2021年7月19日公開会社・事業を売る

M&Aで未払い残業代はどうなる?法改正が与える影響は?

従業員への残業代が未払いになっている中小企業は多いといわれていますが、これはM&Aの際に買い手のリスクとなります。本記事では、M&Aで未払い残業代がどうなるか解説するとともに、2020年4月に行われた時間外労働の法改正とそのM&Aへの影響を解説します。

目次
  1. M&Aで未払い残業代はどうなる?
  2. M&Aの未払い残業代に対する法改正と与える影響
  3. M&Aの相談はM&A総合研究所へ
  4. まとめ
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M&Aで未払い残業代はどうなる?

M&Aで未払い残業代はどうなる?

大企業・中小企業問わず、残業代をきちんと支払っていない会社は、決して少なくないといわれています。

これは経営者と従業員との間の問題もさることながら、M&Aの買い手と売り手のトラブルの原因ともなります

近年は中小企業M&Aが活発ですが、M&Aを検討する前に未払い残業代の問題をきちんと解決しておくことが大切です。

労働時間とは

労働時間とは、雇用主の指揮・監督のもとで働く時間のことです。労働者は労働時間中は働く義務があり、雇用主はそれに対して賃金を支払う義務があります。

似た用語に「勤務時間」「就労時間」「拘束時間」といったものがありますが、これは労働時間に昼休みなどの休憩時間を足したものです。

労働時間の種類

労働時間という言葉は、正確にいうと法定労働時間と所定労働時間の2種類があります。普段はこれらを区別していなくても特に問題はありませんが、M&Aで残業代について考える際は、この2つを区別しておく必要があります。

【労働時間の種類】

  1. 法定労働時間
  2. 所定労働時間

法定労働時間

法定労働時間とは、労働基準法で規定されている労働時間の上限のことです。具体的には、一日8時間以内、一週間で40時間以内と決められています。

会社が従業員の労働時間を定める時、法定労働時間を超えて設定しても無効になり、超える部分に対しては時間外労働を適用しなければなりません。

なお、一定の時期だけ特に忙しい業種や交代勤務が必要な業種では、例外として法定労働時間の特例が設けられることもあります。

具体的には、飲食店などの接客業、病院や老人ホームなどの保健衛生業などに対しては、一週間の労働時間を44時間まで伸ばすことが可能です。

所定労働時間

所定労働時間とは、それぞれの会社が定めている、その会社での労働時間のことです。所定労働時間は必ずしも一日8時間にする必要はなく、8時間を超えない範囲で会社が自由に設定できます。

例えば、朝9時出勤で17時退勤、昼休みは12時から13時だとすると、働いているのは9時から12時の3時間と13時から17時の4時間なので、所定労働時間は3時間プラス4時間の計7時間となります。

M&Aの際に問題となる未払い残業代とは

M&Aの際に売り手側に未払い残業代があると、買い手から売却価格の引き下げを求められたり、場合によってはM&Aを中止されることもあります。未払い残業代について理解しておくことは、M&Aを行う企業にとって重要です。

先ほど労働時間には法定労働時間と所定労働時間があると解説しましたが、一般に残業というと、所定労働時間を超えた労働を指すことが多いと思われます。

しかし、M&Aで未払い残業代について考える時は、労働時間が2種類あるのに対応して、残業という概念も2つに分けて考える必要があります

つまり、所定労働時間を超過したけれど法定労働時間は超えていない残業と、法定労働時間を超えた残業の2種類があるということです。

これらはそれぞれ法内時間外労働・法定時間外労働と呼ばれ、法内時間外労働は、「法内残業」「法定時間内残業」などと呼ばれることもあります。両者は割増賃金の有無などさまざまな点で違いがあるので、分けて考えなければなりません。

同様に休日労働についても、労働基準法で週一日与えると定められている法定休日と、会社が独自に決めている所定休日を分けて考える必要があります。

例えば、土日が休みの場合、一般には土曜日が所定休日、日曜日が法定休日となるので、土曜の出勤と日曜の出勤では、支払うべき残業代が変わってきます。

【関連】偶発債務とは?M&Aで問題となる種類、対策を解説

M&Aの際に未払い残業代が発覚する理由

M&Aの際に未払い残業代が発覚するのは、基本的にはデューデリジェンスの段階が多いと考えられます。また、従業員から請求が来たり、労働基準監督署の調査で発覚する可能性もあります。

【M&Aの際に未払い残業代が発覚する理由】

  1. 従業員からの請求
  2. 労働基準監督署の調査
  3. デューデリジェンスによる発覚

1.従業員からの請求

まず、従業員や元従業員から、未払い残業代を請求されて発覚するケースがあります。

一般には、現在の従業員より元従業員から残業代を請求されるケースが多い傾向があります。というのは現役で働いている従業員は、職場で気まずくなったり人間関係が悪くなることを恐れて、請求をためらうことがあるからです。

