2022年12月19日更新会社・事業を売る

M&Aにおけるビジネスデューデリジェンスとは?概要、目的、分析手法を徹底解説

M&Aの際に売り手企業を調査するデューデリジェンスは、さまざまな観点で行われます。本記事では、取り上げられる機会の少ないビジネスデューデリジェンスにフォーカスしました。ビジネスデューデリジェンスの概要を解説します。

目次
  1. M&Aにおけるビジネスデューデリジェンスとは
  2. ビジネスデューデリジェンスの種類・分析内容
  3. ビジネスデューデリジェンスを進める流れ
  4. ビジネスデューデリジェンスのフレームワーク
  5. ビジネスデューデリジェンスを成功させるポイント
  6. ビジネスデューデリジェンスにおける注意点
  7. M&Aにおけるビジネスデューデリジェンスのまとめ

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M&Aにおけるビジネスデューデリジェンスとは

デューデリジェンスは、M&Aの成約を左右する最大の山場となるプロセスです。売り手側企業の経営状況に関して、さまざまな視点ごとに分け、それぞれの専門家の手で精査されます。

本記事では、複数の観点で行われるデューデリジェンスの中からビジネスデューデリジェンスにスポットを当て、その概要・目的・分析方法などをみていきましょう。

デューデリジェンスとは

デューデリジェンス(英語:Due Diligence)とは、M&Aの売り手側企業が持つ価値やリスクを調査することです。英語を直訳すると、「デュー=当然な」「デリジェンス=努力」を意味します。

M&Aにおけるデューデリジェンスでは、買い手企業が売り手企業の経営実態や問題点をチェックします。つまり、デューデリジェンスは、M&Aに介在する潜在的なリスクやシナジー効果を洗い出す行為です。これを行ったうえで、買収価額やM&Aの実行可否を決定します。

デューデリジェンスの実施によって、買い手企業の株主に対し、M&Aのリスク回避に努めた旨を証明することも可能です。株主や利害関係者に対する説明責任にもなるので、デューデリジェンスは非常に重要な手続きといえます。

以上のとおり、デューデリジェンスはさまざまな役割を担っており、M&Aにおいて必要不可欠なプロセスです。ただし、デューデリジェンスをスムーズに済ませるには、専門家のサポートを受ける必要があります。なぜなら、デューデリジェンスを実施するには、M&Aに関する専門知識が求められるためです。

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ビジネスデューデリジェンスの概要・目的

ビジネスデューデリジェンスでは、まず売り手企業の事業の状況や該当事業の市場動向などを精査します。そして、現在、売り手企業が掲げている事業計画の妥当性を検証し、必要に応じて事業計画を修正して、それを企業価値評価(バリュエーション)に反映させる流れです。

財務・税務・法務デューデリジェンスなどが売り手企業の潜在的リスク発見のために行われるのに対し、ビジネスデューデリジェンスは、売り手企業の価値評価の洗い直しと、M&A後に策定する事業戦略立案のための情報収集・課題発見のために行われます。

ビジネスデューデリジェンス以外のチェックリスト

本記事では詳細には触れませんが、ビジネスデューデリジェンス以外に実施される、その他の観点のデューデリジェンスには主に以下の6種類があります。

  • 法務
  • 財務
  • 税務
  • 人事
  • IT
  • 環境

法務デューデリジェンス

法務デューデリジェンスとは、企業活動における法律上での問題点を調査することです。調査項目としては、債権債務、資産の保有権、関連法令の順守、訴訟リスクの有無確認などがメインです。取締役のヒアリングや重要書類のチェックも実施します。法務デューデリジェンスを担当する専門家は、主に弁護士や司法書士などです。

財務デューデリジェンス

財務デューデリジェンスとは、売り手企業の財務状況を把握することです。妥当な買収価額を決定するうえで、M&Aの中でも特に重要なプロセスです。財務デューデリジェンスでは、具体的に以下の内容を調査します。

  • 貸借対照表
  • 損益計算書
  • キャッシュフロー計算書

上記を調査することで、M&Aにおける妥当な買収価額を算出可能となります。財務デューデリジェンスには、もう1つの重要な役割である、簿外債務・偶発債務の洗い出しも見逃せません。簿外債務とは、貸借対照表に記載されていない債務です。

