2022年12月1日更新会社・事業を売る

自社株(非上場株式)評価の計算方法とは?簡易的な方法、引き下げのポイントもわかりやすく解説

非上場企業は株式公開していないため、株価の客観的な数値が分かりません。そのため、M&Aや相続の際は定められた基準に従って自社株評価を行う必要があります。本記事では、非上場企業の自社株評価のやり方をわかりやすく解説します。

目次
  1. 自社株(非上場株式)評価の方法
  2. 自社株(非上場株式)評価の計算手法
  3. 自社株(非上場株式)評価が高い背景
  4. 自社株(非上場株式)評価の引き下げポイント
  5. 自社株(非上場株式)評価が適用できないケース
  6. 自社株(非上場株式)評価の計算方法まとめ

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自社株(非上場株式)評価の方法

2017年度税制改正により、国税庁が示す取引相場のない株式の評価方法が変更されています。全部で3つの方法が用意されていますが、会社側が完全に自由に選択できるわけではありません。

上場株式・気配相場等のある株式以外の株式をさしており、M&Aや事業承継で株式を取得する株主は、株式発行会社の判定基準に従って自社株評価を行う必要があります。

適切な方法を決定するために全部で4つのステップを進めていく必要があります。この章では、各ステップの詳細を確認していきます。

【自社株評価のステップ】

  • 株主の判定
  • 会社規模の判定
  • 特定会社の該当判定
  • 評価方法の決定

株主は誰か?(株主の判定)

株主の判定は、同族株主と同族株主以外の判定を行います。同族株主は原則的評価方式、同族株主以外は特例的評価方式を用いて自社株評価を行う必要があります。

同族株主とは、一人の株主及びその同族関係者の議決権総数が30%以上の場合におけるその株主と同族関係者のことです。ただし、議決権総数が50%以上の会社である場合はその株主及び同族関係者をさします。

自社株の評価方法が変わる理由は、同族株主がいる会社は特定の株主グループに株式が集中している状態になりやすく、同族株主がいない会社は比較的株式が分散している状態になりやすいためです。

会社の規模はどれくらいか?(会社規模の判定)

従業員数や取引金額を基準に行います。会社規模を細かく区分する理由は、非上場企業の中には上場企業に見劣りしないくらいのものから個人事業と同等くらいのものまで幅広い規模の企業が存在するためです。

従業員数が70名以上の場合は大会社に区分(2017年度税制改正により100名→70名に変更)されます。70名未満の場合は取引金額を基準に会社規模を判定します。
 

卸売業 小売・サービス業 その他 会社規模の判定
取引金額
30億円以上 20億円以上 15億円以上 大会社
7億円~30億円 5億円~20億円 4億円~15億円 中会社の大
3.5億円~7億円 2.5億円~5億円 2億円~4億円 中会社の中
2億円~3.5億円 0.6億円~2.5億円 0.8億円~2億円 中会社の小
2億円未満 0.6億円未満 0.8億円未満 小会社

取引金額とは、損益計算書の売上高のことです。評価タイミングの直前1年間における企業の主たる商品・サービスの提供の対価として獲得した売上の合計額がそのまま適用されます。

単純な売上高なので経費などは差し引く前の金額です。今回は会社の規模の指標を得ることが目的なので、利益ではなく売上高を重視する形となっています。

従業員の範囲

従業員とは、評価対象会社で使用されている個人のことであり賃金を支払われる者すべてです。一般的には正規雇用者のことをさすことが多いですが、ここでは事業に従事するすべての者が含まれています。

範囲基準のポイントは、雇用形態ではなく労働時間を基準としている点です。課税タイミング直前の1年間を通して使用されており、就業規則で定められた1週間あたりの労働時間が30時間を超える個人に関しては、一人の継続勤務従業員としてカウントします。

アルバイトやパートなどの非常勤の使用人に関しては、1年間の労働時間を合計した値から1,800時間を除した数値を人数としてカウントします。過程で小数点以下の端数が生じた場合は、「2.1であれば2名超え」「1.9ならば2名以下」として処理します。

上述のように正社員とパートでカウントの方法は違いがみられますが、いずれの場合も従業員として含まれます。ただし、社長や理事長などの役員に関しては使用人に該当しないため、ここでいう従業員にはカウントされません。

