M&Aとは?手法ごとの特徴、目的・メリット、手続きの方法・流れも解説【図解】
2022年6月16日更新会社・事業を売る
株式交換とは?用語の意味、メリット・デメリット、手続きの流れも徹底解説
株式交換とは、対象会社の発行済株式すべてを株式の交換によって取得し、完全親会社となるための手法です。主に、会社の組織再編に活用されます。この記事では、株式交換を活用するメリット・デメリット、株式交換の手続き方法などを解説します。
目次
株式交換とは?手法の概要・意味
経営上、別法人を100%完全子会社化したいニーズが生じることもあるでしょう。そのニーズをかなえる方法として、株式交換があります。今回は、株式交換に関して幅広く解説します。はじめにM&Aにおける株式交換について、以下の7項目を見ていきましょう。
- 株式交換の意味とM&Aでの活用
- 株式交換によるM&A対価
- 株式交換の仕組み
- 三角株式交換の仕組み
- 株式交換と売却側の新株予約権の取扱い
- 株式交換と株式移転の違い
- 株式交換と吸収合併の違い
株式交換の意味とM&Aでの活用
株式交換と聞くと、持っている株式を会社や人と単にトレードする手法と勘違いしがちですが、実は若干異なります。
株式交換とは、売り手企業の発行済み全株式と買い手企業(株式会社または合同会社)の株式などを交換することで、完全親子関係(完全子会社化)を築く手法です。株式交換により、株式を取得した会社は譲渡側会社を完全子会社化でき、完全親会社と呼ばれます。
ニュースなどで「〇〇が〇〇を完全子会社化しました」などと見聞きすることもありますが、株式交換は完全子会社化するときに活用されるM&A手法のひとつです。
実際に株式交換が用いられたM&A事例としては、2006年にGoogleがYouTubeを完全子会社化したケースが挙げられます。
株式交換は、平成11年の旧商法改正で導入されたものです。その後、平成17年の会社法制定によって、株式だけではなく現金・新株予約券・社債も株式交換の対象に含まれることになり、多額の資金がなくても他社の株式買収が可能になりました。
株式交換によるM&A対価
株式交換以外の一般的なM&Aでは、買い手が売り手に支払う対価(株式をすべて取得するために買い手が支払うもの)として、現金が活用されるケースが多いです。
株式交換では、株式交換で支払う対価として、有価証券(社債、新株予約権、新株予約権付社債など)や他社株式など、現金以外の資産が認められています。また、三角株式交換では、買い手の完全親会社における株式が対価として用いられるのです。
株式交換の仕組み
株式交換とは、売却側企業の発行済み全株式を買収側企業に取得させることで、完全親子会社の関係を作る方法です。
売却側の株主は、A企業の株式を買収側の株式などと交換して買収側の株式を取得します。これによって買収側B社はA社の支配権を持つ親会社となり、A社が完全子会社として効力が発生するのです。
売却側の株主が買収側の株式を取得する際は、所定の交換率による株数の割り当てが行われます。買収側は巨額の資金を用意する必要がないため、資金が少ない企業でも子会社化が可能です。
株式交換の対価は、買収側の株式だけでなく、社債や現金、買収側企業の新株予約権、買収側会社の親会社株式などの交付も認められています。
三角株式交換の仕組み
三角株式交換は買い手企業(A社とする)の株式ではなく、A社の完全親会社(B社とする)における株式を対価とする方法です。適格株式交換として認められるのは、以下3つの要件を満たす場合になります。
- 株式交換前にC社がB社完全子会社の全株式を保有
- 完全子法人と完全親法人との間に特定支配関係があること
- 株式交換後にも、買収側の親会社ではなく株式交換する買収側の企業による支配関係が継続
株式交換と売却側の新株予約権の取扱い
株式交換における売り手(売却側)A社の発行した新株予約権が残ってしまうと、株式保有率が100%ではなくなるため、株式予約権について「取得条件」を定めます。
株式交換を実行する際は、買い手側B会社が買収するA社の新株予約権を取得して消却し、対価として新株予約権者へ親会社A社における株式の新株予約権を交付するのが一般的です。
株式交換と株式移転の違い
株式交換と似たM&A手法に、株式移転があります。株式移転も、発行済の株式を100%他の会社に取得させるM&A手法ですが両者には明確な違いがあり、最も異なるのは株式を100%取得する会社の特徴です。
