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2024年6月28日更新会社・事業を売る
類似企業比較法とは?メリットや企業価値評価の方法を計算例付きで解説
類似企業比較法とは、企業価値評価対象会社と類似している上場企業を選定し、類似企業のデータから倍率計算で評価を行う方法です。本記事では、類似企業比較法を計算例付きで解説するとともに、類似企業比較法のメリットや類似企業比較法に必要なデータも紹介します。
目次
類似企業比較法(マルチプル法)とは
類似企業比較法とは、企業価値評価の対象会社と類似している上場企業を選び出し、類似企業の数値から倍率計算を行うことで対象会社の価値を導き出す方法です。
たとえば、比較対象の上場企業が当期純利益5億円、時価総額50億円で倍率が10倍と評価された場合に、対象会社の当期純利益が1億円であれば、時価総額は10億円になると想定します。
具体的な計算方法は後述しますが、実際には複数の上場企業を選定して中央値を導き出し、倍率計算を行うものです。企業価値評価の方法は以下の3つの体系に分けられますが、類似企業比較法はそのうちのマーケットアプローチに属します。
- コストアプローチ(純資産額をベースとする算定法)
- インカムアプローチ(将来の収益性に焦点を当てた算定法)
- マーケットアプローチ(類似する企業や取引を参照する算定法)
類似企業比較法と類似取引比較法の違い
類似取引比較法とは、企業価値・株式価値の評価方法の一つです。類似する規模の会社のM&Aで成立した売買価格の例から、適正な企業価値を導き出す方式をいいます。
類似企業比較法とは違い、参考にする企業は上場企業に限定されません。
類似企業比較法の計算方法と計算例
本章では、類似企業比較法の計算方法を計算例とともに解説します。まずは、以下のように企業価値算定を行う会社と類似した上場企業を 選定し、データを取得します。
続いて、取得したデータから倍率計算を行います。
なお、倍率計算には中央値ではなく平均値を使うこともありますが、平均値の場合、取得するデータによっては大きく上振れたり下振れたりする可能性があるため、実務では中央値を用いることが多いです。
類似企業から倍率を算出したら、企業価値を算定する会社の当期純利益と簿価純資産から、株式価値を算出します。
当期純利益×中央値=2億円×10.0倍=20億円、簿価純資産×中央値=10億円×1.5倍=15億円であるため、(20億円+15億円)÷2=17.5億円となり、類似企業比較法によって、算定を行った会社の企業価値は17.5億円です。
しかし、算定を行った会社の規模が比較した上場企業よりも小さい場合は、算定結果から10~30%ほど割り引いた数字を相場とすることがあります。その場合、上記の算定例では、17.5億円から20%割り引くとして、14億円が最終的な企業価値です。
時価総額 | 当期純利益 | 簿価純資産 | |
---|---|---|---|
上場企業A社 | 30億円 | 3億円 | 20億円 |
上場企業B社 | 40億円 | 4億円 | 25億円 |
上場企業C社 | 50億円 | 4億円 | 40億円 |
算定対象会社 | 2億円 | 10億円 |
続いて、取得したデータから倍率計算を行います。
時価総額÷当期純利益 | 時価総額÷簿価純資産 | |
---|---|---|
上場企業A社 | 10.0倍 | 1.5倍 |
上場企業B社 | 10.0倍 | 1.6倍 |
上場企業C社 | 12.5倍 | 1.25倍 |
中央値 | 10.0倍 | 1.5倍 |
なお、倍率計算には中央値ではなく平均値を使うこともありますが、平均値の場合、取得するデータによっては大きく上振れたり下振れたりする可能性があるため、実務では中央値を用いることが多いです。
類似企業から倍率を算出したら、企業価値を算定する会社の当期純利益と簿価純資産から、株式価値を算出します。
当期純利益×中央値=2億円×10.0倍=20億円、簿価純資産×中央値=10億円×1.5倍=15億円であるため、(20億円+15億円)÷2=17.5億円となり、類似企業比較法によって、算定を行った会社の企業価値は17.5億円です。
