2024年2月11日更新業種別M&A

調剤薬局が大手に身売りするのはなぜ?売却側・買収側のメリットや M&Aの動向・事例まで徹底解説

近年、調剤薬局の業界では会社を維持するM&Aの手段として、中小企業が大手に身売り(事業継承)するケースが少なくありません。そこで、他にもM&Aの手法があるにも関わらず、なぜ身売りを調剤薬局が選択するのか、その理由や効果、手法と事例に至るまで徹底解説します。

目次
  1. 調剤薬局・会社の身売りとは
  2. 調剤薬局・会社を身売りするメリット
  3. 調剤薬局・会社を身売りする際のデメリット・注意点
  4. 大手の調剤薬局・会社が身売り先になる理由
  5. 調剤薬局・会社の身売りにおいて他の買い手を選ぶ目的
  6. 大手が考える調剤薬局・会社の身売り動向
  7. 身売りに際して調剤薬局・会社が考えるべきこと
  8. 身売りした調剤薬局・会社における従業員の処遇
  9. 調剤薬局・会社の身売りが実施される前兆
  10. 調剤薬局・会社の身売りに関する相談先
  11. 調剤薬局のM&Aにおける売却・買収の事例
  12. 調剤薬局・会社の身売りまとめ
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調剤薬局・会社の身売りとは

近年の調剤薬局業界は、中小の薬局が大手に身売りするケースが多く、徐々に寡占化が進んでいる状態です。調剤薬局の身売りとは、自身が経営している調剤薬局を、M&Aで別の会社に売却することです。

調剤薬局は、頻繁に行われる報酬改定や寡占化が進む業界動向により、中小の薬局が淘汰されつつあります。こうした状況下、小規模に経営してきた薬局が身売りする事例が増加中です。

大手薬局によるM&Aは一旦落ち着いたと見る向きもありますが、他業種に比べると寡占化はまだ進んでいないので、今後も薬局の身売りは増えていくと考えられます。

会社の身売りとM&Aの違い

会社の身売りとは、必ずしも経営不振を理由に他社の傘下に入ることを意味せず、後継者不足による第三者への売却なども含まれます

自社を売却する点で身売りとM&Aに違いはありませんが、身売りと聞くとよいイメージを持たない人も多いのが現状です。しかし、近年はM&Aが広く認知され、昔は身売りといわれていた取引も前向きなM&Aとして実施できています。

身売りが実施される背景

ここでは、身売りが実施される背景について見ていきましょう。

後継者不在の問題

調剤薬局の売却が増えている大きな理由は、後継者不在の問題にあります。多くの調剤薬局では経営を継ぐ人がおらず、経営者の高齢化に伴い、廃業か売却かという選択を迫られています。

特に後継者の不在は経営者の年齢が上がる一因ともなっており、事業承継の計画が立てられずに経営者の高齢化が進むという問題を引き起こしています。

後継者がいない状況で経営者が高齢化している場合は特に厳しいですが、調剤薬局を売却することで、新しい経営者に事業を託すことが可能になり、最悪のケースである廃業を避けることが可能です。

従業員・ノウハウ・顧客の維持

調剤薬局・会社の身売りは、従業員・ノウハウ・顧客を維持するために実施されます。ほとんどの中小企業における経営者は、後継者が不在で、引退の時期が迫っている状況です。

経営者に万が一のことがあり廃業せざるを得なくなれば、従業員は路頭に迷ってしまうでしょう。取引先にも迷惑をかけます。培ってきたノウハウを失うのも、社会的な損失です。

調剤薬局・会社の身売りを実施すれば、従業員・ノウハウ・顧客を引き継げるため、調剤薬局・会社の身売りを行う中小企業は少なくありません。

廃業費用発生の回避

廃業費用の発生を回避するために、身売りを行うこともあります。廃業すれば会社の清算手続きが必要で、経営者は会社の全資産を売ってそれを元に借入金を返済して残りを受け取るのです。

ただし、資産売却で機械や在庫などは簿価における2〜3割程度の価格となることもあり、簿価より低価格で資産を売ると、会社が債務超過状態になって廃業できないこともあります。清算手続きに関して税理士などへ依頼する費用も必要です。

