2023年12月5日更新会社・事業を売る

新設分割と吸収分割の違い

企業組織再編を目的とする会社分割は2種類あり、それぞれ新設分割、吸収分割と呼ばれています。事業譲渡と混同されやすい新設分割と吸収分割は、どちらもM&Aの専門的な手法です。新設分割と吸収分割、それぞれの特徴と相違点を把握しておきましょう。

目次
  1. 新設分割と吸収分割の違い
  2. 会社分割
  3. 新設分割
  4. 吸収分割
  5. 会社分割の活用シチュエーション
  6. 会社分割と事業譲渡の相違点
  7. 新設分割と吸収分割の違いまとめ

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新設分割と吸収分割の違い

多様にあるM&A手法の1つに、「会社分割」があります。会社分割とは、組織再編行為に分類される手法の1つです。そのため、株式譲渡や事業譲渡とは、いくつか異なる点があります。会社分割の実施を検討する場合、どのような手法なのか、知識を深めておきましょう。

会社分割は、「新設分割」と「吸収分割」の2つに大別できます。M&Aを検討する場合において、新設分割と吸収分割の違いへの理解があまり十分ではないケースも少なくありません。新設分割と吸収分割は、少しの違いのように見えて、実は大きな相違点もあります

この機会に、メリット・デメリットや手続き方法などとともに、新設分割と吸収分割の違いについても明らかにしておきましょう。

【関連】会社分割のメリット
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会社分割

新設分割と吸収分割のそれぞれの話に入る前に、まずそもそもの位置づけである会社分割というM&Aの手法は、一体どういうものであるかについて、ひも解いてみましょう。

①M&A手法としての会社分割

すでに何らかの事業を現在営んでいる企業が、当該事業に関して所有する権利や義務を、他の企業に受け継がせるM&A手法が会社分割です。会社分割は、株式会社だけでなく合同会社も活用可能という特性もあります。

株式交換や企業の合併と同様に、組織再編行為と呼ばれています。組織再編行為の中でも、会社分割が実施されるのは、主に経営統合やグループ内再編を目的として活用されます。また、会社分割実施時の税務は、組織再編税制に基づいて適用されます。

組織再編税制とは、法令に定められている適格要件を満たした会社分割方法を行う限りは、M&A実施に伴う課税は発生しない決まりのことです。従って、会社分割を実行するときには、この適格要件を満たすようにM&Aを設計する必要があります。

②会社分割のメリット・デメリット

M&Aの手法として会社分割が選ばれる理由であるメリット部分と、気をつけておかねばならない会社分割のデメリット部分について、それぞれ見ていきます。

会社分割のメリット

会社分割において、他のM&Aとの圧倒的な違いであり最大のメリットは、現金を用意しなくてもM&Aを実行可能な点です。これは、会社分割以外の他の組織再編行為とも共通することですが、会社分割実施時の対価は基本的に株式とします。

また、資産や取引先との契約、事業への許認可などをまとめて移転できることもメリットです。それぞれを個別に面倒な手続きをする必要がないことは、高い利便性があります。そのため、過去によく行われてきた事業譲渡の代替手法として、会社分割が選択される機会も増えてきています。

会社分割のデメリット

会社分割をM&Aの手法として活用する場合、上述したように資産や各種契約などを包括的に引き継ぎます。これは、当然メリットではあるのですが、包括された中に簿外債務や偶発債務がまぎれている可能性があり、それら水面下の負債も引き継いでしまうリスクとなります。

これが事業譲渡の場合であると、移転させる資産や契約などは個別に精査し取り決めるため、調査の段階で簿外債務などを外せるため、予期せぬ負債を引き継がずにM&Aを実行可能です。このように比較してみると、事業譲渡と会社分割は、互いに一長一短がある手法といえます。