株式交換は他社に株式を取得させる行為ですが、株式を取得する会社は「すでに存在している会社、もしくは合同会社」となります。
株式移転で株式を取得するのは「新しくできた会社」で、ホールディングスカンパニーや持株会社設立などの際に活用されることの多いM&A手法です。また、企業買収を含めた組織再編である株式交換とは異なり、株式移転は単なる会社内における組織編成の意味合いを持ちます。
株式交換と吸収合併の違い
吸収合併とは、複数の法人を統合させることで一つの法人とする手法です。吸収合併では、吸収される側の法人格を消滅させます。
これに対して株式交換は、一方の企業を完全子会社化する手法ではあるものの、子会社側の法人格を消滅させません。法人格を残すのかどうかが手法として大きく異なっています。
株式交換を活用するメリット・デメリット
株式交換にはメリットだけでなく、当然デメリットも存在します。実施を検討する際は、メリット・デメリット双方をしっかりと把握することが大切です。
株式交換のメリット
株式交換を活用する主なメリットとして、次の5点が挙げられます。実施前は、自社にどのようなメリットがあるのかをよく確認しておくとよいでしょう。
- 株主総会での特別決議により手続きを進められる
- 現金を支払わなくても済む
- 子会社の独立性が担保される
- 少数株主を強制的に排除できる
- 売却側株主は買収側株式を獲得できる
- 経営統合を円滑に進められる
①株主総会での特別決議により手続きを進められる
株式譲渡を用いても完全親子会社関係を構築できますが、その場合は個々の株主と譲渡に関する契約を結ばなくてはなりません。
一方、株式交換を用いる場合は、株主総会における特別決議での承認が得られれば手続きを進めることが可能です。株式交換は株主総会で3分の2以上における賛成を得れば完全子会社化できるので、小規模株主から強制的に株式を吸い上げる仕組みとしても機能します。
②現金を支払わなくても済む
株式譲渡で売り手会社を完全子会社化する場合、買い手は売り手の発行済み株式をすべて買収しなければならないため、多額の現金が必要です。
株式交換の対価はある程度の柔軟性が認められているため、買い手(親会社となる側)は買収の際、多額の現金を用意しなくて済み、実際に多くのケースで株式交換の対価は買い手の株式で支払われています。
親会社となる買い手の株価が高いケースでは、子会社となる企業を有利な条件で買収できるのもメリットのひとつです。
③子会社の独立性が担保される
株式交換を活用して完全子会社になっても、法律上は親会社と別法人であるため、売り手の会社名を継続できます。
これによって、企業買収の際に生じ得る取引先や従業員からの抵抗を軽減できるのです。株式交換後も、会社組織そのものに大きな変化は生じず、子会社の独立性が担保されます。
④少数株主を強制的に排除できる
株式交換の場合、株主総会の特別決議で承認されれば、反対している株主の株式も強制的に買い手B社に移動されます。これにより、譲渡に応じなかった少数株主を強制的に排除することが可能です。
特別決議に必要な条件は下記になります。
- 株主総会に出席した株主の議決権が議決権全体の半数を超える
- 株主総会に出席した株主の議決権における3分の2以上の賛成
⑤売却側株主は買収側株式を獲得できる
株式交換をする場合、売却側A社の株主が保有している株を買収側B社の株と交換するため、完全子会社になった後でも売却側A社の株主は買収側B社の経営に継続して関与が可能です。
これは、株式交換に反対する少数株主を説得する材料にもなります。
⑥経営統合を円滑に進められる
株式交換は、売却側の株主構成が変わるのみで会社は存続するので、経営統合を急ぐ必要がありません。従業員も統合に抵抗をあまり感じないため、株式交換による組織再編を円滑に進められます。これも、株式交換のメリットです。
株式交換のデメリット
ここまで株式交換を活用するメリットを紹介しましたが、生じ得るデメリットについても理解しておきましょう。株式交換のデメリットは、主に以下の5点が挙げられます。
- 部分的に買収ができない
- 子会社化される会社に現金が入ってこない
- 株主の持分比率が下がる
- 買収企業の株主構成が変化する
- 専門的な知識がなければならない
①部分的に買収できない
