2022年12月1日更新事業承継

役員退職金を活用した事業承継対策とは?メリット、計算方法を解説

事業承継の納税額は自社株評価にもとづいて算出されるものなので、役員退職金を活用することで税金負担の軽減が可能です。ただし、活用するうえでさまざまな注意点も存在します。今回は、役員退職金を活用した事業承継対策のメリットや計算方法、注意点を解説します。

目次
  1. 役員退職金を活用した事業承継対策とは
  2. 役員退職金を活用して事業承継対策を行うメリット
  3. 役員退職金を活用した事業承継対策の注意点
  4. 事業承継対策としての役員退職金の計算方法
  5. 役員退職金を活用した事業承継対策のまとめ
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役員退職金を活用した事業承継対策とは

会社を長く存続させるには、適切なタイミングで事業承継を行う必要があります。経営者の高齢化が進むと経営者のリーダーシップや求心力が落ちるため、余力のあるうちに次世代に引き継ぎしなくてはなりません。

しかし、事業承継には、税金負担の面で大きな問題があります。自社株評価にもとづいて計算された相続税もしくは贈与税を納めるため、会社や後継者にとって無視できない納税義務が発生します。

この税金負担を抑えるために活用されているのが、役員退職金を活用した事業承継対策です。これは、事業承継の際に役員の退職金を支給して会社の資産を減らすことで、自社株評価を引き下げて税金負担を軽くしようとする試みです。

現在の経営者に対して退職金を支払えば、受け取る側はリタイア後のまとまった資金が得られます。そのうえで、自社株を引き継ぐにあたって評価額が低いほうが、資金面の負担軽減につながる仕組みです。

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役員退職金を活用して事業承継対策を行うメリット

役員退職金を活用した事業承継は、税制面で大きな優遇措置を受けられます。特に大きなメリットは以下の3点です。

  • 利益を圧縮して、法人税の負担額を減らせる
  • 自社株の評価を下げる
  • 役員に関しても税負担が低い

利益を圧縮して、法人税の負担額を減らせる

会社は事業利益を生み出すために事業活動を行っていますが、利益を計上しすぎると翌年度に納める法人税が高くなる問題も抱えています。納める法人税額を抑えるためには、会社の経費を計上して利益を圧縮する方法が有効です。

役員退職金は、役員報酬と同じように扱えるので会社の経費に計上できます。会社の利益が大きくなりそうなタイミングで役員退職金を支給することで、利益を圧縮して法人税の負担額を減らすことが可能です。

ただし、役員退職金は、無制限に高く設定できるわけではありません。最終的な退職金の支給額は会社に対する功績や勤続年数を基準に計算されます。

自社株の評価を下げる

役員退職金は、功績に応じた金額を支給するのが基本です。経営者や重要な役員は功績が大きいことから、多額の退職金が支給されて然るべきであるため、会社の支出が大きくなり会社の資産も減少して自社株の評価の引き下げにつながります。

事業承継の際は現経営者が保有する株式を後継者に引き渡すことになるので、相続税あるいは贈与税が発生します。事業承継の相続税・贈与税は自社株評価に基づいて算出されるので、退職金を支給して自社株の評価を下げておくことで税金負担を軽減させることが可能です。

役員に関しても税負担が低い

役員退職金を活用した事業承継の最後のメリットは、役員退職金に対して課せられる税金が通常の所得より負担が小さいことです。退職金の課税対象は退職所得控除を差し引いた後の1/2の金額なので、税制面で大きな優遇措置を受けられます。さらに退職金は分離課税なので、他の所得と合わせることがなく、税率が上がることはありません。

事業承継の際に会社の資産として残したままにすると、法人税や相続税・贈与税として納めなくてはなりませんが、退職金として受け取っておくとはるかにお得な結果になりやすいです。

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役員退職金を活用した事業承継対策の注意点

事業承継の際の役員退職金の活用は税制面でさまざまなメリットを得られますが、いくつかの注意点もあります。特に注意するべきポイントは以下の3点です。

  • 現金支給になるため、資金調達が必要
  • 経営者は完全に経営から手を引く必要がある
  • 高額な退職金の設定に気をつける

現金支給になるため、資金調達が必要

高額の現金支給の役員退職金は、複数の役員の退職タイミングが重なると、該当の決算期に赤字計上につながることも珍しくありません。会社の資金が底を尽きると事業承継対策どころではなくなるので、退職金原資の積み立てを進めておく必要があります。

