2021年5月25日更新資金調達

第三者割当増資における総数引受契約書の作成方法・流れや注意点を解説【雛形あり】

第三者割当増資は、資本金増額や敵対的買収への対抗策として用いられます。本記事は、第三者割当増資に関する総数引受契約書の作成方法や、契約の流れ・注意点のくわしい解説を載せるほか、総数引受契約書の雛形も取り上げています。

目次
  1. 第三者割当増資とは
  2. 第三者割当増資における総数引受契約書の作成方法・流れ
  3. 総数引受契約で気を付ける第三者割当増資のポイント
  4. 総数引受契約にまつわる注意点
  5. 第三者割当増資の引受手続き
  6. 第三者割当増資などのご相談はM&A総合研究所まで
  7. まとめ

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第三者割当増資とは

M&Aの1つに分類される第三者割当増資とは、どのような手法なのでしょうか。本章では、第三者割当増資を行う目的のほか、得られる効果や、株主割当との違いを取り上げます。

第三者割当増資の目的

第三者割当増資とは、限られた第三者に新株の引き受け権利を与えて新株を発行することをいい、資本金を増額や敵対的買収への対抗を目的として行われます。

第三者割合増資を利用することにより、金融機関の融資に頼らない資金調達が可能になります。さらに、発行する株式が増えるため、新株を割り当てなかった株主(敵対的買収を仕掛ける側)の議決権比率を下げることができます。

第三者割当増資による効果

第三者割当増資による効果は、株価への影響です。第三者割当増資は、経営状況が悪く融資の審査が下りないケースでも必要な資金を確保でき、設備投資や新事業の開始資金を賄うことができます。

増資が事業の成長につながるとみなされたり、新株の発行先との相乗効果が予測されたりすれば、会社の株価は上がります。

しかし、第三者割当増資は多くの新株を発行するため、1株あたりの価値を下げてしまいます。

増資目的が財務状況改善のみに留まる場合には、成長・相乗効果による付加価値がないと判断され、株価の低下を招くこともあります

【関連】第三者割当増資のメリット

株主割当との違いは?

増資方法には株主割当という手法もありますが、第三者割当増資と株主割当の違いは、新株引受権を割り当てる対象です。

第三者割当増資は、新株の引き受け権を取締役会で決めた特定の第三者に割り当てますが、株主割当は既存の株主を対象として割当てます。

ただし、第三者割当増資であっても、既存の株主を特定の第三者とすれば、新株の引受権を割り当てられます。

第三者割当増資か株主割当かの選択は、新株引受権を割り当てる対象を既存の株主に限定するか、特定の第三者に既存の株主・新しい株主を据えるかによって決まります。

株主割当以外の増資法もある

上記2つのほかに、公募増資という方法もあります。公募増資は、第三者割当増資と株主割当とは異なり、不特定多数の者に新株引受権を与えることができます。

増資方法には、さまざまなものがあるので、自社の状況や目的に合わせて選ぶようにしましょう。

第三者割当増資における総数引受契約書の作成方法・流れ

本章では、第三者割当増資のなかで総数引受で求められる契約書の作成方法と、大まかな流れを取り上げます。

総数引受契約とは

資金を集められる第三者割当増資に関して、募集株式の引き受け人(複数でも可)が、全募集株式の引き受けに際して結ぶ契約のことです。

総数引受契約のメリット

非上場会社が総数引受契約を結ぶメリットには、短期間で手続きができるということがあげられます。

通常の出資では、募集する株式の応募を受け付けたり、応募者から株式を割り当てる対象を決めたりといった手続きが伴いますが、総数引受契約は、2,3日で手続きを終えることが可能です。

募集株式の引き受け人と株式数が決められているため、株主総会の特別決議で、すべての株主から同意を得られれば召集手続きなしで行えます。

また、すべての株主が書面または電磁的記録によって同意した場合は決議が行われたこととみなされます

総数引受契約書に記載する内容

契約書には、一般的に以下の内容を盛り込みます。

【総数引受契約書に載せる内容】

  • 両者が募集株式の引受けに合資する旨
  • 募集株式の種類と株式の数
  • 募集株式の割当内容
  • 払込額(1株あたり)
  • 増加分の資本金・資本金準備額の内容
  • 払い込みの期日
  • 払い込み先・住所