どちらの手法を選択するのが自分たちにとって良いか決めるには、M&Aの専門家のアドバイスを得たほうがいいでしょう。

M&Aをご検討の際は、ぜひ一度M&A総合研究所にご連絡ください。M&A総合研究所では、M&Aに豊富な知識と経験を持つアドバイザーがフルサポートいたします。

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③会社分割の種類

M&Aで会社分割を行う場合、まず、大きく分けて下記の2種類となります。

  • 新設分割
  • 吸収分割

この2つの会社分割の明確な相違点は、事業の権利と義務、資産、契約などを移転する相手にあります。新設分割における移転相手は、新しく設立される会社です。一方、吸収分割における移転相手は、既存の他社になります。

また、新設分割・吸収分割ともに、M&A実施後の対価を「誰」が受け取るかによって、下記の2つに分類できます。

  • 分社型分割
  • 分割型分割

分社型分割では、対価は事業を分割した企業側が授受します。一方の分割型分割とは、事業を分割した企業の「株主」に対価を渡すことをいいます。以上が会社分割の種類であり、M&Aを実行する際は、結果的に2×2=以下の4通りの手法から選ぶことになるのです。

  • 分社型新設分割
  • 分割型新設分割
  • 分社型吸収分割
  • 分割型吸収分割

【関連】新設分割の手続きとは?手順、メリット・デメリットを解説
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新設分割

では、まず新設分割に関し、詳しく見ていきましょう。新設分割の特徴、目的、実際の手続き概要について順を追って掲示していきます。なお、文中において、事業を移転させる既存の会社側を分割会社、事業を受け継ぐ側を新設会社と呼称します。

①新設分割とは

新設分割は、新しく設立した企業に対して、事業の資産や権利・義務などを移転させるM&A手法です。前述したように、M&A実施後に誰が対価を受け取るか次第で、「分社型新設分割」と「分割型新設分割」に大別されます。新設分割で支払われる対価は、新設会社の株式の交付です。

なお、新設分割で支払う対価は、株式以外にも持分や社債、新株予約権などとすることもできます。

②新設分割の目的

新設分割は、グループ内再編を目的に実施されるケースがほとんどです。具体的には、新設分割により、一部の主力事業を切り離して分社化し、それを子会社として設立します。その結果、組織管理のスリム化を図ると同時に、親企業側は経営戦略の実行に集中できます。

また、2社以上が共同で新設分割を実行すれば、合弁企業の設立を実現できます。複数の企業が互いに重点事業を切り離し、それを新設する合弁企業に集約します。その結果、シナジー効果による高収益が期待できます。

合弁企業の設立は、新設分割でのみ実現可能であり、吸収分割では実現できないスキームです。新設分割と吸収分割では、達成できる目的に違いがあるということを把握しておきましょう。

③新設分割の手続き

実際に新設分割を実施する場合の手続きの概要について掲示します。ここでは、手続きを大きく5段階に分けて説明していきます。

新設分割計画書の作成

新設分割を実行する際には、分割会社側で「新設分割計画書」を作成する必要があります。なお、複数企業が共同で新設分割を行う場合には、共同で計画を作成しなくてはいけません。

そして、新設分割計画には、下記の記載が義務付けられています。

  • 新設企業の目的や商号・本店所在地、発行可能な株式数、その他定款で定める内容
  • 分割会社から受け継ぐ権利や義務
  • 対価として交付する株式数、および新設会社の資本金や準備金の金額
  • 新設会社設立時の取締役の名前
  • 分割型分割に関連する事項
  • 対価として交付する社債などの内容(株式が対価の場合は不要)
  • 分割会社の新株予約権の代わりに交付する、新設会社の新株予約権の内容(実施しない場合は不要)
  • 会計参与や監査役、会計監査人の氏名・名称(設置しない場合は不要)
上記の内容が新設分割計画書に記載されていない場合、新設分割の効力が認められません。新設分割計画書を作成する際は、注意してください。万全を期すためにも、専門家に計画作成に関してアドバイスをもらうのがおすすめです。

取締役会決議

新設分割を実行する際は、取締役会での決議が必要となります。取締役会決議では、分割契約の承認と株主総会招集を取り決めます。取締役会決議は、議事録を作成しなければなりません。議事録には、取締役会議の実施日時と場所、出席者、新設分割を承認したことを記録します。