株式交換は完全子会社化する手法であり、包括承継です。買い手は売り手の資産だけでなく、負債もすべて引き継がなければなりません。事業譲渡などのように特定の事業のみを買収できないため、株式交換を用いる場合、売り手の債務などは特に注意が必要です。
②子会社化される会社に現金が入ってこない
株式交換を活用すれば、買い手は現金を対価にしなくても買収できますが、子会社化される売り手は、自社に現金が入りません。たとえば、非公開企業に株式交換で企業買収されるケースの場合、子会社化された企業は対価として得た株式を現金化するのが困難となり、経営に支障をきたしてしまう恐れもあります。
売り手にとって対価が現金でないことはデメリットにもなり得るのです。
③株主の持分比率が下がる
株式交換後は、売り手側株主が買い手企業の株主となるため、買い手企業の株主構成に影響が出てきます。交換比率や買収側の規模によっては、株主総会での議決権割合が低下したり、価値が下がったりすることもあるのです。
④買収企業の株主構成が変化する
前述のとおり、売却側株主は保有している株式を買収側の株式と交換することで、買収側企業の経営に関与することが可能です。これは買収企業や既存株主、経営陣にとって不安要素のひとつになります。株主構成が変わることで、株主総会における議決までの時間が延びる恐れがあるからです。
株主の人数や発言権の比重が変化するため、今までとおりやすかった議決案がとおりづらくなるケースも今後増える可能性があります。株式交換によるM&Aを行う際は、株主構成も考慮しましょう。
⑤専門的な知識がなければならない
株式交換では書類作成や開示など複雑な手続きがあり、これらを円滑に進めるためには専門的な知識が必要です。株式交換で必要となる株価算定は、会社の経営状態や将来的なキャッシュフローなどを多角的に分析するうえ複雑な計算式を用いるので、財務の知識がなければ難しいでしょう。
株式交換は手続き上の問題で後々裁判になるケースも少なくないため、慎重に手続きを進めていく必要があります。株式交換を円滑に進めていくためには専門家によるサポートが必須といえるでしょう。
M&A総合研究所では、知識・経験の豊富なM&Aアドバイザーが、案件をフルサポートいたします。料金体系は成約するまで完全無料の「完全成功報酬制」です。(※譲渡企業様のみ。譲受企業様は中間金がかかります。)
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株式交換を行う手続きの流れ
この章では、株式交換の具体的な手続き方法を順番に解説します。
- 株式交換契約の締結
- 適時開示(上場企業に限る)
- 事前届出
- 有価証券届出書の提出
- 事前開示事後開示
- 株主と債権者に向けた対応
- 効力の発生と登記
- 事後開示
- 株式交換無効の訴訟への対応
①株式交換契約の締結
まず、当事会社において株式交換に関する契約を締結します。株式交換は重要な業務の執行にあたると判断されるため、取締役会が設置されている会社の場合は取締役会での承認が必要です。
②適時開示(上場企業に限る)
上場企業に限られますが、株式交換は投資家の判断に影響を与える要素となるため、取締役会で決定した時点で公表が求められます。株式交換契約締結の決定時も同様に適時開示の対象で、株式交換するのが完全子会社の場合でも同様に開示が必要です。
③事前届出
M&A(株式取得、合併・分割、株式移転、事業譲渡)では、独占禁止法に基づき公正取引委員会への事前届出と審査が必要な場合があります。
株式交換は株式取得に該当するため、買い手・売り手が以下における売上高の基準を満たす場合は事前届け出が必要です。
- 買収側企業のグループ全体における国内売上合計が200億円を上回る
- 売却企業とその子会社における国内売上合計が50億円を上回る
事前届出受理後の30日間は株式取得禁止期間で株式交換を実施できないため、これらを加味してスケジュールに組む必要があります。独占禁止法に触れる問題がない場合は、届け出企業の申出と公正取引委員会の判断により、取得禁止期間短縮が可能です。
問題点がある場合は追加の報告などが必要となり、届け出受理後120日まで審査が延長されます。事前相談制度があるので、利用するとスムーズに行えるでしょう。
④有価証券届出書の提出
金融商品取引法では株式の発行・交付に関する開示義務が定められており、一定の条件に該当する場合は財務局に有価証券届出書の提出が必要になります。