例えば、未払いの給与などが簿外債務に該当します。偶発債務とは、今後、債務となる可能性のあるものです。一例として、環境汚染による訴訟リスクがある場合、裁判で敗訴したときの賠償金などがあります。

それらを洗い出すことで、M&A後に生じる潜在的な損失を把握することが可能です。特に偶発債務は、買い手側にとって莫大な損失になり得ます。M&Aの失敗を回避するには、偶発債務への注意が必須です。財務デューデリジェンスを主に担当するのは、公認会計士や税理士などです。

税務デューデリジェンス

税務デューデリジェンスとは、税金を適切に申告し、納税しているか調査することです。M&Aで繰越欠損金の特例が認められるかを確認するうえで、重要な手続きです。

節税目的でのM&Aだとみなされてしまうと、ペナルティを課されるおそれがあるので気をつけなければなりません。このペナルティを回避するため、M&Aでは重要な調査です。税務デューデリジェンスは、主に税理士や公認会計士などが実施します。

人事デューデリジェンス

人事デューデリジェンスとは、相手企業の人事・労務全般を調査することです。労務デューデリジェンスと呼ばれる場合もあります。M&Aを成功させるためには優秀な人材の確保が必要不可欠です。しかし、M&Aでは、統合後に人材が流出するケースも多々あります。

優秀な人材が多数流出すれば、M&Aは失敗となりかねません。M&Aの手続きが完了したとしても、人事面に注目して統合作業を行うことが大切です。この理由から、人事デューデリジェンスをしっかり行う必要があります。

ITデューデリジェンス

ITデューデリジェンスとは、売り手企業の情報システムを統合するための調査のことです。M&Aの効果を最大限に発揮するには、M&A後にIT面でも円滑に統合をしなければなりません。ITデューデリジェンスを実施するためには、ITに関する専門知識が必要不可欠です。したがって、ITデューデリジェンスを専門としている企業に業務を依頼します。

環境デューデリジェンス

すべて業種で実施されるわけではありませんが、工場設備などを有する売り手企業の場合に必ず実施されるのが環境デューデリジェンスです。昨今、環境問題は社会から高い関心が集まっています。そのため、有している工場設備などが地下水や土壌汚染を犯していないか、綿密に調査する必要があります。

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ビジネスデューデリジェンスの種類・分析内容

ビジネスデューデリジェンスは売り手企業の事業分析・評価であり、複数の観点で実施されます。それぞれの観点により、主として以下5分類のビジネスデューデリジェンスがあります。

  1. コマーシャルデューデリジェンス
  2. オペレーショナルデューデリジェンス
  3. ITデューデリジェンス
  4. ガバナンスデューデリジェンス
  5. サステナビリティデューデリジェンス

①コマーシャルデューデリジェンス

コマーシャルデューデリジェンスは、売り手企業の事業計画における売上高を重点に分析するビジネスデューデリジェンスです。売り手企業の事業が置かれている市場環境や競争環境、事業構造や顧客動向などの情報をもとに売り手企業の強みと弱み(課題)を見いだし、売上計画の確度を測ります。

業界ごとの分析ポイント

コマーシャルデューデリジェンスでは、売り手企業の属する業界によって分析するポイントが異なります。特徴的な分析ポイントとなる業界の代表例を紹介します。メディア・通信業界の場合、その事業モデルの特徴はユーザー囲い込み型であることです。したがって、メディア・通信業界のコマーシャルデューデリジェンス分析ポイントは「ユーザー数×単価」となります。

製薬業界の場合、売り手企業に求めるのは新薬開発力です。したがって、製薬業界のコマーシャルデューデリジェンス分析ポイントは、「対象疾患別の罹患者数予測+競合治療法や競合薬とのポジション比較」となります。

部品製造業の場合、コマーシャルデューデリジェンスの分析ポイントは3つです。「最終製品の市場動向+競合状況」「最終製品業界の技術動向」「環境規制など市場環境の変化予測」をポイントに分析します。

②オペレーショナルデューデリジェンス

オペレーショナルデューデリジェンスでは、生産・製造のオペレーションコストの合理性を分析します。主たる分析の観点は、「品質」「コスト」「納期」「人」「機械」「材料」「方法」など多岐にわたります。

業界ごとの分析ポイント

オペレーショナルデューデリジェンスでも、業界ごとに具体的な分析ポイントが異なります。特徴的な代表例を解説します。化学業界の場合、製品の品質では差別化が難しくなっている現況を受け、オペレーショナルデューデリジェンスでは「効率性」と「営業力」が分析ポイントです。