債権者保護手続き

新設分割の実行に際し、債権者保護手続きが必須となる手続きです。新設分割後になると、債務履行を請求できない債権者を対象に、官報による公告と個別の催告を実施します。

公告や個別催告で債権者に伝えなければならない内容は、下記の通りです。

  • 新設分割を実行する旨
  • 新設会社の商号と住所
  • 分割会社の計算書類
  • 一定期間内に新設分割に関して異議を申し立てられる旨

株主総会の特別決議

分割会社側は、新設分割に関して株主総会で特別決議による承認を得る必要があります。加えて、その特別決議日から2週間以内に、新設分割を実行する旨を株主に通知しなくてはいけません。

なお、新設分割に反対する株主は、自身の保有する株式の買取を分割会社に請求することができます。株式の買い取りを請求できる期間は、通知日から20日間以内となっています。

新設分割の登記

新設分割では、事業の権利・義務、資産や契約などを移転する会社を新しく設立します。会社を新設するということは、設立登記が必要です。新設分割の効力が発生するのは、登記申請を実行した日となります。

新設分割の登記は、分割会社と新設会社が同時に実行しなくてはいけません。

【関連】新設分割とは?メリットとデメリット・手続き・M&Aでの活用方法を解説
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吸収分割

続いて、吸収分割の詳細を分析していきます。

新設分割同様に、吸収分割の特徴、目的、実際の手続き概要について順を追って掲示していきます。新設分割と比較しながら見ていきましょう。なお、文中において、事業を移転させる既存の会社側を分割会社、事業を受け継ぐ側を承継会社と呼称します。

①吸収分割とは

吸収分割は、すでに存在する企業に対して、事業の資産や権利・義務などを移転させるM&A手法です。対価を受け取る相手次第で、「分社型吸収分割」と「分割型吸収分割」に大別されます。新設分割で支払われる対価は、承継会社の株式の交付です。

なお、新設分割で支払う対価は、株式以外にも持分や社債、新株予約権などとすることもできます。既存の会社に事業を移転させること以外は、新設分割との違いはありません。

②吸収分割の目的

経営統合、またはグループ内再編を目的に実施されるのが、吸収分割です。特にグループ内再編を目的とするケースが大半を占めています。一例として、親会社が重点事業を子会社に移転させるケースで考えてみましょう。

親会社は事業を子会社に渡したことにより、グループ全体の経営戦略のみを担う、いわゆる持株会社(ホールディングカンパニー)制へ移行することができます。移転させた事業については、子会社の組織のほうが迅速な意思決定ができるため、より有効な事業が遂行できるのです。

また、子会社同士が吸収分割を行う事例も見受けられます。具体的には、子会社同士で事業を切り出し、吸収分割により事業を交換します。これにより、グループ企業内で経営資源を再配分できるのです。この経営資源の再配分は新設分割では実現し難く、吸収分割ならではの特徴といえます。

グループ再編の際に多用されることの多い吸収分割ですが、M&Aでは既存の他社と行うこともあります。その買い手側となる場合、理想的な売り手をいかに見つけ出せるかが重要です。

③吸収分割の手続き

吸収分割を実施する場合の手続きの概要について掲示します。新設分割と類似している点もあれば、違う手続きもあります。吸収分割の場合も、手続きを大きく5段階に分けて説明していきます。

グループ内で行う吸収分割であれば、決定に基づいて粛々と手続きを進めるだけですが、他社と行う吸収分割の場合は、合意形成するまでの交渉が重要となるため、M&A専門家のサポート下で進めていくほうがよいでしょう。

M&A総合研究所では、M&Aに豊富な知識と経験を持つアドバイザーによる専任フルサポートを行っています。

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取締役会決議

吸収分割を実行する場合も、取締役会での決議が必要となります。取締役会決議では、分割契約の承認と株主総会招集を取り決めます。取締役会決議は、議事録を作成しなければなりません。議事録には、取締役会議の実施日時と場所、出席者、吸収分割を承認したことを記録します。