特定会社ではないか?(特定会社の該当判定)

特定会社とは、特定の資産の保有バランスが著しく高い会社や、業態が一般的な会社とは異なる会社をさしています。

特定会社は一般的な会社とは異なる事情が多いため、計算が煩雑になることが多いです。その際は、国税庁が公開している評価明細書を利用することで比較的容易に株価の計算が可能となっています。

株式保有特定会社とは

会社の有する総資産の内に占める株式等の合計額が50%以上の会社をさしています。株式の資産バランスが多すぎるために一般的な事業会社と認めらないケースです。

一般的な会社と比較すると自社株評価は高くなります。税金負担の増加に直結するためできる限り避けたいので、株価引き下げや株式以外の資産のバランスを増やすなどの対策が求められます。

他の資産のバランスを増やすほか、保険契約や信託契約に組み替えるなども有効ですが、合理的な理由が伴わない場合は変動がなかったものとされることがあるため、注意しなくてはなりません。

なお、基本的に節税対策の一環として持株会社化などを実施した会社がほとんどなので、事業を目的に設立された会社であれば判定を受けることは滅多(めった)にありません。

土地保有特定会社とは

会社の有する総資産の内に占める土地等の合計額が一定のバランスを超えている会社をさしています。バランスは会社の規模によって70%もしくは90%に区分されます。

管理会社としての性質が強い会社を一般的な事業会社と同等の株価評価を行うことは不適切とされ、課税に関して公平を保つために純資産価額方式を用いなければならないと定められています。

対象の土地は、所有目的や所有期間に関係なく、所有している土地全てです。地上権、借地権、販売用など事業に用している土地、遊休資産まで含まれます。

万が一、事業会社が判定を受けてしまうと税金負担増加のデメリットだけを受けてしまうことになります。土地等の保有比率を引き下げるなどの対策が必要となるでしょう。

比準要素数1の会社とは

1株当たりの3つの比準要素の内、いずれか2つが0であり、かつ、直前々期末のそれぞれの金額の内、いずれか2つ以上が0である会社をさしています。

2期連続で2つの要素が0となり1つの要素でしか判断できない会社は現状の方式を適用するには不適切という判断のもと、特定会社と判定されて特別な評価方式が適用されることになります。

なお、判定の際の端数処理に関しては切り捨てです。端数処理を行って評価明細書の記載が0円となった場合は要素も0とします。

自社株の判断方法は?(評価方法の決定)

ここまでの3つのステップが完了したら適切な評価方式が決定されます。非上場企業の自社株評価方法の最終的な決定基準は下図にようになります。
 

ステップ1.株主の判定 同族株主 同族株主以外
原則的評価方式 特例的評価方式
ステップ2.会社規模の判定 ・大会社
・中会社の大
・中会社の中
・中会社の小
・小会社
ステップ3.特定会社の該当判定 特例会社に該当しない 特例会社に該当する
ステップ4.評価方法の決定 類似業種比準価額方式と純資産価額方式の併用
または
純資産価額方式のうちいずれか低い方
純資産価額方式 配当還元方式

併用に関しては、両者を一定のバランスで取り合わせる折衷方式です。規模に合わせたバランスを用いることでより適正な値を算出しやすくなる特徴があります。

単体で扱う方式よりも複雑な印象を受けますが、計算方法を把握しておくことで適正な値を算出できるようになります。今回登場した3つの方式の計算方法に関しては、次章で詳しく解説します。

【関連】自社株の相続に関する基礎知識や相続税対策を解説!
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自社株(非上場株式)評価の計算手法

前章で取り上げた判定基準により自社株評価に利用する評価方法が決まったら計算を行います。この章では、自社株評価の計算方法を詳しく解説します。

【非上場の自社株評価の計算方法】

  • 類似業種比準方式
  • 純資産価額方式
  • 配当還元方式

類似業種比準方式

評価会社の事業と類似する業種に属する上場企業の株価を参考価格として、自社株評価する方法です。市場データを考慮できるため、客観性に優れた評価方法とされています。

ただし、上場企業の株価をそのまま非上場企業の株価とするのは適切ではないです。非上場企業の方が株価は低いと考えられるため、そのまま申告すると余分に納税してしまう事態にもなりかねません。

