、事業多角化に取り組むとしています。
ユニマット リタイアメント・コミュニティがアメニティーライフを子会社化
2020(令和2)年10月、ユニマット リタイアメント・コミュニティが、三井住友建設の子会社アメニティーライフの株式を取得する契約を締結しました。全株式を取得し完全子会社化する契約で、株式譲渡の実行予定日は2021(令和3)年2月です。
ユニマット リタイアメント・コミュニティは飲食事業とともに介護事業も行っている会社です。一方、アメニティーライフは、介護付き有料老人ホーム「アメニティーライフ八王子」(東京都八王子市)の運営事業を行っています。
ユニマット リタイアメント・コミュニティとしては、同地域で行っている既存の介護事業とのシナジー効果をもくろみ、このM&Aを実施しました。
広域社会福祉会がケアサービスに事業譲渡
2020年11月、広域社会福祉会は、これまで行ってきた訪問介護事業をケアサービスに事業譲渡しました。譲渡価額は、500万円です。
東京都大田区にある広域社会福祉会は、同地区で2事業所を持ち、デイサービスその他の介護事業を行ってきました。一方、ケアサービスは、居宅介護支援・デイサービスなどの訪問介護や福祉用具貸与・販売、シニア向け施設紹介、クリーンサービスなどを行っている会社です。
ケアサービスとしては、広域社会福祉会の訪問介護事業を譲受することで、同エリアのシェア拡大やシナジー効果が得られると判断しました。
ソラストが日本エルダリーケアサービスを子会社化
2020年10月、ソラストが、日本エルダリーケアサービスの全株式を取得し、完全子会社化しました。株式の取得価額は23億円です。
ソラストは、医療事務受託事業、保育事業、介護事業などを行っています。一方、日本エルダリーケアサービスは、首都圏を中心に122事業所で訪問介護・居宅介護支援・デイサービスを運営している会社です。
ソラストとしては、日本エルダリーケアサービスが子会社に加わり、グループ全体で600事業所を超えました。まさにスケールメリットを得られ、事業の強化・拡大が図れるものとしてM&Aを実施しました。
パナソニック エイジフリーがユニマット リタイアメント・コミュニティに事業譲渡
2020年5月と6月、パナソニック エイジフリーが、介護サービス施設のうちの7施設について、ユニマット リタイアメント・コミュニティに事業譲渡しました。いずれの施設でもデイサービスが行われています。事業譲渡された施設の所在地は、山口県・鳥取県・香川県・徳島県・愛媛県・千葉県・埼玉県です。
ユニマット リタイアメント・コミュニティとしては、「そよ風」のブランド名で全国展開している高齢者介護事業を強化する目的で事業譲受しています。各施設は、譲渡と同時に「そよ風」が付いた施設名に変更されました。
アサヒサンクリーンがツクイに事業譲渡
2020年4月、アサヒサンクリーンは、訪問介護事業をツクイに事業譲渡しました。譲渡価額は公表されていません。アサヒサンクリーンは、静岡県で訪問介護・デイサービス・ショートステイ・グループホーム事業を行ってきました。
1983(昭和58)年から介護事業を行ってきたツクイは、全国で各種介護事業を展開しています。この事業譲渡により、アサヒサンクリーンが持つ静岡県内の10カ所の事業所を譲受し、同エリアにける事業拡大を果たすと発表しています。
ソラストが恵の会を子会社化
2020年3月、ソラストが、2社の「恵の会」の全株式をそれぞれ取得し、両社とも完全子会社化しました。2社の恵みの会とは、「株式会社恵みの会」と「有限会社恵みの会」の2社であり、同じ代表者および同じ株主の会社です。取得価額は、2社分の合計で33億7,300万円でした。
恵みの会は2社とも大分県大分市に所在し、同エリアでデイサービスその他の介護事業を26カ所の事業所で行っています。介護事業を全国展開しているソラストにとって、大分県は未進出のエリアでした。このM&Aによって、大分県への進出が実現しています。
クレアバーグがケアサービスに事業譲渡
2020年2月、クレアバーグが、訪問看護事業をケアサービスに事業譲渡しました。なお、譲渡価額は公表されていません。
クレアバーグは、東京都の江戸川区と墨田区にそれぞれ事業所を1カ所ずつ設け、デイサービスなどの訪問看護事業を行ってきました。一方、ケアサービスは、東京23区を中心としたデイサービスなどの介護事業を行う会社です。
ケアサービスとしては、介護事業と訪問看護事業の親和性が高いという判断のもと、東京23区内の事業基盤強化につながると判断し、事業を譲受しています。
デイサービス業界のM&A・事業承継時におすすめの相談先
デイサービス業界のM&A・事業承継時におすすめの相談先をご紹介します。
金融機関
M&A支援に特化した部門を新設する金融機関が増加しています。特に大手の投資銀行やメガバンクでは、資金調達や戦略策定といったM&Aに必要な多方面からのサポートを行い、ファイナンシャルアドバイザー(FA)として取引の円滑化を図っています。
こうした専門支援により、企業は資金調達や事業承継といった難しい課題への対策が容易になり、専門家の助言を活用することで取引成功の確率が上がります。
ただし、大手金融機関は大型案件を優先する傾向が強く、中小企業にとっては十分なサポートが得にくい場合もあります。そのため、企業は自身の規模やニーズに合った支援先を選定することが重要です。また、アドバイザリー報酬が高額になることがあるため、事前の料金確認も必要です。
公的機関
近年、事業承継やM&Aをサポートする公的な支援体制が急速に整備されています。全国47都道府県に設けられた「事業承継・引継ぎ支援センター」では、後継者不足に直面している中小企業に向け、事業承継やM&Aに関する情報提供や助言、企業マッチングサービスを無料で提供しています。
この充実したサポートにより、地方の中小企業も専門的な支援を受けやすくなり、個人事業主向けのサポートも強化されています。また、必要に応じてM&A仲介会社や専門家の紹介も受けることが可能です。
ただし、民間の仲介会社に比べると対応のスピードや柔軟性に限界があるため、利用の際にはこの点を考慮することが重要です。こうした公的支援機関は、事業承継やM&Aを検討している企業にとって、魅力的な選択肢の一つと言えます。
M&A仲介会社
M&A仲介会社は、企業の売買に関する各種手続きを総合的にサポートする専門機関です。売り手と買い手双方に向けて、取引先の選定から交渉支援、進捗管理、企業価値の評価、契約書の作成まで、幅広いサービスを提供し、取引がスムーズに進行するよう支援を行います。
特に、豊富なネットワークを活かして最適な相手を見つけることに強みがあり、成約率の高さも特徴のひとつです。また、M&A経験の少ない企業には、わかりやすいアドバイスを提供し、安心して手続きを進められるようサポートします。
ただし、仲介会社を利用する場合、着手金や中間報酬などの費用がかかることがあるため、事前に料金を確認することが欠かせません。コストを抑えたい場合には、成功報酬型の仲介会社を選ぶのも一つの方法です。
デイサービス業界のM&A・事業承継まとめ
デイサービスをはじめとした介護事業は、市場拡大が確実であるものの、さまざまな要因により倒産件数が増加している業界です。そのような環境下で事業を継続するうえで、経営戦略の1つとしてM&A・事業承継が有効的な手段となります。
M&A・事業承継を成功させるためには、介護業界に関する知見を十分に備えたM&A仲介会社などの専門家からサポートを受けることをおすすめします。
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