吸収分割契約の締結

吸収分割では、新設分割のような分割計画は作成しません。その代わりに、「吸収分割契約」を承継会社と分割会社の間にて締結します。この点は、新設分割との大きな違いです。

吸収分割契約では、下記の内容を記載されていることが義務付けられています。

  • 分割会社、承継会社双方の商号や所在地
  • 吸収分割の効力が発生する期日
  • 吸収分割によって移転する資産・権利
  • 吸収分割の対価
  • 分割型分割に関する事項
  • 分割会社の新株予約権の代わりに交付する、承継会社の新株予約権の内容(実施しない場合は不要)

上記の内容をもれなく契約書に記載しないと、吸収分割の効力は発生しません。吸収分割契約を締結する際に最も注意すべき点です。新設分割計画と同様に、専門家にアドバイスや監修をしてもらうことをおすすめします。

債権者保護手続き

債権者保護手続きが必須となるのは、吸収分割でも変わりません。吸収分割後、債務履行を請求できなくなる債権者を対象に、官報による公告と個別の催告を実施します。

公告や個別催告で債権者に伝えなければならない内容は、下記の通りです。

  • 吸収分割を実行する旨
  • 承継会社の商号と住所
  • 分割会社の計算書類
  • 一定期間内に吸収分割に関して異議を申し立てられる旨

そして、上記の手続きは、分割会社・承継会社の双方で進める必要があります。

株主総会の特別決議

吸収分割でも株主総会の特別決議が必要です。分割会社側は、吸収分割について株主総会で特別決議承認を得なければなりません。さらに、その特別決議日から2週間以内に、吸収分割を実行する旨を株主に通知する必要もあります。

なお、吸収分割に反対する株主は、自身の保有する株式の買取を分割会社に請求することができます。株式の買い取りを請求できる期間は、通知日から20日間以内となっています。

吸収分割の登記

吸収分割の場合、登記手続きに要注意事項があります。新設分割では、登記申請した日に効力が発生しますが、吸収分割では、吸収分割契約で定めた日が効力発生日です。そして、登記手続きは、吸収分割の効力発生日から2週間以内に行わなければなりません。

このように登記手続きは、新設分割と吸収分割で大きな違いがあります。混同して間違わないようにしてください。

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会社分割の活用シチュエーション

会社分割は、特定の事業を独立させて継承する手法です。これにより、売り手企業は事業の整理と組織の効率化を図ることができます。例えば、主要事業に集中したい場合や、複数事業の運営が難しい場合に効果的です。また、既存の従業員の雇用を維持することも可能です。

買い手企業にとっては、既存のノウハウや人材を引き継ぎ、新規事業を迅速かつ効率的に始めることができます。取引先などもそのまま引き継ぐことができるため、新事業の立ち上げが容易になる利点があります。

会社分割と事業譲渡の相違点

会社分割と事業譲渡は、どちらもM&Aの手法ですが、いくつかの重要な違いがあります。事業譲渡では、取引先や業務委託先との契約を新しい所有者に移転する必要があります。一方、会社分割の場合、これらの契約は通常、買い手企業に自動的に引き継がれます。ただし、契約内容によっては事前の通知や承諾が必要な場合もあります。

財務面では、会社分割では通常自社株式の交付が行われるのに対し、事業譲渡では現金での支払いが一般的です。税務上の扱いも異なり、会社分割が適切な組織再編と認められる場合には法人税上の優遇措置が可能ですが、事業譲渡では売り手に法人税、買い手に消費税が課されます。これらの特徴を理解し、状況に応じて適切な手法を選択することが重要です。

新設分割と吸収分割の違いまとめ

新設分割と吸収分割は、ともに企業組織再編のM&A手法として活用されています。新設分割と吸収分割の特徴と手続きの違いを認識したうえで、目的に沿ったM&Aを実施することが肝要でしょう。

税務面の苦労がないことが新設分割と吸収分割の特性ですが、逆に法務は煩雑です。特に登記手続きには、手抜かりがないようにしたいものです。万が一のために、M&Aの専門家にバックアップしてもらうとよいでしょう。

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