ただし、売却側企業が非上場企業や非公開会社である場合、交換予定の株式における情報が一般公開されている場合は不要です。株式交換における有価証券届出書は、事前開示を行う前に必要になります。提出後15日間は株式交換の実行ができません。
⑤事前開示
株式交換を実行する当事会社は、契約内容などの法令で定められた事項を事前に開示します。このとき、最低でも株主総会の2週間前までに、それぞれの株主や債権者に開示しなければなりません。
開示する際は公告通知や催告の手段が取られ、公告通知と催告のいずれか早い日から、契約内容など法令で定められた事項を記した書類を備えます。
⑥株主と債権者に向けた対応
株式交換では、株主と債権者に向けた対応も必要となるので、以下7点の対応も同時に進めていきます。
- 債権者保護の手続き
- 株券・新株予約権証券提出に関する公告
- 株主総会の招集と承認決議
- 簡易株式交換(株主総会が不要)
- 略式株式交換(株主総会が不要)
- 反対株主などからの株式買取請求への対応
- 新株予約権買取請求への対応
債権者保護の手続き
債権者保護の手続きとは、債権者の権利を保護するために債権者による異議申し立ての機会を与えることです。通常、当事会社は株式交換の旨を株主や債権者に通達しますが、債務者が別会社になったり多大な資産が移動したりすると、債務者の債務能力が著しく低下する恐れがあります。
その場合、債権者は最も短くて1ヵ月の間、異議申し立てを述べて弁済や担保提供を求められるのです。株式交換では、株式交換の対価として完全親会社における株式以外の金銭などを交付する場合、債権者保護の手続きを取らなければなりません。
株券・新株予約権証券提出に関する公告
売り手側の企業が紙形式の株券を発行している場合、買い手企業は公告して株券の提出を求める必要があります。売り手が新株予約権証券を紙形式で発行している場合も同様です。
売り手企業は、株式交換の効力が発生する日より1ヶ月前までに株主および新株予約権者に公告し、各々通知しなければなりません。
株式交換の効力日までに株式および新株予約権証券の提出がなければ、買収側の企業は金銭などの交付を拒否することが可能です。その場合、その時点で株式および新株予約権証券は全て効力を失います。
提出できない特別の事情がある場合は、株式および新株予約権証券の持ち主は別の手続きを踏むことで対価を受け取ることが可能です。
株主総会の招集と承認決議
株式交換を実行する当事会社は、株主総会の特別決議によって承認を受けなければなりません。効力発生の前日までに株主総会で承認を受ける必要があり、株式交換に反対する株主や債権者には、会社に対する株式買取請求権が与えられます。
なお、簡易株式交換や略式株式交換に該当する場合は、株主総会での承認手続きを簡略化・省略化することが可能です。
簡易株式交換(株主総会が不要)
簡易株式交換とは、特定の要件を満たすことで株式交換に必要な手続きを簡略化できる簡易組織再編行為です。簡易株式交換では、株主総会など手間のかかる手続きを省略できるため、スピーディーに組織再編を進められます。
簡易株式交換の要件は「完全子会社の株主に交付する完全親会社の株式数に、1株当たり純資産額をかけた価額と完全親会社における株式など以外の財産における帳簿価額などの合計額が、完全親会社における純資産額の20%を超えないこと」です。
つまり、完全親会社の純資産があまり動いていない、小規模な株式交換であることが要件になっています。要件の20%を下回る割合であれば定款で変更できますが、20%より大きい割合はできないので注意しましょう。
株式交換以外の合併・事業譲渡・会社分割といった手法も、要件を満たせば簡易組織再編行為に該当します。要件は簡易株式交換とは若干異なるものの、20%の割合より下の組織再編行為であれば簡易組織再編行為の要件を満たせるのです。
略式株式交換(株主総会が不要)
略式株式交換は、簡易株式交換と同じく組織再編の手続き(株主総会など)を簡略化するものですが、要件は異なっています。
略式株式交換は完全支配関係にある会社同士の組織再編行為なので、親子会社間の株式交換に限定され、親会社が子会社における90%以上の議決権を保有するケースでは、子会社側の株主総会決議を省略できるのです。
ちなみに、略式株式交換をはじめとする略式組織再編行為には、簡易組織再編行為ができる新設分割が含まれません。
新設分割は新しく会社を設立したうえで事業を承継させる手法であり、完全支配関係にある会社同士の組織再編ではないからです。同様の理由で株式移転や新設合併も略式組織再編行為に含まれません。
