2024年4月24日更新会社・事業を売る

会社分割における債権者保護手続とは?特徴、手順・流れを解説

会社分割を行う際は、債権者保護手続を取ることが必要です。そこで本記事では、債権者保護手続の内容・会社分割の債権者保護手続の対象者、会社分割の債権者保護手続の期間、債権者保護手続が不要となる条件などを中心に幅広く解説します。

目次
  1. 会社分割とは
  2. 会社分割における債権者保護手続とは
  3. 会社分割における債権者保護手続の手順・流れ
  4. 会社分割で債権者保護手続が不要となる条件
  5. 会社分割における債権者保護手続きの官報公告とは
  6. 会社分割における債権者保護手続まとめ

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会社分割とは

一般的にM&Aでは株式譲渡や吸収合併などの手法が用いられますが、会社分割もM&A手法の1つです。しかし、会社分割は株式譲渡や吸収合併と比べると知名度が低く、どのような手法であるか把握している経営者の方は多くありません。

株式譲渡などのシンプルなM&A手法に比べて、会社分割には注意しなければならない点も多く、特筆すべき注意点は債権者保護手続です。本記事では、会社分割における債権者保護手続について、期間や対象者・不要となる条件・議論される話題などを中心に解説します。

はじめに、会社分割に関する基礎的な知識を取り上げます。組織再編行為に分類される会社分割は株式譲渡・事業譲渡などとは大きく異なる手法であるため、M&Aの経験者の方も概要を改めてご確認ください。

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会社分割の概要

会社分割とは、ある事業に関して保有する権利・義務を他の会社に包括的に移転するM&A手法の1つです。簡単にいうと、ある事業を会社内から分離したうえで他の企業に受け渡す方法をさします。会社分割では対価として株式が交付されるケースが一般的ですが、現金などを対価として交付することも可能です。

会社分割の種類

会社分割には、大まかに4パターンの方法が存在します。以下では、それぞれの方法の概要を順番にまとめました。

吸収分割と新設分割

まずは、1つ目の区別です。吸収分割とは、株式会社または合同会社が事業に関して有する権利義務の全部または一部を分割した後に他の会社に承継させる行為をさします。これに対して、新設分割とは、会社の事業を切り離したうえで、新しい会社として設立する組織再編行為のことです。

上記を簡単に説明すると、会社分割によって分離した事業を既存企業に移転する場合は吸収分割、新しく設立する会社に移転する場合は新設分割です。この点に注意しながら双方を区別・把握しましょう。

分社型分割と分割型分割

会社分割は、「交付される承継会社(事業を引き継ぐ会社)の株式を誰が保有するか」によっても2つに分類されます。分割会社自身(分割により事業を切り出す会社)が保有する場合は「分社型分割」であるのに対して、分割会社の株主が保有する場合は「分割型分割」です。これらは税務上、「物的分割(分社型分割)」と「人的分割(分割型分割)」に考えて区分されています。

前者では分割法人の事業年度が継続する一方で、後者では承継法人に移転する利益積立金の確定が必要となるため、分割法人の事業年度が分断される点が大きな特徴です。

会社分割を用いる目的

会社分割は、主に3つの目的のもとで実施されます。

  • グループ内再編
  • 合弁企業の設立
  • 事業の売買

それぞれの項目を順番に詳しく紹介します。

グループ内再編

会社分割の利用における最も主要な目的は、グループ内再編です。グループ内再編とはグループ内の経営資源を効率的に再配分する行為であり、会社分割を利用すれば重点事業や不採算事業の分社化により効率的な経営を実現できます。

会社分割で、子会社同士による事業の入れ替え・親会社から子会社への事業移転などを通じて株式を対価として交付すれば、円滑にグループ内再編を実行可能です。とはいえ、税務上の問題を考慮するならば、グループ内再編が目的である場合は適格会社分割に該当するように設計する必要があります。

もともと事業の売買では、モノの売買と同様に利益や損失を確定させて税金を計算する必要がありますが、適格会社分割の要件を満たせばM&Aに関する税金は非課税です。

合弁企業の設立

会社分割を用いて合弁企業を設立するケースも存在します。合弁企業の設立が目的であれば会社分割のうち新設分割を選択しなければなりません。新設分割によって複数企業が事業を切り離したうえで新設会社に集約すれば、合弁企業を設立できます。