総数引受契約の流れ

下記のような流れで、総数引受契約の手続きが行われるので、それぞれの注意点なども確かめてください。

【総数引受契約の流れ】

  1. 特別決議での募集事項の決定
  2. 出資金の払込み
  3. 登記申請

1.特別決議での募集事項の決定

非公開会社のケースは株主総会の特別決議で、公開会社のケースでは、取締役会で募集事項を取り決めるので、総数引受契約を用いるなら、自社の形態によって決定機関が異なると覚えておきましょう。

2.出資金の払込み

相手方と総数引受契約を結ぶと、応募株式の引き受け者から定めた期間内に現金の払い込みがなされます。

短期間で総数引受契約を済ませたいなら、株主総会特別決議か、取締役会決議を行う日と払い込み期日を同じ日に定めることもできます。

ただし、現金以外の対価が用いられる(現物出資)場合、総数引受契約を実施する側には対価の調査が必要とされるため、以下に該当する場合を除き、裁判所に監査役の選任を申し立てなければなりません。

【対価の調査・監査役の選任の申し立てが不要なケース】

  • 割り当てる募集株式の数が、発行株式の1/10を上回らない場合
  • 現金以外の対価(現物出資)が500万円以下の場合
  • 対価の有価証券が、法務省令の規定で算出された価額を超えない場合
  • 現金以外の対価(現物出資)について、対価の相当性を専門家(弁護士・税理士・公認会計士など)によって証明されている場合
  • 対価を実施する側の金銭債権(弁済期が到来した)で、出資額が負債の帳簿価額を上回らない場合

3.登記申請

新株の発行を伴う総数引受契約では、資本金の額などが増えて登記内容に変更が生じるため、登記申請を行わなければなりません。

なお、登記申請は、払込日または払い込み期間の末日から2週間以内に行うことが定めされています。

総数引受契約書の作成方法

求められる契約書に関しては、以下の総数引受契約書の雛形などを参考に作成するとよいでしょう。

総数引受契約書の雛形

用いられている雛形は、下記の通りです。

【総数引受契約書】
株式会社××(以下「甲」)と××株式会社(以下「乙」)は、2020年×月×日付の取締役会決議または2020年×月×日付臨時株主総会決議について甲の募集株式の割当て・引受けについて、以下のとおり合意する。

甲は乙に対し、以下の内容で発行する募集株式××株のうち×株を割り当てる。本引受人は本契約をもってこれを引き受け、他の引受け人と同時期に発行する予定の募集株式の総数を引き受けるとする。

1.募集株式の種類と数
普通株式××株

2.募集株式の割当法
割当を受ける者:××株式会社
募集株式の種類:普通株式
募集株式数:××株

3.募集株式の払い込み額
1株あたり金××円

4.増加資本金あるいは資本準備金の額
増加資本金額:1株あたり金××円
増加資本準備金額:1株あたり金××円

5.払い込み期日
2020年×月×日

6.払い込み先とその場所
株式会社××銀行 ××支店
東京都××区××丁目×番×号

本契約の成立を証明するものとして、本契約書を2つ作成し、両者の氏名・捺印を以て、各1通を保有する。

×年×月×日
甲:住所・会社名・代表者氏名 代表者の印
乙:上記に同じ

引受先は複数人でも可

全募集株式を引き受ける対象は1人に限定されていないため、同じ機会になされた一体的といえる契約と判断されれば複数人を引受先に据えることも可能です。

総数引受契約を1枚の契約書で済ませることができますが、引受先ごとに契約書をつくることも認められているので、どのように作成するかは引受先の希望を聞いて行うとよいでしょう。