簡易組織再編行為と略式組織再編行為はそれぞれ要件を満たせば併用可能で、同じグループ傘下にある会社同士の組織再編であれば有効的に活用できます。
反対株主などからの株式買取請求への対応
株式交換に反対する株式保有者は、株式発行企業に対して公正な価格における株式の買い取りを請求できます。請求期限は、効力が発生する日の20日前から前日までです。
企業は、株式交換の旨を効力が発生する日より20日前までに株主へ通知しなければならず、反対する株主や債権者から株式買取請求があれば、これに応じる必要があります。
この場合、企業は反対株主と協議を重ねて適正な価格を決定した後に株式を買い取らなければなりません。なお、協議をとおしても適正価格の合意に至らなければ、株主もしくは企業が申告し、裁判所に決定を任せることも可能です。
新株予約権買取請求への対応
売り手企業の新株予約権ではなく、買い手企業の新株予約権が交付される場合、新株予約権者は企業に保有新株予約権に対して適正な価格での買い取りを請求できます。
請求期限は効力発生日の20日前から前日までで、企業は新株予約権買取請求があれば、これに応じる必要があります。
手続きは反対株主からの株式買取請求における場合と同様に「通知→協議→適正価格の決定→買取」の順番です。この場合も協議が整わなければ裁判所に価格の決定を委任できます。
⑦効力の発生と登記
完全親会社は、株式交換契約書で定められた効力発生日に、完全子会社の全株式を取得します。
株式交換の手続きを取ったことで、資本金や発行可能株式総数などに変更があれば、効力発生日から2週間以内に登記手続きを取らなければなりません。
⑧事後開示
当事会社は、株式交換の効力発生日から、法令で定められた事項が記載された書類を6ヶ月間、株主や債権者に開示しなければなりません。手段として、株式交換の結果などを記載した事後開示書類を本店に備置する形が取られます。
⑨株式交換無効の訴訟への対応
効力発生後6ヵ月以内であれば、以下4項目のうちどれかひとつを理由に、株式交換の無効を求めて訴訟を起こせます。
- 株式交換契約締結の法律違反
- 備え置き資料の不足や不備
- 株式や債権者による異議手続きの不履行
- 子会社の株主に対する対価割り当ての違法性
株式交換を承認しなかった取締役や、必要とされる催告を受けなかった株主などから訴訟を起こされた場合は、企業はこれに応じることが必要です。その結果、株式交換が無効になると、株式の返還が行われ株式交換前の状態に戻ります。
株式交換における自己株式の消却
自己株式は、自社で発行し発行後にその会社自身で取得し所有している株式をさします。金庫株とも呼ばれるので覚えておくとよいでしょう。子会社が自己株式を保有していると、当然その株式も株式交換の対象です。子会社は、自己株式の消却(実務処理)が求められるので注意してください。
ここでは、株式交換における自己株式の消却で問題となる、以下の2項目を解説します。
- 自己株式の消却手続き
- 自己株式消却を伴う株式交換の会計処理
①自己株式の消却手続き
大半の株式交換では、M&A実行前にあらかじめ子会社側で自己株式を消却します。子会社側は、以下の手順で自己株式を消却させるのが基本です。
- 株式交換契約書への自己株式消却条項を入れる
- 取締役会で自己株式の消却決議を行う
- 自己株式の消却登記を実施する
上記の手続きを済ませると、自己株式の消却が無事に完了します。
②自己株式消却が伴う株式交換の会計処理
自己株式消却を伴う株式交換では、単体と連結で会計処理が大きく異なります。まず単体の会計処理では、子会社側で自己株式消却、親会社側で株式交換の仕訳を実施する形です。
次に連結の会計処理では、投資と資本を合算したうえで、消去する形を取って仕訳します。株式交換を行うときは、自己株式消却の会計処理にも注意が必要です。
株式交換の税務と会計処理
株式交換をするときは、税務と会計処理についても知っておきましょう。「組織再編税制」の適格要件を満たすか否かによって、株式交換で必要となる税務・会計処理は異なるため、2項目に分けて紹介します。
①適格株式交換の税務・会計処理
法律で定められた適格要件を満たす(適格株式交換に該当する)場合、税務上は子会社株式を簿価によって譲渡したとみなされます。このケースでは、簿価を用いて会計処理を行い、売却益に対する課税は発生しません。