調剤薬局・会社の身売りを実施すれば、資産は簿価で引き継げるので債務超過にならず、交渉によっては保険や不動産など必要なもののみ経営者が承継できるでしょう。

創業者利潤の確保

創業者利潤の確保も、身売りが実施される背景です。創業者利潤の確保とは、会社の純資産よりも高額で会社売却を実施して経営者が得る利益をさします。

会社の経営状態、事業内容、技術力、ブランド力などを考慮して、買収側との交渉により譲渡価格を決定するため、必ず創業者利潤を得られるわけではありません。しかし、会社の身売り(第三者事業承継)で創業者利潤を確保したケースは少なくありません。

調剤薬局業界の市場動向

調剤薬局業界は、高齢化に伴い需要が拡大しているため成長性が期待されています。しかし、医薬品のジェネリック化や流通問題による厳しい競争が続く中、業界の構造改革も進んでいます

こうした背景から、調剤薬局業界でのM&Aも活発に行われており、業界の再編が進展しています。

薬剤師の確保が課題

調剤薬局業界は2006年から薬学部が4年制から6年制に移行したことを背景に、慢性的な薬剤師不足に陥っている業界です。一方、薬剤師1人当たりの処方せん枚数が40枚/日と制限されていることから、規模拡大に向けては薬剤師の採用が不可欠であることが明らかになっています。

しかし、製薬会社、病院、大手ドラッグストアなどが薬剤師を積極的に採用している中で、薬剤師の確保には多額の採用費や教育費が必要となっているのが現状です。

店舗立地が優勝劣敗を左右

約7割の医療機関が院外処方を行っていることから、調剤薬局は患者をどのように薬局店舗に呼び止めるかが重要となっています。

2015年に行われた「医薬分業に関するアンケート調査」では、69.1%の方が医療機関から近い薬局に行くと回答しており、薬局が患者を捕捉するために、医療機関からの動線は重要な要素となっています。

診療報酬や調剤制度改正の影響

近年の診療報酬制度の改正により、処方箋の受付回数や特定の医療機関からの調剤率に応じた調剤報酬料が引き下げられることが決定しました。

これは、門前薬局やグループを形成する薬局への影響を想定しています。この改正の背景には、後発医薬品(ジェネリック)への切り替えやかかりつけ薬局の推進が関係しています。

後発医薬品への切り替えにより、薬価の下落による利益減少を抑えることが可能です。

調剤薬局業界のM&A動向

調剤薬局業界は、大手占有率が低く、小規模事業者が多数存在する特徴的な業界で、業界上位10社の占有率が約1割強となっています。外部環境が厳しい中、資源が限られた小規模事業者は、M&Aを積極的に活用し、大手薬局チェーンの傘下に入ることで店舗の存続を図っています。

また、大手薬局チェーンも、調剤報酬改定による収益減を規模で補うため、資本提携先を積極的に探しているようです。こうした状況から、今後も調剤薬局業界におけるM&Aの取引件数は引き続き増加すると予想されます。

調剤薬局・会社を身売りするメリット

経営不振のなかで調剤薬局や会社を細々と続けたり、後継者がいないために廃業を選択したりするよりも、身売りすることが自社の利益となる場合があります。

ここでは、経営者の立場からみた会社の身売りにおける主なメリットをみていきましょう。

  1. 株主としての利益を確保できる
  2. アントレプレナーとして称賛される
  3. 事業承継を実現できる
  4. 連帯保証・債務から解放される
  5. 新たにやりたいことを始められる
  6. シナジー効果の獲得を期待できる

①株主としての利益を確保できる

自身が会社の株式を持つオーナー経営者であれば、M&Aを行うことで株主として利益を得られます。通常は現金が対価とされるため、オーナー経営者は株式売却の対価として現金を得られ、利益の確保が可能です。

②アントレプレナーとして称賛される

オーナー経営者は、自身の株式を売却することで多額の対価を得て会社経営から外れますが、ゼロから会社を立ち上げたアントレプレナーとして一定の社会的評価を得られます

Apple社のCEOだった故スティーブ・ジョブズは、過去、自身が設立した会社を売却して資金を手に入れた経験があり、グーグル社のユーチューブ事業は、元はチャド・ハーリー、スティーブ・チェン、ジョード・カリムの3名により設立されたベンチャー企業でした。

