2021年5月3日更新会社・事業を売る

減損処理とは?メリット・デメリットや計算方法をわかりやすく解説

M&Aや事業投資では、減損処理と呼ばれる会計処理が必要となる場合があります。投資の成果が芳しくない場合、減損処理を行い資産価値を減額しなければなりません。本記事では、減損処理について、対象となる固定資産、メリット・デメリット、行うタイミング、影響を解説します。

目次
  1. 減損処理とは?減損処理の意味
  2. 減損処理はとても重要です!
  3. 減損処理の対象となる固定資産は3種類
  4. 減損処理のメリットとデメリット
  5. 減損処理のタイミング
  6. 減損処理の計算方法
  7. 減損処理の会計処理・表示
  8. 減損処理と減価償却の違い
  9. 臨時償却と減損処理の違いは?
  10. 減損処理の影響
  11. まとめ

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減損処理とは?減損処理の意味

減損処理とは、固定資産に関する会計処理のひとつです。簡単にいうと、投資が回収できない見込みが出てきた場合に、その見込みを財務諸表に反映させるための会計処理となります。

新規設備への投資に積極的な経営者の方やM&Aを積極的に活用している企業にとっては、すでに馴染みのある言葉かもしれません。

聞き馴染みがないという経営者の方に向けて、ここではまず減損処理の概要をおさらいします。減損処理とは、投資金額の回収ができないと判断された時点で、回収が見込める金額まで固定資産の価値を下げる会計処理のことです。

事業を成長させるうえで、固定資産に対する投資は必要不可欠です。そのため、多くの企業は将来の収益アップを見込んで固定資産を購入するわけですが、期待どおりの結果が出るとは限りません。

会社を成長させることは非常に難しく、失敗するリスクが伴います。そして当初の計画を達成できないと判断したタイミングで、購入した固定資産の価値を回収可能価額まで減額する必要があるのです。

このとき固定資産の価値を減額する会計処理のことを、減損処理(または減損会計)と呼びます。減損処理に関しては厳格な会計基準が設けられており、この会計基準にもとづいて減損処理を行わなければなりません。

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減損処理はとても重要です!

減損処理には少々複雑な作業が求められますが、必ず行うようにしましょう。固定資産の実質的な価値が帳簿に記載されたものよりも下回っているにも関わらず、その実態が財務諸表に反映されていないのは非常に危険であるためです。

場合によっては、投資する側からの信頼を失いかねません。しっかりと適切な情報を財務諸表に反映しながら、正確な情報を提供するよう努めましょう。

2006年3月決算期以降、商法上の大企業や上場企業では、減損会計の導入が義務付けられました。これに付随して、不動産業・鉄道業さらには小売業など事業用有形固定資産を多く保有する業種にも、実質強制的に減損処理の義務が発生しています。

減損処理は短期的にはマイナスの計上となりますが、結果的には経営状況の大きな改善につながりますので、悲観せずに淡々と会計処理を進めていきましょう。

減損処理の対象となる固定資産は3種類

減損処理の対象となる固定資産は3種類です。ここでは、減損処理の対象外となる資産も含め、以下の項目に分けて解説します。

  1. 有形固定資産
  2. 無形固定資産
  3. 投資その他の資産
  4. 減損処理の対象にならないもの

それぞれ順を追って詳しく解説していきます。

⑴有形固定資産

有形固定資産とは、文字どおり形のある資産のことです。例えば、機械や建物などが有形固定資産に該当します。大規模な事業投資を行う場合、新しい設備を導入したり、土地・建物を取得したりするケースも多いです。

しかし、新たな事業投資の雲行きが芳しくないときには、財務諸表上で有形固定資産を減損処理する必要性が生じます。

⑵無形固定資産

ソフトウェア・特許権・のれん(=営業権)などの無形固定資産も、減損処理の対象になります。特にのれんの減損処理は、M&Aシーンで頻繁に見られる手続きです。

M&Aでは、将来性を見据えて買収価格に「のれん代」を上乗せします。のれん代の金額は予測にもとづいて算出するため、実際の収益性とは乖離した金額となるケースも多いです。