税務上優遇される適格株式交換ですが、いくつかの要件を満たす必要があり、適格株式交換となるには、対価は親会社の株式でなければなりません。株式交換後も完全支配関係を継続することが要件に含まれています。
完全支配関係にある会社間の株式交換では上記が要件ですが、支配関係(50%~100%未満)にある会社間の株式交換では、従業員の雇用や事業の継続に関する要件も満たさなければなりません。
とはいえ、適格要件を満たせば税務上有利な条件で株式交換を行えるため、適格要件はできるだけ満たすのが理想です。適格株式交換に該当すれば、会計処理を比較的楽に済ませられます。
組織再編税制が適用される場合
組織再編税制が適用される場合、株式交換時に売却側企業の資産を時価評価する必要はありません。
適用されるためには、株式交換の対価として買収側企業の株式交付が条件です。株式交換前の支配関係によって下表の条件も課せられます。
売却企業に対する買取企業の株式保有率が50%以上の場合 | 支配関係がない場合 | |
支配関係の継続性 | 50%以上の支配関係を維持する | 株式交換後、100%の支配関係を維持する |
従業員の引き継ぎ | 売却企業の従業員80%以上を買取企業が引き継ぐ | (左に同じ) |
事業の継続性 | 売却企業の主な事業を買取企業が継続する | (左に同じ) |
事業の関連性 | ー | 両社の事業に関連性がある |
事業規模/役員の経営参画人数 | ー | 事業規模が売却側企業より買収側企業が5倍以内である場合は売却側における特定役員の少なくとも1名が株式交換後も在任する |
株式保有の継続性 | 売却側株主に交付される買収側における株式のすべてが株式交換後も売却側株主に継続して保有される |
グループ法人税制が適用される場合
売り手側と買い手側の企業が株式交換前より完全支配関係がある場合は、グループ法人税制が適応されます。この場合は売り手側の時価評価が不要となり、買収側の株式以外の資産が対価として交付されても問題ありません。
買い手企業の株式のみが交付される場合
株式交換の際に買取企業における金銭などの交付が一切なく株式のみが交付される場合は、下記と判断され、譲渡損益が発生しません。
- 個人株主に株式の譲渡がなかった
- 法人株主は売却企業の帳簿価格で買取企業の株式を手に入れた
②非適格株式交換の税務・会計処理
的確要件を満たさない(非適格株式交換に該当する)場合、税務上は子会社の資産を時価評価する必要があります。時価により対価を受け取るため、子会社株主に譲渡益課税が発生します。
非適格株式交換では、子会社から移転された株式取得価額と増加する資本金の額における差額分を、資本金の増額分として会計処理するため、適格株式交換と比較して複雑な手続きが求められる点に注意が必要です。
株式譲渡の損益に対する課税
株式譲渡の損益は、個人の場合(所得税、住民税、復興特別所得税)、法人の場合(法人税、地方法人税、法人住民税、法人事業税)それぞれに課税されます。譲渡損益は法人と個人株主で計算方法は、以下のように異なります。
- 法人株主の場合:譲渡損益=株式の譲渡で通常得られる対価の額-株式の簿価
- 個人株主の場合:譲渡損益=譲渡価格-株式取得時・譲渡時経費
資産評価の損益に対する課税
株式交換時の時価が株式交換前の簿価を上回ると利益が生じるため、その年における課税所得が増えます。下回ると損失が生まれるため課税所得が減少するのです。
しかし、時価評価の対象における資産(固定資産、販売する土地、有価証券、金銭債権、繰延資産)が含まれます。
株式交換を円滑に成功させるための注意点
ここでは、株式交換を円滑に成功させるための注意点2つを解説します。ポイントを知ることは株式交換の円滑な成功にもつながるので順番にみていきましょう。
- 株式交換比率は慎重に協議する
- 株式交換と増資の関係性について理解しておく
①株式交換比率は慎重に協議する
株式交換において重要となるのは、株式交換比率です。株式交換比率とは、株式交換を行う際、完全親会社と完全子会社になる各会社の株式数における比率をいいます。
株式は会社ごとに株価が異なり、同じ比率で交換できません。そのため、株式交換を行うときは互いの会社における株価に合わせて株式交換比率を変えます。
このとき、株式交換比率は会社同士の協議により決定され、株価評価の手法にはインカムアプローチ・コストアプローチ・マーケットアプローチなどがあります。これらの評価手法を用い、会社同士の規模の違いや力関係などを加味したうえで、株式交換比率が決定されるのです。