創業者たちは、M&Aによりグーグル社のグループ企業になる際、株式売却による利益を得ています。

③事業承継を実現できる

調剤薬局や会社は、経営者がいなくなっても経営が存続しなければ、社会における公器としての役割を果たせません。

経営者に後継者がいない場合は、M&Aで第三者に自社を売却できれば事業承継が実現できます。身売りといわれたとしても、社員の雇用や取引先との契約が継続できることは大きなメリットといえるでしょう。

④連帯保証・債務から解放される

中小企業では、経営者が会社における借入金の連帯保証人となっていたり、個人で借入したりしている場合があります。M&Aで会社を売却することで、経営者個人が保証や債務から解放されれば、精神的な安心をもたらすメリットがあるのです。

⑤新たにやりたいことを始められる

経営者が会社を売却したことで得た多額の対価を用いれば、新たな事業を立ち上げられます。会社設立・売却の実績を生かせば、投資家や金融機関からの信頼も得られやすくなるので、やりたい事業を迅速に立ち上げられるのです。

⑥シナジー効果の獲得を期待できる

経営者自身では解決できなかった経営課題や、実現できなかった成長戦略が、M&Aにより実現できる可能性があります。シナジー効果とは、買い手企業の経営資源と売り手企業の経営進言を相互に利用しあうことで、独立に事業を行っているときよりも高い業績を上げることです。

調剤薬局・会社を身売りする際のデメリット・注意点

調剤薬局・会社を身売りする際は、経営者自身がデメリットを負う場合もあります。主に留意すべき点は、以下の4点です。

  1. 非難を受ける可能性がある
  2. 競業避止義務を負うおそれ
  3. 経営者が拘束を受けるおそれ
  4. 債務が一部残るおそれ

①関係者から非難されるおそれ

近年はベンチャー企業の台頭などにより、調剤薬局や会社の身売りもポジティブに捉えられています。しかし、いまだにネガティブなイメージを持つ人も多いので、関係者から非難されるおそれがあることも理解しておきましょう。

②競業避止義務を負うおそれ

自社を売却した経営者は、売り手企業が行っている事業と競合する事業を行うことが一定期間制限されるのが通常です。仮に、M&A後に同業種の事業を立ち上げるチャンスがあっても、それが禁止される点はデメリットと考えられます。

③経営者が拘束を受けるおそれ

身売りを行う際、経営者は原則として経営の関与から外れますが、買い手企業との契約により一定期間は経営に関与する義務が発生する場合があります。

望まない経営に対する関与の継続を回避するためには、M&Aの交渉段階から、事業の進捗や社員の処遇などをしっかりと交渉することが重要です。

④債務が一部残るおそれ

事業譲渡の方法で身売りを行った場合はM&A後も売り手企業は存続しますが、資産や負債が残る場合もあります。

会社資産を可能な限り売却したり譲渡益を充当したりしても債務が残る場合は、当然債務の返済を行わなければなりません。このとき、経営者個人が会社における連帯保証人の場合や会社からの借入がある場合には、経営者が債務を負い自己破産等を行う必要もでてきます。

大手の調剤薬局・会社が身売り先になる理由

調剤薬局の身売りでは、中小の薬局が大手チェーンに買収されるケースがほとんどです。大手の調剤薬局が身売り先になるのは、相応のメリットがあるからです。大手の調剤薬局が身売り先になる主な理由を見ていきましょう。

【大手の調剤薬局が身売り先になる理由】

  1. 大手グループの傘下に入ることで経営が安定する
  2. 店舗や従業員を残しつつ後継者問題の解決につながる
  3. 業界不安による大手グループへの身売り
  4. 大手グループの事業規模・エリア拡大を目的に買収
  5. 薬剤師不足の解消に大手による買収

①大手グループの傘下に入ることで経営が安定する

調剤薬局は報酬改定で薬価差益が下がっていることもあり、経営状態が安定しないところが増えています。そのため、経営基盤の安定した大手グループに身売りすることで、廃業・倒産を避けるケースが見られるのです。

大手に身売りするとグループ店舗として運営されるので、自由な経営はできませんが、経営が安定するメリットが大きいと考える中小の薬局が多いのが現状といえるでしょう。

②店舗や従業員を残しつつ後継者問題の解決につながる

医薬分業が進み始めた1990年代に開業した薬局経営者の多くは、現在60代・70代の引退年齢に差しかかっていますが、少子化や不況などにより、適切な後継者が見つからない薬局が多いです。

