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2024年5月24日更新会社・事業を売る
年買法(年倍法)とは?企業価値評価の計算ロジック・運用方法を解説【中小企業M&A向け】
年買法(年倍法)は、時価純資産と営業利益を用いた簡便な企業価値評価手法であり、主に中小企業のM&Aで用いられます。本記事では、年買法(年倍法)とはどのような手法なのか、また計算方法の妥当性や問題点などについても解説します。
目次
年買法(年倍法)とは
年買法(年倍法)は企業価値評価手法の一つであり、M&Aで売却価格を見積もるために利用されます。前章で解説した3つの企業価値評価手法は、コストアプローチの一種になります。
コストアプローチは純資産をもとに企業価値を見積もりますが、これでは企業の将来性を加味することができません。
M&Aでは買収した企業が将来どれくらい利益をもたらしてくれるかが重要となるため、将来性を無視できません。
年買法(年倍法)では、将来の価値を営業利益数年分で評価し、時価純資産と足すことで企業価値とみなします。
これにより、コストアプローチの弱点である、将来性を加味できない点をある程度補完できます。
年買法(年倍法)は、基本的にはコストアプローチといえるものの、将来性も加味するという意味ではインカムアプローチの要素も持っている手法といえるでしょう。
年買法(年倍法)が使用される3つの理由
企業価値評価手法にはいろいろなものがありますが、そのなかで年買法(年倍法)はよく利用されるものの2つです。ほかの手法に比べて年買法(年倍法)が多く使われるのは、以下の3つが主な理由だと考えられます。
【年買法(年倍法)が使用される理由】
- 計算が簡単
- 直感的に納得できる
- 比較的恣意性が少ない
計算が簡単
ほかの企業価値評価手法に比べて計算が簡単というのが、まず年買法(年倍法)が広く受け入れられている大きな理由です。
例えば、最もよく使われる企業価値評価手法であるDCF法の場合、計算式にでてくるパラメーターの数が年買法(年倍法)よりかなり多いうえ、無限級数というやや複雑な数式を使います。
DCF法を知らない人がいきなり計算式をみても、おそらく何を計算しているのかよく分からないでしょう。
一方で、年買法(年倍法)は次節で示すように非常に簡単な式で表され、その意味も直感的に理解できます。
分かりやすい式なら経営者としても納得しやすく、もし問題点があった時も指摘しやすいメリットがあります。
直感的に納得できる
DCF法は最も妥当性のある企業価値評価手法といわれていますが、計算式が複雑であり、これで納得しろといわれても直感的にピンとこない部分もあるでしょう。
一方、年買法(年倍法)は、現在価値として純資産を求め、無形資産と将来価値として営業利益の数年分を足すという、直感的に腑に落ちる計算方法になっています。
理論的な厳密さはもちろん必要ですが、実際のM&A交渉においては納得できるかどうかというのも大切です。
比較的恣意性が少ない
DCF法などに比べると結果のばらつきが比較的でにくいのも、年買法(年倍法)が受け入れられる理由の1つだといえます。
計算式なのだから誰が計算しても同じなのではと思うかもしれませんが、実際はそうではありません。
例えば、DCF法の場合は計算の根本となるフリーキャッシュフローに恣意性があるので、それ以降の計算がいくら理論的に厳密でも、フリーキャッシュフローの設定次第で違う結果となる側面があります。
つまり、DCF法では、同じ式を使っていても、計算する人によって値が全く違うといったことが起こります。
年買法(年倍法)の場合は、計算の根本となる数値が時価純資産と営業利益であるため、フリーキャッシュフローに比べると恣意性が入りにくいといえます。
年買法(年倍法)で大きな恣意性が入るのは、営業利益に掛ける年数などの副次的な部分です。もちろん年買法(年倍法)でも計算にばらつきは出ますが、DCF法に比べると比較的恣意性が少ないといえるでしょう。
年買法(年倍法)の計算手順・流れ
年買法(年倍法)は、下に示した計算式によって計算されます。具体的な計算方法は、まず時価純資産と営業利益を求め、営業利益に掛ける年数を決めた後、時価純資産と年数を掛けた営業利益を加えます。
年買法(年倍法)は慣習的な計算手法なので、定まった1つだけの計算式があるわけではなく、企業や仲介会社によって独自の計算式を使っていることもあります。
しかし、下の式は年買法(年倍法)の最もシンプルで基本となるものなので、年買法(年倍法)がどのような手法かを知るためには、まずはこの式を理解することが大切です。