総数引受契約で気を付ける第三者割当増資のポイント

総数引受契約では、注意すべき点が3つあります。本章では、それぞれの注意点について、くわしくみていきます。

  1. 有利発行に対する特別決議
  2. 少数株主への対応
  3. 証券などへの対応

1.有利発行に対する特別決議

妥当とされる額よりも安い金額で株式を発行する有利発行については、非公開会社・公開会社を問わず、株主総会での理由説明が必要です。

さらに、株主総会の特別決議が必要になるので、有利発行を選択する場合は手続きが増える点を押さえておきましょう。

有利発行の基準

公開会社では、直近の株価から1割ほど安い金額や、直近の6カ月における株価の平均額に0.9を掛けた額を基準にします。

非公開会社は基準となる株価が表されていないため、有利発行の基準は明確ではありません。

ただし、株式の引受者が買い付けを行う企業経営に参与する場合は純資産価額法、株式の引受者が無関係の投資家の場合は配当還元法に重きを置いて導き出された額を有利発行の基準額とします。

【関連】有利発行とは?意味や非上場会社/M&Aでの活用、税務を解説

2.少数株主への対応

第三者割当増資を行う場合は、少数株主への対応も必要になります。ここでは、必要な2つの対応についてみていきましょう。

特定引受人の通知及び、公告

非公開会社の場合、募集事項に関する株主への通知・公告は必要ありませんが、公開会社の場合は株式の引受者が議決権の半分を超えて株式を取得するときは、株主に対してき特定引受人の通知・公告が必要になります。

通知・公告は、払い込み日または払い込み期間の初めの日から2週間前までに行い、以下のような情報を通告します。

  • 特定引受人の名前と住所
  • 特定引受人が引き受ける予定の議決権数
  • 募集株式に対して全引受人が応じた際の、総株主の議決権の数など

ただし、特定引受人が第三者割当増資を行う公開会社の親会社などに当てはまる場合は適用外とされています。

少数株主の反対通知に対する対応と手続き違反の効果

特定引受人による通知・公告を行った際、総株主の1/10を超える議決権を持った株主が反対する場合は、株主総会の決議で総数取引契約・募集株式の割当てに関する承認が必要になります。

株主が反対を伝える期限は、特定引受人による通知・公告を行った日を起点に2週間以内と定めています。

また、株主の反対を受けた公開会社における株主総会の決議期間は、払い込み日か払い込み期間の初め日の前日です。

過去の判例では、募集株式の発行を差し止めする請求(発行前)に対して、手続きの違反を無効の原因としていることから、違反を犯すと総数引受契約が白紙に戻される事態もあります。

3.証券などへの対応

募集株式を引き受ける人数が50人を上回る際には、有価証券届出書を提出しなければなりません

公開会社は比較的容易に対応できますが、非公開会社に関しては開示の労力が負担になるため、募集株式を引き受ける人数を把握しておくことが必要でしょう。

総数引受契約にまつわる注意点

総数引受契約をスムーズに行う際は、以下3つの点に注意することが大切です。

  1. 譲渡制限株式にまつわる注意
  2. 引受権契約の違反にまつわる注意
  3. 表明保証条項への違反にまつわる注意
  4. 投資契約書にまつわる注意

1.譲渡制限株式にまつわる注意

募集株式に譲渡制限が設けられている場合は、株主総会の特別決議が必要です(取締役会を設けている会社は取締役会の決議)。ただし、定款に特別の規定を設けていればる決議は不要です。

また、承認を証明するための書類には株主総会議事録か取締役会議事録の添付が必要になるので、注意しておきましょう。

【関連】株式譲渡制限会社

2.引受権契約の違反にまつわる注意

契約者と総数引受契約を結ぶと、相手方には株式を引き受ける権利が与えられることになります。

なお、引受権は会社と契約者が取り交わした約束とみなされるため、会社法で募集株式の発行を差し止める・無効の訴えを起こす権利には該当しません。

3.表明保証条項への違反にまつわる注意

第三者割当を実施する会社が、総数引受契約を結ぶ引受人に対して開示した情報に誤りがないことを示すのが表明保証です。

とはいえ、募集株式を発行した後に表明保証に反する事実が判明しても、払込額の請求は難しいでしょう。その理由は、株式を割り当てることが省かれているため、通常行われる手続きを踏んでいないとされる可能性が高いからです。