小売業の場合、いかに少人数で高い売上を得るかがテーマであるため「マーチャンダイジングの効率性」と「IT化の進行度」がオペレーショナルデューデリジェンスの分析ポイントです。

外食産業の場合、顧客の回転率を高めることが最重要課題であることから、「料理提供オペレーションの効率化度合い」と「メニュー開発の仕組み」がオペレーショナルデューデリジェンスの分析ポイントになります。

③ITデューデリジェンス

ITデューデリジェンスは、広義のビジネスデューデリジェンスです。内容は前述したとおりですが、現在の社会環境、事業環境において、企業のIT化の度合いは各社の今後を左右します。特にM&Aでは、成約後のIT統合がスムーズに行われることが重要です。

④ガバナンスデューデリジェンス

企業におけるガバナンスとは、「健全な企業経営のための企業自身による管理体制」のことです。ガバナンスデューデリジェンスでは、売り手企業におけるガバナンスが、買い手側のガバナンス基準と同等のものかどうかを分析します。

⑤サステナビリティデューデリジェンス

サステナビリティデューデリジェンスは、近年になって行われるようになりました。売り手企業がSDG’sやESG経営にどの程度、対応しているか、あるいは対応できるかを分析します。

ビジネスデューデリジェンスを進める流れ

ここでは、ビジネスデューデリジェンスを行う際の分析手順を以下のプロセスに分けて解説します。

  1. スタンドアローンによる事業性評価
  2. 価値向上のポテンシャル分析
  3. シナジー項目の抽出
  4. シナジー効果の定量評価・実現可能性評価
  5. 事業計画の修正もしくは作成

①スタンドアローンによる事業性評価

ここでいうスタンドアローンとは、売り手企業およびその事業が独立した状態のことです。つまり、M&A後のシナジー効果などは勘案せず、売り手企業およびその事業について、売り手企業が独力で持つ事業性を分析します。

具体的には、売り手企業の行う事業市場を分析したうえで、できるだけ客観的に売り手企業およびその事業を評価します。その結果として、売り手企業およびその事業の強みを見いだし、それと同時に弱み(課題)を抽出する流れです。

②価値向上のポテンシャル分析

次の段階で行うのは、売り手企業およびその事業が潜在的に持っている伸びしろ(成長余地)の考察です。ここでは、売り手企業およびその事業のスタンドアローンでのポテンシャル(潜在能力)と、シナジーにより得られる伸びしろの両方を分析します。

具体的な手法として重要視されるのは、経営陣に対して行うインタビューです。数値や情報分析で得られた評価内容を検証するためには、欠かせない手法といえます。

③シナジー項目の抽出

続いて、外部環境分析や内部環境分析を通じて売却側の市場環境といった外部要因を把握し、その影響が売却側にいかなる影響を及ぼすかを分析したうえで、売却側と自社との間で生み出させるシナジー効果・アナジー効果などを抽出します。

④シナジー効果の定量評価・実現可能性評価

その後、それぞれの項目の定量化と実現可能性を検証します。売却側の売上シナジーやコストシナジーなど可能性の高い領域を分析し、内容の把握を進めながら、シナジー効果を定量化し実現可能性を把握しましょう。実現可能性を高めるための施策はこのタイミングで把握し、買収後のPMI計画などに反映させるのが一般的です。

⑤事業計画の修正もしくは作成

最終段階として実施されるのが、事業計画の修正または作成です。特に売り手企業の事業計画は、売上高予測を楽観的見地で作成されている傾向があります。この場合、これまでに行った分析をもとにして、事業計画に修正を加えなければなりません。

中小企業の場合、一定レベルの事業計画書が作成されていないこともあり、その際にはゼロから事業計画書を作成します。

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ビジネスデューデリジェンスのフレームワーク

ビジネスデューデリジェンスで用いられる代表的なフレームワークを解説します。ビジネスデューデリジェンスでは、外部環境に対する分析と内部環境に対する分析に分かれ、それぞれ異なったフレームワークが用いられます。

