M&Aとは?手法ごとの特徴、目的・メリット、手続きの方法・流れも解説【図解】
2022年6月7日更新会社・事業を売る
のれん償却期間とは?会計基準と税務
買収時の「のれん」は無形固定資産として計上し、一定期間にわたり償却する決まりとなっています。この記事では、買収におけるのれん償却期間、会計基準におけるのれん償却期間と方法、回収期間に基づくのれん償却期間について解説します。
のれん償却期間
M&Aが活発化している昨今、M&Aに関連する会計知識の重要性が増しています。M&Aに関する会計処理の一つに、「のれん償却」があります。
合併や買収により他社を取り込むと、「のれん」が発生する可能性があります。買収により生じたのれんには、一定の償却期間が設けられています。この記事では、会計基準と税務基準それぞれについて、のれん償却期間を説明します。
買収におけるのれん償却期間
この項では、買収におけるのれん償却期間をお伝えします。
加えて以下の2つのポイントも解説。
- 買収におけるのれんの概要
- 買収におけるのれんの減価償却
この2つを押さえておけば、買収におけるのれん償却について悩むことはありません。
それでは順番に見ていきましょう。
①買収におけるのれんの概要
不確実性の高い現代では、M&Aにより利潤獲得の活路を見出す企業が増加しています。迅速な目標達成を可能とするM&Aには、合併や合併、様々な手法があります。
M&Aにより他の会社や事業を買収する際、のれんが発生します。のれんとは、買収される企業の時価純資産と買収価格の差額を意味しており、超過収益力とも呼ばれます。
数年〜数十年後の利益獲得やシナジー効果を目的に、M&Aが実行されます。将来の利益獲得の源泉となるのは、ブランド力や技術力等貸借対照表に記載されない無形固定資産です。
買収の際には財務諸表には本来存在しない資産を、「のれん」として評価し、買収金額に上乗せします。ブランド力や技術力は本来価値が付いているものではないので、買収時に買い手側の判断で評価します。
のれんの価値は誰が買い手になるかによっても変わるため、不確実性が高いものでもあります。そのため、予想よりも十分な利益を獲得できなければ、後々「のれん」の金額を回収可能額まで引き下げる処理(減損処理)を実施する必要がでてきます。
減損処理により多額の費用が計上されれば、資金繰りが大幅に悪化する恐れがあるので、買収に際しては、慎重にのれんの価値を評価することが大切です。
のれんを算定する際には専門家に依頼するのがおすすめです。M&A総合研究所では、M&Aに豊富な知識と経験を持つアドバイザーM&Aをフルサポートいたします。
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②買収におけるのれんの減価償却
買収時に上乗せしたのれんは、一般的な資産と同様に減価償却しなくてはいけません。
減価償却とは一定期間に渡って、資産価値の減少分を費用計上する会計上の処理です。減価償却は対象資産の価値が年々減少するという前提で行うため、資産価値が減少しない「土地」は減価償却しません。
買収時に計上するのれんについても、年々価値が減少すると仮定して減価償却します。
上記は日本会計基準の話であり、国際的な会計基準「IFRS」を採用している場合は、のれんの減価償却は実施しません。IFRSではのれんの償却は行わず、減損処理のみ実施します。
減損処理とは、当初想定していた利益目標を達成できない資産について、回収可能額まで資産価値を減額する会計処理です。
IFRSでは償却処理を行わないため、減損時の計上費用が大きくなります。減損発生時のデメリットは大きいですが、のれん償却の処理は不要ですので、手元に多くのキャッシュを残せるのです。
買収を実施する際は、自社が「日本会計基準」と「IFRS」のどちらの会計基準を用いているか確認しましょう。
次項からは、のれんの償却期間に関して詳しく解説します。
会計基準におけるのれん償却期間と方法
この項では、会計基準に基づくのれん償却期間と方法を併せてお伝えします。
⑴会計基準におけるのれん償却期間と方法
のれんは一体どのように償却するのでしょうか?