M&Aの効果が想定よりも得られない場合には、買収価格に上乗せしたのれん代を回収できなくなるおそれがあります。そのため、のれん代が回収できないと判明したタイミングで「のれん」の減損処理を行い、特別損失を計上するのです。

しかし、のれんの減損処理は、実質的にM&Aの失敗を意味します。M&Aシーンにおいてこのような事態を避けるには、M&Aの専門家からサポートを受けるのがおすすめです。

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⑶投資その他の資産

「投資その他の資産」とは、投資有価証券などのことであり、こちらも減損処理の対象に含まれます。

購入時よりも時価が著しく減少し回復する見込みがないと判断したタイミングで、有価証券も減損処理する必要があるのです。

⑷減損処理の対象にならないもの

ここまで減損処理の対象になる資産を紹介しましたが、以下のような資産は減損処理の対象とはならないため注意しましょう。

  • 「金融商品に関する会計基準」(金融会計基準第10号)における金融資産
  • 「税効果会計に係る会計基準」における繰延税金資産
  • 「退職給付に関する会計基準」がある資産

上記の資産は個別に減損会計に関する指針が定められているため、この記事で解説する「減損処理」の対象からは外れます。また、以下のようなケースも一般の減損処理とは別の処理が求められるのです。

  • 100円で販売することを見込んで仕入れた商品の価値が50円に下落した

上記も保有する資産の価値が下落して損失が発生していますが、こうしたケースでは「評価損」として処理するため、減損処理の処理対象とはなりません。

減損処理のメリットとデメリット

減損処理にはネガティブな印象が付きまといますが、減損処理の実行により得られるメリットも存在します。この項では、減損処理のメリットとデメリットをそれぞれまとめました。

⑴減損処理のメリット

購入した固定資産は減価償却と呼ばれる処理によって、一定期間にわたり資産価値を減額させていきます。そのため、固定資産の購入後は、減価償却分だけ一定期間の利益が圧縮されるのです。

減損処理では、固定資産の価値が減るため、本来生まれる減価償却費が少なくなります。これにより、その後の減価償却費が減少することから、次年度以降の利益が相対的に増加するのです。

ここでは、単純な利益増加だけでなく、ROE(自己資本利益率)やROA(総資本事業利益率)といった利益率の指標が向上するというメリットもあります。減損処理により貸借対照表上の資産が目減りするため、相対的にROEやROAが向上するという仕組みです。

⑵減損処理のデメリット

減損処理には上記のメリットがあるものの、やはりデメリットも大きいです。減損処理では多くの費用が計上されるため、資金繰りに悪影響が及ぶことから、大きなデメリットといえます。

また、減損処理の実行により、M&Aなどの投資が失敗したと外部に知られてしまう点もデメリットです。対外的に「失敗した企業」という印象を抱かれるため、M&A時の減損処理は極力避けた方が良いでしょう。

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減損処理のタイミング

減損処理は、投資資金を回収できないと判明したタイミングで実行します。とはいえ、決算の度に投資資金の回収可能性を調べるのは大きな手間がかかるため、下記の兆候が現れた場合には本格的な調査を行うと良いでしょう。

つまり、下記の兆候が見られたタイミングで、減損処理が必要となる可能性が高いです。

  1. 赤字が続いている
  2. 資産価値が大幅に下落する
  3. 経営環境が著しく悪化する

それぞれ解説していきます。

⑴赤字が続いている

対象の固定資産を使用している事業において赤字が続いている場合、減損処理のタイミングが訪れていると判断できます。赤字が継続しているのであれば、今後投資資金を回収できる見込みは低いと判断できるためです。

赤字を理由に減損処理を検討すべき具体的なタイミングには、以下のようなものがあります。

  • 対象の固定資産が使用されている営業活動によって生み出される損益・キャッシュフローが継続的にマイナス計上されている(見込みを含む)

具体例を挙げると、過去2期分の損益・キャッシュフローがマイナスとして計上されているならば、翌年度以降の決算に影響を与えないよう、減損処理を検討する余地があるでしょう。とはいえ、当期の見込みが明らかにプラスとして計上されるならば、減損処理のタイミングには当たりません。