薬局経営は薬剤師でなくてもできますが、薬剤師が行うべきと考えている経営者も多く、これも後継者が見つからない要因となっています。後継者のいない薬局が大手の調剤薬局に身売りすれば、店舗や従業員を残しつつ後継者問題を解決できるのです。

③業界不安による大手グループへの身売り

薬局業界は頻繁に調剤報酬が改定されるので、先行きに対する不安は常につきまといます。最近は厚生労働省がかかりつけ機能を重視した方針転換を進めており、中小の薬局は経営が厳しくなるところも増加中です。

特に門前薬局に対する引き締めは大きく、大病院の近くで集中率の高かった薬局は経営方針の転換を迫られています。近年は、中小の薬局にとって業界不安となる要素が多く、これが大手グループへの身売りを加速する要因です。

④大手グループの事業規模・エリア拡大を目的に買収

調剤薬局業界は、アインホールディングス・クオール・総合メディカルなどの大手がエリア拡大を競っており、積極的なM&Aを展開しています。

大手グループは単に事業規模を拡大するだけでなく、より広いエリアにグループ店舗を拡大したいと考えるため、大手グループが進出していない地域の薬局は、大手に身売りすることで高値で売却できる可能性があるのです。

⑤薬剤師不足の解消に大手による買収

調剤薬局業界では、薬剤師の慢性的な不足が問題となっています。特に大学の薬学部が6年制になってから薬剤師になる人の数が減り、新卒の薬剤師が採りにくい状況です。

実は日本における薬剤師の数は他国に比べて少ないわけではなく、薬剤師が都市部に偏っているために地方の薬剤師が不足している事情があります。薬剤師は女性が多いので、出産や子育てのため休職することが多く、融通の利く派遣やパート勤務を望む人が多いことも一因です。

こうした事情で薬剤師が不足している薬局は、人材が豊富な大手に身売りすると薬剤師不足を解消できます。

【関連】調剤薬局の経営が厳しいのは調剤報酬改定が原因?生き残りにはM&A?

調剤薬局・会社の身売りにおいて他の買い手を選ぶ目的

調剤薬局を身売りする際は、どの企業に買ってもらうかが重要になります。大手グループもそれぞれ経営方針が違うので、自分の薬局における方針や風土との相性を考えることも大切です。

薬局の身売りは中小の薬局が大手に買収されるケースが多いですが、それ以外にも準大手同士のM&Aや、異業種M&Aなどもあります。薬局業界は動向の変化が激しいので、業界再編が進むなかでM&A戦略が多様化することも考えられるでしょう。
【調剤薬局の身売りを行ううえで、他の買い手を選ぶメリット】

  1. 準大手同士のM&Aにより力をつける
  2. 異業種によるM&Aで活路を見出す

①準大手同士のM&Aにより力をつける

ドラッグストア業界では、マツモトキヨシとココカラファインの経営統合が話題になっていますが、調剤薬局業界でも大手によるM&Aが頻繁に行われています。

ただし、調剤薬局のM&Aは中小の薬局が大手に身売りするパターンが多く、大手同士の統合はせず互いにシェアを競い合っている状況です。

しかし、ここ数年は、100店舗程度を展開する準大手が大手に買収される事例が増え、準大手の薬局も大手に集約される傾向があります。こうした状況下、準大手薬局が生き残る戦略として、大手に身売りするのではなく準大手同士のM&Aで力をつけることも選択肢です。

現状は準大手同士の薬局M&Aは活発ではありませんが、業界再編が進むなかでこうした選択肢を選ぶ薬局が増える可能性もあります。

②異業種によるM&Aで活路を見出す

薬局の身売りは同業種で行われるのが大半ですが、なかには異業種へ身売りする事例もあります。

例えば、エネルギー事業などを手がける総合商社であるカメイは、2018年に宮城県の調剤薬局を運営するM2メディカルを買収しました。介護やリゾートホテルなどを運営するロングライフホールディングスも、調剤薬局のM&Aを行っています。

異業種M&Aは、しっかりした経営計画によってシナジー効果を得なければ、失敗してしまうので注意しましょう。身売りを考える中小の調剤薬局にとって、異業種によるM&Aで活路を見出すのは一つの選択肢といえます。