M&Aを行う際は、ここ2,3年ほどで退職した従業員をリストアップしておき、彼らへの未払い残業代がないかチェックする必要があります。売り手がこの作業をしていない場合は、買い手から要求したほうがよいでしょう。

2.労働基準監督署の調査

労働基準監督署の調査により、未払い残業代が発覚する可能性もあります。労働基準監督署の調査には「定期監査」と「申告監査」の2種類があります。

定期監査は労働基準監督署がいくつかの会社を任意で選んで調査するもので、きちんと残業代を払っていても調査対象となる可能性があります。

この場合は特に法令違反がないのなら、労働基準監督署の指示に従って書類の提出などを行えば問題ありません。

一方、申告監査は元従業員などからの申告によるものなので、立ち入り検査など念入りな調査が行われます。

売り手としては、申告監査の対象となるような未払い残業代があるならまずはそちらを解決すべきであり、M&Aを考える段階にはないといえます。

同様に買い手としては、もし売り手が申告監査の対象となっていることが分かったら、基本的にはその売り手とはM&Aを行わないほうが賢明です。

3.デューデリジェンスによる発覚

M&Aにおいて未払い残業代が発覚するのは、デューデリジェンスによるものがほとんどだと考えられます。

ここでデューデリジェンスとは、買い手企業が売り手の財務や税務などについて調査することです。本当にこの売り手とM&Aを行っても大丈夫か見極めるために、最終合意を締結する前の段階で実施されます。

中小企業経営者のなかには、時間外労働の規定をよく分かっていないために、未払いがあるのにきちんと残業代を払っていると思い込んでいるケースもあります。

また、残業代の代わりにボーナスを多めに払っているから大丈夫といった、自己流の解釈による誤解もありがちです。

このような誤解があったために、自信を持ってデューデリジェンスに臨んだ結果、想定外の未払い残業代が発覚してM&Aが頓挫してしまうケースも考えられるので注意が必要です。

【関連】デューデリジェンスとは?M&Aでの流れや進め方、必要な資料・期間・費用をわかりやすく解説

未払い残業代が発覚した場合の対応

未払い残業代の問題はM&Aを行う前にあらかじめ解決しておくべきですが、もし交渉に入った後で発覚した場合は、買い手が納得できるように売り手側が対応策を講じたり、何らかの形で譲歩したりする必要があります。具体的な方法としては、以下の3つが考えられます。

【未払い残業代が発覚した場合の対応】

  1. 特別補償や表明保証による対応
  2. M&Aの売却額で対応
  3. M&Aのスキームを変更して対応

1.特別補償や表明保証による対応

いくらデューデリジェンスを慎重に行っても、未払い残業代のリスクを全て排除できるとは限りません。

デューデリジェンス後に思わぬ未払い残業代が発覚して買い手が損をしないためには、表明保証をつけておくことが有効です

表明保証とは、売り手が提示した自社に関する情報に、間違いがないことを保証する条項です。M&A締結後に未払い残業代が発覚した場合、売り手が補償することを表明保証に盛り込んでおけば、買い手としては安心できます。

また、補償について細かい条件を付しておきたい場合は、特別補償を設けておくのも1つの方法です

【関連】表明保証とは?M&A契約における違反や事例、表明保証保険について解説

2.M&Aの売却額で対応

デューデリジェンスで売り手に未払い残業代が存在する、または存在する可能性があると分かったとしても、それでもM&Aを行いたいと買い手が判断するケースも考えれらます。

その場合は、買い手が将来支払うことになるかもしれない未払い残業代の分を、あらかじめ売却額から差し引いておくのも一つの手です。

未払い残業代の額がはっきりしない場合は、想定できる範囲の中で妥当と思われる額に設定するなどして対応します。

また、確実ではないが未払い残業代が発生する可能性がある場合は、残業代が発生する確率を見積もって、それを残業代の額に掛けるといった対応法も考えられます。

3.M&Aのスキームを変更して対応

M&Aのスキームを事業譲渡に変更して、未払い残業代は承継しない契約にするという方法も考えられます。事業譲渡は包括承継ではないので、未払い残業代を売り手側に残したままM&Aを行うことが可能です。