各企業の良い面を集められるため、大きなシナジー効果を期待できます。

事業の売買

もともと会社分割はグループ内再編を目的に活用されるケースが多いですが、最近では事業売買の目的で利用されるケースも見受けられます。事業譲渡とは違い、会社分割では買い手側にまとまった現金が不要であるうえに、雇用契約や取引先との各種契約を包括的に承継できる点も大きなメリットです。会社分割を事業譲渡の代替手段として積極的に活用すると良いでしょう。

会社分割は認知度が低いために、M&Aの際に検討されないケースも多いです。しかし、株式譲渡や事業譲渡のみの検討では、売り手と買い手の両者の希望を満たせずに交渉が中断してしまった事例も見られます。

日本のM&A市場は全体的に売り手市場になりやすく、条件の合う良い相手と巡り合える可能性は決して高くありません。しかし、買い手側がM&A手法の幅を広げれば、買収可能な売り手が増える可能性があります。

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会社分割における債権者保護手続とは

会社分割を行う際は、必ず債権者保護手続きをしなければなりません。本章では、会社分割の際に必要となる債権者保護手続について、実施タイミングや対象者など、基本的な事項を解説します。

必要になるタイミング

債権者保護手続は、会社分割の当事会社が分割契約を締結し、分割計画の事前開示を実施する段階で必要となります。一般的には官報による公告と知れたる債権者への個別催告を実施しますが、官報と電子公告により個別催告を省略する選択肢も取ることも可能です。

手続の重要性

新設分割を実施すると、他社に事業を引継ぐ分割会社は分割後の資産状況が変わる可能性があります。債権者が新設分割計画をあらかじめ知らされていなければ、分割会社の債権がいずれかの会社に移動することで不利益を被るおそれもあるでしょう。

もしも事業を多角的に展開していた会社が分割すれば、分割する事業の業績や財産の状況によっては分割会社の債権者のリスクが高まる可能性があります。こうした状況下で債権者の利益を保護し、異議を述べる機会を与えるのが債権者保護手続の目的です。

手続の対象者

会社分割の債権者保護手続では、原則として会社分割の影響によって債務履行請求を行えない債権者を対象とします。

債務履行を請求できる(会社分割による影響がない)債権者に対しては、保護手続は不要です。ただし、吸収分割の承継会社は、全員が会社分割に対して異議を申し立てられます。

また、新設分割であるうえに分割型分割を実施する場合には、すべての債権者が会社分割に対して異議申し立てが可能です。

手続の期間

会社分割の債権者保護手続では、債権者に対して最低1カ月の異議申し立て期間を設定する必要があります。会社法の定めにより、債権者保護手続が完了していなければ会社分割の効力は発生しません。会社分割の効力発生日から数えて、最低1カ月以上前から債権者保護手続を開始する必要があります。

M&Aによる会社分割ではクロージングまでに数カ月単位の期間が必要となるため、会社分割を行う際はスケジュール設定に余裕を持ちましょう。

会社分割における債権者保護手続の手順・流れ

会社分割では原則として債権者保護手続が必要となるため、具体的な手続き内容を以下の項目に分けて取り上げます。

  1. 官報による公告
  2. 知れたる債権者への個別催告
  3. 異議を申し立てられた際の対応

それぞれの項目を順番に詳しく紹介します。

①官報による公告

官報による公告とは、取引相手や債権者に重大な影響を与え得る事項を決定した際にその旨を、官報(国の機関紙)を用いて知らせる行為のことです。基本的には、法律上の義務にもとづいて官報公告を実行します。会社分割を行う際、官報公告で求められる記載内容は以下のとおりです。

  • 会社分割に関する基本事項
  • 会社分割を行う企業の商号と住所
  • 会社分割を行う企業の計算書類
  • 資本金・負債の変動金額
  • 会社分割に対して異議を申し立てられる旨

上記の項目の中でも、特に「会社分割に対して異議を申し立てられる旨」が重要です。債権者は自身に不利益が生ずると判断すれば会社分割に異議を申し立てられます。もしも異議を申し立てたならば、当該会社に債権を弁済してもらうなどの対応を求めることが可能です。

②知れたる債権者への個別催告

官報による公告が完了したら、次は知れたる債権者への個別催告を実施します。「知れたる債権者」とは、会社分割の影響で債務者が変わる債権者のことです。このプロセスでは、会社分割により債権回収が危うくなる債権者に対して個別催告を実行します。

個別催告の方法は定められていないため、催告方法は自由に決定できます。個別催告の内容に関しては、官報公告と同一の内容でも問題ありません。

③異議を申し立てられた際の対応

債権者保護手続を行った結果として、異議を申し立てられるケースがあります。このケースでは「債権者に対して弁済を実行する」もしくは「弁済に値する担保提供や財産信託を実施する」必要がありますが、債権金額が少額であるなど債権者への弁済に対する影響が小さい場合には会社分割の続行が可能です。