大手が考える調剤薬局・会社の身売り動向

これまでの薬局M&Aは、大手が店舗数の拡大を主眼に置いた買収を行うケースがよく見られましたが、ここ数年は大手が考える身売り動向にやや変化がみられます。全体に、M&Aを厳選して行う動きが見られ、店舗数の拡大を重視する傾向が落ち着いているのです。

実際、クオールホールディングス・日本調剤・アインホールディングスといった大手は買収基準の厳格化を打ち出しており、今後は高いシナジーを得られる薬局を厳選して買収する傾向が強まる予想です。

身売り動向の変化には、厚生労働省が打ち出している「かかりつけ機能」を重視した方針が大きく影響しています。

今までは、特定の医療機関から多くの処方箋を受け付けている集中率の高い薬局が有利でしたが、今後は集中率の低いほうが制度上有利になるので、それに伴い大手薬局の買収動向も変化していくでしょう。

【関連】調剤薬局業界のM&Aの現状と最新動向は?事例から相場まで紹介【2024年最新版】

身売りに際して調剤薬局・会社が考えるべきこと

M&Aは必ず成功するわけではなく、成功率は50%とも30%ともいわれます。よい買い手が見つからず成約できないケースだけでなく、買い手は見つかっても、その後における経営がうまくいかない例もあるのです。

薬局をM&Aで身売りする際は、成功するためにどのようなことを考えておくべきか理解することが大切です。薬局における身売りの際に考えておくべきことは、主に以下の5点に集約されます。

【身売りを検討する調剤薬局が考えるべきこと】

  1. 経営効率化・変化する業界事情に対応する必要
  2. 調剤薬局業界にもIT化が進む可能性
  3. 経営する調剤薬局の状況・価値を把握
  4. 経営する調剤薬局の改善点を見る
  5. 経営する調剤薬局の企業価値の査定

①経営効率化・変化する業界事情に対応する必要

厚生労働省が打ち出しているかかりつけ薬局の方針は、薬局にとっては業務の種類が増えることを意味します。業界事情の変化に対応して、経営をうまく効率化していくことが大切です。

前章で解説したとおり、大手薬局チェーンは買収対象を優秀な薬局に絞る傾向が高くなっています。経営が効率的でない薬局は、今後もし身売りをしても、売却価格を安く抑えられるか、買い手が見つからないケースが増えるでしょう。

処方箋の集中を避けることや、リピート顧客獲得のための待ち時間短縮、管理指導や疑義照会の迅速化など、より効率的な経営が重要です。

②調剤薬局業界にもIT化が進む可能性

経営効率化に加えて、薬局のIT化に乗り遅れないことも重要な課題です。IT化に乗り遅れた薬局は、身売りしようとしても大手が食指を動かさない可能性があります。

薬局のIT化は費用がかかること、従業員が新しいシステムに慣れるのに時間がかかることなど、導入には手間と時間がかかるのが難点です。

また、IT化を進めるべき範囲には正解がない場合があり、経営者の判断力が求められます。実際、調剤ロボットなどは進化が非常に早いので、費用をかけて導入してもすぐに古くなってしまう可能性もあります。電子薬歴などの基本的なIT化に関しては、導入したほうがプラスに働くでしょう。

③経営する調剤薬局の状況・価値を把握

薬局の身売りに限らずM&A全般にいえることですが、身売りを行う前に経営する調剤薬局の状況や価値をあらためて把握することが大切です。身売りを成功させるには、自社の価値をはっきり相手に伝え、買い手に自社が優良な薬局と認めてもらう必要があります。

しかし、特に中小企業では、経営者自身が自社の状況や価値をあいまいにしか理解していない場合が多いです。自社の価値を把握することは、買い手選びの方針を固めるためにも重要です。

自社とのシナジー効果が得られる買い手を探し、価値を認められ納得できる価格で売却するためにも、状況・価値の把握は重要なプロセスといえます。

④経営する調剤薬局の改善点を見る

薬局の身売りを行う前に、経営する調剤薬局の改善点を洗い出し、改善できる部分は身売り前に改善することが大切です。

M&Aにおける改善点の洗い出しは「磨き上げ」と呼ばれ、薬局に限らずM&A全般の重要なプロセスとなっています。改善できる点は買い手探しの前に改善しておくべきですが、実際は簡単に改善できない点も多いのが現実です。