⑵資産価値が大幅に下落する

対象固定資産の市場価値(資産価値)が大幅に下落したタイミングでも、減損処理の必要性を検討しましょう。具体例を挙げると、景気後退などを理由に、土地の価格が50%程度にまで落ち込んでしてしまったケースなどが代表的です。

⑶経営環境が著しく悪化する

景気後退などの理由により売上数量・売上高などが著しく減少した(見込みを含む)タイミングでも、減損処理を行うべきかどうか調査する必要があります。

ここでは、たとえ自社の固定資産や営業状態に問題がなくても、外部環境の変化により減損処理が必要となるケースがある点を留意しておきましょう。減損処理を検討すべき具体的なタイミングには、以下のようなものがあります。

  • 市場環境の悪化が目立つとき
  • 技術環境の悪化が目立つとき
  • 法律的環境の悪化が目立つとき

減損処理の計算方法

必要なタイミングが訪れた時点で減損処理を実行します。このときの減損処理のプロセスは、「認識」と「測定」の2段階に分かれる仕組みです。

この項では、減損処理の計算方法について「認識」と「測定」の2段階に分けて解説します。

⑴資産の把握とグルーピング

そもそも減損会計は、他の資産または資産グループのキャッシュ・フローとは別個の存在として考えます。

つまり、ほとんど独立したキャッシュ・フローを生み出す最小の単位で処理を行うのが一般的です。資産グループの範囲は企業・組織の事情によって異なるため、現状を踏まえてグルーピング方法を決めます。

⑵減損損失の認識

たとえ減損処理が必要なタイミングであっても、必ず減損処理を実行するわけではありません。減損処理を実行するかどうかの判定(認識)を行い、その結果次第で減損処理を実行します。

実際に減損損失を認識するかどうかの判定は、「割引前将来キャッシュフロー(CF)の総額」と「固定資産の帳簿価額」の比較によって行います。

割引前将来CFの総額が帳簿価格を下回る場合、今後の回収見込みがないため減損損失を認識します。割引前将来CFの総額が帳簿価格を上回る場合には、投資資金の回収見込みがあるため減損損失を認識しません。

キャッシュフローに関しては、「経済的残存使用年数」と「20年」のいずれか短い年数の合計を用います。以上のような手順により減損損失を認識しましょう。

⑶減損損失の測定

減損損失していると認識すべきと判断された固定資産に関しては、帳簿価額を回収可能価額まで減額します。

回収可能価額には、「正味売却価額」と「使用価値」のいずれか高い方の金額を用います。このうち正味売却価額は、固定資産の時価から見込み処分費用を差し引くと求められる仕組みです。

また使用価値は、今後固定資産を使用して得られるCFと処分時に得られるCFの現在価値に当たります。

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減損処理の会計処理・表示

減損損失の認識および測定が済んだ後は、会計処理を行ったうえで決算書に反映させなければなりません。このとき、貸借対照表においては、有形固定資産・無形固定資産の帳簿価額を減損する処理が必要です。

また、損益計算書においては、減額した金額分を「減損損失」として、特別損失または営業外損失、販管費に計上することになります。

ちなみに、いちど減損損失を計上すると、その後に減損損失の戻入れを行うことはありません。したがって、たとえ減損損失の会計処理を行った後で対象固定資産の価値が向上したとしても、会計処理上の処理は行わないようにしてください。

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減損処理と減価償却の違い

減損処理と類似する言葉の会計処理に、「減価償却」があります。字面はよく似ていますが、大きく意味が異なる言葉です。ここでは、それぞれの違いについて解説していきます。

⑴減損処理と減価償却の違い

減損処理と減価償却ではお互いに固定資産の価値を減額する点では同じですが、価値を減額する理由に違いが見られます。

減損処理では、将来得られるキャッシュの減少を理由に固定資産の価値を減額します。回収可能な金額に簿価を合わせる目的を持つため、一度に多額の損失を計上するのです。

その一方で、減価償却では、固定資産の経年劣化を理由に固定資産の価値を減額します。固定資産は年々使用するうちに徐々に劣化するため、毎年少しずつ固定資産の価値を減額し、その分だけ費用を計上するのです。