つまり、総数引受契約を前提に据えた手続きの省略といえるので、会社側が表明保証に違反しても振込額を請求されるケースは少ないと解釈されるのが一般的です。

4.投資契約書にまつわる注意

投資先にベンチャーキャピタルを選んだ場合、総数取引契約書に加えて、投資契約書を結ぶことも求められるでしょう。

ベンチャーキャピタルとは、成長が見込めるベンチャー企業への出資により、IPOなどに合わせて取得した株式を売って利益を得ている会社です。

そのため、創業間もないベンチャーへの出資には、経営の行き詰まりによるリスクも伴うことから、条件を設定した投資契約書を結んで、投資によるリスクを軽減しようとします。

ベンチャーキャピタルはこのような性質を兼ね備えているため、投資先がベンチャーキャピタルなら、投資契約書の締結も求められることが多いです。

第三者割当増資の引受手続き

ここでは、第三者割当増資の引受手続きに必要な書類・注意点、取締役会設置の有無による違い、株主への通知の必要性などをみていきましょう。

第三者割当増資の手続きに必要な書類

必要とされる第三者割当増資の書類は、以下の通りです(会社ごとに形態や定款、募集の内容ごとに揃える書類は異なります)。
 

  • 株主総会議事録あるいは取締役会議事録
  • 会社の定款
  • 総数引受契約書
  • 株主のリスト
  • 払い込み証明書
  • 資本金計上証明書
  • 委任状(代理人を立てる場合)
  • 変更登記申請など

第三者割当増資の引受手続きの注意点

求められる手続きには、以下のような注意点も挙げられているので、下記の項目にも目を通して下さい。

  1. 取締役会設置の有無による手続きの違い
  2. 株主への通知の必要性の注意

1.取締役会設置の有無による手続きの違い

募集事項を決める機関は、非公開会社において、株主総会の特別決議において株式の上限と払込額の最低額を定めてから、取締役にこれらの事項を決める権限を預けることが可能です。

しかし、取締役会を設置している会社では取締役会に任せるとしているため、手続きには違いが見られることを把握しておきましょう。

2.株主への通知の必要性の注意

募集する事項に関し、非公開会社では株主総会で決められるため、株主へ知らせる必要性がありませんが、公開会社では、取締役か取締役会が募集する事項を決めることから、株主に決定事項を知らせる必要性が生じます。

知らせる期限は、払い込み日か払い込み期間の初日から数えて2週間前までとしているので、会社の形態によって株主へ知らせる必要性が帯びることを覚えておいてください。

第三者割当増資などのご相談はM&A総合研究所まで

第三者割当増資を検討されている方は、M&A総合研究所へご相談ください。M&A総合研究所には、M&Aにおける豊富な実績と経験を備えたアドバイザーが多数在籍しており、親身になってサポートいたします。

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まとめ

第三者割当増資の総数引受契約に関して、増資の内容や、契約書の作成方法などを紹介しました。総数引受契約は、数日で終えられる増資のため、メリットのある手段といえます。

しかし、会社の形態や、募集内容、株式の保有割合、対価の額などによって、手続きや遵守する決まりが異なっています。

【総数引受契約で気を付ける第三者割当増資のポイント】

  • 有利発行に対する特別決議
  • 少数株主への対応
  • 証券などに関する対応

【総数引受契約にまつわる注意点】
  • 譲渡制限株式にまつわる注意
  • 引受権契約の違反にまつわる注意
  • 表明保証条項への違反にまつわる注意
  • 投資契約書にまつわる注意

そのほかにも、会社ごとに引き受けの手続きや必要書類が異なるため、取り上げた内容を押さえておくようにしましょう。

【第三者割当増資の引受手続き】
  • 第三者割当増資の手続きに必要な書類
  • 第三者割当増資の引受手続きの注意点

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