その場合でも、改善点を洗い出してリスト化し買い手が理解しやすいようにすれば、交渉がスムーズに進み身売りが成功しやすくなります。M&Aでは、自社のよい点だけでなく改善点も正直に買い手に伝えるほうが、成約後の経営がうまくいく可能性が高まるのです。

⑤経営する調剤薬局の企業価値の査定

薬局の売却価格を決めるためには、企業価値を算定する必要があります。M&Aの企業価値算定はいくつかの手法があり、手法によって価格が変わることもあります。薬局の身売りを行う際は、正しい企業価値算定を行う仲介会社を選ぶことも重要です。

企業価値算定は専門家が行うので、薬局経営者が手法の詳細を理解する必要はありません。しかし、手法の大まかな内容を知っておけば、専門家が行う企業価値算定の妥当性を自分で判断できます。

一般には、将来得られると予想されるキャッシュフロー数年分に、時価純資産を加えたものを企業価値とすることが多いです。

【関連】調剤薬局を高額で買取してもらうには?価格の算出方法を解説!

身売りした調剤薬局・会社における従業員の処遇

「身売り」は印象が悪い言葉ですが、身売りした調剤薬局や会社の従業員における処遇はそれほど悪いものではありません。具体的には、以下の処遇が予想されます。

  • 雇用が保障される
  • 給与・待遇面は維持される

雇用が保障される

会社売却後には、従業員雇用の継続が保証される傾向にあります。身売りを行うことは、会社の経営状態は決して良くないということです。

そのままでは倒産やリストラの危機を迎えますが、身売りにより経営の安定した大企業の傘下に入るため、一般的には従来より解雇のリスクが減少します。

給与・待遇面は維持される

雇用と同様に、給与や待遇も維持される場合が多いです。近年、大手企業では、働き方改革の影響で給与水準や労働環境が大幅に改善されています。大手企業のグループ会社となることで、大手企業の労働条件が適用される結果、給与・待遇が維持されるケースが多いです。

身売りの際に従業員を保護する方法

身売りの後に従業員などの待遇が悪くなる事例も確かに存在します。そうならないために注意すべき点として、以下の事項があります。

  • 契約書による確約
  • 子会社化も検討

契約書による確約

M&Aや企業買収では、必ず買収条件に関する契約書を締結し、身売りであってもM&Aには違いないので契約書が必要です。契約書上に身売り後における社員の待遇を保証する条項を設けることで、法的拘束力をもって社員の待遇を確約できます。

子会社化も検討

経営者が身売り後の経営に関与しても良いのであれば、M&Aにより大企業の子会社となる手段も検討可能です。自身が雇われ経営者となり、親会社と従業員の間に立って統合を進めることで、従業員における待遇の保証につながります。

調剤薬局・会社の身売りが実施される前兆

この章では、調剤薬局・会社の身売りが実施される前兆を見ていきましょう。特徴的な兆候として、20の事柄を下記に示しました

  1. 大量のリストラが行われる
  2. 社長の表情が暗くなった
  3. 最終利益が赤字続き
  4. 社内の備品が頻繁に不足する
  5. 先の予定が曖昧になる
  6. 行事やイベントがなくなる
  7. 住宅ローン審査がとおらない
  8. 社長に届く年賀状の減少
  9. 給与の支払いが遅れる
  10. 役職者が増え始める
  11. 見切り発車で新事業に手を出す
  12. 経理担当者が辞める
  13. 社長が現場で働き始める
  14. 社長がほとんど会社にこない
  15. 社内で多くの問題が発生する
  16. 社員のモラルが下がる
  17. 経理担当者や社長が頻繁に銀行へ行く
  18. ボーナスがカットされる
  19. 社会保険ではなくなる
  20. 不祥事が生じる

調剤薬局・会社の身売りに関する相談先

調剤薬局・会社の身売り・M&Aをご検討の際は、ぜひM&A総合研究所へご相談ください。M&A総合研究所では、さまざまな業種でM&A実績のあるM&Aアドバイザーが、親身になってご相談からクロージングまで案件をフルサポートいたします。

中堅・中小企業M&Aを主に手掛けており、料金体系は成約するまで完全無料の「完全成功報酬制」です。(※譲渡企業様のみ。譲受企業様は中間金がかかります。)