しかし、算定を行った会社の規模が比較した上場企業よりも小さい場合は、算定結果から10~30%ほど割り引いた数字を相場とすることがあります。その場合、上記の算定例では、17.5億円から20%割り引くとして、14億円が最終的な企業価値です。
類似企業比較法を使うメリット・デメリット
ここでは、類似企業比較法を使うメリットとデメリットを考えてみましょう。
類似企業比較法を使うメリット
類似企業比較法を用いるメリットにはどのようなものがあるのでしょうか。ここでは、主なメリットを2つ紹介します。
- 企業価値を簡単に算定できる
- 市場価値との比較ができる
企業価値を簡単に算定できる
類似企業比較法のメリットは、比較する上場企業を選別して算定に用いるデータを揃えられれば、算定方法が簡単な点です。前述の計算例のように、類似企業比較法の計算自体は難しいものではありません。
データがあれば専門家でなくても計算でき、算定した数字もわかりやすい点が類似企業比較法のメリットです。企業価値評価法の体系の1つであるインカムアプローチは計算が難しく、専門家による算定が必要となります。計算の簡単さという面では類似企業比較法が便利です。
市場価値との比較ができる
類似企業比較法は比較対象となる企業が複数あるので、算出した数字が市場において割高なのか割安なのかを客観的に比較できます。企業価値評価法の1つであるインカムアプローチは、理論的には精緻です。
しかし、事業計画書などを基に対象企業の将来性を数字に落とし込むため、客観性に不安があるという点がデメリットでもあります。その一方で、マーケットアプローチである類似企業比較法やコストアプローチは客観性に優れている点がメリットです。
類似企業比較法を使うデメリット
類似企業比較法のデメリットの1つは、類似した上場企業の選定が難しい点です。類似した上場企業の選定は、適切でありかつ合理的な説明がつかなければなりません。しかし、全く同じ上場企業が存在する可能性はかなり低く、違いをどこまで許容するかなどの判断が重要です。
また、対象企業の事業内容がニッチであったりユニークであったりする場合、事業内容そのものでは類似企業比較法が適用できないケースもあります。そのような場合は、事業内容以外の要素で類似性をみつけなければなりません。
M&Aのご相談はM&A総合研究所へ
類似企業比較法は、評価する前提の設定によって結果が大きく変わる可能性があるため、実務で類似企業比較法を使う場合は、他の企業価値算定方法と組み合わせるなどして、欠点を補う必要があります。企業価値算定を正確に行うには、専門家に依頼するのがおすすめです。
M&A総合研究所では、豊富な経験を持ったアドバイザーが企業価値算定を行いますので、安心してお任せいただけます。料金体系は、成約するまで完全無料の「完全成功報酬制」です(※譲渡企業様のみ。譲受企業様は中間金がかかります)。
無料相談は随時お受けしておりますので、企業価値算定やM&Aをご検討の際は、M&A総合研究所までお気軽にお問い合わせください。
類似企業比較法に必要なデータとは
類似企業比較法で企業価値算定を行う際には、複数のデータを基に検証していくのが一般的です。本章では、類似企業比較法に必要なデータを解説します。
類似企業の選定とそのルール
類似企業比較法で類似企業を探す際は、まず、事業内容の類似性を根拠に幅広く上場企業を集めた後、事業内容以外の要素を含めて絞り込んでいく方法が一般的です。事業内容が類似している上場企業をある程度集めたら、次は財務類似性で選定していきます。
類似企業比較法で重要なのは、どこまで類似性を求めるのかという点です。類似性を求め過ぎると選べる企業が少なくなり、類似企業比較法の精度が落ちてしまいます。
逆に幅を広げ過ぎても類似企業比較法の精度は落ちてしまうことになり、どのレベルで調整するかが重要です。どのレベルで調整するかは類似企業比較法を適用する企業によって違い、場合によっては類似企業比較法は適用できないと判断することもあります。
評価する企業の想定株価補正とそのルール
類似企業比較法で企業価値算定を行う際は、以下のデータを参考にすることがあります。
- 売上高倍率
- EBITDA倍率
- EBIT倍率
- PER倍率
- PBR倍率
売上高倍率
