M&Aとは?意味や動向とM&Aを行う目的・メリットなどをわかりやすく解説!
2021年4月29日更新会社・事業を売る
事業譲渡における競業避止義務
事業譲渡において、売り手側は会社法の定めに則って20年間の競業避止義務を負います。競業避止義務とは、一定期間に渡り譲渡した同種の事業を行わない義務です。事業譲渡における競業避止義務の概要、期間と特約、競業避止義務排除の注意点を解説します。
目次
事業譲渡における競業避止義務
株式譲渡と並んで多用されるM&A手法の1つに、事業譲渡があります。事業譲渡は会社の一部を譲渡する手法なのですが、売り手側には競業避止義務が課されます。この協業避止義務は会社法にて定められているものであり、売り手会社は遵守しなければなりません。
では、事業譲渡における競業避止義務は、どのような目的で設定されるのでしょうか?この記事では、事業譲渡の競業避止義務の概要、独禁法との関係に関してご説明します。
事業譲渡とは
事業譲渡における競業避止義務について解説する前に、まずは事業譲渡とはどのようなM&A手法なのか、その概要やメリット・デメリットをお伝えしていきます。
事業譲渡の概要
事業譲渡とは、自社の事業を第三者に譲渡するM&A手法です。会社単位で売買する手法である株式譲渡とは異なり、事業譲渡は事業単位で売買する手法です。そのため、複数の事業を行っている会社が、不採算事業を切り離すなどの際に活用されます。
事業譲渡では、売り手となる既存の会社はその後も営業していくことになりますので、その会社の資産や負債もすべて譲渡するわけにはいきません。そのため、譲渡をする事業分野の建物や債権を、個別に指定して移転する形となります。
事業譲渡のメリット
事業譲渡では、買い手側は売り手側が保有する数ある資産の中から個別に買い取る資産を指定できるため、簿外債務や偶発債務の引き継ぎを回避できるうえに、事業運営に必要な資産のみを買収可能です。
売り手側にとっても、「事業再生」や「選択と集中の遂行」を効率的に実施できるメリットがあります。株式譲渡と比べると手続きは面倒ですが、事業譲渡では柔軟なM&Aを実施できます。
事業譲渡のデメリット
事業譲渡において「重要な一部譲渡」や「事業の全部譲渡」、「事業の全部譲受」に該当する場合は特別決議が必要となり、手続きが煩雑となります。一部事業のみ移転する点では会社分割と類似していますが、会社分割では債権者保護手続きや特別決議が必要となります。
法務上の手続きは会社分割のほうが面倒ですが、契約の引き継ぎに関しては事業譲渡より簡便です。
事業譲渡では法人税と消費税の課税対象となる
税務面から見ると、事業譲渡には法人税と消費税が課税され、株式譲渡と比べると、一般的には税負担が重くなる傾向があります。また、一定条件を満たすことで非課税となる会社分割と比較しても、税負担は重いです。
会社ごと売却を検討している場合は株式譲渡を利用し、組織再編を検討の場合は会社分割を利用することをおすすめします。
特に課税資産となる「のれん代」が買収価格の大部分を占めるケースでは、事業譲渡の税負担は相対的に重くなります。
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事業譲渡における競業避止義務とは
ここから、この記事の本題である事業譲渡における競業避止義務について解説していきます。他のM&A手法とは違い、事業譲渡では会社法第21条によって売り手側への競業避止義務が課されています。
競業避止義務とは、同一市区町村および隣接市区町村内にて、事業譲渡したものと同種の事業を一定期間行わない売り手側の義務です。会社法では、当事者の別段の意思表示がない限り、売り手企業は事業譲渡日から20年間の競業避止義務を負うとしています。
競業避止義務が定められている理由
事業譲渡では、なぜ競業避止義務が設定されているのでしょうか?