⑵減損処理後の減価償却とは

減損処理した固定資産に関しても、減価償却の処理が必要です。減損処理後は、減損損失を差し引いた帳簿価額を基準に減価償却します。

このとき、減損価額には耐用年数の到達時点に予想される固定資産の正味売却価額を用い、残存耐用年数には減損処理後の経済的残存耐用年数を使用してください。

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臨時償却と減損処理の違いは?

臨時償却では定例かつ経常的に行う減価償却とは異なり、臨時的に固定資産の価値を減額させます。そのため、臨時的に行うという点に関しては、減損処理と同じ性質を持つのです。とはいえ、臨時償却と減損処理の間にも、大きな相違点が見られます。

臨時償却とは、当初は予見できなかった事情が発生したことで、減価償却資産の機能が正規の減価償却計算よりも著しく低減してしまったときに臨時で行われる修正のことです。

したがって、簡単にまとめると、臨時償却は過去の事情にもとづいて行われる修正であるのに対して、減損処理は将来の予測にもとづいて行われる修正であり、この点において両者を明確に区別できます。

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減損処理の影響

最後に、減損処理による影響を解説します。減損処理により生じる影響は、主に下記2つです。

  1. 短期的な株価下落
  2. 業績の改善

それぞれの項目を順番に見ていきましょう。

⑴短期的な株価下落

減損処理は「投資の失敗」を意味するため、投資家からはマイナスの印象を抱かれます。ここで企業自体に将来性や収益性がないと判断されれば、短期的に株価が下落するおそれがあるのです。

ケースバイケースであるため一概にはいえないものの、投資する際には十分に注意しましょう。

とはいえ、これはあくまでも業務諸表上の数値における判断です。一次的に株価が下落したとしても今後の経営のビジョン・方策が十分に練られているのであれば問題はなく、必要以上に焦る必要はありません。

ここでは、「減損処理を行えば、短期的に株価が下落する」という点を把握しておきましょう。

⑵業績の改善

残念ながら減損処理を行った年度の経営成績は、従来と比べると悪化する可能性が高いです。しかし、その後の利益額・利益率は向上する傾向にあります。

企業にとっての「足かせ」が解消されるため、長期的視点では業績が改善される可能性が非常に高いのです。これもケースバイケースであるため、必ず業績が改善されるとは限りませんが、多くの会社が減損処理が功を奏して経営業績を回復させています。

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まとめ

本記事では、減損処理について解説しました。投資の成果が芳しくない場合、減損処理を行い資産価値を減額しなくてはいけません。減損処理はマイナスイメージを持たれやすいですが、その後の経営状態を改善するきっかけにもなります。

本記事の要点をまとめると、以下のとおりです。

・減損処理とは?
→回収が見込める金額まで固定資産の価値を下げる会計処理

・減損処理の重要性
→固定資産の実質的な価値が帳簿の記載内容よりも下回っているにも関わらず、その実態が財務諸表に反映されていないのは非常に危険

・減損処理の対象となる固定資産
→有形固定資産、無形固定資産、投資その他の資産

・減損処理のメリット
→単純な利益増加だけでなく、ROE(自己資本利益率)・ROA(総資本事業利益率)などの利益率の指標が向上する

・減損処理のデメリット
→多くの費用が計上されるため資金繰りに悪影響が及ぶ、失敗した企業という印象を抱かれる

・減損処理のタイミング
→赤字が続いている、資産価値が大幅に下落する、経営環境が著しく悪化する

・減損処理の計算方法
→資産の把握とグルーピング、減損損失の認識、減損損失の測定

・減損処理の会計処理・表示
→有形固定資産・無形固定資産の帳簿価額を減損する処理が必要、減額した金額分を「減損損失」として特別損失もしくは営業外損失、販管費に計上

・減損処理の影響
→短期的な株価下落、業績の改善

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