退職金原資は、掛け金が損金になる共済や保険を活用するのが一般的です。保険料の支払いに関しては保険サービスによって異なりますが、毎月もしくは半年に一度など、定期的に保険料の支払いを計上し、保険料の全額あるいは一部を損金として計上します。会社の経費計上と退職金の積み立てを同時に行えるので、事業承継シーン以外でも節税効果を得ることが可能です。

将来の事業承継を見越した退職金の準備方法の代表例は、以下のとおりです。

  • 法人の生命保険を活用する
  • 小規模企業共済に加入する

まずは、代表者を被保険者とし、保険金の受取を法人とする生命保険を積み立てる方法です。退職金の支払時期に満期をあわせる、もしくは生命保険を中途解約し、受け取った解約返戻金を退職金に充てるのが一般的とされています。

次に、独立行政法人中小機構が運営する小規模企業共済の活用です。これは、小規模事業者の経営者・役員が自身で積み立てる退職金制度で、掛金は途中でも自身の都合で増減できるほか、掛金の全額が所得控除になるメリットもあります。

経営者は完全に経営から手を引く必要がある

事業承継の際に代表取締役から降任するものの、会長などの役職について会社に残る選択肢もあります。しかし、引退後に経営に干渉する場合は、役員退職金の損金算入が認められなくなるケースがあります。

ポイントは、国税庁から「実質的に退職したと同様の事情」とみなしてもらえるかどうかです。退職以前と同様に取引先との取引に関わっていたりすると、事業承継により退任したとは認められず、退職金の損金算入も否認されるリスクが高まります。否認された場合のリスクは大きいので、事業承継対策として役員退職金を活用する場合は、完全に経営から手を引くのが無難です。

高額な退職金の設定に気をつける

支給する退職金が高額になるほど高い節税効果を得られますが、高すぎる退職金の設定は不当な報酬と判断されて損金算入の否認リスクも高めてしまいます。事業承継のタイミングでは退職金の損金算入が認められたとしても、数年後の税務調査で指摘されて追加徴税が課されるケースもあります。

役員退職金を活用した事業承継対策のメリットを確実に得るには、功績に対する正当な報酬設定を行って、適度な節税に抑えておくことが大切です。

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事業承継対策としての役員退職金の計算方法

法人税法上、役員退職金に具体的な計算方法は明示されていません。とはいえ、事業承継の際に自由に高額な退職金設定を行うと否認リスクを高めてしまいます。そこで活用されているのが「功績倍率」と呼ばれる指標で、役職に合わせた値をあてはめることで適正な報酬額を反映させやすくなります。事業承継の役員退職金の計算で一般的に用いられている計算式は、以下のとおりです。

  • 役員退職金=最終役員月額報酬×役員在任期間×功績倍率

功績倍率とは

功績倍率とは、役員在任中の会社への貢献度を数値化させたものです。重要な役職になるほど数値が高くなり、退職金の支給も高額になるように設定されています。役職に対する数値が決められているわけではありませんが、経営者の功績倍率は3倍が一般的とされています。これは、昭和55年の東京地裁が下した判決で根拠になったデータの平均値が3倍だったためです。

ただし、3倍の設定が必ずしも正しいとは限りません。会社の財務状況次第では、退職金を支払いきれない状況も起こり得て、事業承継と同時に会社の経営が傾くような状況にもなりかねません。前述した計算式や功績倍率3倍はあくまでも目安として、最終的には会社の財務状況に合わせた退職金を算出する必要があります。

【関連】事業承継で発生する税金| M&A・事業承継の理解を深める

役員退職金を活用した事業承継対策のまとめ

本記事では、役員退職金を活用した事業承継対策を解説しました。役員退職金は、事業承継の負担になりがちな税金を大幅に減額できるため、事業承継の際は積極的に活用したいポイントです。

ただし、退職金の損金算入が否認されるケースもゼロではないため、適度な設定が必要です。その際は専門家に相談するなどしておくと、万全の体制で事業承継に臨めます。

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