売り手となった会社には、譲渡した事業に関するノウハウや販路・経験が蓄積されており、事業譲渡後に譲渡した事業と同種事業を売り手側が再開した場合、ノウハウなどを用いて有利に事業を展開できます。
これに事業を買収したばかりの買い手側が競争に勝つことは難しく、結果的に買い手会社が大きな損失を被る恐れがあります。買い手側にしてみると、大金を支払ってまで買収した意味がなくなり、不公平・不公正となります。
会社法では買い手企業の利益を保護する目的で、事業譲渡の売り手企業に対し20年間の競業避止義務を負わせており、買い手が事業譲渡による利益を享受できるようになっています。
なお、株式譲渡や合併といった事業譲渡以外のM&A手法を用いる場合でも、特約により競業避止義務は設定可能です。M&A後のトラブル回避のためにも、専門家のサポート下で進めていくとよいでしょう。
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事業譲渡における競業避止義務の期間と特約
事業譲渡では原則として売り手に20年間の競業避止義務が課されますが、中には競業避止義務の期間を延長、もしくは短縮したいケースもあります。具体的には、買い手側が事業譲渡の利益保護をさらに確実にしたい場合に、競業避止義務を延長したいと考えるはずです。
一方で売り手側は、再び同種の事業を実施したい意向を持ちたい場合は競業避止義務を短縮したいと考えます。
会社法では、当事者間で特約を定めることにより、事業譲渡の競業避止義務を延長、もしくは短縮できることになっています。
特約とは、当事者間で締結する特別な約束(取り決め)を意味しており、事業譲渡契約書により特約を定めることが可能です。
事業譲渡契約において、売り手と買い手の双方が同意して特約を設定すれば、競業避止義務の期間を変更できます。
競業避止義務の延長は30年まで可能
売り手と買い手の双方が同意して競業避止義務を延長する場合には、原則である20年から最長で30年間まで延長することが可能です。これにより買い手側はさらに長い期間、利益の保護を確実にすることができます。
一方で、競業避止義務を短縮する場合は、基本的に制限はなく、双方が同意さえすれば10年や5年という期間に設定することができます。これらを踏まえ、事業譲渡の際には双方の利益を考えたうえで競業避止義務を設定することが大切です。
短縮しすぎると買い手の利益、延長しすぎると売り手の利益が阻害される恐れがあるので注意しましょう。
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事業譲渡における競業避止義務排除の注意点
売り手と買い手が特約を結ぶことで、会社法で定められている競業避止義務の期間を変更できます。では、事業譲渡の競業避止義務を完全に排除することは可能なのでしょうか?
実は、会社法には排除を禁止する文言が明記されていないため、事業譲渡の競業避止義務を排除できると解釈できます。
しかし、事業譲渡の競業避止義務を排除してしまうと、売り手は事業譲渡後、即座に同種の事業を再開できます。これまでに蓄積されたノウハウなどを活かし、再度事業を実施できる点は大きなメリットです。そのため、買い手企業の利益が大きく阻害される可能性がある点には注意しましょう。
会社法上では、競業避止義務を排除することは問題ありませんが、買収側は特に排除には慎重になりましょう。
競業避止義務を定めていても注意が必要
競業避止義務は会社法上、排除することが可能です。しかし、実際の事業譲渡では売り手側が競業避止義務の排除を求めても、買い手側が同意することは少ないです。そのため、中には競業避止義務を定めているのにもかかわらず、事業譲渡後に同種の事業を開始するケースもあります。
ここで、実際にあった事例を紹介します。
売り手(甲)はネット上で衣類を販売していましたが、その事業を買い手(乙)に事業譲渡しました。その際、契約書には競業避止義務についても記載されていたのですが、甲は事業譲渡後すぐに同種の事業を開始しました。 それだけでなく、甲が新たに開設したサイトは、乙が引き継いだサイトの姉妹サイトと誤認させるような形式で作っており、既存の顧客に対しても宣伝を行っていました。これが競業避止義務に抵触しているとして、裁判により乙の主張する甲の事業停止と損害賠償が認められました。 |
こうした事例は多くありませんが、実際にこのようなことが起きていますので、競業避止義務があるからといって安心せず、事業譲渡後は売り手の動向についても注意しておく必要があります。