売上高倍率は、PSR(株価売上高倍率)とも呼ばれ、時価総額を年間の売上高で割ったものです。一般的に、売上高倍率は0.5倍以下で割安、20倍以上で割高とされています。
ただし、類似企業比較法で上場企業と比較する場合は、利益率だけで比べると判断を誤りかねないため、類似企業比較法を売上高倍率で評価する際は、ほかの指標と組み合わせるなどの対応が必要です。
EBITDA倍率
EBITDA(イービットダー)倍率は、営業利益+減価償却費という簡単な式で求めることが可能です。類似企業比較法でEBITDAを用いる際は、EV/EBITDA(イーブイ・イービットダー)倍率を参考にすることがあります。
EV/EBITDA倍率は、事業価値(EV)がEBITDA(イービットダー)の何倍であるかを評価する指標です。つまり、企業を買収した際に、何年で買収に投資した資金を回収できるかの目安にできます。
EV/EBITDA倍率の一般的な平均は8〜10倍ともいわれていますが、その平均倍率は業種や企業規模によって大きく変るものです。類似企業比較法でEV/EBITDA倍率を用いる際は、比較する企業の選別を丁寧に行う必要があります。
EBIT倍率
EBIT(イービット)倍率は、営業利益とほぼ同義といえる指標です。実際には、税引前当期純利益または経常利益に支払利息を足し、受取利息を引くことで算出できます。EBIT倍率を類似企業比較法で用いる際は、EBITマージンを算出することがあります。
EBITマージンとは、EBITを売上高で割った倍率のことで、企業の収益力を測ることが可能です。EBITマージンは業界によって大きく違い、EBITマージンが高い業界では10%を超えますが、EBITマージンが低い業界ではマイナスになっているケースもあります。
PER倍率
PERは、1株当たり株主価値を1株当たり当期純利益で割ることで算出できます。PER倍率を類似企業比較法で用いる際も、類似会社を選定して中央値や平均値を算出し、当期純利益を乗じた結果が株主価値です。一般的に、PER倍率は15倍前後が平均とされています。
ただし、PER倍率の割安・割高だけで単純に比較すると判断を誤る可能性も否定できません。PER倍率が低くても、その後、収益力が下がっていく企業があれば、逆にPER倍率が高くてもその後、収益力が上がっていく企業もあります。
その時点で割安か割高かはその後の成長性にもよるため、類似企業比較法でPER倍率を用いる際は、ほかの指標も参考にすることが重要です。
PBR倍率
PBR倍率とは、株価が1株当たり純資産の何倍まで買われているかを評価する指標です。一般的に、PBR倍率は1倍を下回れば割安、1倍を超えれば割高と判断されます。ただし、PER倍率の場合と同じく、割安・割高だけで単純に比較すると判断を誤る可能性が否定できません。
PBR倍率が割安水準でも、その後さらに業績が悪化し結果的に割高になる可能性があります。逆に、割高水準であっても、その後の成長性によってはまだ割安水準だった可能性もあるものです。PBR倍率も類似企業比較法で用いる場合は、ほかの指標とともに検証する必要があります。
類似企業の倍率算定とそのルール
類似企業比較法を用いる際は、類似企業の数値に異常値がないかを確認することが重要です。場合によっては、数値が異常に高い値を示すことがあります。
異常値を排除するには、極端な数値を示している上場企業がほかにあるかを探し、そのような企業が見つかったら、どのような要因でその数値を示しているのかを確認しなければなりません。
たとえば、EV/EBITDA倍率の場合、類似企業が多額の負債を抱えていて、経営再建中であれば数値が異常値を示すことがあります。そのような企業は類似企業比較法には適さないと考え、対象から外すなどの対応が必要です。
株主価値の算定とそのルール
株主価値とは株主に帰属する価値であり、事業用資産+非事業用資産−有利子負債で求められます。株主価値と時価総額を比較することで、対象企業の株価が割安か割高かの判断材料にすることが可能です。
株主価値が時価総額よりも高ければ対象企業は割安と判断でき、株主価値が時価総額よりも安ければ対象企業は割高と判断できます。ただし、株主価値はあくまで理論値であり、個別の企業の状況を全て反映しているとはいえません。
株主価値を類似企業比較法で参考にする場合は、ほかの指標も合わせて検証する必要があります。