【年買法(年倍法)の計算式】
- 時価純資産+(営業利益×年数)
【年買法(年倍法)の計算方法】
- 時価純資産を求める
- 営業利益を求める
- 営業利益に掛ける年数を決める
- 時価純資産と年数を掛けた営業利益を加える
時価純資産を求める
年買法(年倍法)の計算方法は、まず一般的なコストアプローチの手法である時価純資産法によって、時価純資産を求めます。
時価純資産とは、資産と負債の差額である純資産を、今現在の価値で評価し直したものです。帳簿上の資産や負債の価格(簿価)は今現在の価値とずれていることがあるので、時価に直してより正確な資産価値を見積もります。
時価と簿価に大きなずれがないことが分かっている場合は、簿価をそのまま使用する「簿価純資産法」を使うことも可能です。簿価を使えば、時価評価しなくてよい分だけ計算が簡単になります。
営業利益を求める
年買法(年倍法)では、買収価格を算定するために営業利益を見積もる必要があります。営業利益とは、事業そのものから得た利益のことで、事業による売上高から費用を引いたものです。
似た言葉に「経常利益」がありますが、これは事業による利益だけでなく、株の売却益や利息収入などの事業でない部分から得た利益も含めたものです。
実際に年買法(年倍法)で計算する時は、営業利益から払い過ぎの役員報酬や節税費用などを修正した、「修正営業利益」が使われることもあります。
また、直近の営業利益ではなく過去数年間の営業利益を平均したものを用いたり、経常利益やEBITDAなどを用いたりすることもあります。
営業利益に掛ける年数を決める
営業利益を求めたら、その何年分を企業価値とするかを決めます。年数に決まりはありませんが、おおむね1年から5年の間に設定されることが多いです。
営業利益に掛ける年数を決める際は、買い手とのシナジー効果がどれくらいになるかを考えることが重要です。
シナジー効果とは買い手と売り手の相乗効果のことで、お互いの強みを生かし合うことによる利益拡大をいいます。
同じ資産を持つ会社でも買い手と高いシナジー効果が見込める場合は、将来大きな利益が得られると予想されます。逆にシナジー効果が低ければ、その分将来得られる利益は低くなるでしょう。
このように、営業利益に掛ける年数を決めるには、買い手と売り手の兼ね合いも考慮する必要があるのが注意点です。
時価純資産と年数を掛けた営業利益を加える
時価純資産と営業利益、営業利益に掛ける年数が求まったら、それらを式に代入すれば年買法(年倍法)による企業価値が求まります。
年買法(年倍法)の計算ロジック
M&Aでは、会社の今現在の価値よりも、将来どれくらいの価値を生み出せるかが重要です。よって、のれんを加味しない時価純資産法では、適切な企業価値が計算できない可能性があります。
年買法(年倍法)の基本的な計算ロジックは、のれんを加味していない時価純資産法を、のれんを加味して修正するものです。
企業ののれん代、つまり無形資産の価値や将来生み出すであろう利益を、営業利益の数年分という単純化した形で盛り込むのが年買法(年倍法)です。
年買法(年倍法)による中小企業M&A向けの企業価値評価方法
企業価値評価手法のなかで、最も妥当性があるとされているのはDCF法です。しかし、DCF法は大企業でないと適用するのが難しく、中小企業のM&Aでは基本的に使われません。
中小企業M&Aでの企業価値評価では、DCF法よりも年買法(年倍法)のほうが多く利用されています。中小企業は将来の予測が立てにくく、企業価値評価にコストをかけられないので、簡便な手法である年買法(年倍法)のほうが向いています。
年買法(年倍法)による企業価値評価の妥当性・問題点
年買法(年倍法)は非常にシンプルで直感的に納得できる企業価値評価手法ですが、シンプルで納得できることイコール正確で正当性があるということにはなりません。
年買法(年倍法)はシンプルで直感的であるがゆえに、妥当性に対する疑問や問題点も抱えています。この章では年買法(年倍法)の妥当性と問題点について、ファイナンス理論やのれんの面から解説します。
理論的なファイナンス根拠がない
年買法(年倍法)による企業価値評価は、ファイナンス理論などに基づく理論的な根拠がないのが問題点です。
例えば、DCF法の計算式はリスクが高いほど高い収益が期待できること、事業の価値を決める指標としてキャッシュフローが適していることといった、ファイナンス理論の考え方に基づいて組み立てられています。
一方、年買法(年倍法)は、のれんの価値が営業利益の数年分であることに理論的な根拠はないうえ、何年分かを決めるのも全く恣意的で、理論的に年数を決める手法というのはありません。