上場企業の株価以外のさまざまな要素も考慮した上で調整を行いつつ計算します。この調整が非常に複雑となっており、非上場企業の自社株評価が難しくなる原因と考えられています。
 

  • 自社株評価額 = A × (b/B + c/C + d/D)/3 × E
  • A = 類似業種株価
  • B = 類似業種の1株あたりの配当金
  • C = 類似業種の1株あたりの利益
  • D = 類似業種の1株当たりの純資産
  • E = 調整率(大会社0.7、中会社0.6、小会社0.5)
  • b = 自社の1株当たりの配当金
  • c = 自社の1株当たりの利益
  • d = 自社の1株当たりの純資産

調整率に関しては国税庁により会社の規模に応じて定められた値です。なお、2017年度税制改正により大幅な変更がされているため、古い計算式を使わないように注意しなくてはなりません。

純資産価額方式

評価対象会社の課税タイミングにおける資産から負債及び評価差額に対する法人税額等相当額を減算して自社株評価する方法です。

会社を解散した場合、株主に還元される金額はどの程度になるのかがわかります。この方法は、複雑な計算になりがちな非上場の自社株評価を簡易的にできるメリットがあります。
 

  • 自社株評価額 = (A - B - C)/D
  • A = 自社の純資産総額
  • B = 自社の負債総額
  • C = 評価差額に対する法人税等相当額
  • D = 課税タイミングにおける発行済株式数

配当還元方式

非上場企業が支払う配当金をベースに自社株評価する方法です。同族株主以外の株主だけが利用できる評価方法となっています。

会社の資産全体を対象とする他の方式とは違い、配当金という一部に着目するため自社株評価を低めに行いやすい特徴があります。

他の方式より優遇されている理由は、少数株主は配当金を受け取るくらいしかうまみがないためです。株式保有率が高い筆頭株主は経営に対する干渉力を持ちますが、少数株主は経営に関する発言権は持ちません。

同じ基準で自社株評価をすると少数株主にとって不公平な状況が生まれてしまうため、税制上で優遇措置が取られています。
 

  • 自社株評価額 = A/10% × B/50円
  • A = 株式に係る年金配当額
  • B = 1株当たりの資本金額等

【関連】事業承継の株価算定

自社株(非上場株式)評価が高い背景

自社株(非上場株式)は国税庁の定めた評価基準によって計算されますが、一般的に評価は高くなります。というのは、分類ごとの一定基準に当てはめて評価を計算するからです。

また、非上場企業に内部留保もある場合も、評価が高くなりやすい傾向にあります。非上場企業は社会的信用度が低く設定されることも多く、金融機関などから融資が受けにくいこともあるためです。

資金融資が難しいことを考え業績が好調なときに資金をためておくので、結果として内部留保が大きくなりやすく、これが非上場株式における自社株評価を高める要素のひとつとなっています。

資産に含み益が生じている場合も高くなるでしょう。純資産価額に相続税の要素がプラスされるため、資産価値が取得時よりも高くなっている場合は、自己株評価も高くなります。

自社株(非上場株式)評価の引き下げポイント

非上場企業の事業承継では自社株評価額に応じて税金が課せられるため、極力引き下げておくことが重要なポイントになります。この章では、非上場の自社株評価を引き下げるポイントを解説します。

類似業種比準方式での引き下げポイント

まずは、非上場企業の自社株評価に類似業種比準方式を利用する際の引き下げポイントを解説します。特に重要なポイントである3点についてみていきます。

配当金

一つ目のポイントは、配当金を引き下げるもしくは配当しないことによる株価引き下げです。配当金を目的としている投資家も少なくないため、配当金がない非上場企業の株価は下落効果が期待できます。

ただ、非上場企業の場合は経常的に行われる配当に限定されています。配当せざるを得ない状況の場合は、創立や創業などの記念を名目として実施する方法が有効的です。

利益金額

非上場企業において、利益金額は最も影響が大きい要素です。ですので、うまく利益を圧縮できるかどうかが節税対策の成否を分けるポイントといえます。

利用頻度の高い方法には、役員退職金を経費とすることで利益を圧縮するものがあります。正当な報酬であれば損金算入が認められておりますので、合法的に節税が可能となります。