事業譲渡の競業避止義務と独禁法との関係
会社法の規定に基づき、事業譲渡では当たり前に競業避止義務が売り手に課されますが、独占禁止法(通称:独禁法)への抵触が問題となるケースもあります。ここでは、事業譲渡における競業避止義務と独禁法の関係についてわかりやすく説明します。
独占禁止法(独禁法)とは、公正かつ自由な競争を促進し、各企業が主体的な判断で自由に行う事業活動を保護するための法律です。「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」とも呼ばれる独禁法に違反した場合、課徴金の支払いや損害賠償金の支払いが課せられます。
独禁法では、競争を行わない旨を契約し、第三者に対して事業活動の制限を課すことを禁止しています。この独禁法の性質により、競業避止義務がしばしば議論の的となります。
競業避止義務では実質的に競争しないことを売り手側に課しているため、理論上は独禁法に違反していることになります。
原則として独禁法の違反とはならない
上述しましたように、競業避止義務は理論上は独禁法に違反しているものの、現実的には原則として独禁法違反とはみなされません。事業譲渡の際は、企業の結合度合いを図るために、事業譲渡後の売り手と買い手のシェアを用いてHHIを計算します。
HHIとは、ある産業の市場において企業の競争状態を表す指標の1つであり、「売り手企業は同種事業を実施しない」という前提でHHIの計算が行われます。その結果、独禁法の規制に引っかからなければ、競業避止義務が存在しても独禁法違反にはなりません。
ただ、この論理は難しいため「事業譲渡で競業避止義務があっても、原則として独禁法違反にはならない」という結論だけ覚えておいて問題ありません。
独禁法違反となるケース
原則として競業避止義務は独禁法違反とはなりませんので、譲渡する同種の事業を制限する場合には問題ありません。しかし、譲渡した事業とは異なる事業まで競業避止義務で制限してしまうと、独禁法違反とみなされる可能性が高いです。
それもそのはずであり、競業避止義務はあくまでも特定の事業における利益を売り手によって阻害されないためのものです。従って、利益を阻害されるリスクが低い事業にまで競業避止義務を定めること自体がおかしいことになります。
それにもかかわらず、同種ではない事業にまで競業避止義務を課すのは、独禁法に抵触する行為になってしまいますので、事業譲渡の実行時には慎重に競業避止義務を設定することが大切です。
事業譲渡には競業避止義務以外にも専門知識が不可欠であるため、M&Aの専門家にサポートを依頼するのが一般的です。
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まとめ
今回は、事業譲渡における競業避止義務を解説しました。一部の事業のみを売買する事業譲渡では、売り手と買い手にとってさまざまなメリットがあります。しかし、事業譲渡に限らずM&Aでは売り手と買い手の交渉が非常に重要となります。
競業避止義務も、交渉の際にきちんと取り決めておかなければ利益を阻害してトラブルへと発展する可能性がありますので、後にトラブルとならないよう専門家にアドバイスを受けながら事業譲渡することをおすすめします。
では最後に、競業避止義務についての要点をまとめましたので、概要や注意点などをしっかり把握するようにしましょう。
・競業避止義務とは
→同一市区町村および隣接市区町村内において、事業譲渡したものと同種の事業を一定期間行わない売り手側の義務
・競業避止義務が課せられる理由
→買い手企業の利益保護
・競業避止義務の期間
→事業譲渡日から20年間
・競業避止義務の特約
→双方の同意により最長30年以内で設定可能
・競業避止義務の排除
→会社法上は排除できると解釈されている
・競業避止義務と独禁法の関係
→原則として独禁法違反とはならないが、制限範囲を拡大すると独禁法違反となり得る
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株式会社日本M&Aセンターにて製造業を中心に、建設業・サービス業・情報通信業・運輸業・不動産業・卸売業等で20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、アドバイザーを統括。ディールマネージャーとして全案件に携わる。