無料相談を随時受け付けておりますので、調剤薬局・会社の身売りをお考えの際は、どうぞお気軽にお問い合わせください。

調剤薬局のM&A・事業承継ならM&A総合研究所

調剤薬局のM&Aにおける売却・買収の事例

製剤薬局業界におけるM&Aの事例で、有名なものを紹介していきます。

マツモトキヨシホールディングスとココカラファインのM&A

マツモトキヨシホールディングスとココカラファインは、2021年2月に株式交換や会社分割を通じて経営統合を実行しました。

全国に薬局併設型ドラッグストアなどを展開するマツモトキヨシホールディングスと、ドラッグストアや薬局1,444店舗を全国展開し、訪問介護やサービス付き高齢者住宅運営なども手掛けるココカラファインは、相互の顧客基盤を活用したマーケティング体制やアジア地域の事業基盤確立を目的として、地域包括ケアシステム構築の推進役となることを目指しています。

取引価額は非公開です。

株式会社マツモトキヨシホールディングスと株式会社ココカラファインとの 経営統合に関する経営統合契約の締結のお知らせ

アオイ薬局のM&A

中部薬品は2020年10月に、岐阜県羽島郡と加茂郡で運営されているアオイ薬局の発行済株式の100%を取得し、子会社化することを決定しました。

取引価額は非公開ですが、これにより岐阜県周辺地域でのドミナント出店を通じたヘルスケアネットワークの構築を目的としています。

オンライン服薬指導対応開始のお知らせ

ベストシステムのM&A

地域ヘルスケア連携基盤は、2021年7月に静岡県浜松市を拠点とするベストシステムの株式を取得し、子会社化しました。これは、ヘルスケア分野の企業(病院・薬局・訪問看護など)に対し、医療現場の視点に立った経営支援を提供することを目的とした取引で、価額は非公開です。

これにより、地域包括ケアシステムの担い手としての企業グループへの発展を図ることができます。

株式会社ベストシステムの株式取得に関するお知らせ
【関連】【2021】出版業界のM&A動向と事例9選!会社売却・買収の実績を解説!

共生商会のM&A

寛一商店は2020年12月に、青森市などで薬局4店舗を運営する共生商会の株式を取得し、子会社化しました。取引価額は非公開であり、目的は東北エリアへの進出の推進です。

有限会社共生商会の株式取得(子会社化)に関するお知らせ

JR九州ドラッグイレブンのM&A

ツルハホールディングスは2020年5月に140億円を投資し、JR九州ドラッグイレブンの発行済株式の51%を取得し、子会社化しました。これにより、九州・沖縄地域でのドミナント強化を図り、共同仕入れや経営資源共有によるコスト削減を実現しました。

これにより、薬局併設型ドラッグストアや介護ショップなどを全国展開するツルハホールディングスが、九州地方で228店舗を運営することが可能となりました。

子会社の異動(株式譲渡)に関するお知らせ

勝原薬局のM&A

ツルハホールディングスは、九州地方で228店舗のドラッグストア・薬局を全国に展開し、薬局796店舗・医療機関内売店21店舗を運営しています。

2021年1月に、兵庫県姫路市を中心に薬局11店舗を運営する勝原薬局の全株式を取得し、完全子会社化することを目的とした株式譲渡の取引が行われました。これにより、かかりつけ薬局としての地域医療に貢献を通じた企業価値向上を図ることができます。

ネオファルマーとサミットのM&A

ウエルシアホールディングスは、2020年7月に株式譲渡と吸収合併をスキームとして、取引価額を非公開にてネオファルマーとサミットの発行済株式の100%を取得し、子会社化しました。

これにより、愛媛県を中心とした四国地域での店舗網の拡大、調剤事業の推進、共同仕入れによるコスト削減を目的としています。

株式会社ネオファルマー及び株式会社サミットの株式取得に関するお知らせ

調剤薬局・会社の身売りまとめ

調剤薬局業界はかかりつけ機能を重視した方針により、動向が今後大きく変化していくと考えられます。調剤薬局の身売りは今後も増えるとともに、身売りに成功するための考え方も変わってくるでしょう。

調剤薬局・会社の身売りにおけるメリットや動向を理解することが、今後ますます重要です。

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