年買法(年倍法)は広く利用されていますが、理論的に厳密な手法ではないということを理解しておく必要があります。
営業権(のれん)の上乗せ理由
先に述べたように、年買法(年倍法)でのれんを上乗せする理由は、無形資産と事業の将来性の価値を加味するためです。
企業の現在の価値を時価純資産で求め、無形資産と将来性をのれん代に織り込むことで、直感的に納得できる企業価値を求めることができます。
年買法(年倍法)には理論的な裏付けがないなどの問題点もありますが、無形資産や事業の将来性を加味しているという点では、純粋なコストアプローチよりも妥当性があると考えられます。
M&Aで年買法(年倍法)の活用が減っている背景
年買法(年倍法)は、算出方法が簡単であるため広く活用されていました。これは、M&Aの当事者である売り手・買い手の双方が直感的に理解しやすく、適正に近い価値で合意できればよしとした側面により、交渉が成立していたためです。
しかし、年買法(年倍法)は過去の利益を基準として算出するため、将来的な収益価値を保証するものではありません。適正価値に近い価格であった場合でも、買い手が必ずしも資金を回収できるとは限らないでしょう。
売り手はM&Aを検討する際に、複数の候補先を探すことが一般的であるため、年買法(年倍法)による価格提示では交渉権を獲得できないケースも考えられます。
年買法(年倍法)では対象会社の企業価値評価を見極めるのが非常に難しく、過大評価あるいは過少評価になってしまうケースも多いため、M&Aの実務では徐々に利用頻度が低くなってきているのが現状です。
M&Aで年買法(年倍法)を活用する際の考え方
M&Aで年買法(年倍法)を活用する際の考え方を見ていきましょう。
経営者の意思を明確に反映できれば問題ない
買い手の経営者が、将来予測は難しいから過去の数字使用しても良いと判断すれば、年買法(年倍法)を使用することに何の制約もありません。
M&Aの戦略で「優良顧客を保有している会社が欲しい」「優良な立地に店舗があると良い」「有資格者の人員が欲しい」など、明確な目的がある場合、年買法(年倍法)によってそれが反映できていれば問題はないでしょう。
ファイナンス理論的な合理性はやや不足しているものの、値決め基準として妥当と双方が納得していればM&Aは成立します。
理論的妥当性よりも運用のしやすさが大切
M&Aの成約価格は、理論的妥当性よりも運用のしやすさが大切です。
例えばDCF法(キャッシュフロー割引法)は、割引率を使って現在の事業価値を調べる計算法で、将来のキャッシュフローを今の価値に換算し直して、事業価値をはじき出す算出方法です。
しかし、値決めという経営判断を行うには、意思決定者が納得しなければならず、概念そのものが非常に難解なDCF法を理解してもらえるのは高度な財務リテラシーが必要であり、現実感に乏しく経営者が直感的に納得できない要素が含まれています。
一方、年買法(年倍法)であれば、理論的な計算よりも直感で金額を決めるケースの多い中小企業のM&Aにおいて運用しやすいでしょう。
他のM&Aのバリュエーション手法と併用
中小企業M&Aの企業価値評価では、年買法(年倍法)だけでは正確性に欠ける場合、インカムアプローチやマーケットアプローチのなかから、利用可能な手法を併用することもあります。
各手法にはメリットとデメリットもありますので、他のバリュエーション手法と併用して企業価値を算出していくのがベストです。さらに、実際のM&Aの売却価格は、景気や業界動向、会社の内部事情などを総合的に考慮して決められます。
M&Aと年買法(年倍法)に関する相談先
M&Aでは年買法(年倍法)などの企業価値評価手法を用いるので、専門家のサポートを受けることがおすすめです。
M&A総合研究所では、さまざまな業種で豊富なM&A実績があるアドバイザーが、年買法(年倍法)などの企業価値評価を含めてトータルサポートいたします。
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また、成約までのスピードを重視したサポートを行っており、最短3か月での成約実績も有しております。
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年買法(年倍法)のまとめ
年買法(年倍法)は非常に簡便な企業価値評価手法で、主に中小企業M&Aで用いられています。中小企業経営者の方がM&Aを検討する際は、年買法(年倍法)について基礎的な知識を得ておくことが大切です。
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