簿価純資産

非上場企業の簿価純資産は、含み損が起きている資産の処理によってコントロールすることが可能です。簿価より低い現金を手元に残して損失処理を計上します。

特に不動産は市場動向に大きく影響を受ける資産です。簿価と時価では差異が生まれていることがほとんどなので、課税タイミングを迎える前に譲渡損失を計上しておくと高い効果を得られます。

純資産価額方式での引き下げポイント

続いて、非上場企業が純資産価額方式を利用する際の引き下げポイントを解説します。特に重要なポイントを順番に確認していきましょう。

相続税評価

一つ目のポイントは、相続税評価の基準となった純資産額を減らすことです。有効的な方法には、含み損が起きている資産売却による損失計上があります。

特に獲得してから3年以上の年月が経過している土地・建物は時価評価よりさらに低い評価がされるため有効活用できます。しかし、獲得から3年以内の土地に関しては通常通りの時価評価である点には注意しなくてはなりません。

株式数

1株あたりの純資産価額を抑えるなら、新規に株式を発行して1株当たりの価値を下げる方法も有効です。非上場企業の発行済株式数が増えれば、分母の値が大きくなり1株当たりの自社株評価も下がるという仕組みです。

非上場企業が新規に株式を発行する手段としては、第三者割当増資があります。他者に株式を付与する行為のため株式分散のリスクは生じますが、比較的短期間で実施できるなどのメリットがあります。

その他の引き下げポイント

非上場企業の事業承継で活用できるポイントは他にもあります。特に高い効果が期待できるポイントは以下の3種です。

会社規模

会社の規模を拡大させると、類似業種比準方式のバランスを高めにすることが可能となり、高い効果の獲得に繋がります。

ですが、調整率の値の変動によりケース次第では不利になってしまうこともあります。実施した後からでは取返しがつきませんので、事前の入念な計画が必要不可欠です。

持株会社

非上場企業の節税対策として、持株会社化は自社株評価の引き下げと株式評価の上昇抑制の両面において高い効果を期待できます。

中核事業を切り離して収益性の低い事業ばかりを残すことで、低めの設定を行えます。さらに、法人税等相当額の控除により株価上昇率も抑制されるため、一時的ではなく持続的な恩恵を得られます。

別会社

収益性の高い事業を事業譲渡や会社分割で別会社に譲渡する方法もあります。評価対象から中核事業がすっぽり抜け落ちる形になるので、大幅に下げられます。

デメリットは、多大な時間がかかることです。買い手先の選定や交渉、各種契約書の締結などが必要になるので、無計画で即座に実践できる方法ではありません。

【関連】事業承継税制とは?事業承継税制の要件やメリット・デメリットを解説

自社株(非上場株式)の事業承継に関する相談先

非上場企業の事業承継の税金負担を抑えるためには、自社株評価の引き下げによる節税対策が必要不可欠です。非上場企業の適切な節税テクニックを施して高い効果を得るためには、専門家のサポートを受けることをおすすめします。

M&A総合研究所では、M&A・事業承継の支援実績豊富なアドバイザーが、丁寧にサポートいたします。

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自社株(非上場株式)評価が適用できないケース

自社株(非上場株式)評価が適用できないケースもあるため、注意をしましょう。具体的には以下が挙げられます。

  • 開業から3年に満たない会社
  • 利益・配当・純資産が0
  • 株式が経営者・親族以外に分散する
  • 資産の保有を目的にする会社
  • 赤字を出す・債務超過がある会社
開業から3年に満たない会社や利益・配当・純資産が0の会社は、類似業種比準の評価方法を採用できないため、純資産価額によって計算されるでしょう。

非上場の自社株は基本的に経営者やその一族が保有する株式をさすため、株主のほとんどが関係者以外で占める場合は適用されません。そのため、特例の評価方式によって算出することになります。

非上場株式の自社株評価は、一般的な事業を営んでいる企業を対象としているため、資産の保有目的の会社や債務超過があるとみなされる会社にも適用できないので注意が必要です。

自社株(非上場株式)評価の計算方法まとめ

本記事では、非上場企業の自社株評価に関してみてきました。非上場企業が存続するためには事業承継は必要不可欠であり、その際に発生する税金への対策も必須です。

事業承継を控えているという非上場企業の経営者の方は、自社株評価(非上場)に対する知識や見解を深めておくことをおすすめします。万全の体制で非上場企業の事業承継に臨むことができます。

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