外部環境のフレームワーク2選

ビジネスデューデリジェンスにおける外部環境分析で用いられる、代表的なフレームワークは以下の2種類です。

  • PEST分析
  • 5フォース分析

PEST分析

PESTとは、以下の頭文字を取ったものです。

  • Politics(政治的要因):条例や法律、関連団体の動向など政治的環境の分析
  • Economics(経済的要因):物価、金利、為替などを含めた景気動向が及ぼす影響の分析
  • Social(社会的要因):人口の変化や年齢の分布、ライフスタイルの変化環境などの分析
  • Technology(技術的要因):新技術の誕生や普及が及ぼす影響の分析

5フォース分析

以下の5つの属性(Force)に関して分析を行うフレームワークです。

  • 新規参入の脅威
  • 競合の脅威
  • 代替品の脅威
  • 供給者(サプライヤー)の脅威
  • 購入者(顧客)の脅威

内部環境のフレームワーク2選

ビジネスデューデリジェンスにおける内部環境分析で用いられる、代表的なフレームワークは以下の2種類です。

  • VRIOフレームワーク
  • バリューチェーンモデル

VRIOフレームワーク

自社の強みを分析するフレームワークであり、VRIOとは以下の言葉の頭文字です。

  • value=経済価値
  • rarity=稀少性
  • inimitability=模倣困難性
  • organization=組織

バリューチェーンモデル

同業他社に対して差別化および優位に立てる経営資源は何であるかを分析するフレームワークです。社内で行われる業務を主活動と支援活動に分け、付加価値がどこで生み出されるかを分析します。主活動に分類されるのは、以下の業務です。

  • 資材の購買
  • 製造
  • 完成品の保管・配送
  • 販売・マーケティング
  • 顧客サービス・ディーラーサポート

一方、支援活動に分類される業務は、以下のとおりです。

  • 計画立案
  • 財務
  • 法務
  • 経営情報システム
  • 研究・開発・デザイン
  • 人的資源の管理と開発

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ビジネスデューデリジェンスを成功させるポイント

ビジネスデューデリジェンスを成功させるポイントには、主に以下の2つが挙げられます。

  1. 自社と専門家の協力体制
  2. 自社の知財関連部署の参加

①自社と専門家の協力体制

ビジネスデューデリジェンスを行う際は、ほとんどの場合で経営コンサルティングなどの専門家を起用し、プロセスを委託します。この際に、その専門家とやり取りをする自社の担当者が重要です。

その人材には、できる限り売り手企業およびその事業を経営視点で判断でき、なおかつ売り手の行う事業の仕組みなどを理解し得る人物を当てられれば最良といえます。

②自社の知財関連部署の参加

ビジネスデューデリジェンスでは、売り手企業の持つ知的財産に関する分析(価値判断)を行うこともあります。外部の専門家としては、主として弁理士に依頼します。M&A後の価値判断を見極めるためには、買い手企業の知財関連部署も、必ずビジネスデューデリジェンスに参加しなければなりません。

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ビジネスデューデリジェンスにおける注意点

ビジネスデューデリジェンスを含めたデューデリジェンスの実施の際に注意すべき点は、売り手側内部や関係者に調査していることを徹底的に秘匿することです。M&Aのためにデューデリジェンスを実施している情報が漏れると、従業員や取引先を動揺させることになりかねません。

実際にデューデリジェンスでは、担当する公認会計士や税理士などは担当する会社の一室や、必要があれば外部の施設(ビジネスホテルや貸し会議室など)を借りてデューデリジェンスを極秘裏に進めていくスタイルが一般的です。

情報を秘匿しながら進めることになるため、デューデリジェンスに関わる人員は必然的に制限されます。必要以上に人員を投入すると情報漏えいのリスクが高まるため、その点も注意しましょう。

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M&Aにおけるビジネスデューデリジェンスのまとめ

M&Aプロセスの中でも、デューデリジェンスは特に重要な手続きです。各M&A事例によって、デューデリジェンスの範囲や期間は異なります。デューデリジェンスの実施には、多額の費用がかかることにも注意しなければなりません。費用と目的を天秤にかけ、範囲を絞って調査するのがベストです。

デューデリジェンスは、専門知識を持ったM&Aアドバイザリーが実施します。買い手側は自身の意向をM&Aアドバイザリーに伝え、効果的なデューデリジェンスを実行させましょう。

アドバイザリーには、買い手と密に連携することが求められます。一方で、売り手企業側からすると、誠意ある対応が必要不可欠です。このようにM&Aのデューデリジェンスは、当事者同士が一致協力して行わなくてはいけません。

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