上場して市場価値がわかっている会社は、市場価値をそのまま反映せず、プレミアムを加えたうえで株式交換比率を決定するケースが多いです。
株式交換比率は、算出される数字によっては株主に損害を与えてしまう可能性があるため、株式交換比率は公正な結果になるよう調整しなければなりません。
株主が内容に不満を持てば反発されてしまい、その結果、株式交換自体が成り立たなくなるおそれもあるため、株式交換比率は慎重な協議が大切です。
株式交換後の株価変動リスクと対処法
株式交換契約の締結後は株価が変動する可能性があり、結果として企業価値が変わることも考えられます。
株式交換比率には固定比率方式と変動比率方式があり、それぞれにメリットとデメリットがあります。株式交換実施後の株価変動リスクをよく理解したうえで、適した方式を選択することが大切です。
固定比率方法は株価が上下した場合でも比率が変わらないため、売却側への利益は変動しません。開示した後に買収側企業の株価が上がると売却側が得られる株式は増えます。買収側は交付する株が多いほど比率が低くなるので、買収側にとってもメリットです。
変動比率方法では株価が上下することで買収側の価値が上がると売却側の株価は下がり、売却側への株式対価は減少します。株価の上下で売却側の株式数へ影響がありますが、対価(財産)に関しては変動しません。
固定比率方法で紹介したとおり、新しく株価を交付することで比率が低くなるメリットはありますが、変動の場合は株価が下がると比率が高くなります。
株式交換比率における端数の処理
売却側の株式と買収側の株式における交換比率を決定する際に。端数が発生する可能性があります。この端数は切り捨てられません。株式交換で単元株式数が端数となり議決権がなくなるため、売却側の株主は会社に株式の買取りを要求できます。
②株式交換と増資の関係性について理解しておく
増資とは、新株発行により資本金を増やす行為のことで、株式会社の資金調達手段として行われます。新株発行により株式交換を実施すると、通常は増資と同様の効果(資本金の増加)をもたらすでしょう。
ところが、新株発行により資本金を増加させると、1株当たりの利益減少によって既存株主に悪影響をおよぼすおそれがでてきます。
100%子会社化を目的に株式交換するケースでは、現金の流出を伴うおそれがあります。ここでは上記の事態を回避する目的で、増資の効果を発生させずに新株発行を伴う株式交換を実施できるのかが問題です。
明確に規定されていませんが、理論上は「可能」とされています。株式交換の際、増加する資本金と資本準備金の額を0円として、全額を資本剰余金として会計処理することで、増資の効果を回避できるためです。
ただし、上記の手法は明文化されてないため、実施を検討する際は税理士や公認会計士などの専門家に相談したほうがよいでしょう。
③子会社による親会社の株式取得に関する注意点
子会社が売り手親会社の株式を取得する際は、注意が必要です。会社法では「子会社は親会社の株式を取得してはならない」とされているからです。
しかし、株式交換で親会社の株式を取得することは例外的に認められているため、売り手企業が自社株を持っている場合は買い手側の株式と交換することで取得できます。
ただし、買収側(親)企業の株式を取得した場合は相当な時期に処分しなければならないと定められている(会社法第135条第3項)ため、株式交換前に取締役会議で自己株式を消却するのもひとつの方法といえるでしょう。
株式交換のまとめ
株式交換は、多くのメリットが得られる反面、デメリットも少なくない手法です。専門的な知識を有していなければ株式交換を実行するのは難しく、最悪の場合は株式交換自体が無効になるおそれもあります。
子会社化する会社の財務状況をしっかりと精査したうえで実施しなければ、予期せぬ結果を招きかねないため、株式交換手続きを円滑に済ませるにはM&Aの専門家に相談しながら進めるのがよいでしょう。
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株式会社日本M&Aセンターにて製造業を中心に、建設業・サービス業・情報通信業・運輸業・不動産業・卸売業等で20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、アドバイザーを統括。ディールマネージャーとして全案件に携わる。