類似企業比較法に必要なデータのメリット・デメリット
本章では、類似企業比較法で用いる各データのメリット・デメリットを紹介します。
- 売上高倍率
- EBITDA倍率
- EBIT倍率
- PER倍率
- PBR倍率
売上高倍率
売上高倍率は、PSR(株価売上高倍率)とも呼ばれ、
スタートアップやベンチャー企業など、
EBITDA倍率
EBITDA(イービットダー)倍率は、営業利益+減価償却費という簡単な式で求めることが可能です。EBITDA倍率は、キャッシュフローに似た性質を持っている点、資本構成に影響されない点など、類似企業比較法を用いる際に便利なメリットを持っています。
そのため類似企業比較法では、事業価値であるEV(イーブイ)をEBITDA(イービットダー)で割るEV/EBITDA(イーブイ・イービットダー)倍率がよく用いられます。
EV/EBITDA倍率は、買収に投じた資金を何年で回収できるかの目安にできるため、類似企業比較法で用いるだけでなく、投資家が株式投資を行う際にも参考にすることの多い指標です。
EBIT倍率
EBIT倍率は、営業利益にほとんど近い指標であり、EBITDA倍率とは減価償却費を加えるかどうかの違いがあります。
EBIT倍率は、企業の収益力を中心に評価できるので、類似企業比較法で用いる際は、収益力は高くても多くの負債を抱えているベンチャー企業など、成長性の高い企業を正当に評価する際に便利な指標です。
PER倍率
PER倍率はEV/EBITDA倍率に比べると類似企業比較法では使いにくい評価指標ではあるものの、場合によっては役に立つものです。PERは、1株当たり株主価値を1株当たり当期純利益で割ることで算出できます。
PER倍率は、類似企業比較法をで評価する対象会社が上場した場合、どのくらいの株価になりそうかを想定する際に便利な指標です。また、PER指標は、類似企業比較法に用いる以外にも、個人投資家がどの上場企業に投資するか検討する際によく用いられています。
PBR倍率
PBRとは、株価が1株当たり純資産の何倍まで買われているかを評価する指標です。PBRは純資産が少ない企業ほど高い数値が出やすいので、スタートアップやベンチャー企業ほど割高な数値になることが多くなります。
PBR倍率を類似企業比較法で用いる際は、PERとは逆に、成熟した業種・企業で用いる方が的確な数値が出やすくなるものです。
類似企業比較法を活用したM&A事例
類似企業比較法を活用したM&A事例を紹介します。
SBIホールディングスによる新生銀行へのTOB
2023年6月、SBIホールディングスはSBI新生銀行への非上場化を目的としたTOBを行いました。
平成の金融危機時に資本注入された公的資金を返済するためです。政府が保有する2割強を除いた残り全ての株式を取得しました。
今回のM&Aにより、SBI新生銀行は上場廃止となり非上場化による経営の自由度を高め、SBI新生銀が抱える約3500億円の公的資金の返済に道筋をつけます。
ニトリによる島忠へのTOB
2020年11月、ニトリホールディングスは島忠の完全子会社化を目指し、TOBを実施しました。
ニトリホールディングスはインテリアの小売業等を展開する大手家具メーカーです。対象会社の島忠は、ホームセンターの大手企業です。
今回のM&Aで島忠をグループ会社とすることで、ホームセンター事業への参入を果たします。M&A実施後も島忠の商号やブランドは維持され経営陣、従業員の雇用水準は5年間維持される予定です。
類似企業比較法に関する相談先
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類似企業比較法のまとめ
類似企業比較法とは、企業価値の算定を行う会社と類似している上場企業を複数社、選定し、類似会社のデータから倍率計算を行うことで企業価値算定を行うアプローチ方法です。本記事の要点は、以下のようになります。
・類似企業比較法のメリット
→企業価値を簡単に算定できる
→市場価値との比較ができる
・類似企業比較法に必要なデータ
→売上高倍率
→EBITDA倍率
→EBIT倍率
→PER倍率
→PBR倍率
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