ただし、未払い残業代を引き継ぎたくないだけの理由で、M&Aスキームを変更するというのはあまり現実的ではありません。

もし事業譲渡に変更することによって、未払い残業代以外の何らかの大きなメリットが得られるのなら、手段の1つとして検討する可能性もあります。

【関連】M&Aのスキームを解説!特徴やメリット・デメリット、事例も紹介します
M&Aの未払い残業代に対する法改正と与える影響

M&Aの未払い残業代に対する法改正と与える影響

2020年4月(大企業は2019年4月)に、労働基準法の時間外労働に関する規定が改正されました。残業に関する規定が以前より厳しくなったので、M&Aを行う際は法改正の影響を理解しておかなくてはなりません。

2020年4月に法改正された時間外労働の上限規制

2020年4月の法改正では、これまで上限なしで残業することが可能だった規則が改定され、上限が設けられました。今後はいわゆる36(サブロク)協定の特別条項を結んでいても、従業員に無制限に残業させることはできなくなります

また、これまでは残業時間が超過しても行政指導しかありませんでしたが、改正後は罰則がついてより厳しくなりました

法改正前との比較

法改正前と後で具体的にどこが変わったか比較すると、下の表のようになります。

残業時間の上限の規定はやや複雑ですが、特に「2か月から6か月の平均」というのが分かりにくい部分です。

これは例えば、6月に何時間残業できるか考える時は、5月と6月の平均、4月から6月の平均、3月から6月の平均、という風に過去2か月から6か月分の平均をそれぞれ計算し、全て80時間以内に収まるようにするということです。

【法改正前後の主な違い】

  残業時間の上限 罰則
改正前 上限なしも可能 行政指導
改正後 必ず上限あり 6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金

【法改正後の残業時間の上限】
特別条項なしの場合 月45時間・年360時間まで(休日労働は含まず)
特別条項ありの場合(最大年6か月まで) ・時間外労働:年720時間まで
・時間外労働と休日労働の合計:月100時間未満、かつ2か月から6か月の平均が全て80時間以内

2020年4月より未払い残業代の請求時効期間が3年に延長

未払い残業代の請求時効は今までは2年でしたが、2020年4月の改正で3年に延長されました。さらに3年というのは経過措置で、最終的には5年に延長される予定となっています。

今後M&Aで未払い残業代についてチェックする時は、今までより昔まで遡って調べておく必要が出てきます。

期間延長された項目

今回の改正では、未払い残業代の請求時効に加えて、賃金や雇用などに関する書類の保存期間と、付加金の請求期間がそれぞれ3年に延長されました。これらも同じように経過措置となっており、最終的には5年に延長される予定です。

付加金とは未払い残業代に対する罰金のような制度で、悪質な未払い残業代に対して、裁判所が上乗せして支払いを命じるお金のことです。

未払い残業代の時効延長の適応はいつから?

未払い残業代の時効延長が適用されるのは、2020年4月以降の残業代からで、2020年3月以前の残業代には適用されません。

未払い残業代を請求した日ではなく、残業代が支払われるはずだった日が2020年4月以降かどうかが基準になります

つまり、例えば2022年の3月に未払い残業代を請求した場合、請求できるのは2年前の2020年4月までとなります。2019年4月から2020年3月までの残業代は、延長が適用されないので請求できないのが注意点です。

一方、2023年の3月に未払い残業代を請求した場合は、3年前の2020年4月まで請求できることになります。

未払い残業代にはペナルティが発生する

未払い残業代にはペナルティがつくので、本来の残業代より多く払うことになります。ペナルティは社員が在職中の場合は残業代の6%、退職後の場合は年14.6%です。

さらに、悪質な未払い残業代に課せられることがある付加金は、最大で未払い残業代と同額までとなります。

M&Aの相談はM&A総合研究所へ

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まとめ

まとめ

残業代が未払いの中小企業は決して少なくないといわれているので、M&Aの際は注意が必要です。

特に2020年4月からは法改正で残業に関する規定が厳しくなったので、未払いになっていないか事前にきちんと確認しておくことが重要になります。

【労働時間の種類】

  1. 法定労働時間
  2. 所定労働時間
【M&Aの際に未払い残業代が発覚する理由】
  1. 従業員からの請求
  2. 労働基準監督署の調査
  3. デューデリジェンスによる発覚
【未払い残業代が発覚した場合の対応】
  1. 特別補償や表明保証による対応
  2. M&Aの売却額で対応
  3. M&Aのスキームを変更して対応
【法改正前後の主な違い】
  残業時間の上限 罰則
改正前 上限なしも可能 行政指導
改正後 必ず上限あり 6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金

【法改正後の残業時間の上限】
特別条項なしの場合 月45時間・年360時間まで(休日労働は含まず)
特別条項ありの場合(最大年6か月まで) ・時間外労働:年720時間まで
・時間外労働と休日労働の合計:月100時間未満、かつ2か月から6か月の平均が全て80時間以内

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