会計基準では、20年以内でのれんの効果が及ぶ期間にわたって、定額法などの合理的な方法により償却する決まりとなっています。
20年以内であれば、のれん償却期間は自由に設定可能です。
定額法とはのれんを一定期間にわたって、毎期均等金額ずつ償却する方法です。つまり定額法では、毎期同じ金額ずつのれんの価値が減少すると仮定します。
減価償却の方法には、定額法以外に「定率法」や「級数法」などがありますが、のれん償却では原則定額法を使用します。
毎年ののれん償却費用は、定額法における下記計算式により算出できます。
- のれん償却費=(取得価額−残存価格)÷耐用年数
取得価額とはその資産を取得する際に要した費用であり、買収時に計上したのれんの金額を指します。
残存価格は利用出来なくなった資産を売却する時点での価格ですが、のれんに関しては0円として計算します。
耐用年数とはある資産が使用に耐え得る年数を指し、のれん償却期間が当てはまります。
⑵おけるのれん償却の具体例
理解を深める為に、具体的な事例を用いてご説明します。
例えば買収時に計上した「のれん」が10,000,000円、償却期間が10年であるとします。
この場合における毎期ののれん償却費は、以下の通り算出できます。
- のれん償却費=(10,000,000−0)÷10=1,000,000円
つまりこのケースでは、買収時に計上したのれん代1,000万円を、毎年100万円ずつ償却することとなります。非常に多額ですので、のれん償却期間の設定は慎重に実施しなくてはいけません。
次項では、のれん償却期間の決定方法について説明します。
回収期間に基づくのれん償却期間の決定
「のれん」の償却期間は、最長20年以内で自由に決定できます。
自由に決定できるとは言え、適当に設定すると資金繰りが悪化する恐れもあるので、妥当性のある期間を設定しなくてはいけません。前述した例において、償却期間を10年ではなく5年とした場合には、毎期ののれん償却費は200万円となります。
償却期間を5年短縮しただけでのれん償却費が100万も変動する事からも、償却期間の重要性が分かっていただけるかと思います。償却期間を設定する際には、買収資金の回収期間を基準とすることをオススメします。
回収に3年を要するのであれば3年、10年を要するのであれば10年といった感じです。回収期間よりも短い償却期間を設定した場合、資金繰りが上手くいかない可能性があります。
例えば買収費用が1,000万円であり、毎期100万円のキャッシュフローを獲得できる場合、回収期間は10年です。※簡略化のため、その他の要素を一切考慮していません。
仮にのれん償却期間を5年と設定した場合、毎期の「のれん償却費」は200万円となります。100万円しか稼げないにも関わらず、のれん償却費として200万円かかってしまうため、毎期100万円の赤字が発生してしまいます。
正確には他にも様々な要素を考慮するので厳密には異なりますが、回収期間よりも短く設定すると赤字となるリスクがあります。のれんの償却期間を回収期間と合わせることで、資金繰りが悪化するリスクを低減できます。
税務におけるのれんの償却期間
最後に、税務におけるのれんの償却期間に関して解説します。
ここまで述べた内容は会計上の処理であり、税務におけるのれんの取り扱いとは異なります。実際に納税する際の税計算では、税法のルールに則ってのれんを処理しなくてはいけません。
会計と税務では、のれんの償却期間に関するルールが大きく異なります。大前提として税務では、のれんを「資産調整勘定」という名称で定義しています。
会計基準では最長20年以内で自由にのれんの償却期間を設定できる一方で、税務では償却期間が5年と決められています。5年以内で自由に設定できる訳ではなく、5年間に固定されています。
前述の例を用いると、毎期の資産調整勘定(のれん償却費)は200万円となります。発生する資産調整勘定(のれん償却費)は、損金として処理します。
会計処理で税務上の償却期間(5年)と異なる償却期間を設定している場合には、確定申告時に調整する必要があります。のれんの申告調整は非常に面倒ですので、最寄りの税理士に調整を依頼する方が無難です。
申告調整の手間を省く上で、会計上の償却期間を5年に設定する事も一つの手です。会計上でものれんの償却期間を5年に設定すれば、税務ルールとの整合性を保つことが可能です。
確定申告時の手間を省く点ではメリットがありますが、資金繰りが悪化するリスクは高まります。どちらを取るかは経営者の判断に委ねられます。
まとめ
今回は、買収により生じるのれんの償却期間を解説しました。
買収時に相手会社のブランド力などの無形固定資産を評価する場合、買収価格にのれんを上乗せします。買収時に上乗せしたのれんは、無形固定資産として計上し、一定期間にわたり償却する決まりとなっています。
会計上は最大20年以内で、自由にのれん償却期間を設定出来ます。買収に費やした投資金額の回収期間を基に、のれん償却期間を設定する方法がオススメです。
回収期間を基に決定すれば、のれん償却による資金繰り悪化のリスクを抑えることが可能です。税金の確定申告をする際には、税務上のルールに基づいてのれんを処理する必要があります。
会計のルールとは異なり、税務では償却期間が5年間に固定されています。会計と税務の間でのれん償却期間が異なる場合には、申告調整の手間がかかります。
申告調整の手間を省きたいのであれば、会計上の償却期間を5年間に定めましょう。
償却期間の設定や税務処理を失敗するリスクを考えると、税理士に依頼することも選択肢の一つです。
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