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官報公告・個別催告を活用するうえで知っておきたいこと

ここでは、官報公告・個別催告を活用する際に知っておきたい具体的な知識をまとめて紹介します。まず取り上げるのは、官報公告・個別催告で通知すべき事項です。

  • 会社分割・新設分割する旨
  • 会社の商号・住所
  • 分割・承継会社の計算書類に関する事項として法務省令(会社則188条)で定めるもの
  • 債権者が、1カ月を下回ることのできない一定の期間内に異議を述べることができる旨

分割会社が定款により「時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙による公告または電子公告により行う旨」を定めているケースでは、官報による公告に加えて日刊新聞紙による公告または電子公告を実施することで、個別的な催告の省略が可能です。以上、官報公告・個別催告に関する知識を紹介しました。

このように、会社分割では状況に応じて煩雑な手続きが必要となるため、実施を検討する際はM&Aの専門家のサポートがおすすめです。

M&A総合研究所には豊富な知識と経験を持つアドバイザーが在籍しており、これまでに培ってきたノウハウを生かしてM&A手続きをフルサポートしております。通常M&Aでは半年〜1年程度の期間が必要ですが、M&A総合研究所ではスピーディーなサポートを実践しており、最短3カ月での成約実績を有している点も強みです。

料金体系は、成約するまで完全無料の「完全成功報酬制」です(※譲渡企業様のみ。譲受企業様は中間金がかかります)。相談料は無料となっておりますので、M&Aによる会社分割の実施に不安がある場合はお気軽にお問い合わせください。

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会社分割で債権者保護手続が不要となる条件

最後に、会社分割において債権者保護手続が不要となる条件を取り上げます。会社分割では原則として債権者保護手続が必須であるものの、一定条件を満たす場合には不要です。結論から述べると、会社分割後も債権者における債権回収の可能性が低減しない場合は、債権者保護手続が不要です。具体的にいうと、以下の2つのパターンに該当すれば、債権者保護手続は必要ありません。

  1. 会社分割によって債務移転が生じないケース
  2. 重畳的債務引受設定のケース

それぞれの項目を順番に詳しく紹介します。

①会社分割によって債務移転が生じないケース

会社分割により債務の移転がまったく発生しないのであれば、債権者保護手続は不要です。債務が移転しない場合、債務者の資産状況が変化しないために損害はまったく発生しません。

②重畳的債務引受設定のケース

会社分割を実行すると、基本的に承継会社が債務を負います。例外的に引き続き分割会社が債務を保証する場合、債権者は従来どおり債務者に請求可能です。会社分割の前後で債権回収の可能性に変動がないことから、債権者保護手続は不要とされます。

上記を踏まえると、会社分割の契約において重畳的債務引受を設定する場合も、債権者保護手続は不要です。重畳的債務引受とは、債務をもらい受けた承継会社が債務を支払えなくなった際に分割会社が債権者に対して支払う行為をさします。これは会社分割における連帯保証です。重畳的債務引受を設定すれば、債権者は従来どおり債務を請求できるため、債権者保護手続は不要です。

会社分割における債権者保護手続きの官報公告とは

会社分割における債権者保護手続きの官報公告の注意点や時期について紹介します。

官報公告の注意点

会社分割の当事会社は官報公告により、該当する債権者に知らせることが定められています。官報公告は依頼から実際に掲載されるまで、おおよそ1週間〜2週間程度かかってしまいます。そのため、予定の登記申請日から日数を逆算し、掲載までの日数についてもスケジュールに組み込む必要があるでしょう。

公告を行う時期

掲載または到達までの期間に加え、官報に公告を掲載してから1ヶ月以上の異議申立期間を設けなければ、会社分割の効力が生じません。株主総会決議前に公告を行い、株主総会決議後は速やかに行為の効力が発生するように進める必要があります。

会社分割における債権者保護手続まとめ

本記事では、会社分割の債権者保護手続を解説しました。会社分割では少なからず債権者に影響を与えるため、実施する際は会社法に基づく債権者保護手続を遂行する必要があります。債権者保護手続には最低でも1カ月の期間がかかるため、計画的に実行しましょう。

債権に変動がないケースや引き続き債務者に請求できるケースなどでは、例外的に債権者保護手続は不要です。会社分割を実行する際は、債権者保護手続の有無を事前に確認しておくと、プロセスをスムーズに進められます。

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